説明

ケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントとその製造方法、ならびにケーブル保護スリーブ

【課題】高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さいケーブル保護スリーブ用モノフィラメントの提供。
【解決手段】ポリエチレンナフタレートを25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、前記ポリエステルモノフィラメントのヤング率が12000〜27000N/mm、屈曲疲労試験において、切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上、かつ線径変動率が10%以下であることを特徴とするケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントとその製造方法、ならびにケーブル保護スリーブに関するものであり、更に詳しくは、高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さいケーブル保護スリーブ用モノフィラメントとその効率的な製造方法、および弾力性が高く圧縮しても潰れにくく、かつ適度な柔軟性を有するケーブル保護スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車内部などの限られたスペースに装備される電源ケーブルや信号伝達ケーブルなどのケーブル類を振動や衝撃から保護するために、細長い筒状のケーブル保護スリーブで被覆することが行われている。
【0003】
このようなケーブル保護スリーブには、耐熱性および耐加水分解性に優れる特性を活かして、ポリフェニレンサルファイドからなる繊維を使用することが広く知られており、例えば、ポリフェニレンサルファイドマルチフィラメントからなるケーブル保護スリーブ(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかし、ポリフェニレンサルファイドマルチフィラメントを用いた保護スリーブは、これを構成するポリフェニレンサルファイド繊維の単糸直径が細いことに起因して、擦過による摩擦や摩耗に対する耐久性に乏しく、このような欠点を補うために接着剤やゴムなどの表面処理剤によるコーティングが必要となるため、大幅なコストアップに繋がるという問題があった。
【0004】
また、ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントからなるケーブル保護スリーブ(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、摩擦や摩耗に対する耐久性は優れているものの、柔軟性に欠けるため、保護スリーブを装着したケーブルの配線作業性や通線性が悪いという欠点があった。
【0005】
さらに、ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントとポリフェニレンサルファイド以外の合成繊維とを引き揃えチューブ状に製紐してなるケーブル保護スリーブ(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、弾力性に劣るためにケーブル保護スリーブ側面からの圧縮で潰れやすく、保護スリーブ中に挿入したケーブルを強い衝撃などから十分に保護することができないという問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−273825号公報
【特許文献2】特開2001−123324号公報
【特許文献3】特開2004−292985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって本発明の目的は、高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さいケーブル保護スリーブ用モノフィラメントとその効率的な製造方法、および弾力性が高く圧縮しても潰れにくく、かつ適度な柔軟性を有するケーブル保護スリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエチレンナフタレートを25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、前記ポリエステルモノフィラメントのJIS L1013−1999に準拠して測定したヤング率が12000〜27000N/mm、JIS P−8115に準じて測定した屈曲疲労試験において、切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上、かつアンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で前記ポリエステルモノフィラメントの線径を測定し、更にキーエンス製データ処理機NR−250&PCに準じたデータ処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)×100/平均値]で表した線径変動率が10%以下であることを特徴とするケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0010】
なお、本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントでは、前記ポリエチレンナフタレート以外のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい条件として挙げられ、この条件を満たした場合には、更に優れた効果を取得できる。
【0011】
