説明

ゲルマニウムを含有する中間物からのゲルマニウムの回収方法

【課題】高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に、ゲルマニウムを含有する中間物から回収する方法の提供。
【解決手段】金属回収工程における、ゲルマニウムを含有する中間物から、塩酸と過酸化水素とを併用して、ゲルマニウムを塩化物として回収するゲルマニウム塩化物回収工程を含むゲルマニウムの回収方法である。中間物が亜鉛製錬における中間産物であり、更に過酸化水素の添加量が、ゲルマニウムに対して2モル当量以上である態様が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウムを含有する中間物からゲルマニウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウム(Ge)は、光ファイバーや太陽電池等のいわゆるハイテク産業用の材料開発、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合促進触媒、更には、有機ゲルマニウム化合物(例えば、ポリ−トランス−[(2−カルボキシエチル)ゲルマセスキオキサン])の製造のための原料などとして、様々な分野における不可欠な元素である。
特に最近は、磁気ディスク材料等のエレクトロニクス材料としてのゲルマニウムの利用が増加しており、砒素及び非鉄金属の含有量が少ない、高品位のゲルマニウムの需要が高まっている。
【0003】
しかし、近年、ゲルマニウムの供給がその需要に追いつかず、需要−供給がアンバランスな状態が続くために問題視されている。そこで、主に亜鉛製錬の副産物として製錬されている高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に回収することができれば、需要−供給のバランスが改善されると共に、資源の節約の観点からも好ましい。
【0004】
従来、亜鉛精鉱に含まれるゲルマニウムの回収方法としては、亜鉛精鉱を焙焼し、酸で浸出した後の浸出残渣を乾燥し、加熱した後に塩酸により塩化したゲルマニウムを回収する方法(Eagle−Picher法)が知られている(非特許文献1参照)。
しかしながら、この文献による方法には、亜鉛精鉱からのゲルマニウムの回収率が低い上に、安定して回収できないという問題がある。
【0005】
一方、ポリエチレンテレフタレート、光ファイバー、半導体などの製造過程において、大量のゲルマニウム含有物が使用されているが、その大部分が廃棄されていることに注目し、ゲルマニウム含有廃棄物から、ゲルマニウムを回収する方法が提案されている。
例えば、ポリエチレンテレフタレート及びこれを主体とするポリエステルの製造する際には、ゲルマニウムが重合促進剤(触媒)として使用されており、その廃液からゲルマニウムを回収する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この提案では、前記廃液を焼却して得られた灰を塩酸を用いて蒸留し、四塩化ゲルマニウムを回収する方法であり、前記Eagle−Picher法と同様、ゲルマニウムの回収率が低い上に、安定して回収できないという問題がある。
また、光ファイバーのような光導波路材料の製造において用いられる改良化学気相成長法(MCVD)では、大量の高純度四塩化ゲルマニウムが使用されるおり、MCVD加工廃棄物からゲルマニウムを回収する方法が提案されている(特許文献2参照)。この提案によれば、MCVD加工廃棄物から、塩化水素ガスとMCVD廃棄物(フィルターケーキ)との直接反応により、ゲルマニウム塩の迅速で完全な塩素化が行われ、四塩化ゲルマニウムが生成され、回収される。しかしながら、この提案では、ゲルマニウム以外の不要物も同時に回収されるため、最終的に得られたゲルマニウムにおける不純物の含有率が高いという問題がある。
【0006】
したがって、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に、ゲルマニウムを含有する中間物から回収する方法は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】レアメタルハンドブック2008、金属時評
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−328315号公報
