説明

ケーブル延線方法

【課題】ケーブル敷設の経路若しくはそれに近接した位置にアシストタイプの延線機を設置してケーブルを敷設する場合、その準備作業や撤収作業が多く煩雑となっている。
【解決手段】延線機の直流の駆動モータより動力伝達機構を介して駆動されるラチェット機構付きの2個の押出しボールを設けると共に、押出されるケーブルの延線方向にセンサ部を設け、延線ケーブルの弛み時にはセンサ部の出力により駆動モータを停止し、ケーブル引っ張り時にはセンサ部を介して駆動モータ、押出しボールを回動させてケーブル敷設を行う。また、押出しボールより押出される延線機のトルクは、人力のトルクより小さく設定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル延線作業をアシストする延線機を用いてケーブル敷設する延線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや工場等の電気設備に使用される電力ケーブルや弱電ケーブル、或いは、光ファイバー等のケーブルは、建物の天井や壁に沿って施設されたケーブルラック上に敷設される。図8は敷設作業の態様を示したもので、ケーブルドラム31を延線経路の始端側に配置し、且つ送り出しを行うケーブル延線機30をケーブル32の延線経路(ケーブルラック等)に沿って複数台所定間隔毎に配置している。延線経路の終端側には、ウインチ等の牽引手段を配置し、この牽引手段によってケーブルを牽引するか、或いは作業者による直接の牽引が行われる。
そして、延線作業を実施する場合には、先ず、作業者がケーブルの先端、若しくはケーブルの先端に結び付けた牽引ロープを持って延線経路に沿って移動し、ケーブルを各延線機に順次装着して行く。この装着は、ケーブル延線機のローラ間にケーブルを通す作業であるため、作業者は延線経路の始端から終端まで順次移動しながらケーブル装着作業を実施する。33は配線ケーブルで、各延線機30に電力を供給するために配線される。
【0003】
延線機30にケーブル装着後は、ウインチ若しくは作業者によるケーブル32の牽引が行われるが、これと同時に、図示省略された制御盤より各延線機30に対して配線ケーブル33を介して電力が供給され、各延線機は駆動される。この駆動時には、各延線機30によるケーブルの送り出し速度が一定となるよう配電盤の制御指令によって速度制御される。延線機30によるケーブルの送り出し動作中、各延線機には作業者が配置されて延線機30からのケーブル32の外れやケーブルの弛みによる絡まり等を監視している。延線経路へのケーブル敷設が完了すると、作業者は各延線機からのケーブル外しを実施して敷設作業を終了する。
このような、敷設作業用の機器として、特許文献1〜3のようなものが公知となっている。特許文献1には、ケーブルを挟むローラの間隔を変えることでケーブル外形に即応したケーブル送りを実現すると共に、ケーブル途中の外し作業を簡単とし、ローラの可動枢軸をチェーンのテンションを変えないで移動することを可能としたことが記載されている。特許文献2には、電気ケーブルを巻装したドラムからケーブルを繰り出すことに伴い縮小するケーブル巻径とケーブル牽引速度に対応して、ケーブル弛み量を一定としながらケーブルを繰り出すことが記載されている。
また、特許文献3には、ケーブル繰り出し側にケーブル張力検知スイッチを設け、ケーブル始端側から終端側に向けて順次作動させることで、延線機を無人化することが記載されている。
【特許文献1】特許第2715276号公報
【特許文献2】特許第2916910号公報
【特許文献3】特公平7−71367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のものは、ケーブル外形に即応したケーブル送りを実現し、且つケーブル途中の外し作業は簡単となるが、作業員に対するアシストについての技術的なことは何も記載されていない。
特許文献2のものは、ダンサーロール機構を用いてケーブルの位置変位を検出し、この変位分に応じて張力一定となるよう回転機を制御するために、送り出しモータの他に、可逆モータや3個のカムやリミットスイッチ、及び自己復帰スイッチ等を必要として構成が複雑、大型となっており、この文献においても作業員に対するアシストについての技術的な記載はない。
