説明

ゲルダナマイシンおよび誘導体はガン浸潤を阻害し、新規な標的を同定する

フェムトモル濃度で、uPA−プラスミンネットワークを遮断し、膠芽腫細胞および他の腫瘍の増殖および浸潤を阻害する、ゲルダナマイシン誘導体は、活性の高い抗ガン剤である可能性を秘めている。HGF/SFによって媒介されるMetチロシンキナーゼレセプター依存性のuPAの活性化をfMレベルで遮断する、GAおよび種々の17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン誘導体が開示される。試験される化合物の阻害活性は、hsp90に結合するこのクラスの薬剤のすでに知られている能力とは相容れず、このことは、腫瘍の発達においてHGF/SFによって媒介される事象についての新たな標的が存在することを示している。ガン細胞の活性を阻害するため、および腫瘍を処置するためにこのような化合物を使用する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
ガンの薬理学の分野における本発明は、ゲルダナマイシン(1)の化学的誘導体(これらのいくつかは新規の化合物であり、フェムトモル濃度でガン細胞の活性を阻害する)、ならびに、HGF依存性、Met媒介性の腫瘍細胞の活性化、増殖、浸潤、および転移を阻害するためのこれらの化合物の使用に関する。新しい、まだ同定されていない標的に対して作用するこれらの化合物は、極めて強力な抗ガン剤である。
【背景技術】
【0002】
(背景技術の記載)
ゲルダナマイシン(GA)はアンサマイシンである天然産物の薬剤である(非特許文献1;非特許文献2)。ゲルダナマイシン(GA)は、ここでは、GA誘導体の1つのクラスを意味し、そのうちのいくつかは、ヒトの乳ガン、黒色種、および卵巣ガンについてのマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性が示されている(非特許文献3;非特許文献4)。さらに、GAクラスの薬剤は、いくつかのチロシンキナーゼおよびセリンキナーゼ腫瘍遺伝子産物(Her2、Met、Raf、cdk4、およびAktが含まれる)の発現を低下させる(非特許文献5;非特許文献6:非特許文献3);非特許文献6;非特許文献4。これらの薬剤は、分子シャペロンHSP90を阻害し、それによってクライアントである腫瘍タンパク質の適切な折り畳みを妨げ、それらの脱安定化を導くことによって、ナノモルの範囲の濃度で作用することが明らかにされている(したがって、本明細書中では、nM GAインヒビターまたは「nM−GAi」と呼ばれる)(非特許文献8:非特許文献6)。さらに、国立癌研究所Anticancer Drug Screen NCI−Adsによって提供された非特許文献4において列挙されている化合物薬剤のいくつかは、(薄層クロマトグラフィーによって)純粋ではないことが明らかにされており、これによって、初期の結果および解釈が誤りであり得るとの結論が導かれる。
【0003】
最近の研究により、Metによるシグナル伝達経路がガン治療の治療標的である可能性を秘めていることが示された。Met特異的リボザイムおよびアンチセンスストラテジーによっては、MetおよびHGF/SFの発現、腫瘍の増殖、ならびに腫瘍の転移の可能性が低下する(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。NK4(そのN末端の4つのクリングルドメインを有しているHGF/SF断片)は、Metレセプターについての競合するHGF/SFアンタゴニストであり(非特許文献13)、腫瘍の浸潤および転移、ならびに腫瘍血管形成を阻害することが明らかにされている(非特許文献14)。HGF/SFに対するモノクローナル抗体は、胸腺欠損nu/nuマウスにおいては、ヒト異種移植片の腫瘍の増殖の阻害によってその活性を中和する(非特許文献15)。インドールをベースとするレセプターチロシンキナーゼインヒビターK252aおよびPHA665752は、Metキナーゼ活性、Metによって促される腫瘍の増殖および転移の可能性を阻害する(非特許文献16;非特許文献17)。
【0004】
非特許文献4によって、腫瘍細胞の浸潤を阻害し得る、Metレセプターによるシグナル伝達経路のインヒビターがスクリーニングされた。HGF/SFは、細胞浸潤および転移の媒介因子である、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)およびそのレセプター(uPAR)の発現を誘導する。非特許文献4には、uPAとuPARの誘導、それに続く、プラスミノーゲンのプラスミンへの変換を利用する細胞をベースとするアッセイが記載されており、これによって、MDCK−2細胞の阻害特性について化合物をスクリーニングすることができる。ゲルダナマイシン(1)およびそのいくつかの誘導体は、フェムトモル(fM)濃度で高い阻害活性を示すことが明らかにされている。この極めて高い阻害活性には、(以下で開示されるように)本発明者らによって、浸潤複合体のさらなる活性、特に、三次元Matrigel(登録商標)全体へのヒト腫瘍細胞のインビトロでの浸潤が含められる。Metの発現の低下は、ナノモル(nM)濃度未満では観察されず、このことは、観察された阻害活性がMetレセプターのダウンレギュレーションとは無関係であることを示している。
【0005】
ゲルダナマイシンおよび17−アルキルアミノ−17−デモトキシゲルダナマイシン誘導体は、熱ショックタンパク質90(hsp90)のアミノ末端ドメイン領域のATP結合部位に結合するそれらの能力が最もよく知られている(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献3;非特許文献20;非特許文献21)。Hsp90は、GHKL ATPaseの構造タンパク質ファミリーに属している(非特許文献22)。この豊富なタンパク質は、種々の重要なタンパク質の調節活性、代謝回転、および輸送を助ける。これは、細胞のシグナル伝達に関係しているタンパク質(例えば、転写因子、ステロイドレセプター、およびプロテインキナーゼ)の折り畳みおよび調節を手助けする(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26)。hsp90の機能は、アンサマイシンである天然産物、例えば、GAおよびマクベシンI(2)(非特許文献27;非特許文献28)、さらには、ラディシコール(3)(非特許文献29;非特許文献30;非特許文献3)によって遮断される(化学構造についての本発明の詳細な説明を参照のこと)。現在、臨床試験の段階にある薬剤である、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(4)の抗腫瘍作用は、hsp90機能の遮断に起因すると考えられている(非特許文献31;非特許文献32)。
【0006】
GAの臨床的な使用に関する欠点は、その溶解性と毒性による制限であるが、誘導体17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAGと省略される)(4)(NSC.330507とも指定されている)は、腫瘍阻害活性を有しており、これには低い毒性が伴い(非特許文献33)、第I相〜第II相臨床試験において評価されている(非特許文献34;非特許文献31)。水溶解度が高く、経口投与に利用することができる、前臨床的評価の段階にある別のGA誘導体は、17−(ジメチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(5)(17−DMAGと省略される)であり、これは、i.p.投与した場合には、原則的には100%であり、経口投与された17−AAG(4)の約2倍である(非特許文献35)。17−AAG(4)の代謝産物である17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(6)は、p185erbB2を減少させる能力によって決定した場合には、同等の生物学的活性を有しており、強力な治療薬として開発されている途中である(非特許文献36)。GAおよび17−AAGのいずれも、乳ガン細胞をタキソールによって媒介されるアポトーシス、およびドキソルビシンによって媒介されるアポトーシスに対して感作させることができる(非特許文献37)。
【0007】
特許文献1(Sasakiら)には、C17位およびC19位で置換された種々のゲルダノマイシン誘導体が開示されている。これらの両方の位置での置換は、ヒドロキシ、アミノ、メチルアミノ、ピロリジノ、ピリジニル、メトキシ、ピペリジノ、モルホリノ、ハロゲン、シクロアルキル、および他の基でさらに置換することができるアルキル基(C2−12)を含む種々のラジカルで2置換することができるアミンを含むとして列挙されている。これらの化合物は、特定の「ガン細胞」(これは、事実上、腫瘍ウイルスによって形質転換されたマウスの線維芽細胞クローンである)のインビトロでの増殖を阻害すると言われている。
【0008】
Rosenら,特許文献2(1998年11月19日)には、タンパク質、レセプター、またはマーカーに特異的に結合する標的化部分と、hsp09結合部分(これは、アンサマイシン抗生物質が結合するhsop90ポケットに結合する)の両方が含まれる、Hsp90標的化部分に結合させられたGA誘導体が開示されている。この文献には、本明細書中で開示されるように、GAをアジリジンと反応させて、合成プロセスの中間体である化合物15を得ることが開示されている。この化合物は、ヨウ化シアン(ICN)と反応させられ、17−(N−ヨードエチル−N−シアノ−17−デメトキシゲルダナマイシン)が生産される。後者のアナログはHSP90に結合し、放射性ICNを使用することによって合成の間に簡単に放射標識することができた。「対応する17−N−ヨードアルキル−N−シアノ)化合物を、アジリジンの代わりに、アゼチジン(3炭素)、ピロリジン(4炭素)などを使用して作成することができる」ことが開示されている。
【0009】
Gallaschunら,特許文献3(1995年1月12日)には、腫瘍遺伝子産物のインヒビターとして、および抗腫瘍薬/抗ガン剤としての種々のアンサマイシン誘導体が開示されている。15ページ、19行目から17ページ12行目、および実施例2〜99を参照のこと。
【0010】
特許文献4(Schnurら)には、C4、5、11、17、19、および22を含むGAの以下の環位置で置換されている多数のGA誘導体が開示されている。これらの化合物は、インビボにおいてSKBr3乳ガン細胞の増殖を阻害すると言われているが、どの水準においても、何らかの抗腫瘍作用を示す結果はもたらされていない。
【0011】
特許文献5(2004年10月14日)には、単独で、または他の薬剤との併用において、再狭窄を予防または軽減するGAアナログが開示されている。4ページには、以下の化合物が記載されている:17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(本発明の化合物4);17−[2−ジメチルアミノ)エチルアミノ]−デメトキシ−11−O−メチルゲルダナマイシン、および17−N−アゼチジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン(本発明の化合物14)。
【0012】
Metレセプターチロシンキナーゼおよびそのリガンド、肝細胞増殖因子/散乱因子(HGF/SF)は、腫瘍発生および転移を導く。不適切なMetの発現は、ガンの転移と、ガン患者の全体的な生存率の低下に大きく関係しており(非特許文献38:非特許文献39)、そしてMetとHGF/SFの両方が、多くのタイプのヒトおよび動物の悪性腫瘍および肉腫に関係している。包括的なリストについては、非特許文献40を参照のこと。これは、その全体が引用により本明細書中に組み入れられる。Metによるシグナル伝達によっては、インビトロでは増殖と浸潤が、そして動物モデルにおいては腫瘍形成と転移が誘導される。HGF/SFは強力な血管形成性分子および生存分子である(非特許文献38)。HGF/SFによるMetの活性化の1つの結末は、腫瘍の浸潤および転移における重要な要因である、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)タンパク質溶解ネットワークの誘導である。Metを発現する細胞のHGF/SFへの曝露によっては、uPAおよび/またはuPAレセプター(uPAR)の発現が誘導され、これによって、プラスミノーゲンの切断によるプラスミンの生産が導かれる(非特許文献41;非特許文献42;非特許文献43)。腫瘍細胞の浸潤を阻害できる可能性がある薬剤について検索するために、非特許文献4は、イヌ腎臓MDCK上皮細胞における細胞をベースとするアッセイを開発し、uPA活性を阻害する化合物を検索した。GAのいくつかの誘導体が、フェムトモル(fM)濃度でuPA活性を阻害し(fM−GAi)、これはMetの発現を低下させるために必要なnM濃度をおよそ6桁下回る(非特許文献4)。これらの研究により、MDCK細胞が、親和性が高く、おそらくは少量である、fM−GAi剤についての新規の標的を有していることが示唆された。
【0013】
fMレベルでの、GAおよびその誘導体による腫瘍細胞中のMetによるシグナル伝達経路の破壊についての標的は、未だ知られていない。上記のhsp90機能の破壊は、より高濃度、すなわち、マイクロモル(μM)およびそれ以上で生じることが知られている、このアンサマイシンクラスの薬剤の作用である。本発明者らは、未知の標的(単数または複数)についてのGA誘導体の構造−活性の関係を評価し、そしてfM標的(単数または複数)をhsp90と区別することができた。
【0014】
当該分野では、極めて低い濃度で有効である新しい抗ガン治療薬としての、GAクラスのより強力な化合物が必要とされている。本発明はこの要求に答えるものである。
【0015】
本発明者らの研究室によるこれまでの研究によって、NCI Anti−Neoplastic Drug Screen Program(NCI ADS)によって提供された30を超えるGA由来の薬剤のうちのわずか4個が、フェムトモル濃度で、MDCK細胞中の肝細胞増殖因子/散乱因子(HGF/SF)によるウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)−プラスミンの活性化を阻害したことが示されている(非特許文献4)。これらの薬剤は、ナノモル範囲で活性を示したGAファミリーの薬剤(「nM−GAi」薬剤と呼ばれる)に対して、本明細書中で「fM−GAi」薬剤と呼ばれる。
【非特許文献1】Sasaki K,Rinehart KL,Slomp G,Grostic MF,Olson EC,「J Am Chem Soc」,1970年,第92巻,p.7591−7593
【非特許文献2】DeBoer C,Meulman PA,Wnuk RJ,Peterson DH.,「J Antibiot(Tokyo)」,1970年,第23巻,p.442−7
【非特許文献3】Schulte,TW,Akinaga,S,Soga,S,Sullivan,W,Stensgard,B,Toft,D,Neckers,LM.,「Cell Stress Chaperones」,1998年,第3巻,p.100−108
【非特許文献4】Webb,CP,Hose,CD,Koochekpour,S,Jeffers,M,Oskarsson,M,Sausville,E,Monks,A,Vande Woude,GF,「Canc Res」,2000年,第60巻,p.342−9
【非特許文献5】Blagosklonny,MV,「Leulcemia」,2002年,第16巻,p.455−62
【非特許文献6】Ochel,HJ,Eichhorn,K,Gademann,G,「Cell Stress Chaperones」,2001年,第6巻,p.105−12
【非特許文献7】Solit,DB,Zheng,FF,Drobnjak,M,Munster,PN,Higgins,B,Verbel,D,Heller,G,Tong,W,Cordon− Cardo,C,Agus,DB,Scher,HI,Rosen,N(2002)Clin Canc Res 8:986−93
【非特許文献8】Bonvini,P,An,WG,Rosolen,A,Nguyen,P,Trepel,J,Garcia de Herreros,A,Dunach,M,Neckers,LM(2001)Canc Res 61:1671−7
【非特許文献9】Abounader,R,Ranganathan,S,Lal,B,Fielding,K,Book,A,Dietz,H,Burger,P,Laterra,J.,「J Natl Cancer Inst」,1999年,第91巻,p.1548−1556
【非特許文献10】Jiang,W.G,Grimshaw,D,Lane,J,Martin,T.A,Abounder,R,Laterra,J,Mansel,R.E.,「Clin Canc Res」,2001年,第7巻,p.2555−2562
【非特許文献11】Abounader,R,Lal,B,Luddy,C,Koe,G,Davidson,B,Rosen,E.M,Laterra,J.,「FASEB J」,2002年,第16巻,p.108− 110
【非特許文献12】Stabile,L.P,Lyker,J.S,Huang,L,Siegfried,J.M.,「Gene Ther」,2004年,第11巻,p.325−335
【非特許文献13】Date,K,Matsumoto,K,Shimura,H,Tanaka,M,Nakamura,T.,「FEBS Lett」,1997年,第420巻,p.1−6
【非特許文献14】Matsumoto,K,Nakamura,T.,「Cancer Sci」,2003年,第94巻,p.321−327
【非特許文献15】Cao,B,Su,Y,Oskarsson,M,Zhao,P,Kort,EJ,Fisher,R.J,Wang,LM,Vande Woude,GF,「Proc Natl Acad Sci USA」,2001年,第98巻,p.7443−7448
【非特許文献16】Morotti,A,Mila,S,Accornero,P,Tagliabue,E,Ponzetto,C.,「Oncogene」,2002年,第21巻,p.4885−4893
【非特許文献17】Christensen,J.G,Schreck,R,Burrows,J,Kuruganti,P,Chan,E,Le,P,Chen,J,Wang,X,Ruslim,L,Blake,R,Lipson,K.E,Ramphal,J,Do,S,Cui,J.J,Cherrington,J.M,Mendel,D.B.「Canc Res」,第63巻,2003年,p.7345−7355
【非特許文献18】Stebbins,CE,Russo,AA,Schneider,C,Rosen,N,Hartl,FU,Pavletich,NP.,「Cell」,1997年,第89巻,p.239−50
【非特許文献19】Grenert,JP,Sullivan,WP,Fadden,P,Haystead,TA,Clark,J,Mimnaugh,E,Krutzsch,H,Ochel,HJ,Schulte,TW,Sausville,E,Neckers,LM,Toft,DO.,「J Biol Chem」,1997年,第272巻,p.23843−23850
【非特許文献20】Roe,SM,Prodromou,C,O’Brien,R,Ladbury,JE,Piper,PW,Pearl,LH,「J Med Chem」,1999年,第42巻,p.260− 266
【非特許文献21】Jez,JM,Chen,JC,Rastelli,G,Stroud,RM,Santi,DV.,「Chem Biol」,2003年,第10巻,p.361−368
【非特許文献22】Dutta,R,Inouye,M.「Trends Biochem Sci」,2000年,第25巻,p.24−28
【非特許文献23】Fink,AL.,「Physiol Rev」,1999年,第79巻,p.425−449
【非特許文献24】Richter,K,Buchner,J.,「J Cell Physiol」,2001年,第188巻,p.281−290
【非特許文献25】Picard,D,「Cell Mol Life Sci」,2002年,第59巻,p.1640−1648
【非特許文献26】Pratt,WB,Toft,DO,「Exp Biol Med」,2003年,第228巻,p.111−133
【非特許文献27】Blagosklonny,MV,Toretsky,J,Bohen,S,Neckers,L.,「Proc Natl Acad Sci USA」,1996年,第93巻,p.8379−8383
【非特許文献28】Bohen,SP,「Mol Cell Biol」,1998年,第18巻,p.3330−3339
【非特許文献29】Whitesell,L,Mimnaugh,EG,De Costa,B,Myers,CE,Neckers,LM.「Proc Natl Acad Sci USA」,1994年,第91巻,p.8324−8328
【非特許文献30】Sharma,SV,Agatsuma,T,Nakano,H.,「Oncogene」,1998年,第16巻,p.2639−2645
【非特許文献31】Maloney,A,Workman,P.,「Expert Opin Biol ther」,2002年,第2巻,p.3−24
【非特許文献32】Neckers,L,Ivy,SP.,「Curr Opin Oncol」,2003年,第15巻,p.419−24
【非特許文献33】Kamal,A,Thao,L,Sensintaffar,J,Zhang,L,Boehm,MF,Fritz,LC,Burrows,FJ.,「Nature」,2003年,第425巻,p.407−410
【非特許文献34】Goetz,MP,Toft,DO,Ames,MM,Erlichman,C,「Ann Oncol」,2003年,第14巻,p.1169−76
【非特許文献35】Egorin,MJ,Lagattuta,TF,Hamburger,DR,Covey,JM,White,KD,Musser,SM,Eiseman,JL.,「Cancer Chemother Pharmacol」,2002年,第49巻,p.7−19
【非特許文献36】Egorin MJ,Rosen DM,Wolff JH,Callery PS,Musser SM,Eiseman JL,「Canc Res」,1998年,第58巻,p.2385−2396
【非特許文献37】Munster PN,Basso A,Solit D,Norton L,Rosen N,「Clin Canc Res」,2001年,第7巻,p.2228−2236
【非特許文献38】Birchmeier,C,Birchmeier,W,Gherardi,E,Vande Woude,GF,「Nat Rev Mol Cell Biol」,2003年,第4巻,p.915−25
【非特許文献39】Maulik,G,Shrikhande,A,Kijima,T,Ma,PC,Morrison,PT,Salgia,R,「Cytokine Growth Factor Rev」,2002年,第13巻,p.41−59
【非特許文献40】[online],インターネット,<URL:http://vai.org/metandcancer/>
【非特許文献41】Hattori,N,Mizuno,S,Yoshida,Y,Chin,K,Mishima,M,Sisson,TH,Simon,RH,Nakamura,T,Miyake,M,「Am J Pathol」,2004年,第164巻,p.1091−8
【非特許文献42】Jeffers,M,Rong,S,Vande Woude,GF,「Mol Cell Biol」,1996年,第16巻,p.1115−25
【非特許文献43】Tacchini,L,Matteucci,E,De Ponti,C,Desiderio,MA,「Exp Cell Res」,2003年,第290巻,p.391−401
【特許文献1】米国特許第4,262,989号明細書
【特許文献2】国際公開第98/51702号パンフレット
【特許文献3】国際公開第95/01342号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,932,566号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/087045号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の要旨)
本発明者らにより、MDCK細胞中のuPAタンパク質溶解ネットワークを阻害することに対する特定のGA誘導体(「fM−Gai」化合物)のフェムトモル濃度(またはさらに低い)活性がHGF/SF依存性であることが発見された。このような感受性はまた、ヒトの腫瘍細胞にもあり、ここでは、uPA活性をHGF/SFによって顕著にアップレギュレートさせることができる。
【0017】
HGF/SFによって媒介されるuPAの誘導を阻害することに加えて、fM−GAi化合物(種々の17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン誘導体を含む)は、MDCK細胞のHGF/SFによって誘導される散乱、ならびに、いくつかのヒト膠芽腫細胞株−DBTRG、SNB19、およびU373のインビトロでの浸潤活性を阻害することが明らかにされている。しかし、HSP90はfM−GAiの標的ではないことが本明細書において開示される。まず第一に、全てのHSP90結合化合物がfM−GAi活性を示さない。高い親和性でHSP90に結合するラディシコール(RA)(Roeら,1999;Schulteら,1999)は、nM未満の濃度では、HGF/SFによって誘導されるuPAの活性化を阻害しない。GA、fM−GAi薬剤、他のアンサマイシン(マクベシンIおよびII(MA)を含む)、特定のGA誘導体、およびラディシコールは、nMの濃度で、uPA活性とMetの発現を同時に阻害する。種々の細胞株とnM濃度のこれらの薬剤を使用して、本発明者らは、全ての利用することができるHSP90結合部位が占有されていることを示した。しかし、GAによってHSP90が占有されず、そしてMetタンパク質のレベルに影響が及ばないピコモル(pM)およびそれ未満の濃度のGAでもなお、uPA活性、細胞の散乱、および腫瘍細胞の浸潤は阻害された。したがって、fM−GAi薬剤は、HGF/SFの重要な生物学的活性(例えば、腫瘍細胞の浸潤)についての強力なインヒビターであるが、HSP90を通じてその作用が媒介されることはない。これによって、HGF/SFによって媒介されるuPAの活性化についての新しい標的(単数または複数)が示される。
【0018】
したがって、これらのfM−GAi化合物は、腫瘍細胞の浸潤を妨害するための薬剤候補であり、ガン細胞の浸潤を防ぐための外科手術、従来の化学療法、または放射線治療と組み合わせることができる。これらにはまた、放射性核種のような検出可能な標識と結合させた場合には、診断薬/予後薬としての有用性もある。
【0019】
詳細には、本発明は、式Iまたは式IIの化合物、あるいは、それらの薬学的に許容される塩に関し、これらは、10−11M未満の濃度でガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を阻害する特性を有している。式中、:
は、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、アルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミン;3〜6員複素環基(これは、状況に応じて置換される)である(そしてRは、好ましくは、3〜6員複素環であり、式中、Nはヘテロ原子である)。
【0020】
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミン;3〜6員複素環基(これは、状況に応じて置換される)である;
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンであるか、あるいは、Nは、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロケニル、またはヘテロアリール環(これは、状況に応じて置換される)の構成要素である;
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニルであり、そして式中、
位置C=C、C=C、およびC=Cの間の環二重結合は、状況に応じて、単結合となるように水素化される。
【0021】
化合物は、好ましくは、10−11M未満、または10−12M未満、10−13M未満、または10−14M未満、または10−15M未満、または10−16M未満、または10−17M未満、または10−18M未満、または10−19M未満の濃度で、ガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を阻害する。
【0022】
好ましい実施形態においては、Rは示されるような置換基であり、R、R、およびRのそれぞれはHである。
【0023】
化合物は、好ましくは、以下からなる群より選択される:
(a)17−(2−フルオロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(b)17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(c)17−N−アジリジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(d)17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(e)17−N−アゼチジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(f)17−(2−ジメチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(g)17−(2−クロロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;および
(h)ジヒドロゲルダナマイシン。
【0024】
上記の化合物と薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤を含む薬学的組成物もまた提供される。
【0025】
本発明は、Metを保有している腫瘍またはガン細胞の、HGF/SFによって誘導される、Metレセプターによって媒介される生物学的活性を阻害する方法に関する。この方法には、上記細胞に対して有効量の上記のような化合物を提供する工程が含まれる。化合物は、上記生物学的活性の阻害について、約10−11M未満、または約10−12M未満、または約10−13M未満、または約10−14M未満、または約10−15M未満、または約10−16M未満、または約10−17M未満、または約10−18M未満のIC50を有する。生物学的活性は、細胞内のuPA活性の誘導、インビトロまたはインビボでの増殖、あるいは細胞の散乱、インビトロまたはインビボでの上記細胞の浸潤であり得る。
【0026】
HGF/SFによって誘導されるMetを保有している腫瘍またはガン細胞の被験体での転移を阻害する方法もまた含まれる。この方法には、上記被験体に対して、有効量の本明細書中に開示される化合物を提供することが含まれる。化合物は、インビトロでのアッセイにおいて測定された場合には、腫瘍細胞の浸潤の阻害について上記に示されるように、約10−11Mまたはそれ未満のIC50を有する。好ましくは、阻害によって、上記細胞によって引き起こされる測定可能な腫瘍の退行、または上記被験体での腫瘍の増殖についての測定可能な低減が生じる。
【0027】
感受性被験体(好ましくは、ヒト)をMet陽性腫瘍の増殖または転移から防御する方法には、
(a)上記腫瘍を発症するリスクがある、
(b)すでに処置された被験体の場合には、上記腫瘍を再発するリスクがある
のいずれかである上記被験体に、有効量の上記化合物を投与する工程が含まれる。
【0028】
ハロゲン放射性核種で検出可能であるように標識された上記化合物は、好ましくは、18F、76Br、76Br、123I、124I、125I、および131Iからなる群より選択されるR基に対して結合させられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(好ましい実施形態の説明)
アンサマイシン(ゲルダナマイシンおよび誘導体である17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンを含む)とラディシコールは、おそらく細胞に対するそれらの作用機構である、熱ショックタンパク質90に堅く結合するそれらの能力について知られている。実際、GAおよび17−アルキルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンは、アミノ末端ドメインhsp90のATP結合部位に結合する。
【0030】
本発明者らは、ゲルダナマイシン(GA)とそのいくつかの誘導体が、フェムトモルレベルで、HGF/SFによって媒介されるMetチロシンキナーゼレセプターの活性化を阻害することを発見した。これは、uPAのレセプター依存性活性化として測定することができる。このような活性についての構造上の要件の評価によって、この活性の標的はHSP90ではなく、むしろ複合体の未知のタンパク質であるとの結論が導かれた。
【0031】
多数の化合物が合成され(または国立癌研究所から入手され)、試験され、そして以下で議論される。実施例1〜19を参照のこと。化合物1〜3は、それぞれ、GA、マクベシン、およびラディシコールである。
【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

