説明

ゲル化剤

【課題】 室温で液状の有機化合物をゲル化するためのゲル化剤であって、比較的少量の使用でゲル化可能であり、且つ60℃を越えるゲル−ゾル転移温度となるゲル化剤及び該ゲル化剤によるゲルを提供する。
【解決手段】
本発明のゲル化剤は下記化合物(1)である。
【化11】


(但し、nは2〜18の整数、Rは炭素数0〜6の分岐又は直鎖状のアルキレン基、Zは2価の芳香族基、Rは置換基を有するか又は有しない炭素数2〜18のアルキル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基から選ばれる基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化合物をゲル化又は増粘するためのゲル化剤及び該ゲル化剤を用いたゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来各種産業分野において、液体状物質を固化、すなわちゼリー状に固める目的、又は増粘する目的でゲル化剤が用いられている。例えば接着剤、塗料、印刷インキ、化粧品等の流動性の制御、チクソトロピー性の付与、海上への石油類の流出対策、家庭等における食用油の処分、その他食品製造業、医療分野等において使用されている。これらのゲル化剤としては、水分を固化させるもの、例えばコラーゲン、ゼラチン、寒天、アガー(カラギーナン)、ペクチン等があり、また有機物、特に炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類その他の有機溶剤及びそれらを主として含む溶液等を固化させるゲル化剤がある。
【0003】
これらのうち、有機溶液を固化させるためのゲル化剤としては、低分子量又は高分子量の有機化合物があり、低分子量ゲル化剤としては、例えばアミノ基、イミド基、尿素基など水素結合性官能基を分子内に有する低分子量有機化合物群が知られている。また高分子ゲル化剤としては、親油性を有する高分子ポリマーの絡み合った分子中に油類を取り込み膨潤はするが、固体状を保つものとして例えばポリビニルアルコール/ポリエチレン/各種エラストマーや、尿素樹脂、ポリオレフィン不織布などが知られている。
【0004】
更に本発明者らは、パーフルオロアルキル基とフェニレン基とを酸素や硫黄原子、或いはスルホン基で、直接又は間接的に結合した有機ゲル化剤をすでに提案している。(特許文献1,2,3,4)。
【0005】
本発明もパーフルオロアルキル基と芳香族基とを有する化合物よりなり、特に本発明は少量の使用により有機液体を固化(ゲル化)し得るゲル化剤及び該ゲル化剤を含むゲルを提供する。
【0006】
従来有機溶液を固化させるゲル化剤は、一般に大量のゲル化剤、例えば溶液に対して、5〜10%程度用いる必要があったこと及び比較的低い温度、例えば30〜40℃程度でゾルに転移し、液状に戻る傾向があった。
【0007】
ゲル化させるために多くのゲル化剤を使用することは、経済的に不利であるばかりでなく、ゲル化される溶媒中への異物の混入量が多くなることを意味しており、ゲル化された溶媒を利用する場合にあっては不純物としてのゲル化剤の影響も無視し得ない場合がある。
【0008】
またゲル化温度の上限が低い場合は、少しの温度上昇により、形状が保てなくなり、流動化して液洩れ等の原因となる場合がある。
【0009】
そこで、より少量で且つ比較的高温までゲル状態が保たれるゲル化剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−191661
【特許文献2】特開2007−191627
【特許文献3】特開2007−191626
【特許文献4】WO2009/078268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、より少量の使用で、且つ比較的高温下でもゲル状態を保持し得るゲル化剤の開発を目指し、鋭意研究を行った結果、すでに、パーフルオロアルキル基を有し、スルホン基を介してフェニレンを有する構造のゲル化剤(特許文献4)を提案した。本発明も同様の目的で、よりシンプルな合成し易い化合物よりなるゲル化剤を提供する。
【0012】
すなわち、本発明は0.4%程度の使用でも有機液体をゲル化し、且つ高い温度例えば50〜70℃においてもゲル状を保つことが可能なゲル化剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の請求項1に記載の発明は、下記一般式(1)の化合物よりなるゲル化剤である。
【0014】
【化1】





