説明

ゲルおよびその製造方法

【課題】従来のダブルネットワークゲルよりもさらに高い強度を有するゲル、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、前記第一の網目構造(A)が、特定の多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有することを特徴とするゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、自重の数百、数千倍の溶媒を保持することができる材料として、従来から高吸水性樹脂、紙おむつや生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シート等に利用されている。また、薬物の徐放性も有し、ドラッグデリバリーシステムや創傷被覆材等の医療材料にも応用されている。また、衝撃吸収材料、制振・防音材料等への利用もされており、その用途は多岐に渡る。
しかしながら、ゲル材料は一般的に強度がなく、微小な応力で構造が破壊されてしまうため、強度が必要とされる用途には不向きであった。近年、従来のゲル材料から強度を大幅に向上させた、様々な新規ゲル材料が提唱されている。
架橋点が主鎖に沿って動くトポロジカルゲル(例えば特許文献1)や、架橋点として親水性クレイを用いたナノコンポジットゲル(例えば特許文献2)、2種類の網目構造が相互に侵入したダブルネットワークゲル(例えば特許文献3)は三大高強度ゲルと称され、注目を浴びている。
【0003】
特許文献1のようなトポロジカルゲルは、引張時の伸長度は極めて高いものの、弾性率や破断強度は充分ではない。また、製造工程が複雑である。特許文献2のようなナノコンポジットゲルにおいては、架橋点であるクレイの適切な選択や添加量の調節によって、伸びと強度のバランスをとることが可能である。しかし、クレイの添加量が増大するにつれ、モノマー溶液の粘度が高くなってハンドリング性が悪くなったり、得られるゲルの透明性が失われたりするなど、用途に制限があった。
これらに比べ、特許文献3のようなダブルネットワークゲルは伸び・強度のバランスがよく、透明度の高いゲルが得られる。また、架橋剤の添加量を増やすことで、より高弾性、高強度のゲルが得られることが知られている。しかし、一度の変形で網目が不可逆的に破壊され、二度目以降の変形では弾性率や応力が低下することがあったため、さらに高強度なゲルが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【特許文献2】特許第3914489号公報
【特許文献3】国際公開第2003/093337号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、従来のダブルネットワークゲルよりもさらに高い強度を有するゲル、およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゲルは、第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、前記第一の網目構造(A)が、下記多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有することを特徴とするゲルである。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【0007】
また、本発明のゲルは、第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、前記第一の網目構造(A)が、下記多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有することを特徴とするゲルである。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【0008】
また、本発明のゲルの製造方法は、(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と、を含む相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、下記多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とする方法である。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【0009】
また、本発明のゲルの製造方法は、(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程と、を含むセミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、下記多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とする方法である。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゲルは、従来のダブルネットワークゲルよりもさらに高い強度を有する。また、本発明の製造方法によれば、従来のダブルネットワークゲルよりもさらに高い強度を有するゲルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ゲル>
ゲルとは、ポリマーで構成された網目構造中に水もしくは有機溶媒を溶媒として取り込んでいるものを意味する。
本発明のゲルに含まれる溶媒の量や種類、混合の有無、混合比率等は、特に限定されず、用いるモノマーや使用環境に合わせて適宜選択することができる。溶媒は、1種の単独溶媒であってもよく、2種以上の混合溶媒であってもよく、水と有機溶媒を同時に用いてもよい。
有機溶媒は、常温で液体状態の有機物であればよく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミン類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、その他、ジメチルスルホキシドやテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、無水酢酸等が挙げられる。これらの中でも、大気圧において沸点と融点の温度差が大きい溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールが好ましい。
