説明

ケーブル貫通処理工法及びその構造

【課題】気密性能、耐放射線性があり、容易に取り壊せ、耐火性能、遮蔽性能があり、コストが安い等の性能を有するケーブル貫通処理工法を提供する。
【解決手段】放射線管理区域である部屋11と放射線非管理区域である部屋12を仕切る遮断壁13のケーブル貫通処理において、当該遮断壁13に貫通孔14を設け、当該貫通孔14にケーブル17を通し、当該貫通孔14の両側開口部14a、14b又は一側開口部14a又は14bをほぼ塞ぐ型枠15を当該遮断壁13に取り付け、これらの貫通孔14及び型枠15によって、上部開口部を有する空間16を形成し、前記上部開口部から前記空間16に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材20を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材20を固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として原子力施設等の放射線管理区域と非管理区域を区分する壁、床等の仕切り箇所において、これらを貫通するケーブル、バスダクト、配管等の貫通処理工法及びその構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力施設等では、放射線管理区域と非管理区域とを、コンクリートの分厚い壁等により仕切り、放射化した空気が、放射線管理区域から非管理区域へ流出しないように、厳密な気密処理が行われている。
【0003】
この放射線管理区域で使用される電気機器への送電は、放射線管理区域と非管理区域とを仕切るコンクリートの壁に設けた貫通部を介して、非管理区域から供給されているが、放射線管理区域内に配設された電力ケーブルは、一定期間経過すると、放射線の影響で劣化してしまう。このため、劣化したケーブルを新しいケーブルと交換する引き替え工事を行う必要がある。
【0004】
しかしながら、上記ケーブル貫通部は、分厚いコンクリートに設けられているため、これを破壊しないと電力ケーブルを交換することができないが、このようなケーブル貫通孔という限定された箇所のみの分厚いコンクリートの破壊でも長時間を要する。
【0005】
また、上記ケーブル貫通部は、放射化した空気が外部に流出しないように気密処理を行わなければならない。
【0006】
気密処理方法としては、流動性の高いゴム系の材料を、ケーブルが貫通している箇所の周囲に流し込み、厚み十数センチのゴム膜を形成して気密性能を取っていた。しかし、このゴム系材料は、耐放射線性、防火性能、遮蔽性能はなく、高価である欠点がある。また、原子力施設等の遮蔽性能が必要な場合は、ベネトレーションと呼ばれる工法を用いていることが多い。この工法は大量の配線には不向きであり、機器が大型化し容易に取り壊しできず、また、大変高価である。また、放射線量の高い施設の小さな貫通部では、鉛毛と呼ばれる鉛線材料を詰め込むことで遮蔽性能を取ってきた。しかし、鉛は環境負荷物質に指定されているため、環境上その使用には問題がある。
【0007】
特許文献1に記載のものは、前記ベネトレーション工法のベネトレーションスリーブを貫通部に用いた構造である。この場合も、放射線管理区域との遮蔽壁にスリーブを設け、当該スリーブ内にしゃへい体を設けなければならず、設置費用が高価となり、その上、容易に取り壊すことが出来ない。
【0008】
また、特許文献2に示すものは、放射線遮蔽壁の電線貫通部の構造であるが、放射線遮蔽壁を貫通する管状の電線管をループ状に配置したものであるが、この電線管を直接コンクリート類で構成された放射線遮蔽壁に埋め込むため、当該電線管の取り替え等において、容易に壁を取り壊すことが出来ない。
【0009】
また、特許文献3に示すものは、放射線遮蔽壁に貫通孔を開け、この貫通孔にケーブル及び冷却媒体を通すことによって当該ケーブルを冷却する、冷却装置を設け、これらの貫通孔の両端を遮蔽材で塞ぐ構造であるが、これは気密性能、遮蔽性能等の点が十分とは思われない。
【0010】
このように、放射線管理区域のケーブル貫通部は用途に合わせ、対処療法的に処理を行ってきているのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開平9−15387号公報
【特許文献2】特開平8―5786号公報
【特許文献3】特開平6−113429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、気密性能があり、耐放射線性があり、容易に取り壊せることができ、耐火性能、遮蔽性能があり、コストが安いケーブル貫通処理工法及び材料がない。
