説明

ゲルおよびその製造方法

【課題】高強度で、劣化し難く、金属に対する腐食性が低く、環境および生体に対する負荷が小さいゲル、およびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】電気的に中性な単官能不飽和モノマーである第一のモノマー(a1)を重合し、特定の多官能不飽和モノマー(a2)により架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲル。また、該ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、自重の数百、数千倍の溶媒を保持することができる材料として、従来から高吸水性樹脂、紙おむつや生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シート等に利用されている。また、薬物の徐放性も有し、ドラッグデリバリーシステムや創傷被覆材等の医療材料にも応用されている。また、衝撃吸収材料、制振・防音材料等への利用もされており、その用途は多岐に渡る。
しかしながら、ゲル材料は一般的に強度が低く、微小な応力で構造が破壊されてしまうため、強度が必要とされる用途には不向きであった。近年、上述のような従来のゲル材料から強度を大幅に向上させた、様々な新規ゲル材料が提唱されている。
【0003】
架橋点が主鎖に沿って動くトポロジカルゲル(例えば特許文献1)、架橋点として親水性クレイを用いたナノコンポジットゲル(例えば特許文献2)、2種類の網目構造が相互に侵入したダブルネットワークゲル(例えば特許文献3)、および均一網目構造のテトラペグゲル(例えば非特許文献1)は四大高強度ゲルと称され、注目を浴びている。
これらのゲルは、従来のゲルに比べて伸びおよび強度の点で共に優れており、様々な応用、産業的利用が期待されている。特にダブルネットワークゲルに関しては、伸びおよび強度のバランスを設計することが自在で、透明性が高い等の点が優れている。また、架橋剤の添加量を増やすことで、より高弾性、高強度のゲルが得られることが知られている。
しかし、これらのゲルを長期間使用すると、ゲルの加水分解による劣化および黄変が生じる。また、これらのゲルは金属に対して腐食性を有している。産業上の利用を考えると、ゲルは強度を高めるだけでなく、長期的に劣化を抑制し、金属に対する腐食性を低減することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【特許文献2】特許第3914489号公報
【特許文献3】特許第4381297号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules,2008,41(14),5379−5384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高強度で、劣化し難く、金属に対する腐食性が低いゲル、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第一の網目構造(A)が、第一のモノマー(a1)と、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を含む架橋剤とにより形成されることを特徴とするゲル。
[2]第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第一の網目構造(A)が、第一のモノマー(a1)と、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を含む架橋剤とにより形成されることを特徴とするゲル。
[3]前記第一のモノマー(a1)の分子量が200以上2000以下である、前記[1]または[2]に記載のゲル。
[4]前記第一のモノマー(a1)が、分子量が200以上2000以下で、かつ下式(1)で表されるモノマーである、前記[1]または[2]に記載のゲル。
【0008】
【化1】

【0009】
(ただし、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を示し、pは整数である。)
[5](x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と、
を含む相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。
[6](x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程と、
を含むセミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゲルは、高強度で、劣化し難く、金属に対する腐食性が低い。
また、本発明のゲルの製造方法によれば、高強度で、劣化し難く、金属に対する腐食性が低いゲルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ゲル>
ゲルとは、ポリマーで構成された網目構造中に水もしくは有機溶媒を溶媒として取り込んでいるゲルを意味する。
本発明のゲルに含まれる溶媒の量や種類、混合の有無、混合比率等は、特に限定されず、用いるモノマーや使用環境に合わせて適宜選択することができる。溶媒は、1種の単独溶媒であってもよく、2種以上の混合溶媒であってもよく、水と有機溶媒を同時に用いてもよい。
有機溶媒は、常温で液体状態の有機物であればよく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミン類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、その他、ジメチルスルホキシドやテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、無水酢酸等が挙げられる。これらの中でも、大気圧において沸点と融点の温度差が大きい溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールが好ましい。これらの溶媒を用いれば、常温で液体として使用でき、ゲルを調製する際に溶媒が揮発してモノマー濃度が上がり、モノマーが析出してしまうようなことも起こりにくい。
