説明

ケーブルリール

【目的】 内筒部に巻回された可撓性ケーブルを反転部を経て外筒部にスムーズに巻き戻す。
【構成】 可撓性ケーブル3と滑性シート13とを反転部3aを介して外筒部7と内筒部8とに逆向きに巻回し、移動体4を空間10の周方向に移動可能に配置する。
【効果】 可撓性ケーブルの巻き戻し動作時に、内筒部に巻回された可撓性ケーブルと移動体、外筒部に巻き戻される可撓性ケーブルと移動体、および可撓性ケーブル同志間に生じる摩擦抵抗は滑性部材によって減ぜられるため、内筒部に巻回された可撓性ケーブルをその反転部を経て外筒部にスムーズ巻き戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車のステアリング装置等に適用され、固定体と可動体との間の電気的接続を可撓性ケーブルを利用して行うケーブルリールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ケーブルリールは、固定体と、この固定体に対して回動自在に装着された可動体との間を可撓性ケーブルにて連結したもので、自動車のステアリング装置のように回転数が有限である可動体と固定体との間の電気的接続手段として用いられている。
【0003】この種のケーブルリールでは、トータルコスト中に占める可撓性ケーブルの割合は高く、必要とされる可撓性ケーブルの長さを短くしてコストの低減化を図るようにしたケーブルリールが米国特許4,540,223号明細書において提案されている。
【0004】図4は上記特許明細書に開示されたケーブルリールの概略構成を示す平面図である。同図に示すように、円筒状をなす固定体100に対して可動体101が回動自在に装着されており、これら固定体100と可動体101との間に画成されるリング状の空間102内には可撓性ケーブル103が収納されている。この可撓性ケーブル103は固定体100と可動体101とにそれぞれ固定された状態で空間102の外部に導出されており、空間102内でU字状の反転部103aを介してその巻き方向が転換されるようになつている。さらに、前記空間102内には、平面視C字状の移動体104が周方向に沿つて移動可能に配置されており、前記可撓性ケーブル103の反転部103aは移動体104の一方の開口端に軸支されたローラ105にループされている。
【0005】このように構成されたケーブルリールにおいて、例えば可動体101を図4の時計方向に回転すると、可撓性ケーブル103の反転部103aも空間102の周方向に移動し、可撓性ケーブル103の巻回状態は固定体100の外筒部側が多くなつた巻き戻し状態となる。これとは逆に、可動体101を反時計方向に回転すると、可撓性ケーブル103の反転部103aも同方向に移動し、可撓性ケーブル103は可動体101の内筒部側に多く巻かれた巻き締め状態となる。なお、かかる巻き締め、巻き戻し時に、移動体104は可撓性ケーブル103の反転部103aからの力を受けて同方向に移動する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前述した従来提案に係るケーブルリールによれば、可撓性ケーブルの巻回方向を内筒部と外筒部とで逆向きにしているため、可撓性ケーブルを内筒部と外筒部とに同方向に巻回(渦巻き状に巻回)したケーブルリールに比べると、必要とされる可撓性ケーブルの長さを格段に短くすることができ、コストの低減化が図れる。また、可撓性ケーブルの内筒部に巻回された部分と外筒部に巻回された部分との間に平面視C字状の移動体を配置したため、可撓性ケーブルをリング状の空間のほぼ全周に渡って径方向に規制することができ、巻き締めあるいは巻き戻し動作を円滑に行なうことができる。