【0012】
本発明のゲルとしては、下記の2種類のゲルが挙げられる。
(i)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲル。
(ii)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲル。
【0013】
網目構造とは、不飽和モノマーを重合することにより形成されたポリマー同士を架橋することにより、三次元に張り巡らされた網の目のような構造を意味する。該構造は、直鎖状のポリマーとは異なり、網目内に各種溶媒を保持できる。
不飽和モノマーとは、芳香環上の炭素−炭素不飽和二重結合を除き、1分子中に1個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0014】
相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)および第二の網目構造(B)の2つの網目構造が重なり合い、相互に絡み合っている構造を意味する。
セミ相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)と、架橋点を有さない直鎖状のポリマー(B’)とが別々に存在するのではなく、相互に絡み合っている構造を意味する。
【0015】
(第一の網目構造(A))
第一の網目構造(A)は、第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された網目構造である。
第一のモノマー(a1)は、単官能不飽和モノマーである。単官能不飽和モノマーとは、1分子中に1個の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0016】
第一のモノマー(a1)としては、アニオン性不飽和モノマー(a1−1)を用いることが好ましい。
アニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において負に帯電するモノマーを意味する。第一の網目構造(A)を第二のモノマー(b1)の溶液(以下、「第二のモノマー溶液」という。)に浸漬した際、第一の網目構造(A)においてアニオン性不飽和モノマー(a1−1)に由来する単位の酸性基が解離することで、アニオン同士が反発して第一の網目構造(A)が膨潤挙動を発現し、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入することが容易になる。
【0017】
アニオン性不飽和モノマー(a1−1)としては、例えば、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等)、カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸等)、リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸等)、これらの塩等が挙げられる。これらアニオン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
第1のモノマー(a1)中のアニオン性不飽和モノマー(a1−1)の含有量は、第1のモノマー(a1)100モル%のうち、5モル%以上であることが好ましい。アニオン性不飽和モノマー(a1−1)の含有量が5モル%以上であれば、第一の網目構造(A)の膨潤挙動が発現しやすく、充分な機械強度を有するゲルを得ることが容易になる。
【0019】
また、第1のモノマー(a1)には、アニオン性不飽和モノマー(a1−1)以外に、他の不飽和モノマーが含まれていてもよい。他の不飽和モノマーとしては、ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)やカチオン性不飽和モノマー(a1−3)が挙げられる。
ノニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正負いずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱であるモノマーを意味する。また、カチオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正に帯電するモノマーを意味する。
【0020】
ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)の種類は、溶媒に可溶であれば特に限定されない。
ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)としては、公知のモノマーが挙げられ、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等)、アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル等の水溶性のものや、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、反応性官能基を有する(メタ)アクリレート(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)等の水溶性に乏しいノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。これらノニオン性不飽和モノマー(a1−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)は、機械強度を発現させやすい点から、分子量(質量平均分子量)が1000以下のものが好ましい。中でも、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましい。さらに、特に分子内に水素結合を形成する部位、すなわち水酸基やアミド基を有するモノマー、例えばN−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等を用いることが好ましい。