また、本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントの製造方法は、ポリエチレンナフタレート25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有する樹脂組成物を溶融紡糸・延伸するに際し、口金から吐出される溶融物の引き取り速度Q(単位:m/分)と吐出線速度R(単位:m/分)の比で表されるドラフト比式(Q/R)を6〜12にすると共に、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の温度範囲で6〜12倍の延伸を行い、次いで延伸後のモノフィラメントに220〜270℃の温度の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明のケーブル保護スリーブは、前記ケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントと、前記ポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維とを引き揃えてチューブ状に製紐してなり、前記ポリエステルモノフィラメントのケーブル保護スリーブ全体に占める割合が30〜80重量%であって、かつ前記ポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維がポリエーテルエーテルケトンモノフィラメント、ポリエーテルエーテルケトンマルチフィラメント、ポリエステルマルチフィラメント、ポリアミドモノフィラメントまたはポリアミドマルチフィラメントのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明する通り、高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さい、ケーブル保護スリーブに適したポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントは、ポリエチレンナフタレートを25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有するポリエステルモノフィラメントである。
【0016】
ここで、ポリエチレンナフタレートとは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、ポリエチレンナフタレートの2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の一部を、例えば、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記ポリエチレンナフタレートのエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0017】
一方、ポリエチレンナフタレート以外のポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、またはその共重合体などが挙げられる。
【0018】
ポリエチレンナフタレートの含有量が25重量%の以下の場合は、高倍率で延伸すると延伸切れが発生しやすく高ヤング率および高強力化の達成が困難となるため、JIS L1013−1999に準拠して測定したヤング率が12000N/mm以上を得ることができず、ケーブル保護スリーブ用としての剛性が不足したモノフィラメントとるため好ましくない。
【0019】
一方、ポリエチレンナフタレートの含有量が75重量%以上の場合に作成したモノフィラメントは、剛直になりすぎて折り曲げに対する耐久性が著しく低下し脆くなり、フィブリル化が発生しやすくなるため、ケーブル保護スリーブとしては実用に適さない特性になる。
【0020】
すなわち、高ヤング率で剛直でありながら、屈曲耐久性に優れる特性が求められるケーブル保護スリーブ用途の場合には、ポリエチレンナフタレートの割合を25〜75重量%、更には40〜70重量%とすると好ましい結果が得られる。
【0021】
また、モノフィラメントのヤング率が27000N/mm以上である場合は、柔軟性に欠けたポリエステルモノフィラメントとなり、これを使用したケーブル保護スリーブは屈曲耐久性に劣るものとなるため不適である。
【0022】
一方、JIS P−8115に準じて測定した屈曲疲労試験において、切断するまでの往復折り曲げ回数が200回を下回る場合は、このモノフィラメントをケーブル保護スリーブとしても屈曲耐久性が不足するため好ましくない。
【0023】
ヤング率が12000〜27000N/mm、切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上のモノフィラメントをケーブル保護スリーブに使用した場合において、弾力性が高く圧縮しても潰れにくく、かつ適度な柔軟性を有するケーブル保護スリーブとなる。
【0024】
また、本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントは、アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で前記ポリエステルモノフィラメントの線径を測定し、更にキーエンス製データ処理機NR−250&PCに準じたデータ処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)×100/平均値]で表した線径変動率が10%以下、さらには8%以下であることが好ましい。
【0025】
すなわち、本発明で規定した線径精度を満たさないポリエステルモノフィラメントを用いてケーブル保護スリーブとした場合には、複数本のポリエステルモノフィラメントを組み上げて円筒状に製紐する工程で、線径精度の低さから組み上げが不均一であることに起因するケーブル保護スリーブ表面へのモノフィラメントの異常な飛出しにより、表面平滑性が損なわれたものとなりやすく好ましくない結果に繋がる。
【0026】
一方で、これら線径変動率の特性を満たす本発明のポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブへ用いることによって、加工時の工程通過性の向上、保護スリーブ製品としての表面平滑性が得られ、品位の高いケーブル保護スリーブの作成が可能になるなどの好適な効果の発現が期待できる。
【0027】
本発明においては、上記樹脂組成物の混合率と特定の製造条件の採用により、高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さいケーブル保護スリーブ用モノフィラメントを得ることができる。以下、製造条件と品質特性との関係について説明する。
【0028】
本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントの製造方法は、ポリエチレンナフタレート25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有する樹脂組成物を溶融紡糸・延伸するに際し、口金から吐出される溶融物の引き取り速度Q(単位:m/分)と吐出線速度R(単位:m/分)の比で表されるドラフト比式(Q/R)を6〜12にすると共に、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の温度範囲で6〜12倍の延伸を行い、次いで延伸後のモノフィラメントに220〜270℃の温度の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことを特徴とする。