示される置換基を有している、式IIIおよびIVに示される2つのさらなる構造が合成され、研究された(実施例を参照のこと)。これらの化合物の1つ(14)もまた、式IまたはIIの置換体として上記で明らかにされている。
【0034】
注目すべきは、本発明の活性のある化合物、特に、fm−GAi活性を有しているものは、酸化型の構造(ベンゾキノン、式I)または還元型の構造(ヒドロキノン、式II)のいずれかを有することができることである。
【0035】
【化4】

他の場所に記載されない限りは、本明細書中に記載されるアルキル、アルコキシ、およびアルケニル部分には、直鎖、分岐鎖、および環状部分、ならびにそれらの組み合わせが含まれ得、そして、用語「ハロ」には、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードが含まれる。1つまたは2つの原子のみを含む基は分岐ではあり得ず、また、環状でもあり得ないことは明白である。さらに、他の場所に記載されない限りは、「状況に応じて置換される」には、0個から最大数(例えば、メチル基については3、フェニル基については5、など)までの置換基が含まれることが意味される。本明細書中で使用される場合は、用語「アルキル」によって、直鎖、分岐鎖、または環状の完全に飽和されている炭化水素残基が示される。炭素原子の数が明記されていない限りは、用語「アルキル」は、C1−6アルキル基(「低級アルキル」とも呼ばれる)を意味する。「アルキル基」が包括的な意味で(例えば、「プロピル」、「ブチル」、「ペンチル」、および「ヘキシル」など)使用される場合は、それぞれの用語にその全ての異性体形態(直鎖、分岐鎖、または環状)が含まれ得ることが理解されるであろう。
【0036】
好ましいアルキルはC1−6アルキルであり、より好ましくは、C1−4アルキルまたはC1−3アルキルである。直鎖および分岐したアルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソ−ペンチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピルである。
【0037】
シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどである。
【0038】
アルキル基は、本明細書中で定義されるように、状況に応じて、1つ以上の置換基で置換することができる。適切な置換基としては、以下が挙げられる:ハロ;ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル、トリクロロメチル);ヒドロキシ;メルカプト;フェニル;ベンジル;アミノ;アルキルアミノ;ジアルキルアミノ;アリールアミノ;ヘテロアリールアミノ;アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、プロポキシ、フェノキシ、ベンジルオキシなど);チオ;アルキルチオ(例えば、メチルチオ;エチルチオ);アシル(例えば、アセチル);アシルオキシ(例えば、アセトキシ);カルボキシ(−COH);カルボキシアルキル;カルボキシアミド(例えば、−CONH−アルキル、−CON(アルキル)など);カルボキシアリールおよびカルボキシアミドアリール(例えば、CONH−アリール、−CON(アリール));シアノ;またはケト(ここでは、CH基はC=Oによって置き換えられる)。
【0039】
本明細書中で使用される場合は、用語「アルケニル」によって、上記で定義されたように、エチレンモノ−、ジ−、またはポリ−不飽和アルキルまたはシクロアルキル基を含む、少なくとも1つのC=C二重結合を含む直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素残基から形成される基が示される。したがって、シクロアルケニルもまた意図される。炭素原子の数が特定されていない限りは、アルケニルは、好ましくは、C2−8アルケニルを意味する。より好ましくは、低級アルケニル(C2−6)であり、好ましくは、C2−5アルケニルであり、より好ましくは、C2−4アルケニルまたはC2−3アルケニルである。アルケニルおよびシクロアルケニルの例としては、以下が挙げられる:エテニル、プロペニル、1−メチルビニル、ブテニル、イソ−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、シクロペンテニル、1−メチル−シクロペンテニル、1−ヘキセニル、3−ヘキセニル、シクロヘキセニル、1−ヘプテニル、3−ヘプテニル、1−オクテニル、シクロオクテニル、1−ノネニル、2−ノネニル、3−ノネニル、1−デセニル、3−デセニル、1,3−ブタジエニル、1,4−ペンタジエニル、1,3−シクロペンタジエニル、1,3−ヘキサジエニル、1,4−ヘキサジエニル、1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル、1,3−シクロヘプタジエニル、1,3,5−シクロヘプタトリエニル、および1,3,5,7−シクロオクタテトラエニル。好ましいアルケニルは、直鎖または分岐鎖である。本明細書中で定義される場合は、アルケニル基は、置換されたアルキルについて上記に記載された状況に応じた置換基で、状況に応じて置換することができる。
【0040】
本明細書中で使用される場合は、用語「アルキニル」により、上記で定義されたように、エチニルモノ−、ジ−、またはポリ−不飽和アルキルまたはシクロアルキル基を含む、少なくとも1つのC≡C三重結合を含む、直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素残基から形成される基が示される。炭素原子の数が特定されていない限りは、この用語は、C2−6アルキニル(低級アルキニル)、好ましくは、C2−5アルキニル、より好ましくは、C2−4アルキニルもしくはC2−3アルキニルを意味する。例としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、ブチニル(異性体を含む)、およびペンチニル(異性体を含む)が挙げられる。好ましいアルキニルは、直鎖アルキニルまたは分岐したアルキニルである。本明細書中で定義される場合は、アルキニルは、アルキルについて上記に記載された状況に応じた置換基で、状況に応じて置換することができる。
【0041】
用語「アルコキシ」は、酸素で連結された場合の、それぞれのアルキル基を意味する。GA(1)は、17C位置を置換するメトキシ基(−OCH)を有する(すなわち、式IのRが−CHである)。この位置を置換することができる他の基としては、C−C直鎖または分岐鎖のアルコキシラジカル、好ましくは、エトキシおよびプロピルオキシが挙げられる。C−C直鎖もしくは分岐鎖のアルケノキシ、またはC−Cアルキノキシ基もまた、この位置に存在する場合がある。
【0042】
用語「アリール」は、芳香族炭化水素環システムの、1つの、多核の、結合させられたかまたは縮合させられた残基を示す。アリールの例は、フェニル、ビフェニル、およびナフチルである。アリール基は、本明細書中で定義されるように、1つ以上の置換基で状況に応じて置換することができる。したがって、「アリール」は、本明細書中で使用される場合は、置換されたアリールもまた意味する。
【0043】
本発明の化合物は、RがORを示す場合には、式I/IIのRの中のRについて以下の置換基を含む:低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンを示す(式中、Nは三級である場合も、また四級である場合もある)。
【0044】
最も好ましいR基は、3〜6員の複素環基であり、好ましくは、Nヘテロ原子を1つ含むヘテロアリール基である。3員(アジリジニル)および4員(アゼチジニル)ヘテロアリール環が最も好ましい。より大きな環(ピリジル、ピロリル、ピペリジニルなどを含む)もまた好ましい。
【0045】
より広範囲では、用語「ヘテロアリール」は、1つの、多核の、結合させられたまたは縮合させられた芳香族複素環システムを示す。ここでは、環炭化水素残基の1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換され、複素環芳香族残基が提供される。2つ以上の炭素原子が置換される場合は、置換原子は、2つ以上の同じヘテロ原子である場合も、また2つの異なるヘテロ原子である場合もある。Nに加えて、適切なヘテロ原子としては、O、S、およびSeが挙げられる。複素環には、単結合と二重結合が含まれ得る。本発明の範囲に含まれる基の例は、他のヘテロ原子、縮合環などを有している基であり、これには、チエニル、フリル、インドリル、イミダゾリル、オキサゾリル、ピリダジニル、ピラゾリル、ピラジニル、チアゾリル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、プリニル、キナゾリニル、フェナジニル、アクリジニル、ベノキサゾリル、ベンゾチアゾリルなどが含まれる。本明細書中で定義される場合は、ヘテロアリール基は、利用することができる環位置で、1つ以上の上記置換基(例えば、低級アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケノキシ基など)で、状況に応じてさらに1置換または2置換することができる。
【0046】
1つの好ましい実施形態においては、式I/II中のRは、1つ以上のアルキル、カルボキシ、アミド、またはアミノ基(例えば、−CH、−CHCH、−(CHCO、−(CHCHOR、−(CHCONHR、−(CHNHR、−(CHCONR、または−(CHCONR(式中、m=0〜3であり、RはH、アルキル、またはアリールであり、そしてRまたはRは、別々に、H、アルキル、アリール、またはアシルである))で置換された、置換されたアリール基である。式I中の他の好ましいR基としては、以下が挙げられる:フェニル;2−メチルフェニル;2,4−ジメチルフェニル;2,4,6−トリメチルフェニル;2−メチル、4−クロロフェニル;アリールオキシアルキル(例えば、フェノキシメチルまたはフェノキシエチル);ベンジル;フェネチル;2,3または4−メトキシフェニル;2,3または4−メチルフェニル;2,3または4−ピリジル;2,4または5−ピリミジニル;2または3−チオフェニル;2,4または5−(1,3)−オキサゾリル;2,4または5−(1,3)−チアゾリル;2または4−イミダゾリル;3または5−シントリアゾリル。
【0047】
アルキレン鎖は、例えば、Arndt−Eistert合成によって伸ばすことができる。ここでは、酸塩化物がCHの挿入によってカルボン酸に変換される。したがって、カルボン酸基は、例えば、SOClでの処理によって、その酸塩化物誘導体に変換することができる。酸塩化物誘導体は、ジアゾメタンと反応させてジアゾケトンを形成させることができ、これはその後、Ag/HOまたは安息香酸銀とトリエチルアミンで処理することができる。このプロセスを、アルキレン鎖の長さを伸ばすためにさらに繰り返すことができる。あるいは、アルデヒド(またはケト)基を、Wittig型反応(例えば、Ph(P)=CHCOMe)させて、α,β−不飽和エステルを生じさせることができる。この二重結合の水素化によって、2つの炭素原子によって長さが伸ばされた、アルキレン鎖が得られる。同様の様式で、他のホスホランを使用して、より長い(そして状況によっては、置換されている、分岐している、または不飽和の)炭素鎖を生じさせることができる。
【0048】
本発明の化合物には、Rについて記載されたものと同じである、式I/IIのR置換基を有しているものが含まれる。アンサマイシン環は、位置C17とC19の両方を、別々に置換することができるが、C17が置換されている場合には、RはHであることが好ましい。
【0049】
式I/IIの環位置22でNに結合したR置換基は、好ましくは、H(GAおよび本明細書中に例示される化合物においてはそうであるように)、または低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖および分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンである(式中、Nは三級である場合も、また四級である場合もある)。Nは、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロケニル、またはヘテロアリール環の一部である場合もあり、これは状況に応じて置換される。Nが環の一部である場合は、3〜6員環であることが好ましく、好ましくは、それ以上のヘテロ原子を含まないものである。アジリジニル、アゼチジニル、ピリジル、ピロリル、ピペリジニルなどが最も好ましい。
【0050】
O原子が式I/IIの環位置C11に結合させられ、これは、R基で置換される。Rは、最も好ましくは低級アルキルであるが、これは、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニルである場合もあり、その結果、C11に結合した部分は、アルコキシ部分であることが好ましいが、アルケノキシおよびアルキノキシ部分である場合もある。
【0051】
上記で開示される式I/IIの種々の置換基に加えて、位置C=C、C=C、およびC=Cの間の環二重結合は、単結合となるように水素化される場合がある。
【0052】
式I/IIの環の中の特定の位置での置換基の化学的操作に、他の可能性のある反応基の保護が必要である場合があることは明らかなはずである。適切な条件下での使用に適切な保護基、ならびにそれらの導入および除去のための方法は当該分野で周知であり、Green TWら,Protective Groups in Organic Synthesis,第3版,John Wiley and Son,1999(その内容は引用により本明細書中に組み入れられる)に記載されている。
【0053】
本発明の化合物は、状況に応じて、診断に有用であるか治療に有用である放射性核種を、その置換された環構造に結合させることも、またはその置換された環構造に含めることもできる。(下記を参照のこと)。化合物は、タンパク質に特異的に結合する標的化部分に結合させることができる。
【0054】
本発明の1つの実施形態においては、WO98/51702(前出)を考慮すると、本発明のGA誘導体(遊離のものであるか、または検出可能であるように標識されて標的化部分に結合されているかどうかにはかかわらず)は、この化合物がGA(化合物1)、化合物15、または17−(N−ヨードエチル−N−シアノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(放射性ヨウ素を含むもの、または含まないもの))ではないとの条件で、本明細書中に記載される化合物である。しかし、本発明の方法の実施形態には、本発明の使用がこの参考文献には開示されていないという事実に基づいて、このような排除される化合物も含まれる場合がある。
【0055】
本発明の別の実施形態においては、WO95/01342(前出)を考慮すると、遊離のものであるか、または標的化部分に結合させられているか、あるいは、本発明の化合物に対する検出可能な標識で標識されているかどうかにはかかわらず、GA誘導体は、この化合物がWO95/01342に開示されているもの、具体的には、15ページ19行目から17ページ12行目、または実施例2〜99に列挙されている化合物ではないとの条件で、本明細書中に記載される化合物である。この参考文献の実施例21には、本発明の化合物8が開示されているが、fMまたはfM未満の濃度で腫瘍細胞に対して活性であるその新しい特性は示唆されていない。
【0056】
本発明の別の実施形態においては、米国特許第5,932,566号(Schnurら,前出)を考慮すると、遊離のものであるか、または検出可能であるように標識されているか、または標的化部分に結合させられているかにはかかわらず、GA誘導体は本明細書中に記載される化合物である。ただし、この化合物は以下ではない:
17−アミノ−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−メチルアミノ−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−シクロプロピルアミノ−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−ヒドロキシエチルアミノ)−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2−メトキシエチルアミノ)−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−フルオロエチルアミノ)−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−s−(+)−2−ヒドロキシプロピルアミノ−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アゼチジン−1−イル−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(3−ヒドロキシアゼチジン−1−イル)−4,5−ジヒドロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アゼチジン−1−イル−4,5−ジヒドロ−11−α−フルオロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アゼチジン−1−イル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−シアノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−フルオロエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(2’−メトキシフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(3’−メトキシフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(4’−クロロフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(3’,4’−ジクロロフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(4’−アミノ−3’−ヨードフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−22−(4’−アジド−3’−ヨードフェナシル)−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アミノ−11−α−フルオロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アリルアミノ−11−α−フルオロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−プロパルギルアミノ−11−α−フルオロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−フルオロエチルアミノ)−11−α−フルオロ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アゼチジン−1−イル−11−(4’−アジドフェニル)スルファミルカルボニル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−(2’−フルオロエチルアミノ)−11−ケト−17−デメトキシゲルダナマイシン;
17−アゼチジン−1−イル−11−ケト−17−デメトキシゲルダナマイシン;および
17−(3’−ヒドロキシアゼチジン−1−イル)−11−ケト−17−デメトキシゲルダナマイシン。
【0057】
本発明の別の実施形態においては、WO2004/087045(前出)を考慮すると、遊離のものであるか、または標的化部分に結合させられているか、あるいは検出可能な標識で標識されているかにはかかわらず、GA誘導体は本明細書中に記載される化合物である。ただし、この化合物は、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;17−2−ジメチルアミノ)エチルアミノ]−デメトキシ−11−O−メチルゲルダナマイシン;または17−N−アゼチジニル−17ではない。しかし、本発明の方法の実施形態には、本発明の使用がその参考文献には開示されていないという事実に基づいて、このような排除される化合物が含まれる場合がある。
【0058】
(画像化のための放射性標識GA誘導体)
好ましい組成物は、本発明の検出可能であるように、または診断可能であるように標識されたGA誘導化合物であり、これには、好ましくは、インビボで画像化することができるものである検出可能な標識が共有結合させられる。好ましい検出可能な標識は放射性核種であり、具体的には、GA誘導体に容易に結合させることができるハロゲン原子である。
【0059】
Nを含む複素環(例えば、GA誘導体のアジリジン環、具体的には、17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(「17−ARG」(これは、本明細書中
では化合物15である))を開環させるためにHX酸を使用することによって、ハロゲン基X(=F、Br,Cl、I)を置換する化学反応は、このGA誘導体のフルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨード形態を作製することの詳細については比較的簡単である(実施例19を参照のこと)。放射性核種原子は共有結合させられる。このようなハロゲン化GA誘導体は、インビボで、研究、診断、および予後診断のための実験用動物モデルおよびヒトについての有用な造影剤であり得る。
【0060】
好ましい実施形態においては、17−(2−ハロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンは、実施例19に記載されるように、15を放射性HX酸(式中、Xは、18F、76Br、76Br、123I、124I、125I、または131I)と反応させることによって作製される。
【0061】
これらの核種のいくつかのの特性の概要が以下に示される(いくつかは、Vallabhajosula,S,Radiopharmaceuticals in Oncology,Chapter3,Nuclear Oncology:Diagnosis and Therapy(I Khalkhaliら編)Lippincott,Williams & Wilkins,Philadelphia,2001,p.33より得られる)。
【0062】
【化5】

