説明

ケーブル式靴における引張りケーブル、特に複数本の引張りケーブル束の装着装置

本装着装置は引張りケーブルの張力が小さいかまたは極めて小さい場合に大きな変速比で作動するため、ハンドル車が回転運動させられる際に引張りケーブルの長さを大きく変化させることが可能である。引張りケーブルの張力が一定のしきい値を超えると直ちに装着装置は減速されて作動するため、ハンドル車の回転運動は引張りケーブルの比較的小さな長さ変化を生じ、非常に微細な張力調整が可能となる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
― 1本または複数本の引張りケーブルと結合されたもしくは結合可能な少なくとも1個 のケーブルドラムと、
― 上記1個または複数個のケーブルドラムを回転させるためのハンドル車と、
― 上記ハンドル車と上記1個または複数個のケーブルドラムとの間に配置されて、上記 ハンドル車から上記1個または複数個のケーブルドラムへと減速されたトルクを伝達す る歯車機構と、
― 有効な作用状態に置いて、上記1本または複数本の引張りケーブルの装着回転方向へ の上記1個または複数個のケーブルドラムの回転運動しか許容しない引き外し可能な逆 転止め爪とを備える、
ケーブル式靴における引張りケーブル、特に複数本の引張りケーブル束の装着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引張りケーブル束と、ハンドル車によって操作される、該引張りケーブル束に対応する装着装置とを有したケーブル式靴は市場において入手することができる。
【0003】
これらの装着装置については一方で、ハンドル車が引張りケーブルの張りを高める回転方向への回転運動時にケーブルドラムと直接に張力がかかった状態で連結され、したがってケーブルドラムはハンドル車と同一回転角度だけの回転運動を実施する構造が知られている。この点については、たとえば欧州特許第0 651 954号明細書、欧州特許出願公開第0 540 251号明細書ならびにオーストリア特許第195 751号明細書を参照されたい。この種の構造の利点は、ハンドル車の比較的小さな回転調整によって引張りケーブルの長さの大きな変化が実現されることである。
【0004】
他方、ハンドル車とケーブルドラムとの間に、ハンドル車の回転運動を減速する歯車機構が配置されている装着装置も知られている。したがってこの場合、引張りケーブルの長さが短かくなっていれば、ケーブルドラムはハンドル車に対して相対的に著しく小さな回転動程を実施する。こうした構造に関しては、例えば米国特許4、961、544 B1、同6、202,953、同6,289,558 B1に示されている。歯車機構を備えたこの種の装着装置の利点は、引張りケーブルの非常に僅かな長さ変化も、したがってごく僅かな張力変化も容易に調整することができることである。
【0005】
BOAテクノロジー・インコーポレーティッド社[BOA Technology,Inc.]は、遊星歯車機構を備えた装着装置であって、歯車機構を備えているにもかかわらずわずかな装置スペースしか必要としない装置も提供している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、冒頭に述べた類の装着装置において特に至便かつ速やかな操作を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は本発明により、ハンドル車とケーブルドラム( 1個または複数個)との間に直接の静摩擦機構が設けられ、この静摩擦機構はハンドル車と同一回転方向におけるケーブルドラム( 1個または複数個)の装着方向回転運動時には張力がかかった連結を生じないことによって解決される。
【0008】
本発明の基礎を成す一般的な思想は、ハンドル車とケーブルドラム( 1個または複数個)との間に2種類の駆動連結 ― つまり、小さな張力の達成にのみ適した静摩擦連結ならびに原理的に任意の大きさの張力に適した相補係合連結 ― を設けることである。相補係合連結は静摩擦連結に対して相対的に減速ギア比を有するため、引張りケーブルが弛んでいる場合には先ず静摩擦連結が有効となって、引張りケーブルの弛みを速やかに取り除き、他方、その後、静摩擦に加えている規定の張力を超えると、自動的に相補係合連結が有効となり、所望の非常に微細な張力調整が可能となる。このコンセプトを実現するために、相補係合連結を実現する歯車機構はケーブルドラム( 1個または複数個)に装着回転方向に実現される、限定的な阻止力に抗する自由回転運動が可能となるように形成されていてよい。
