説明

ゲラニル誘導体

【課題】 レモン様のフレッシュな香気を有し、酸性条件下でも安定な香料または香料の合成中間体として有用なゲラニル誘導体を提供すること。
【解決手段】 下記式(4)
【化1】


[式中、XはCOORまたはCNを示し、RおよびRは、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはハロゲン原子を示し、Rは直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜6のアルキル基またはベンジル基を示し、波線はシス形もしくはトランス形またはシス形とトランス形の混合物を示す]
で表されるゲラニル誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香料または香料の合成中間体として有用なゲラニル誘導体よびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトラールはレモン油、レモングラス油等に含まれ、例えば、柑橘系フレーバー、特にレモンフレーバー中の主要香気成分であり、レモン様のフレッシュな香気を付与するために重要な香気成分である。しかしながら、シトラールは不安定で、酸性条件下で酸触媒反応により環化または酸化反応を起こし、分解する。それに伴い、レモン様のフレッシュ感が消失するとともに、環化および酸化生成物がオフフレーバーとなり、フレーバーとしての寿命が短くなることが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
シトラールの安定性を改善するため、シトラールに安定化剤を添加する方法、例えば、カリン等の抽出物を添加する方法(特許文献1参照)、茶ポリフェノールを添加する方法(特許文献2参照)、抗酸化成分と遷移金属イオンを添加する方法(特許文献3参照)などが提案されている。しかしながら、安定化剤を添加する方法は効果が十分でなかったり、安定化剤の風味が悪影響を及ぼすなどの欠点がある。
【0004】
また、シトラールを徐放するシトラールジメチルアセタール及びシトラールジエチルアセタール(特許文献4参照)、シトラールペンチルグリセリルエーテルアセタール(特許文献5参照)なども提案されているが、シトラール特有のレモン様香気を再現することができず問題がある。
【0005】
さらに、他方、特許文献6には、シトラールをシクロプロパン化することにより、安定性が高く、シトラールの代替物として有用な下記式(a)、(b)および(c)で表されるシトラール誘導体を製造することが開示されている。
【0006】
【化1】

【非特許文献1】Perfume & Flavorist,Vol.19,July/August,pp.23−32(1994)
【特許文献1】特開2002−180081号公報
【特許文献2】特開2003−96486号公報
【特許文献3】特開2004−123788号公報
【特許文献4】特表平11−513742号公報
【特許文献5】特開2002−234887号公報
【特許文献6】PCT国際公開第03/053901号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、レモン様の香気を有し、酸性条件下でも安定な香料または香料の合成中間体として有用な新規なゲラニル誘導体およびその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の目的は、また、上記のゲラニル誘導体から好収率、高純度でシトラール誘導体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献6に記載されているシトラール誘導体の製造方法について鋭意研究を行った結果、今回、下記反応式Aに示す方法により、シトラール誘導体を好収率、高純度で製造することができることを見いだした。
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、XはCOORまたはCNを示し、RおよびRは、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはハロゲン原子を示し、Rは直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜6のアルキル基またはベンジル基を示し、波線はシス形もしくはトランス形またはシス形とトランス形の混合物を示す]
さらに、本発明者らは、上記反応式A中の式(4)及び式(5)で表される化合物がレモン様のフレッシュな香気を有し、酸性条件下でも安定性に優れており、香料として有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。なお、式(4)の化合物は従来文献未記載の新規化合物である。他方、式(5)の化合物は既知化合物であるが、その香気特性についてはこれまで報告されていない。
【0012】
かくして、本発明は、下記式(4)
【0013】
【化3】

【0014】
[式中、XはCOORまたはCNを示し、RおよびRは、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはハロゲン原子を示し、Rは直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜6のアルキル基またはベンジル基を示し、波線はシス形もしくはトランス形またはシス形とトランス形の混合物を示す]
で表されるゲラニル誘導体を提供するものである。
【0015】
本発明は、また、下記式(3)
【0016】
【化4】