【特許文献2】特許3725765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に、ゲルマニウムを含有する中間物から回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 金属回収工程における、ゲルマニウムを含有する中間物から、塩酸と過酸化水素とを併用して、ゲルマニウムを塩化物として回収するゲルマニウム塩化物回収工程を含むことを特徴とするゲルマニウムの回収方法である。
<2> 過酸化水素の添加量が、ゲルマニウムに対して2モル当量以上である前記<1>に記載のゲルマニウムの回収方法である。
<3> ゲルマニウム塩化物回収工程で回収したゲルマニウム塩化物を加水分解して、ゲルマニウムを酸化物として回収するゲルマニウム酸化物回収工程を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載のゲルマニウムの回収方法である。
<4> 中間物が亜鉛製錬の中間産物である前記<1>から<3>のいずれかに記載のゲルマニウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来の諸問題を解決することができ、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に、ゲルマニウムを含有する中間物から回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゲルマニウムの回収方法は、公知の金属回収工程(処理)において得られるゲルマニウムを含有する中間物から、塩酸と過酸化水素とを併用して、ゲルマニウムを塩化物として回収するゲルマニウム塩化物回収工程を含んでなり、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0013】
本発明のゲルマニウムを回収する方法については、従来から一般的に知られているEagle−Pitcher法(レアメタルハンドブック2008、金属時評、p.164参照)において、塩酸と過酸化水素とを併用してゲルマニウムを塩化物として回収するゲルマニウム塩化物回収工程を例に説明する。
亜鉛製錬においては、一般的に、硫化物精鉱を焙焼し、酸による浸出及び中和処理などにより各種金属を残渣や液に分離する。このような亜鉛製錬プロセスからゲルマニウムが濃縮された残渣を発生させることが可能である。特に、亜鉛製錬プロセスから派生したインジウム回収プロセスにおいて生ずる中間産物である残渣中にゲルマニウムが比較的高濃度に含まれており、これを本発明の原料として利用することが可能である。
【0014】
なお、前記原料は、本願発明に利用できる中間物の一例を示したものにすぎず、これに限定されるものではない。本発明の原料として利用できる中間物としては、金属回収工程(処理)において得られるものであって、ゲルマニウムを含有している限り、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、前述した亜鉛鉱石などのゲルマニウム含有鉱石を酸化、酸浸出するなどの製錬工程により発生する残渣等の非鉄製錬中間産物、ポリエチレンテレフタレート及びこれを主体とするポリエステルを製造する際の廃液を焼却して得られた灰、MCVD加工廃棄物、半導体材料として用いられた後のその材料乃至その製造において発生する廃棄物等のレアメタル回収等の中間産物などが挙げられる。前記中間物の形態としては、塩酸と反応できる形態であれば、特に制限はなく、例えば、金属化合物の形態であってもよいし、無機物以外の有機物も含む複雑化合物の形態でもよい。
【0015】
前記Eagle−Pitcher法においては、先ず、ゲルマニウムを含有する亜鉛精鉱(ゲルマニウムの含有比率は、通常、0.01質量%〜0.015質量%)を酸化焙焼し、得られた焼鉱に塩及び石炭を混ぜて、焼結させる。焼結させた残滓は亜鉛製錬の原料となるが、焼結の際に生じる揮発物(煙灰)には、ゲルマニウム、カドミウム、銅及び鉛などが含まれる。
次に、前記揮発物を硫酸で浸出し、ろ過することで、硫化鉛を除去し、得られたろ液に亜鉛粉末を添加する。これにより、ゲルマニウム及び銅が亜鉛と置換されるため、カドミウムを溶液に残したまま、ゲルマニウム及び銅を凝集させて、沈殿させる。
更に、得られた沈殿物に硫酸と亜鉛粉末を加えることで、銅を溶液に残し、ゲルマニウムを凝集させて、沈殿させる。この沈殿物をろ過して回収した後、該ろ過物を乾燥及び加熱させ、得られたものを前記ゲルマニウム塩化物回収工程の原料とする。以上は、前記Eagle−Pitcher法における通常の工程である。
【0016】