【0012】
本発明のゲルとしては、下記の2種類のゲルが挙げられる。
(i)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲル。
(ii)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲル。
【0013】
網目構造とは、不飽和モノマーを重合することにより形成されたポリマー同士を架橋することにより、三次元に張り巡らされた網の目のような構造を意味する。該構造は、直鎖状のポリマーとは異なり、網目内に各種溶媒を保持できる。
不飽和モノマーとは、芳香環上の炭素−炭素不飽和二重結合を除き、1分子中に1個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0014】
相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)および第二の網目構造(B)の2つの網目構造が重なり合い、相互に絡み合っている構造を意味する。セミ相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)と、架橋点を有さない直鎖状のポリマー(B’)とが別々に存在するのではなく、相互に絡み合っている構造を意味する。以下、これらをまとめて「(セミ)相互侵入網目構造」ということがある。
【0015】
(第一の網目構造(A))
第一の網目構造(A)は、第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された網目構造である。第一のモノマー(a1)は、電気的に中性な単官能不飽和モノマーである。
電気的に中性な単官能不飽和モノマーとは、水中において正負いずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱である、単官能不飽和モノマーである。単官能不飽和モノマーとは、1分子中に1個の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0016】
第一のモノマー(a1)としては、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレートエステル化物等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシリエチレングリコールモノメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートエステル化物等)、アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル等の水溶性のモノマーや、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートエステル化物等の水溶性に乏しいモノマーや、反応性官能基を有する(メタ)アクリレート(2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)が挙げられる。
(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0017】
また、第一の網目構造(A)を、第二のモノマー(b1)を含む溶液(以下、「第二のモノマー溶液」という。)に浸漬した際、第一の網目構造(A)において網目が広がりやすく、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入することが容易になる点から、第一のモノマー(a1)の分子量は、200以上が好ましく、300以上がより好ましい。また、分子量は2000以下が好ましく、1500以下がより好ましい。分子量が2000以下のモノマーを使用すれば、第一の網目構造(A)を形成しやすくなる傾向にある。
【0018】
第一のモノマー(a1)としては、分子量が200以上2000以下で、かつ下式(1)で表されるモノマーがさらに好ましく、分子量が300以上1500以下で、かつ下式(1)で表されるモノマーが特に好ましい。前記モノマーを用いれば、第一の網目構造(A)を第二のモノマー溶液に浸漬した際、第一の網目構造(A)において網目が広がりやすく、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入することが容易になるうえ、網目を形成しやすく、透明で高強度なゲルを得ることが容易となる。
【0019】
【化2】

【0020】
ただし、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を示し、pは整数である。
pは、3以上の整数が好ましく、6以上の整数がより好ましい。また、pは、50以下の整数が好ましく、30以下の整数がより好ましい。pが3以上の整数であれば、第一の網目構造(A)の伸張の余裕があり、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入しやすくなる。また、pが50以下の整数であれば、第一の網目構造(A)を形成しやすくなる。
【0021】
前記式(1)で表されるモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートエステル化物等が挙げられる。
また、分子量が200以上2000以下の前記式(1)で表されるモノマーとしては、例えば、商品名「AM−30G」(p=3)、「AM−90G」(p=9)、「AM−230G」(p=23)(以上、新中村化学工業社製)、商品名「ブレンマーAE400」(p=10)(日本油脂社製)等が挙げられる。分子量が300以上の前記式(1)で表されるモノマーとしては、商品名「AM−90G」、「AM−230G」、「ブレンマーAE400」等が挙げられる。
第一のモノマー(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