【0017】
[式中、Xおよび波線は前記と同義である]
で表される化合物をシクロプロパン化することを特徴とする下記式(4)
【0018】
【化5】

【0019】
[式中、X、R、Rおよび波線は前記と同義である]
で表されるゲラニル誘導体の製造方法提供するものである。
【0020】
本発明は、また、上記式(4)で表される化合物を有効成分として含有する香料組成物を提供するものである。
【0021】
本発明は、さらに、上記式(4)で表されるゲラニル誘導体を還元することを特徴とする下記式(1)
【0022】
【化6】

【0023】
[式中、R、Rおよび波線は前記と同義である]
で表されるシトラール誘導体の製造方法を提供するものである。
【0024】
本発明は、さらに、上記式(4)のゲラニル誘導体を還元し、得られる下記式(5)
【0025】
【化7】

【0026】
[式中、R、Rおよび波線は前記と同義である]
で表される化合物を酸化することを特徴とする前記式(1)で表されるシトラール誘導体の製造方法を提供するものである。
【0027】
本発明は、さらにまた、上記式(5)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、レモン様のフレッシュな香気を有し、酸性条件下でも安定性に優れた、それ自体香料として有用な新規なゲラニル誘導体及び該化合物を好収率、高純度で製造することができる方法を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、上記化合物からシトラール誘導体を好収率、高純度で製造することができる方法を提供することができる。
【0030】
以下、前記反応式Aの各反応工程についてさらに詳細に説明する。
【0031】
工程(A)
式(4)のゲラニル誘導体は、工程(A)に従い、式(3)の化合物をシクロプロパン化することにより容易に製造することができる。出発物質である式(3)の化合物は、それ自体既知の化合物であり、例えば、シトラールの酸化を経由する方法又は5−メチル−2−ヘプテノンとブロモ酢酸エステルとのReformatsky反応により容易に得ることができ、また、市販品としても入手することができる。該シクロプロパン化は、式(3)の化合物をシクロプロパン化剤で処理することにより行うことができる。シクロプロパン化剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ジエチル亜鉛/ジヨードメタン、クロロホルム/水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。該シクロプロパン化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、反応条件等に応じて適宜変えることができるが、一般には、式(3)の化合物1モルに対して約0.5〜約10モル、特に約1.5〜約5モルの範囲内とすることができる。反応は、通常、有機溶媒の存在下または不存在下、好ましくは有機溶媒の存在下に、約0℃〜約100℃の温度で、10分〜24時間程度撹拌しながら行うことができる。ここで使用しうる有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、ジエチルエーテル、ヘキサン等が挙げられ、その使用量は、式(3)の化合物に対して重量で、通常、1〜30倍量とすることができる。生成する式(4)の化合物は、反応終了後、所望により、例えば、蒸留等により精製することができるが、粗製のものをそのまま次の工程で使用することもできる。
【0032】
式(4)の化合物の具体例としては、例えば、メチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、エチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、プロピル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、ブチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、ペンチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、シクロペンチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、ヘキシル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、シクロヘキシル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、ベンジル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、メチル 5−(2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、メチル 5−(2,2−ジクロロ−3,3−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート、5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテンニトリル、5−(2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテンニトリル、5−(2,2−ジクロロ−3,3−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテンニトリルなどが挙げられる。
【0033】
工程(A)で得られる式(4)の化合物は、レモン様のフレッシュな香気を有し、酸性条件下でも安定性に優れており、香料組成物に式(4)の化合物を特定の割合で配合することにより、レモン様のフレッシュな香気を付与することができる。
【0034】
かくして、本発明によれば、式(4)の化合物を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供することができる。式(4)の化合物を香料組成物に用いる場合、その添加量は、添加の目的や香料組成物の種類などによって異なるが、通常、香料組成物全体量の0.001〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%の範囲内を例示することができる。
【0035】