本発明のゲルマニウムを回収する方法では、前記ゲルマニウム塩化物回収工程において、前記原料に塩酸を混合して混合液を調整し、該混合液に更に過酸化水素を添加して、これを蒸留装置により蒸留することで、塩化物としてゲルマニウム(四塩化ゲルマニウム)を回収する。
前記ゲルマニウム塩化物回収工程において、塩酸と過酸化水素とを併用することにより、ゲルマニウムの回収率を大幅に改善することができる。塩酸と過酸化水素の併用は、特に添加順序に制限はなく、また、これらの酸の効果を促進するのであれば別の薬剤を更に添加してもよい。
【0017】
前記混合液の塩酸濃度(規定度)としては、四塩化ゲルマニウムの溶解性の安定の点で、6N〜12Nが好ましく、8N〜10Nがより好ましい。また、前記混合液において塩酸の量としては、四塩化ゲルマニウムの溶解性の点で、ゲルマニウム(4価)に対して1モル当量〜100モル当量が好ましく、4モル当量〜10モル当量がより好ましい。
前記過酸化水素の添加量としては、四塩化ゲルマニウムの回収率の点で、ゲルマニウムに対して2モル当量以上が好ましく、2モル当量〜3モル当量がより好ましい。前記添加量が、ゲルマニウムに対して2モル当量未満であると、四塩化ゲルマニウムの回収率が低下することがある。
【0018】
前記蒸留装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エバポレーター、ジムロート冷却器、アリーン冷却器などを使用することができる。該蒸留装置の市販品としては、例えば、石英ガラス製の蒸留器が挙げられる。
前記蒸留としては、精留効率の良さの点で、蒸留温度が95℃〜120℃であり、蒸留時間が0.5時間〜12時間が好ましく、蒸留温度が100℃〜120℃であり、蒸留時間が1時間〜6時間がより好ましい。
【0019】
前記Eagle−Pitcher法における通常の工程であるゲルマニウム酸化物回収工程では、前記回収された四塩化ゲルマニウムに水を加えて、加水分解することにより、酸化物としてゲルマニウム(二酸化ゲルマニウム)を回収する。
前記加水分解において、四塩化ゲルマニウムに対する水の量は、反応を十分に行わせる観点から、2倍質量〜100倍質量が好ましく、2倍質量〜5倍質量がより好ましい。また、前記加水分解は、10℃〜30℃で行うことが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
<原料>
前記ゲルマニウムを回収する原料としては、海外輸入により入手した亜鉛精鉱(該亜鉛精鉱に含まれるゲルマニウムの含有量は0.01質量%〜0.015質量%程度)を酸化焙焼し、酸により亜鉛を浸出させた後の残渣に処理を行い、得られたものを用いた。これは、従来技術と同様に、該残渣を酸浸出及び中和処理することによりカドミニウム等を除去した後、亜鉛粉末によりゲルマニウムを凝集沈殿させ、回収した沈殿残渣を塩酸浸出してできた金属ゲルマニウム含有物である。
前記原料の成分を表1に示す。前記成分は、乾燥時の質量%で示す。なお、前記成分のそれぞれの含有量はICP発光分光分析を用いて測定した。
【0022】
【表1】

(*)その他の成分に含まれる成分としては、ケイ素とその酸化化合物が殆どである。
【0023】
<塩酸浸出及び蒸留条件>
前記原料290g(乾燥重量)、水100mL、35質量%塩酸450mLの混合溶液(塩酸規定度9.8N)を調製し、該混合液の温度を70℃まで上昇させた。その後、30質量%過酸化水素水を少量ずつ添加し、合計100mL(ゲルマニウムに対して2.1モル当量)添加し、蒸留温度105度(液温)で30分間保持し、合計2時間の蒸留をした。なお、過酸化水素水の添加量(ゲルマニウムに対するモル当量)は、下記化学式を前提とし、ゲルマニウム1molに対し、2molの過酸化水素を使用するものと想定した。
〔化1〕
Ge+2H→GeO+2H
【0024】
前記蒸留に用いた装置としては、容積が1,000mLであり、蒸留経路に冷却管を備えた市販の蒸留器(ガラス製ジムロート冷却器)を用いた。該蒸留器により蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却し、捕集容器にて回収した。これにより得られた四塩化ゲルマニウムの回収率を表2に示す。なお、四塩化ゲルマニウムの回収率は、下記数式により求めた。
〔式1〕
四塩化ゲルマニウムの回収率(質量%)=回収後の四塩化ゲルマニウム溶液中のゲルマニウム質量/原料中のゲルマニウム質量×100
【0025】