(但し、nは2〜18の整数、Rは、炭素数0〜6の分枝又は直鎖状のアルキレン基、Zは2価の芳香族基、Rは置換基を有するか又は有しない炭素数2〜18のアルキル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基より選ばれる基を表す。)
また本発明の請求項2に記載の発明は、一般式(1)のゲル化剤0.4〜10重量%と室温で液状の有機化合物99.6〜90重量%の割合よりなるゲルである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゲル化剤は、新規な化合物である前記一般式(1)の化合物であって、室温下に液体である種々の有機化合物、例えば炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、カルボン酸類、アミン類、ニトリル類、アミド類等をゲル化又は増粘することができる。
【0016】
特に後述する実施例に示す如く、本発明のゲル化剤は、適用する有機化合物との組合せを適宜選ぶことによって1%以下、特に0.4重量%程度の使用で、室温下で有機化合物をゲル化することも可能となり、また或る組み合わせを選択することにより80℃近くまでの温度下においてもゲルを保持することが可能で、しかも、従来の高性能ゲル化剤に比して合成が容易であるため、産業上きわめて有用なゲル化剤である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】は、4-[2-(perfluorooctyl)ethylthio]-phenol(A)のIRスペクトル図である。
【図2】は、(A)のNMRスペクトル図である。
【図3】は、1-octoxy-4-[2-(perflorooctyl)ethylthio]-benzene(化合物1)のIRスペクトル図である。
【図4】は、化合物1のNMRスペクトル図である。
【図5】は、1-octoxy-4-[2-(perflorooctyl)ethylsulfinyl]-benzene(化合物2)のIRスペクトル図である。
【図6】は、化合物2のNMRスペクトル図である。
【図7】は、本発明のゲル化剤使用割合とゲル−ゾル転移温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の最大の特徴は、パーフルオロアルキル基と芳香族基が直接又はアルキレン基を介してスルホキシド基(スルフィニル基ともいう)と結合しており、該スルホキシド基は、他方で芳香族基と結合していることを必須とし、更に該芳香族基は少なくとも一つのアルキル基、アルコキシ基、或いはアルキルチオ基を有する。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示されるゲル化剤である。
【0019】
【化2】

一般式(1)で示される化合物において、C2n+1については、nは2〜18であるパーフルオロアルキル基であり、また好ましくは4〜8のパーフルオロアルキル基である。
【0020】
また、Rは炭素数0〜6の分岐を有していても、また直鎖状であってもよいアルキレン基、すなわち、パーフルオロアルキル基が直接スルホキシド基に結合していてもよいし、またアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、アルキル置換エチレン基、トリメチレン基、アルキル置換トリメチレン基、テトラメチレン基、アルキル置換テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等、要は、分岐の有無に関わらず総炭素数6までのアルキレン基であり、好ましくはエチレン又はトリメチレン基である。
【0021】
また、スルホキシド基は他方でZに結合している。ここでZは芳香族基であり、例えばフェニレン、ビフェニレン、ナフチレン等の2価の炭化水素基又は複素環基であり、これらは更にアルキル基等の置換基を持っていてもよい。
【0022】
は、炭素数1〜18のアルキル基、アルコキン基、又はアルキルチオ基より選ばれる基であり、Rと同様アルキルの置換基を有してよい。
【0023】
は一般に長鎖であるほど、ゾル−ゲル転移温度は高くなり、炭素数8〜18の場合、ゲル化剤の6%程度の使用で50℃以上に高めることができる。
【0024】
本発明のゲル化剤の製法は特に限定をされないが、次の手段で合成することができる。
【0025】
【化3】