【0009】
本発明の特に好適な1実施形態において、ハンドル車とケーブルドラム( 1個または複数個)との間には静摩擦を生じる係止機構を配置することができる。こうして、この係止力により、静摩擦によって伝達可能な最大トルクが決定される。さらに、係止力の超過を良好に感知することができ、したがって、ハンドル車による装着回転方向へのケーブルドラムの調整が静摩擦のみによって行なわれているかそれとも相補係合作動する歯車機構によって行なわれているかも感知し得るようにするのが好適である。
【0010】
本発明の特に有用かつコンパクトな実施形態において、ハンドル車とケーブルドラム( 1個または複数個)との間には遊星歯車機構が配置され、その太陽歯車はハンドル車と、その遊星キャリアはケーブルドラム( 1個または複数個)とそれぞれ張力がかかった状態で連結されており、その環状歯車は遊星キャリアの装着回転方向と同一回転方向に回転可能であり、そのため、ケーブルドラム( 1個または複数個)をハンドル車により静摩擦のみによって装着回転方向に回転調整するために必要な自由回転が可能である。
【0011】
この実施形態において、遊星キャリアは環状歯車に対して相対的に装着回転方向とは逆方向の回転運動が第一の止め爪によって阻止され、環状歯車に対しては引き外し可能な第二の止め爪が作用し、この止め爪は有効な作用状態において遊星キャリアの装着回転方向と同一回転方向の環状歯車の回転運動のみを許容するのが特に好適である。
【0012】
この場合、特に、遊星キャリアと環状歯車とは第一の止め爪を介してこの止め爪の拡開方向に作用する静摩擦力によって互いに連結されており、この静摩擦力は第二の止め爪からの自由回転運動方向に環状歯車が回転運動する際に第二の止め爪によって環状歯車に作用させられる阻止力よりも大きくすることができる。
【0013】
この実施形態において、第一の止め爪は二重の機能を有している。
【0014】
一方において、第一の止め爪は、第二の止め爪が有効な作用状態にある際に、ケーブルドラム( 1個または複数個)が引張りケーブル( 1本または複数本)の弛緩回転方向に回転運動することを阻止する。他方において、第一の止め爪は遊星キャリアと環状歯車との間に静摩擦連結を生ずるため、引張りケーブル( 1本または複数本)の張力が小さければ、太陽歯車、遊星キャリアおよび環状歯車は装着回転方向と同一回転方向への同一回転運動を実施することができ、こうして引張りケーブル( 1本または複数本)の速やかな調整が実現される。
【0015】
さらに、本発明の好ましい特徴については、請求項の記載ならびに、本発明の特に好適な実施形態を詳細に述べた下記の図面説明を参照されたい。言うまでもなく保護範囲は明文を以って請求または記載された特徴の組み合わせに制限されるものではなく、原理的に任意のその他の従位特徴の組み合わせにも及ぶものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ケーシング1の内部にはシャフト2が回動支持されており、該シャフト2にはケーシング1の外側にハンドル車3が、ケーシング1の内側に、ケーシング1内に収容された遊星歯車機構5の太陽歯車4がそれぞれ相対回動しないように固定されて配置されている。遊星歯車機構5はシャフト2に回転可能に支持された環状歯車6ならびに同じくシャフト2に回転可能に支持された遊星キャリア7を有している。該遊星キャリアはその遊星歯車8の軸を介して、シャフト2に回転可能に支持されたケーブルドラム9と相対回動しないように結合されており、該ケーブルドラム自体は引張りケーブル10と結合されている。
【0017】
遊星歯車8は通例の歯列を有し、これらの歯は太陽歯車の外周に設けられた対応する歯列ならびに環状歯車6の内周に設けられた、遊星歯車8に対応する歯列と噛合している。
【0018】