また、本発明によれば、式(4)の化合物を有効成分として含有する香料組成物を利用して、式(4)の化合物を香気香味成分として含有する飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類等を提供することができる。
【0036】
例えば、炭酸飲料、果汁飲料、果実酒飲料類、乳飲料などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、パン類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコなどの嗜好品類;和風スープ類、洋風スープ類などのスープ類;ハム、ソーセージなどの畜肉加工品;風味調味料、各種インスタント飲料乃至食品類、各種のスナック類などに、式(4)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気香味が賦与された飲食品類を提供することができる。また、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤などに、式(4)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気が賦与された化粧品類を提供することができる。さらにまた、式(4)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭洗剤類、その他各種の保健・衛生用洗剤類;歯磨き、ティシュー、トイレトペーパーなどに配合することにより、そのユニークな香気が賦与された各種保健・衛生材料類;医薬品類などを提供することができる。
【0037】
工程(B)
工程(A)で得られる式(4)の化合物は、反応式Aにおける工程(B)に従い、還元することによって式(1)のシトラール誘導体を容易に得ることができる。したがって、式(4)の化合物は、それ自体香料として有用であるのみならず、香料として既知の式(1)のシトラール誘導体の合成中間体としても有用である。式(4)の化合物を還元するために使用される還元剤としては、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化リチウムアルミニウムなどの錯金属水素化物を挙げることができる。該還元剤の使用量は特に制限されるものではなく、反応条件等に応じて適宜変えることができるが、一般には、式(4)の化合物1モルに対して約1.2〜約5モル、特に約1.5〜約3モルの範囲内とすることができる。反応は、通常、有機溶媒の存在下または不存在下、好ましくは有機溶媒の存在下に、約−78℃〜約60℃の温度で、10分〜6時間程度撹拌しながら行うことができる。ここで使用しうる有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、その使用量は、式(4)の化合物に対して重量で、通常、1〜30倍量とすることができる。式(4)の化合物の還元は、また、接触水添反応によって行うこともできる。反応の進行は水素の吸収量および/またはガスクロマトグラフ分析による生成物の確認によって追跡することができ、水素の吸収量が式(4)の化合物1モルあたりほぼ1モルに達した時点で反応を停止することにより式(1)のシトラール誘導体を得ることができる。
【0038】
なお、Rおよび/またはRがハロゲン原子である場合の式(4)の化合物を出発物質として用いた場合には、該ハロゲン原子が水素原子に置換され、Rおよび/またはRが水素原子である場合の対応する式(1)のシトラール誘導体を得ることもできる。
【0039】
式(4)の化合物の接触水添反応は、接触還元触媒の存在下かつ有機溶媒の存在下または不存在下に、水素を通気することにより行うことができる。該接触還元触媒としては、一般の接触還元に使用されるものが同様に使用可能であり、例えば、パラジウム/カーボン、ルテニウム/カーボン、銅−クロムなどが挙げられる。これらの触媒の使用量は、式(4)の化合物100重量部に対して通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の範囲内とすることができる。また、水素は通常0.1〜10MPa、特に0.5〜5MPaの分圧で使用することができる。さらに、反応は塩基性物質、例えば、ソーダ灰、炭酸水素ナトリウムなどを式(4)の化合物100重量部に対して0.01〜10重量部程度添加して行ってもよい。使用しうる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。生成する式(1)の化合物は、反応終了後、所望により、例えば、蒸留等により精製することができるが、粗製のものをそのまま香料として使用することもできる。
【0040】
式(1)のシトラール誘導体の具体例としては、例えば、5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテナール、5−(2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテナール、5−(2,2−ジクロロ−3,3−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテナールなどが挙げられる。
【0041】
工程(C)
反応式Aにおける工程(C)は、式(4)の化合物から式(1)のシトラール誘導体を製造するための別のルートの前段であり、本工程は、上記工程(A)で得られる式(4)の化合物を還元して式(5)の化合物を製造することからなる。 式(4)の化合物を還元するために使用される還元剤としては、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化リチウムアルミニウムなどの錯金属水素化物を挙げることができる。該還元剤の使用量は特に制限されるものではなく、反応条件等に応じて適宜変えることができるが、一般には、式(4)の化合物1モルに対して約0.5〜約1.5モル、特に約0.8〜約1.1モルの範囲内とすることができる。反応は、通常、有機溶媒の存在下または不存在下、好ましくは有機溶媒の存在下に、約−78℃〜約60℃の温度で、10分〜24時間程度撹拌しながら行うことができる。ここで使用しうる有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、その使用量は、式(4)の化合物に対して重量で、通常、1〜30倍量とすることができる。式(4)の化合物の還元は、また、接触水添反応によって行うこともできる。反応の進行は水素の吸収量および/またはガスクロマトグラフ分析による生成物の確認によって追跡することができ、水素の吸収量が式(4)の化合物1モルあたりほぼ2モルに達した時点で反応を停止することにより式(5)の化合物を得ることができる。
