説明

ゲルマニウム微粒子分散体の製造方法及びそれを使用して製造されたゲルマニウム微粒子分散体並びにそれを分散媒置換したゲルマニウム微粒子分散液

【課題】小さな平均粒径で分散が可能で、分散性、分散安定性、高濃度分散性等が良好なゲルマニウム微粒子分散体の製造方法を提供することにあり、また、その製造方法を使用して製造されたゲルマニウム微粒子分散体、更には、そのゲルマニウム微粒子分散体に対して溶媒置換を施したゲルマニウム微粒子分散液を提供することにある。
【解決手段】ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、ゲルマニウム微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくことを特徴とするゲルマニウム微粒子分散体の製造方法、及び、そのゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換したものであることを特徴とするゲルマニウム微粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウム微粒子分散体の製造方法に関し、更に詳しくは、特定の方法でゲルマニウム微粒子の分散体を製造する際に、分散媒である低蒸気圧液体に特定の化合物を溶解させておくことにより、分散性が大幅に改善されたゲルマニウム微粒子分散体の製造方法に関するものである。また、このようにして得られたゲルマニウム微粒子分散体を、特定の化合物を用いて溶媒置換することによって得られた、分散性が大幅に改善されたゲルマニウム微粒子分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属又は金属化合物の微粒子分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、半導体モジュールの層間接続、透明導電膜の形成、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く用いられている。
【0003】
金属又は金属化合物の微粒子分散液の製造方法としては、金酸塩等の酸化状態の金属化合物の水溶液を、還元剤で還元して金属微粒子の分散液を得る方法が従来から広く知られている。しかしながら、このような化学的方法では、還元されずに残留した物質や還元反応による不純物が含有された微粒子分散液しか調製できず、その用途が限定されたものとなっていた。また、この方法に関しては、使用する還元剤の種類、使用する物質の純度、保護コロイドの有無、調製時のpHや温度等を変化させることによって、分散性を向上させる方法が多く検討されているが、何れも問題点があり充分な分散安定性を得られるまでには至っていなかった。
【0004】
以上のような化学的方法とは異なり、スパークエロージョン法、ガス中蒸発法、真空蒸着法等の物理的方法が知られている。
【0005】
スパークエロージョン法は、分散させたい金属等を電極として用い、分散媒中で電極間に放電を発生させることによって、微粒子分散液を製造する方法である。しかしながら、この方法では、分散媒中に電気良導体である界面活性剤を含有させておくことが難しいため、微粒子の凝集を抑制することができない等の問題点があった。
【0006】
ガス中蒸発法は、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の不活性気体の存在下に、分散させたい金属又は金属化合物の蒸気を発生させ、気相中で微粒子を生成させ、生成した直後に、それを溶媒に捕集して微粒子分散液を製造する方法である(特許文献1参照)。また、不活性気体中に常温で液体である有機物の気体を共存させておくことによって、その有機物中に分散された微粒子を得て、その後溶媒交換等をして微粒子分散液を製造する方法も知られている。
【0007】
しかしながら、これらガス中蒸発法では、平均粒径をそろえることが困難であった。すなわち、発生した金属又は金属化合物の蒸気は、不活性気体原子との衝突によって冷却されて微粒子を形成するが、発生した微粒子は再び不活性気体中で会合しクラスターを形成し易い等の、気体と気体との接触に起因する問題点があった。
【0008】
真空蒸着法は、界面活性剤等で表面が覆われた油(低蒸気圧液体)の表面に金属等を蒸着させ、金属原子等が凝集して微粒子が形成されると同時に、その微粒子を界面活性剤等で保護して微粒子同士の会合を防止し、微粒子が油中に分散された分散体を得る方法である(特許文献2参照)。この方法では、微粒子が直接液体中に生成するので、上記ガス中蒸発法で問題となる、気体と気体との接触に起因する問題点、微粒子同士の会合等は生じ難い。
【0009】
しかしながら、真空蒸着法における上記界面活性剤やその他分散剤等の、分散媒である油(低蒸気圧液体)に溶解させておく化合物については、殆ど研究がなされておらず、微粒子同士が界面活性剤により保護される前に会合し、クラスターを形成してしまう等の問題点が依然としてあった。また、金属の種類によって好適な界面活性剤や分散剤は異なる可能性があるが、それぞれの金属ごとの検討は殆どなされていなかった。従って、比較的優れた方法である真空蒸着法を用いても上記問題点が存在し、金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体に、充分な分散性や分散安定性を付与するまでには至っていなかった。
【0010】
また、ゲルマニウムは有用な金属であるにもかかわらず、ゲルマニウム微粒子については殆ど研究がなされておらず、良好な微粒子分散体が得られていなかった。
【0011】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/099941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、小さな平均粒径で分散が可能で、分散性、分散安定性、高濃度分散性等が良好なゲルマニウム微粒子分散体の製造方法を提供することにあり、また、その製造方法を使用して製造されたゲルマニウム微粒子分散体、更には、そのゲルマニウム微粒子分散体に対して溶媒置換を施したゲルマニウム微粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ゲルマニウム微粒子の分散体を特定の方法で製造するに際し、分散媒に特定の化合物を溶解させておくことにより、分散性等が著しく改善され、小粒径で分散されたゲルマニウム微粒子分散体ができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0014】