【0013】
この発明は、気密性能、耐放射線性がある、容易に取り壊せる、耐火性能、遮蔽性能があるというだけでなく、ケーブル貫通部が容易に取り壊せる、コストが安い等の性能を有する、ケーブル貫通処理工法及びその構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、コンクリートのような破壊するのに苦労する材料に換えて、従来、地中線土木材料として使用している低熱抵抗スラリー材に注目した。この低熱抵抗スラリー材は、地中送電線の敷設工事において、開削部又は推進管中に設置され、内部に送電線やケーブルを収納した複数の送電管相互の間隙に充填する埋め戻し材又は中詰め材であって、高い流動性乃至充填性を有し、送電線から発生する熱の放熱性にも優れているものとして使用されている。さらに、この低熱抵抗スラリー材は、密度管理ができる、容易に壊せる、低価格である利点がある。
【0015】
また、この低熱抵抗スラリー材は、建設残土、MgO、SiO、Fe等の添加材、セメント等の固化材及び水からなるもの、泥水及び固化剤を含む流動化処理土と石炭灰含有粉体、流動化剤及び水を含む石炭灰スラリーとを流動化処理土1mに対して石炭灰スラリー0.4〜5mの割合で混合したもの等がある。そして、これらの低熱抵抗スラリー材を原子力施設等の放射線管理区域で用いた場合、耐放射線性、気密性があるかどうかを調べた結果、これらの性能があることが分かった。
【0016】
さらに、従来から市販されている低熱抵抗スラリー材の中から、比重の大きいものを選定し、放射線を外部に出さないための遮蔽性、材料が放射線により劣化しないための耐放射線性と、放射化した空気やチリ、ゴミを外部に出さない気密性とを有していることを実験により確認した。従って、この発明では、比重の大きい低熱抵抗スラリー材を用いたものとした。以下に具体的構成を示す。
【0017】
請求項1の発明は、放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁、床、天井等のコンクリートから成る仕切り箇所を貫通する、ケーブル貫通処理において、当該仕切り箇所に貫通孔を設け、当該貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかを通し、当該貫通孔の両側開口部又は一側開口部をほぼ塞ぐ型枠を当該仕切り箇所に取り付け、これらの貫通孔及び型枠によって、上部開口部を有する空間を形成し、前記上部開口部から前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材を固化させ、前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものである、ケーブル貫通処理工法とした。
【0018】
また、請求項2の発明は、前記請求項1の発明において、前記空間を下部の横断面積が上部の横断面積より小さいテーパー断面に形成した、ケーブル貫通処理工法とした。
【0019】
また、請求項3の発明は、前記請求項1又は2の発明において、前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかは前記貫通孔の一側の開口部側の上部開口部から空間に導入され、前記貫通孔の他側の開口部側の上部開口部から導出されるよう空間内で折り曲げて敷設した、ケーブル貫通処理工法とした。
【0020】
また、請求項4の発明は、前記請求項1又は2の発明において、前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかは前記空間に、前記型枠に設けた孔を通して導入又は導出されるよう敷設した、ケーブル貫通処理工法とした。
【0021】
また、請求項5の発明は、放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁が、コンクリート又はモルタルから成る床の上に立っている当該壁を貫通するケーブル貫通処理において、前記壁の両脇の床又は壁の下端を削って、当該壁の両側に通じる折れ曲がった貫通孔を設け、当該貫通孔によって前記壁を挟んで二つの上部開口部を有する空間を形成し、当該空間の各上部開口部から前記貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかを通し、前記上部開口部から前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材を固化させ、前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものである、ケーブル貫通処理工法とした。