【0022】
第一のモノマー(a1)中のノニオン性不飽和モノマー(a1−2)の含有量は、第一のモノマー(a1)100モル%のうち、20〜95モル%であることが好ましく、40〜95モル%であることがより好ましく、50〜90モル%であることがさらに好ましく、60〜80モル%であることが特に好ましい。ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)の含有量が20モル%以上であれば、高い機械強度のゲルが得られやすい。また、ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)の含有量が95モル%以下であれば、第二のモノマー溶液に浸漬させた際の第一の網目構造(A)の膨潤挙動が発現しやすい。
【0023】
カチオン性不飽和モノマー(a1−3)としては、例えば、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに代表されるような不飽和4級アンモニウム塩等が挙げられる。
カチオン性不飽和モノマー(a1−3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
第1のモノマー(a1)中のカチオン性不飽和モノマー(a1−3)の含有量は、ゲルの特性を損なわない範囲内であり、第1のモノマー(a1)100モル%のうち、0〜30モル%であることが好ましく、0〜20モル%であることがより好ましく、0〜10モル%であることがさらに好ましく、0〜5モル%であることが特に好ましい。カチオン性不飽和モノマー(a1−3)の含有量が30モル%を超えると、均一な網目構造の形成が困難となり、ゲルの機械物性を損なう場合がある。
【0025】
本発明における第一の網目構造(A)は、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有している。すなわち、本発明の第一の網目構造(A)は、架橋剤として多官能不飽和モノマー(a2)を用いて形成した網目構造である。
多官能不飽和モノマーとは、重合性官能基を2個以上有する不飽和モノマーを意味する。重合性官能基とは、ポリマーに架橋点を形成する官能基であり、(メタ)アクリロイル基やビニル基等が挙げられる。ポリアルキレングリコール構造とは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラメチレンオキシド等のアルキレンオキシドに由来する構成単位(以下、「アルキレンオキシド単位」という。)が繰り返し存在する構造を意味する。
【0026】
多官能不飽和モノマー(a2)は、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマーであり、モノマー1分子中における、全重合性官能基数m(重合性官能基の合計数)と、ポリアルキレングリコール構造のアルキレンオキシド単位の全繰り返し数n(繰り返しの合計数)とが、n>2mの条件を満たすモノマーである。
【0027】
多官能不飽和モノマー(a2)としては、例えば、下記に示すnが5以上の2官能不飽和モノマー(m=2)、nが7以上の3官能不飽和モノマー(m=3)、nが9以上の4官能不飽和モノマー(m=4)等が挙げられる。
nが5以上の2官能不飽和モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
nが7以上の3官能不飽和モノマーとしては、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
nが9以上の4官能不飽和モノマーとしては、例えば、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、n>2mの条件を満たすものであれば、mが5以上(5官能以上)の多官能不飽和モノマーを用いることもできる。多官能不飽和モノマー(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
一般的に、架橋剤として多官能不飽和モノマーを用いる場合、架橋密度を高くする観点から、モノマー分子中の重合性官能基間の距離が短いほど良いとされている。一方で、多官能不飽和モノマー中の重合性官能基の1つが重合反応に寄与した後は、残った重合性官能基の反応性が低下することが知られている。
本発明では、ポリアルキレングリコール構造を有し、全繰り返し数nが全重合性官能基数mの2倍より大きい多官能不飽和モノマー(a2)を用いるため、1つの重合性官能基が重合した後も、残りの重合性官能基の運動が束縛されずに重合反応に寄与しやすくなる。これにより、網目構造の形成に寄与しないポリマー鎖が減り、最終的に得られる(セミ)相互進入網目構造を有するゲルが高強度なものとなる。
【0029】
多官能不飽和モノマー(a2)における全繰り返し数nと全重合性官能基数mの関係は、n>2mであり、100m>n>3mが好ましく、50m>n>3mがより好ましく、20m>n>3mが特に好ましい。全繰り返し数nが全重合性官能基数mの3倍より大きければ、多官能不飽和モノマー(a2)における重合性官能基間が長くなることで、第一の網目構造(A)において、網目を構成する主鎖同士の絡み合い、側鎖と主鎖の絡み合い、側鎖同士の絡み合い等の物理的な絡み合いを抑制し、高い強度のゲルを得ることが容易になる。また、全繰り返し数nが全重合性官能基数mの100倍より小さければ、用いる多官能不飽和モノマー(a2)が常温でワックス状となり難く、ハンドリング性がより良好になる。
【0030】
また、得られるゲルの強度を損なわない範囲であれば、ポリアルキレングリコール構造を持たない他の多官能不飽和モノマーを併用して架橋が形成されていてもよく、前記全繰り返し数nと全重合性官能基数mがn>2mを満たさない多官能不飽和モノマーを併用して架橋が形成されていてもよい。
