説明

ゲノムDNAの精製のための簡単な負荷および溶離プロセス

ゲノムDNAの単離のための新規の2工程のクロマトグラフィー的精製プロセス(負荷および溶離)を提供する。この方法では、試料をカラムに負荷し、いかなる中間の洗浄の工程も無しでゲノムDNA産物を直接溶離する。これは出入り制限樹脂(すなわちリッドビーズ)を利用することにより成し遂げられ、それは用意するのが容易であり、異なる特性を有する2つの層および外側の層の上の非機能性表面で構成される。内側の層はイオン交換体として働く官能基で修飾されている。小さい分子、例えばRNAおよびタンパク質はその樹脂の内部に入ることができ、より大きいゲノムDNA分子はその樹脂を通過するであろう。RNAおよびタンパク質は出入り制限樹脂の内側の層で捕えられ、一方でゲノムDNAは素通り画分中にすぐに溶離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2008年8月25日に出願された米国仮特許出願番号61/091,573に対して優先権を主張し;その開示をそのまま本明細書に援用する。
技術分野
この発明は概して生物学的試料からの核酸の分離および単離のための方法に関する。特に、本発明は他の構成要素を含む混合物からのゲノムDNAの精製のための簡単なクロマトグラフィー的プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
この30年間で、生物学的源からの核酸およびタンパク質の単離および精製のための向上した方法の開発においてかなりの努力があった。これは主に医学および生物科学における核酸およびタンパク質の適用の増大によるものである。血液、組織または培養細胞から単離されたゲノムDNAはいくつかの適用を有しており、それにはPCR、配列決定、遺伝子型決定、ハイブリダイゼーションおよびサザンブロッティングが含まれる。プラスミドDNAは配列決定、PCRにおいて、ワクチンの開発において、および遺伝子療法において利用されてきた。単離されたRNAは、ブロットハイブリダイゼーション、インビトロ翻訳、cDNA合成、およびRT−PCRを含む様々な下流の適用を有する。同様に、単離されたタンパク質はウェスタンブロット、DNA−タンパク質相互作用、酵素活性分析、タンパク質−タンパク質相互作用、および発現分析のために使用することができる。
【0003】
現在、DNA(ゲノムおよびプラスミド)、RNAおよびタンパク質の精製に関していくつかの市販品を利用することができる。それらはシリカに基づく膜精製、イオン交換樹脂、charge switch technologyまたは磁気ビーズに基づく精製のいずれかを利用している。これらの異なる技術は全て、負荷、不純物の洗い落としおよび望まれる生成物(単数または複数)の溶離の、同じクロマトグラフィーの原理を利用している。例えば、細胞からのゲノムDNAの単離に関して、その精製プロセスの最初の工程は未処理の(crude)細胞溶解物をカラムに負荷することである。第2の工程において、適切な洗浄緩衝液を用いて結合したDNAから不純物を洗い落とす。最後に、溶離緩衝液を用いてDNAを溶離する。過去30年の間にこの領域において数え切れない報告が発表されたにも関わらず、負に荷電した核酸を互いから、および他の負に荷電した構成要素、例えばタンパク質から分離するのはまだ複雑で困難な仕事のままである。
【0004】
核酸の分離に関して、2種類の主な原理が以前に用いられていた:
1.分離媒体は堅固に取り付けられた結合基(ligand)構造を有し、望まれる核酸および不純物は、それに結合した状態になる、またはそれから脱着する異なる能力を有する。典型的にはその結合基構造は陰イオン交換基であり、分離はイオン交換に基づく、例えばイオン交換クロマトグラフィー(IEC)である(参考のため、米国特許出願US 2005/0267295において言及されているそれらを参照)。
【0005】
2.分離媒体は望まれる核酸または不純物の一方の、細孔内部でのより容易な輸送を可能にする細孔の大きさを有する。その分離はゲル濾過(GF)として行われる(同書)。
異なる分離機能性を有する内側部分および外側表面層を有する分離媒体が以前に記述された。これらの媒体の一部は、吸着性マトリックス(出入り制限ビーズと呼ばれることもある)の内側部分の中へのより大きな分子の通過を妨げる遮蔽層(外層、ロック、リッド)を有する。これらの媒体はタンパク質、プラスミド、炭水化物、脂質等の分離のために使用することができることが提案されている:WO 1998/039094、WO 1998/039364、US 2005/0267295、米国特許第7,208,093号およびGustavsson P.-E. et al. Journal of Chromatography A, 1038: 131-140 (2004)。しかし、これらのいずれもゲノムDNAの精製のための簡単なプロセスを開示または教示していない。