具体的には、金属の微粒子分散体を製造できる真空蒸着法において、それに用いる低蒸気圧液体中にカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくと、特に該金属がゲルマニウムの場合には、分散性や分散安定性が極めて顕著に改善されることを見出した。すなわち、ゲルマニウム類の場合には、界面活性剤、分散剤等として「カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類」を用いると、両者の相乗効果が大きく、特に良好な微粒子分散体やそれを溶媒置換した微粒子分散液が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、ゲルマニウム微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくことを特徴とするゲルマニウム微粒子分散体の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記製造方法を使用して製造されたことを特徴とするゲルマニウム微粒子分散体を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記のゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換したものであることを特徴とするゲルマニウム微粒子分散液を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、上記のゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換する際に、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類を加えた後に他の分散媒に置換したものである上記のゲルマニウム微粒子分散液を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記問題点と課題を解決し、極めて小さな体積分布メジアン径(D50)を有するゲルマニウム微粒子にまで分散が可能であり、また、小粒径に分散しても、分散性に優れ、ゲルマニウム微粒子の凝集がなく、分散安定性にも優れた「ゲルマニウム微粒子分散体」を提供することができる。
【0020】
また、分散媒置換時に凝集等が起らず、他の分散媒に置換された後も分散安定性に優れた「ゲルマニウム微粒子分散液」を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で任意に変形できるものである。
【0022】
本発明は、ゲルマニウムの気体を、低蒸気圧液体に接触させることによって、該ゲルマニウム微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体を製造する方法に関するものである。
【0023】
ゲルマニウムの気体を、分散媒である低蒸気圧液体に接触させるが、その気体中にはゲルマニウム化合物、他の金属若しくは金属化合物が含有されている混合気体であってもよい。すなわち、蒸発又は昇華によって気体を生成させるものは、ゲルマニウム、ゲルマニウム合金、ゲルマニウム化合物、ゲルマニウム混合物等(以下、「ゲルマニウム類」と略記する)が含まれる。具体例としては、
ゲルマニウム金属単体;
アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、鉄、銅、金、白金等の金属とゲルマニウムとの合金であるゲルマニウム合金;
酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウム酸塩等のゲルマニウム化合物;
アルミニウム、チタン、バナジウム、マンガン、スズ、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、金、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、白金、パラジウム、アンチモン、インジウム、バリウム、ハフニウム、ビスマス、タンタル等の元素若しくはそれらの化合物と上記ゲルマニウムとの混合物である「ゲルマニウム混合物」等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、ゲルマニウム金属単体又は「ゲルマニウムの含有比率が50質量%を超える合金」が、蒸発又は昇華のし易さ、ゲルマニウム微粒子の分散の安定性、得られた膜の電導度、コスト、入手し易さ等の点から特に好ましい。
【0025】
本発明においては、ゲルマニウムの気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させるが、その際、ゲルマニウムの気体中に、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性気体;分散媒、分散助剤等の有機物気体等を共存させることを排除するものではないが、分子を液体に接触させて、液相界面で分散状態を作る本発明の作用原理から、それらを共存させる必要性はない。好ましくは、上記不活性気体を共存させない方が良い。
【0026】
ゲルマニウムの気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際の圧力は特に限定はないが、10−1Pa以下であることが好ましい。これらの点で、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の圧力下で、不活性気体との相互作用によって、金属の蒸気を凝集させて、気体中で金属微粒子を生成させる、前記したガス中蒸発法とは、本発明は全く異なる技術思想によるものである。
【0027】
本発明において、上記圧力は10−1Pa以下であることが好ましく、10−2Pa以下であることが特に好ましい。また、10−4Pa以上であることが好ましく、10−3Pa以上であることが特に好ましい。圧力が大きすぎる、すなわち真空度が悪いと、加熱温度を高くする必要がある点、そこに介在する気体の影響がでてゲルマニウム微粒子が変質する等の問題が生じる場合がある。一方、圧力が小さすぎる、すなわち真空度を不必要に高くすると、低蒸気圧液体が揮発したり、生産性が落ちたり、真空ポンプに負荷がかかりすぎたりする場合がある。
【0028】
本発明においては、「ゲルマニウムの気体」を、低蒸気圧液体に接触させることによって、それを該低蒸気圧液体中に分散させる。「低蒸気圧液体」とは、分散時の温度で低蒸気圧であって、10−1Paで実質的に揮発しない液体をいう。低蒸気圧でないと、蒸発して「ゲルマニウムの気体」と気体同士で相互作用をして分散性に悪影響を与える場合がある。その25℃での蒸気圧は、好ましくは10−1Pa以下、より好ましくは10−3Pa以下、特に好ましくは10−10Pa〜10−5Pa、更に好ましくは10−8Pa〜10−6Paである。かかる低蒸気圧液体の1気圧での沸点は特に限定はないが、上記と同じ理由で、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましく、240℃以上が更に好ましい。
【0029】
具体的には、例えば、アルキルナフタレン、エチレンオレフィン共重合体等の脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類;アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリアルキルフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;シリコーン油、ポリアルキルシロキサン等のシロキサン化合物類;フルオロカーボン油類;多価アルコール類等が挙げられる。ここで、上記アルキル基としては特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、8〜22個のものがより好ましく、12〜20個のものが特に好ましい。また、「脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類」である場合には、炭素数の合計が14個以上であることが好ましく、20個以上であることがより好ましく、25個以上であることが特に好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いられる。また、低蒸気圧液体として、市販の拡散ポンプ油も好ましく用いられる。