また、特許文献3のものは、無人化を意図したもので、当然ながら作業員に対するアシストについての技術的な記載はなく、この文献のものは、ケーブルの敷設ルートに添って複数の延線機を配置しているため、各延線機のモータ用電源ケーブルの配線が必要となっている。すなわち、上記した各特許文献を含む従来のものは、駆動機構が複雑な構成となっているはかりでなく、作業前における延線機設置やその延線機用の配線ケーブル敷設等の準備作業や、敷設作業後の撤去作業が重労働となっており、且つ複雑となっている。
【0005】
そこで、本発明が目的とするところは、作業員をアシストするための延線機を簡単、小型に構成し、設置作業や撤去作業を容易にすると共に、従来作業中に送り出し状態の監視のみで配置されている作業者を有効に活用できるケーブル延線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、ケーブル敷設経路に沿ってケーブルを牽引して敷設するケーブル延線方法において、
ケーブル敷設の経路若しくはそれに近接した位置に、直流の駆動モータで回転駆動されてケーブルの押出しを行い且つケーブルに作用する押出しに抗する力に対しては空転するラチェット機構を介して設けられた一対の押出しボールを有する延線機を設置し、前記延線機のケーブル押出し方向にケーブルへの牽引力が作用したことを検出するセンサ部を設け、ケーブルが弛んだ状態においては前記延線機の駆動モータを停止し、前記ケーブルへ牽引力が作用したときには前記センサ部にて検出し、このセンサ部からの検出信号に基づいて前記延線機の駆動モータにより押出しボールを回転駆動させてケーブルに押出し力を付与することで牽引力をアシストすることを特徴としたものである。
本発明の第2は、前記牽引力が人力による牽引であることを特徴としたものである。
本発明の第3は、前記ケーブルが押出しボールより押出される延線機のトルクは、人力のトルクより小さく設定し、その設定は例えば人力のトルクに対して30%程度に設定したことを特徴としたものである。
本発明の第4は、前記ラチェット機構は、想定された力よりも外部より曳かれた力が十分に大きい場合、及び前記直流の駆動モータ用バッテリ消耗時にはフリーな状態で動作することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のとおり、本発明によれば、その構成は簡単で小型化され、延線作業前の設置や、作業後の撤収が容易となるものである。また、アシストタイプの延線機として、作業員のケーブル曳き時に所定のトルクを出力してアシストするよう動作するので、作業員に疲労感を与えることなく効率的に敷設作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の実施例を示す構成図である。1は駆動モータで、直流モータが使用されてその回転力は所定のアシスト量となるようトルク設定され、動力伝達機構介して出力される。2は動力伝達機構を構成する減速ギアボックス、3は動力伝達機構によって駆動される押出しボールで、この押出しボール3はケーブルを送り出す方向となるよう互いに逆方向に回転するように設けられた3a,3bの2個を有している。また、この押出しボール3は、例えば、漁船の巻き上げ機用等に使用されているような低圧ゴムボール等が用いられ、押出しボール自体が固着される駆動軸4には、図2で示すようにラチェット機構付きのベアリングが採用された動力伝達ギア5が取り付けられており、減速ギアボックス2内に収納された減速ギア6と噛合している。ラチェット機構は、任意の回転方向についてはストレスなく回転し、また、反回転方向では入力回転軸と出力回転軸をホールドするような構成となっている。アシスト式の延線機にラチェットベアリングを使用したことにより、後述するバッテリの電圧低下、作業員が想定するパワーよりも大きな力でケーブルを曳いたとき等で機能を発揮する。
【0009】
7はフレームで、このフレーム上には駆動モータ1、減速ギアボックス2を含む動力伝達機構及び押出しボール3が配設されている。8は電源用のバッテリで、このバッテリ8は駆動モータ等と共に同一のフレーム7上に配置してもよいが、その場合、重量が増加して準備作業時の持ち運び時に不便となるため、ここでは分離配置となっている。したがって、設置された時には、モータとバッテリ間は電線によって接続される。9は延線されるケーブル、10はセンサ部で、このセンサ部10は、例えば、図3(b)や(c)で示すようなタッチスイッチ等が使用されて直流のモータ1の起動、停止に用いられる。