【0006】
ゲノムDNAの精製のための簡単かつ効果的な方法に関する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願US 2005/0267295
【特許文献2】WO 1998/039094
【特許文献3】WO 1998/039364
【特許文献4】US 2005/0267295
【特許文献5】米国特許第7,208,093号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gustavsson P.-E. et al. Journal of Chromatography A, 1038: 131-140 (2004)
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
本発明の目的はゲノムDNAの精製のための方法を提供することであり、その方法は、(a)操作の簡単さ、(b)増大したゲノムDNAの純度および収率、ならびに(c)関係する工程の数の減少に関して向上している。
【0010】
従って、本発明は、ゲノムDNAの精製のための新規の2工程のクロマトグラフィー的精製プロセス(負荷および溶離)を提供する。この新規の精製法では、試料をカラムに負荷し、いかなる中間の洗浄の工程も無しでゲノムDNA産物を直接溶離する。この単純化された精製法は、出入り制限樹脂(すなわちリッドビーズ)を利用することにより成し遂げられ、それは用意するのが容易であり、異なる特性を有する2つの層および外側の層の上の非機能性表面で構成される。内側の層はイオン交換体として働く官能基で修飾されている。小さい分子、例えばRNAおよびタンパク質はその樹脂の内部に入ることができ、より大きいゲノムDNA分子はその樹脂を通過するであろう。RNAおよびタンパク質は出入り制限樹脂の内側の層で捕えられ、一方でゲノムDNAは素通り画分(flow−through)中にすぐに溶離される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は実施例1において記述される原理証明試験において溶離されたゲノムDNAの電気泳動のゲルの画像を示す。
【図2】図2は実施例2において記述される方法を用いて血液試料から単離されたゲノムDNAの電気泳動のゲルの画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の第1観点は、異なる大きさを有するが同じ結合基構造に関して親和性を有する他の生体分子を含む試料からの、ゲノムDNAのための簡単な2工程のクロマトグラフィー的精製プロセスである。言い換えると、その方法は、大きさが異なるが共通の結合基構造に関して親和性を有する他の生体分子からのゲノムDNAの分離を意味する。
【0013】
従って、その方法は、ゲノムDNAおよび他の生体分子構成要素を含む試料溶液を用意する;その試料を分離マトリックスと接触させて他の構成要素を結合させる;ならびに精製されたゲノムDNAを含む液相を集める工程を含む。必要であれば、回収されたゲノムDNAをさらに精製することができる。
【0014】
本発明の方法の独特の特徴は、用いられる分離マトリックスが(a)ゲノムDNAおよび他の構成要素の両方に結合することができる結合基構造を有し、その他の構成要素にとって出入り可能である内側部分;ならびに(b)実質的にゲノムDNAを吸着せず、その他の構成要素によりゲノムDNAよりも容易に浸透される外側表面層を有することである。
【0015】
これは、その外側表面層は試料中の物質にとって対流物質輸送により出入り可能であり、そのマトリックスの内側部分は拡散物質輸送によってのみ出入り可能であることを意味する。従って、その外側表面層は対流環境を拡散環境から制限している境界層と考えてよい。
【0016】
その外側表面層は、多孔性粒子の外側表面に、またはマクロ細孔およびミクロ細孔の両方を含む粒子の内部の、もしくはモノリスの内部のマクロ細孔の表面に位置していてよい。その細孔は、少なくとも外側表面層において、ゲノムDNAおよび他の細胞の構成要素(例えばRNAおよびタンパク質)に関する見かけ上の分子サイズ(流体力学半径)の間の見かけ上の分子サイズに相当する、化合物の流入に関する分子サイズのカットオフ値を有する。内側部分は、外側表面層における細孔と同じ分子カットオフ値を有する細孔を有していてよく、またはこれらの細孔よりも大きい、もしくは小さい細孔を有していてよい。内側部分はこれらの細孔の大きさの組み合わせを含んでいてもよい。