【0042】
なお、Rおよび/またはRがハロゲン原子である場合の式(4)の化合物を出発物質として用いた場合には、該ハロゲン原子が水素原子に置換され、Rおよび/またはRが水素原子である場合の対応する式(5)の化合物を得ることもできる。
【0043】
式(5)の化合物の接触水添は、前述した式(4)の化合物の接触水添による式(1)のシトラール誘導体の合成の場合と同様にして行うことができる。生成する式(5)の化合物は、反応終了後、所望により、例えば、蒸留等により精製することができるが、粗製のものをそのまま次の工程で使用することもできる。
【0044】
式(5)の化合物の具体例としては、例えば、5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノール、5−(2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノール、5−(2,2−ジクロロ−3,3−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノールなどが挙げられる。
【0045】
かくして得られる式(5)の化合物は、それ自体既知の化合物であるが、今回、この化合物がレモン様のフレッシュな香気を有し、酸性条件下でも安定性に優れており、香料組成物に式(5)の化合物を特定の割合で配合することにより、レモン様のフレッシュな香気を付与することができることが判明した。
【0046】
かくして、本発明によれば、式(5)の化合物を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供することができる。式(5)の化合物を香料組成物に用いる場合、その添加量は、添加の目的や香料組成物の種類などによっても異なるが、通常、香料組成物全体量の0.001〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%の範囲内を例示することができる。
【0047】
また、本発明によれば、式(5)の化合物を有効成分として含有する香料組成物を利用して、式(5)の化合物を香気香味成分として含有する飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類等を提供することができる。
【0048】
例えば、炭酸飲料、果汁飲料、果実酒飲料類、乳飲料などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、パン類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコなどの嗜好品類;和風スープ類、洋風スープ類などのスープ類;ハム、ソーセージなどの畜肉加工品;風味調味料、各種インスタント飲料乃至食品類、各種のスナック類などに、式(5)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気香味が賦与された飲食品類を提供することができる。また、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤などに、式(5)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気が賦与された化粧品類を提供することができる。さらにまた、式(5)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量が配合を洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭洗剤類、その他各種の保健・衛生用洗剤類;歯磨き、ティシュー、トイレトペーパーなどに配合することにより、そのユニークな香気が賦与された各種保健・衛生材料類;医薬品類などを提供することができる。
【0049】
工程(D)
工程(C)で得られる式(5)の化合物は、反応式Aにおける工程(D)に従い、酸化することにより式(1)のシトラール誘導体に導くことができる。式(5)の化合物の酸化のために使用され酸化剤としては、例えば、二酸化マンガン、クロロクロム酸ピリジニウムなどを挙げることができる。該酸化剤の使用量は特に制限されるものではなく、反応条件等に応じて適宜変えることができるが、一般には、式(5)の化合物1モルに対して約0.5〜約20モル、特に約2〜約10モルの範囲内とすることができる。反応は、通常、有機溶媒の存在下または不存在下、好ましくは有機溶媒の存在下に、約0℃〜約100℃の温度で、10分〜100時間程度撹拌しながら行うことができる。ここで使用しうる有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル等が挙げられ、その使用量は、式(5)の化合物に対して重量で、通常、1〜30倍量とすることができる。生成する式(1)の化合物は、反応終了後、所望により、例えば、蒸留等により精製することができるが、粗製のものをそのまま香料として使用することもできる。
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0051】
実施例1:ゲラン酸エステル誘導体(XがCOORを示す場合の式(4)の化合物)の合成
1000mlフラスコにゲラン酸メチル40g(220mmol)を仕込み、室温攪拌下、ジエチル亜鉛(1.0Mヘキサン溶液)330ml(330mmol)を加えた。内温40℃以下を保ちながら、100分間かけてジヨードメタン94.2g(352mmol)を滴下した。1時間後、ガスクロマトグラフィー(GLC)により原料の残存が確認されたので、内温60℃以下に保ちながら、20分間かけてジヨードメタン94.2g(352mmol)をさらに滴下した。3時間後、GLCにより原料の消失が確認されたので、氷冷し、水、エーテルを加え30分間攪拌した。生成する塩をセライトろ過後、ろ液の油層と水層を分離し、水層をエーテルを用いて2回抽出した。油層をあわせ10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣(81g)を減圧下蒸留(〜64℃/0.27kPa)し、淡黄色油状のメチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート(以下、化合物(4−1)という)43.3g(220mmol,収率:100%,純度:93%)を得た。
