説明

ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法及び引き込み工具

【課題】安全かつ容易な電気ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法を提供する。
【解決手段】袋状のワイヤーネット1の閉じられた先端部に第1リング2を設け、後端部に開口部3を設け、ワイヤーネット1から分岐した分岐部に第2リング5を設けた引き込み工具Bの、開口部3からワイヤーネット1内に、電気ケーブルBの一端を挿入して、第1リング2に主ロープ7の一端を接続して主ロープ7の他端を、高所に吊り下げた第1金車9に通して、主ロープ7の他端を引っ張り、第1金車9に引き込み工具Bが近接した際、第2リング7に補助ロープ11を接続し、第1金車9に近接して設けた第2金車12に補助ロープ11を掛けてこの補助ロープ11を引っ張り、主ロープ7を第1金車9から外し、補助ロープ11で電気ケーブルAを引き上げ、その箇所の側方に主ロープ7を引っ張る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法及びこの工法等に使用する引き込み工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物等の中を地上箇所から電気ケーブルを高い階の箇所まで引き上げて延線する場合、図8に示すように、当該電気ケーブルAの先端に引き込み工具Bを取り付け、この引き込み工具BにロープCの一端を掛けて固定し、このロープCの他端を、電気ケーブルAを引き上げる箇所の梁や天井Dに吊り下げた金車Eに通してこのロープCを引張り、電気ケーブルAを地上箇所から高い階のフロアー箇所まで引き上げている。
【0003】
この引き込み工具Bは、細長い袋状のワイヤーネット1の閉じられた先端部にリング2を設け、後端部に開口部3を設け、この開口部3から電気ケーブルAをワイヤーネット1内に挿入し、前記開口部3をバインド線4等で巻いてワイヤーネット1を電気ケーブルAに固定する。そして、前記リング2によりこの引き込み工具Bを引っ張ると、ワイヤーネット1が長手方向に引っ張られてその外径がすぼみ、電気ケーブルAの外周にワイヤーネット1が密着し、強固に電気ケーブルAを把持し、電気ケーブルAは引っ張られるものである。特許文献1の図10のものは、前記引き込み工具Bとはやや異なるが、前記電気ケーブルの先端に取り付けたワイヤーネット状の引き込み工具の一例を示すものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−130547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図8において、前記特許文献1のワイヤーネット式ケーブル引き込み工具で電気ケーブルAの先端を前記金車Eまで引き上げた後、当該電気ケーブルAを折り曲げて、その階の側方に引き込む場合、前記金車Eに掛けたロープCを、一旦、金車Eから外し、当該階の側方に設けた他の金車E´等にロープCを掛け替えて側方に引っ張らなければならない。そこで、前記金車EからロープCを外す際、引き上げた電気ケーブルAがずり落ちてしまう恐れがある。
【0006】
この発明は、このような従来技術を考慮したものであって、電気ケーブルの先端を、所定の金車又は係止体まで引き上げた後、当該電気ケーブルを折り曲げて、その箇所の側方に引き込む場合、安全かつ容易に電気ケーブルを引き込むことができる工法及びこの工法等に使用する引き込み工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、細長い袋状のワイヤーネットの閉じられた先端部にリング体を設け、後端部に開口部を設けた引き込み工具の、前記開口部からワイヤーネット内に、牽引する電気ケーブルの一端を挿入し、前記リング体にロープの一端を接続してロープの他端を、高所に吊り下げた金車又は係止体に通して、前記ロープの他端を引っ張り、これにより電気ケーブルを引き上げる工法において、前記引き込み工具のワイヤーネットの先端のリング体を第1リング体とし、この第1リング体の後方に、ワイヤーネットから分岐した分岐部を設けてその分岐部に第2リング体を固定し、この第2リング体は第1リング体より後方に位置し、前記第1リング体に接続した主ロープが掛けられた第1金車又は係止体に前記引き込み工具の先端が近接した際、第2リング体に補助ロープを接続し、前記第1金車又は係止体に近接して設けた第2金車又は係止体に補助ロープを掛けてこの補助ロープを引っ張り、前記第1リング体に接続した主ロープを前記第1金車又は係止体から外し、前記補助ロープで電気ケーブルを引き上げ、その箇所の側方に主ロープを引っ張り、前記第2金車又は係止体から補助ロープを外して、さらに前記主ロープを引っ張って電気ケーブルを当該個所に引き入れる、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法とした。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第2リング体に補助ロープを掛けていないときは、当該第2リング体をワイヤーネットの外周に固定することとした、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法とした。
【0009】