【0017】
“実質的にゲノムDNAを吸着しない外側表面層”という表現は、少なくともその層の表面には吸着性の結合基構造が本質的に無いことを意味する。
その外側表面層は反発構造、例えばゲノムDNAと同じ電荷を有する構造;疎水性構造等も含んでいてよい。反発構造は、その外側表面層を通る輸送における選択性を向上させる可能性がある。WO 1998/039364を参照。
【0018】
“その他の構成要素によりゲノムDNAよりも容易に浸透される”という表現は、その他の構成要素はゲノムDNAよりも実質的に速く外側表面層を通って輸送されることを意味する。これは、ゲノムDNAが内側部分から完全に排除されることを含む。
【0019】
“ゲノムDNAおよび他の構成要素の両方に結合することができる結合基構造を有する”という表現は、その物質のそれぞれがその結合基構造に、もしそれらがそれに出入りした場合に結合することができることを意味する。従って、ゲノムDNAおよび他の構成要素の間のビーズへの結合に関する選択性の違いは、主に外側表面層の細孔の大きさによりもたらされ、結合基構造への親和性自体の違いによるものでは無い。
【0020】
試料
試料は異なる源に由来することができ、様々な方法で調製することができる。それは血液試料、組織試料、培養細胞等に由来するものであってよい。それは未処理の細胞抽出物または細胞溶解物の形であってよい。それは粒子状物質、タンパク質、核酸の特定の画分を除去するための遠心分離、濾過、限外濾過、透析、沈殿等、濃縮、脱塩等を経た、処理された試料であってもよい。従って、任意ではあるが、次のことを行うのが慣習である:
(a)核酸を吸着剤上に捕捉する、および/または分画する前に、試料のタンパク質を沈殿させる、
(b)もしDNA画分を単離するのであれば、RNAを沈殿させる、または分解する、
(c)試料をイオン交換体等に適用する場合は、脱塩および/または希釈によりイオン強度を低下させる。
【0021】
妨げとなる物質を除去するために、他の方法論を適用してもよい。多くの場合、本発明において用いられる試料は本質的に粒子状物質を含まない。
試料は典型的には水性である。
【0022】
ゲノムDNAから分離される他の構成要素は、RNAまたは結合基構造に結合することができる構造を含む限り全ての他の化合物であってよい。これは、その他の構成要素がタンパク質/ポリペプチド、または炭水化物、脂質、界面活性剤、細胞もしくはその一部等であってよいことを意味する。本発明の重要な変形において、その他の構成要素は核酸構造物(オリゴヌクレオチドおよびRNA)を含む。
【0023】
物質の見かけ上の分子サイズは、(a)その分子量、および(b)適用された条件の下でのその形状により決定される。従って、その見かけ上の大きさはpH、イオン強度、塩のタイプおよび温度の変化によって変化する可能性がある。これは特にバイオポリマー、例えば高分子量の核酸およびタンパク質に当てはまる。内側部分の内部および外側表面層の内部の細孔の大きさと望まれる分子の見かけ上の大きさの適合は、異なる内側部分および遮蔽層(外側の細孔)の分子サイズ排除の振る舞いを試験することにより容易になされる。様々なサイズ排除分離媒体に関係する物質のサイズ排除の振る舞いから結論を引き出すことも可能であろう。サイズ排除クロマトグラフィーからの一般的な知識が当てはまる。
【0024】
外側表面層の分子サイズカットオフ値を適切に設定することにより、本発明の接触させる工程は試料の2つの画分への分離を容易にするであろう。一方の画分はその分子サイズカットオフ値より上の見かけ上の大きさのゲノムDNAを含む。第2の画分はその分子サイズカットオフ値より下の大きさを有する他の構成要素を含む。従って、本発明は様々な長さのゲノムDNAをDNA、RNA等のより小さい断片から分離することを可能にするであろうと予想することができる。典型的には、ゲノムDNAの精製に関して最も有用な分子サイズカットオフ値は、有用なゲノムDNAに関する見かけ上の分子サイズに相当する区間の中にある、すなわち1〜20kbp(キロ塩基対)の区間の中にあるであろう。これは、より大きな分子がその内側部分に浸透することが許される場合、そのカットオフ値をより大きくすることができることを排除せず、例えばその区間は1から40kbpまでの長さを有するゲノムDNAに対応していてよい。
