説明

ゲル化能を有する新規シラン化合物及びその製造方法

【解決手段】下記一般式(1)


(式中、Meはメチル基を示し、Rは置換又は非置換の炭素数1〜20の1価炭化水素基を表す。Rfはすべての炭素原子にフッ素原子が置換した炭素数1〜10の1価炭化水素基を表す。nは0〜4の整数であり、mは0又は1である。Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるシラン化合物。
【効果】本発明により提供される新規シラン化合物は、水素結合をゲル化の駆動力とせず、有機溶媒、特に極性溶媒のゲル化剤、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおける電解液ゲル化剤等として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に対してゲル化能を有する新規なシラン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル化能を有する化合物は、自身の持つ自己組織化により三次元の網目構造を成し、その構造内に各種溶媒を取り込むことができ、ゲル化剤として用いられる。この現象により液体は固化し、ゲルと呼ばれる状態となる。ゲル化させる対象となる溶媒が水である場合のヒドロゲル化剤と、有機溶媒をゲル化できるオルガノゲル化剤に分類される。
【0003】
形成されたゲルの持つ吸水性、流動性、吸着・分離性、膨潤性、透明性等の特性から、日用生活品、食品、医学、薬学、農業、電気等の分野に幅広く応用が期待でき、精力的に研究が行われている。ゲル化剤の用途としては、台所の廃油を固めてゲル化させる場合や流出原油を固め、回収する用途等に見られる。
【0004】
一方、高分子ゲル化剤に比べ比較的少量の添加でゲル化させることができる低分子ゲル化剤は、その実用性から近年盛んに研究が行われるようになってきており、一部実用化されている。低分子のオルガノゲル化剤としては、12−ヒドロキシステアリン酸(非特許文献1:T.Tachibana et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 53,1174(1980))、1,2,3,4−ジベンジリデン−D−ソルビトール(非特許文献2:工業化学雑誌,46,779(1943))、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(非特許文献3:本間正男,現代化学,1987,54)等が知られている。しかし、12−ヒドロキシステアリン酸はゲル化可能な有機溶媒の種類が少なく、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドや1,2,3,4−ジベンジリデン−D−ソルビトールは高融点で低沸点有機溶媒に適用できないというデメリットを持つ。
【0005】
また、これらの低分子ゲル化剤は自己組織化を行う上で主な凝集力に水素結合やファンデルワールス相互作用等の弱い二次的結合を利用している。特に、自己組織化の主たる駆動力に水素結合を用いているゲル化剤では、極性溶媒とゲル化剤の間で多様な水素結合が形成されるため、形成した水素結合により、本来形成されるべきゲル化剤−ゲル化剤間の水素結合が阻害され、好適に自己組織化できないことが起こり得る。また、その多様な水素結合がゲル形成に好適に働き、ゲル化が促進されることもあり得る。このように、ゲル化させる対象となる溶媒の性質に自己組織化が大きく左右されるため、広範囲の有機溶媒に適用できるゲル化能を発現することが非常に困難となる。更に、活性プロトンを持つこれら化合物は、電気デバイス、特に二次電池等の電解液に用いた場合、電極と反応してしまうため、電解液用ゲル化剤として不適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Tachibana et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 53,1174(1980)
【非特許文献2】工業化学雑誌,46,779(1943)
【非特許文献3】本間正男,現代化学,1987,54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は水素結合を駆動力としたゲル化剤の有機溶媒への適用範囲に関する上記課題を解決するためのもので、水素結合をゲル化の駆動力とせず、様々な有機溶媒に対するゲル化能を有する新規シラン化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、フルオロアルキル基及びオルガノキシ基置換芳香族炭化水素基を有する新規なシラン化合物が、水素結合をゲル化の駆動力とせず、有機溶媒、特にプロピレンカーボネート等の極性溶媒のゲル化に対して有効に作用することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は下記に示す新規シラン化合物を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Meはメチル基を示し、Rは置換又は非置換の炭素数1〜20の1価炭化水素基を表す。Rfはすべての炭素原子にフッ素原子が置換した炭素数1〜10の1価炭化水素基を表す。nは0〜4の整数であり、mは0又は1である。Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるシラン化合物。
請求項2:
請求項1に示されるシラン化合物よりなる有機溶媒に対するゲル化剤。
請求項3:
下記一般式(2)で表されるアルコキシ置換の化合物と、下記一般式(3)で表されるシラン化合物を反応させることを特徴とする請求項1記載のシラン化合物の製造方法。
【化2】