第一のモノマー(a1)の含有量は、第一の網目構造(A)の形成に用いる全モノマー100質量%のうち、5〜99.9質量%が好ましく、20〜90質量%がより好ましく、50〜75質量%がさらに好ましい。第一のモノマー(a1)の含有量が5質量%以上であれば、電気的に中性で、かつ、ダブルネットワークゲルとしての強度を発現するに充分な量の第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入することが可能なゲルを調製しやすい。また、第一のモノマー(a1)の含有量が99.9質量%以下であれば、ゲルとしての形状を保持しやすい。
【0023】
第一の網目構造(A)は、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)により形成された架橋を有している。すなわち、本発明のゲルの第一の網目構造(A)は、架橋剤として多官能不飽和モノマー(a2)を用いて形成した網目構造である。
多官能不飽和モノマーとは、重合性官能基を2個以上有する不飽和モノマーを意味する。重合性官能基とは、ポリマーに架橋点を形成する官能基であり、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等が挙げられる。ポリアルキレングリコール構造とは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラメチレンオキシド等のアルキレンオキシドに由来する構成単位(以下、「アルキレンオキシド単位」という。)が繰り返し存在する構造を意味する。
【0024】
多官能不飽和モノマー(a2)は、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマーであり、モノマー1分子中における、全重合性官能基数m(重合性官能基の合計数)ごとに、具体的に以下のモノマーを挙げることができる。
【0025】
2官能不飽和モノマー(m=2)としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能不飽和モノマー(m=3)としては、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4官能不飽和モノマー(m=4)としては、例えば、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、mが5以上(5官能以上)の多官能不飽和モノマーを用いることもできる。多官能不飽和モノマー(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
一般的に、架橋剤として多官能不飽和モノマーを用いる場合、架橋密度を高くする観点から、モノマー分子中の重合性官能基間の距離が短いほど良いとされている。一方で、多官能不飽和モノマー中の重合性官能基の1つが重合反応に寄与した後は、残った重合性官能基の反応性が低下することが知られている。
本発明では、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を用いるため、1つの重合性官能基が重合した後も、残りの重合性官能基の運動が束縛されずに重合反応に寄与しやすくなる。これにより、網目構造の形成に寄与しないポリマー鎖が減り、最終的に得られる(セミ)相互侵入網目構造を有するゲルが高強度なものとなる。
【0027】
多官能不飽和モノマー(a2)におけるポリアルキレングリコール構造のアルキレンオキシド単位の全繰り返し数n(繰り返しの合計数)は、2≦n≦50が好ましく、8≦n≦50がより好ましく、8≦n≦30がさらに好ましく、9≦n≦25が特に好ましい。全繰り返し数nが、2以上であれば、多官能不飽和モノマー(a2)における重合性官能基間が長くなることで、第一の網目構造(A)において、網目を構成する主鎖同士の絡み合い、側鎖と主鎖の絡み合い、側鎖同士の絡み合い等の物理的な絡み合いを促し、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に導入可能な状態で形状を維持したゲルを得ることが容易になる。また、全繰り返し数nが50以下であれば、用いる多官能不飽和モノマー(a2)が常温でワックス状となり難く、ハンドリング性がより良好になる。
【0028】
多官能不飽和モノマー(a2)の含有量は、第一の網目構造(A)の形成に用いる全モノマー100質量%に対して、0.1〜95質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましく、25〜50質量%が特に好ましい。多官能不飽和モノマー(a2)の含有量が0.1質量%以上であれば、第一の網目構造(A)を有するゲルの形状を保ちやすく、第二のモノマー(b1)を導入する際の第一の網目構造(A)の取り扱いが容易になる。また、多官能不飽和モノマー(a2)の含有量が95質量%以下であれば、第一の網目構造(A)が膨潤しやすく、第一の網目構造(A)に第二のモノマー(b1)を充分に吸収させることが容易になる。
【0029】
また、第一の網目構造(A)は、得られるゲルの強度を損なわない範囲であれば、ポリアルキレングリコール構造を持たない他の多官能不飽和モノマーにより形成された架橋を含んでもよい。
ポリアルキレングリコール構造を持たない多官能不飽和モノマーとして、例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、モノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
(第二の網目構造(B))
本発明の相互侵入網目構造を有するゲル(i)は、第二の網目構造(B)を有する。
第二の網目構造(B)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された網目構造である。
第二のモノマー(b1)は、公知のモノマーが使用でき、電気的に中性な不飽和モノマー(b1−1)(以下、単に「不飽和モノマー(b1−1)」という。)、アニオン性不飽和モノマー(b1−2)、カチオン性不飽和モノマー(b1−3)を単独で、もしくは組み合わせて用いることができる。
【0031】
不飽和モノマー(b1−1)としては、単官能不飽和モノマーで公知のノニオン性不飽和モノマーを用いることができ、前記した第一のモノマー(a1)で挙げたものと同じものが挙げられる。不飽和モノマー(b1−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