【0025】
本発明の好ましい方式において、その外側表面層の分子サイズカットオフ値は、望まれるゲノムDNAが液体中に保持される、すなわち、かなりの程度までそのマトリックスの内側部分の中に輸送されることが決して無いように設定される。主な利点の1つは、ゲノムDNAが次いで収率を低下させDNAの変性/分解を引き起す可能性がある吸着/脱着プロセスを経る必要が無いことである。
【0026】
分離マトリックス
本発明は分離マトリックスとして異なる特性を有する2つの層で構成される多孔性のポリマー性粒子を利用する。特定の態様において、その粒子は中性の、すなわち電荷の無い、または非機能性外層を提供する。特定の好ましい態様において、その粒子は米国特許出願公開US 2005/0267295において記述されている方法に従って、あるいは米国特許第7,208,093号において記述されている方法に従って製造され、その開示をそのまま本明細書に援用する。
【0027】
その分離マトリックスは、ゲノムDNAおよび他の構成要素の両方に結合することができる結合基構造を有し、その他の構成要素にとって出入り可能である内側部分(すなわち内側の細孔);ならびに実質的にゲノムDNAを吸着せず、その他の構成要素によりゲノムDNAよりも容易に浸透される外側表面層を有する。これは、その外側表面層は試料中の物質にとって対流物質輸送により出入り可能であり、そのマトリックスの内側部分は拡散物質輸送によってのみ出入り可能であることを意味する。従って、その外側表面層は対流環境を拡散環境から制限している境界層と考えてよい。
【0028】
(1)結合基構造
内側の細孔系の表面に結合している結合基は、クロマトグラフィーにおいて結合基として一般的に用いられるあらゆる周知の基、またはそれらの組み合わせ、例えば親和性基、疎水性相互作用基、イオン交換基、例えば負に荷電した陽イオン交換基もしくは正に荷電した陰イオン交換基等であることができる。従って、本文脈において、“結合(binding)”という用語はあらゆる種類の吸着または結合(coupling)を指す。従って、本方法の1態様において、その結合する基はイオン交換基である。特定の態様において、その陰イオン交換体はジエチルアミン(ANX)またはエチレンジアミン(EDA)である。
【0029】
本出願に関する最も明らかな結合基構造は、正に荷電した基(陰イオン交換基)を含む。陰イオン交換基は原則的にあらゆる負に荷電した種に結合する。従って、これらの種類の結合基構造は本発明においてゲノムDNAからあらゆる負に荷電した種を分離するために用いることができる。唯一の要求は、見かけ上の分子サイズにおける違いが十分に大きくあるべきであることである。1つの、および同じマトリックスが2種類以上の異なる結合基、例えば陰イオン交換結合基を含んでいてよい。
【0030】
好ましい陰イオン交換結合基は、結合すべき物質との混合方式での相互作用を提供し、および/または穏やかなアルカリ性のpH値におけるpHスイッチ(pHの増大)による脱電荷(decharging)を可能にする。その脱電荷の能力は、その陰イオン交換結合基が第一級、第二級および第三級アンモニウム基を、好ましくは10.5以下、または10.0以下のpKaを有する第一級、第二級および第三級アンモニウム基を、すなわち、典型的な第一級または第二級アンモニウム基を含むことを意味する。最も好ましいと考えられる変形において、本質的に全ての陰イオン交換基はこの基準に従うべきである。
【0031】
“その陰イオン交換結合基は、結合すべき物質との混合方式での相互作用を提供する”という用語は、結合すべき物質と相互作用する、少なくとも2種類の異なるが協同的な部位を提供することができる結合基を指す。これらの部位の一方は、結合基および目的の物質の間の誘引型の電荷−電荷相互作用をもたらす。第2の部位は、典型的には水素結合を含む電子供与体−受容体相互作用をもたらす。
【0032】
電子供与体−受容体相互作用は、フリーの電子対を有する電気陰性の原子が供与体として働き、供与体の電子対の受容体として働く電子不足の原子に結合することを意味する。Karger et al., An Introduction into Separation Science, John Wiley & Sons (1973)の42ページを参照。
【0033】
(2)マトリックスの内側部分
マトリックスのこの部分は、典型的には親和性吸着、例えばクロマトグラフィーの内部で一般的に利用されているものと同じタイプのものである。その内側部分はマクロ細孔およびミクロ細孔の両方を含んでいてよい。