【0030】
また、低蒸気圧液体として、下記するカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を用いることもできる。このように、分散媒である低蒸気圧液体がカルボン酸無水物類自体又はカルボン酸イミド類自体である場合も、本発明においては、「該低蒸気圧液体中に、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておく」という表現に含まれるものとする。
【0031】
本発明のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法においては、ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、ゲルマニウムの気体が固体のゲルマニウム微粒子になって該低蒸気圧液体に分散されるが、その際、該低蒸気圧液体中にカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくことを特徴とする。カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくことによって、体積分布メジアン径(D50)の小さい分散粒子を形成させることができ、また、小粒径でも分散性、分散安定性、高濃度分散性に優れたゲルマニウム微粒子分散体を得ることができる。また、ゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換してゲルマニウム微粒子分散液を製造する際にも分散安定性が保たれる。
【0032】
真空蒸着法においては、製造しようとする微粒子分散体の微粒子となる金属等の種類によって、低蒸気圧液体に溶解させておくべき好適な化合物(界面活性剤、分散剤等)は異なる場合があるので、他の金属(銅、銀、インジウム等)における「低蒸気圧液体に溶解させておくべき化合物」の検討は全く役に立たない。
【0033】
カルボン酸無水物類は、2分子のカルボン酸類を脱水縮合して得られたものであれば特に限定はないが、環状化合物が好ましい。特に好ましくは、カルボキシ基が分子内で脱水縮合してできる5〜6員環化合物である。具体的には、例えば、無水コハク酸骨格、無水マレイン酸骨格、無水フタル酸骨格、無水グルタル酸骨格等を有する環状化合物が挙げられる。
【0034】
一方、カルボン酸イミド類は、特に限定はないが、環状イミド類が好ましい。特に好ましくは、スクシンイミド骨格、マレイミド骨格、フタルイミド骨格又はグルタルイミド骨格を有する環状化合物である。環状イミド類の窒素原子(N)には水素原子(H)が結合していても置換基が結合していてもよいが、下記する置換基が結合していることが好ましい。
【0035】
上記カルボン酸無水物類又は上記カルボン酸イミド類は、低蒸気圧液体に対する相溶性を発揮させる点で、その分子内に置換基を有していることが好ましい。特に、カルボン酸無水物類又は上記カルボン酸イミド類が環状化合物の場合には、その環に直接置換基が結合していることがより好ましい。置換基は、環を形成する炭素原子に結合していることが好ましいが、カルボン酸イミド類の場合には、更にイミド骨格を形成する窒素原子に結合していてもよい。
【0036】
カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が有する置換基としては、鎖状でも環状でもよいが鎖状であることが好ましく、更に鎖状でもアルキル基若しくはアルケニル基がより好ましい。
【0037】
カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が有する1つの置換基の全炭素数は特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、6〜22個のものがより好ましく、8〜20個のものが、ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させてゲルマニウム微粒子分散体を形成させる際に蒸発し難い点、低蒸気圧液体への溶解性や溶解安定性が高い点等から好ましい。
【0038】
上記の点から、特に置換基がアルキル基の場合には、その1つの置換基の全炭素数は、6〜16個が好ましく、8〜14個が特に好ましい。また、置換基がアルケニル基の場合には、1つの置換基の全炭素数は、6〜24個が好ましく、8〜22個がより好ましい。炭素数が多すぎると、低蒸気圧液体に対する溶解性、溶解安定性等が劣る場合があり、炭素数が少なすぎると、ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させる際に気化し易くなったり、低蒸気圧液体に対する相溶性、溶解性又は溶解安定性が劣ってしまったりする場合がある。すなわち、上記カルボン酸無水物類及び上記カルボン酸イミド類は、炭素数6個以上のアルキル基又はアルケニル基が結合したものであることが、上記した点から好ましい。
【0039】
上記物性に優れている点で、置換基はアルケニル基が特に好ましい。アルケニル基の場合、その二重結合の数は特に限定はないが、1〜3個が好ましく、1〜2個がより好ましい。具体的なアルケニル基としては特に限定はないが、炭素数12〜24個のポリブテニル基、炭素数6〜24個のポリプロペニル基等;炭素数18個のオレイル基等が上記の理由で好ましい。
【0040】
カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が有する置換基の数は特に限定はないが、1個又は2個が好ましく、1個が特に好ましい。ここでの「置換基の数」からは、カルボン酸イミド類の窒素原子に結合した置換基の数(1個)は除かれる。
【0041】
更に、カルボン酸イミド類の場合は、ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させてゲルマニウム微粒子分散体を形成させる際に蒸発し難い点、低蒸気圧液体への溶解性が高い点、ゲルマニウム微粒子の分散性と分散安定性が高い点等から、該カルボン酸イミド類のイミド骨格の窒素原子にポリエチレンイミン鎖「−(CHCHNH)−」が結合したものであることが特に好ましい。
【0042】
イミド骨格の窒素原子にはポリエチレンイミン鎖を構成する炭素原子が結合する。該ポリエチレンイミン鎖のエチレンイミンの繰り返し数nは特に限定はないが、2〜10が好ましく、2〜6が特に好ましい。ポリエチレンイミン鎖の末端は特に限定されず、−NH、−NHR、−NR(R及びRはアルキル基等の有機基を示す)等何れでもよいが、−NH、−NHR又は−NR(R及びRは低級アルキル基)が好ましい。
【0043】
本発明におけるカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類の特に好ましい具体例としては、例えば、アルキル又はアルケニル無水コハク酸、アルキル又はアルケニル無水グルタル酸、アルキル又はアルケニル無水マレイン酸、アルキル又はアルケニル無水フタル酸、アルキル又はアルケニルコハク酸イミド類、アルキル又はアルケニルグルタル酸イミド類、アルキル又はアルケニルマレイン酸イミド類、アルキル又はアルケニルフタル酸イミド類等である。「イミド」に「類」が記載されているのは、イミド骨格を形成する窒素原子にも上記したような置換基が結合しているものが特に好ましいからである。