(式中、AはMgX又はOHを表し、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。また、Rは式(1)で定義したものと同じ置換基を表す。)
【化3】

(式中、Halは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、Meはメチル基、Rfは式(1)で定義したものと同じ置換基を表し、nは0〜4の整数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される新規シラン化合物は、水素結合をゲル化の駆動力とせず、有機溶媒、特に極性溶媒のゲル化剤、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおける電解液ゲル化剤等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1−1で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンの1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1−1で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンのIRスペクトルである。
【図3】実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンの1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのIRスペクトルである。
【図5】実施例1−3で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼンの1H−NMRスペクトルである。
【図6】実施例1−3で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼンのIRスペクトルである。
【図7】実施例1−4で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンの1H−NMRスペクトルである。
【図8】実施例1−4で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゲル化能を有する新規シラン化合物は、下記一般式(1)で示されるシラン化合物である。
【化4】

(式中、Meはメチル基を示し、Rは置換又は非置換の炭素数1〜20の1価炭化水素基を表す。Rfはすべての炭素原子にフッ素原子が置換した炭素数1〜10の1価炭化水素基を表す。nは0〜4の整数であり、mは0又は1である。Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。)
【0013】
ここで、Rは炭素数1〜20、好ましくは3〜12の置換又は非置換の1価炭化水素基で、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等の炭素数6〜18のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜18のアラルキル基等が例示される。また、炭化水素基の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、置換基としては、具体的には、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、トリル基等の炭素数6〜18のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜18のアラルキル基、エステル基、エーテル基、アシル基、スルフィド基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0014】
Arは炭素数6〜18の2価の芳香族炭化水素基であり、具体的にはフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、ナフタセニレン基、ピレニレン基、ビフェニルイルレン基、ターフェニルイルレン基等が挙げられ、特にフェニレン基が好ましい。
【0015】
Rfはすべての炭素原子にフッ素原子が置換した炭素数1〜12、好ましくは4〜8の炭化水素基であり、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基等が挙げられる。具体的には、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロへキシル基、ペルフルオロオクチル基、ペルフルオロデシル基等が挙げられ、特にペルフルオロオクチル基、ペルフルオロデシル基が好ましい。
【0016】
上記一般式(1)で示されるシラン化合物の具体例としては、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼン、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼン、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシリルベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシリルベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシリルベンゼン、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼン、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼン、1−オクチルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシロキシベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼン、1−デシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシロキシベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロドデシルジメチルシロキシベンゼン等が例示される。特に、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼン、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンが好ましい。
【0017】
また、ゲル化剤とは、水又は有機溶媒等の流動性のある液体、特に有機溶媒に対し、1〜20質量%添加、溶解させた後、放冷すると、自身の持つ自己組織化により三次元の網目構造をとり、その構造内に溶媒を取り込むことで対象となる液体の流動性を失わせ、固体状のゲルへと変化させる特徴をもつ化合物である。ゲル化剤の特性である吸水性、流動性、吸着・分離性、膨潤性、透明性等から、日用生活品、食品、医学、薬学、農業、電気等の分野に幅広く応用が期待できる。具体的なゲル化剤の用途としては、台所の廃油や流出原油の固化、化粧品用途、電気化学デバイス、特に二次電池等の電解液ゲル化剤として有効であると言える。
【0018】
有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレンカーボネート、シロキサン等の極性溶媒等が挙げられる。特に二次電池等の電解液用途とする場合、極性溶媒が好ましい。
【0019】
また、本発明における上記一般式(1)で示されるゲル化能を有する新規シラン化合物の製造方法は、例えば、下記一般式(2)
【化5】

