説明

ケーブル定着部材

【課題】本発明は、ケーブル定着部材に関し、定着部材の引張方向の出口側において、緊張材に稜線部の歯の喰い付きがないようにして、微動腐食が生じないようにすることが課題である。
【解決手段】撚り線態様の緊張材を定着用の円錐コーンに貫通させ当該緊張材を複数個の分割体1で挟持するウエッジである定着部材において、前記分割体1の円弧状の内側当接面における引張方向の出口側にある稜線部1aの一部を出口に向かってカットしたケーブル定着部材とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、斜張橋の斜材ケーブルにおいてケーブルを主桁と主塔の定着部に緊張・定着させるケーブル定着部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブル定着部材として、特許文献1に示すように、アンカーヘッドの円錐形コーンの貫通孔に挿通させ、複数に分割されたクサビであるピースからなるウエッジを介して定着させたものが知られている。
【特許文献1】特開平8−74937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる従来のケーブル定着部材であるウエッジ12は、図4(A),(B)に示すように、円錐形状のピースで3分割又は2分割されており、その内径壁面部には三角形状の突起の歯が形成されている。このウエッジ12を用いて、例えば、心線の周りに複数本の側線(例えばPC鋼撚り線)が撚られてなる緊張材11に定着する時、図5に示すように、前記緊張材11の側線11bは撚られているので、定着具合によっては、隣接する2つのピース12a,12bの歯によって掴まれることになる。
【0004】
その場合、図6(A)に示すように、側線11bが図示していないピース12bの歯で入口から分割部の稜線部まで掴まれて、分割部11dではピースに接触することなく、そして隣接するピース12aの出口部の稜線12c部から再び掴まれて、当該側線11bには図6(B)に示すような不連続の掴み歯跡がつく。図6(B)は側線11bの歯跡を示したもので、ピース12bによる歯跡が符号11aで、ピース12aの歯跡が符号11cで示されている。前記ピース12a,12bの位置関係によっては、前記歯跡11cの数は、2山から5山程度しか掴んでいない状態になることもある。
【0005】
このように定着された緊張材に繰り返しの引張荷重が作用すると、各側線は応力に比例して伸びが生じる。この時、ウエッジ内部の緊張時の側線の応力状態は、ウエッジの引張方向の長さに対応して変化し、概略ではウエッジの入口側で応力が0(ゼロ)であり、ウエッジの出口側では最大の引張応力状態になっているので、前記出口側で伸び量が最も大きい。そして、ウエッジ内部における緊張材は、引張応力に応じて伸びると共に、ポアソン比に対応して微少量ではあるがその外径寸法も小さくなるので、前記出口側において、より引張方向に動きやすくなっている。
【0006】
この時、2つのピース12a,12bで掴まれている側線11bでも、入口側端面では引張の応力がほぼ0(ゼロ)で、出口側の掴み部に大きな引張応力が作用していることになる。そして、前記ピース12bとピース12aとの間の前記分割部11dの区間は、ピースの歯によって掴まれていないので、この分割部11dの区間も引張応力で出口方向に伸びることとなる。よって、前記歯跡11cのある側線11bの出口側掴み部は、前記不連続な分割部11dの存在と、最大引張応力が生じるのと、引張荷重の繰り返しの作用とで、微少量ではあるが、繰り返しの伸び移動が生じる。
【0007】
前記ピースの出口側掴み部における微少量の繰り返しの伸び移動により、側線11bは前記歯跡11cの部分で微動腐食を起こし、疲労破断してしまうおそれがある。本発明に係るケーブル定着部材は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るケーブル定着部材の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、
撚り線態様の緊張材を定着用の円錐コーンに貫通させ当該緊張材を複数個の分割体で挟持するウエッジである定着部材において、前記分割体の円弧状の内側当接面における引張方向の出口側にある稜線部の一部を出口に向かってカットしたことである。