【0063】
【化6】

125Iと131Iは、2つのさらなる放射性核種であり;いずれも、治療薬としての有用性と、さらには、診断的な有用性を有している可能性がある。125Iは電子の捕捉によって崩壊し、そしてオージェ電子と、β線とを放射する。131Iはβ放射体である。125Iは、小動物の画像化、例えば、シンチグラフィーまたは単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)による腫瘍の画像化のために特に有用である。SPECTの一般的な記述については、Heller,S.L.ら,Sem.Nucl.Med.17:183−199(1987);Cerquiera,M.D.ら,Sem.Nucl.Med.17:200−213(1987);Ell,P.J.ら,Sem.Nucl.Med.17:214−219(1987)を参照のこと。
【0064】
インビボでの画像化に使用される放射性核種である123Iは粒子は放射しないが、140〜200keVの範囲で多数の光子を生じる。これは、従来のγカメラで容易に検出することができる。
【0065】
これらのタイプの標識により、組織試料中のMetを保有している細胞の検出または定量が可能であり、したがって、Met(もしくはそのHGFへの結合)の発現またはその発現の増強が病理学的マーカーとしてもしくは診断マーカーとしての役割を担っているか、および/もしくは治療標的(特に、ガン)としての役割を果たす疾患において、診断ツールまたは予後診断ツールとして使用することができる。
【0066】
したがって、好ましい診断方法はPET画像診断法、シンチグラフィー分析、およびSPECTである。これらは、連続的な全身の画像を生じる様式で行うことができ、そして、定量的な「関心領域(ROI)」の分析によって局所的な活性の決定が可能である。特に、動物モデルについての画像化手順および分析の例は、Gross MDら,(1984)Invest Radiol 19:530−534;Hay RVら,(1997)Nucl Med Commun 18:367−378に記載されている。
【0067】
(薬学的組成物、それらの処方と使用)
式I/IIの化合物、およびそれらの薬学的に許容される塩は、非常に極めて強力な抗腫瘍薬/抗ガン剤として有用であり、HGF/SFとそのレセプターであるMetの間の特定の細胞性の相互作用、またはその後の結合を阻害することによって作用するようである。これらはまた、制御されていない細胞の増殖(例えば、EGFレセプター、NGFレセプター、PDGFレセプター、およびインシュリンレセプター)において重要な役割を担っている、他の成長因子/レセプター相互作用を阻害することにおいても有用であり得る。
【0068】
本発明の薬学的組成物には、当該分野で公知であるように、処方物中にFM−GAi化合物が含まれる。本発明の範囲内にある薬学的組成物には、fM−GAi化合物がその意図される目的を達成するために有効な量で含まれている全ての組成物が含まれる。個々の必要性は異なるが、それぞれの成分の有効量の最適範囲の決定は当業者の能力の範囲内である。典型的な投与量には、0.01pgから100μg/kg/体重、より好ましくは、1pgから100μg/kg体重、より好ましくは、10pg〜10μg/kg体重が含まれる。
【0069】
薬学的活性のある分子に加えて、薬学的組成物には適切な薬学的に許容されるキャリアが含まれる場合がある。これには、活性のある化合物の、当該分野で周知であるような薬学的に使用することができる調製物への処理を容易にする賦形剤および助剤が含まれる。注射または経口による投与のための適切な溶液には、賦形剤とともに、約0.01から99%の活性のある化合物(単数または複数)を含めることができる。
【0070】
本発明の薬学的調製物は、公知の様式で、例えば、従来の混合、造粒、溶解、または凍結乾燥プロセスによって製造される。適切な賦形剤としては、増量剤、結合剤、崩壊剤、助剤、および安定剤を挙げることができる。これらは全て当該分野で公知である。非経口投与に適している処方物としては、水溶性形態のタンパク質(例えば、水溶性の塩)の水溶液が挙げられる。化合物は、好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させられ、水性の静脈内(i.v.)処方物になるように混合されたDMSO溶液としてi.v.投与される(17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンの投与の記述については、Goetz JPら,2005、J.Clin.Oncol.2005、23:1078−1087を参照のこと)。別の化合物である17−(2−ジメチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンは、上記のようにDMSO中でi.v.で投与することも、また別の処方物で経口投与することもできる。本発明の化合物および方法については、好ましい溶媒は、標準的な水性のi.v.溶液になるようにさらに希釈されたDMSOである。
【0071】
さらに、適切な油状の注射懸濁液としての活性のある化合物の懸濁液が投与される場合がある。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油、例えば、ゴマ油または合成の脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド)が挙げられる。水性の注射懸濁液には、懸濁液の粘性を増大させる物質が含まれる場合がある。
【0072】
組成物は、凍結乾燥させられた粒子物質、滅菌または無菌的に生産された溶液、錠剤、アンプルなどの形態であり得る。水(好ましくは、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水中のように、生理学的に許容されるpHに緩衝化させられたもの)または適切な有機溶媒のようなビヒクル、他の不活性な固体物質もしくは液体物質(例えば、生理食塩水または種々の緩衝液)が存在する場合がある。特定のビヒクルは重要ではなく、当業者であれば、どのビヒクルを本明細書中に記載される任意の特定の用途に使用するかを知っているであろう。
【0073】
一般的な用語において、薬学的組成物は、本発明の高分子または高分子結合体を、1つ以上の非水溶性または水溶性の水性ビヒクルまたは非水性ビヒクルと混合する、その中に溶解させる、それらと結合させる、または別の方法で組み合わせることによって調製される。ビヒクル、キャリア、または賦形剤、さらには組成物の処方のための条件は、活性のある化合物の生物学的または薬学的活性に悪影響を及ぼさないことは絶対に必要である。
【0074】
(被験体、処置様式、および投与経路)
本発明の好ましい動物被験体は哺乳動物である。本発明は、ヒト被験体の処置に特に有用である。用語「処置する」によって、fM−GAi化合物を含む薬学的組成物の被験体への投与が意図される。処置には、臨床的な疾患の兆候の前にMet陽性腫瘍を発症するリスクのある被験体、ならびに、そのような腫瘍またはガンと診断された、まだ処置されていないかまたは他の手段(例えば、外科手術、従来の化学療法)によって処置されている被験体に薬剤を投与することが含まれ、その被験体の腫瘍組織量が検出できないレベルにまで減少させられる。したがって、本発明は、腫瘍の一次成長、腫瘍増殖の再発、浸潤、および/または転移、あるいは転移性の増殖を防ぐこと、または阻害することにおいて有用である。
【0075】
fM−GAi化合物が薬学的に許容される賦形剤またはキャリアと混合される本発明の薬学的組成物は、それらの意図される目的を達成する任意の手段によって投与することができる。投与のための量およびレジメンは、任意の特定の疾患の処置の臨床分野の当業者であれば容易に決定することができる。好ましい量は以下に記載される。
【0076】
本発明の活性のある化合物は、経口で、局所的に、非経口的に、吸入スプレーによって、直腸に、従来の非毒性の薬学的に許容されるキャリア、アジュバント、およびビヒクルを含む投与単位の処方物として投与することができる。
【0077】
一般的には、本発明の方法には、被験体の疾患および症状にについて任意の公知であり適切な経路を使用する、注射または注入を含む非経口的経路による投与が含まれる。非経口的経路には、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内、腹腔内、クモ膜下腔内、クモ膜下槽内、経皮、局所、直腸、または吸入が含まれる。直接の腫瘍内注射もまた含まれる。あるいは、または同時に、投与は経口経路によって行われる場合もある。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態、体重、現在行われている処置の種類(行われている場合)、処置の頻度、および所望される作用の性質に応じて様々である。好ましくは、本発明の活性のある化合物は、従来の非毒性の薬学的に許容されるキャリア、アジュバント、およびビヒクルを含む投与量単位処方物において投与される。
【0078】
1つの処置アプローチにおいては、複数の化合物と複数の方法が、外科手術と組み合わせて適用される。したがって、有効量のfM−AGi化合物が、腫瘍(原発腫瘍であるかまたは転移性腫瘍であるかにはかかわらず)の外科手術による切除部位に直接投与される。これは、開腹された外科手術部位に注射または「局所」投与によって、あるいは、縫合後に注射によって行うことができる。
【0079】
1つの実施形態においては、規定量の化合物(好ましくは、約1pg〜100μg)が
室温のヘパリン化された生理食塩溶液で1:1に稀釈された約700mlのヒト血漿に添加される。500μg/dlの濃度のヒトIgG(700mlの全容量中)もまた使用される場合がある。溶液は、室温で約1時間、静置される。その後、溶液の容器は、iv注入ラインに直接取り付けられ、約20ml/分の好ましい速度で被験体に投与される。
【0080】
別の実施形態においては、薬学的組成物は、被験体に直接i.v.注入される。適切な量(好ましくは、1pg〜100μg)が、約250mlのヘパリン化生理食塩溶液に添加され、約20ml/分の速度で患者にiv注入される。
【0081】
組成物は一度だけ投与することができるが、通常は、6回から12回(またはそれ以上、経験によって決定することは当業者の能力の範囲内である)投与される。処置は、毎日行うことができるが、一般的には、有用性と、被験体において観察される任意の毒性作用に応じて、2日毎から3日毎に行われるか、まれには1週間に1回行われる。経口経路による場合には、薬学的組成物(好ましくは、便利な錠剤またはカプセル剤の形態のもの)が1日に1回以上投与される場合もある。
【0082】
本発明にしたがう全身投与のための薬学的処方物は、腸、非経口的、または局所投与のために処方することができ、そして、3つのタイプの処方物は全て、有効成分の全身投与を達成するために同時に投与される場合がある。
【0083】
肺への滴下のためには、エアロゾル溶液が使用される。噴霧することができるエアロゾル調製物においては、活性のあるタンパク質または小分子薬剤が、固体または液体の不活性なキャリア物質と組み合わせられる場合がある。これは、スクイーズボトルに、または加圧された揮発性の、通常は気体の噴霧剤と混合して、パッケージすることができる。エアロゾル調製物には、溶媒、緩衝液、界面活性剤、および抗酸化剤を、本発明のタンパク質に加えて含めることができる。
【0084】
器官を包むさや(「皮膜」)の中に腫瘍が出現することにより、多くの場合には、器官のさやの中に多量の流体の生産および蓄積が生じる。例として、(1)肺周囲の肺のさやの中の流体が原因である胸水、(2)腹膜内での流体の蓄積によって生じる腹水、および(3)髄膜の転移性ガン腫が原因である脳水腫が挙げられる。このような滲出および流体の蓄積は、一般的には、疾患の進行した段階で生じる。本発明では、窩または空隙(例えば、腫瘍を含む、腹膜、外皮空隙、心嚢および胸膜の空隙)への直接の薬学的組成物の投与が想定される。すなわち、薬剤は、腫瘍細胞を含む液腔に、または腫瘍を含む胸膜、腹膜、心嚢、および外皮空隙のような膜の近くに直接投与される。これらの部位は、悪性の腹水、胸膜および心嚢の滲出、あるいは髄膜癌腫症を示す。薬剤は、好ましくは、流体(例えば、腹水、胸水、または心嚢の滲出)の一部または完全な排水の後に投与されるが、滲出、腹水、および/またはガン腫症を含む排水されていない空隙に直接投与される場合もある。一般的には、fM−CAi化合物の用量は、1フェムトグラムから10μgまで、好ましくは、1pgから1μgまでで変化し得、そして3日から10日毎に投与される。これは、腹水または滲出の再貯留がなくなるまで続けられる。治療応答は、最後の胸膜内投与の4週間後にさらなる貯留がないことと考えられる。
【0085】
局所投与については、活性のある化合物は、罹患した領域に活性成分を直接投与するための手段としての、軟膏(salve)または膏薬(ointment)のような局所塗布されるビヒクルに処方することができる。ワクチン接種の研究から知られている乱切方法もまた使用することができる。有効成分についてのキャリアは、噴霧することができる形態、または噴霧することができない形態のいずれであってもよい。噴霧することができない形態は、半固体または固体の形態であり得、これには、局所塗布に特有のキャリアが含まれ、好ましくは水よりも大きい動粘性係数を有している。適切な処方物としては、液剤、懸濁剤、乳濁剤、クリーム剤、膏薬(ointment)、粉剤、塗布薬、軟膏(salve)などが挙げられるが、これらに限定はされない。所望される場合には、これらは滅菌される場合も、また、助剤(例えば、保存剤、安定剤、湿潤剤、緩衝液、または浸透圧に影響を与える塩など)と混合される場合もある。噴霧することができない局所調製物についての好ましいビヒクルの例としては、膏薬基剤(例えば、ポリエチレングリコール−1000(PEG−1000);HEBクリームのような従来のクリーム剤;ゲル剤;ならびに石油ゼリーなどが挙げられる。
【0086】
本発明の他の薬学的に許容されるキャリアは、当該分野で公知の、リポソームまたは他の時限放出もしくは徐放キャリアまたは薬剤投与デバイスである。
【0087】
(化学療法薬および生物学的抗ガン剤との併用)
化学療法薬は、本発明の化合物と一緒に、当業者によって容易に決定される任意の従来の経路と用量で使用することができる。本発明において有用である抗ガン化学療法薬としては、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、ビンカ・アルカロイド、抗チューブリン薬、抗生物質、およびアルキル化剤が挙げられるが、これらに限定はされない。単独で、または組み合わせて使用することができる代表的な特異的な薬剤としては、シスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、カルミノマイシン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、タモキシフェン、タキソール、タキソテーレ、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、エトポシド(VP−16)、ベラパミル、ポドフィロトキシン、5−フルオロウラシル(5FU)、シトシンアラビノシド、シクロホスファミド、チオテパ、メトトレキセート、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、マイトマイシンC、アミノプテリン、コンブレタスタチン(単数または複数)、ならびにそれらの誘導体およびプロドラッグが挙げられる。
【0088】
適切である場合には、このような薬剤の任意の1つ以上、腫瘍遺伝子のシグナル伝達経路を標的化するさらに新しい薬剤、またはアポトーシスを誘導するかもしくは血管形成を阻害する新しい薬剤、ならびに、生物学的産物(例えば、核酸分子、ベクター、アンチセンス構築物、siRNA構築物、およびリボザイム)が、本発明の化合物および方法と組み合わせて使用される場合がある。このような薬剤および治療方法の例としては、放射線治療薬、抗腫瘍薬(例えば、植物、真菌、もしくは細菌に由来する毒素または凝固剤、リシンA鎖、脱グリコシル化されたリシンA鎖、リボソーム不活化タンパク質、サルシン、ゲロニン、アスペルギリン、レストリクチシン、リボヌクレアーゼ、エピポドフィロトキシン、ジフテリア毒素、またはシュードモナス外毒素)と結合させられた抗腫瘍抗体が挙げられる。腫瘍細胞を死滅させることができるか、あるいは腫瘍細胞の増殖または分裂を抑制することができるさらなる細胞傷害性の、細胞増殖抑制性の、または抗細胞性の薬剤としては、抗血管形成薬、アポトーシス誘導薬、凝固剤、プロドラッグ、または腫瘍標的化形態、チロシンキナーゼインヒビター、アンチセンスストラテジー、RNAアプタマー、siRNA、ならびにVEGFまたはVEGFレセプターに対するリボザイムが挙げられる。多数のチロシンキナーゼインヒビターのうちの任意のものが、本発明の化合物とともに、または本発明の化合物の後で投与された場合に有用である。これらとしては、例えば、4−アミノピローロ[2,3−d]ピリミジン(米国特許第5,639,757号)が挙げられる。VEGF−R2レセプターを介するチロシンキナーゼによるシグナル伝達を調節することができる有機低分子のさらなる例は、キナゾリン化合物および組成物である(米国特許第5,792,771号)。本発明と組み合わせて使用することができる他の薬剤は、ステロイド(例えば、アンギオスタチン(angiostatic)4,9(11)−ステロイドおよびC21−酸素化ステロイド)である(米国特許第5,972,922号)。
【0089】
サリドマイドおよび関連化合物、前駆体、アナログ、代謝産物、および加水分解産物(米国特許第5,712,291号および同第5,593,990号)もまた、血管形成を阻害するために組み合わせて使用される場合がある。これらのサリドマイドおよび関連化合物は経口投与することができる。腫瘍の退行を引き起こす他の抗血管形成薬としては、細菌の多糖CM101(現在臨床試験の段階にある)および抗体LM609が挙げられる。CM101は、腫瘍内で血管新生炎症を誘導し、VEGFおよびそのレセプターの発現をダウンレギュレートする。トロンボスポンジン(TSP−1)および血小板因子4(PF4)は、ヘパリンと結合し、血小板α顆粒の中で見られる血管形成のインヒビターである。インターフェロンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(MMPI)は、使用することができる、自然界に存在している血管形成インヒビターの2つの他のクラスである。メタロプロテイナーゼ(TIMP)の組織インヒビターは、自然界に存在しているMMPIのファミリーであり、これもまた血管形成を阻害する。他の十分に研究された抗血管形成薬はアンギオスタチン、エンドスタチン、バスキュロスタチン、カンスタチン、およびマスピンである。
【0090】
化学療法薬は、単剤としてまたは多剤の組み合わせとして、1回の処置サイクルについて全投与量または少ない投与量で投与される。低用量の単剤である化学療法薬との本発明の組成物の併用が特に好ましい。このような組み合わせにおける化学療法薬の選択は、根本的な悪性腫瘍の性質によって決定される。肺腫瘍については、シスプラチンが好ましい。乳ガンについては、微小管インヒビター(例えば、タキソテーレ)が好ましい。消化器系腫瘍が原因である悪性腹水については、5−FUが好ましい。「低用量」は、化学療法薬について使用される場合は、その薬剤についての承認されている(米国食品医薬品局(FDA)によって)投与量未満の10〜95%である単剤の用量を意味する。レジメンが併用化学療法から構成される場合は、それぞれの薬剤の用量は同じ割合に減少させられる。FDAで承認されている投与量の>50%の減少が好ましいが、治療効果は、このレベルよりも上または下で見られ、これには最小の副作用が伴う。種々の部位の多発性腫瘍は、fM−GAi化合物の全身投与によって、またはクモ膜下腔内投与もしくは腫瘍内投与によって処置される場合がある。
【0091】
主要なヒトの腫瘍の全てについての最適な化学療法薬および併用レジメンは、Bethesda Handbook of Clinical Oncology,Abraham Jら,Lippincott William & Wilkins,Philadelphia,PA(2001);Manual of Clinical Oncology,第4版,Casciato,DAら,Lippincott William & Wilkins,Philadelphia,PA(2000)に示されている。これらはいずれも、それらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる。
【0092】
(fM−GAi化合物のインビボ試験)
fM−GAi化合物は、ヒト腫瘍の典型と考えられる、十分に確立された齧歯類モデルにおいて治療効力について試験することができる。全体的なアプローチは、Geran,R.I.ら,“Protocols for Screening Chemical Agents and Natural Products Against Animal Tumors and Other Biological Systems(第3版)”,Canc.Chemother.Reports,Part 3,3:1−112;およびPlowman,Jら,Teicher,B,編,Anticancer Drug Development Guide:Preclinical Screening,Clinical Trials and Approval,Part II:In Vivo Methods,Chapter6,“Human Tumor Xenograft Models in NCI Drug Development,”Humana Press Inc.,Totowa,NJ,1997に詳細に記載されている。これらの参考文献はいずれも、それらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる。
【0093】
(ヒト腫瘍の異種移植モデル)
国立ガン研究所(NCI)によって行われた抗ガン剤の前臨床的発見および開発は、一連の試験手順、データのまとめ、および決定工程から構成されている(Grever,MR,Semin Oncol.,19:622−638(1992))。試験手順は、比較定量データが得られるように設計され、これによって、次いで、所定の化学的なクラスまたは生物学的なクラスから最良の候補の物質が選択できる。以下では、本発明者らは、前臨床薬の開発に現在使用されているヒト腫瘍の異種移植システム、特に、黒色腫について記載する。
【0094】