【0010】
図3(b)において、11は傾斜11aを有する基台で、その傾斜11aのレールにはスライダ12が滑動可能状態に配設されている。また、このスライタ12の上面には2個のガイドポール13a,13bが突設されている。14はストッパーで基台に設けられた傾斜11aの最底面側に設けられる。15は接触式のセンサで、基台の傾斜11a側に面したストッパー14側に設けられ、スライダ12がこのセンサ15と接触したときに駆動モータ1に対してオフ信号を発生する。図3(c)は基台21が断面L字状に形成されたセンサ部で、スライダ22が垂直に上下動する場合を示したものである。なお、この場合のガイドポール23a,23bにはケーブル抜け止め24が開閉自在に設けられている。
【0011】
上記のように構成される延線機は、図1で示すようにフレーム7とバッテリ8はケーブルラック等の延線経路上に接近して配置されるが、センサ部10はフレーム等とは多少位置をずらして配置される。
図3(a)は(b)図のセンサ部10を用いた場合の使用状態図で、ガイドポール13a,13b間に配設されたケーブル9が弛み状態時示している。この弛み状態時では、スライダ12は傾斜11aの作用によって下方に位置してセンサ15と接触した状態となっており、センサ15からは駆動モータ1に対してオフ信号が発生し延線機としては待機状態となっている。作業員によりケーブル9が持ち上げられて点線で示す引張状態となると、ケーブルはガイドポール13aと係合してスライダ12を傾斜の上方向に移動させ、このスライダとセンサ15との接触状態を解除する。この時には、接触式のセンサ15は駆動モータ1に対してオン信号を発生し、この駆動モータを介して押出しボール3を回動してケーブル9の延線作業が開始される。
【0012】
図4は延線機(駆動モータ1)の出力トルクと人力(作業員の)トルクとの関係を示したもので、同図(a)は延線機より作業員がN1のトルクを出力してケーブル9を曳くときのタイミングを示し、同図(b)は人力と延線機の合計トルクNを示したものである。作業員をアシストする延線機トルクは、予め人力トルクより小さくされ、例えば、人力トルク70%に対して30%程度に設定されており、線イがトルクN2(人力の略1/3程度)に設定された延線機トルク、線ロが人力と延線機との合計トルクを示したもので、人力に比して延線機トルクを小さく設定したことにより、延線機によるケーブルの過度の送り出し力を作業員に与えて疲労させることを防止している。
【0013】
これら延線機によるケーブルの送り出しトルクは予め適宜に設計又は調節され、動作中における駆動モータ1に対するトルク制御なしでケーブル曳きを可能としている。すなわち、図4(b)でいえば、時刻t0でN2のトルクを発生し、時刻t1でトルク0(駆動モータオフ)となる。また、作業員による出力(引張)時間は1.7s程度で、且つ1回の出力周期は4s程度に設定される。
【0014】
次にケーブル延線工法について説明する。
図5が延線作業状態を示したものである。延線機は延線経路上の任意箇所に配置されるが、その際、センサ部10は作業員の手前3m近辺に配置され、電源コード、開閉スイッチ等を介してバッテリ8、駆動モータ1に接続される。延線作業に先立って、ケーブルの先端は押出しボール3a,3b間,並びにセンサ部10のガイドポール間に挿通する。そのときにおける押出しボール3a,3bは、空気圧調整可能なゴムボールよりなっているため、この挿通は容易に実行できる。
センサ部10を通過したケーブルが、そのままケーブルラック上に位置している場合(ケーブルの弛み状態時)にはセンサ10部は図3(b)又は(c)の状態となって、スライダ12又は22はセンサ15との接触状態が維持されて駆動モータ1は停止状態となっている。
【0015】
図6は延線作業の動作フローである。
ステップS1において作業員がケーブル曳きを実行する。このとき、S2で作業員がケーブルを持ち上げることによってセンサ15とスライダ12(22)との接触が解除された検出信号を発生し、駆動モータ1をオン状態としてラチェット機構に動力を伝達する。したがって、S4では延線機が駆動して人力トルクと延線機トルクとの和のトルクN(図4(b)参照)によってケーブル9が曳かれることになり、図5で示す作業員は所定距離だけ後方に移動することになる。この状態は、図4(b)の時刻t0〜t1に相当し、所定の距離後方移動後のS5で作業員によるケーブル曳きを止めると、S6ではケーブル9が下がり、スライダ12(22)は降下してセンサ15と接触する。したがって、センサ15はS7においてオフ信号を発生して駆動モータを停止し、図4(b)で示す時刻t1〜t2の期間となり、作業時における作業員のケーブルの持ち替え時間となる。