また、請求項3の発明は、細長い袋状のワイヤーネットの閉じられた先端部にリング体を設け、後端部に開口部3を設けた引き込み工具において、前記引き込み工具のワイヤーネットの先端のリング体を第1リング体とし、この第1リング体の後方に、前記ワイヤーネットの途中から分岐した分岐部を設けてその分岐部に第2リング体を固定し、この第2リング体は第1リング体より後方に位置する構成とした引き込み工具とした。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記分岐部を複数設け、これらの各分岐部に、前後の位置が異なるように第2リング体以降のリング体を設けた、引き込み工具とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、引き込み工具先端の第1リング体に接続した主ロープが掛けられた第1金車又は係止体に、引き込み工具の先端が近接した際、第2リング体に補助ロープを接続し、第1金車又は係止体に近接して設けた第2金車又は係止体に前記補助ロープを掛けてこれを保持し、この状態で前記第1リング体に接続した主ロープを前記第1金車又は係止体から外すため、電気ケーブルは確実に補助ロープで保持され、下方にずれ落ちることがない。従って、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み作業を迅速かつ安全に行うことができる。
【0012】
また、請求項2の発明によれば、分岐部及び第2リング体をワイヤーネットの側面に設けているが、この第2リング体に補助ロープを掛けていないときは、当該第2リング体をワイヤーネットの側面に固定しているため、当該引き込み工具を主ロープで引っ張った際、第2リング及び分岐部が邪魔にならない。
【0013】
また、請求項3の発明によれば、当該引き込み工具に電気ケーブルを固定して、当該電気ケーブルを引っ張る際、第2リング体に補助ロープを掛けて当該補助ロープを係止すれば、第1リング体に掛けた主ロープの支持を一時的に外すことができ、その際、引っ張った電気ケーブルを安全に保持することができる。この工具の使用は請求項1のケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法に限定されず、他の工法、例えば、直線的に電気ケーブルを引っ張る際も、第2リング体に補助ロープを掛けて、当該補助ロープを引っ張れば、主ロープが他物に引っ掛かった際の修理をより安全に行うことができる。
【0014】
また、請求項4の発明によれば、分岐部を複数設け、これらの各分岐部に前後の位置が異なるように第2リング体以降のリング体を設けた構成のため、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み作業の際、順に各リング体に設けた主ロープ及び補助ロープの係止や支持を掛け替えて電気ケーブルをより安全に引き込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明は、細長い袋状のワイヤーネットの閉じられた先端部にリング体を設け、後端部に開口部3を設けた引き込み工具の、前記開口部からワイヤーネット内に、牽引する電気ケーブルの一端を挿入し、前記リング体にロープの一端を接続してロープの他端を、高所に吊り下げた金車又は係止体に通して、前記ロープの他端を引っ張り、これにより電気ケーブルを引き上げる工法において、前記引き込み工具のワイヤーネットの先端のリング体を第1リング体とし、この第1リング体の後方に、ワイヤーネットから分岐した分岐部を設けてその分岐部に第2リング体を固定し、この第2リング体は第1リング体より後方に位置し、前記第1リング体に接続した主ロープが掛けられた第1金車又は係止体に前記引き込み工具の先端が近接した際、第2リング体に補助ロープを接続し、前記第1金車又は係止体に近接して設けた第2金車又は係止体に補助ロープを掛けてこの補助ロープを引っ張り、前記第1リング体に接続した主ロープを前記第1金車又は係止体から外し、前記補助ロープで電気ケーブルを引き上げ、その箇所の側方に主ロープを引っ張り、前記第2金車又は係止体から補助ロープを外して、さらに前記主ロープを引っ張って電気ケーブルを当該個所に引き入れる、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法とした。
【実施例1】
【0016】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明の引き込み工具Bの正面図である。
【0017】
この引き込み工具Bは、細長い袋状のワイヤーネット1の閉じられた先端部に第1リング2を設け、後端部に開口部3を設け、前記ワイヤーネット1の途中から分岐した分岐部4を設け、その分岐部4の先端に第2リング5を設けたものである。
【0018】
この引き込み工具Bを使って、電気ケーブルAの先端を折り曲げて引き込む工法を、図2〜図5に基づいて説明する。
【0019】
まず、前記引き込み工具Bの、前記開口部3から袋状のワイヤーネット1内に、牽引する電気ケーブルAの一端を挿入し、開口部付近のワイヤーネット1の外周に、バインド線6等を巻き付けて電気ケーブルAを引き込み工具Bに固定する。そして、図2に示すように、前記第1リング2に主ロープ7の一端を接続して主ロープ7の他端を、天井8に吊り下げた第1金車9に通して、前記主ロープ7の他端をウインチ(図示省略)で引っ張り、電気ケーブルAを引き上げる。その際、第2リング5は、ワイヤーネット1の外周にバインド線10等で縛っておく。
【0020】