1975年から、薬剤の発見のためのNCIのアプローチには、i.p.移植されたマウスP388白血病モデル(上記を参照のこと)の中での化合物の予備スクリーニング、その後の、ヒトの固形腫瘍を含む移植可能な腫瘍のパネルの中での選択された化合物の評価が含まれる(Venditti,J.M.ら,Garrattini Sら,編,Adv.Pharmacol and Chemother 2:1−20(1984))。後者は、免疫不全胸腺欠損ヌード(nu/nu)マウスの開発、およびこれらのマウスへのヒト腫瘍異種移植片の移植によって可能になった(Rygaard,J.ら,Acta Pathol.Microbiol.Scand.77:758−760(1969);Giovanella,G.C.ら,J.Natl Canc.Inst.51:615−619(1973))。選択されたマウスおよびヒトの腫瘍細胞株(B16、A−375、LOX−IMVI黒色腫、およびPC−3前立腺腺ガン)の転移の可能性および実験用の薬剤の評価についてのそれらの適性を評価する研究は、解剖上適切である宿主組織への腫瘍材料の移植によって誘導されるインビボモデルの重要性を支持した;このようなモデルは、特異的な腫瘍タイプに対する活性を阻害する化合物の詳細な評価に十分に適している。1990年ごろから、NCIでは、大規模な薬剤のスクリーニングのためにヒト腫瘍細胞株が使用され始めた(Boyd,MR,in:DeVita,VTら,Cancer:Principles and Practice of Oncology,Updates,vol 3,Philadelphia,Lippinicott,1989、pp1−12;Plowman,前出)。7つのタイプのガン(脳腫瘍、結腸ガン、白血病、肺ガン、黒色腫、卵巣ガン、および腎臓ガン)に由来する細胞株が、広い範囲の供給源から獲得され、凍結させられ、一連のインビトロおよびインビボでの特性決定に供された。このアプローチで「化合物に向けられた」薬剤の発見から「疾患に向けられた」薬剤の発見へとスクリーニングストラテジーがシフトした(Boyd、前出)。疾患特異的なディファレンシャルな細胞傷害性を示す、スクリーニングによって同定した化合物が、さらなる前臨床的評価のための「手掛かり」と考えられた。一連のヒト腫瘍の異種移植モデルは、そのような要件に対応するように作成された。
【0095】
マウスで確立させた最初の固形腫瘍は、腋窩の近くにs.c.移植した30〜40mgの腫瘍断片の連続継代によって維持される。異種移植片は、一般的には、容積倍加時間が安定するまで、通常は4回または5回の継代の間は、薬剤の評価には利用されない。
【0096】
異種移植片のインビボでの増殖特性により、特に、異種移植片が初期段階のs.c.モデルとして利用される場合には、試験薬剤の抗腫瘍活性の評価における使用についてのそれらの適性が決定される。本明細書中で使用される場合は、初期段階のs.c.モデルは、処置の開始前にその腫瘍が63〜200mgの段階にあるものと定義される。腫瘍を評価することにおいて考慮される増殖特性としては、割合(take−rate)、200mgに達するまでの時間、倍加時間、および自発的な退行のしやすさが挙げられる。より早く増殖する腫瘍は、より高い評価が与えられる傾向があることが注目され得る。
【0097】
当該分野で公知の多数のトランスジェニックマウスモデルのうちの任意のものを、本発明の化合物を試験するために使用することができる。特に有用なマウスのヒトHGF/SFトランスジェニックモデルは、本発明者らとその共同研究者らのものに記載されており、インビボでヒト腫瘍の異種移植片に対して本発明の化合物を試験するために使用することができる。Zhang YWら,(2005)Oncogene 24:101−106;米国仮特許出願第60/587,044号を参照のこと(これらはそれらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる)。他のより以前から公知のモデルは以下に記載される。
【0098】
(進行した段階の皮下異種移植モデル)
このようなs.c.移植された腫瘍異種移植モデルは、臨床的に関係している活性のパラメーター(例えば、部分退行および完全退行、ならびに寛解の期間)を決定することを可能にする条件下で、試験薬剤の抗腫瘍活性を評価するために使用される(Martin DSら、Cancer Treat Rep 68:37−38(1984);Martin DSら、Cancer Res.46:2189−2192(1986);Stolfi,RLら、J.Natl Canc Inst 80:52−55(1988))。腫瘍の増殖がモニタリングされ、腫瘍が100〜400mgの重量範囲に達すると(分類日(staging day)、重量の中央値約200mg)、試験薬剤での処置が開始されるが、異種移植片に依存して、腫瘍はより大きいサイズで分類される(staged)場合がある。腫瘍の大きさおよび体重は、およそ2回/週で得られる。(Information Technology Branch of DTP of the NCIのスタッフによって開発された)ソフトウェアプログラムを通じてデータが保存され、効果についての種々のパラメーターが計算され、データが、グラフおよび表の両方の形式で提示される。毒性および抗腫瘍活性のパラメーターは以下のように定義される:
1.毒性:薬物関連の死(DRD)および平均の正味の体重の減少に対する最大割合の両方が決定される。処置された動物の死は、最後の処置後15日以内に動物が死亡し、そして、その腫瘍の重量がコントロールのマウスにおける致死的な量よりも小さいか、または死亡時のその正味の体重の減少が、死亡時または屠殺時のコントロールについての平均の正味の体重の変化よりも20%大きいかのいずれかである場合に、処置に関係していると推測される。DRDはまた、研究者によって指定される場合もある。それぞれの観察日での各群のマウスの平均の正味の体重は、分類日の平均の正味の体重と比較される。生じた何らかの体重の減少は、分類日の体重の割合として計算される。これらの計算はまた、コントロールマウスについても行われる。なぜなら、いくつかの異種移植片の腫瘍増殖は、体重に対して悪影響を有するからである。
【0099】
2.最適なT/C%:各処置群(T)およびコントロール群(C)の腫瘍の重量(A重量)の変化は毎日計算され、腫瘍は、特定の観察日の腫瘍の重量の中央値から最初の処置日(分類日)の腫瘍の重量の中央値を引くことによって測定される。これらの値は、T/Cのパーセントを計算するために、以下のように使用される:
T/C%=(ΔT/ΔC)×100、ここでは、ΔT>0または
=(ΔT/T)×100、ここでは、ΔT<0 (1)
そして、Tは処置の開始時の腫瘍の重量の中央値である。初回の処置過程の終了後に得られた最適(最小)値が、抗腫瘍活性を定量化するために使用される。
【0100】
3.腫瘍増殖の遅延:これは、処置された群の重量が特定の数の倍加に達する(その分類日の重量からの)ことにおいて遅れる割合として、以下の式を使用してコントロールと比較して表される:
[(T−C)/C]×100 (2)
ここで、TおよびCは、それぞれ、処置群およびコントロール群についての、特定の大きさ(腫瘍を有していないマウスおよびDRDを除く)に達するまでの時間の中央値(日数)である。増殖の遅延は、腫瘍の増殖速度を考慮してコントロールのパーセントとして表される。なぜなら、(T−C)のみに基づく増殖の遅延は、腫瘍の増殖速度の差をともなって有意に異なるからである。
【0101】
4.正味の対数での細胞の死滅:処置の終了時に死滅した細胞のlog10単位の数の概算は以下のように計算される:
{[(T−C)−処置期間]×0.301/倍加時間の中央値} (3)
ここで、「倍加時間」は、200mgから400mgに腫瘍の大きさが増大するために必要な時間であり、0.301は2のlog10であり、TおよびCは、処置された腫瘍およびコントロールの腫瘍についての、特定の数の倍加に達するまでの時間の中央値(日数)である。処置期間が0である場合は、正味の対数での細胞の死滅についての式、および対数での細胞の死滅が増殖の遅延の割合と比例する増殖の遅延のパーセントから見ることができる。0の対数での細胞の死滅は、処置の終了時の細胞の集団が処置の開始時と同じであることを示す。+6の対数での細胞の死滅は、細胞集団の99.9999%の減少を示す。
【0102】
5.腫瘍の退行:臨床関連の終点としての動物モデルにおける腫瘍の退行の重要性は、幾人かの研究者らによって提議されている(Martinら、1984,1986、前出;Stolfiら、前出)。退行は、腫瘍の重量が処置の開始時の腫瘍の重量の50%以下に減少し、63mg(5×5mmの腫瘍)未満にならない場合に、部分的と定義される。完全退行(CR)および腫瘍のない状態で生存しているものはいずれも、実験期間の間に、腫瘍量が測定できる限界以下にまで小さくなる(<63mg)という事例によって提議される。2つのパラメーターは、最後の観察日の前の、腫瘍の再生(CR動物において)または再生がないこと(腫瘍を有さない動物において)のいずれかの観察によって異なる。当業者は、より小さい腫瘍を測定することができるが、4×4mmまたは5×5mm(それぞれ、32および63mg)よりも小さいs.c.腫瘍の測定の精度には疑問がある。また、一旦、比較的大きい腫瘍が63mgにまで退行すると、残っている腫瘍の組成は、繊維性の物質/瘢痕組織だけである場合がある。処置の中断後の腫瘍の再生の測定によって、腫瘍細胞が処置をこえて生存したか否かについてのより信頼できる指標が提供される。
【0103】
s.c.で増殖するほとんどの異種移植片は、進行した段階のモデルに使用することができるが、いくつかの腫瘍については、研究期間は腫瘍の壊死によって制限され得る。上記のように、このモデルによって、臨床的に関連するパラメーターの測定が可能であり、そして腫瘍の増殖に対する試験薬剤の効果についての豊富なデータが提供される。また、分類日から、研究者らは、血管形成が腫瘍の領域において生じ、分類によって、「所見がないもの(no−take)」を実験から排除することができる。しかし、このモデルは、時間およびマウスに関してコストがかかり得る。ゆっくりと増殖する腫瘍については、マウスに腫瘍を移植することが十分にできるようになるまでに必要な継代時間は、少なくとも約4週間であり、さらに2〜3週間が、腫瘍を分類できるようになるまでに必要である場合がある。腫瘍を分類するためには、実際の薬物試験に必要とされるよりも、さらに多くのマウス(50〜100%さらに多い)に移植しなければならない。
【0104】
(初期の処置および初期段階の皮下異種移植モデル)
これらのモデルは、進行した段階のモデルと似ているが、処置が腫瘍の発生に関してより早い時期に開始されるので、有用な腫瘍は、≧90%の割合(take−rate)(または<10%の自発的な退行速度)を有している腫瘍である。「早期処置モデル」は、処置が腫瘍が測定可能になる前(すなわち、<63mg)に開始されるモデルと定義される。「初期段階」のモデルは、処置が、腫瘍の大きさが63〜200mgの範囲である時点で開始されるモデルである。63mgの大きさは、これが元の移植片(約30mg)がいくらかの増殖を示したことを示すので、使用される。毒性のパラメーターは、進行した段階のモデルについてのパラメーターと同じであり;抗腫瘍活性のパラメーターも同様である。%T/C値は、腫瘍の重量の変化(Δ)として測定される代わりに、各観察日での腫瘍の重量の中央値から直接計算され、そして増殖の遅延は、腫瘍が特定の大きさ(例えば、500または1000mg)に達するために必要な移植後の日数に基づく。腫瘍を有していないマウスが記録されるが、ビヒクルで処置されたコントロール群が、同様の増殖特性を有しているマウスの>10%を含む場合には、「所見がないもの」または自発的な退行として指定される場合もある。「所見がないもの」は、確立させること、および徐々に増殖させることができなかった腫瘍である。自発的な退行(移植の失敗)は、増殖期間の後、その最大の大きさの≦50%に減少した腫瘍である。腫瘍の退行は、通常は記録されない。なぜなら、これらは、初期段階のモデルにおいては、必ずしも抗腫瘍性効果の良好な指標ではないからである。早期処置モデルの主要な利点は、全ての移植されたマウスを使用する能力であり、これは、良好な腫瘍の採取割合(take−rate)が必要とされるとの理由からである。実際には、このモデルに最も適している腫瘍は、より早く増殖するものである傾向がある。
【0105】
(チャレンジを生き残るモデル)
別のアプローチでは、宿主の寿命に対するヒト腫瘍の増殖の効果が決定される。最後の観察日の前に瀕死の状態または広い範囲に及ぶ腹水に起因して死亡したかまたは屠殺された全てのマウスが、処置群(T)およびコントロール群(C)についての死亡日の中央値を計算するために使用される。これらの値は、寿命の延長(「ILS」)の割合を計算するために、以下のように使用される:
ILS%=[(T−C/C)]×100 (4)
可能な場合、滴定群が、log10での細胞の死滅の計算に使用される腫瘍の倍加時間を確立させるために含められる。死亡(または屠殺)は、目視観察および/または剖検の結果に基づいて、薬物関連と指定され得る。別の方法では、処置された動物の死は、死亡日がコントロールの平均死亡日よりも前にある場合(−2SD)、または動物が最後の処置後15日以内に腫瘍の兆候を示さずに死亡した場合には、処置関連と指定される。
【0106】
(標準薬剤に対する異種移植動物モデルの応答)
進行した段階のs.c.異種移植モデルについての薬物感受性プロフィールを得ることにおいては、試験薬剤は、多用量レベルでのi.p.投与後に評価される。活性の割合は、所定の腫瘍の倍加時間に基づいて選択された所定の処置スケジュールについての各薬物の最大耐用量(<LD20)を用いて得られる最適効果に基づき、よりゆっくりと増殖する腫瘍については処置の間の間隔はより長い。
【0107】
Plowman,J.ら、(前出)に記載されているように、少なくとも最少の抗腫瘍効果(%T/C≦40)が、少なくとも2つ、そして10個ほどの臨床薬物によって黒色腫の群において生じた。応答の数は、倍加時間と、腫瘍について観察される応答の数の範囲を含む組織のタイプに無関係であるようであった(他の腫瘍のタイプのそれぞれのサブパネルにも見られる)。応答が、腫瘍の部分退行または完全退行のより臨床的に関係する終点に関して考えられる場合には、これらの腫瘍モデル(全ての腫瘍にわたる)は、標準薬物療法に関しては極めて難治性であり;全部で48の腫瘍のうちの30の腫瘍(62.5%)は、試験された薬物のいずれにも応答しなかった。
【0108】
(インビボでの最初の化合物の評価のためのストラテジー)
インビトロでの最初のスクリーニングは、インビボでの追跡試験のための使用に最も適している腫瘍株を選択するための基準を提供する。ここでは、それぞれの化合物は、インビトロで薬剤に対して最大の感受性を示す細胞株に由来する異種移植片に対してのみ試験される。インビボ試験のための初期のストラテジーでは、進行した段階の腫瘍を有している動物の処置が重視される。
【0109】
本明細書での用量の選択を導くために利用することができる特異的な情報に基づいて、代表的な試験薬剤について使用される用量よりもはるかに低い用量が選択される。1匹のマウスは、好ましくは、1pg/kgと1mg/kgとの間の1回のipボーラス用量で処置され、14日間観察される。連続する3用量の研究が、必要に応じて、致死量未満の用量範囲が確立されるまで行わ得る。試験薬剤は、その後、好ましくは、インビトロで試験薬剤に対して最も敏感であり、初期段階のモデルとしての使用に適している腫瘍の内の1つを使用する3つのs.c.異種移植モデルにおいて評価される。化合物は、必要に応じて、いくつかの例外を含むが、腫瘍の重量の倍加時間に基づくスケジュールで、懸濁液としてip投与される。例えば、1.3〜2.5日、2.6〜5.9日、および6〜10日の倍加時間については、好ましいスケジュールは、5回の処置を毎日(qd×5)、3回の処置を4日おきに(q4d×3)、および3回の処置を7日おき(q7d×3)である。ほとんどの腫瘍については、個々の処置の間隔は、ほぼ腫瘍の倍加時間であり、そして処置期間によってコントロールの腫瘍増殖の0.5〜1.0のlog10単位が可能である。100〜200mgの段階の腫瘍については、処置の終了時のコントロールの腫瘍の大きさは、500〜2000mgの範囲にあるはずであり、これによって、処置の後に試験薬剤の作用を評価するために十分な時間が、腫瘍の大きさに起因してマウスを屠殺することが必要となる前に、提供される。
【0110】
(詳細な薬物の研究)
一旦、最初の評価においてインビボでの効力が実証されたとして化合物が同定されると、より詳細な研究が、化合物の治療効力をさらに研究するためにヒト腫瘍の異種移植モデルにおいて設計され、行われる。濃度および腫瘍細胞と宿主との薬物に対する曝露時間を変化させることにより、抗腫瘍活性を最適化するように、設計された処置ストラテジーを考案し、推奨することが可能である。
【0111】
試験薬剤の抗腫瘍効果に対する「濃度×時間」の重要性は、アミノ−20M−カンプトテシンを用いて得られるデータによって十分に説明された(Plowman,J.ら、1997、前出)。これらの結果は、より長い時間の間、閾値を上回る血漿濃度を維持することが、最適な治療効果には必要であることを示唆した。
【0112】
(転移の異種移植モデル)
本発明の化合物はまた、Crowley,C.W.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5021−5025(1993)に記載されているような実験用の転移モデルを使用して、後期での転移の阻害について試験される。後期での転移には、腫瘍細胞の付着および管外遊出、局所浸潤、播種、増殖および新脈管形成の工程が含まれる。レポーター遺伝子(好ましくは、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子)で(または、その代わりに、酵素であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼまたはLacZをコードする遺伝子で)トランスフェクトされたヒトの黒色腫細胞がヌードマウスに接種される。これにより、これらのマーカーのいずれか(GFPの蛍光の検出または酵素活性の組織化学的比色検出)をこれらの細胞の運命を追跡するために利用することができる。細胞は、好ましくは、ivで注射され、約14日後に転移が(特に、肺、または局所リンパ節、大腿、および脳においても)同定される。これは、ヒトの黒色腫の自然に生じる転移の器官向性を模倣する。例えば、GFPを発現する黒色腫細胞(1匹のマウスについて10個の細胞)は、ヌードマウスの尾静脈にi.v.注射される。動物は、100μg/動物/日の試験組成物のq.d.IPで処置される。1つの転移性の細胞および病巣が視覚化され、蛍光顕微鏡または光学顕微鏡による組織化学、あるいは、組織を粉砕し、そして検出可能な標識の定量的比色アッセイによって定量される。
【0113】
それぞれのマウスは、主要な器官全体にわたって転移の存在をさらに記録するために、組織病理学的研究および免疫細胞化学研究に供される。コロニーの数および大きさ(最大直径)を、デジタル画像分析(例えば、Fu,Y.S.ら、Anat.Quant.Cytol.Histol.11:187−195(1989)に記載される)によって表にすることができる。
【0114】
コロニーの決定のために、肺、肝臓、脾臓、大動脈傍リンパ節(para−aortic lymph nodes)、腎臓、副腎、およびs.c.組織の外植片が洗浄され、1〜2mmの断片に細かく刻まれ、断片はTekman組織杵(pounder)で5分間粉砕される。粉砕された内容物は、篩にかけて濾過され、解離媒体(10%のFCS、200U/mlのI型コラゲナーゼおよび100μg/mlのI型DNaseが補充されたMEM)の中で、ゆっくり攪拌しながら37℃で8時間インキュベートされる。その後、得られた細胞懸濁液が洗浄され、通常の媒体(例えば、選択用抗生物質(G−418またはハイグロマイシン)が補充された10%のFCSを含むMEM)中に再懸濁される。外植片が加えられ、腫瘍細胞のクローンの増殖の数が、エタノールでの固定、および適切なリガンド(例えば、腫瘍細胞マーカーに対するモノクローナル抗体)での染色後に決定される。コロニーの数が、80cmの面積全体について計数される。所望される場合は、並行する実験のセットを行うことができ、この場合は、クローンの増殖は固定も染色もされず、その代わりに、クローニング環を用いて新たに回収され、その後、コラゲナーゼの分泌(物質のゲル電気泳動による)とマトリゲルへの浸潤のような他の測定のために数個のみに分割された後プールされる。
【0115】
マトリゲル浸潤アッセイは本明細書中に記載されているが、他の者によって記載されたアッセイを使用することもできる(Hendrix,M.J.C.ら、Cancer Lett.,38:137−147(1987);Albini,A.ら、Cancer Res.47:3239−3245(1987);Melchiori,A.,Cancer Res.52:2353−2356(1992)。
【0116】
全ての実験は、好ましくは10匹のマウスを有する群を用いて行われる。結果は、標準的な統計的検定を用いて分析される。
【0117】
腫瘍に応じて、等数の腫瘍細胞のs.c.による隣接部位への注射の1週間後に、0.2〜10×10個の腫瘍細胞がi.v.注射され、その後、さらに5週間の間隔で、血行性:自発的な肺転移の割合、および評価のために便利である全体の肺腫瘍組織量を得る。このモデルは、脾臓、肝臓、腎臓、副腎、大動脈傍リンパ節、およびs.c.部位から多数の肺外の転移性クローン(これらのほとんどは、おそらく、局所的に増殖する腫瘍からの自発的な転移を示す)の回復をプロット(peroit)し得る。
【0118】
(処置手順)
試験組成物の用量は、特に、目的のガンの腫瘍についての適切な動物モデルを使用して、上記のように決定される。本発明の薬学的組成物が投与される。処置は、200mlの通常の生理食塩水中の0.001ng、1ng、100ng、および100ngの化合物を、1時間かけて被験体に静脈内注射することからなる。処置は、3回/週で、全部で12回の処置が行われる。安定な疾患または退行しつつある疾患を有している患者は、12回を超える処置で処置される。処置は、必要に応じて、通院患者基準または入院患者基準のいずれかで行われる。
【0119】
(患者の評価)
治療に対する腫瘍の応答の評価は、治療の間およびその後の30日間にわたって、1週間に1回行われる。処置に対する応答、副作用、および患者の健康状態に応じて、処置は終了されるか、または上記の標準的なプロトコールから延長される。腫瘍の応答についての基準は、International Union Against Cancerによって確立された基準であり、以下に列挙される。
【0120】
【化7】