ラチェット機構をフリー状態とする。以下S1〜S7を繰り返すことによって延線作業を実行する。
【0016】
図7は、ラチェット機構の動作形態を示したものである。人力による延線作業の場合、常に作業員と延線機が正常なタイミングで、且つ正常なトルク分配で作業が実行されるとは限らない。例えば、トルク分配が人力70%延線機30%に分配されているとすると、図7(a)は、正常状態の人力>延線機の場合で、ラチェット機構は動作せずに作業員の力と延線機の力はそれぞれ矢印で示す方向に加わる。図7(b)は、作業員が怠けた場合のように、延線機の力に対して作業員の曳く力が小さい人力<延線機による異常時の場合で、この場合にはラチェット機構は動作しない。図7(c)は、作業員が設定された値より十分に強い力で曳いた人力≫延線機の異常時の場合で、この時は、人力によって押出しボール3をも回転させるので、ラチェット機構を動作させてフリーな状態として作業員の力のロスを防止している。図7(d)は、バッテリが消耗して人力≫延線機の状態となった場合で、この場合も図7(c)と同様にラチェット機構はフリーな状態となって人力のみによる作業が実行されるよう機能する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図。
【図2】動力伝達機構の部分拡大図。
【図3】センサ部の説明図で、(a)は使用状態図、(b)は傾斜方式の構成図、(c)は垂直方式の構成図。
【図4】トルク図で、(a)は人力トルク、(b)は人力トルク+延線機トルク図。
【図5】延線作業状態図。
【図6】延線作業動作フロー。
【図7】ラチェット機構の動作形態図で、(a)は人力>延線機時、(b)人力<延線機時、(c)人力≫延線機時、(d)人力≫延線機時。
【図8】従来の延線状態図。
【符号の説明】
【0018】
1… 駆動モータ
2… 減速ギアボックス
3… 押出しボール
4… 駆動軸
5… 動力伝達ギア
6… 減速ギア
7… フレーム
8… バッテリ
9… ケーブル
10… センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル敷設経路に沿ってケーブルを牽引して敷設するケーブル延線方法において、
ケーブル敷設の経路若しくはそれに近接した位置に、直流の駆動モータで回転駆動されてケーブルの押出しを行い且つケーブルに作用する押出しに抗する力に対しては空転するラチェット機構を介して設けられた一対の押出しボールを有する延線機を設置し、前記延線機のケーブル押出し方向にケーブルへの牽引力が作用したことを検出するセンサ部を設け、ケーブルが弛んだ状態においては前記延線機の駆動モータを停止し、前記ケーブルへ牽引力が作用したときには前記センサ部にて検出し、このセンサ部からの検出信号に基づいて前記延線機の駆動モータにより押出しボールを回転駆動させてケーブルに押出し力を付与することで牽引力をアシストすることを特徴としたケーブル延線方法。
【請求項2】
前記牽引力が人力による牽引であることを特徴とした請求項1記載のケーブル延線方法。
【請求項3】
前記ケーブルが押出しボールより押出される延線機のトルクは、人力のトルクより小さく設定されたことを特徴とした請求項2記載のケーブル延線方法。
【請求項4】
前記ラチェット機構は、想定された力よりも外部より曳かれた力が十分に大きい場合、及び前記直流の駆動モータ用バッテリ消耗時にはフリーな状態で動作することを特徴とした請求項1乃至3記載のケーブル延線方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−121836(P2006−121836A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307824(P2004−307824)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】