ポリアルキレングリコール構造を持たない多官能不飽和モノマーとして、例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、モノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
多官能不飽和モノマー(a2)の添加量は、第一のモノマー(a1)の100モル%に対して、0.5〜20モル%が好ましく、2〜15モル%がより好ましく、4〜12モル%が特に好ましい。前記添加量が0.5モル%以上であれば、第一の網目構造(A)を有するゲルの形状を保ちやすく、第二のモノマー(b1)を導入する際の第一の網目構造(A)の取り扱いが容易になる。また、前記添加量が20モル%以下であれば、第一の網目構造(A)が充分に膨潤しやすく、第一の網目構造(A)に第二のモノマー(b1)を充分に吸収させることが容易になる。
【0032】
(第二の網目構造(B))
本発明の相互浸入網目構造を有するゲル(i)は、第二の網目構造(B)を有する。
第二の網目構造(B)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された網目構造である。
第二のモノマー(b1)は、ノニオン性不飽和モノマー(b1−1)を含むモノマーであり、必要に応じて他の不飽和モノマー(b1−2)との混合物を用いることもできる。
【0033】
ノニオン性不飽和モノマー(b1−1)としては、単官能不飽和モノマーで公知のノニオン性不飽和モノマーを用いることができ、ノニオン性不飽和モノマー(a1−2)で挙げたものと同じものが挙げられる。ノニオン性不飽和モノマー(b1−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
第二のモノマー(b1)中のノニオン性不飽和モノマー(b1−1)の含有量は、第二のモノマー(b1)の100モル%のうち、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。ノニオン性不飽和モノマー(b1−1)の含有量が60モル%以上であれば、第二のモノマー(b1)同士の電気的な反発等を抑制しやすく、第一の網目構造(A)中に充分な量の第二のモノマー(b1)を導入することが容易になる。
【0035】
他の不飽和モノマー(b1−2)としては、アニオン性不飽和モノマー、カチオン性不飽和モノマーを用いることができ、アニオン性不飽和モノマー(a1−1)、カチオン性不飽和モノマー(a1−3)で挙げたものと同じモノマーが挙げられる。
【0036】
(ポリマー(B’))
本発明のセミ相互浸入網目構造を有するゲル(ii)は、ポリマー(B’)を有する。
ポリマー(B’)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された架橋点を有さない直鎖状のポリマーである。
第二のモノマー(b1)は、ノニオン性不飽和モノマー(b1−1)を含むモノマーであり、必要に応じて他の不飽和モノマー(b1−2)との混合物を用いることもできる。
ノニオン性不飽和モノマー(b1)、他の不飽和モノマー(b1−2)の種類、含有量は、第二の網目構造(B)と同様である。
【0037】
(ゲル)
本発明の(セミ)相互浸入網目構造を有するゲルにおいては、第一のモノマー(a1)に由来する単位と第二のモノマー(b1)に由来する単位とのモル比((a1)/(b1))は、引張時に良好な伸びと強度を発現する点から、1/2〜1/100であることが好ましく、1/5〜1/80がより好ましく、1/5〜1/50がさらに好ましく、1/6〜1/30が特に好ましい。第二のモノマー(b1)に由来する単位が前記モル比(1/2)より少なくなると、引張時に充分な伸びを発現できない場合がある。第二のモノマー(b1)に由来する単位が前記モル比(1/100)より多くなると、引張時に充分な強度を発現できない場合がある。
【0038】
また、本発明のゲルにおいては、第二の網目構造(B)の架橋度を、第一の網目構造(A)の架橋度よりも小さくすることが好ましい。第二の網目構造(B)の架橋度が第一の網目構造(A)の架橋度以上であると、ゲルの機械特性、特に伸びを損なう場合がある。
第一の網目構造(A)における架橋度とは、第一のモノマー(a1)100モル%に対する多官能不飽和モノマー(a2)の添加量を意味する。また、第二の網目構造(B)における架橋度とは、架橋を後述の方法(α)で行う場合、第二のモノマー(b1)100モル%に対する多官能不飽和モノマー(b2)の添加量を意味する。第二の網目構造(B)の架橋をその他の方法で行う場合は、第二のモノマー(b1)に由来するモノマー単位のうち、架橋に寄与しているモノマー単位の割合を、架橋点が結び付けているポリマー鎖の数で割った値で表せる。架橋点が結び付けているポリマー鎖の数とは、例えば2種のモノマーを反応させて架橋点とする場合には2である。3価に帯電したホウ酸でイオン結合させる場合には3である。
【0039】
本発明のゲルは、引張伸張する場合、50%までの伸長ではヒステリシスが非常に小さいことが特徴的である。
50%までの引張伸張とは、試験片を、該試験片の初期の長さ(100%)に対して150%の長さとなるまで引っ張って伸ばすことを意味する。
ヒステリシスとは、引張試験において応力をかけていくときと応力を解放していくときとで、応力−歪曲線がどれだけ一致するかを示すものであり、ヒステリシスが小さいほど前記曲線が一致する傾向が高く、ヒステリシスがない場合は前記曲線が完全に一致する。
ゲルの引張試験は、一定形状にしたゲルの両末端を掴み、一軸方向へ引っ張り、ゲルが切断されたときの応力、すなわち引張破断応力を測定する試験である。評価方法については後述する。
【0040】
本発明のゲルには、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。
【0041】
<ゲルの製造方法>
本発明のゲルの製造方法としては、下記の2種類の製造方法(I)、(II)が挙げられる。
(I)(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程とを有する、相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