【0034】
その内側部分は好ましくは親水性であり、水中で不溶性であり多少膨潤可能であるポリマーの形である。親水性ポリマー類は典型的には極性基、例えばヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、エステル、低級アルキル類のエーテル(例えば(−CHCHO−)H、(−CHCH(CH)O−)H、ならびにエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの共重合体である基を有する(例えばPLURONICS(商標))(nは0より大きい整数、例えば1、2、3〜100である)。誘導体化されて親水性になった疎水性ポリマー類もこの定義に含まれる。適切なポリマー類は、ポリヒドロキシポリマー類、例えば多糖類、例えばアガロース、デキストラン、セルロース、デンプン、プルラン等に基づくもの、ならびに完全に合成によるポリマー類、例えばポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸アミド、ポリ(ヒドロキシアルキルビニルエステル)類、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)類、およびポリメタクリレート類(例えばポリグリシジルメタクリレート)、ポリビニルアルコール類、ならびにスチレン類およびジビニルベンゼン類に基づくポリマー類、ならびに上記のポリマー類に対応するモノマーの2種類以上が含まれるコポリマー類である。水溶性であるポリマー類は、例えばクロスリンクにより、および吸着または共有結合による不溶性マトリックスへのカップリングにより、誘導体化して不溶性にすることができる。親水性の基を疎水性ポリマー上に(例えばモノビニルおよびジビニルベンゼン類のコポリマー上に)、OHに変換することができる基を示すモノマーの重合により、または最終的なポリマーの親水化(hydrophilization)により、例えば適切な化合物、例えば親水性ポリマー類の吸着により導入することができる。
【0035】
その内側部分は無機材料、例えばシリカ、酸化ジルコニウム、黒鉛、酸化タンタル等に基づくものであることもできる。その内側部分は、好ましくは加水分解的に不安定な基、例えばシラン、エステル、アミド基およびシリカ自体の中に存在する基を持たない。本発明の特に興味深い態様において、その内側部分は、1〜1000μm、好ましくは5〜1000μmの範囲の大きさを有する不揃いな、または球状のビーズの形である。その内側部分は多孔性のモノリスの形であってもよい。
【0036】
その結合基構造は、その内側部分の中に、当技術で既知の方法により導入される。必要とされる結合基構造に関する置換の程度(結合基構造の密度)は、結合基のタイプ、マトリックスの種類、結合すべき化合物等に依存するであろう。通常、それは0.001〜4mmol/mlマトリックス、例えば0.01〜1mmolの区間において選択される。アガロースに基づくマトリックスに関して、その密度は通常0.1〜0.3mmol/mlマトリックスの範囲内である。デキストランに基づくマトリックスに関して、その区間は0.5〜0.6mmol/mlマトリックスまで上方に拡張されてよい。
【0037】
前の段落で与えられた範囲は、そのマトリックスが完全にプロトン化された形で塩化物イオンを結合する能力を表す。“mlマトリックス”は、水で飽和したマトリックスを指す。その外側表面層は、これらの範囲の計算においてそのマトリックスに含まれる。
【0038】
(3)外側表面層
外側表面層(シード(shied)、ロック)は、液体試料により浸透可能でなければならない。水性の液体に関して、これはその外側表面層が親水性ポリマーで構築されているべきであることを意味する。
【0039】
外側表面層の作製に関して、異なる方法論が存在する。その方法の1つは、むき出しの形の多孔性粒子の表面、またはマクロ細孔およびミクロ細孔の両方を有する粒子の、もしくはモノリスのマクロ細孔の表面を親水性ポリマーでコートすることを含む。その親水性ポリマーの見かけ上の分子サイズは、内部の一部であることを意図されている細孔に著しく浸透することができないように選択されるべきである。好ましくは、その親水性ポリマーは上記で論じられた親水性の基を含み、例えばそれはポリヒドロキシポリマー、例えば可溶性の形の多糖類(デキストラン、アガロース、デンプン、セルロース等)である。その結合基構造は内側部分の上に、外側表面層の形成の前または後のどちらかに導入されてよい。この方法で生成される外側表面層の様々な物質に関する浸透性は、コーティングに用いられる溶液中のポリマーの濃度および大きさにより制御されるであろう。コーティングの後に、外側表面層をその層の内部での、および内側部分へのクロスリンクにより安定化してよい。この方法論は、WO 1998/039094 (Amersham Pharmacia Biotech AB)において詳細に記述されている。