患者の集団における治療の効率は、従来の統計学的方法を使用して評価され、これには、例えば、χ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定が含まれる。測定値の長期的変化および短期的変化を、別々に評価することができる。
【0121】
(結果)
150人の患者が処置される。結果は以下にまとめられる。ポジティブな腫瘍応答(少なくとも、部分寛解)は、以下のように患者の80%以上で観察される:
応答
PR 66%
<PR 20%
PR+<PR 86%
(毒性:)
副作用の発生率は、処置全体の10%と1%未満との間であり、臨床的には有意ではない。
【0122】
本発明に有用であるGA誘導化合物については、これは、本明細書中に記載されるインビトロアッセイ、生化学的アッセイ、または分子アッセイの少なくとも1つにおいて、フェムトモルレベルで活性を示すはずであり、インビボでもまた強い抗腫瘍活性を有するはずである。
【0123】
ここで、本発明は一般的に記載されるが、本発明は、例示の目的で提供され、特に明記されない限り、本発明を限定することは意図されない以下の実施例を参照してさらに容易に理解される。
【実施例】
【0124】
(実施例1〜19)
(ゲルダナマイシンおよび誘導体の合成ならびに/または特徴付け)
一般的方法。融点は校正しない。赤外スペクトルを、Matton Galaxy Series FTIR 3000分光光度計で記録した。紫外線−可視光線スペクトルを、Hitachi U−4001分光光度計で記録した。Hおよび13C NMRスペクトルを、Varian Inova−600分光光度計、UnityPlus−500分光光度計、VRX−500分光光度計、またはVRX−300分光光度計で記録した。すべての配置において使用した番号付けは、他の場所で明記されていない限りは、GA環システムに基づいた(Sasaki,Kら、J.Am.Chem.Soc.92:7591(1970))。質量スペクトルは、MSU Mass Spectropetry Facilityによって行った。GAおよびマクベシンIIは、国立癌研究所から提供された。マクベシンIは、公開されている手順(Muroi,Mら、1980)にしたがってマクベシンIIから合成した。ラディシコールは市販のものを入手した(Sigma−Aldrich)。無水溶媒は標準的な方法を使用して精製した。
【0125】
(実施例1)
((+)−ゲルダナマイシン(1))
【0126】
【化8】


【0127】
(実施例2)
(17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(4))
(Schnur,RCら、1995a、1995b)(+)−ゲルダナマイシン(5.1mg、9.0μmol)をクロロホルム(1.5ml)中でアルキルアミン(10.0μl、0.13mmol)と一緒に室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによりGAの完全な変換が示された際(18時間)に、この混合物をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。シリカゲル(ヘキサン/酢酸エチル)上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーによる分離により、生成物を紫色の固体として得た(5.3mg、99%)。
【0128】
【化9】


【0129】
((4)のヒドロキノン形態:17−アリルアミノ−17−デメトキシ−18,21−ジヒドロゲルダナマイシン(DHAAG))
17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(3.2mg、5.5μmol)を酢酸エチル(3.0ml)に溶解させ、その後、亜ジチオン酸ナトリウムの水溶液(2.5ml)(約85%、0.50g、2.4mmol)を添加した。この混合物を室温で2時間攪拌した。窒素保護下で、淡い黄色の有機相を分離し、ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して、生成物を暗い黄色の固体として得た(3.0mg、93%)。
【0130】
【化10】


【0131】
(実施例3)
(17−(2−ジメチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(5))
(Egorin,MJら、2002)。N,N−ジメチルエチレンジアミン(6.0μl、0.055mmol)を、クロロホルム(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(4.3mg、7.7μmol)の溶液に添加した。この混合物を室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(4時間)際に、混合物を0.5%の水酸化ナトリウム水溶液およびブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)によって分離により、生成物を紫色の固体として得た(4.5mg、95%)。
【0132】
【化11】


【0133】
(実施例4)
(17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(6))
(Schnurら、1995b;Li,LHら、1977;Sasaki,Kら、1979)。濃縮したアンモニア水溶液(28%、0.70ml、0.010mol)を、アセトニトリル(5.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシンの溶液(5.0mg、9.0μmol)に、室温で添加した。黄色の溶液は、ゆっくりと暗い赤色へと変化した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(5時間)際に、混合物を酢酸エチルとブラインとの間に分配させた。有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって固形残渣を分離することにより、生成物を暗い赤色の固体として得た(4.6mg、95%)。
【0134】
【化12】


【0135】
(実施例5)
(17−(2−クロロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(7))
(Sasakiら、前出)。水酸化ナトリウム水溶液(2.80M、0.75ml、2.1mmol)を、アセトニトリル(3.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(11.7mg、0.021mmol)と2−塩酸クロロエチルアミン(242mg、2.1mmol)の混合物に添加した。この混合物を室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(20時間)際に、この混合物を酢酸エチルとブラインとの間に分配させた。有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(12.0mg、95%)。
【0136】
【化13】


【0137】
(実施例6)
(17−(2−フルオロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(8))
(Schnurら、1995b)。水酸化ナトリウム水溶液(1.10M、0.53ml、0.58mmol)を、アセトニトリル(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(5.5mg、9.8μmol)および2−塩酸フルオロエチルアミン(65mg、0.59mmol)の混合物に添加した。この混合物を室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(12時間)際に、この混合物を酢酸エチルとブラインとの間に分配させた。有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(5.7mg、98%)。
【0138】
【化14】


【0139】
(実施例7)
(17−(2−アセチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(9))
(Schnurら、1995b)。N−アセチルエチレンジアミン(90%、10.0μl、0.094mol)を、クロロホルム(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(5.0mg、8.9μmol)の溶液に、室温で添加した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(10時間)際に、この混合物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(4.5mg、80%)。
【0140】
【化15】


【0141】
(実施例8)
(17−(6−アセチルアミノ−1−ヘキシル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(10))
クロロホルム中の(+)−ゲルダナマイシン(5.7mg、0.010mmol)およびN−(6−アミノヘキシル)アセトアミド(5.5mg、0.035mmol)の溶液を、室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(20時間)際に、この混合物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(5.7mg、82%)。
【0142】
【化16】


【0143】
(実施例9)
((+)−ビオチン 17−(6−アミノヘキシル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシンアミド(11))
1,6−ジアミノへキサン(10.0mg、0.086mmol)を、クロロホルム(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシンの溶液(5.0mg、8.9μmol)の溶液に、室温で添加した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(20時間)際に、この混合物を0.5%の水酸化ナトリウム水溶液およびブラインで洗浄し、炭酸カリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。その後、得られた暗い紫色の固体を、DMF(1.0ml)中で(+)−ビオチン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(3.0mg、8.8μoml)とともに一晩攪拌した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)によって溶媒を除去し、分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(6.5mg、85%)。
【0144】
【化17】


【0145】
(実施例10)
(17−[2−[2−(2−アセチルアミノエトキシ)エトキシ]エチル]アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(12))
クロロホルム(1.0ml)中の2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)(56.0μl、0.38mmol)、無水酢酸(46.0μl、0.48mmol)、およびトリエチルアミン(73.2μl、0.52mmol)の混合物を、室温で1時間攪拌し、その後、高減圧下で濃縮して乾燥させた。無色の固体残渣を、その後、クロロホルム(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(4.0mg、7.1μmol)とともに攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(20時間)際に、この混合物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)によって分離することにより、所望の生成物を紫色の固体として得た(1.1mg、21%)。
【0146】
【化18】


【0147】
(実施例11)
(17−カルボキシメチルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(13))
(+)−ゲルダナマイシン(3.1mg、5.5μmol)を、エタノール(1.2ml)と水(0.3ml)との混合液中のグリシンナトリウム塩(10.7mg,0.11mmol)と一緒に室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(3時間)際に、紫色の混合物を希塩酸で酸性化し、クロロホルムと蒸留水との間で分配させた。この有機相を、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(3.2mg、96%)。
【0148】
【化19】


【0149】
(実施例12)
(17−(1−アゼチジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(14))
(Schnur,RCら、1994)。アゼチジン(4.0μl、0.059mmol)を、ジクロロメタン(1.5ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(7.5mg、0.013mmol)の溶液に、攪拌しながら添加した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(40分間)際に、この混合物をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を深い紫色の固体として得た(7.7mg、98%)。
【0150】
【化20】


【0151】
(実施例13)
(17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(15))
アジリジン(Allen,CFHら、1963)(0.30ml、5.80mmol)を、ジクロロメタン(2.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(5.8mg、0.010mmol)の溶液に添加した。この混合物を室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された(25分間)際に、この混合物をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって分離することにより、生成物をオレンジ色の固体として得た(5.6mg、95%)。
【0152】
【化21】


【0153】
(実施例14)
(5’−ブロモゲルダノキサジノン(16))
3−ブロモ−4−ニトロフェノールおよび3−ブロモ−6−ニトロフェノール。12mlの氷酢酸中の3.8mlの発煙硝酸(89mmole)を、周囲を氷浴で囲まれたフラスコの中の60mlの氷酢酸中の15.2グラム(87.9mmole)の3−ブロモフェノールの溶液に、35分間かけて添加した。この反応物を、さらに30分間室温で攪拌し、その後、反応物を氷上に注いだ。その後、これを減圧下で濃縮した。シリカゲル上での中程度の速度のクロマトグラフィー(medium pressure chromatography)(溶離液として1:2酢酸エチル:ヘキサン)によって、生成物である3−ブロモ−4−ニトロフェノール(3.47グラム、15.9mmol、18%の収率);m.p.130〜131℃を分離し、その後、エーテル/へキサンから再結晶化させた(報告されているm.p.130〜131℃(Wright,Cら、1987)および131℃(Hodgson,HHら、1926);
【0154】
【化22】


【0155】
2−アミノ−5−ブロモフェノール。3−ブロモ−6−ニトロフェノール(0.292グラム、1.34mmole)を、0.5%の水酸化ナトリウム水溶液(30mL)中で攪拌した。ヒドロ亜硫酸ナトリウム(85%の2.00グラム、9.76mmol)を反応フラスコに添加し、これを室温で15分間攪拌した。その後、反応フラスコを希塩酸で、pHが5になるまで酸性化した。次いで、この反応物を40mL部のジエチルエーテルで3回抽出し、合わせた有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮して、粗2−アミノ−5−ブロモフェノール(0.533グラム、m.p.99.5〜100.5℃)を得た。これを、エチルエーテル/へキサンから再結晶化させて、純粋な生成物を得た(0.151グラム、0.80mmol、60%の収率;m.p.125〜127℃(分解)(報告されているm.p.149.5〜150.5℃(Boyland,Eら、1954);
【0156】
【化23】


【0157】
5’−ブロモゲルダノキサジノン(16)(Webbら、前出;Rinehart,KLら、1977)。氷酢酸(2.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(21.8mg、0.039mmol)と2−アミノ−5−ブロモフェノール(14.6mg、0.078mmol)との混合物を、窒素下で、78℃で19時間攪拌し、その後、冷却し、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)による深いオレンジ色の残渣の分離によって、未反応の(+)−ゲルダナマイシンを一緒に含む粗生成物を得た。その後、これをクロロホルムに溶解させて、分配HPLC分離(Waters Nova−Pak Silica 6μm 7.8×300mmカラム、2.0ml/分、CHCl/EtOAc 2:3)に供し、生成物を明るいオレンジ色の粉末として得た(16.4mg、60%の収率);mp274〜278℃(分解)(lit.mp275〜278℃)(Rinehart,前出)。
【0158】
【化24】


【0159】
(実施例15)
(5’−ヨードゲルダノキサジノン(17))
3−ヨード−4−ニトロフェノールおよび3−ヨード−6−ニトロフェノール。12mlの氷酢酸中の3.0mlの発煙硝酸(75mmol)を、周囲を氷浴で囲まれたフラスコの中の60mlの氷酢酸中の15.03グラム(68.3mmol)の3−ヨードフェノールの溶液に対して、25分間かけて添加した。この反応物を、さらに30分間室温で攪拌し、その後反応物を氷上に注いだ。その後、これを減圧下で濃縮し、150mlの水に取り込ませ、2部の300mlの塩化メチレンで抽出し、そして合わせた塩化メチレン層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、蒸発させて、17グラムの有機残渣を得た。シリカゲル上での中程度の速度のクロマトグラフィー(溶離液として1:2酢酸エチル:ヘキサン)によって、生成物である3−ヨード−4−ニトロフェノール(6.93グラム、26.1mmol、38%の収率);m.p.121〜123℃を分離した;
【0160】
【化25】


【0161】
2−アミノ−5−ヨードフェノール。3−ヨード−6−ニトロフェノール(0.993グラム、3.75mmol)を、水酸化ナトリウム水溶液(100mLの水中に0.233gmのNaOH)の中で攪拌した。ヒドロ亜硫酸ナトリウム(85%の4.62グラム、22.6mmol)を反応フラスコに添加し、これを室温で40分間攪拌した。その後、反応フラスコの周囲を氷浴で取り囲んで冷却し、酢酸を、pHが5〜6になるまで添加した。次いで、この反応物を200mL部の塩化メチレンで3回抽出し、合わせた有機層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、そして濃縮して、粗6−アミノ−3−ヨードフェノール(0.533グラム、m.p.99.5〜100.5℃)を得た。これを、エチルエーテル/へキサンから再結晶化させて、純粋な生成物を得た(0.463グラム、1.97mmol、53%の収率;m.p.126〜128℃(分解)(報告されているm.p.141℃(Hodgson,HHら、1928));
【0162】
【化26】


【0163】
5’−ヨードゲルダノキサジノン(17)。氷酢酸(1.0ml)中の(+)−ゲルダナマイシン(4.8mg、8.6μmol)および2−アミノ−5−ヨードフェノール(4.0mg、0.017mmol)の混合物を、窒素下で、78℃で20時間攪拌し、その後、冷却し、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)による深いオレンジ色の残渣の分離によって、未反応の(+)−ゲルダナマイシンを一緒に含む粗生成物を得た。その後、これをクロロホルムに溶解させて、分配HPLC分離(Waters Nova−Pak Silica 6μm 7.8×300mmカラム、2.0ml/分、CHCl/EtOAc 2:3)に供して、生成物を明るいオレンジ色の粉末として得た(2.8mg、44%)。
【0164】
【化27】


【0165】
(実施例16)
(11−O−アセチル−17−(1−アゼチジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(18))
(Schnurら、1995a)。17−(1−アゼチジニル)−17−デメトキシゲルダノマイシン(3.2mg、5.5μmol)を、無水酢酸(5.2μl、0.055mmol)およびDMAP(7.3mg、0.060mmol)とともに攪拌した。薄層クロマトグラフィーによって出発物質の完全な変換が示された(40時間)際に、この混合物をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって分離することにより、生成物を紫色の固体として得た(3.2mg、93%)。
【0166】
【化28】


【0167】
(実施例17)
(17−(1−アゼチジニル)−7−デカルバミル−17−デメトキシゲルダナマイシン(19))
(Schnurら、1994、1995a、前出)。カリウムtert−ブトキシド(5.3mg、0.045mmol)を、tert−ブタノール(4.0ml)中の17−(1−アゼチジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(5.0mg、8.5μmol)の溶液に、窒素雰囲気下で添加した。この反応物を室温で1時間攪拌し、その後、酢酸エチルとブラインとの間での分配によってクエンチした。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)による分離により、生成物を紫色の固体として得た(4.4mg、95%)。
【0168】
【化29】


【0169】
(実施例18)
(17,21−ジヒドロゲルダナマイシン(20))
(Schurら、1995b)。(+)−ゲルダナマイシン(3.5mg、6.2μmol)を酢酸エチル(2.5ml)に溶解させ、その後、亜ジチオン酸ナトリウム(約85%、0.50g、2.4mmol)の水溶液(2.5ml)を添加した。この混合物を室温で攪拌した。薄層クロマトグラフィーによってGAの完全な変換が示された際(1時間)に、有機層を分離させ、ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮した。シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)によって固体残渣を分離することにより、淡黄色の固体を得た(3.3mg、94%)。
【0170】
【化30】


【0171】
(実施例19)
(化合物15から調製した、ハロゲンで置換されたGA誘導体:標識した17−(2−ハロ−置換−エチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン誘導体)
17−(2−ヨードエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−IEG)。
【0172】
【化31】

リン酸溶液(3.0M、20.0μl)を、ジメチルホルムアミド(0.20ml)中の17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ARG)(1.1mg、1.92μmol)とヨウ化カリウム(17.4mg、0.10mmol)との溶液に添加した。10分後、この混合物を、酢酸エチルとブラインとの間で分配させた。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして濃縮して、紫色の固体を得た(1.3mg、97%)。
【0173】
【化32】


【0174】
17−(2−ブロモエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン。(17−BEG)
【0175】
【化33】