半径方向において遊星キャリア7の軸部に対向する環状歯車6の内周には、図3に示したように、鋸歯状歯列が配置されており、遊星キャリア7に配置もしくは一体成形された止め爪11はこの鋸歯状歯列に一方の円周方向に向かっては相補係合によって噛み合い、他方の円周方向に向かっては静摩擦によって係止されている。したがって、遊星キャリア7は、図3に示した例において、環状歯車6に対して相対的に時計回り方向には回転不能である。他方、遊星キャリア7は反時計回り方向には、前記の環状歯車の内周歯列によって止め爪11に生ずる静摩擦抵抗に抗して環状歯車6に対して相対回転運動することが可能である。
【0019】
環状歯車6の外周にはもう一つの鋸歯状歯列が配置されており、該鋸歯状歯列はケーシング1に配置されて手動によって引き外し可能な止め爪12と連携する。止め爪12が有効な作用状態にある場合には環状歯車6は、図3に示した例において、ケーシング1に対して反時計回り方向にしか相対回転することができない。つまり、環状歯車6がケーシング1に対して回転可能な相対回転運動方向は遊星キャリア7が環状歯車6に対して回転可能な相対回転運動方向と同一である。止め爪12により反時計回り方向の環状歯車6の回転運動に抗して作用する阻止力は止め爪11により環状歯車6に対する遊星キャリアの相対回転運動に抗して作用する阻止力よりも小さい。
【0020】
前記のシステムは以下のように機能する。
【0021】
図1に示した矢印Pの方向から見た場合、環状歯車の内外周に設けられた鋸歯状歯列が図3に示したように配向されていれば、ケーブル10を装着させるためのハンドル車3は反時計回り方向に回転させられる。
【0022】
先ずケーブル10はたるみを有していてよく、つまりケーブル10の張力はさしあたり極めて小さい。この場合、ハンドル車3が反時計回り方向に回転させられる場合、遊星キャリア7と環状歯車6との間に止め爪11によって生ずる阻止力はまだ超えられることがない。したがって、ハンドル車3、太陽歯車4、遊星キャリア7ならびに環状歯車6は同一方向に向かって同一の回転角度だけ回転運動を実施する。それゆえこれは、遊星キャリア7と回転確動結合されたケーブルドラム9がケーブル10の装着回転方向にハンドル車3と同一の回転運動を実施するのと同義である。したがって、結果としてケーブル10のたるみは速やかに取り除かれることとなる。
【0023】
続いて今や、ケーブル10の張力は環状歯車6と遊星キャリア7との間に存在する阻止力によって定まった規定値を越えるようになる。今やハンドル車3が反時計回り方向にさらに回転続行させられると、太陽歯車4により遊星歯車8を経て環状歯車6に十分に大きな時計回り方向のトルクが伝達され、こうして環状歯車6は時計回り方向に回転しようとする。ただしこの回転運動は止め爪12の作用によって阻止されるため、環状歯車6はケーシング1に対して相対的に不動のままである。したがって今や遊星キャリアは、遊星歯車機構5の減速比に応じ、ハンドル車3の回転に比較して減速された回転運動を続行するため、ケーブルドラム9もケーブル10の装着回転方向に等しく減速されて回転させられることとなる。これにより、結果として、引張りケーブル10の長さと張力とを非常に微細に調整することができる。
【0024】
引張りケーブル10を弛ませるか、たるませるかする必要がある場合には、止め爪12が図3に示した矢印Qの方向に手動によって引き外されるため、環状歯車6と共にケーブルドラム9も時計回り回転方向、したがってケーブル10の弛緩回転方向に回転させることができる。この回転はハンドル車3の適切な、手動による時計回り方向への回転調整によって支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】遊星歯車機構を備えた本発明による装着装置の軸方向概略断面図である。
【図2】図1の切断面II−IIから見た概略断面図である。
【図3】図1の切断面III−IIIから見た概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本の引張りケーブルと結合されたもしくは結合可能な少なくとも1個のケーブルドラム(9)と、
― 前記1個または複数個のケーブルドラムを回転させるためのハンドル車(3)と、
― 前記ハンドル車と前記1個または複数個のケーブルドラムとの間に配置されて、前記 ハンドル車から前記1個または複数個のケーブルドラムへと減速されたトルクを伝達す る歯車機構(5)と、