【0040】
本発明において用いられるロックの媒体は、その液体よりも高い、または低い密度を有する粒子/ビーズの形であってよい(例えばマトリックス粒子あたり1種類以上の密度を制御する粒子を導入することによる)。この種類のマトリックスは、流動または拡張床クロマトグラフィーのための大規模操作、および充填されていないカラムにおける異なるバッチ式でのクロマトグラフィーの技法、例えば攪拌タンク中での単純なバッチ吸着において特に適用可能である。この種類の技法はWO 1992/018237 (Amersham Pharmacia Biotech AB)およびWO 1992/000799 (Kem−En−Tek/Upfront Chromatography)において記述されており、用いられる粒子の上にロックを導入することにより本発明の概念に容易に適用することができる。
【0041】
他の考慮すべき事柄
本発明のプロセスを動かすための条件は、原則的に一般的に行われる吸着技法、例えば陰イオン交換クロマトグラフィーに関するものと同じである。分離マトリックスの独特の構造のため、より小さい核酸分子(例えばRNA)およびタンパク質はそのマトリックスの内側部分に入るが、ゲノムDNAは入らない。ゲノムDNAは液相中に容易に集められる。好ましい方法において、分離マトリックスは充填床カラムの形であり、ゲノムDNAはすぐにカラムを出て素通り画分中に集められる。この方法はゲノムDNAの細胞性混入物からの分離および単離のための最も簡単なプロセスを提供する。そのプロセスは、完了するのに少なくとも30〜40分間かかる他の利用可能な方法と比較して、5〜10分間しかかからない。
【0042】
ゲノムDNAの細胞性混入物からの分離および精製に加えて、このプロセスは他の方法により精製されたゲノムDNAの中に存在する、RNAおよび他の不純物を含む不純物を除去するために用いることもできる。これは仕上げ(polishing)工程と呼ばれることもある。ここで、ゲノムDNAに関して脱塩も同時に成し遂げられる。
【0043】
本明細書で示した精製プロセスは最も簡単なゲノムDNA精製プロセスであるため、これを自動化の開発において探求することもできる。
結合基構造を注意深く選択することにより、マトリックスの内側部分と結合する特定の構成要素を溶離することができる。マトリックスからの脱着は、マトリックスと接触する液体のイオン強度を望まれる構成要素(単数または複数)が溶離されるまで増大させることにより成し遂げられる。特に、結合基構造が第一級、第二級または第三級アミン基のプロトン化された形である、および/または望まれる構成要素が核酸(例えばRNA)である場合、脱着は好ましくはpHを増大させることにより援助される。脱着のための代替法は、可溶性の結合基アナログ、すなわち望まれる構成要素への結合に関して結合基構造と競合することができる構造アナログを液体中に含ませることである。液体中の構造破壊化合物の存在は脱着を援助する可能性もある。これは特に、結合基構造が結合基構造の荷電した第一級、第二級または第三級窒素から2または3原子の距離の炭素原子において1個以上のヒドロキシル基またはアミノ基を含む場合に当てはめることができる。周知の構造破壊剤はグアニジンおよび尿素である。WO 1997/029825 (Amersham Pharmacia Biotech AB)も参照。従って、ある試料からのゲノムDNAおよび他の構成要素、例えばRNAまたはタンパク質の両方の単離のための簡単なプロセスも提供する。
【0044】
上記で示したように、単離されたゲノムDNAおよび他の構成要素は、例えばいわゆる仕上げおよび/または中間精製工程によりさらに精製されてよい。特別な精製/仕上げ工程の必要性は、典型的にはインビボ療法に関するように望まれる物質への純度の要求が高い場合に当てはまる。その追加の工程は、陰イオン交換体、陽イオン交換体、逆相マトリックス、HICマトリックス(疎水性相互作用クロマトグラフィーマトリックス)等への/からの吸着/脱着を含んでいてよい。サイズ排除クロマトグラフィーおよびヒドロキシアパタイト上での吸着/脱着も用いられてよい。
【実施例】
【0045】