(II)(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程とを有する、セミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
【0042】
(工程(x))
本発明のゲルの製造方法は、工程(x)において、第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として前述の多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とする。
まず、第一のモノマー(a1)、多官能不飽和モノマー(a2)、重合開始剤等を、溶媒に溶かして第一のモノマー溶液を調製する。ついで、第一のモノマー溶液を容器や枠へ流し込み、該溶液に熱または光を当てることにより、第一のモノマー(a1)が重合、架橋されて三次元架橋ポリマーである第一の網目構造(A)が形成される。
【0043】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0044】
架橋方法としては、多官能不飽和モノマー(a2)を利用する方法のみで第一の網目構造(A)を形成することもできるが、多官能不飽和モノマー(a2)を用いる方法と、エポキシ開環による架橋やイオン架橋等を併用してもよい。
【0045】
(工程(y))
本発明の相互浸入網目構造を有するゲル(i)の製造方法(I)は、工程(y)を有する。
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、ポリマーとする。
該ポリマーの架橋は、第二のモノマー(b1)の重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成することにより、相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
【0046】
第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入する方法としては、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を溶解した第二のモノマー溶液中に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、第一の網目構造(A)が溶媒を吸収し、膨潤していく過程で、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に取り込ませる方法が簡便である。
【0047】
重合方法は、工程(x)における重合方法と同じ方法を用いることができる。
なお、第一の網目構造(A)が不透明で充分に光を透過しない場合には、熱重合開始剤によるラジカル重合法が好ましい。また、温度によって挙動の変わる不飽和モノマーを用いる場合には、光重合開始剤による光重合法が好ましい場合もある。
第一のモノマー(a1)の重合方法と、第二のモノマー(b1)の重合方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
工程(y)における架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法等が挙げられる。具体的には、下記の架橋方法が挙げられ、特殊な設備を必要としない、製造工程が複雑にならない、操作が簡便である、第二の網目構造(B)を制御しやすい点から、方法(α)が好ましい。
(α)1分子中に2個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有する多官能不飽和モノマー(b2)を第二のモノマー(b1)とともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によって、第二のモノマー(b1)により形成されたポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)を用いて、イオン結合または配位結合によって架橋する方法。
【0049】
多官能不飽和モノマー(b2)は、前記多官能不飽和モノマー(a2)で挙げたものと同じ多官能不飽和モノマーや、その他の多官能不飽和モノマーを用いることができる。その他の多官能不飽和モノマーとしては、第二の網目構造(B)の架橋を形成できるものであればよく、例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、モノプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(工程(y’))
本発明のセミ相互浸入網目構造を有するゲル(ii)の製造方法(II)では、工程(y’)を有する。
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、ポリマー(B’)とする。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成することにより、セミ相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
第二のモノマー(b1)の導入方法および重合方法は、工程(y)における導入方法および重合方法と同様である。
【0051】
以上説明した本発明のゲルの製造方法にあっては、第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として特定の多官能不飽和モノマーを用いることで、高い強度を有するゲルを製造できる。本発明のゲルは、従来以上の強度が必要とされる、ベアリングや人工関節等の用途への利用が可能となる。また、本発明のゲルは、一定範囲内での伸長では引張による構造破壊がなく、ヒステリシスが非常に小さいために、応力が繰り返し掛かる、クッションや接着基材、人工関節等の用途への利用も可能となる。