【0022】
請求項6の発明は、放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁、床、天井等のコンクリートから成る仕切り箇所を貫通する、ケーブル貫通箇所において、当該仕切り箇所に貫通孔がられ、当該貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかが挿通され、当該貫通孔の両側開口部又は一側開口部をほぼ塞ぐ型枠が当該仕切り箇所に取り付けられ、これらの貫通孔及び型枠によって、上部開口部を有する空間が形成され、前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材が注入、充填、固化され、前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合された、ケーブル貫通処理構造とした。
【0023】
また、請求項7の発明は、前記請求項6の発明において、前記空間を下部の横断面積が上部の横断面積より小さいテーパー断面に形成された、ケーブル貫通処理構造とした。
【0024】
また、請求項8の発明は、前記請求項6又は7の発明において、前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかが前記貫通孔の一側の開口部側の上部開口部から空間に導入され、前記貫通孔の他側の開口部側の上部開口部から導出されるよう空間内で折り曲げて敷設された、ケーブル貫通処理構造とした。
【0025】
また、請求項9の発明は、前記請求項6又は7の発明において、前記ケーブル、バスダクト、配管のいずれかが前記空間に、前記型枠に設けた孔を通して導入又は導出されるよう敷設された、ケーブル貫通処理構造とした。
【発明の効果】
【0026】
請求項1、5又は6の発明によれば、低熱抵抗スラリー材は流動性を有するため、前記空間に容易に充填させることが出来、また、気密性能、遮蔽性能、防火性能を有するとともに、耐放射線性を有する。さらに、前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものを用いたため、従来から放射線管理区域に使われているコンクリートの遮蔽性に近づき、また、当該スラリー材の乾燥収縮が小さくなり、遮蔽効果の欠損が小さく、気密性も期待できる。また、低熱抵抗としたため、貫通するケーブルから発生する熱を逃がし、送電容量が確保できる等の具体的な効果を有するものである。しかも、掘削土等を使用するため低コストであり、また、コンクリートと異なり容易に取り壊すことが出来る。従って、低熱抵抗スラリー材を用いたこの工法又は構造は、放射線遮蔽壁等のケーブル貫通部には最適のものである。
【0027】
また、請求項2又は7の発明によれば、低熱抵抗スラリー材は自重により下部に沈み込み間隙を密閉しやすく、従って、間隙は上部に出来ることとなり、仮に間隙が発生したとしても上部を補修することで、気密性を確保できる低補修構造である。
【0028】
また、請求項3又は8の発明によれば、ケーブル、バスダクト又は配管は型枠を通さないので、型枠の構成が簡易であり、当該型枠を避けて空間に導入、導出するため施工が容易である。また、これによりケーブル、バスダクト又は配管は当該貫通箇所の低熱抵抗スラリー材の中で折り曲げられるので、ケーブル等と低熱抵抗スラリー材との間の空気の流出入の距離が長くなり、より空気が漏れにくい構造と成る。
【0029】
また、請求項4又は9の発明によれば、型枠の少なくとも一方を分割型枠として、これらの分割型枠により形成された孔にケーブル、バスダクト、配管を通すこととなり、ケーブル等を当該貫通箇所で折り曲げる必要がなく、施工が容易である。特に径の太いものには適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明は、放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁、床、天井等のコンクリートから成る仕切り箇所を貫通する、ケーブル貫通処理において、当該仕切り箇所に貫通孔を設け、当該貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管を通し、当該貫通孔の両側開口部又は一側開口部をほぼ塞ぐ型枠を当該仕切り箇所に取り付け、これらの貫通孔及び型枠によって、上部開口部を有する空間を形成し、前記上部開口部から前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材を固化させ、前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものである、ケーブル貫通処理工法とした。