アニオン性不飽和モノマー(b1−2)としては、単官能不飽和モノマーで公知のノニオン性不飽和モノマーを用いることができ、例えば、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等)、カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸等)、リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸等)、これらの塩等が挙げられる。これらアニオン性不飽和モノマー(b1−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
カチオン性モノマー(b1−3)としては、単官能不飽和モノマーで公知のカチオン性不飽和モノマーを用いることができ、例えば、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに代表されるような不飽和4級アンモニウム塩等が挙げられる。カチオン性不飽和モノマー(b1−3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
第二のモノマー(b1)としては、不飽和モノマー(b1−1)が好ましい。
不飽和モノマー(b1−1)の含有量は、第二のモノマー(b1)100質量%のうち、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。不飽和モノマー(b1−1)の含有量が多いほど、調製されるゲルの電荷が弱くなり、ゲルの劣化を抑制しやすく、金属に対する腐食性も小さくなる。また、第二のモノマー(b1)を全て不飽和モノマー(b1−1)とすれば、中性で、長期間劣化がなく、金属に対する腐食性、環境および生体に対する負荷の少ない高強度ゲルの作製がさらに容易になる。
【0035】
また、第二のモノマー(b1)としては、不飽和モノマー(b1−1)のなかでも、前記第一のモノマー(a1)で挙げたモノマーのうち分子量50以上300以下のモノマーがより好ましい。このようなモノマーを使用すると、第一の網目構造(A)中に充分な量の第二のモノマー(b1)を導入することが容易になるうえ、重合が容易であり、また第二の網目構造(B)の分子量が上がりやすいため、高強度ゲルの作製が容易となる。
【0036】
本発明における第二の網目構造(B)を形成する架橋剤は、多官能不飽和モノマー(b2)、金属イオン等を用いた後述の公知の技術により形成される。
多官能不飽和モノマーとは、重合性官能基を2個以上有する不飽和モノマーを意味する。重合性官能基とは、ポリマーに架橋点を形成する官能基であり、(メタ)アクリロイル基やビニル基等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を意味する。
【0037】
第二の網目構造(B)の架橋の形成に用いる多官能不飽和モノマー(b2)としては、公知の架橋剤を用いることができ、第一の網目構造(A)を形成する際に用いた多官能不飽和モノマー(a2)の他に、例えば、下記に示すモノマーが挙げられる。
2官能不飽和モノマーとして、例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、モノプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能不飽和モノマーとして、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4官能不飽和モノマーとして、例えば、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これら多官能不飽和モノマー(b2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(ポリマー(B’))
本発明のセミ相互侵入網目構造を有するゲル(ii)は、ポリマー(B’)を有する。
ポリマー(B’)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された架橋点を有さない直鎖状のポリマーである。
第二のモノマー(b1)は、公知のモノマーが使用でき、前述した不飽和モノマー(b1−1)、アニオン性不飽和モノマー(b1−2)、カチオン性不飽和モノマー(b1−3)を単独で、もしくは組み合わせて用いることができる。
不飽和モノマー(b1−1)、アニオン性不飽和モノマー(b1−2)、カチオン性不飽和モノマー(b1−3)の種類、含有量については、第二の網目構造(B)と同様である。
【0039】
(ゲル)
本発明の(セミ)相互侵入網目構造を有するゲルにおいては、第一のモノマー(a1)に由来する単位と第二のモノマー(b1)に由来する単位とのモル比((a1)/(b1))は、引張時に良好な伸びと強度を発現する点から、1/2〜1/100が好ましく、1/5〜1/80がより好ましく、1/10〜1/40が特に好ましい。第二のモノマー(b1)に由来する単位が前記モル比の下限値以上であれば、引張時に充分な伸びを発現させやすい。第二のモノマー(b1)に由来する単位が前記モル比の上限値以下であれば、引張時に充分な強度を発現させやすい。
【0040】
また、本発明の相互侵入網目構造を有するゲルにおいては、第二の網目構造(B)の架橋度を、第一の網目構造(A)の架橋度よりも小さくすることが好ましい。第二の網目構造(B)の架橋度が第一の網目構造(A)の架橋度以上であると、ゲルの機械特性、特に伸びを損なう場合がある。
第一の網目構造(A)における架橋度とは、第一のモノマー(a1)100質量%に対する多官能不飽和モノマー(a2)の添加量を意味する。また、第二の網目構造(B)における架橋度とは、架橋を後述の方法(α)で行う場合は、第二のモノマー(b1)100質量%に対する多官能不飽和モノマー(b2)の添加量を意味する。第二の網目構造(B)の架橋をその他の方法で行う場合は、第二のモノマー(b1)に由来するモノマー単位のうち、架橋に寄与しているモノマー単位の割合を、架橋点が結び付けているポリマー鎖の数で割った値で表せる。架橋点が結び付けているポリマー鎖の数とは、例えば2種のモノマーを反応させて架橋点とする場合には2である。3価に帯電したホウ酸でイオン結合させる場合には3である。