【0029】
製造するに際しては何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、例えば1軸または2軸のエクストルーダー型またはメルトプレッシャー型溶融紡糸機を使用することができる。
【0030】
例えば、1軸のエクストルーダー型溶融紡糸機を使用する場合は、ポリエチレンナフタレート25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有する樹脂組成物を溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後に口金孔から溶融した混合物を押し出す。
【0031】
次に、押し出された溶融物は、引き続き冷却媒体中に導かれて冷却固化される。なお、冷却媒体としては、例えば水やポリエチレングリコールなど挙げることができるが、モノフィラメントの表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定しない。
【0032】
この時、口金孔から押出される溶融物の引き取り速度Q(単位:m/分)と吐出線速度R(単位:m/分)の比で表されるドラフト比式(Q/R)を6〜12、更に好ましくは7〜10の比とする必要がある。
【0033】
ドラフト比が上記範囲を下回る場合、つまりは吐出線速度を高くすることを意味しているが、この場合は冷却媒体中の未延伸糸が張力低下により蛇行し、線径の均一性が悪化する傾向となるため好ましくない。逆にドラフト比が上記範囲を上回る状態で溶融物を押出すと、冷却固化する段階での溶融物の形状が安定せず、均一な線径のモノフィラメントが得られにくくなるばかりか、これに起因して延伸時の糸切れが発生しやすく製糸安定性の低いものになるため不適である。
【0034】
そして、冷却固化された未延伸糸は、ケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントとして必要な強度を得るために、加熱1段延伸または多段延伸される。一般的に未延伸糸の延伸のために使用される熱媒体としては、水を加熱した温水または水蒸気、更に高沸点であるポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンオイルなどが代表例として挙げられる。
【0035】
本発明のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントは、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体として、140〜175℃の温度で6〜12倍の延伸を行うことを前提とする。以上の熱延伸の条件を満たすためには高沸点で熱伝導率の高いポリエチレングリコール、シリコーンオイル等の熱媒浴中に浸漬して走行させ、熱媒浴中で、熱媒前後に設けたローラー間の回転速度差を延伸倍率としてモノフィラメントを延伸する方法が好適に使用される。熱伝導率が比較的小さなモノフィラメントであっても、熱伝導率の高い熱媒体に浸漬させることで急激に目標とする温度まで昇温することができ、モノフィラメントの流動性を持たせたポイントで延伸することが可能となり、本発明のポリエステルモノフィラメントの高強度、高ヤング率化が達成される。
【0036】
一方、比熱0.5cal/g・℃以下の液体や、液体以外の熱源、例えば熱風循環炉や遠赤外線ヒーター炉などを熱媒体として延伸を行った場合は、モノフィラメントに十分な熱の浸透が行われないため、モノフィラメントの延伸点が固定されず、熱媒体中で延伸点が移動し、場合によっては熱媒体外へ延伸点が移動する。延伸点の移動が起こると、得られるモノフィラメントは、線径斑やコブ状の欠点が生じるため、結果として糸質や品位が低下するため好ましくない。
【0037】
また、延伸を行う熱媒体の温度が上記範囲を下回った場合には、モノフィラメントの内外層に温度差が生じており、その後延伸されるため、結果として内外層で結晶化度の差異が生じ、モノフィラメントの物性が内層と外層で異なる問題が発生する。逆に上記範囲を上回った場合には、モノフィラメントがあたかも融解された状態となり、延伸を行っても一向に結晶化されず、高強度で高ヤング率のモノフィラメントを得ることができない。熱媒体の比熱および温度が上記範囲にある場合において6〜12倍の延伸を行うことで、糸切れが生じることなく、目標の性能を有する本発明のケーブル保護スリーブ用モノフィラメントを得ることができる。
【0038】
延伸したモノフィラメントは、次いで220〜270℃の温度の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことが好ましい。熱処理温度が220℃未満では弛緩処理が不十分であるためモノフィラメントの屈曲耐久性が低下する。弛緩倍率が0.98倍を超えた場合も同様である。一方、熱処理温度が270℃を超えるとポリエステルの融点に近いため、乾熱浴中のモノフィラメントが溶断する可能性が高くなり製造には適さない領域となる。さらに、弛緩倍率を0.80倍未満とすると、モノフィラメントの柔軟な傾向が高まり、高ヤング率のモノフィラメントを得ることができない。
【0039】
このようにして得られる本発明のケーブル保護スリーブを構成するポリエステルモノフィラメントは、目的とする特性を阻害しない範囲であれば、酸化チタン、酸化ケイ素、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子、従来公知の抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐候剤、包摂化合物、各種着色財、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種強化繊維類、フッ素樹脂類、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびポリスチレンなどを含有することができる。
【0040】
かくしてなる本発明のケーブル保護スリーブ用のポリエステルモノフィラメントは、高ヤング率で剛直でありながら、屈曲耐久性に優れる特徴を備えており、線径斑も小さいことから、ケーブル保護スリーブの骨格として好適に用いることができる。
【0041】
ケーブル保護スリーブの特性は、その骨格であるポリエステルモノフィラメントの性能に支配されるので、ポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維をケーブル保護スリーブ全体の20〜70重量%の範囲で含有する場合においては、ケーブル保護スリーブの性能低下はほとんど発生しない。