【0031】
これにより、施工が容易であり、また、取り壊しが容易である処理工法であり、気密性能、遮蔽性能、防火性能及び耐放射線性を有するケーブル処理部が形成される。
【0032】
この発明で使用する低熱抵抗スラリー材は、前述のように、建設残土、MgO、SiO、Fe等の添加材、セメント等の固化材及び水からなるもの(特許第4009412号)、泥水及び固化剤を含む流動化処理土と石炭灰含有粉体、流動化剤及び水を含む石炭灰スラリーとを流動化処理土1mに対して石炭灰スラリー0.4〜5mの割合で混合したもの(特開2006−143913)、汚泥スラリーに粒子径1.0mm以下の骨材が配合され、その比重が1.3g/cm以上、フロー試験(JHS A313)の値が240mm以上に設定されたスラリーモルタル用の原液と、セメント等の固化剤とが混合されたモルタルであって、このモルタルの比重が1.54g/cm以上、フロー試験の値が190mm以上であり、養生固化後の熱抵抗値が100°C・cm/W未満である低熱抵抗型のスラリーモルタル(特開2002−87869号)、セメントを30質量%以下及び石炭灰を70質量%以上含む混合物に対し、水及び混和剤(コンクリート用AE減水剤、減水剤および流動化剤から選ばれる1種又は2種以上)を添加してフロー値が200〜400mmに調整してなる充填材(特開2002−291144号)、セメントを5〜15重量%、及び、石炭灰/骨材(炭酸カルシウム、ドロマイト、オリビンサンドの1種又は2種以上から選ばれる)の重量比で7/3〜2/8である石炭灰と比重が2.70〜3.50の骨材の混合物を95〜85重量%含む充填材(特開2000−281421)等、種々のものがある。
【0033】
まず、この低熱抵抗スラリー材が耐放射線性があるかどうかを調べた。
このときに使用した低熱抵抗スラリー材は、放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁等のコンクリートの放射線遮蔽性と同等の機能をさせるため、コンクリートの比重に極めて近いものを選択した。
具体的には、次の構成のものである。
【0034】
【表1】



【0035】
この低熱抵抗スラリー材をステンレス製の円筒形の容器(直径5cm、高さ10cm)に詰め、ガンマ線を照射した。照射線量は、1MGy、3MGy、5MGy、7MGy、10MGyの5種類である。この結果、未照射の資料と比較し、体積の変化がなかった。圧縮試験により強度を調べたが、変化がなかった。体積比により密度変化を調べたが、密度変化もなかった。これにより、10MGyの耐放射線性があることが実証された。
【0036】
次にこの低熱抵抗スラリー材が、気密性があるかどうかの試験を行った。図7に示すように、気密試験装置1は圧力箱から成るC室、試験体を収納するB室、捕集箱から成るA室を備えている。そして、具体的には図8に示すように、B室とA室とを仕切る壁2に穴3を開け、この穴3を塞ぐようにA室側に試験体4を支持固定し、試験体4を通して漏れによる通風があるかどうかを前記気密試験装置のA室の外に導出した管5内に設けた風力計6で測定する。
【0037】
前記試験体4は、図9に示すように、直径が40mmで長さが200mmの円筒体の両端を四辺形のフランジで塞ぎ、一方のフランジには、直径40mmの開口部を設け、他方のフランジには直径16mmの中央孔を有する試験体4aと、直径が80mmで長さが200mmの円筒体の両端を四辺形のフランジで塞ぎ、一方のフランジには、直径75mm開口部を設け、他方のフランジには直径16mmの中央孔を有する試験体4bのサイズの異なる二種類を用意した。
【0038】
そして、これらの各試験体4a、4b内に前記低熱抵抗スラリー材を注入、充填して固化させ、これを表2に示すように放射線10MGyを照射した。
【0039】
【表2】



【0040】
次に、このように放射線を照射した試験体4と、放射線を照射しない試験体4、及び、低熱抵抗スラリー材の代わりに、従来のゴム系材料であるダンシール(商標名)を充填した試験体4を揃え、各試験体4を前記気密試験装置1に取り付け、気密試験を行った。
【0041】
各試験体4及びその態様は以下の表3及び表4に示す。表3の片側蓋ありは、前記試験体4の壁2に接したフランジはそのままにし、壁2に遠い方のフランジを外して試験したものである。また、表4の両側蓋取り外し(フランジカット)は、試験体4の両側のフランジを取り外して試験したものである。