(式中、AはMgX又はOHを表し、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。また、Rは式(1)で定義したものと同じ置換基を表す。)
で示されるハロアルキルシラン化合物と、下記一般式(3)
【化6】

(式中、Halは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、Meはメチル基、Rfは式(1)で定義したものと同じ置換基を表し、nは0〜4の整数である。)
で示されるペルフルオロアルキルシリルハロゲン化物を反応させて製造する方法が挙げられる。
上記一般式(2)におけるR及び上記一般式(3)におけるn及びRfは上述したものが例示できる。
【0020】
ここで、上記式(2)で示される化合物、特にAがMgXである化合物を用いる場合、その化合物は有機溶媒中、下記一般式(4)で示される化合物とマグネシウムより調製できる。ここで、用いる有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が利用できる。
【化7】

(式(4)において、Halは塩素原子、臭素原子又は、ヨウ素原子を表し、Rは式(1)で定義したものと同じ置換基を表す。)
【0021】
調製した上記式(2)の化合物に対し、上記式(3)の化合物を滴下し、撹拌した後、定法に従い処理を行うことができる。得られた上記一般式(1)の化合物の粗生成物はそのまま用いてもよく、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の方法を用いて精製してもよい。
【0022】
一方、上記式(2)で示される化合物、特にAがOHである化合物を式(3)の化合物と反応させる場合、触媒を添加しなくとも反応は進行するが、反応速度を加速させる目的でアミンを添加してもよい。用いるアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、メチルイミダゾール、テトラメチルエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等が好ましい。また、反応は無溶媒でも可能であるが、溶媒を用いることもできる。用いる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
反応終了後は、常法に従い処理を行い、得られた粗生成物を再結晶、カラムクロマトグラフィー等の方法を用いて精製し、上記一般式(1)の化合物が得られる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0025】
[実施例1−1]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼン
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、マグネシウム(0.5g、20mmol)、THF20mlを仕込み、65℃に加熱した。内温が安定した後、1−ブロモ−4−ドデシルオキシベンゼン(6.8g、20mmol)を1.5時間かけて滴下し、その後2時間撹拌した。得られた反応溶液に1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルクロロシラン(8.8g、20mmol)を55℃で1時間かけて滴下し、その後3時間撹拌した。得られた反応溶液に5質量%HCl水溶液20g、ジエチルエーテル20gを加え、分液した後、5質量%重曹水20g及び水20gで有機層を洗浄した。有機層に無水Na2SO4を加え、濾過、濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)で精製し、目的物を10.2g得た。
得られた化合物の融点、質量スペクトル、1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 666,319,151,107,77,43
1H−NMRスペクトル(重ベンゼン溶媒)
図1にチャートで示す。
IRスペクトル
図2にチャートで示す。
以上の結果より、得られた化合物は1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンであることが確認された。
【0026】
[実施例1−2]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼン
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、マグネシウム(0.5g、20mmol)、THF20mlを仕込み、65℃に加熱した。内温が安定した後、1−ブロモ−4−ドデシルオキシベンゼン(6.8g、20mmol)を1.5時間かけて滴下し、その後2時間撹拌した。得られた反応溶液に1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルクロロシラン(10.3g、20mmol)を55℃で1時間かけて滴下し、その後3時間撹拌した。得られた反応溶液に5質量%HCl水溶液20g、ジエチルエーテル20gを加え、分液した後、5質量%重曹水20g及び水20gで有機層を洗浄した。有機層に無水Na2SO4を加え、濾過、濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)で精製し、目的物を10.0g得た。
得られた化合物の融点、質量スペクトル、1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 766,319,233,151,111,77,43
1H−NMRスペクトル(重ベンゼン溶媒)
図3にチャートで示す。
IRスペクトル
図4にチャートで示す。
以上の結果より、得られた化合物は1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンであることが確認された。
【0027】
[実施例1−3]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼン
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、4−ドデシルオキシフェノール(2.8g、10mmol)、THF20ml、トリエチルアミン(1.1g、11mmol)を仕込み、室温で1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルクロロシラン(4.4g、10mmol)を10分かけて滴下し、その後1時間撹拌した。得られた反応溶液を濾過、濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)で精製し、目的物を4.3g得た。
質量スペクトル
m/z 682,514,335,167,110,77,43
1H−NMRスペクトル(重ベンゼン溶媒)
図5にチャートで示す。
IRスペクトル
図6にチャートで示す。
以上の結果より、得られた化合物は1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシロキシベンゼンであることが確認された。
【0028】
[実施例1−4]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼン
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、4−ドデシルオキシフェノール(2.8g、10mmol)、THF20ml、トリエチルアミン(1.1g、11mmol)を仕込み、室温で1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルクロロシラン(5.1g、10mmol)を10分かけて滴下し、その後1時間撹拌した。得られた反応溶液を濾過、濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=8:1)で精製し、目的物を6.5g得た。
質量スペクトル
m/z 782,614,335,167,110,77,43
1H−NMRスペクトル(重ベンゼン溶媒)
図7にチャートで示す。
IRスペクトル
図8にチャートで示す。
以上の結果より、得られた化合物は、1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンであることが確認された。
【0029】
[実施例2−1]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(1)
実施例1−1で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンをプロピレンカーボネートに5質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0030】
[実施例2−2]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(2)
実施例2−1で用いた有機溶媒をアセトニトリルに変え、実施例1−1で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルジメチルシリルベンゼンを5質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0031】
[実施例2−3]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(1)
実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンをエタノールに10質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0032】
[実施例2−4]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(2)
実施例2−3で用いた有機溶媒をDMFに変え、実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンを5質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0033】
[実施例2−5]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(3)
実施例2−3で用いた有機溶媒をアセトニトリルに変え、実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンを5質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0034】
[実施例2−6]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(4)
実施例2−3で用いた有機溶媒をデカメチルシクロペンタシロキサンに変え、実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンを10質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0035】
[実施例2−7]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンのゲル化試験(5)
実施例2−3で用いた有機溶媒をメチルトリス(トリメチルシロキシ)シランに変え、実施例1−2で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシリルベンゼンを20質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0036】
[実施例2−8]1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンのゲル化試験
実施例1−4で得られた1−ドデシルオキシ−4−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルジメチルシロキシベンゼンをプロピレンカーボネートに10質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化が見られた。
【0037】
[比較例1]12−ヒドロキシステアリン酸のゲル化試験(1)
12−ヒドロキシステアリン酸をエタノールに20質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化は見られなかった。
【0038】
[比較例2]12−ヒドロキシステアリン酸のゲル化試験(2)
比較例1で用いた有機溶媒をDMFに変え、12−ヒドロキシステアリン酸を20質量%加え、加熱溶解させた。その後溶液を放冷し、常温まで戻すことでゲル化するか否かを判定したところ、溶液にゲル化は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Meはメチル基を示し、Rは置換又は非置換の炭素数1〜20の1価炭化水素基を表す。Rfはすべての炭素原子にフッ素原子が置換した炭素数1〜10の1価炭化水素基を表す。nは0〜4の整数であり、mは0又は1である。Arは2価の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるシラン化合物。
【請求項2】
請求項1に示されるシラン化合物よりなる有機溶媒に対するゲル化剤。
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるアルコキシ置換の化合物と、下記一般式(3)で表されるシラン化合物を反応させることを特徴とする請求項1記載のシラン化合物の製造方法。
【化2】

(式中、AはMgX又はOHを表し、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。また、Rは式(1)で定義したものと同じ置換基を表す。)
【化3】

(式中、Halは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、Meはメチル基、Rfは式(1)で定義したものと同じ置換基を表し、nは0〜4の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−136457(P2012−136457A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289268(P2010−289268)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】