(但し、R2は炭素数2〜18のアルキル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基より選ばれる基を表す。)
なお、Rがアルキル基の場合は、化合物(B)としてあらかじめアルキル基が導入されたp‐アルキルベンゼンチオールを用いる、またアルコキシ基やアルキルチオ基の場合は、Xとしてそれぞれ水酸基やメルカプト基である。
【0026】
本発明のゲル化剤の製造において、出発原料となる化合物(B)及び(C)は市販されているものもあり、炭酸カリウムの存在下、アセトン中でリフラックスすることにより化合物(A)が得られる。冷却後、炭酸カリウムをろ別し、ろ液からアセトンを蒸発させ、化合物(A)を固体として単離することができる。次いで化合物(A)を再びアセトンに溶解し、炭酸カリウムの存在下にハロゲン化アルキルと反応させる。なお、Rがアルキルの場合は、すでにアルキル基が導入されているので後段の処理は、不要となる。また一旦得られた化合物(1)は、氷酢酸中で、過酸化水素により硫黄原子を酸化することにより、目的とするスルホキシドに変化し得るのである。
【0027】
本発明にあっては、上記の如く、市販されている原料から、2〜3段階処理程度の比較的容易な手段で目的とするゲル化剤を得ることができるのである。
【0028】
本発明のゲル化剤を用いたゲルの製造は、従来の方法、例えば、有機溶媒を必要に応じて加温し、ゲル化剤を加えることによって達成される。一般に有機溶剤をゲル−ゾル転移温度以上に加温することによりゲル化剤を有機溶剤中に溶解し、流動性を保っている間に容器中に注入し、冷却固化させることにより、ゲルを得ることができる。
【0029】
本発明のゲル化剤は、一般に室温で液状の有機化合物をゲル化することができる。例えば、ガソリン、軽油、灯油等の石油類、ヘキサン、へプタン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、プロピレンカーボネート、メチルイソブチルカーボネート等の炭酸エステル類、メチルエーテル、エチルエーテル、エポキシプロパン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ホルムアミド、アセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、大豆油、オリーブ油、ゴマ油等の油脂類、ブチロラクトン、バレロラクトン類等のラクトン類、ピリジニウム系化合物、イミダゾリウム系化合物、ピロリジニウム系化合物等のイオン液体等が挙げられる。
【0030】
本発明のゲル化剤は、室温において、5%より少ない使用量で多くの有機溶剤をゲル化し得る。また、本発明のゲル化剤は一般に10%以下で、有機溶剤をゲル化することが可能であり、それ以上の使用は、溶剤中の不純物となることを考慮すると好ましくない場合がある。
勿論、ゲル化剤の使用量は、目的とする有機溶剤の種類や温度によっても相違するが、油脂やイオン液体の場合、室温下に0.4%程度でゲル化が可能なものもある。また使用量を増すほどゲル−ゾル転移温度を高くすることができる。例えば、DEME TFSI(N,N‐ジエチル‐N‐メチル‐N‐(2‐メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)等のイオン液体の場合、図7に示すように室温下では0.4%でゲル化し、6%加えることにより、ゲル−ゾル転移温度を60℃以上とすることができる。
【0031】
以下に実施例を示す。
【実施例1】
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】



2‐(perfluorooctyl)ethyl iodide
(19.81 g, 34.5mmol)、4- mercaptophenol (5.06 g, 40.1 mmol)、炭酸カリウム(5.73 g, 41.5 mmol)とアセトン適量を200 mLのナスフラスコに入れ、90℃で一晩還流した。反応後、ナスフラスコを室温まで冷却し、ひだ折り濾過をした。濾液をエバポレーターで濃縮すると固体が得られた。得られた固体をエーテルに溶かし、1N塩酸を加え分液漏斗に入れ、水を加え有機層と水層に分離させた。水層を分液漏斗に入れエーテルを加え分離させた。有機層を漏斗に入れ、食塩水を加え、有機層と水層に分離させた。有機層に硫酸マグネシウムを加え、一晩放置した。有機層をひだ折り濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮すると固体が得られた。得られた固体をメタノールで溶かし、水を加えて再結晶した。これにより析出した固体を吸引濾過で取り出し、4-[2-(perfluorooctyl)ethylthio]-phenol を得た。
【0034】
収量:13.61 g (Yield; 69.0%) 融点:92℃ −
93℃ 白色粉末
化合物AのIRスペクトルを図1に示す。
IR(KBr) :1203.6, 1147.7 cm-1 (C-F), 2366.7 cm-1
(C-H), 3421.7 cm-1 (-OH)
化合物AのNMRスペクトルを図2に示す。
1H NMR(270 MHz, CDCl3) : δ=2.23-2.43 (2H, m), 2.96-3.02 (2H, m), 4.93
(1H, s)
6.81 (2H, d, J=8.8
Hz), 7.34 (2H, d, J=8.8 Hz) ppm
【0035】
【化6】