【0041】
本発明のゲルには、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。
【0042】
<ゲルの製造方法>
本発明のゲルの製造方法としては、下記の2種類の製造方法(I)、(II)が挙げられる。
(I)(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程とを有する、相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
(II)(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程とを有する、セミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法。
【0043】
(工程(x))
本発明のゲルの製造方法は、工程(x)において、第一の網目構造(A)が、電気的に中性である第一のモノマー(a1)と、多官能不飽和モノマー(a2)により形成されることを特徴とする。
まず、第一のモノマー(a1)、多官能不飽和モノマー(a2)、重合開始剤等を、溶媒に溶かして第一のモノマー溶液を調製する。ついで、第一のモノマー溶液を容器や枠へ流し込み、該溶液に熱または光を当てることにより、第一のモノマー(a1)が重合、架橋されて三次元架橋ポリマーである第一の網目構造(A)が形成される。
【0044】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0045】
架橋方法としては、多官能不飽和モノマー(a2)を利用する方法のみで第一の網目構造(A)を形成することもできるが、多官能不飽和モノマー(a2)を用いる方法と、工程(y)において後述するエポキシ開環による架橋やイオン架橋等を併用してもよい。
【0046】
(工程(y))
工程(y)では、第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、ポリマーとする。
該ポリマーの架橋は、第二のモノマー(b1)の重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成することにより、相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
【0047】
第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入する方法としては、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を溶解した第二のモノマー溶液中に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、第一の網目構造(A)が溶媒を吸収し、膨潤していく過程で、第二のモノマー(b1)を第一の網目構造(A)内に取り込ませる方法が簡便である。この際、第一の網目構造(A)の形成に多官能不飽和モノマー(a2)を用いていることで、第一の網目構造(A)中への第二のモノマー(b1)の導入が容易となり、高強度ゲルを調製することが可能となる。
【0048】
重合方法は、工程(x)における重合方法と同じ方法を用いることができる。
なお、第一の網目構造(A)が不透明で充分に光を透過しない場合には、熱重合開始剤によるラジカル重合法が好ましい。また、温度によって挙動の変わる不飽和モノマーを用いる場合には、光重合開始剤による光重合法が好ましい場合もある。
第一のモノマー(a1)の重合方法と、第二のモノマー(b1)の重合方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
工程(y)における架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法等が挙げられる。具体的には、下記の架橋方法が挙げられる(第二の網目構造(B)の場合を記載しているが、第一の網目構造(A)の場合、多官能不飽和モノマー(a2)と、これらの方法と同様の方法を併用することも可能である)。特殊な設備を必要としない、製造工程が複雑にならない、操作が簡便である、網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましいが、これらを併用することも可能である。
(α)1分子中に2個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有する多官能不飽和モノマー(b2)を第二のモノマー(b1)とともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によって、第二のモノマー(b1)により形成されたポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する第二のモノマー(b1)に由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)を用いて、イオン結合または配位結合によって架橋する方法。
【0050】
(工程(y’))
本発明のセミ相互侵入網目構造を有するゲル(ii)の製造方法(II)は、工程(y’)を有する。
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b1)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b1)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b1)を重合させ、ポリマー(B’)とする。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成することにより、セミ相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
第二のモノマー(b1)の導入方法および重合方法は、工程(y)における導入方法および重合方法と同様である。
【0051】
従来のゲルは、電荷を有するモノマーを一定量以上用いてゲルを製造しているため、長期使用においては、ゲルの加水分解による劣化および黄変が生じる。また、ゲルの製造に用いるモノマーが有する酸性基によって、金属が腐食する。