【0042】
また、本発明のケーブル保護スリーブを構成するポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維は、要求される特性に応じて適宜使い分けることができるが、ポリエーテルエーテルケトンモノフィラメント、ポリエーテルエーテルケトンマルチフィラメント、ポリエステルマルチフィラメント、ポリアミドモノフィラメントまたはポリアミドマルチフィラメントのいずれかである場合には、耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐摩耗性および耐久性に優れるケーブル保護スリーブが得られるため好ましく使用できる。
【0043】
なお、ケーブル保護スリーブを構成するポリエステルモノフィラメントおよびポリエステルモノフィラメント以外の繊維の断面の直径と形状は、用途によって適宜選択できる。
【0044】
すなわち、本発明のケーブル保護スリーブは、上記ポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の30〜80重量%、かつ前記ポリエステルモノフィラメント以外の繊維をケーブル保護スリーブ全体の20〜70重量%製紐してなり、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐摩耗性および耐久性を具備すると共に、弾力性が高く圧縮しても潰れにくく適度な柔軟性を有し、安定した品質も兼ね備えており、特に電源および信号伝達ケーブル保護スリーブとして極めて優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0045】
以下、本発明のポリエステルモノフィラメントおよびケーブル保護スリーブについて実施例に基づいて説明するが、その要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
また、実施例におけるポリエステルモノフィラメントおよびケーブル保護スリーブの評価は以下の方法で行った。
(1)ヤング率(単位:N/mm
JIS L1013−1999に準じ、オリエンテック製テンシロンUTM−4−100型引張試験機を使用し得られたモノフィラメントの荷重−伸度曲線からヤング率(N/mm)を求めた。なお、引張速度は300mm/分で行い、5回の平均値で評価した。
(2)屈曲耐久性
JIS P−8115に準じ、東洋精機製MIT耐揉疲労試験機により、荷重2.2cN/dtex、折り曲げ回数175回/分、折り曲げ角度270度(左右に各約135度)で、同一試料につき10本のモノフィラメントについて切断するまでの往復折り曲げ回数を測定して平均値を求めた。
(3)線径変動率(単位:%)
アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、更にキーエンス製データ処理機NR−250&PCに準じたデータ処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)×100/平均値]で表した。
(4)保護スリーブの圧縮弾性特性
JIS L1096に準じ、保護スリーブの側面が下になるように静置した状態で、標準圧力4.9kPaの条件下で1分間放置後の保護スリーブの厚さD0(単位:mm)を測定した。次に、29.4kPaの一定圧力の下で1分間放置して保護スリーブの厚さD1(単位:mm)を測定した。さらに、加えた圧力を除き、1分間放置した後再び標準圧力4.9kPaの下で保護スリーブの厚さD2(単位:mm)を求めた。得られた各厚さを次式(C=[(D2−D1)/(D0−D1)]×100)に導入して圧縮弾性率C(単位:%)を求め、5回測定の平均値を算出し、算出した圧縮弾性率から保護スリーブの圧縮弾性特性を以下の基準により評価した。
【0047】
圧縮弾性率80〜95%:弾力性が高く圧縮しても潰れにくく適度な柔軟性を有するため実用性が高い。
【0048】
圧縮弾性率60〜80%:弾力性はやや低めだが、力を除いた後には元の円筒形状に戻るため、保護スリーブとして実用できる。
【0049】
圧縮弾性率60%以下:保護スリーブが軟らかすぎるため側面からの圧縮で潰れやすく形状安定性に劣り実用には適さない。
【0050】
[実施例1]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)30重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)70重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8の条件下で紡糸口金を通して紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0051】
次いで、冷却固化された未延伸糸を150℃のポリエチレングリコール液浴中にて8.5倍に延伸した後に水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて230℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0052】
[実施例2]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)50重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)50重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8.5の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0053】
次いで、冷却固化された未延伸糸を160℃のポリエチレングリコール液浴中にて8.5倍に延伸した後に水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて245℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0054】
[実施例3]
ドラフト比を11、延伸倍率を7.4倍に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0055】
[実施例4]
弛緩熱処理倍率を0.85倍に変更した以外は、実施例2と同じ条件で直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0056】