【0007】しかしながら、巻き締めあるいは巻き戻し動作中に可撓性ケーブルには径方向に膨らむ力が作用し、例えば、可撓性ケーブルが外筒部へ巻き戻される方向に可動体を回転した場合、内筒部に巻回された可撓性ケーブルが反転部へ至る途中で径方向の外側(外筒部方向)へ幾分膨らんで移動体の内周面と接触し、可撓性ケーブルと移動体との間に摩擦抵抗が生じる。また、可撓性ケーブルが外筒部へ巻き戻される方向に可動体を回転した場合、外筒部に巻き戻された可撓性ケーブルは径方向の内側へ引き寄せられて移動体の外周面と接触するため、新たに外筒部に巻き戻される可撓性ケーブルは、移動体の外周面のみならず、すでに外筒部に巻き戻されている可撓性ケーブルとも摩擦する。したがって、このような可撓性ケーブルと移動体との間に生じる摩擦抵抗や可撓性ケーブル同志間に生じる摩擦抵抗に起因して、可撓性ケーブルが反転部へスムーズに繰り出されないという問題があつた。
【0008】本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであつて、その目的は、可動体の回転がスムーズで信頼性が高いケーブルリールを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、固定体と、この固定体に対して回動自在に装着された可動体と、これら固定体と可動体とを連結する可撓性ケーブルとを備え、前記可撓性ケーブルは、前記固定体と可動体のいずれか一方に設けられた内筒部といずれか他方に設けられた外筒部との間に画成された空間内に収納されると共に、U字状の反転部を介して前記内筒部と外筒部に逆向きに巻回されるようになつているケーブルリールにおいて、前記空間内に前記可撓性ケーブルの径方向の移動を規制する移動体を配置し、前記可撓性ケーブルの周面に滑性部材を沿設したことを特徴とするものである。
【0010】
【作用】可動体を一方向に回転すると、可撓性ケーブルはそのU字状反転部が同方向へ移動することにより、内筒部に巻き締められたり、あるいは外筒部に巻き戻される。ここで、例えば可動体を巻き戻し方向に回転した場合、内筒部に巻回された可撓性ケーブルは、移動体の内周面と当接して径方向の外側に膨出することが規制されるが、この当接部分における移動体と可撓性ケーブル間には滑性部材が介在するため、可撓性ケーブルと移動体との間に生じる摩擦抵抗は極めて小さくなる。また、この場合、外筒部に巻き戻された可撓性ケーブルは、移動体の外周面と当接して径方向の内側に移動することが規制され、これらの当接部分に新たに外筒部に巻き戻される可撓性ケーブルが侵入するが、このように侵入する可撓性ケーブルと移動体間および侵入する可撓性ケーブルと外筒部に巻き戻されている可撓性ケーブル間にはそれぞれ滑性部材が介在するため、可撓性ケーブルと移動体間ならびに可撓性ケーブル同志間に生じる摩擦抵抗は極めて小さくなる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例に係るケーブルリールの一部を破断して示す分解斜視図、図2はそのケーブレリールの上ケースの一部を省略して示す平面図、図3は図2のA−A線に沿う断面図である。
【0012】これらの図に示すように、本実施例に係るケーブルリールは、下ケース1と、この下ケース1に対して回動自在に装着された上ケース2と、両ケース1,2間に収納された可撓性ケーブル3と、この可撓性ケーブル3の間に配置された移動体4とで概略構成されている。
【0013】下ケース1は、中央にセンタ孔5が開設された底板6と、この底板6の外周に立設された外筒部7とを有し、全体的に有底円筒状に形成されている。一方、上ケース2は中央に内筒部8が垂設された天板9を有し、内筒部8が前記センタ孔5に、天板9の外縁が外筒部7にそれぞれガイドされることにより、下ケース1に対して回動自在に連結されており、下ケース1の底板6および外筒部7と上ケース2の天板9および内筒部8とで平面視リング状の空間10が画成されている。