一方、本発明のゲルの製造方法にあっては、第一の網目構造(A)が、電気的に中性である第一のモノマー(a1)と、多官能不飽和モノマー(a2)により形成されることで、中性な高強度ゲルが得られる。そのため、本発明のゲルは、高強度で、かつ劣化し難く、金属に対する腐食性が低い。
また、本発明のゲルは、第二のモノマー(b1)からなるポリマーを架橋する必要がないこともある。つまり、本発明ではゲルに求められる物性に応じて、相互侵入網目構造と、セミ相互侵入網目構造とを自由に選択できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。なお、以下の記載においては、特に断らない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
(実施例1)
工程(x):
第一のモノマー(a1)であるメトキシ化ポリエチレングリコール#1000アクリレート(AM−230G、新中村化学工業社製)50%、および多官能不飽和モノマー(a2)であるポリエチレングリコール#600ジアクリレート(A−600、新中村化学工業社製、n=14、m=2)50%からなるモノマー成分と、前記モノマー成分100%に対して1%の光重合開始剤(チバガイギー社製、DAROCURE1173、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)とを、前記モノマー成分100%に対して400%の蒸留水に溶かし、第一のモノマー溶液を調製した。
ついで、得られた第一のモノマー溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、該第一のモノマー溶液に、ケミカルランプ(東芝社製、捕虫器用蛍光灯FL20S・BL−A)を用いて、1分間の照射エネルギー80mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
【0053】
工程(y):
アクリルアミド100%からなる第二のモノマー(b1)と、第二のモノマー(b1)の100%に対して、0.1%の多官能不飽和モノマー(b2)であるN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.01%の光重合開始剤(同上)とを、第二のモノマー(b1)の100%に対して200%の蒸留水に溶かし、第二のモノマー溶液を調製した。
第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、この状態で12時間以上放置することで、第二のモノマー溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体をガラス板にて挟みこみ、該ゲル前駆体に、ケミカルランプ(同上)を用いて、1分間の照射エネルギー80mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)が形成された相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0054】
(実施例2〜3)
第一のモノマー(a1)と多官能不飽和モノマー(a2)の割合を、60:40(実施例2)、または70:30(実施例3)とした以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0055】
(実施例4〜7)
第一のモノマー(a1)を90%、多官能不飽和モノマー(a2)を10%とし、第一のモノマー(a1)として、メトキシ化ポリエチレングリコール#400アクリレート(AM−90G、新中村化学工業社製)(実施例4)、ポリエチレングリコールアクリレート(ブレンマーAE400、日本油脂製)(実施例5)、メトキシ化ポリエチレングリコール#アクリレート(AM−30G、新中村化学工業社製)(実施例6)、またはN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)(実施例7)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0056】
(実施例8)
第一のモノマー(a1)であるDMAを99%、多官能不飽和モノマー(a2)であるポリエチレングリコール#400ジアクリレート(A−400、新中村化学工業社製、n=9、m=2)を1%とした以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0057】
(実施例9〜10)
多官能不飽和モノマー(a2)としてA−400を使用し、第一のモノマー(a1)と多官能不飽和モノマー(a2)の割合を20:80(実施例9)、または50:50(実施例10)とした以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0058】
(実施例11)
多官能不飽和モノマー(a2)をポリエチレングリコール#1000ジアクリレート(A−1000、新中村化学工業社製、n=23、m=2)に変更した以外は、実施例5と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0059】
(実施例12)
多官能不飽和モノマー(a2)をA−1000に変更した以外は、実施例3と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0060】
(実施例13)
多官能不飽和モノマー(a2)をエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−30、新中村化学工業社製、n=30、m=2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0061】
(実施例14)
多官能不飽和モノマー(a2)をエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(NKエステル ATM−35E、新中村化学工業社製、n=35、m=4)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0062】