【0044】
本発明においては、低蒸気圧液体中にカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解されていればよく、その濃度は特に限定はなく適宜調節可能であるが、低蒸気圧液体100質量部に対して、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類0.3〜50質量部が好ましく、1〜40質量部がより好ましく、3〜30質量部が特に好ましい。カルボン酸無水物類とカルボン酸イミド類が両方用いられる場合は、両方の合計量が上記範囲になっていることが好ましい。カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が少なすぎると、ゲルマニウム微粒子の分散性が良好でなくなる場合がある。一方、多すぎると、ゲルマニウム微粒子分散体の粘度が高くなりすぎ、後記するチャンバー(1)の回転による「新しい低蒸気圧液体の膜」ができ難くなる場合や、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類がゲルマニウム微粒子表面等に多く残留する場合がある。
【0045】
上記したように、低蒸気圧液体として、カルボン酸無水物類自体及び/又はカルボン酸イミド類自体が用いられることもある。その場合、特に限定はないが、該カルボン酸無水物類とカルボン酸イミド類の20℃での粘度は150mPa・sを超えないことが好ましい。
【0046】
本発明のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法によると、ゲルマニウムの気体が低蒸気圧液体の界面に蒸着され液中に取り込まれ、ゲルマニウム微粒子が生成する。そこで使用されるカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類は、液中へのゲルマニウムの取り込み、液中でのゲルマニウム微粒子の生成、ゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)の制御、ゲルマニウム微粒子同士の会合の抑制、加熱下のゲルマニウム微粒子の融着等に直接関与していると考えられる。従って、かかる役割・効果が極めて特殊であるので、一般的な微粒子の分散性改良等に用いられる界面活性剤、添加剤、分散剤、分散助剤等の知見・技術は殆ど役に立たない。すなわち、他の微粒子分散体の製造方法において知られている分散のために用いられる化合物の本発明への単なる転用は容易にはできない。また、公知の界面活性剤、添加剤、分散剤、分散助剤等の本発明への単なる転用も容易にはできない。
【0047】
また、微粒子が磁性紛(強磁性体紛)であることは、その微粒子が結晶性を有する程度に大きいということであり、そのような結晶性粒子若しくはそこまで大きい微粒子の分散技術は、それより極めて小さい粒径のゲルマニウム微粒子の形成や分散が可能であり必要な本発明には全く応用できないものである。また、ゲルマニウム以外の金属の分散技術(真空蒸着法によるものも含む)も、本発明のゲルマニウムの真空蒸着法による分散には全く応用できないものである。
【0048】
本発明の製造方法を用いると、体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散されたゲルマニウム微粒子分散体を極めて分散性良く安定に製造できる。また、体積分布メジアン径(D50)50nm以下でも安定に分散でき、更には、10nm以下でも分散できる。従って、本発明の製造方法を使用して得られるゲルマニウム微粒子分散体中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nm、特に好ましくは3.5〜15nm、更に好ましくは4〜10nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど、ゲルマニウム微粒子分散体の用途の1つである膜形成において、該膜を形成するときの加熱温度を低くでき、本発明の前記効果を発揮し易いので好ましい。
【0049】
体積分布メジアン径(D50)を小さく分散させようとすると、ゲルマニウムの分散には、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が特異的に有効である。ゲルマニウム以外の金属の場合は、体積分布メジアン径(D50)を小さく分散させるためには、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が特異的に有効ではない場合がある。
【0050】
本発明においては、日機装株式会社製、nano trac(ナノトラック)UPA−ST150を用い、常法に従い濃度を調整した分散液を用いて、常法に従い体積分布メジアン径(D50)、体積平均粒径、粒度分布等を測定した。
【0051】
ゲルマニウム微粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、板状、不定形等何れでもよい。また、ゲルマニウム微粒子の結晶性や結晶構造も特に限定はないが、非結晶であることが、基板に塗布した後、膜を形成させるときの加熱温度を低くできる点等で好ましい。
【0052】
本発明の製造方法によって製造されたゲルマニウム微粒子分散体中に含まれるゲルマニウム類の質量割合は特に限定はないが、ゲルマニウム微粒子分散体100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましく、20〜70質量部が特に好ましい。なお、ゲルマニウム微粒子は、ゲルマニウム類と「カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類」とから実質的になるが、ゲルマニウム微粒子分散体中のゲルマニウム微粒子の濃度(ゲルマニウム類とその表面等に存在する「カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類」との合計質量の濃度)は特に限定はないが、ゲルマニウム微粒子分散体100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましく、20〜70質量部が特に好ましい。本発明を使用すれば、高濃度のゲルマニウム微粒子分散体が得られる。
【0053】
本発明のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法について、図1に示す製造装置を例に更に詳しく説明する。ただし、図1は、本発明に用いられる具体的装置の一例であり、本発明は図1に示す装置を用いたものには限定されない。また、下記する微粒子分散体の製造方法を、本発明では「真空蒸着法」ということがある。
【0054】