【0042】
【表3】






【0043】
【表4】




【0044】
上記気密試験の結果、通風漏れの確認ができた試験体4が3種類あった。これらは、7MGy照射サイズ80A片側蓋ありの試験体、放射線未照射のサイズ80Aの両側蓋なしの試験体及び10MGy照射サイズ80A両側蓋なしの試験体であり、これらの圧力差ごとの通風量を表5に示す。
【0045】
【表5】







【0046】
一般的には、気密性能の等級と性能はJIS A4706(サッシの気密基準)で規定されている。図10は圧力差と通気量における気密性等級線を表す。
これによると、100Pa=10.2kgf/m
A−4等級で 100Pa→20〔m/(h・m)〕
【0047】
これに前記気密試験の結果、通風が確認された3種類の試験体の通風量の測定結果(前記表4に示す)を当てはめると、図11のグラフに示すものと成った。いずれの試験体も2等級線(JIS A4706)以下及び高層ビルの窓等のサッシの嵌め殺し部の気密性能である0.5等級線以下であった。
【0048】
しかしながら、このサッシは1m四方の四角なもの(外周4m)での基準であり、本件の試験体の開口部は外周が0.25mである。2等級では、500Pa→100〔m/(h・m)〕の空気漏洩以下である。そこで、前記本件試験体と基準との外周比に対応して、前記試験結果、500Pa→0.739〔m/(h・m)〕の空気漏洩を16倍にすると、
500Pa→11.8〔m/(h・m)〕の空気漏洩となり、前記2等級の基準の1/8の空気漏洩である。このように前記表4の通風量を16倍したグラフを図12に示す。これにより、各試験体の通風量はいずれも0.5等級線以下の通風量であることが確認された。
【0049】
以上のように、低熱抵抗スラリー材は放射線管理区域のケーブル貫通処理に使用する材料として使用可能であることが確認できた。
【実施例1】
【0050】
そこで、この低熱抵抗スラリー材をケーブル貫通処理に使用した例を図1及び図2に示す。
【0051】
放射線管理区域である部屋11と、放射線非管理区域である部屋12とを仕切る、コンクリート製の遮断壁13に、両部屋11、12に通じる貫通孔14を設ける。この貫通孔14の、部屋11側の開口部14a及び部屋12側の開口部14bに対向して型枠15を夫々ボルト等で取り付ける。これらの型枠15は、下部から上部にいくに従って外方に開いた断面を有する。
【0052】
これらの型枠15を貫通孔14の両端に取り付けることにより、貫通孔14及び2個の型枠15で略すり鉢型の空間16が形成される。この空間16は、図1において左右の上部が開口している。これらの左右の上部開口部からケーブル17を前記貫通孔14に挿通し、部屋11のケーブルラック18にケーブル17の一端を支持、固定し、部屋12のケーブルラック19にケーブル17の他端を支持、固定する。
【0053】
これにより、前記ケーブル17は部屋11のケーブルラック18から下降して、前記空間16内にたるませながら入り、当該空間16から上昇して部屋12のケーブルラック19に支持される。そして、前記一方の型枠15の上から前記低熱抵抗スラリー材20を空間16に注入、充填する。そして、当該低熱抵抗スラリー材20が固化したら、各型枠15を取り外す。
【0054】
この様にして、放射線管理区域である左側の部屋11と、放射線非管理区域である部屋12との間の遮断壁13にケーブル17を貫通させ、このケーブル17の周囲を低熱抵抗スラリー材で固めることにより処理する。この低熱抵抗スラリー材は耐放射線性、気密性能、遮断性能、防火性能を有し、低コスとで且つ容易に取り壊しできる。また、低熱抵抗スラリー材20を充填する空間16はすり鉢型となっているため、当該低熱抵抗スラリー材は自重で沈み空間16内の隅々まで充填される。
【実施例2】
【0055】
図3はこの発明の実施例2を示し、前記実施例1異なり、空間16をすり鉢型に形成していない。貫通孔14の両側の型枠21は一方が扁平な板から成り、他方が上部がやや外方に開いた形状となり、当該外方に開いた箇所が、上部開口部となっている。この開口部から空間16に低熱抵抗スラリー材を注入、充填するものである。また、前記各型枠21は、図4に示すように、二つ割となっており、ケーブル17を通す半円形孔21aを挟んだ両縁をそれぞれ重ね合わせて、壁12にボルト等で取り付ける構成となっている。その他の構成は実施例1と同じである。
【実施例3】
【0056】