(実施例15)
工程(x):
第一のモノマー(a1)であるAM−230Gの90%と、多官能不飽和モノマー(a2)であるポリプロピレングリコール#700ジアクリレート(APG−700、新中村化学社製、n=12、m=2)の10%からなるモノマー成分と、前記モノマー成分100%に対して1%のDAROCURE1173とを、前記モノマー成分100部に対して400部のジメチルスルホキシドに溶かし、第一のモノマー溶液を調製した。
得られた第一のモノマー溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、実施例1と同様の方法により重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
【0063】
工程(y):
アクリルアミドの100%からなる第二のモノマー(b1)と、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.1%の多官能不飽和モノマー(b2)であるN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.01%のDAROCURE1173とを、第二のモノマー(b1)の100部に対して300部のジメチルスルホキシドに溶かし、第二のモノマー溶液を調製した。
この第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、その状態で一晩放置することで、第二のモノマー水溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体をガラス板にて挟みこみ、周囲をシールした上で、実施例1と同様の方法により重合を完結させ、相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0064】
(実施例16)
工程(x):
第一のモノマー(a1)をAM−230G、多官能不飽和モノマー(a2)をA−600とし、その割合を70:30とした以外は、実施例1と同様の方法により、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を得た。
工程(y):
DMAの100%からなる第二のモノマー(b1)と、第二のモノマー(b1)の100%に対して多官能不飽和モノマー(b2)である0.1%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b1)の100%に対して0.01%のDAROCURE1173とを、第二のモノマー(b1)の100部に対して200部の蒸留水に溶かし、第二のモノマー溶液を調製した。
この第二のモノマー溶液に、第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体を浸漬し、その状態で一晩放置することで、第二のモノマー水溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有するゲル前駆体をガラス板にて挟みこみ、周囲をシールした上で、実施例1と同様の方法により重合を完結させ、相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0065】
(実施例17〜19)
第二のモノマー(b1)を、アクリル酸100%(実施例17)、アクリル酸50%とアクリルアミド50%(実施例18)、またはアクリルアミド50%と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50%(実施例19)に変更した以外は、実施例16と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0066】
(実施例20)
第二のモノマー溶液の調製に、多官能不飽和モノマー(b2)であるN,N−メチレンビスアクリルアミドを用いなかった以外は、実施例3と同様の方法によりセミ相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0067】
(比較例1)
第一の網目構造(A)を形成せずに、実施例1における第二の網目構造(B)を形成し、相互侵入網目構造を有さないゲルを得た。
【0068】
(比較例2)
第1のモノマー(a1)の代わりのモノマー(a’)として、アニオン性の単官能不飽和モノマーである2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を100%用い、該モノマー(a’)100%に対して2%の多官能不飽和モノマー(a2)であるA−400を用いた以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するゲルを得た。
【0069】
(評価)
実施例1〜20、比較例1、2で製造したゲルについて、下記の(1)〜(4)の評価を行った。
(1)膨潤度:
得られたゲルの乾燥前後での質量比から膨潤度を算出した。計算式は、下記の通りである。
(膨潤度)=(乾燥前質量)/(乾燥後質量)×100(%)。
【0070】
(2)引張強度:
得られたゲルを3号ダンベル試験片に打抜き、引張試験に供した。引張試験はJIS−K6251に準拠して、試験片の引張破断強度を測定した。チャック間距離は50mm、引張速度は50mm/分とした。
【0071】
(3)モノマー比
得られたゲルを乾燥させ、元素分析によって第一のモノマー(a1)に由来する単位と第二のモノマー(b1)に由来する単位とのモル比((a1)/(b1))を算出した。
【0072】
(4)金属に対する腐食性
得られたゲルを蒸留水に膨潤させ、ステンレス板の上に乗せ、室温で密封して放置した。経時後、金属の変色や劣化の確認を目視で行った。金属に対する腐食性は、金属に変化がなかった場合を○(良好)、金属に変色等の変化が目視確認できた場合を×(不良)とした。
【0073】
実施例1〜20、比較例1、2において、工程(x)で用いた原料の配合および工程(y)で用いた原料の配合、および(1)〜(4)の評価結果を表1および表2に示す。表記載の原料の単位は「質量%」である。また、表中の(i)は相互侵入網目構造を有するゲル、(ii)はセミ相互侵入網目構造を有するゲルを示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1および表2中の略号は、下記の通りである。