図1において、チャンバー(1)は、固定軸(2)の回りに回転するドラム状であり、固定軸(2)を通してチャンバー(1)の内部が高真空に排気される構造になっている。チャンバー(1)には、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体(3)が入れてあり、ドラム状のチャンバー(1)の回転によって、チャンバー(1)の内壁に、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)が形成される。チャンバー(1)の内部には、ゲルマニウム(5)を入れる加熱容器(6)が固定されている。ゲルマニウム(5)は、抵抗線に電流を流す等して所定温度まで加熱され、気体となってチャンバー(1)の中に放出される。
【0055】
チャンバー(1)の外壁は、水流(8)で全体が冷却されている。加熱された「ゲルマニウム(5)」から真空中に放出された原子(9)は、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面から取り込まれ、ゲルマニウム微粒子(10)が形成される。次いで、かかるゲルマニウム微粒子(10)が分散された低蒸気圧液体(3)は、チャンバー(1)の回転に伴ってチャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)の中に輸送され、同時に、新しい「低蒸気圧液体(3)の膜(4)」がチャンバー(1)の上部に供給される。
【0056】
この過程を継続することによって、チャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)は、ゲルマニウム(5)が高濃度に分散した分散体になっていく。
【0057】
ゲルマニウムを気体にする方法は特に限定はされない。加熱温度も気体状態にできるために充分な温度であれば特に限定はないが、900〜2000℃が好ましく、950〜1800℃がより好ましく、980〜1700℃が更に好ましく、1000〜1600℃が最も好ましい。
【0058】
本発明においては、真空蒸着法によって、ゲルマニウムの気体が、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体中に直接取り込まれることによってゲルマニウム微粒子分散体が製造される。本発明は、以下の作用・原理には限定されないが、以下のように考えられる。すなわち、ゲルマニウムの気体は、気相で凝集せずに直接低蒸気圧液体中に取り込まれ、低蒸気圧液体中で凝集が起こり、ある程度の体積分布メジアン径(D50)を有するようになった時点で、その凝集粒子はカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類によって取り囲まれ、ナノ微粒子として安定化するものと考えられる。その際、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類は、凝集粒子をより素早く包み込み、互いの会合をより強く抑制し、ナノ微粒子としてより安定化させるものと考えられる。
【0059】
本発明の製造方法を使用して得られたゲルマニウム微粒子分散体は、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられているが、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられていると、分散媒を乾燥又は留去し難い等、その後の用途にとって不適当な場合は、かかる「ゲルマニウム微粒子分散体」中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換して、「ゲルマニウムの微粒子分散液」を調製することが好ましい。すなわち、上記低蒸気圧液体は分散性の観点から好適なものが使用されるが、その後、そのゲルマニウム微粒子が用いられる用途に応じて好適な「他の分散媒」に置換されることが好ましい。ただし、「他の分散媒」としては、非極性の分散媒(例えば、水に任意の割合では相溶しない液体)の方が、得られたゲルマニウム微粒子分散液中のゲルマニム微粒子の分散安定性のために好ましい。
【0060】
「他の分散媒」は、ゲルマニウム微粒子分散液の種々の用途に適応したものから適宜選択することができる。従って、「他の分散媒」としては、IC、半導体、導電膜、フィルター等の製造用の溶媒又は分散媒を始め、一般に、インキ、塗料、触媒材料、医療用等に用いられる汎用の溶媒又は分散媒が挙げられる。
【0061】
「他の分散媒」の具体例としては特に限定はなく、ゲルマニウム微粒子分散液の用途に応じて選択できる。例えば、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルペンタン、ノルマルヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール系分散媒類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酪酸ブチル等のエステル類;2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、3−ジエチルアミノ−1−プロパノール、2−ジメチルアミノ−2−プロパノール、2−メチルアミノエタノール、4−ジメチルアミノ−1−ブタノール等のアミノ基含有アルコール類等を挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合して使用してもよい。
【0062】
低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換する方法としては、公知の溶媒置換・分散媒置換の方法が用いられ得る。本発明で得られたゲルマニウム微粒子は分散媒を置換しても、分散媒置換中も、その後の分散液保存中も安定に分散状態を保つことができる。
【0063】
本発明において、特に好ましい分散媒置換方法は、ゲルマニウム微粒子分散体の分散媒である低蒸気圧液体と少なくともある割合では相溶する貧溶媒を、ゲルマニウム微粒子分散体に加えることによって、ゲルマニウム微粒子を沈降させ、上澄みの低蒸気圧液体を除く過程を有する分散媒置換方法である。すなわち、貧溶媒を、ゲルマニウム微粒子分散体に加えることによって、実質的に上澄みの「低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物」だけを、デカンテーション等で除く過程を有する分散媒置換方法が好ましい。
【0064】
ここで、上記貧溶媒は、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類と、任意の割合では相溶しないものであることが好ましい。すなわち、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を表面等に有するゲルマニウム微粒子に対し、「貧分散媒」として作用するものが好ましい。また一方で、ゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体と、ある割合では相溶するものであることが好ましい。更に、その両方の性質を併せ持ったものであることが特に好ましい。このような貧溶媒を用いると、デカンテーション等が可能になり、低蒸気圧液体から上記した「他の分散媒」に好適に分散媒置換ができ、分散媒置換前中後での分散維持性にも優れる。
【0065】
貧溶媒と「カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類」の相溶性が大きすぎると、貧溶媒をゲルマニウム微粒子分散体に加えても、そこに分散されているゲルマニウム微粒子が沈降しない場合がある。