化合物(4−1)の物性
シス:トランス=3:7
沸点:64℃/0.27kPa
NMR:5.64−5.61(m,1H);3.64(s,2.1H);3.62(s,0.9H);2.74−2.57(m,0.6H);2.19−2.12(m,4.5H);1.85(s,0.9H);1.48−1.37(m,2H);1.08−0.96(m,6H);0.43−0.32(m,2H)
IR:C=O;1722cm−1、C=C;1650cm−1
【0052】
実施例2:ゲラノニトリル誘導体(Xがニトリルを示す場合の式(4)の化合物)の合成
1000mlフラスコにゲラノニトリル15g(101mmol)を仕込み、室温攪拌下、ジエチル亜鉛(1.0Mヘキサン溶液)152ml(152mmol)を加えた。内温40℃以下を保ちながら、70分間かけてジヨードメタン43.4g(162mmol)を滴下した。1時間後、GLCにより原料の残存が確認されたので、内温60℃以下に保ちながら、10分間かけてジヨードメタン43.4g(162mmol)をさらに滴下した。4時間後、GLCにより原料の消失が確認されたので、氷冷し、水、エーテルを加え30分間攪拌した。生成する塩をセライトろ過後、ろ液の油層と水層を分離し、水層をエーテルを用いて2回抽出した。油層をあわせ10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣(27g)を減圧下蒸留(〜60℃/0.27kPa)し、淡黄色油状の5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテンニトリル(以下、化合物(4−2)という)16.0g(98mmol,収率:97%,純度:94%)を得た。
化合物(4−2)の物性
シス:トランス=5:5
沸点:60℃/0.27kPa
NMR:5.12−5.11(m,1H);2.50−2.47(m,1H);2.25−2.21(m,2H);2.07(d,1.5H);1.92(d,1.5H);1.87−1.81(m,2H);1.07−1.02(m,6H);0.52−0.38(m,2H)
IR:C≡N;2218cm−1、C=C;1631cm−1
【0053】
実施例3:式(5)の化合物の合成
2000mlフラスコに実施例1で得られたメチル 5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノエート(化合物(4−1))38g(194mmol)およびジクロルメタン608gを仕込み、−78℃攪拌下、水素化ジイソブチルアルミニウム(1.0Mトルエン溶液)397ml(397mmol)を50分間かけて滴下した。1時間後、薄層クロマトグラフィー(TLC)により原料消失が確認されたので、水50mlを加え室温まで昇温し終夜攪拌した。生成する塩をセライトろ過後、ろ液を減圧下濃縮し溶媒を留去した。残渣(38.4g)を減圧下蒸留(〜65℃/0.27kPa)し、無色油状の5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノール(以下、化合物(5−1)という)27.6g(164mmol,収率:85%,純度:87%)を得た。
【0054】
実施例4:シトラール誘導体(式(1)の化合物)の合成
500mlフラスコに実施例3で得られた5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテノール(化合物(5−1))25g(149mmol)およびジクロルメタン250gを仕込み、室温攪拌下、二酸化マンガン38.8g(446mmol)を加えた。41時間後、GLCにより原料の残存が確認されたので、二酸化マンガン38.8g(446mmol)をさらに加えた。15時間後、GLCにより原料の消失が確認されたので、二酸化マンガンをセライトろ過後、ろ液を減圧下濃縮し溶媒を留去した。残渣(24.5g)を減圧下蒸留(〜58℃/0.27kPa)し、淡黄色油状の5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテナール21.8g(純度:93%)を得た。不純物を除去するためシリカゲルカラムクロマト精製し、H/E=4/1の流分により淡黄色油状の5−(2,2−ジメチルシクロプロピル)−3−メチル−2−ペンテナール(以下、化合物(1−1)という)19.1g(115mmol,収率:77%,純度:98%)を得た。
(官能評価)
実施例1〜4で得られた化合物のそれぞれの1%エタノール溶液についてよく訓練された5名のパネラーにより香気評価を行った。5名のパネラーの平均的な香気評価を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例5〜8および比較例1
下記表2に示すレモン様基本調合香料組成物に、上記で製造した化合物およびシトラールを、それぞれ下記表3に示す配合割合で配合し、本発明品1〜4および比較品1のレモンフレーバーを調製した。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
(安定性試験)
上記で得られた本発明品1〜4および比較品1のそれぞれのレモンフレーバーを下記表4に示す清涼飲料基材に各々0.1重量%添加し、殺菌後、遮光で40℃、10日間保存したもの(保存A)および20000ルクスの白色光照射で、100時間保存したもの(保存B)の香味の変化について、よく訓練された10名のパネラーにより下記に示す5段階評価により香味の安定性評価を行った。その結果を表5に示す。なお、それぞれの飲料を冷蔵庫で保存したものをコントロールとした。
5段階評価
5:変化なし
4:ほとんど変化なし
3:やや変化している
2:変化あり
1:大きく変化している
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表5の結果から明らかなように、化合物(4−1)、(4−2)、(5−1)および(1−1)を含有する本発明品1〜4のレモンフレーバーを配合した清涼飲料は、シトラールを含有する比較品1のレモンフレーバーを配合した清涼飲料に比べ、加熱および光照射して保存した場合に優位に安定であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(4)
【化1】