図5はこの発明の実施例3を示し、建屋の上部が放射線管理区域である上部縦シャフト22と下部が放射線非管理区域である下部縦シャフト23とを遮断する、コンクリート製の遮断壁24において、下方に行くに従って小径となるテーパー型管通孔25を設け、前記上部縦シャフト22内の上部ケーブルラック26から導出したケーブル27を前記貫通孔25に通し、前記下部縦シャフト23内の下部ケーブルラック28に導入する。そして、当該貫通孔25の下面を塞ぐように型枠29を取り付ける。
【0057】
この型枠29は、前記ケーブル27が新設の場合は、予めケーブル挿入孔を設けた一枚ものを使用し、ケーブル27が既設の場合は、二つ割で、突き合わせ端縁に半円形の切り欠きを有するものを使用する。この型枠29を貫通孔25の下部の開口部に設けることにより、略すり鉢型の空間30が形成され、この空間30に前記低熱抵抗スラリー材20を貫通孔25の上部開口部から注入、充填し、固化させる。固化後、前記型枠29を取り外す。
【実施例4】
【0058】
図6はこの発明の実施例4を示し、図中遮断壁31の左側が放射線管理区域である部屋32、右側が放射線非管理区域の部屋33となっている。そして、部屋32、33の下部は夫々ビット34が形成され、その上にビット蓋34aが夫々設けられている。ケーブル35は前記ビット34内を挿通する構成となっている。
【0059】
また、前記ビット34の下は、シンダーモルタル36及びその下には土間37がそれぞれ設けられている。この構成において、前記遮断壁31の下のシンダーモルタル36を削って遮断壁31の下端を通る貫通孔38を設ける。この貫通孔38は前記土間37を底面とした、略すり鉢型の空間39を形成する。そして、前記部屋32内のビット34に通したケーブル35を前記貫通孔38に通し、他方の部屋33のビット34内に通す。
【0060】
そして、前記すり鉢型の空間39の上部開口部から前記低熱抵抗スラリー材20を注入、充填し、固化させる。この実施例では、貫通孔38の底面が土間37のため、型枠が不要である。要は、貫通孔を設けた際、流動性のある低熱抵抗スラリー材を受ける空間があれば、この発明のケーブル貫通処理ができる。
【0061】
この発明は上記実施例に限定されるものでなく、貫通孔を設けた箇所又は態様によって、型枠が不要なこともある。要は、貫通孔を設けた際、流動性のある低熱抵抗スラリー材を固化するまで受け止める空間があれば、この発明のケーブル貫通処理ができる。
【0062】
なお、前記実施例2及び3では、貫通孔14又は25にケーブル17又は27が既に貫通している場合の例であり、その場合は型枠21及び29は二つ割れで構成されているが、これらの貫通孔14又は25に新たにケーブル17又は27を通す場合は、型枠21及び29を一枚ものとし、当該貫通処理工事の際、ケーブル挿通孔にケーブル17又は25を通せばよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の実施例1の概略構成断面図である。
【図2】この発明の実施例1の遮断壁に設けた貫通孔及びこれに取り付ける型枠の斜視図である。
【図3】この発明の実施例2の概略構成断面図である。
【図4】この発明の実施例2の型枠の正面図である。
【図5】この発明の実施例3の概略構成断面図である。
【図6】この発明の実施例4の概略構成断面図である。
【図7】この発明の実施例1の気密試験装置の概略構成図である。
【図8】この発明の実施例1の気密試験装置のA室及びB室の拡大構成図である。
【図9】この発明の実施例1の気密試験の2種類の試験体の構成図である。
【図10】圧力差と通気量との関係における一般的な気密性等級線を示すグラフ図である。
【図11】この発明の実施例1の気密試験の試験体の通気量測定結果を前記一般的な気密性等級線グラフに当てはめたグラフ図である。
【図12】この発明の実施例1の気密試験の試験体の通気量測定結果を16倍にして前記一般的な気密性等級線グラフに当てはめたグラフ図である。
【符号の説明】
【0064】
11 部屋 12 屋
13 遮断壁 14 貫通孔
14a 開口部 14b 開口部
15 型枠 16 空間
17 ケーブル 18 ケーブルラック
19 ケーブルラック 20 低熱抵抗スラリー材
21 型枠 21a 半円形孔
22 上部縦シャフト 23 下部縦シャフト
24 遮断壁 25 貫通孔
26 上部ケーブルラック 27 ケーブル
28 下部ケーブルラック 29 型枠
30 空間 31 遮断壁
32 部屋 33 部屋
34 ビット 34a ビット蓋
35 ケーブル 36 シンダーモルタル
37 土間 38 貫通孔