【0066】
貧溶媒は、分散媒置換の対象となるゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体に対して、ある割合では相溶することが好ましい。如何なる割合でも相溶しないものであれば、貧溶媒をゲルマニウム微粒子分散体に加えた際、低蒸気圧液体と貧溶媒は相分離するので、ゲルマニウム微粒子は低蒸気圧液体の方だけに依然として分散したままとなり、沈降しない場合がある。
【0067】
貧溶媒の種類は特に限定はないが、例えば、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系等の酸素原子を含む液体等が挙げられる。このうち、アルコール系としては炭素数が3〜6個のアルコールが好ましく、炭素数が3〜5個のアルコールが特に好ましい。ケトン系としては炭素数が2〜8個のケトンが好ましく、炭素数が2〜6個のケトンが特に好ましい。エーテル系としては炭素数が4〜8個のエーテルが好ましく、炭素数が4〜6個のエーテルが特に好ましい。エステル系としては炭素数が3〜8個のエステルが好ましく、炭素数が3〜6個のエステルが特に好ましい。
【0068】
炭素数が少なすぎても、また多すぎても、上記要件を満たす貧溶媒が存在しなくなる場合がある。また、特に、少なすぎる場合は、低蒸気圧液体と相溶しなくなる場合があり、一方、多すぎる場合は、後述する沸点が高くなりすぎる場合がある。
【0069】
貧溶媒の沸点や蒸気圧は特に限定はないが、低蒸気圧液体より低沸点、高蒸気圧であることが好ましい。貧溶媒を加えた後、沈降したゲルマニウム微粒子を容器中に残し、低蒸気圧液体と貧溶媒の混合液体をデカンテーションで取り除き、再度貧溶媒を加えてデカンテーションを繰り返すことが好ましいが、最後のデカンテーションでも残存した貧溶媒を、要すれば加熱せずに減圧留去し易いからである。該貧溶媒の1気圧における沸点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。
【0070】
このような貧溶媒は、限定されるわけではないが、具体的には、例えば、
n−プロパノール、iso−プロパノール(以下、「IPA」と略記する)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルコール系;
アセトン、エチルメチルケトン(以下、「MEK」と略記する)、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;
エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、フラン、テトラヒドロフラン等のエーテル系;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系;
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(以下、「BDGAc」と略記する)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート系;
γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等のラクトン系;
等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上の混合溶媒で用いられる。
【0071】
本発明における貧溶媒は、中でもアルコール系又はエステル系が、上記要件を満たしてデカンテーションをし易い、デカンテーション後「他の分散媒」を加えた時に再分散し易い等の点で特に好ましい。
【0072】
真空蒸着法によって製造されたゲルマニウム微粒子分散体に対し、前記貧溶媒を加えて該ゲルマニウム微粒子を沈降させ、上澄みの「低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物」だけをデカンテーション等で取り除き、そこに上記した「他の分散媒」を加えて、最終的にゲルマニウム微粒子分散体の低蒸気圧液体を「他の分散媒」に分散媒置換して、本発明のゲルマニウム微粒子分散液が製造されることが好ましいが、その工程の何れかで、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類(以下、これらを「分散補助剤」と略記する場合がある)を加えることが特に好ましい。すなわち、ゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換する際に、かかる分散補助剤を加えた後に「他の分散媒」に置換したゲルマニウム微粒子分散液が好ましい。
【0073】
分散補助剤を加えることによって、分散媒置換中の分散性を良好に保持し、ゲルマニウム微粒子分散液の分散性や分散安定性を良好にすることができる。分散補助剤を加える上記効果は、カルボン酸無水物類を用いたゲルマニウム微粒子分散体、又はポリエチレンイミン鎖が結合していないカルボン酸イミド類を用いたゲルマニウム微粒子分散体に対して特に顕著である。ポリエチレンイミン鎖が結合しているカルボン酸イミド類を用いたゲルマニウム微粒子分散体は、分散補助剤を加えなくても、分散媒置換中の分散性が充分良好に保持され、ゲルマニウム微粒子分散液の分散性や分散安定性がある程度は良好である。
【0074】
かかる分散補助剤は、分散媒置換中のどこかで加えればよいが、「低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物」をデカンテーション等で取り除いた後であり、かつ「他の分散媒」を加える前に加えることが好ましい。「低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物」をデカンテーション等で取り除いた後、加熱下及び/又は減圧下で、低蒸気圧液体及び/又は貧溶媒を更に取り除き、要すれば乾固し、その後「他の分散媒」を加えることも好ましいが、そのときは、低蒸気圧液体及び/又は貧溶媒を更に取り除いた後(要すれば乾固した後)、「他の分散媒」を加える前に、分散補助剤を加えることが特に好ましい。すなわち、ゲルマニウム微粒子分散体に貧溶媒を加えることによって該ゲルマニウム微粒子を沈降させ、上記低蒸気圧液体を実質的に除いた後に、分散補助剤を加え、その後、上記「他の分散媒」を加えてなるゲルマニウム微粒子分散液が特に好ましい。
【0075】
分散補助剤を加えた後は、良く攪拌し分散補助剤をゲルマニウム微粒子の表面に行き渡らせた後に、「他の分散媒」を加えることが好ましい。
【0076】
分散補助剤としての1級若しくは2級アミン類は特に限定はなく、アルキルアミン、アルケニルアミン、アニリン誘導体等が好ましい。中でも、アルキルアミン又はアルケニルアミンが、ゲルマニウム微粒子分散液の分散性や分散安定性を良好にできる点で好ましい。アルキル基やアルケニル基は直鎖構造のものでも側鎖を有するものでもよい。1級アミン類のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は特に限定はないが、好ましくは5〜25個、特に好ましくは8〜18個である。炭素数が少なすぎても、多すぎても、分散を補助する上記効果が得られない場合がある。2級アミン類の場合は、1個の有機基が、上記1級アミン類で記載したアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。もう一方の有機基はメチル基、エチル基、ビニル基等の低級の有機基であってもよい。