また、本発明のゲルの用途によっては、第二のモノマー(b1)からなるポリマーを架橋する必要がないこともある。本発明ではゲルに求められる物性に応じて、相互侵入網目構造と、セミ相互侵入網目構造とを自由に選択できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。なお、以下の記載において、特に断らない限り「部」は「質量部」、「%」は「モル%」を意味する。
(実施例1)
工程(x):
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の100%からなる第一のモノマー(a1)と、第一のモノマー(a1)の100%に対して4%のポリエチレングリコール#400ジアクリレート(A−400、新中村化学工業社製、n=9、m=2)からなる多官能不飽和モノマー(a2)と、第一のモノマー(a1)の100%に対して0.1%の光重合開始剤(チバガイギー社製、DAROCURE1173、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)とを、第一のモノマー(a1)の100部に対して300部の蒸留水に溶かし、第一のモノマー溶液を調製した。
ついで、得られた第一のモノマー溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、該第一のモノマー溶液に、ケミカルランプ(東芝社製、捕虫器用蛍光灯FL20S・BL−A)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
【0053】
工程(y):
アクリルアミドの100%からなる第二のモノマー(b1)と、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.1%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.001%の光重合開始剤(同上)とを、第二のモノマー(b1)の100部に対して200部の蒸留水に溶かし、第二のモノマー溶液を調製した。
窒素バブリングによって第二のモノマー溶液から溶存酸素を除去した後、第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、この状態で2時間以上放置することで、第二のモノマー溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体をガラス板にて挟みこみ、該ゲル前駆体に、ケミカルランプ(同上)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)が形成された相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0054】
(実施例2〜5)
多官能不飽和モノマー(a2)を、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート(A−600、新中村化学工業社製、n=14、m=2)(実施例2)、ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート(A−1000、新中村化学工業社製、n=23、m=2)(実施例3)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−30、新中村化学工業社製、n=30、m=2)(実施例4)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(NKエステル ATM−35E、新中村化学工業社製、n=35、m=4)(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0055】
(実施例6)
工程(x):
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の100%からなる第一のモノマー(a1)と、第一のモノマー(a1)の100%に対して4%のA−600からなる多官能不飽和モノマー(a2)と、第一のモノマー(a1)の100%に対して1%のVA057(2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物)とを、第一のモノマー(a1)の100部に対して300部の蒸留水に溶かし、第一のモノマー溶液を調製した。
得られた第一のモノマー溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、60℃の湯浴に60分間浸し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
【0056】
工程(y):
アクリルアミドの100%からなる第二のモノマー(b1)と、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.1%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.01%のVA057とを、第二のモノマー(b1)の100部に対して200部の蒸留水に溶かし、第二のモノマー溶液を調製した。
窒素バブリングによって第二のモノマー溶液から溶存酸素を除去した後、第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、この状態で一晩放置することで、第二のモノマー水溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体をガラス板にて挟みこみ、周囲をシールした上で、60℃の湯浴に60分間浸し、重合を完結させ、相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0057】
(実施例7)
工程(x):
多官能不飽和モノマー(a2)をA−400に変更し、第一のモノマー(a1)の100部に対して300部のジメチルスルホキシドに溶かした以外は、実施例1と同様の方法により、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
工程(y):
第二のモノマー溶液の調製において蒸留水の代わりに、第二のモノマー(b1)の100部に対して300部のジメチルスルホキシドを用いた以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0058】