[実施例5]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)50重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)50重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比7の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0057】
次いで、冷却固化された未延伸糸を165℃のポリエチレングリコール液浴中にて10.5倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて245℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0058】
[実施例6]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)70重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)30重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0059】
次いで、冷却固化された未延伸糸を170℃のポリエチレングリコール液浴中にて11倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて260℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0060】
[比較例1]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)10重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)90重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0061】
次いで、冷却固化された未延伸糸を150℃のポリエチレングリコール液浴中にて8.5倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて230℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0062】
[比較例2]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)90重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)10重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0063】
次いで、冷却固化された未延伸糸を170℃のポリエチレングリコール液浴中にて11倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて260℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0064】
[比較例3]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)50重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)50重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比4の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0065】
次いで、冷却固化された未延伸糸を160℃のポリエチレングリコール液浴中にて8.5倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて245℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0066】
[比較例4]
ドラフト比を15に変更した以外は、比較例3と同じ条件で直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0067】
[比較例5]
ポリエチレンナフタレート(東洋紡績製 PN640)50重量%とポリエチレンテレフタレート(東レ製 T701T)50重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して、溶融温度270〜295℃で溶融混練した後、ドラフト比8の条件下で紡糸口金を通じて紡出し、さらに70℃の冷却水中で冷却固化せしめた。
【0068】
次いで、冷却固化された未延伸糸を160℃のポリエチレングリコール液浴中にて4倍に延伸した後に、水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているポリエチレングリコールを洗い落とし、続いて245℃の熱風循環式乾熱炉にて0.95倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.25mmのポリエステルモノフィラメントを作成した。
【0069】
[比較例6]
延伸倍率を14倍に変更した以外は、比較例5と同じ条件でポリエステルモノフィラメントの作成を試みたが、製糸不安定のためポリエステルモノフィラメントの作成が不可であった。
【0070】
実施例および比較例で得られたポリエステルモノフィラメントの各評価結果を表1に併せて記載する。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果から明らかのように、本発明のポリエステルモノフィラメント(実施例1〜6)は、高いヤング率を有しながらも屈曲耐久性に優れるとともに、線径均一性にも優れ、ケーブル保護スリーブとして実用性の高いものであった。
【0073】
一方、本発明を満たさないポリエステルモノフィラメントは(比較例1〜6)は、高ヤング率であっても屈曲耐久性が劣るなど、高ヤング率、屈曲耐久性および線径均一性の3つを同時に満足するポリエステルモノフィラメントは得られず、実用性の低いものであった。
【0074】
[実施例7]
ケーブル保護スリーブの例として、実施例2で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の50重量%、かつポリエステルマルチフィラメントを50重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブを作成した。