【0077】
分散補助剤としてのカルボン酸類は特に限定はないが、カルボン酸の炭素数(1個)を含めて炭素数5〜25個の脂肪酸が好ましく、炭素数8〜20個の脂肪酸が特に好ましい。炭素数が多すぎる場合や少なすぎる場合は、上記1級アミン類の場合と同じである。脂肪酸に関しては、常温で液体であるものがより好ましい。
【0078】
分散補助剤としてのアルコール類は特に限定はないが、炭素数5〜25個のアルコール類が好ましく、炭素数8〜20個のアルコール類が特に好ましい。炭素数が多すぎる場合や少なすぎる場合は、上記1級アミン類の場合と同じである。
【0079】
分散補助剤として、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類を用いると、分散媒置換時及びゲルマニウム微粒子分散液の分散性、分散安定性が良好になる作用・原理は明らかではなく、また本発明は、以下の作用・原理には限定されないが、以下のように考えられる。すなわち、後から加えた、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類が、カルボン酸無水物類等と化学反応してカルボキシル基を有する化合物が生成したためと考えられる。例えば、分散補助剤が1級アミン類で、カルボン酸無水物類が環状の場合、両者が化学反応して開環しアミド酸が生成し、このアミド酸が分散媒置換時及びゲルマニウム微粒子分散液の分散性向上や分散安定性向上に寄与したと考えられる。
【0080】
本発明によると、ゲルマニウム微粒子分散体の分散媒(低蒸気圧液体)を、「他の分散媒」に置換することによって、体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散されたゲルマニウム微粒子分散液を極めて分散性良く安定に製造できる。そして、体積分布メジアン径(D50)50nm以下のものでも製造可能であり、更には、体積分布メジアン径(D50)10nm以下のものでも製造可能である。すなわち、分散媒を置換してもゲルマニウム微粒子の分散性が悪化し難く、体積分布メジアン径(D50)が大きくなり難い。従って、本発明の製造方法を使用して得られるゲルマニウム微粒子分散液中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは2.5〜30nm、更に好ましくは3〜16nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど、ゲルマニウム微粒子分散液の用途の1つである膜形成において、該膜を形成するときの加熱温度を低くでき、本発明の前記効果を発揮し易いので好ましい。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
実施例1
低蒸気圧液体としてライオン拡散ポンプ油(A)(ライオン社製)280gを用い、それにテトラプロペニル無水コハク酸(新日本理化社製)を120g添加し攪拌した。ライオン拡散ポンプ油(A)は、炭素数12〜16個のアルキル基を有するアルキルナフタレンである。テトラプロペニル基は、炭素数12個の、「CHCHCHCH(CH)CHCH(CH)CH=C(CH)CH−」である。
【0083】
図1に示す装置を用いてゲルマニウム微粒子分散体を製造した。加熱容器(6)内に、粒状ゲルマニウム(フルウチ化学社製:純度99.999%)10gを入れ、回転ドラム式のチャンバー(1)内に上記液体を入れた。真空ポンプで吸引することによって、チャンバー(1)内の圧力を、10−3Paに到達させた。次いで、チャンバー(1)を水流(7)で冷却させながら回転させ、加熱容器(6)の下部に設けたヒーターに電流を流し、ゲルマニウム(Ge)が溶融・蒸発するまで、その電流値を与えた。
【0084】
粒状ゲルマニウム(Ge)は溶融・蒸発し、ゲルマニウム(Ge)の気体は、分散媒面(テトラプロペニル無水コハク酸が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面)に接触し、テトラプロペニル無水コハク酸に取り込まれることで、ゲルマニウム(Ge)微粒子分散体が製造された。
【0085】
良好なゲルマニウム微粒子分散体を製造することができた。日機装株式会社製、nano trac(ナノトラック)UPA−ST150を用いて測定した体積分布メジアン径(D50)は15.8±1.7nmであった。
【0086】
実施例2
実施例1で得られたゲルマニウム微粒子分散体200gに、貧溶媒である酢酸エチル1800gを滴下した。攪拌後、25℃で1日間、静置したところ、ゲルマニウム微粒子が沈降した。沈降したゲルマニウム微粒子は、アルキルナフタレン(ライオン拡散ポンプ油(A))と酢酸エチルの混合液と完全に相分離した。そこで、アルキルナフタレンと酢酸エチルをデカンテーションで除去した。その後、残存する酢酸エチルを減圧留去し、ゲルマニウム微粒子を乾固させた。それにより、テトラプロペニル無水コハク酸に包括されてなるゲルマニウム微粒子60gが得られた。次いで、そこに分散補助剤としてオクチルアミン15gを加え良く攪拌し、その後、トルエン30gを加えて攪拌することによって、ゲルマニウム微粒子分散液を製造した。
【0087】
良好なゲルマニウム微粒子分散液が製造できていることが確認できた。得られたゲルマニウム微粒子分散液中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)も、上記ゲルマニウム微粒子分散体中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)から大きくなっておらず、良好に分散媒置換ができた。
【0088】
実施例3
低蒸気圧液体としてライオン拡散ポンプ油(A)(ライオン社製)190gを用い、それにテトラプロペニルコハク酸オレイルイミド(自社製合成物)を10g添加し攪拌して分散媒を調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、ゲルマニウム微粒子分散体を製造した。
【0089】
実施例1とほぼ同様の形態で、良好なゲルマニウム微粒子分散体を製造することができた。
【0090】
上記で得られたゲルマニウム微粒子分散体の分散媒であるライオン拡散ポンプ油(A)を、実施例2と同様にしてトルエンに分散媒置換して、ゲルマニウム微粒子分散液を得た。得られたゲルマニウム微粒子分散液中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)も、上記ゲルマニウム微粒子分散体中のゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)から大きくなっておらず、良好に分散媒置換ができ、得られたゲルマニウム微粒子分散液の分散性は良好であった。
【0091】
実施例4
実施例3において、テトラプロペニルコハク酸オレイルイミドの代わりにポリブテニルコハク酸四アミンイミド(三洋化成工業社製)を同質量用いた以外は実施例1と同様の方法でゲルマニウム微粒子分散体を得た。「ポリブテニルコハク酸四アミンイミド」は、コハク酸イミドの5員環を構成するN原子に、ポリエチレンイミン骨格である「−(CHCHNH)−CHCHNH」が結合したものである。また、ポリブテニル基の炭素数は、12〜20個である。