(実施例8〜9)
多官能不飽和モノマー(a2)を、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート(APG−400、新中村化学社製、n=7、m=2)(実施例8)、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート(APG−700、新中村化学社製)(実施例9)に変更した以外は、実施例7と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0059】
(実施例10)
多官能不飽和モノマー(a2)を、第一のモノマー(a1)の100%に対して6%のA−600に変更し、第一のモノマー(a1)の100部に対して400部の蒸留水に溶かした以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0060】
(実施例11)
多官能不飽和モノマー(a2)を、第一のモノマー(a1)の100%に対して8%のA−600に変更した以外は、実施例10と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0061】
(実施例12)
多官能不飽和モノマー(a2)を、第一のモノマー(a1)の100%に対して3%のA−600に変更し、架橋剤としてさらに、第一のモノマー(a1)の100%に対して3%のN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いた以外は、実施例10と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0062】
(実施例13)
第一のモノマー(a1)を、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の30%およびN−メチロールアクリルアミドの70%からなる混合物に、多官能不飽和モノマー(a2)を、第一のモノマー(a1)の100%に対して2%のA−600に変更した以外は、実施例10と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0063】
(実施例14)
第二のモノマー溶液の調製にN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いなかった以外は、実施例13と同様の方法によりセミ相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0064】
(比較例1)
多官能不飽和モノマー(a2)の代わりに、第一のモノマー(a1)の100%に対して、4%のN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いた以外は、実施例6と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0065】
多官能不飽和モノマー(a2)の代わりに、第一のモノマー(a1)の100%に対して、4%のポリエチレングリコール#200ジアクリレート(A−200、新中村化学工業社製、n=4、m=2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0066】
(比較例3)
多官能不飽和モノマー(a2)の代わりに、第一のモノマー(a1)の100%に対して4%のN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いた以外は、実施例7と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0067】
(比較例4)
多官能不飽和モノマー(a2)の代わりに、第一のモノマー(a1)の100%に対して6%のN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いた以外は、実施例10と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0068】
(比較例5)
多官能不飽和モノマー(a2)の代わりに、第一のモノマー(a1)の100%に対して2%のN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いた以外は、実施例13と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
実施例1〜14、比較例1〜5において、工程(x)で用いた原料の配合および工程(y)で用いた原料の配合を表1に示す。溶媒以外の原料は「モル%」であり、溶媒は「質量部」である。また、表1中の(i)は相互浸入網目構造を有するゲル、(ii)はセミ相互浸入網目構造を有するゲルを示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1中の略号は、下記の通りである。
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
AAm:アクリルアミド
NMAAm:N−メチロールアクリルアミド
MBAAm:N,N−メチレンビスアクリルアミド
A−200:ポリエチレングリコール#200ジアクリレート
A−400:ポリエチレングリコール#400ジアクリレート
A−600:ポリエチレングリコール#600ジアクリレート
A−1000:ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート
A−BPE−30:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート
ATM−35E:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート
APG−400:ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート
APG−700:ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート
DAR1173:DAROCURE1173
VA057:2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0071】
(評価)
実施例1〜14、比較例1〜5で製造したゲルについて、下記の(1)〜(4)の評価を行った。
(1)第一のモノマー(a1)に由来する単位と第二のモノマー(b1)に由来する単位とのモル比((a1)/(b1)):
得られたゲルを乾燥させ、元素分析によって第一のモノマー(a1)に由来する単位の量と第二のモノマー(b1)に由来する単位の量との比を算出した。
【0072】
(2)膨潤度:
得られたゲルの乾燥前後での質量比から膨潤度を算出した。計算式は、下記の通りである。
(膨潤度)=(乾燥前質量)/(乾燥後質量)×100(%)
【0073】
(3)引張強度:
得られたゲルを3号ダンベル試験片に打抜き、引張試験に供した。引張試験はJIS−K6251に準拠して、試験片の引張破断強度を測定した。チャック間距離は50mm、引張速度は50mm/minとした。
【0074】
(4)50%伸長繰り返し試験:
得られたゲルを3号ダンベル試験片に打抜き、引張試験機に固定した。引張速度50mm/minで引張試験前のチャック間距離の半分に相当する距離まで(元の距離を100%として150%となるまで)引っ張ったところで停止させ、その後引っ張り前の位置(原点)に戻した。原点から再度引張試験を行い、得られる応力−歪曲線が初めの応力−歪曲線と一致したものを「○」、ほぼ一致したものを「△」、一致しなかったものを「×」として評価した。
実施例1〜14および比較例1〜5における(1)〜(4)の評価結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜14で得られたゲルは、高い強度を有していた。また、実施例1〜3、6、および13〜14では、50%伸長繰り返し試験での引張による構造破壊がなく、繰り返しによって応力−歪曲線が変わらなかった。また、実施例14と、N,N−メチレンビスアクリルアミドを併用した実施例12との比較から、架橋剤として多官能不飽和モノマー(a2)のみを使用する方が、50%伸長繰り返し試験においてゲルが構造破壊されにくいことがわかった。
【0077】
一方、比較例1で得られたゲルは、多官能不飽和モノマー(a2)を用いなかったため、実施例6に比べて充分な強度が得られず、50%伸長後は同一の応力挙動を示さなかった。また、比較例2で得られたゲルは、架橋剤がn>2mを満たさない多官能不飽和モノマーであるため、実施例1に比べて充分な強度が得られなかった。比較例3で得られたゲルは、多官能不飽和モノマー(a2)を用いなかったため、実施例7に比べて充分な強度が得られず、50%伸長後は同一の応力挙動を示さなかった。
また、比較例4で得られたゲルは、多官能不飽和モノマー(a2)を用いなかったため、同等の条件の実施例10、11のゲルに比べて充分な強度が得られず、50%伸長後は同一の応力挙動を示さなかった。また、多官能不飽和モノマー(a2)を用いなかったため、同等の濃度の架橋剤を用いた実施例12と比べても、充分な強度が得られず、50%伸長繰り返し試験の評価に劣っていた。
また、比較例5で得られたゲルは、多官能不飽和モノマー(a2)を用いなかったため、同等の条件の実施例13、14のゲルに比べて充分な強度が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のゲルは、透明性、機械的強度に優れ、かつ繰り返し応力が掛かっても弾性率に変化がないことから、各種衝撃吸収・制振材料、人工関節のような生体材料、各種電子部品やOA機器の伸縮部や駆動部、各種中間膜等に利用可能であり、強度設計が容易である観点からも、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一の網目構造(A)が、下記多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有することを特徴とするゲル。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【請求項2】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
前記第一の網目構造(A)が、下記多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有することを特徴とするゲル。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【請求項3】
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と、
を含む相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、下記多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。
【請求項4】
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程と、
を含むセミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、下記多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。
多官能不飽和モノマー(a2):重合性官能基およびポリアルキレングリコール構造を有し、モノマー1分子中の全重合性官能基数mと、ポリアルキレングリコール構造におけるアルキレンオキシド単位の全繰り返し数nとが、n>2mの条件を満たす多官能不飽和モノマー。

【公開番号】特開2010−174063(P2010−174063A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15464(P2009−15464)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】