[式中、XはCOORまたはCNを示し、RおよびRは、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはハロゲン原子を示し、Rは直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜6のアルキル基またはベンジル基を示し、波線はシス形もしくはトランス形またはシス形とトランス形の混合物を示す]
で表されるゲラニル誘導体。
【請求項2】
下記式(3)
【化2】

[式中、Xおよび波線は請求項1に記載したと同義である]
で表される化合物をシクロプロパン化することを特徴とする下記式(4)
【化3】

[式中、X、R、Rおよび波線は請求項1に記載したと同義である]
で表されるゲラニル誘導体の製造方法。
【請求項3】
下記式(4)
【化4】

[式中、X、R、R、および波線は請求項1に記載したと同義である]
で表されるゲラニル誘導体を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のゲラニル誘導体を還元することを特徴とする下記式(1)
【化5】

[式中、R、Rおよび波線は請求項1に記載したと同義である]
で表されるシトラール誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のゲラニル誘導体を還元し、得られる下記式(5)
【化6】

[式中、R、Rおよび波線は請求項1に記載したと同義である]
で表される化合物を酸化することを特徴とする下記式(1)
【化7】

[式中、R、Rおよび波線は前記と同義である]
で表されるシトラール誘導体の製造方法。
【請求項6】
下記式(5)
【化8】

[式中、R、Rおよび波線は請求項1に記載したと同義である]
で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。

【公開番号】特開2006−290843(P2006−290843A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117325(P2005−117325)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】