なお、本塩酸浸出においては、新たに化合された不溶解残物が発生することはなく、また、前記原料を前記塩酸に溶解させた際に容器内壁へゲルマニウムが飛散して付着することもなかった。したがって、本塩酸浸出においては、ゲルマニウムが浸出液に確実に溶解し、前記原料中に溶残りとしてある以外のロスが全くないと考えられる。
【0026】
<加水分解>
前記回収された四塩化ゲルマニウムを水1,000mLに加え、撹拌して加水分解し、二酸化ゲルマニウムを精製した。該二酸化ゲルマニウムの品位を表2に示す。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、過酸化水素水の添加量を100mL(ゲルマニウムに対して2.1モル当量)から91mL(ゲルマニウムに対して1.9モル当量)に変更した以外は、実施例1と同じ方法を用いて、ゲルマニウムの回収を行った。結果を表2に示す。
【0028】
(比較例1)
実施例1において、過酸化水素水を添加しなかった以外は、前記実施例1と同じ方法を用いて、ゲルマニウムの回収を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
<蒸留結果>
実施例1では、前記蒸留により、四塩化ゲルマニウムと揮発した塩酸溶液を100mL回収でき、うち四塩化ゲルマニウム溶液としては45mL得た。前記蒸留により回収されたゲルマニウムの重量は、四塩化ゲルマニウム量で84g、ゲルマニウム量で29gであった。前記四塩化ゲルマニウムとしての回収率は、82%であった。
また、前記四塩化ゲルマニウム溶液の加水分解により得られた二酸化ゲルマニウムは、99.9質量%以上の品位であり、忌避される不純物である砒素は確実に除去されていた。
実施例2では、前記蒸留により回収されたゲルマニウムの重量は、四塩化ゲルマニウム量で71g、ゲルマニウム量で24gであった。前記四塩化ゲルマニウムとしての回収率は、75%であり、前記二酸化ゲルマニウムは、99.9質量%以上の品位であった。
他方、塩酸に過酸化水素水を添加しない従来の方法を用いた比較例1では、四塩化ゲルマニウム量で10g、ゲルマニウム量で3gであった。前記四塩化ゲルマニウムとしての回収率は、10%であり、四塩化ゲルマニウムを殆ど回収できなかった。
【0031】
前記実施例1の結果から、本発明の亜鉛精鉱からゲルマニウムを回収する方法は、高品位のゲルマニウムを高い回収率で、効率よく且つ安価に回収できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の亜鉛精鉱からゲルマニウムを回収する方法は、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に回収できるので、光ファイバーや太陽電池等のいわゆるハイテク産業用の材料開発、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合促進触媒、ダイオード及びトランジスター等の半導体素子、相変化磁気ディスク材料等のエレクトロニクス材料、触媒、その他の加工用原料などに使用可能なゲルマニウムを回収する方法として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属回収工程における、ゲルマニウムを含有する中間物から、塩酸と過酸化水素とを併用して、ゲルマニウムを塩化物として回収するゲルマニウム塩化物回収工程を含むことを特徴とするゲルマニウムの回収方法。
【請求項2】
過酸化水素の添加量が、ゲルマニウムに対して2モル当量以上である請求項1に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項3】
ゲルマニウム塩化物回収工程で回収したゲルマニウム塩化物を加水分解して、ゲルマニウムを酸化物として回収するゲルマニウム酸化物回収工程を含む請求項1から2のいずれかに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項4】
中間物が亜鉛製錬における中間産物である請求項1から3のいずれかに記載のゲルマニウムの回収方法。


【公開番号】特開2012−91968(P2012−91968A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241359(P2010−241359)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(306039131)DOWAメタルマイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】