【0075】
得られたケーブル保護スリーブの圧縮弾性率は84%であった。
【0076】
[実施例8]
実施例2で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の70重量%、かつポリエステルマルチフィラメントを30重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブを作成した。
【0077】
得られたケーブル保護スリーブの圧縮弾性率は88%であった。
【0078】
[実施例9]
実施例2で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の70重量%、かつポリエーテルエーテルケトンマルチフィラメントを30重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブを作成した。
【0079】
得られたケーブル保護スリーブの圧縮弾性率は90%であった。
【0080】
[実施例10]
実施例2で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の70重量%、かつポリフェニレンサルファイドマルチフィラメントを30重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブを作成した。
【0081】
得られたケーブル保護スリーブの圧縮弾性率は90%であった。
【0082】
すなわち、本発明の条件を満たしたポリエステルモノフィラメントを用いて作成したケーブル保護スリーブは、圧縮弾性特性に優れ、圧縮しても潰れにくい効果が発現される。
【0083】
[比較例7]
比較例1で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の70重量%、かつポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを30重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブを作成した。
【0084】
得られたケーブル保護スリーブの圧縮弾性率は51%であった。
【0085】
[比較例8]
比較例3で得られたポリエステルモノフィラメントをケーブル保護スリーブ全体の70重量%、かつポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを30重量%使用し、これらを引き揃え製紐しケーブル保護スリーブの作成を試みたが、複数本のポリエステルモノフィラメントを組み上げて円筒状に製紐する工程で、線径精度の低さから組み上げが不均一であること起因するケーブル保護スリーブ表面へのモノフィラメントの不均一な飛出しがあり、表面平滑性が損なわれたものしか得られなかった。
【0086】
すなわち、本発明の条件を満たさないポリエステルモノフィラメントで作成したケーブル保護スリーブ(比較例7および8)は、いずれも不十分な品質しか達成し得ないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、高ヤング率で剛直でありながら、優れた屈曲耐久性を持ち、かつ線径斑の小さいケーブル保護スリーブ用モノフィラメントを得ることができるため、ケーブル保護スリーブに用いた場合には、弾力性が高く圧縮しても潰れにくく、かつ適度な柔軟性を有するなど、極めて優れた効果を期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレートを25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、前記ポリエステルモノフィラメントのJIS L1013−1999に準拠して測定したヤング率が12000〜27000N/mm、JIS P−8115に準じて測定した屈曲疲労試験において、切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上、かつアンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で前記ポリエステルモノフィラメントの線径を測定し、更にキーエンス製データ処理機NR−250&PCに準じたデータ処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)×100/平均値]で表した線径変動率が10%以下であることを特徴とするケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリエチレンナフタレート以外のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
ポリエチレンナフタレート25〜75重量%およびポリエチレンナフタレート以外のポリエステル25〜75重量%を含有する樹脂組成物を溶融紡糸・延伸するに際し、口金から吐出される溶融物の引き取り速度Q(単位:m/分)と吐出線速度R(単位:m/分)の比で表されるドラフト比式(Q/R)を6〜12にすると共に、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体として、140〜175℃の温度で6〜12倍の延伸を行い、次いで延伸後のモノフィラメントに220〜270℃の温度の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載に記載のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のケーブル保護スリーブ用ポリエステルモノフィラメントと、前記ポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維とを引き揃えてチューブ状に製紐してなり、前記ポリエステルモノフィラメントのケーブル保護スリーブ全体に占める割合が30〜80重量%であって、かつ前記ポリエステルモノフィラメント以外の合成繊維がポリエーテルエーテルケトンモノフィラメント、ポリエーテルエーテルケトンマルチフィラメント、ポリエステルマルチフィラメント、ポリアミドモノフィラメントまたはポリアミドマルチフィラメントのいずれかであることを特徴とするケーブル保護スリーブ。

【公開番号】特開2013−91871(P2013−91871A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234631(P2011−234631)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】