リン酸溶液(3.0M、20.0μl)を、ジメチルホルムアミド(0.20ml)中の17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ARG)(1.1mg、1.92μmol)と臭化カリウム(12.8mg、0.11mmol)との溶液に添加した。10分後、この混合物を、酢酸エチルとブラインとの間で分配させた。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして、濃縮して、紫色の固体を得た(1.2mg、96%)。
【0176】
【化34】


【0177】
17−(2−クロロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−CEG)
【0178】
【化35】

塩酸溶液(1.0M、20.0μl)を、ジメチルホルムアミド(0.10ml)中の17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ARG)(0.1mg、0.17μmol)の溶液に添加した。2時間後、この混合物を、酢酸エチルとブラインとの間で分配させた。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして、濃縮して、紫色の固体を得た。この粗生成物のTLCにより、出発物質が所望の表題化合物(主要部分)と17−HEG(副部分)とに完全に変換されたことが明らかになった。
【0179】
17−(2−フルオロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−FEG)
【0180】
【化36】

フッ化水素酸溶液(48%、10.0μl)を、ジメチルホルムアミド(0.10ml)中の17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ARG)(0.1mg、0.17μmol)の溶液に添加した。2時間後、この混合物を、酢酸エチルとブラインとの間で分配させた。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして、濃縮して、紫色の固体を得た。この粗生成物のTLCにより、出発物質が所望の表題化合物(主要部分)と17−HEG(副部分)とに完全に変換されたことが明らかになった。
【0181】
17−(2−ヒドロキシエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−HEG)
【0182】
【化37】

リン酸溶液(3.0M、5.0μl)を、DMSO(0.20ml)および水(0.05ml)中の17−(1−アジリジニル)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ARG)(0.1mg、0.17μmol)の溶液に添加した。2時間後、この混合物を、酢酸エチルとブラインとの間で分配させた。この有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして、濃縮して、紫色の固体を得た。この粗生成物のTLCにより、出発物質が所望の表題化合物に完全に変換されたことが明らかになった。
【0183】
(実施例20)
(ゲルダナマイシン誘導体と、HGF/SF−Met−uPA−プラスミン細胞ベースアッセイにおけるそれらの阻害活性)
GA誘導体のクラスであるゲルダノキサジノンの2つの誘導体を合成し、それらの阻害効果について試験した(化学構造は上記に示した)。このような誘導体は、GAの2−アミノフェノールとの酸触媒による縮合によって調製され得る(上記の実施例を参照のこと)。5−ブロモ−2−アミノフェノールおよび5−ヨード−2−アミノフェノールを使用して、したがって、付加化合物16および17を、それぞれ60%および44%の収率で調製した。これらの後者の化合物のそれぞれは、ナノモル濃度(<8 IC50)でのみ、Metによるシグナル伝達経路を阻害することが見出された。表1を参照のこと。
【0184】
活性に対するGAのアンサ環(ansa ring)の修飾の効果を研究するために、活性な17−アミノ置換−17−デメトキシゲルダナマイシン誘導体である、17−N−アゼチジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン(14)を、このような変化を作製するために使用した。
【0185】
【表1】

uPA−プラスミン阻害指数またはIC50は、MDCK細胞をHGF/SFで処理した場合にuPAの50%の阻害が生じる薬物濃度の対数に負号をつけたものである。12よりも大きいIC50を有する化合物は、fM−GAi(fMまたはそれより低い範囲でのインヒビター)と呼ばれ、一方、8未満の指数を有する化合物は、nM−Gai(nM範囲のインヒビター)として知られる群に属する。
【0186】
【化38】

後者の化合物の11−ヒドロキシル基は、酢酸無水物と4−ジメチルアミノピリジンでエステル化して、11−O−アセチル−17−N−アゼチジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン(18)を提供し得る。
【0187】
化合物14の7−ウレタン基は、(生成物のより低い収率を生じる溶媒であるジメチルスルホキシドの代わりに)tert−ブタノール中のカリウムtert−ブトキシドでの処理によって、Schnurら、(前出)の手順のわずかな修飾ごとに除去され、17−N−アゼチジニル−7−デカルバモイル−17−デメトキシゲルダナマイシン(19)を提供し得る。アンサ環に対する両方の修飾によって、<8のIC50 Met−uPA−プラスミンシグナル伝達阻害活性しか示さない化合物が導かれる(表1)。
【0188】
図2に示すように、化合物14は、GAの活性を上回る高い活性(>15 IC50)を有しているが、修飾された化合物19は、完全に不活性であった。化合物18の活性は、<8 IC50であった。
【0189】
最後に、GA関連アンサマイシンマクベシンI(3)の阻害活性、ならびに、ベンゾキノンアンサマイシン、ジヒドロゲルダナマイシン(20)、およびマクベシン(II)(21)のヒドロキノン形態の阻害活性、ならびに、ラディシコール(3)の阻害活性を試験するための研究を行った。結果を表Iに示す。ラディシコール(Sharma,SVら、1998)、ならびに、マクベシンI(Blagosklonnyら、前出)およびII(本明細書を参照のこと)がhsp90に対して高い親和性を有しているという認識にもかかわらず、これらの化合物はそれぞれ、本発明のHGF/SFによって誘導されるuPA−プラスミンアッセイにおいては低い活性を示した。しかし、ジヒドロゲルダナマイシンは活性が高い(>12 IC50)ことが見出された。
【0190】
背景の節に述べたように、GAおよびその誘導体の治療効力についての研究は、おもに、hsp90が重要な役割を果たす生物学的プロセスに焦点をあてている(Sausvilleら、2003;Workman,2003;Banerjiら、2003)。ガン細胞の生存性および増殖に重要な多数のタンパク質は、このシャペロンタンパク質に依存している(Neckers,Lら、2003;Maloney,Aら、2003)。hsp90の機能を遮断するGA誘導体の能力は、ガンの処置について、17−N−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(4)を臨床試験へと導いた(前出)。仮報告書は、抗ガン治療薬としての効力を示したが、肝毒性が用量を制限することが報告された(用量を制限しない毒性としては、貧血、無食欲、吐き気、嘔吐、および下痢が挙げられる)。例えば、Neckersら、(前出);およびSausvilleら、(前出)を参照のこと。
【0191】
本明細書中で開示されるように、種々のGA誘導体が、ガン細胞中のMetによるシグナル伝達経路のインヒビターとして、hsp90機能の阻害に必要な濃度よりもはるかに低い濃度で作用する。さらに、阻害活性は、ヒトα−hsp90に対する親和性と必ずしも相関関係にあるわけではないことが開示される。本明細書中で開示される活性なGA誘導体の未知の標的は未だ同定されていないが、結果は、特定の構造−活性の関係を示唆している。
【0192】
いくつかの17−N−アミノ誘導体化−17−デメトキシゲルダナマイシン化合物は、細胞をベースとするアッセイにおいて活性であったが、他の化合物は、特に、より長い17−N−アミノ置換基を有している化合物(例えば化合物9、10、11、および12、ならびにカルボン酸誘導体13)はそうではなかった。
【0193】
アンサ環の修飾については、7−ウレタン基が活性なGA誘導体14から除去される場合、得られるデカルバモイル化された化合物19は不活性であった。hsp90のN末端ドメインとともに複合体を形成したGA誘導体4および5の結晶学的分析(Stebbinsら、前出;Jezら、前出)は、ウレタンの機能がhsp90のいくつかのアミノ酸残基とともに水素結合相互作用を受けることを示した。さらに、Schnurら、(1995a)は、7−ウレタンが抗erbB−2活性に必要であることを報告している。GA誘導体の7−ウレタンは、hsp90のATP結合部位の中の深い位置に埋まっている。したがって、本発明者らは、Met機能についての未知の標的のGAの結合部位が、hsp90のこの結合領域と類似性を共有していることを示唆する。活性なGA誘導体14の11−ヒドロキシル基のアセチル化によって作製した化合物18は、Metによるシグナル伝達についての細胞をベースとするアッセイにおいては不活性であった。
【0194】
改めて、GAは、hsp90に対するその直接的な効果が最もよく知られている。GAについて報告されている細胞性の効果は、実施例21(以下を参照のこと)に記載するように、インビトロでhsp90が通常アップレギュレートされ、Metの発現がダウンレギュレートされることである。Nimmanapalli,Rら、2001およびMaulik,Gら、2002aもまた参照のこと。hsp90およびMetの発現レベルに対するGA’のこの効果は、より高濃度(<8 IC50)だけについて、本明細書中で開示される。uPA活性が阻害されたままであるナノモル未満の濃度(>12 IC50)では、hsp90およびMetの発現のいずれにも変化はない(以下の実施例)。活性のある化合物の標的は、以下に記載するように、hsp90とは異なる。uPA活性を検出するために本明細書中で使用した細胞をベースとするアッセイは、MDCK細胞株を使用するHGF/SFによって誘導されるuPA−プラスミンネットワークに基づく。HGF/SFで処理すると、MDCK細胞のuPA活性は有意に増加する(図1および2;コントロール(「ctl」) 対 +HGF/SFを比較する)。しかし、この活性は、本発明者らの高活性GA誘導体によって、フェムトモル濃度のレベルで劇的に阻害される。一方、ラディシコールは、ナノモルのレベルでしかこの活性を阻害しない(いくつかの高活性GA誘導体の阻害効果については図1を参照のこと)。
【0195】
高活性GA誘導体は、fMレベルでuPA活性を阻害するだけではなく、これらはまた、インビトロでは腫瘍細胞の浸潤も阻害する(以下の実施例を参照のこと)。しかし、増殖は、活性の低い誘導体または「nM−GA」誘導体と同じ濃度である、nMレベルでしか阻害されなかった(Webbら、前出)。このことは、GA’がいくつかの機構によって増殖および浸潤を阻害することを示唆する。例えば、増殖は、hsp90機能の阻害によって影響を受ける場合があるが、一方、浸潤は、1つ以上の未知の標的とのGAの相互作用によって影響を受ける。
【0196】
この概念を支持するために、MDCK細胞を、nMレベルで浸潤と増殖活性との両方を阻害するマクベシンII(21)の存在下で意図的に培養した。MDCK細胞を、毒性のない最も高濃度のマクベシンII(21)(3μM)で数ヶ月間維持した。これらの条件下では、Metとhsp90はいずれも、もとの(「コントロール」)レベルに戻り、HGF/SFに対するMetの反応性は回復したが、hsp90はマクベシンと複合体化したままのようであった。明らかに、マクベシンIIで処理した細胞中でのGA’に対するuPA−プラスミン感受性は、親のMDCK細胞中での感受性と同じであった。HGF/SFは、なお顕著にuPA活性をアップレギュレートし得、これはまた、fMレベルでGA’sによっても阻害され得る。これらの発見は、GAがhsp90以外の標的を介してHGF/SFによって誘導されるuPA活性を阻害するという本発明者らの概念をさらに確認した。
【0197】
本明細書中で観察される活性は、以前に公開された、hsp90とのこれらの化合物の相対的な親和性とは異なる。例えば、hsp90高親和性化合物であるラディシコール(3)(Roeら、前出)は、本発明の細胞をベースとするアッセイにおいては不活性であったが、hsp90結合化合物であるGAおよび17−N−アリルアミノ−17−デメトキシGA(4)は活性であった。これらの細胞をベースとするuPAアッセイにおいては標的結合部位はなおも明らかではなかったが、この部位は、いくつかの相違があるにもかかわらず、ATP結合部位でもあり得る。
【0198】
Kamalら、(前出)は、腫瘍細胞中のhsp90の高親和性立体構造が、17−N−アリルアミノ−17−デメトキシGA(4)およびラディシコール(3)の腫瘍選択性の原因であることを報告している。腫瘍細胞のhsp90は、マルチシャペロン複合体であり、一方、正常な組織のhsp90はそのように複合体化はしていない。ここで作用している標的が同様に複合体化しているか否か、および、GA結合部位の立体構造を変化させるか否かは、未だ不明なままである。
【0199】
本明細書中に記載される活性のある化合物に対するMetによるシグナル伝達経路のこの上なくすばらしい感受性により、この経路の崩壊における化合物の触媒的役割が示唆された。ジヒドロゲルダナマイシン(20)は、GA自体よりもわずかに低いにもかかわらず、本発明のアッセイにおいて活性であることが見出された。しかし、化合物20は、GAへと空気中で酸化され得ることが報告されており(Schnurら、1995b、前出)、そしてこのことは、本明細書中で開示する化合物20の活性に寄与している可能性がある因子であるので、無視することはできない。しかし、関連するアンサマイシンマクべシンI(2)およびその還元産物であるマクベシンII(21)は、いずれも不活性であることが見出された。後者の化合物はいずれもhsp90に結合する。活性なアンサマイシン誘導体(「fM−GA’s」)が触媒性の電子移動プロセスに関与していること、そしてジヒドロゲルダナマイシン(20)とGAとの間での酸化−還元電位が、それを可能にするために重要であることが、本発明者らの見解である。2つのマクベシンの間での電位の差は、これが生じるために不適切である場合がある。
【0200】
固形腫瘍の浸潤および転移の挙動に関与しているMetによるシグナル伝達を停止させるために必要であるのは、低濃度の高活性のGA’であるので、これらの化合物は魅力的な薬剤候補である。活性である低い濃度によって、GA誘導体について報告されている用量依存性の毒性が排除されるはずである。このような誘導体の標的の首尾よい同定および単離によって、このMetによるシグナル伝達経路の有効なインヒビターであるさらに他の化合物のより良好なスクリーニングおよび設計が可能となる。
【0201】
(実施例21)
(HGF/SFによって媒介される腫瘍細胞の浸潤のゲルダナマイシンによる阻害:)
(A.材料および方法)
細胞株および薬物:MDCK(イヌ腎臓上皮細胞)、DBTRG、U373、U118、SW1783(ヒト膠芽腫細胞)、SK−LMS−1(ヒト平滑筋肉腫細胞)を、ATCCから入手した。DU145、PC−3(ヒト前立腺ガン細胞)は、Han−Mo Koo博士,Van Andel Research Instituteの研究室によるものである。U87およびSNB19ヒト膠芽腫細胞は、Jasti Rao博士,University of Illinoisによるものである。SNB19はDMEM F12倍地中で増殖させた。全ての他の細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の中で増殖させた(いずれも、Gibco(登録商標),Invitrogen Corp.による)。増殖培地には、10%のウシ胎児血清(FBS;Hyclone)ならびにペニシリンおよびストレプトマイシンを補充した。
【0202】
ゲルダナマイシン、および化学的誘導体である17−(N−アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)および17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−ADG)、ならびにマクベシンII(MA)は、国立癌研究所(NCI)によって提供されたか、または本明細書中に記載するように合成した。ラディシコール(RA)はSigmaから購入した。
【0203】
1、2、および3×10−6MのMAを含む増殖培地中でのMDCK細胞の長期間の培養(>3ヶ月)によって、MDCKG1細胞、MDCKG2細胞、およびMDCKG3細胞が得られた。全ての化合物を、最初に0.01MでDMSO中に稀釈し、小さいストックアリコート(5μl)に分けて、使用するまで−80℃で維持した。使用する際には、ストックを融解させ、DMEM/10%のFBSで段階稀釈した。MAを含む長期培養については、1、2、および3×10−6Mの化合物を含む馴化培地を、少なくとも1週間に2回は交換した。
【0204】
HGF/SF−Met−uPA−プラスミン細胞をベースとするアッセイ(Webbら、前出)。色強度を検出するために、細胞を、細胞増殖の決定のためのMTS(Promega)を用いて、またはuPA−プラスミン活性の測定のためのChromozyme PL(Boehringer Mannheim)を介してのいずれかで、96ウェルプレートに1500個の細胞/ウェルで播種した(SK−LMS−1細胞は例外とし、これは5000個の細胞/ウェルで播種した)。細胞を、上記に記載したように、DMEM/10%のFBS中で一晩増殖させた。薬物をDMSOに溶解させ、ストック濃縮物からDMEM/10%のFBS培地中に段階稀釈し、そして適切なウェルに添加した。薬物または試薬の添加の直後に、HGF/SF(60ng/ml)をすべてのウェルに添加した(基底の増殖およびuPA−プラスミン活性のレベルを計算するためのコントロールとして使用したウェルを除く)。薬物およびHGF/SFの添加の24時間後に、プレートを以下のようにuPA−プラスミン活性の決定のために処理した;ウェルをDMEM(フェノールレッドは含まない;Life Technologies、Inc.)で2回洗浄し、そして200μlの反応緩衝液[DMEM(フェノールレッドは含まない)中の50%(v/v)の0.05単位/mlのプラスミノーゲン、40%(v/v)の50mMのTris緩衝液(pH8.2)、および10%(v/v)の3mMのChromozyme PL(Boehringer Mannheim)を含む100mMのグリシン溶液]を、それぞれのウェルに添加した。その後、プレートを37℃、5%のCOで4時間インキュベートした。この時点で、生じた吸光度を、405nmの単一波長で、自動分光光度プレートリーダーで読み取った。uPA−プラスミン阻害指数またはIC50は、uPA−プラスミン活性が50%阻害される濃度の対数に負号をつけたものである。
【0205】
増殖アッセイ。uPA−プラスミン検出アッセイと平行して、96ウェルプレートの中での細胞増殖を、MTSを用いて検出した。細胞の調製は、PMS(フェナジンメトサルフェート)溶液(0.2gのKCl、8.0gのNaCl、0.2gのKHPO、1.15gのNaHPO、100mgのMgCl・6HO、133mgのCaCl・2HO中の0.92mg/mlのPMS)中の15μlのMTSを、薬物およびHGF/SFの添加の24時間後にそれぞれのウェルに添加したことを除いて、上記でuPA−プラスミンアッセイについて記載したものと同じであった。その後、このプレートを37℃で、5%のCO雰囲気下で4時間インキュベートした。吸光度を、自動分光光度プレートリーダーで、490nmで読み取った。
【0206】
散乱アッセイ。uPA活性の評価と平衡して、MDCK細胞の96ウェルプレートを使用して、細胞の散乱を検出した。細胞の調製は、上記(プラスミンアッセイ)と同じであった。uPA活性を測定したと同時に、散乱についてアッセイする細胞を固定し、染色し(Diff−Quik Set,Dade Behring AG)、そして写真を撮影した。
【0207】
インビトロでの細胞浸潤アッセイ。インビトロでの浸潤アッセイを、GFR−Matrigel(登録商標)(Becton Dickinson)でコーティングした24−ウェル浸潤チャンバーを使用して、Jeffersら、1996によって以前に記載されたように行った。細胞を、DMEM/0.1%のBSAに懸濁し、浸潤(上部)チャンバー(5〜25×10個の細胞/ウェル)(DBTRG 5,000、SNB 19、およびU373 25,000個の細胞/ウェル)にプレートした。下部チャンバーには、HGF/SF(100ng/ml)を加えたDMEM/0.1%のBSA、またはHGF/SFを加えていないDMEM/0.1%のBSAを充填した。GAの阻害を評価するために、GAを、示した最終濃度1μM〜1fMになるように、上部および下部チャンバーの両方に段階稀釈し、直後にHGF/SFを添加した。24時間後、上部チャンバーに残っている細胞を、擦り取って除去した。Matrigel(登録商標)内に侵入し、挿入物の下部表面に付着した細胞を、Diff−Quik(Dade Behring Inc.)を使用して染色し、光学顕微鏡下で計数した。
【0208】
Metおよび他のタンパク質のウェスタンブロットならびに発現。細胞を、10個の細胞/皿で、60×15mmの皿に播種した。24時間後に、HGF/SF(100ng/ml)をそれぞれの皿に添加した。その直後、段階稀釈したGAまたはMAを、示した濃度で適切な皿に添加し、溶解するまで示した時間の長さでインキュベートした。MetとMAPKのリン酸化の検出のために、10個の細胞を60×15mmの皿に播種し、24時間かけて血清飢餓させた。HGF/SF(100ng/ml)での刺激の後、細胞を、10分および30分溶解させた。コントロール細胞には、HGF/SFを添加しなかった。細胞の溶解後、タンパク質濃度を、DCタンパク質アッセイ(Bio−Rad)によって決定し、等量のタンパク質をロードし、SDS−PAGEによって分離して、ウェスタンブロットにおいてPVDF膜(Invitrogen)に移した。5%の粉乳でブロックした後、膜を特異的抗体でブロッティングした。使用した抗体は以下である:Met(MDCK細胞については、Met 25HZ;Cell Signalingから購入した;DBTRGについては、C−28,Santa Cruz Biologicals)、ホスホ−Met(Tyr 1234/1235ウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling)、ホスホ p44/42 MAPK(Thr202/tyr204ウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling)、またはβ−アクチン(AC−15:ab6276、Abcam)(これは、ロードのコントロールの役目を果たした)。HRP結合二次抗体への曝露の後、膜をECL(「Enhanced Chemiluminescence」,Amersham Biosciences)とともにインキュベートし、化学発光シグナルの強度を画像分析によって検出した。
【0209】
固相結合アッセイ。GAを固定したアフィニティゲルビーズを、Whitesell ら、(1994)にしたがって調製し:GA(アフィニティゲルビーズに対して1.5等量)を、1,6−ジアミノへキサン(5〜10等量)とともに、クロロホルム中で室温で攪拌した。GAが完全に変換すると(TLCによってモニタリングした)、この混合物を、希水酸化ナトリウム水溶液およびブラインで連続して洗浄した。この有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、そして濃縮して、17−(6−アミノヘキシルアミン)−17−デメトキシゲルダナマイシンが、暗い紫色の固体(H NMRによって純粋)が得られた。中間体をDMSO中にとり、Affi−Gel 10ビーズ(Bio−Rad)とともに2時間攪拌した。得られた紫色のGA−ビーズをDMSOで洗浄した。
【0210】
コントロールのビーズは、HSP90に対する親和性を有していない、小さい鎖アナログと連結させたアフィニティーゲルからなる。Affi−Gel 10ビーズ(Bio−Rad)をN−(6−アミノヘキシル)アセトアミド(Leeら、1995)(1.3等量)とともに、DMSO中で室温で2時間攪拌し、その後、DMSOで十分に洗浄した。
【0211】
上記によって得たGA−ビーズおよびコントロールビーズを、5倍容量のTNESV(50mMのTris−HCl(pH7.5)、20mMのNaMoO、0.09%のNP−40、150mMのNaCl、および1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム)中で3回洗浄し、TNESV中で4℃で一晩回転させて、全ての未反応のN−ヒドロキシスクシンイミドを加水分解させ、その後、TNESV(1:10)中1%のBSA中で、室温で少なくとも3時間の間振盪した。TNESVでの3回以上の洗浄後、ビーズを50%のTNESV中に再懸濁させ、−78℃で保存した。
【0212】
親和性プルダウン実験を行うために、5×10個の細胞を、100×20mmの皿に播種した。細胞を80%のコンフルーエンスにまで増殖させた後、GAまたはMAを、種々の濃度で皿に添加した。24時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、CompleteTMプロテイナーゼインヒビター(Roche Molecular Biochemicals)を補充したTNESV緩衝液中で溶解させた。タンパク質濃度を、DCタンパク質アッセイによって決定した。等量のタンパク質を、MetおよびHSP90αについてのウェスタンブロッティングに使用した。プルダウンアッセイについては、等濃度に調節した20μlのコントロールまたはGAビーズを500Mμlの抽出物に添加して、4℃で一晩回転させた。ビーズを低速での遠心分離によって回収し、TNESVで3回洗浄した。60μlの2×試料緩衝液をビーズに添加し、10分間煮沸した。試料をSDS−PAGE、その後のウェスタンブロット分析に供した。
【0213】
(実施例22)
(ゲルダナマイシンはヒト細胞中ではHGF/SFによって誘導されるuPA活性の強力なインヒビターである)
本発明者らの研究室は、特定のGA誘導体がMDCK細胞中のHGF/SFによって誘導されるuPA活性を非常に低い濃度で阻害することを以前に報告した(Webbら、2000)。ほとんどの活性のある誘導体(「fM−GAi」化合物と命名した)は、GAの17−メトキシ基がアミノ基またはアルキルアミノ基で置き換えられたものである(本明細書中で考察した)。
【0214】
MDCK細胞と同様にヒトの腫瘍細胞がfM−GAi感受性を示すか否かを決定するために、いくつかの細胞株を、最初に、HGF/SF誘導性のuPA活性についてスクリーニングした(表2)。高レベルのuPA活性が、HGF/SFによってMDCK細胞中で誘導された。しかし、本発明者らはまた、HGF/SF誘導性のuPA活性を示した4種のヒトの腫瘍細胞株、すなわち、3種の多形性膠芽腫(GBM)細胞株(DBTRG、U373,およびSNB19)および浸潤性の高いSK−LMS−1平滑筋肉腫細胞(Jeffersら、前出;Webbら、2000)も同定した。表1に列挙したこれらの化合物についての詳細なfM−GAi濃度−阻害試験は、表2に示した細胞株を使用して行った。ラディシコール(RA)およびマクベシンII(MA)は、nM範囲でuPA活性を阻害する薬物の例としての役目をした。MDCK細胞(Webbら、(前出)によって以前に特徴付けられている)を、fM−GAi薬物感受性についてのコントロールとして使用し、これは、以前の報告と同じ感受性を示した(図1、パネルA)。重要なことに、HGF/SF(表2)に対する曝露後に少なくとも1.5倍のレベルのuPA活性を示したヒトの腫瘍細胞株のみが、MDCK細胞と同程度のfM−GAi感受性を示した(図1、パネルB(DBTRG)、C(U373)、およびD(SNB19)、データは示さない)。いずれの化合物も、細胞増殖に対しては有意な効果は示さなかった(図1、パネルE、F、およびG)。fM−GAi化合物は、それぞれの細胞株において、広い濃度範囲にわたって用量依存性曲線を示し、MDCK細胞およびU373細胞中では17−AAGについて阻害効果が、10−17Mのような低い濃度で観察された。
【0215】
これらの結果により、fM−GAi化合物に対する感受性は、特定の細胞株の特定の特徴ではないことが確認された。しかし、fM−GAi薬物は、HGF/SFへの曝露に応答してuPA活性の少なくとも50%の誘導を達成する細胞においてのみ有効であるようでもある。感受性GBM細胞株、特に、DBTRG細胞およびU373細胞(図1、それぞれ、パネルBおよびC)においては、ベースラインのuPA活性の低下が、fM−GAi化合物に応答して観察された。これは、いくつかのGBM細胞中で見出される低いレベルの自己分泌HGF/SF−Metシグナル伝達に関連し得る(Koochekpour ら、1997)。
【0216】
RAおよびMAは、uPA活性のHGF/SFによって媒介される誘導を、nMまたはそれよりも高い濃度でのみ阻害した。RA(これは、GAよりもHSP90に対してはるかに高い結合親和性を示す(Kd=19nM 対 1.2μM))(Roeら、1999;Schulteら、1999)は、HGF/SFによって媒介されるuPA活性をnM濃度でのみ阻害した。したがって、HSP90はnM−GAiクラスの化合物についての分子標的であり得るが、これはこれらの感受性細胞中のfM−GAi活性の原因にはなり得ない。
【0217】
【表2】