そして、主ロープ7が掛けられた金車9に前記引き込み工具Bの先端が近接した際、前記バインド線10を外して第2リング5に補助ロープ11を接続し、図3に示すように、前記第1金車9に近接して設けた第2金車12に前記補助ロープ11を掛けてこの補助ロープ11をウインチ(図示省略)で引っ張り、引き込み工具Bを引き上げる。この状態で、さらに引き込み工具Bを引き上げて、図4に示すように、第1リング2に接続した主ロープ7を前記第1金車9から外し、その脇のケーブルラック13の他端方向に主ロープ7を引っ張る。そして、前記第2金車12から補助ロープ7を外して、前記主ロープ7を引っ張って電気ケーブルを曲げて当該ケーブルラック13に引き入れ、図5に示すように、電気ケーブルAの曲げ箇所に、ケーブルガイド14を設置し、電気ケーブルAを直接牽引装置15でけん引して、電気ケーブルAをケーブルラック13の所定箇所まで延線する。
【0021】
なお、前記実施例では、天井8に金車9、12を設けたが、これらの金車に代えて、アイボルト等のロープを折り返して係止する適宜の係止体を用いることができる。また、前記実施例では、引き込み工具Bのワイヤーネット1の先端又は分岐部4の先端に第1リング2又は第2リング5を設けたが、これらのリングは完全な環状のものでなく、リングを成すリング体であればよい。
【0022】
図6は前記引き込み工具Bの他の例を示し、複数個の分岐部4を、引き込み工具Bの長手方向の位置を変えて設けたものであり、これにより第2リング5以降の第3リング等の位置も異なる。この引き込み工具Bの場合、各リングに接続した補助ロープを使ってこまめに支持点を替えて電気ケーブルAを引き込むことができる。また、図7は引き込み工具Bのさらに他の例を示し、複数の分岐部4が、引き込み工具Bの長手方向の同じ位置の両側に設けられており、作業場所に応じて、分岐部4の第2リング5等を使い分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施例1の引き込み工具の正面図である。
【図2】この発明の実施例1の工法の第1ステップを示す概略構成図である。
【図3】この発明の実施例1の工法の第2ステップを示す概略構成図である。
【図4】この発明の実施例1の工法の第3ステップを示す概略構成図である。
【図5】この発明の実施例1の工法の第4ステップを示す概略構成図である。
【図6】この発明に使用する引き込み工具の他の例を示す正面図である。
【図7】この発明に使用する引き込み工具のさらに他の例を示す正面図である。
【図8】従来の工法を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ワイヤーネット 2 第1リング
3 開口部 4 分岐部
5 第2リング 6 バインド線
7 主ロープ 8 天井
9 第1金車 10 バインド線
11 補助ロープ 12 第2金車
13 ケーブルラック 14 ケーブルガイド
15 牽引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い袋状のワイヤーネットの閉じられた先端部にリング体を設け、後端部に開口部3を設けた引き込み工具の、前記開口部からワイヤーネット内に、牽引する電気ケーブルの一端を挿入し、前記リング体にロープの一端を接続してロープの他端を、高所に吊り下げた金車又は係止体に通して、前記ロープの他端を引っ張り、これにより電気ケーブルを引き上げる工法において、
前記引き込み工具のワイヤーネットの先端のリング体を第1リング体とし、この第1リング体の後方に、ワイヤーネットから分岐した分岐部を設けてその分岐部に第2リング体を固定し、この第2リング体は第1リング体より後方に位置し、前記第1リング体に接続した主ロープが掛けられた第1金車又は係止体に前記引き込み工具の先端が近接した際、第2リング体に補助ロープを接続し、前記第1金車又は係止体に近接して設けた第2金車又は係止体に補助ロープを掛けてこの補助ロープを引っ張り、前記第1リング体に接続した主ロープを前記第1金車又は係止体から外し、前記補助ロープで電気ケーブルを引き上げ、その箇所の側方に主ロープを引っ張り、前記第2金車又は係止体から補助ロープを外して、さらに前記主ロープを引っ張って電気ケーブルを当該個所に引き入れることを特徴とする、ケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法。
【請求項2】
前記第2リング体に補助ロープを掛けていないときは、当該第2リング体をワイヤーネットの外周に固定することとしたことを特徴とする、請求項1に記載のケーブルの折り曲げ箇所の引き込み工法。
【請求項3】
細長い袋状のワイヤーネットの閉じられた先端部にリング体を設け、後端部に開口部3を設けた引き込み工具において、
前記引き込み工具のワイヤーネットの先端のリング体を第1リング体とし、この第1リング体の後方に、前記ワイヤーネットの途中から分岐した分岐部を設けてその分岐部に第2リング体を固定し、この第2リング体は第1リング体より後方に位置する構成としたことを特徴とする、引き込み工具。
【請求項4】
前記分岐部を複数設け、これらの各分岐部に、前後の位置が異なるように第2リング体以降のリング体を設けたことを特徴とする、請求項3に記載の引き込み工具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−61879(P2011−61879A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205285(P2009−205285)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)