前記カットする稜線部は、分割体の両側部の稜線部の内、少なくとも撚り線がその撚り方向に沿って当該分割体の内側に入り込む入口側の稜線部であること、;
前記稜線部のカットは、出口に向かって次第に深くなるように斜めにカットしたこと、;
前記稜線部の一部の長さは、出口側の端部から全体長さの1/3程度であること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のケーブル定着部材によれば、ウエッジの分割体であるピースの稜線部の引張方向の出口側において、前記ピースの歯による喰い付きが無くなり、繰り返しの微動腐食がなくなる。また、前記微動腐食が発生するのは、撚り線がその撚り方向に沿って、分割体であるピースの側面から内側に入り込む入口側の稜線部なので、少なくともその稜線部の一部をカットするものである。また、撚り線は、S字撚り若しくはZ字撚りがあるので、ピースの両側部の稜線部の一部をカットすることで、両方の撚り線に対応できて、専用品を用意する必要がなく部品管理が容易になる。
更に、前記稜線部のカットの状態については、ピースの出口に向かって次第に深くなるように斜めにカットしたので、例えば、既存のピースの加工が容易となる。
前記微動腐食が起きる可能性のある部分は、緊張材の撚り線とピースとの当たり具合により、ピース側部の稜線全体の出口側端面から多くとも1/3程度である。よって、カットすべき部分は、稜線部全体の1/3程度で良く、これにより効率的に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るケーブル定着部材は、図1(A),(B)乃至図2に示すように、撚り線の一例としてPC鋼撚り線で成る緊張材11を、例えば、斜張橋の主塔側若しくは主桁側における定着部のアンカーヘッドにおいて、定着用の円錐コーンに貫通させて複数個の分割体であるピース1で挟持するウエッジである。
【0011】
前記ピース1の円弧状の内側当接面における引張方向aの出口側(対向する定着部に近い側を出口として、反対の遠い方を入口とする)にある側部の稜線部1aの一部をカットする。このカットした部分を符号1bで示す。
【0012】
前記稜線部1aのカットの状態は、図1(B)に示すように、引張方向aの出口側に向かって次第に深くなるように斜めにカットしたものである。このようにすれば、既存のピース1を容易に加工して本発明品にすることができる。
【0013】
そして、前記稜線部1aの一部のカット部分の長さbは、図1(A)に示すように、出口側の端部から多くても全体長さの1/3程度である。これは、PC鋼撚り線11bが主にS字撚りにされて、2つのピース1の内側当接面に捻られながら当接し、PC鋼撚り線の表面に、ピースの歯が喰い込む範囲が、おおよそ前記稜線部1aの全体の長さの1/3となり、その部分をカットすれば前記歯の喰い込みを確実に防止するからである。
【0014】
この実施例では、前記ピース1を緊張材11の周りで周方向に3個取り付けて、図1(C)に示すように、円錐形の貫通孔において、前記ピース1が引張方向aに引っ張られて、図2(B)に示す内側当接面の三角状突起1dが緊張材11に喰い込んで、緊張材1の抜けを防止して定着されるものである。
【0015】
図では、緊張材11の撚り線の撚り方向をS字撚りで描いており、この場合、弱点となる掴み部分の歯跡11cは、各ピース1の出口部で左右側部では片側であり、3分割のピースでは3箇所が弱点部になる可能性がある。当然、Z字撚りの撚り線を使用する場合は、前記S字撚りの弱点部とは左右で逆側が弱点部となる。よって、稜線部のカットは、ピース1の左右両側部に加工しておくことが、撚り方向によって対応する専用品を用意する必要が無く、使用上都合がよい。なお、前記稜線1aのカットの仕方としては、上記一実施例の他に、図3に示すように、一定の深さでカットするようにして、カット部1cを形成しても良い。
【0016】
このような本発明に係るピース1からなるウエッジをケーブル定着部材とすることで、図2(B)に示すように、前記ピース1とPC鋼撚り線11bとの当接部分において、引張方向aの出口側に若干の隙間ができて、当該PC鋼撚り線11bの表面にピース1の歯が喰い込むことが無く、微動腐食による疲労破断が防止されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るケーブル定着部材のウエッジを構成するピース1の斜視図(A)、一部拡大詳細斜視図(B)、使用状態を示す正面図(C)である。
【図2】同本発明のケーブル定着部材のウエッジを構成するピース1の側面図(A)、使用状態を示す側面図(B)である。
【図3】他の実施例に係るピース1の側面図である。
【図4】従来のウエッジ12において、3分割と2分割とにした分割状態を示す斜視図(A),(B)である。
【図5】従来例にかかるウエッジ12の使用状態の側面図である。
【図6】同従来例に係るウエッジ12による定着状態の説明図(A)と、緊張材11の撚り線11bの歯跡11a,11cの様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ウエッジのピース、 1a 稜線部、
1b カット部、 1c カット部、
1d 三角状突起、
2 隙間、
11 緊張材、 11a 歯跡、
11b 側線(PC鋼撚り線)、 11c 歯跡、
11d 分割部、
12 従来のウエッジ、 12a,12b ピース、
12c 稜線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚り線態様の緊張材を定着用の円錐コーンに貫通させ当該緊張材を複数個の分割体で挟持するウエッジである定着部材において、
前記分割体の円弧状の内側当接面における引張方向の出口側にある稜線部の一部を出口に向かってカットしたこと、
を特徴とするケーブル定着部材。
【請求項2】
カットする稜線部は、分割体の両側部の稜線部の内、少なくとも撚り線がその撚り方向に沿って当該分割体の内側に入り込む入口側の稜線部であること、
を特徴とする請求項1に記載のケーブル定着部材。
【請求項3】
稜線部のカットは、出口に向かって次第に深くなるように斜めにカットしたこと、
を特徴とする請求項1または2に記載のケーブル定着部材。
【請求項4】
稜線部の一部の長さは、出口側の端部から全体長さの1/3程度であること、
をとする請求項1乃至3に記載のケーブル定着部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13605(P2009−13605A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173935(P2007−173935)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)
【Fターム(参考)】