HGF/SF誘導性のuPA活性を測定するために、細胞を96ウェルプレートに播種した。24時間後、HGF/SFを、0、10、20、40、および60ng/mlの最終濃度で3連のウェルに添加し、さらに24時間インキュベートした後に、uPA活性を測定した。示した値は、それぞれの細胞株についての基底のuPA活性に対するHGF/SF曝露後に観察されたピークのuPAの誘導の平均の割合である。アスタリスク()は、fM−GAi感受性を示した細胞株を示す(図1、データは示さない)。
【0218】
(実施例23)
(fM−GAiおよびHGF/SFによって誘導される散乱および浸潤)
次の研究は、uPA活性の阻害に加えて、fM−GAi化合物がインビトロでの細胞の分散および腫瘍細胞の浸潤の生物学的活性に影響を与えるか否かを試験した。GA自体および17−AAGは、HGF/SFによって誘導されるMDCK細胞の分散を、pMからfMの範囲で阻害する(図10)。さらに、図11〜13は、pM〜fMの濃度でもなお、GAは高度に浸潤性のDBTRG、SNB19、およびU373ヒトGBM細胞によるHGF/SFによって誘導されるMatrigel(登録商標)の浸潤を回避したことを示している。このような顕著な浸潤の阻害は、fMの範囲でもなお、uPA活性のHGF/SF誘導に対するfM−GAiの阻害効果にほぼ匹敵していた(図3〜6を参照のこと)。
【0219】
(実施例24)
(fM−GAi活性の原因であるHSP90以外の分子標的についてのさらなる証拠)
本発明者らの研究室で以前に行われた研究により、GAが、uPA活性の阻害が生じるfM範囲に対して、SK−LMS−1細胞およびMDCK細胞中のuPARの発現およびMetの発現を、nMまたはそれよりも高い濃度で阻害することが示された(Webbら、前出)。1つの研究では、fM−GAi化合物に感受性である細胞株中でのMetおよびHSP90αの発現の、GAおよびMAに対する感受性が試験された(図14)。他の研究者らによって報告されているように、nMレベルでは、GAはHSP90αをアップレギュレートし(Nimmanapalliら、2001)、そしてMetの発現をダウンレギュレートする(Maulikら、2002a;Webbら、前出)(図3、MDCK細胞およびDBTRG細胞について、それぞれ、レーン5および11)。しかし、GAのようなfM−GAi化合物のnM未満の濃度では、HSP90αまたはMetのいずれの相対的な量についても有意な変化は観察されなかった(図14、レーン6および12)。この濃度では、uPA活性、分散、またはインビトロでの浸潤は、阻害された。
【0220】
GAによるHSP90αのアップレギュレーションおよびMetのダウンレギュレーションが、10−5MのMAで観察された(レーン3および9)が、10−6Mでは、より低い応答が観察された(レーン4および10)。重要なことに、無視できるレベルの全HSP90αは、それぞれ、10−5MのMAおよび10−6MのGAで、GA親和性ビーズを用いて回収され(レーン3、5、9、および11)、そしてGA親和性ビーズに対する利用可能なHSP90αもまた、10−6MのMAを用いた場合には減少した(レーン4および10)。これらの結果は、いずれの薬物も、細胞溶解物中で、GAのビーズ形態とのHSP90の会合を妨げるように効率よく競合することを示しており、このことは、利用可能な結合部位がブロックされることを示している。これらの結果によって、nM未満のGA濃度では、MetまたはHSP90αの発現に対しては効果が生じないとの結論が導かれた。さらに、MAはfM−GAi活性を欠失しているにもかかわらず、nM−GAi薬物であるMAは、GAと同様に、GA親和性ビーズへのHSP90αの結合と効率よく競合した。これらの結果は、fM−GAi化合物のnM未満での阻害効果が、HSP90αに対する化学量論的に有意ないずれの方法での結合にも関与し得ないことを示している。
【0221】
(実施例25)
(マクベシンIIに対して慢性的に曝露したMDCK細胞の分析)
MAで処理した細胞中のHSP90αがGA親和性ビーズに対しては利用され得ないことを示す先の実験から、MDCK培養物を最も高い非毒性のレベルでMA上で慢性的に維持した場合に、HSP90αおよび他のnM−GAi標的分子上の結合部位が占有されて、これによってこれらの細胞がfM−GAi化合物に対してなおも感受性であるか否かを試験することができると予想した。
【0222】
いくつかの高濃度でMAを試験したが、示した結果は、MDCK細胞が寛容化し得、なおも増殖できる最も高い非毒性レベルを使用したもののみである。MDCK細胞を、1×10−6、2×10−6、および3×10−6Mの濃度のMAを含む培地中で長期間培養して、それぞれ、MDCKG1、MDCKG2、およびMDCKG3と命名した細胞を生成した。MDCK細胞は、3×10−6MのMA濃度までは増殖し続けたが、それよりも高い濃度では増殖しなかった。全ての細胞株は、親の細胞よりも速度はゆっくりであったが(示さず)、MAの存在下で十分に増殖した。図15には、MAに対して慢性的に曝露した細胞株の応答を、10−6MのGAまたは10−5MのMAでの急激なチャレンジに対して表示する。1〜2×10−6MのMA(MDCKG1〜G2)の中で維持した細胞は、MetおよびHSP90の両方について正常なレベルを示した(レーン2および5)が、一方、Metの量はMDCKG3細胞(3×10−6MのMA中で維持した)においては親の細胞よりも少なかった(レーン1および8を参照)。24時間、急激にGAでチャレンジした際に、MAに対して慢性的に曝露した細胞株の全てが、Metの量に関して劇的な減少を示したが、10−5MのMA自体でチャレンジした場合には、特に、MDCKG2細胞およびMDCKG3細胞を用いた場合には、減少の兆候は少なかった(レーン3、6、および9)。HSP90αの急激な増加はGAでのチャレンジの際に、MDCKG1細胞株およびMDCKG2細胞株において示唆されたが、MDCKG3細胞においては示唆されなかった。これらの結果から、MDCKG3は10−6MのGAに対して少なくとも部分的に寛容化されるが、MDCKG1およびMDCKG2は寛容化される程度が小さく、そして大部分では、親の細胞により似ている(図14および15を参照のこと)と結論付けた。
【0223】
(実施例26)
(マクベシンIIに対して慢性的に曝露した細胞中のMet機能)
MAで処理したMDCKG3細胞がGAに対するその感受性を保持しているか否かを評価するために、MetがMAに対して慢性的に曝露された細胞において機能を維持しているか否かを最初に試験する実験を行った。Met機能は、HGF/SFによって誘導される下流のシグナル伝達(図16)、分散活性(図17)、およびuPA活性の誘導(図18)として測定した。親のMDCK細胞およびMDCKG3細胞は、HGF/SFでの刺激後にErk1およびErk2のリン酸化について類似する経時変化を示し(図16)、さらに、Metのリン酸化についても同様のレベルおよび経時変化を示した。したがって、MDCKG3細胞中でのMetの発現はわずかに低いレベルであるにもかかわらず(図4および5)、HGF/SFによって誘導されるMet、ならびにErk1およびErk2のリン酸化パターンは、親のMDCK細胞のものと類似している。
【0224】
MDCKG3細胞はなお、3×10−6MのMAの存在下でもなお、HGF/SFに応答して分散した(図6A、パネルdおよびe)が、同じ濃度のMAは、MDCK細胞の分散を効率よくブロックした(図17、パネルc)。
【0225】
MDCKG3細胞中のHGF/SFによって誘導される細胞の分散に対する10−7M〜10−15MでのGAの阻害活性を、次に試験した(図17)。10−15MのGAでのみ再び散乱が完全に観察され(図6A、パネルi)、このことは、3×10−6MのMA中で維持したMDCKG3細胞中でもなお、fM−GAiに対する優れた感受性が持続していることを示している。
【0226】
次の実験では、MetがMAに対して慢性的に曝露されたMDCKG3細胞中で機能を維持しているか否かを、HGF/SFによって誘導される下流でのuPAの誘導によって測定して、試験した(図18)。親のMDCK細胞と同じように、GAは、MAよりもHGF/SFによって誘導されるuPA活性のはるかにより強力なインヒビターであった。これは、MDCKG3細胞中では10−13Mで有効であった。まとめると、これらの発見は、MDCKG3細胞中では、Metは、Erk1およびErk2を介するシグナル伝達(いずれも、散乱活性およびuPA誘導による)においてHGF/SFに対して完全に応答性であることを示している。
【0227】
(実施例22〜26の考察)
HGF/SFによって誘導されるuPA活性は、多くのタイプの固形腫瘍において腫瘍の浸潤および転移に関係していることが知られている。Metによるシグナル伝達がHGF/SFによって開始されると、uPAとuPARとの両方の発現がアップレギュレートされ、プラスミノーゲンが切断されてプラスミンとなり、これによって細胞外マトリックスの分解が導かれる(Ellisら、1993)。高レベルのuPAおよびuPARの発現は、臨床的な予後不良に関係しており(Duffy,1996;Duffyら、1996;Harbeckら、2002)、そして実際に、uPARを標的化する抗ガン方法が開発されている(Gondiら、2003;Lakkaら、2003;Schweinitzら、2004)。本発明者らおよび共同研究者らは、HGF/SFによって誘導されるuPAプラスミンネットワークインヒビターをスクリーニングするための細胞をベースとする方法を以前に開発し、このアッセイを使用して、fM−GAi化合物が、MDCK細胞中でfM濃度でHGF/SFによって誘導されるuPAプラスミンタンパク質分解を阻害し得ることを発見した(Webbら、前出)。
【0228】
上記の実施例は、uPA−プラスミン活性だけではなく、HGF/SFによって誘導される散乱もまた、fMレベルでfM−GAiによって阻害されたことを示している(図2A)。MDCK細胞は、HGF/SFによって誘導される散乱のアッセイおよびuPA−プラスミン誘導の両方において、これらの極めて強力な効果の最も感受性の高い指標のようである(表2)。
【0229】
本発明者らは、マウスの乳ガン細胞株DA3およびヒトの前立腺細胞株DU145を用いて、いずれの細胞株も、HGF/SFに応答して散乱したが、uPA活性はHGF/SFによっては誘導されず、散乱はnMでしか阻害されなかったことを見出した。この結果についての説明は、HGF/SFによって誘導され得る散乱と、uPA−プラスミンのアップレギュレーションとが、表2および図1の結果から示されるように、fM−GAi感受性に関係しているということである。MDCK細胞は、依然として、散乱に対するfM−GAiの効果の検出のためのより良好な試験システムである。
【0230】
HGF/SFに応答する4種類のヒトの腫瘍細胞株中のfM−GAiによって媒介されるuPAの阻害もまた、本明細書中で最初に開示された。したがって、これらの強力な作用は、ヒトの腫瘍細胞の特性であると同時に、MDCK細胞に特有なものではない。感受性であるヒト細胞株においては、uPA活性はHGF/SFによって、少なくとも1.5倍アップレギュレートされ、このレベルは、fM−GAi阻害を確実に測定するために必要であるようである。fM−GAi感受性膠芽腫(GBM)細胞株においては、基底のuPA活性に顕著な低下が生じ、基底のuPA活性は感受性の細胞株よりも高くあり得るにもかかわらず、この低下は、非感受性細胞株においては生じない。多くのGBM細胞株は、自己分泌様式でHGF/SFおよびMetを発現し(Koochekpourら、前出)、一方、「非感受性」細胞にはこれらを発現するものはない。したがって、基底の低下は、HGF/SFによって誘導される経路に指向されるfM−GAi薬物の極めて強力な活性によって説明することができる。さらに、fM−GAi化合物は、3種類の感受性GBM細胞全てにおいて、uPAの阻害と同時に浸潤を阻害し(インビトロで)、このことによって、uPAの阻害と腫瘍の浸潤と転移の因果関係が確認される。
【0231】
nM濃度では、GA薬物ファミリーのメンバーは、HSP90αシャペロン機能を妨害することによって腫瘍の増殖を阻害し、これによって不適切に折り畳まれた腫瘍タンパク質の分解を生じる(Chavanyら、1996;Stebbinsら、1997;WhitesellおよびCook、1996)。同定された細胞性の腫瘍タンパク質のほとんどは、アミノ末端のATP結合ドメイン(これは、GA結合ドメインとも呼ばれる)を介してHSP90に結合する(Chavanyら、前出;Mimnaughら、1996;Schneiderら、1996;Schulteら、1997)。代表的に、nM濃度のGAで処理した細胞中では、HSP90の発現はアップレギュレートされ、腫瘍タンパク質は24時間以内に分解される。GAでの処理によって、6時間から24時間以内に腫瘍タンパク質の分解が誘導され(Liuら、1996;Maulikら、前出;Nimmanapalliら、2001;TikhomirovおよびCarpenter、2000;Yangら、2001)、これには、HSP90αの発現のアップレギュレーションが伴う(Nimmanapalli ら、.,2001)。さらに、ヒトの小細胞肺ガン(SCLC)細胞株においては、GAでの処置によって、HSP90の発現が変化しない場合にも、Metの分解を生じる(Maulikら、前出)。
【0232】
対照的に、散乱、浸潤、およびuPA活性が、HSP90のアップレギュレーションまたはMetのダウンレギュレーションのいずれを生じるにも低すぎる濃度でfM−GAi化合物によって阻害されることが本明細書中で示される。また、重要なシグナル伝達成分のリン酸化はHGF/SFの添加後10分のような早期に生じるにもかかわらず、fM−GAi化合物は、HGF/SFの添加の4時間後までに添加された場合にもなお、uPA活性を阻害する。したがって、fM−GAi阻害は、Metによるシグナル伝達に対して下流で生じなければならないことが、本明細書中で示された。
【0233】
RAは、GAよりもHSP90に対して高い結合親和性を有しており、nM−GAi uPA阻害のみを示す。RAはGAおよびfM−GAi化合物と同じように、HSP90の同じATPポケットに結合するが、より高い親和性を有している(Roeら、1999;Schulteら、1999)。この発見は、fM−GAi化合物がHGF/SFによって誘導されるuPA活性、細胞の散乱、および腫瘍細胞の浸潤を、HSP90以外の標的を介して阻害することを示唆している。これらの3つの活性の阻害が同時に生じることは、fM−GAi薬物がHGF/SFによって調節される転移/浸潤経路の共通の工程を標的とすることを示唆している。HSP90シャペロンの稀なサブセットがfM−GAi阻害を担っていることは想像できないことではない。例えば、Eustaceら、(2004)は、HSP90αイソ型が、ガンの浸潤性に不可欠な役割を有しており、このイソ型が細胞外で発現され、そしてMMP2の活性化を促進するように細胞の外で相互作用することを報告している。
【0234】
HSP90αのこの形態が本明細書中に記載した感受性uPAの効果の原因でもある可能性を試験するために、uPAアッセイにおいてGA−ビーズを使用して実験を行った。HGF−SFによって誘導されるuPA活性の、細胞外GA親和性ビーズによる阻害は、10−5Mでのみ生じるが、但し、uPAのfMレベルでの阻害は、そのようなHSP90α細胞外イソ型には関係していない。本発明にしたがうと、fM−GAi薬物についての新規の分子標的が存在している。
【0235】
膠芽腫細胞は浸潤性の高い腫瘍であり、そしてuPA−プラスミンネットワークのHGF/SFによる刺激がGBM浸潤における重要な工程である(Gondiら、2003;Rao、2003)。これらの腫瘍は正常な脳組織に浸潤し、そして血管に沿って増殖し、その結果、それらを完全に切除することは不可能である。GBM腫瘍のうちの80%がHGF/SFを発現し、それに対して、100%がMetを過剰発現する(Birchmeierら、前出)。uPA活性は、正常な脳組織の中または悪性度の低い神経膠腫よりも、星状細胞(特に、膠芽腫)においてより高いこと(Bhattacharyaら、2001;Gladsonら、1995;Yamamotoら、1994)、そして、高いuPAの発現は、予後不良の指標であること(Zhangら、2000)が見出されている。したがって、MetおよびuPAを標的化する薬物は、新しい治療ストラテジーに重要であり得る(Rao,2003)。本発明者らおよび共同研究者らの以前の研究のいくつかでは、いくつかのGBM細胞株の中での浸潤能力が測定された。DBTRGとU373は、最も浸潤性の高い株であった(Koochekpourら、1997)。SNB19細胞もまた、浸潤性の高いGBM細胞株である(Lakkaら、2003)。本明細書中に示すように、3つの浸潤性のGBM細胞株の全てが、HGF/SFによって誘導されるuPA活性および浸潤のfM−GAi阻害を、極めて低い濃度で示した。17−AAGは、現在、膠芽腫ではないいくつかの異なるガンについて臨床試験の段階にある(Blagosklonny、2002;Goetzら、2003)。本発明にしたがうと、fM−GAi薬物は、GBM脳腫瘍の処置にも有用である。
【0236】
(上記で引用した参考文献(省略した引用としての))
【0237】
【化39】