― 有効な作用状態において、前記1本または複数本の引張りケーブルの装着回転方向へ の前記1個または複数個のケーブルドラムの回転運動しか許容しない引き外し可能な逆 転止め爪(11、12)とを備える、
ケーブル式靴における引張りケーブル(10)、特に複数本の引張りケーブル束の装着装置において、
前記のハンドル車と前記1個または複数個のケーブルドラムとの間に直接の静摩擦機構(6、11)が設けられ、該機構は前記ハンドル車と同一回転方向における前記1個または複数個のケーブルドラムの装着回転方向への回転運動時には張力がかかった連結を生じないことを特徴とする装着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装着装置において、
ハンドル車(3)と1個または複数個のケーブルドラム(9)との間に静摩擦を生じる係止機構(6、11)が配置されていることを特徴とする装着装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装着装置において、
ハンドル車(3)と1個または複数個のケーブルドラム(9)との間に遊星歯車機構(5)が配置され、該機構の太陽歯車(4)は前記ハンドル車と、該機構の遊星キャリア(7)は前記の1個または複数個のケーブルドラムとそれぞれ張力がかかった状態に連結されており、該機構の環状歯車(6)は前記遊星キャリアの装着回転方向と同一回転方向に回転可能であることを特徴とする装着装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装着装置において、
遊星キャリア(7)は環状歯車(6)に対して相対的に装着回転方向とは逆方向の回転運動が第一の止め爪(11)によって阻止され、前記環状歯車には引き外し可能な第二の止め爪(12)が作用し、該止め爪は有効な作用状態において前記遊星キャリアの装着回転方向と同一回転方向への前記環状歯車の回転しか許容しないことを特徴とする装着装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装着装置において、
遊星キャリア(7)と環状歯車(6)とは第一の止め爪(11)の拡開方向において互いに静摩擦によって連結されており、該静摩擦力は前記の第二の止め爪からの自由回転運動方向に前記環状歯車が回転運動する際に第二の止め爪(12)によって該環状歯車に作用させられる阻止力よりも大きいことを特徴とする装着装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の装着装置において、
遊星キャリア(7)には弾性止め爪(11)が配置もしくは一体成形されており、該止め爪はそれに対応する、環状歯車(6)の内周に設けられた非対称の歯形を有する内周歯列と連携して、前記遊星キャリアと環状歯車との相対回転運動を一方向においては相補係合によって阻止し、他方向においては係止抵抗によって生ずる静摩擦力に抗して許容することを特徴とする装着装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の装着装置において、
手動によって引き外し可能な止め爪装置(12)は環状歯車(6)の外周に設けられた非対称の歯形を有する外周歯列と連携して、一方向への前記環状歯車の回転運動を相補係合によって阻止し、他方向への前記環状歯車の回転運動を係止抵抗によって生ずる小さな静摩擦力によってのみ妨げるが、該静摩擦力はハンドル車(3)と1個または複数個のケーブルドラム(9)との間の静摩擦力および/または遊星キャリア(7)と環状歯車(6)との間の静摩擦力よりも小さいことを特徴とする装着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−501038(P2007−501038A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522353(P2006−522353)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051691
【国際公開番号】WO2005/013748
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(303011275)株式会社ジャパーナ (43)
【Fターム(参考)】