【0092】
良好なゲルマニウム微粒子分散体を製造することができた。日機装株式会社製、nano trac(ナノトラック)UPA−ST150を用いて測定した体積分布メジアン径(D50)は18.3±1.5nmであった。
【0093】
上記で得られたゲルマニウム微粒子分散体の分散媒であるライオン拡散ポンプ油(A)を、分散補助剤としてオクチルアミンを使用しない以外は、実施例2と同様に操作することによってトルエンに分散媒置換して、ゲルマニウム微粒子分散液を得た。良好に分散媒置換ができ、得られたゲルマニウム微粒子分散液の分散性は良好であった。
【0094】
比較例1
実施例1において、テトラプロペニル無水コハク酸に代えて、ワンダミンCHE−20P(主成分:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン)(新日本理化社製)を同質量用いた以外は、実施例1と同様の方法で操作したが、凝集物が生成しゲルマニウム微粒子分散体は得られなかった。
【0095】
比較例2
実施例3において、テトラプロペニルコハク酸オレイルイミドに代えて、イオネットS85(三洋化成工業社製)を同質量用いた以外は、実施例3と同様に操作したが、凝集物が生成しゲルマニウム微粒子分散体は得られなかった。イオネットS85は、ソルビタントリオレートを主成分とするソルビタン脂肪酸エステルである。
【0096】
上記結果から明らかなように、本発明の実施例1、3、4では、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を用いたため、ゲルマニウム微粒子同士の会合が抑制され、良好な分散性と分散安定性を有するゲルマニウム微粒子分散体を得ることができた。また、分散媒置換も問題なくできた。一方、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を使用しない比較例1、2では、ゲルマニウム微粒子が互いに凝集しており、沈降、堆積していることが観察でき、良好なゲルマニウム微粒子分散体ができなかった。
【0097】
参考例1
実施例1及び実施例4において、それぞれゲルマニウム(Ge)に代えて銀(Ag)粒(徳力本店社製:純度99.99%)を用いた以外は、実施例1及び実施例4と同様の操作を行ったが、目視でも微粒子が沈降、堆積していることが観察でき、銀微粒子分散体は得られなかった。透過型電子顕微鏡観察で、粒子が互いに凝集していることを確認した。すなわち、銀ではカルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類は効果を発揮し難く、ゲルマニウムで特異的に効果を発揮することが分かった。
【0098】
参考例2
比較例2において、ゲルマニウム(Ge)に代えて銀(Ag)粒(徳力本店社製:純度99.99%)を用いた以外は、比較例2と同様の操作を行なって銀微粒子分散体を得た。5〜15nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。すなわち、分散させる金属によって、低蒸気圧液体中に溶解させておくべき好適化合物(界面活性剤、分散剤等)は全く別のものになることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法を使用して得られた分散体や分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法に使用される装置の一例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 チャンバー
2 固定軸
3 カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体
4 カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類が溶解された低蒸気圧液体の膜
5 ゲルマニウム
6 加熱容器
7 水流
8 回転方向
9 ゲルマニウム類の気体
10 ゲルマニウム微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムの気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、ゲルマニウム微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に、カルボン酸無水物類又はカルボン酸イミド類を溶解させておくことを特徴とするゲルマニウム微粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
上記カルボン酸無水物類及び上記カルボン酸イミド類が、置換基として炭素数6個以上のアルキル基又はアルケニル基が結合したものである請求項1記載のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
上記カルボン酸イミド類が、イミド骨格の窒素原子にポリエチレンイミン鎖が結合したものである請求項1又は請求項2記載のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
ゲルマニウムの気体の該低蒸気圧液体への接触を、10−4Pa〜10−1Paの範囲の圧力下で行なう請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載のゲルマニウム微粒子分散体の製造方法を使用して製造されたことを特徴とするゲルマニウム微粒子分散体。
【請求項6】
体積分布メジアン径(D50)100nm以下でゲルマニウム微粒子が分散されている請求項5記載のゲルマニウム微粒子分散体。
【請求項7】
請求項5又は請求項6記載のゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換したものであることを特徴とするゲルマニウム微粒子分散液。
【請求項8】
請求項5又は請求項6記載のゲルマニウム微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換する際に、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類を加えた後に他の分散媒に置換したものである請求項7記載のゲルマニウム微粒子分散液。
【請求項9】
請求項5又は請求項6記載のゲルマニウム微粒子分散体に貧溶媒を加えることによって該ゲルマニウム微粒子を沈降させ、上記低蒸気圧液体を実質的に除いた後に、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類を加え、その後、上記他の分散媒を加えてなる請求項7又は請求項8記載のゲルマニウム微粒子分散液。
【請求項10】
体積分布メジアン径(D50)100nm以下でゲルマニウム微粒子が分散されている請求項7ないし請求項9の何れかの請求項記載のゲルマニウム微粒子分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2010−156004(P2010−156004A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333586(P2008−333586)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】