39 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁、床、天井等のコンクリートから成る仕切り箇所を貫通するケーブル貫通処理において、
当該仕切り箇所に貫通孔を設け、当該貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかを通し、
当該貫通孔の両側開口部又は一側開口部をほぼ塞ぐ型枠を当該仕切り箇所に取り付け、これらの貫通孔及び型枠によって上部開口部を有する空間を形成し、
前記上部開口部から前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材を固化させ、
前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものであることを特徴とする、ケーブル貫通処理工法。
【請求項2】
前記空間を、下部の横断面積が上部の横断面積より小さいテーパー断面に形成することを特徴とする、請求項1に記載のケーブル貫通処理工法。
【請求項3】
前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかは前記貫通孔の一側の開口部側の上部開口部から前記空間に導入され、前記貫通孔の他側の開口部側の上部開口部から導出されるよう前記空間内で折り曲げて敷設したことを特徴とする、請求項1又は2に記載のケーブル貫通処理工法。
【請求項4】
前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかは前記空間に、前記型枠に設けた孔を通して導入又は導出されるよう敷設したことを特徴とする、請求項1又は2に記載のケーブル貫通処理工法。
【請求項5】
放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁が、コンクリート又はモルタルから成る床の上に立っている当該壁を貫通するケーブル貫通処理において、
前記壁の両脇の床又は壁の下端を削って、当該壁の両側に通じる折れ曲がった貫通孔を設け、当該貫通孔によって前記壁を挟んで二つの上部開口部を有する空間を形成し、
当該空間の各上部開口部から前記貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかを通し、
前記上部開口部から前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材を注入、充填し、その後、当該低熱抵抗スラリー材を固化させ、
前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものであることを特徴とする、ケーブル貫通処理工法。
【請求項6】
放射線管理区域と放射線非管理区域を仕切る壁、床、天井等のコンクリートから成る仕切り箇所を貫通する、ケーブル貫通箇所において、
当該仕切り箇所に貫通孔が設けられ、当該貫通孔にケーブル、バスダクト又は配管のいずれかが挿通され、当該貫通孔の両側開口部又は一側開口部をほぼ塞ぐ型枠が当該仕切り箇所に取り付けられ、
これらの貫通孔及び型枠によって、上部開口部を有する空間が形成され、前記空間に、施工後、容易に取り壊し可能な低熱抵抗スラリー材が注入、充填、固化され、
前記低熱抵抗スラリー材は、コンクリートの比重に極めて近い値となるように水、泥水、固化材、添加剤を配合したものであることを特徴とする、ケーブル貫通処理構造。
【請求項7】
前記空間が、下部の横断面積が上部の横断面積より小さいテーパー断面に形成されていることを特徴とする、請求項6に記載のケーブル貫通処理構造。
【請求項8】
前記ケーブル、バスダクト又は配管のいずれかが前記貫通孔の一側の開口部側の上部開口部から前記空間に導入され、前記貫通孔の他側の開口部側の上部開口部から導出されるよう前記空間内で折り曲げて敷設されたことを特徴とする、請求項6又は7に記載のケーブル貫通処理構造。
【請求項9】
前記ケーブル、バスダクト、配管のいずれかが前記空間に、前記型枠に設けた孔を通して導入又は導出されるよう敷設されたことを特徴とする、請求項6又は7に記載のケーブル貫通処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−19665(P2012−19665A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157140(P2010−157140)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】