【0238】
【化40】

【0239】
【化41】

【0240】
【化42】

上記で引用した全ての参考文献は、具体的に援用されているか否かにはかかわらず、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【0241】
本発明はここに十分に記載されるが、同じものを、広範囲の等価なパラメーター、濃度、および条件で、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、過度の実験を伴うことなく行うことができることは当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】代表的なGA誘導化合物の活性。吸光度は、試験される化合物が存在しない条件、または種々の濃度の試験される化合物の存在下で、HGF/SFに対する最初のMDCK細胞の曝露の後、およびプラスミン−感受性発色団に対する24時間の曝露の後に、405nmで読み取った。表示した値は、各々の試験した化合物のそれぞれの濃度での3連のアッセイによる平均値±1 S.D.を示す。
【図2】代表的なGA誘導化合物の活性。吸光度は、試験される化合物が存在しない条件、または種々の濃度の試験される化合物の存在下で、HGF/SFに対する最初のMDCK細胞の曝露の後、およびプラスミン−感受性発色団に対する24時間の曝露の後に、405nmで読み取った。表示した値は、各々の試験した化合物のそれぞれの濃度での3連のアッセイによる平均値±1 S.D.を示す。
【図3】ヒトの腫瘍細胞株中でのuPAの阻害に対するGAおよび関連化合物の効果。細胞を、GAおよび関連化合物が存在しない条件、または示した種々の濃度のGAおよび関連化合物の存在下で、60単位/mlのHGF/SFと共に24時間インキュベートした。uPA活性アッセイは、原則的には以前に記載された(Webbら,2000)とおりに、MDCK細胞上で行った。実施例。使用した細胞は以下のとおりである:図3−MDCK;図4−DBTRG;図5−U373;図6−SNB19。RAおよびMAを含む試験化合物を、示した濃度で使用した。GA誘導体は以下のように省略する:GA=ゲルダナマイシン;17−AAG=17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、および17−ADG=17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン。
【図4】ヒトの腫瘍細胞株中でのuPAの阻害に対するGAおよび関連化合物の効果。細胞を、GAおよび関連化合物が存在しない条件、または示した種々の濃度のGAおよび関連化合物の存在下で、60単位/mlのHGF/SFと共に24時間インキュベートした。uPA活性アッセイは、原則的には以前に記載された(Webbら,2000)とおりに、MDCK細胞上で行った。実施例。使用した細胞は以下のとおりである:図3−MDCK;図4−DBTRG;図5−U373;図6−SNB19。RAおよびMAを含む試験化合物を、示した濃度で使用した。GA誘導体は以下のように省略する:GA=ゲルダナマイシン;17−AAG=17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、および17−ADG=17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン。
【図5】ヒトの腫瘍細胞株中でのuPAの阻害に対するGAおよび関連化合物の効果。細胞を、GAおよび関連化合物が存在しない条件、または示した種々の濃度のGAおよび関連化合物の存在下で、60単位/mlのHGF/SFと共に24時間インキュベートした。uPA活性アッセイは、原則的には以前に記載された(Webbら,2000)とおりに、MDCK細胞上で行った。実施例。使用した細胞は以下のとおりである:図3−MDCK;図4−DBTRG;図5−U373;図6−SNB19。RAおよびMAを含む試験化合物を、示した濃度で使用した。GA誘導体は以下のように省略する:GA=ゲルダナマイシン;17−AAG=17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、および17−ADG=17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン。
【図6】ヒトの腫瘍細胞株中でのuPAの阻害に対するGAおよび関連化合物の効果。細胞を、GAおよび関連化合物が存在しない条件、または示した種々の濃度のGAおよび関連化合物の存在下で、60単位/mlのHGF/SFと共に24時間インキュベートした。uPA活性アッセイは、原則的には以前に記載された(Webbら,2000)とおりに、MDCK細胞上で行った。実施例。使用した細胞は以下のとおりである:図3−MDCK;図4−DBTRG;図5−U373;図6−SNB19。RAおよびMAを含む試験化合物を、示した濃度で使用した。GA誘導体は以下のように省略する:GA=ゲルダナマイシン;17−AAG=17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、および17−ADG=17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン。
【図7】GAおよび関連化合物のヒト腫瘍細胞株の増殖に対する効果。薬剤で処理した細胞による正規化した細胞増殖の結果を、薬剤が存在しない条件下でHGF/SFで刺激した細胞から得られた平均値に対して正規化し、コントロールに対する百分率として表した。表示した値は、各々の試験化合物のそれぞれの濃度での3連のアッセイ(実施例に記載されるMTSアッセイ)による平均値±1 s.d.を示す。使用した細胞は以下のとおりである:図7−BTRG;図8−U373;図9−SNB19。試験化合物と省略については、図3〜6について上記したとおりである。
【図8】GAおよび関連化合物のヒト腫瘍細胞株の増殖に対する効果。薬剤で処理した細胞による正規化した細胞増殖の結果を、薬剤が存在しない条件下でHGF/SFで刺激した細胞から得られた平均値に対して正規化し、コントロールに対する百分率として表した。表示した値は、各々の試験化合物のそれぞれの濃度での3連のアッセイ(実施例に記載されるMTSアッセイ)による平均値±1 s.d.を示す。使用した細胞は以下のとおりである:図7−BTRG;図8−U373;図9−SNB19。試験化合物と省略については、図3〜6について上記したとおりである。
【図9】GAおよび関連化合物のヒト腫瘍細胞株の増殖に対する効果。薬剤で処理した細胞による正規化した細胞増殖の結果を、薬剤が存在しない条件下でHGF/SFで刺激した細胞から得られた平均値に対して正規化し、コントロールに対する百分率として表した。表示した値は、各々の試験化合物のそれぞれの濃度での3連のアッセイ(実施例に記載されるMTSアッセイ)による平均値±1 s.d.を示す。使用した細胞は以下のとおりである:図7−BTRG;図8−U373;図9−SNB19。試験化合物と省略については、図3〜6について上記したとおりである。
【図10】細胞の散乱に対するGAの効果。MDCK細胞を、96ウェルプレートに1500細胞/ウェルで3連で播種し、24時間後に、HGF/SF(100ng/ml)を単独で、またはGAの存在下で添加した。さらに24時間後、細胞を固定し、Diff−Quik染色セットを使用して染色した。処理したMDCK細胞調製物についての代表的な顕微鏡写真を以下のようにパネルに示した:(a〜j)MDCK細胞;(b〜j)HGF/SFで処理した細胞;(c)GAを10−7Mで添加した;(d)GAを10−9Mで添加した;(e)GAを10−13Mで添加した;(f)GAを10−15Mで添加した;(g)17−AAGを10−7Mで添加した;(h)17−AAGを10−9Mで添加した;(i)17−AAGを10−13Mで添加した;(j)17−AAGを10−15Mで添加した。
【図11】インビトロでの細胞浸潤に対するGAの効果。DBTRG細胞(図11)、SNB19細胞(図12)、およびU373細胞(図13)を、実施例19に記載するようなMatrigel浸潤アッセイによって測定した。Matrigel(登録商標)層に浸透している細胞を、薬剤への曝露の24時間後に数えた。それぞれの棒は、3連の試料による細胞数についての平均±1 s.d.を示す。
【図12】インビトロでの細胞浸潤に対するGAの効果。DBTRG細胞(図11)、SNB19細胞(図12)、およびU373細胞(図13)を、実施例19に記載するようなMatrigel浸潤アッセイによって測定した。Matrigel(登録商標)層に浸透している細胞を、薬剤への曝露の24時間後に数えた。それぞれの棒は、3連の試料による細胞数についての平均±1 s.d.を示す。
【図13】インビトロでの細胞浸潤に対するGAの効果。DBTRG細胞(図11)、SNB19細胞(図12)、およびU373細胞(図13)を、実施例19に記載するようなMatrigel浸潤アッセイによって測定した。Matrigel(登録商標)層に浸透している細胞を、薬剤への曝露の24時間後に数えた。それぞれの棒は、3連の試料による細胞数についての平均±1 s.d.を示す。
【図14】HSP90αとMetの発現に対するMAおよびGAの曝露の効果。MDCK細胞およびDBTRG細胞を、示した濃度のマクベシン(MA)またはGAの存在下でHGF/SF(100ng/ml)で処理した。細胞溶解物を、実施例10に記載するように分析した。それぞれの細胞溶解物のアリコートもまた、記載するようにGA−親和性ビーズとともにインキュベートし、ビーズからの溶出物をSDS−PAGEによって分析し、その後、HSP90αに対する抗体で免疫ブロットした。コントロール培養物には、HGF/SFも試験化合物も加えなかった。得られた蛍光像の関連する領域を示す:レーン1〜6および7〜10の試料は、それぞれ、MDCKおよびDBTRGの全細胞溶解物に由来する。HSP90αを、抗HSP90α抗体を用いたウェスタンブロットにおいて、GAゲルビーズ(上段のパネル)を用いて、または全細胞溶解物(下段のパネル)中で、プルダウン実験において検出した。レーン2〜6および8〜12の試料は、HGF/SFで処理した細胞に由来する試料である。レーン3,4、および9、10の試料は、示したようにMAで処理した細胞に由来する試料である。レーン5、6、および11、12の試料は、示したようにGAで処理した細胞に由来する試料である。
【図15】nM−GAiおよびfM−GAi薬剤でのチャレンジに対するMetおよびHSP90αの感受性に対するMA中の長期MDCK細胞培養物の効果。MDCK細胞を、1、2、または3×10−6Mの濃度のMA中で2〜3ヶ月間維持して、それぞれ、MDCKG1細胞、MDCKG2細胞、およびMDCKG3細胞を作製した。10個の親のMDCK細胞または長期曝露細胞(G1〜G3)を皿に播種し80%のコンフルーエンシーまで増殖させ、その後、GA(+GA、10−6M)またはMA(+MA、10−5M)のいずれかに24時間曝露した。細胞を回収し、溶解させ、そして溶解物を、Met、HSP90α、およびβ−アクチン(ローディングコントロール)の相対的な量について、ウェスタンブロットによって分析した(実施例19を参照のこと)。得られた蛍光像の関連領域を示す。
【図16】MAに長期間曝露した細胞培養物中でのHGF/SF−Metシグナル伝達。2.5×10個の親のMDCK細胞およびMA中で維持したMDCKG3細胞を、60×15mmの皿に播種し、その24時間後、HGF/SF(100ng/ml)に曝露した。示したタイミングで、細胞を回収し、溶解させ、そして溶解物を、Met、全Erk1またはリン酸化されたErk1、全Erk2またはリン酸化されたErk2、ならびにβ−アクチン(ローディングコントロール)の相対的な量について、適切な抗体を用いてウェスタンブロットによって分析した(実施例19を参照のこと)。得られた蛍光像の中のMet、p−Met、Erk1、Erk2、およびp−Erk1、p−Erk2を示す関連領域を示す。
【図17】MDCK細胞およびMDCKG3細胞中のHGF/SFによって刺激される散乱に対するMAおよびGAの効果。1500個の親のMDCK細胞(パネルa〜c)または3×10−6MのMA中で維持したMDCKG3細胞(パネルd〜i)を、96ウェルプレートに播種した。HGF/SFを、単独で(HGF/SF、100ng/ml)、MA(3×10−6M)と共に、またはGA(10−7から10−15M)と共に、24時間後に添加した。24時間後、散乱を顕微鏡で評価した。代表的な顕微鏡写真(100倍)を示す:(a)コントロールMDCK細胞;(b)MDCK細胞+HGF/SF;(c)MDCK細胞+HGF/SF+MA(3×10−6M);(d)コントロールMDCKG3細胞;(e)MDCKG3細胞+HGF/SF;(f)MDCKG3細胞+HGF/SF+GA(10−7M);(g)MDCKG3細胞+HGF/SF+GA(10−9M);(h)MDCKG3細胞+HGF/SF+GA(10−13M);(i)MDCKG3細胞+HGF/SF+GA(10−15M)。
【図18】MDCK細胞およびMDCKG3細胞中でのHGF/SFによって刺激されるuPAの誘導に対するMAとGAの効果。1500個の細胞を播種し、HGF/SFで、またはマクベシンII(MA)もしくはゲルダナマイシン(GA)で処理した。さらに24時間のインキュベーションの後、細胞をDMEMで2回洗浄し、それぞれのウェルに対して、プラスミン感受性発色団を含む200μlの反応緩衝液を添加した。その後、プレートを37℃、5%のCOで4時間インキュベートし、この時点で、生じた吸光度を、自動分光光度プレート読み取り装置で405nmの単一波長で読み取った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iまたは式IIの化合物
【化1】

あるいはその薬学的に許容される塩であって;
これらは、ガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を、10−11M未満の濃度で阻害する特性を有しており、式中、
は、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミン;3〜6員複素環基であり、これは状況に応じて置換され;
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミン;3〜6員複素環基であり、これは状況に応じて置換され;
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニル;低級アルコキシ、アルケノキシ、およびアルキノキシ;直鎖または分岐したアルキルアミン、アルケニルアミン、アルキニルアミンであるか、あるいは、Nは、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロケニル、またはヘテロアリール環の構成要素であり、これは状況に応じて置換され;
は、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、状況に応じて置換された低級アルキル、アルケニル、またはアルキニルであり、そして式中、
位置C=C、C=C、およびC=Cの間の環二重結合は、状況に応じて、単結合となるように水素化される、化合物あるいはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
式Iのベンゾキノン化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式IIのヒドロキノン化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
ガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を、10−13M未満の濃度で阻害する、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
ガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を、10−15M未満の濃度で阻害する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
ガン細胞中のHGF/SFによるMetの活性化を、10−17M未満の濃度で阻害する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記Rが3〜6員複素環であり、式中、Nはヘテロ原子である、請求項1〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
、R、およびRがHである、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
以下:
(a)17−(2−フルオロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(b)17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(c)17−N−アジリジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(d)17−アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(e)17−N−アゼチジニル−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(f)17−(2−ジメチルアミノエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;
(g)17−(2−クロロエチル)アミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン;および
(h)ジヒドロゲルダナマイシン
からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
(a)請求項1〜9のいずれかに記載の化合物;および
(b)薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項11】
Metを保有している腫瘍またはガン細胞の、HGF/SFによって誘導される、Metレセプターによって媒介される生物学的活性を阻害する方法であって、前記細胞に対して、前記生物学的活性の阻害について約10−13M未満のIC50を有している、有効量の請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を提供する工程が含まれる、方法。
【請求項12】
前記生物学的活性が前記細胞中のuPA活性の誘導である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的活性が前記細胞の増殖または散乱である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞の前記増殖がインビトロでの増殖である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞の前記増殖がインビボでの増殖である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記生物学的活性が前記細胞の浸潤である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記浸潤がインビトロでの浸潤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記浸潤がインビボでの浸潤である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記浸潤によって腫瘍の転移が生じる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
HGF/SFによって誘導される、Metを保有している腫瘍またはガン細胞の被験体の中での転移を阻害する方法であって、前記被験体に対して、インビトロでのアッセイにおいて測定した場合に腫瘍細胞の浸潤の阻害について約10−12M未満のIC50を有している、有効量の請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を提供する工程を含む、方法。
【請求項21】
HGF/SFによって誘導される、Metを保有している腫瘍またはガン細胞の被験体の中での転移を阻害する方法であって、前記被験体に対して、インビトロでのアッセイにおいて測定した場合に腫瘍細胞の浸潤の阻害について約10−12M未満のIC50を有している化合物を含む、有効量の請求項10に記載の薬学的組成物を提供する工程を含む、方法。
【請求項22】
前記阻害によって、前記細胞によって引き起こされる腫瘍の測定可能な退行、または前記被験体の中での腫瘍の増殖の測定可能な減衰が生じる、請求項11〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
感受性の被験体をMet陽性腫瘍の増殖または転移から防御する方法であって、
(a)前記腫瘍を発症するリスクがある
(b)すでに処置された被験体の場合には、前記腫瘍を再発するリスクがある
のいずれかである該被験体に対して、有効量の請求項1〜9のいずれかに記載の化合物、または請求項10に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項24】
前記被験体がヒトである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
HGF反応性のMetを発現する腫瘍を有している哺乳動物において抗腫瘍応答または抗ガン応答を誘導する方法であって、有効量の請求項1〜9のいずれかに記載の化合物、または請求項10に記載の薬学的組成物を前記哺乳動物に投与し、それによって、
(a)(i)全ての測定可能な病変の最大垂直直径の積の和の少なくとも50%の減少;
(ii)新しい病変の兆候がないこと;および
(iii)全ての既存の病変について進行がないこと
を特徴とする部分的な応答、あるいは、
(b)少なくとも1ヶ月の間の、腫瘍またはガン疾患の全ての兆候の消滅を特徴とする完全な応答
である、抗腫瘍応答または抗ガン応答が誘導される工程を含む、方法。
【請求項26】
前記抗腫瘍応答または抗ガン応答が、部分的な抗腫瘍応答または抗ガン応答である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記哺乳動物がヒトである、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
ハロゲン放射性核種で検出可能に標識される、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物。
【請求項29】
前記放射性核種がR基に結合させられる、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
前記放射性核種が、18F、76Br、76Br、123I、124I、125I、および131Iからなる群より選択される、請求項28または29に記載の化合物。
【請求項31】
請求項1〜9のいずれかに記載の組成物の標的である被験体中の腫瘍を画像化する方法であって、有効量の請求項28〜30のいずれかに記載の標識された化合物を投与する工程と、画像化手段を用いて検出可能な標識を画像化する工程を含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公表番号】特表2007−530596(P2007−530596A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505267(P2007−505267)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/010351
【国際公開番号】WO2005/095347
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506324312)バン アンデル リサーチ インスティチュート (1)
【出願人】(502425640)ミシガン、ステート、ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】MICHIGAN STATE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】