【0014】可撓性ケーブル3は、互いに平行な導線を一対の絶縁フイルムでラミネートしたフラツトケーブルと呼ばれるものからなり、本実施例の場合は5本の導線を埋設したフラツトケーブルが使用されている。この可撓性ケーブル3の周面にはテフロンシート等の滑性に優れた材料からなる滑性シート13が沿設されており、該滑性シート13は可撓性ケーブル3の周面の全域あるいは一部に粘着剤や熱融着等の適宜手段を用いて固定されている。図2に示すように、可撓性ケーブル3の一端は前記外筒部7に固定された第1のコネクタ11に接続され、該第1のコネクタ11を介して下ケース1の外部に導出されている。一方、可撓性ケーブル3の他端は前記内筒部8に固定された第2のコネクタ12に接続され、該第2のコネクタ12を介して上ケース2の外部に導出されている。また、可撓性ケーブル3と滑性シート13は、第1のコネクタ11から外筒部7の内壁に反時計方向に巻回され、そこからU字状に反転し(以下、これを反転部3aという)、さらに内筒部8の外壁周りに時計方向に巻回されて第2のコネクタ11に至るよう、前記空間10内に収納されている。したがって、滑性シート13は、第1のコネクタ11から反転部3aに至る間は可撓性ケーブル3の内周面に沿設され、反転部3aから第2のコネクタ12に至る間は可撓性ケーブル3の外周面に沿設されることになる。
【0015】移動体4は平面視C字状に形成された合成樹脂材からなり、前記空間10内にその周方向に移動可能に配置されており、前記可撓性ケーブル3の反転部3aは、前記滑性シート13と共に移動体4の一方の開口端の周面にループされている。
【0016】次に、前記下ケース1を固定体として用い、前記上ケース2を可動体として用いた場合を例にとつて、上記実施例に係るケーブルリールの動作を説明する。まず、図2に示す状態から上ケース2を時計方向に回転すると、可撓性ケーブル3の反転部3aは上ケース2よりも少ない回動量だけ時計方向に移動し、該移動量に等しい長さの可撓性ケーブル3と滑性シート13が外筒部7側から繰り出されて内筒部8側に巻き締めされる。この場合、移動体4は、時計方向に移動する可撓性ケーブル3の反転部3aからの力を受けて時計方向に移動するが、両者の間には滑性シート13が介在するため、移動体4と反転部3aとの間に生じる摩擦抵抗は大幅に減ぜられ、外筒部7側の可撓性ケーブル3は反転部3aを経て内筒部8側にスムーズに巻き締められる。
【0017】上記とは逆に、図2に示す位置から上ケース2を反時計方向に回転すると、可撓性ケーブル3の反転部3aは上ケース2よりも少ない回動量だけ反時計方向に移動し、該移動量に等しい長さの可撓性ケーブル3と滑性シート13が内筒部8側から繰り出されて外筒部7側に巻き戻される。この場合、内筒部8に巻回された可撓性ケーブル3には径方向の外側に膨らむ力が作用するが、該可撓性ケーブル3の外周面に沿設された滑性シート13と移動体4の内周面とは小さな摩擦抵抗で接触するため、移動体4は反時計方向に移動する反転部3aに押圧されて反時計方向に移動する。一方、外筒部7に巻回されている可撓性ケーブル3には径方向の内側に引き寄せられる力が作用し、反転部3aを経て内筒部8より繰り出された可撓性ケーブル3は、上記力に抗して移動体4とすでに外筒部7に巻回された可撓性ケーブル3との間を通って外筒部7に巻き戻される。この際、外筒部7にすでに巻回されている可撓性ケーブル3と新たに巻回される可撓性ケーブル3との間には可撓性ケーブル3と共にすでに巻回されている滑性シート13が介在し、同様に外筒部7に新たに巻回される可撓性ケーブル3と移動体4の外周面との間にはその可撓性ケーブル3と共に巻回される滑性シート13が介在するため、可撓性ケーブル3同志間に生じる摩擦抵抗のみならず可撓性ケーブル3と移動体4の外周面との間に生じる摩擦抵抗は大幅に減ぜられる。したがつて、このように可撓性ケーブル3の周面に沿設された滑性シート13によつて、内筒部8に巻回された可撓性ケーブル3と移動体4の内周面間、外筒部7に巻回された可撓性ケーブル3と移動体4の外周面間、および可撓性ケーブル3同志間のそれぞれの摩擦抵抗が減ぜられ、内筒部8側の可撓性ケーブル3は反転部3aを経て外筒部7側にスムーズ巻き戻される。