AM−230G:ポリエチレングリコール#1000アクリレート
AM−90G:メトキシ化ポリエチレングリコール#400アクリレート
AE−400:ポリエチレングリコール#400アクリレート
AM−30G:メトキシ化ポリエチレングリコール#アクリレート
DMA:N,N−ジメチルアクリルアミド
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
A−400:ポリエチレングリコール#400ジアクリレート
A−600:ポリエチレングリコール#600ジアクリレート
A−1000:ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート
A−BPE−30:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート
ATM−35E:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート
APG−400:ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート
DAR1173:DAROCURE1173
EG:エチレングリコール
DMSO:ジメチルスルホキシド
AAm:アクリルアミド
AAc:アクリル酸
MBA:N,N−メチレンビスアクリルアミド
【0077】
表1および表2の結果から明らかなように、実施例1〜20で得られたゲルは、高い強度を有しており、かつ、二週間後も金属に変色等は見られず、金属に対する腐食性が低かった。
また、実施例15から、溶媒に有機溶剤を用いてもよいことが示された。実施例17〜19からは、第二のモノマー(b1)としてアニオン性モノマーを使用してもよいことが示された。
また、実施例20のセミ相互侵入網目構造のゲルも、高い強度を有していた。
また、特に、実施例1〜3、10、12、14、17、18では、第一のモノマー(a1)として、分子量300以上で、かつ前記式(1)で表されるモノマーを、第一の網目構造(A)を形成する全モノマーに対して、特に好ましい範囲である50〜75%の割合で使用しているため、特に高強度を有するゲルが作製できた。
【0078】
一方、比較例1で得られたゲルは、相互侵入網目構造を有さなかったため、実施例に比べて充分な強度が得られなかった。
また、比較例2で得られたゲルは、第一の網目構造にアニオン性不飽和モノマーを用いたため、一日後にゲルと接触している部分の金属に変色が見られ、金属に対する腐食性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のゲルは、高強度であり、かつ透明性が高いことから、パッキン、レンズ、膜、緩衝材、衝撃吸収剤、クッション、意匠性シート等の様々な用途への利用が可能である。また、ゲルが複数の網目により構成されるため、機能性付与の自由度や、強度と柔軟性の設計自由度が他の高強度ゲルよりも高く、大変有用である。また、中性であり、金属の腐食性や、人体および環境への負荷が小さいため、金属と接触するベアリングや中間膜、人体と接触するシップやパック、保冷剤、保湿剤、屋外で使用される土壌改質剤、苗床、肥料、また、医療用途として人工皮膚、人工関節、人工筋肉、人工血管、人工軟骨、人工内臓、義手・義足、細胞培養シート等としての利用可能性があり、工業的、産業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第一の網目構造(A)が、第一のモノマー(a1)と、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を含む架橋剤とにより形成されることを特徴とするゲル。
【請求項2】
第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するゲルにおいて、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記第一の網目構造(A)が、第一のモノマー(a1)と、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を含む架橋剤とにより形成されることを特徴とするゲル。
【請求項3】
前記第一のモノマー(a1)の分子量が200以上2000以下である、請求項1または2に記載のゲル。
【請求項4】
前記第一のモノマー(a1)が、分子量が200以上2000以下で、かつ下式(1)で表されるモノマーである、請求項1または2に記載のゲル。
【化1】

(ただし、式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を示し、pは整数である。)
【請求項5】
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と、
を含む相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項6】
(x)第一のモノマー(a1)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b1)を導入し、該第二のモノマー(b1)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程と、
を含むセミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法において、
第一のモノマー(a1)が、電気的に中性な単官能不飽和モノマーであり、
前記工程(x)における前記第一の網目構造(A)の架橋を形成する架橋剤として、ポリアルキレングリコール構造を有する多官能不飽和モノマー(a2)を用いることを特徴とするゲルの製造方法。

【公開番号】特開2012−1596(P2012−1596A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136162(P2010−136162)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】