【0036】
【化7】


4-[2-(perfluorooctyl)ethylthio]-phenol (6.58
g, 11.5 mol)、1-Bromooctane(2.25 g 11.7 mmol)、炭酸カリウム( 1.54 g, 11.1 mmol)と3-pentanone適量を200mlナスフラスコにいれ、120℃で一晩還流した。反応後ナスフラスコを室温に冷却し、炭酸カリウムを取り除くためひだ折り濾過をした。濾液をエバポレーターで濃縮すると固体が得られた。得られた固体にエタノールを加え、約10wt%のゲルを作り冷却卓上遠離機 (5000rpm (96,000 G), 120 min., 2℃)で遠心分離をさせた。これにより底に沈殿したゲルを吸引濾過で取り出し、化合物1を得た。
【0037】
収量:7.62 g (収率;91.0%) 融点:40℃ − 42℃ 白色粉末
化合物1のIRスペクトルを図3に示す。
【0038】
IR (KBr) :
1147.7, 1201.7 cm-1 (C-F), 1496.8 cm-1 (-0-), 2854.6,
2922.2cm-1(C-H)
化合物1のNMRスペクトルを図4に示す。
【0039】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) : δ= 0.89 (3H, t, J=6.6Hz), 1.29-1.45
(10H, m), 1.78 (2H, quin., J=7.2 Hz), 2.23-2.43 (2H, m), 2.95-3.02 (2H,
m), 3.94 (2H, t, J=6.6 Hz), 6.86(2H, d, J=8.8 Hz), 7.35 (2H, d, J=8.8
Hz) ppm.
【0040】
【化8】

【0041】
【化9】


化合物1(2.50 g, 3.65 mmol)、35%過酸化水素水(0.36 g, 3.71
mmol)、酢酸(42 mL)を200mlナスフラスコに入れ、70℃で一晩反応させた。反応後ナスフラスコを室温まで冷却し、20 %亜硫酸ナトリウム水溶液を1 g 加えると白色沈澱ができた。さらに、水を適量加えると白色沈澱が増加した。沈殿物を吸引濾過で取り出し、もう一度水で洗い吸引濾過をした。これには不純物が混ざっていたため、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、化合物2を得た。
【0042】
化合物2のマススペクトルは、m/Z=701であった。
【0043】
収量:1.29 g (収率;50.0%) 融点:81℃−83℃ 白色粉末
化合物2のIRスペクトルを図5に示す。
【0044】
IR (KBr) :
1033.9 cm-1 (S=O), 1145.7 cm-1, 1201.7 cm-1
(C-F), 2933.7 cm-1 (C-H)
化合物2のNMRスペクトルを図6に示す。
【0045】
1H NMR (270MHz, CDCl3) : δ= 0.89 (3H, t, J=6.8 Hz), 1.29-1.47
(10H, m), 1.81 (2H, quin., J=6.9 Hz), 2.16-2.40 (1H, m), 2.50-2.73 (1H,
m), 2.83-2.93 (1H, m), 3.05-3.16 (1H, m) 4.01 (2H, t, J=6.4 Hz), 7.05
(2H, d, J=8.8 Hz), 7.54 (2H, d, J=8.8 Hz) ppm
【実施例2】
【0046】
化合物2に示す化合物をゲル化剤として用い、表1に示す濃度でのゲル−ゾル転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】


これらの関係を図7に示す。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の化合物よりなるゲル化剤。
【化10】

(但し、nは2〜18の整数、Rは炭素数0〜6の分岐又は直鎖状のアルキレン基、Zは2価の芳香族基、Rは置換基を有するか又は有しない炭素数2〜18のアルキル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基から選ばれる基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)のゲル化剤を0.4〜10重量%と室温で液状の有機化合物99.6〜90重量%の割合よりなるゲル。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−162511(P2011−162511A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29453(P2010−29453)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】