【0018】上記実施例に係るケーブルリールにあつては、可撓性ケーブル3を反転部3aを介して外筒部7と内筒部8とに逆向きに巻回してなるため、必要とされる可撓性ケーブル3の長さを短くすることができ、その結果、トータルコストの低減化が図れると共に小型化に有利となる。また、帯状の滑性シート13が、内筒部8に巻回された可撓性ケーブル3についてはその外周面に、外筒部7に巻回された可撓性ケーブル3についてはその内周面にそれぞれ沿設されているため、巻き戻し動作時に、内筒部8に巻回された可撓性ケーブル3は移動体4の内周面と極めて小さな摩擦抵抗を保ちながら反転部3aへと繰り出され、このように反転部3aを経て外筒部7側に繰り出される可撓性ケーブル3は、移動体4の外周面のみならず外筒部7にすでに巻回されている可撓性ケーブル3と極めて小さな摩擦抵抗を保ちながら外筒部7に巻き戻される。したがって、上ケース2を可撓性ケーブル3の巻き戻し方向に回転した場合でも、その回転力は反転部3aへ確実に伝達され、内筒部8から反転部3aに至る途中および反転部3aから外筒部7に至る途中での可撓性ケーブル3の座屈を防止することができる。さらに、巻き締め動作時に、反転部3aは滑性シート13を介して移動体4の端面を押圧するため、反転部3aと移動体4間に生じる摩擦抵抗も減ぜられ、巻き締め動作を確実に行うことができる。
【0019】なお、上記実施例では、滑性シート13を可撓性ケーブル3の片面にのみ沿設した場合について説明したが、可撓性ケーブル3の両面に滑性シート13を沿設することも可能である。この場合、巻き締め動作時と巻き戻し動作時の両方において、反転部3aを滑性シート13を介して移動体4の端面に押圧できるため、反転部3aの動きを一層スムーズにすることができる。
【0020】また、上記実施例では、平面視C字状の移動体4を挙げて説明したが、例えば空間10内に詰め込んだ多数のローラを移動体として用いても良く、要は、可撓性ケーブル3の径方向の移動を規制できるものであれば良い。
【0021】また、上記実施例では、可撓性ケーブル3の一例としてフラットケーブルを挙げたが、それの代りに、導線を絶縁チューブで被覆した丸線ケーブルと呼ばれる可撓性ケーブルを用いることも可能であり、この場合は、必要とされる回路数に応じて複数本の丸線ケーブルを帯状に一体化すれば良い。
【0022】さらに、上記実施例では、上ケース1を固定体とし、上ケース2を可動体として用いた場合について説明したが、これとは反対に、上ケース2を固定体とし、下ケース1を可動体として用いることも可能である。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、周面に滑性部材を沿設した可撓性ケーブルを移動体によつて径方向に規制するようにしたため、可撓性ケーブルと移動体間の摩擦抵抗のみならず可撓性ケーブル同志間の摩擦抵抗をも減ずることができ、よつて、可動体の回転がスムーズで信頼性の高いケーブルリールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係るケーブルリールの一部を破断して示す分解斜視図である。
【図2】図1のケーブルリールの上ケースの一部を省略して示す平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】従来例に係るケーブルリールの平面図である。
【符号の説明】
1 下ケース(固定体)
2 上ケース(可動体)
3 可撓性ケーブル
3a 反転部
4 移動体
7 外筒部
8 内筒部
10 空間
13 滑性シート(滑性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定体と、この固定体に対して回動自在に装着された可動体と、これら固定体と可動体とを連結する可撓性ケーブルとを備え、前記可撓性ケーブルは、前記固定体と可動体のいずれか一方に設けられた内筒部といずれか他方に設けられた外筒部との間に画成された空間内に収納されると共に、U字状の反転部を介して前記内筒部と外筒部に逆向きに巻回されるようになつているケーブルリールにおいて、前記空間内に前記可撓性ケーブルの径方向の移動を規制する移動体を配置し、前記可撓性ケーブルの周面に滑性部材を沿設したことを特徴とするケーブルリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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