実験部分
下記で、本発明は実施例として記述されるであろう。しかし、本実施例は説明の目的でのみ与えられるのであって、添付した特許請求の範囲により定められる本発明を限定するものとして解釈されるべきでは無い。下記および本明細書中の他の箇所で与えられる全ての参考文献を本明細書に援用する。
【0046】
実施例1:ゲノムDNAの精製のためのリッドビーズ樹脂の評価
ゲノムDNAの分離および精製のための簡単かつ効果的な方法を見つけようとして、我々は様々なマトリックスを試験した。それらの内の2種類は、いわゆるリッドビーズである。そのリッドビーズの1つのタイプはジエチルアミン(ANX)と結合しており、一方で他方のタイプはオクチルアミン(Octyl)と結合していた。そのビーズは米国特許第7,208,093号の実施例の節において開示されている方法に従って作られ、その開示をそのまま本明細書に援用する。
【0047】
そのビーズをNAP(商標)−10カラム(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)中に、1×TE緩衝液を用いて1.2cmの床高(bed height)まで充填した。1×TE緩衝液1ml中の20μgのゲノムDNAをそれぞれのカラム上に負荷した。負荷画分および2mlの1×TEでの溶離液を、第1画分として集めた。3mlの1×TEにより第2の溶離を、および2mlの1×TEにより第3の溶離を行った。1M NaClおよび0.5M KCOを含む溶液2mlにより、最後の(第4の)溶離を行った。図1は、ANXマトリックス(レーン1〜4)またはOctylマトリックス(レーン5〜8)を充填したカラムを用いて画分1〜4において集められたゲノムDNAの、対照としての投入したゲノムDNA(レーン9)と比較した電気泳動のゲルの画像を示す。
【0048】
ゲノムDNAはOctylマトリックスには結合しなかった(ゲノムDNAは第1画分にのみ存在している、レーン5参照)。ANXマトリックスの場合では、投入されたDNAの一部が最初に溶離され(レーン1)、残りのDNAは1M NaClおよび0.5M KCOを含む溶液により溶離された(レーン4)。ゲノムDNAがそのマトリックスに非特異的相互作用により結合したのか、またはイオン交換の機構により結合したのかを決定するため、増大する量の塩濃度(100〜500mM)を用いて実験を行った。もしゲノムDNAを非常に高い塩濃度の緩衝液無しで溶離できるのであれば、その結合は非特異的相互作用のみによるものである。実際、我々は200mM未満の塩の緩衝液を用いることによりゲノムDNAのほとんどを溶離することができた。従って、ゲノムDNAはそのマトリックスと非特異的な方式で相互作用しており、マトリックスの内側部分の結合基とは相互作用していない。
【0049】
我々はRNAおよびゲノムDNAの混合物を用いた同様の実験も行った。これらの実験において、DNAはRNAの混入無しに素通り画分中にすぐに分離された。
実施例2:細胞溶解物からのゲノムDNAの簡単な2工程精製
細胞溶解物からのゲノムDNAの精製に関してリッドビーズマトリックスを評価するために実験を行った。
【0050】
ヒトの血液試料を、ILLUSTRA(商標) blood genomicPrep Midi Flow Kit (GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)からの溶解プロトコルを用いて溶解した。5ミリリットルの血液を、まず白血球を単離し、次いで単離された白血球を溶解し、プロテイナーゼKと共に保温することにより処理した(製品の小冊子の16〜17ページを参照、Rev E 08/2007)。
【0051】
カラムを上記の実施例1におけるように1×TE緩衝液中で予め平衡化したOctylを結合させたリッド樹脂を用いて充填した。溶解物の5分の1を1ミリリットルに希釈し、カラム上に負荷した。ボイド容量をエッペンドルフチューブ中に集めた。次いで2.5mlの1×TE緩衝液をカラム上に負荷し、素通り画分を0.5ml画分中に集めた。
【0052】
図2はその集めたものの電気泳動のゲルの画像を示す。レーン1はボイド容量からのものであり、一方レーン2〜6は順に集められた素通り画分からのもの、第1画分〜第5画分からのものであった。レーン7はILLUSTRA(商標) blood genomicPrep Midi Flow Kitを用いて単離された対照のゲノムDNAであった。その結果は、ボイド容量および第1画分はゲノムDNAを全く含んでいなかったことを示している。画分2〜4(すなわちレーン3〜5)は生成物のほとんどを含んでおり、RNA不純物は全く含んでいなかった。物質の純度はILLUSTRA(商標) blood genomicPrep Midi Flow Kitを用いて単離されたゲノムDNA(レーン7)に匹敵する。
【0053】
画分2および3(ゲルのレーン3、4)は、塩は全く含まずに純粋な生成物を含んでいた(表1:UVスペクトルのデータ参照)。純度(UV260/280)は1.76〜1.90の特定範囲内であり、従って精製されたゲノムDNA中にほとんどタンパク質の混入が無かったことを示している。従って、ゲノムDNAは未処理の細胞溶解物から分離され、簡単な負荷/溶離プロセスでうまく単離された。
【0054】
表1:UVスペクトルデータ、1×TEを基準とする
230 260 280
画分2 0.1275 0.2625 0.1495
画分3 0.2547 0.4882 0.2729
画分4 1.6520 0.2087 0.1096
本明細書で言及された全ての特許、特許出願、および他の刊行された参考文献を、あたかもそれぞれを本明細書に個別に、かつ具体的に援用したかのように、本明細書にそのまま援用する。本発明の好ましい説明的な態様が記述されているが、当業者は、説明のためにのみ与えられ限定としてでは無い記述された態様以外により本発明を実行することができることを理解するであろう。本発明は下記の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNAおよび他の構成要素を含む試料溶液からゲノムDNAを精製するための方法であって、次のことを含む方法:
(i)ゲノムDNAおよび他の構成要素を含む前記の試料溶液を提供する;
(ii)前記の試料を分離マトリックスと接触させて前記の他の構成要素を結合させる;ならびに
(iii)精製されたゲノムDNAを含む液相を集める;
ここで、前記の分離マトリックスは次のものを有する物質である:
(a)実質的にゲノムDNAを吸着せず、より容易にその他の構成要素により浸透される外側表面層、ならびに
(b)内側部分、それは
・ゲノムDNAおよび他の構成要素の両方に結合することができる結合基構造を有し、ならびに
・その他の構成要素にとって出入り可能である。
【請求項2】
その試料溶液が澄んだアルカリ溶解物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
その試料溶液がゲノムDNAを含む生体分子の混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
その外側表面層が他の構成要素により浸透可能であるがゲノムDNAにより浸透可能では無い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
その結合基構造が正に荷電した基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
その正に荷電した基が第一級、第二級および第三級アンモニウム基からなるグループから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
その正に荷電した基が混合方式での陰イオン交換体である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
その外側表面層が本質的に結合基構造を持たない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
その分離マトリックスが充填されたクロマトグラフィーカラムの形であり、その集められる液相がカラムからの素通り画分である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−500651(P2012−500651A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525107(P2011−525107)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/054557
【国際公開番号】WO2010/027696
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【住所又は居所原語表記】800 Centennial Avenue, P.O.Box 1327,Piscataway,New Jersey 08855−1327,United States of America
【Fターム(参考)】