説明

ゲル状医薬組成物

【課題】サリチル酸エステル誘導体を有効成分とするゲル状の医薬組成物であって、サリチル酸エステル誘導体及び製剤の経時的安定性に優れた医薬組成物を提供する。
【解決手段】サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコール及び水を含有し、水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下、pHを4〜6の範囲に調整してゲル状の医薬組成物を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル状医薬組成物、具体的にはゲル状の外用消炎鎮痛剤に関する。より詳細には、サリチル酸エステル誘導体を有効成分とする外用消炎鎮痛剤に適したゲル状の医薬組成物であって、当該有効成分及び製剤の経時的安定性に優れていることを特徴とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肩こりは、タイピングや読書といった静的な筋肉作業または加齢による衝撃吸収力の低下などによる筋肉疲労、筋緊張および血行障害を原因とする症状であり、こわばり、疲労感および痛みといった不快感を生じる。
【0003】
従来、こうした肩こりの症状に対しては、患部で発生している炎症に着目し、その炎症を抑えるべく、種々の抗炎症剤を外用するという対処が行なわれてきた。しかしながら、肩こりは筋肉のこわばりや硬さを実感する症状であり、単なる抗炎症剤を塗布するだけでは症状が緩和されにくく、その効果も十分に実感できないという問題があった。このため、患部に揉み込むように塗布できる半固形状の製剤が検討されている。
【0004】
半固形製剤としては、軟膏剤、クリーム剤およびゲル剤などがあげられる。なかでも、べたつきが少なく、また揉み込むことで効き目の実感が得られるという点で、ゲル剤が好ましい。ゲル剤は、通常、水などの基剤に水溶性の高分子化合物を加えて増粘させて製造される。かかる水溶性高分子化合物としては、水への分散性に優れることや、pH6〜10の条件下で増粘効果を発揮することからカルボキシビニルポリマーが好適に使用されている。
【0005】
当該カルボキシビニルポリマーは、サリチル酸グリコールやサリチル酸メチルなどのサリチル酸エステル誘導体の水存在下での加水分解、並びにエタノール存在下でのエステル交換反応を抑制する作用があることが従来から知られており(特許文献1参照)、サリチル酸エステル誘導体を有効成分とする消炎鎮痛剤に安定剤として好適に使用される成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−294625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記従来技術に基づいて、サリチル酸エステル誘導体にカルボキシビニルポリマーを配合して、そのpHを、カルボキシビニルポリマーが増粘効果を発揮するpH6〜10に調整してゲル状の製剤を製造したところ、経時的に保型性が低下し、離水が発生するなど、製剤の性状が不安定になるといった問題があること、また、製剤の性状が保たれても有効成分であるサリチル酸エステル誘導体が分解され、期待する治療効果が得られなくなるといった問題があることを見出した。
【0008】
そこで本発明は、サリチル酸エステル誘導体にカルボキシビニルポリマーを配合してゲル状の製剤を調製するにあたり、製剤安定性(有効成分安定性、性状安定性)に欠けるという上記問題を解消することを目的とする。
【0009】
すなわち、本発明は、有効成分であるサリチル酸エステル誘導体の分解、保型性の低下、及び離水の発生といった問題を解消し、経時的な製剤安定性に優れた、サリチル酸エステル誘導体およびカルボキシビニルポリマーを含有するゲル状医薬組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、サリチル酸エステル誘導体およびカルボキシビニルポリマーを含有するゲル状の医薬組成物について、サリチル酸エステル誘導体の分解、保型性の低下または離水の発生を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、サリチル酸エステル誘導体及びカルボキシビニルポリマーに、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコール、及び水を併用し、当該水1重量部に対する低級アルコールの割合を0.5重量部以下、pHを4〜6の範囲に調整することで、上記課題が解消されたサリチル酸エステル誘導体を有効成分とするゲル状の医薬組成物が調製できることを見出した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有する。
【0012】
(I)ゲル状医薬組成物
(I-1)サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコールおよび水を含有するゲル状医薬組成物であって、
水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下であり、
pHが4〜6であることを特徴とするゲル状医薬組成物。
(I-2)上記セルロース系水溶性高分子化合物がヒドロキシプロピルセルロースである(I-1)に記載するゲル状医薬組成物。
(I-3)サリチル酸エステル誘導体がサリチル酸グリコールまたはサリチル酸メチルである(I-1)または(I-2)に記載するゲル状医薬組成物。
(I-4)外用消炎鎮痛剤である(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するゲル状医薬組成物。
【0013】
(II)ゲル状医薬組成物の製造方法
(II-1)サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコールおよび水を含有するゲル状医薬組成物の製造方法であって、水1重量部に対する低級アルコールの割合を0.5重量部以下、pHを4〜6の範囲に調整することを特徴とする、製剤安定性に優れたゲル状医薬組成物の製造方法。
(II-2)上記セルロース系水溶性高分子化合物がヒドロキシプロピルセルロースである(II-1)に記載する製造方法。
(II-3)サリチル酸エステル誘導体がサリチル酸グリコールまたはサリチル酸メチルである(II-1)または(II-2)に記載するゲル状医薬組成物。
(II-4)上記ゲル状医薬組成物が、外用消炎鎮痛剤である(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する製造方法。
【0014】
(III)ゲル状医薬組成物の製剤安定化方法
(III-1)サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー及び水を含有するゲル状医薬組成物の製剤安定化方法であって、他成分としてセルロース系水溶性高分子化合物、及び低級アルコールを配合し、水1重量部に対する低級アルコールの割合を0.5重量部以下、pHを4〜6の範囲に調整することを特徴とする方法。
(III-2)上記製剤安定化方法が、サリチル酸エステル誘導体の分解を抑制する方法である(III-1)に記載する方法。
(III-3)上記製剤安定化方法が、製剤の保型性低下を抑制する方法である(III-1)に記載する方法。
(III-4)上記製剤安定化方法が、製剤の離水を抑制する方法である(III-1)に記載する方法。
(III-5)上記ゲル状医薬組成物が外用消炎鎮痛剤である(III-1)乃至(III-4)のいずれかに記載する方法。
(III-6)上記セルロース系水溶性高分子化合物がヒドロキシプロピルセルロースである(III-1)乃至(III-5)のいずれかに記載する方法。
(III-7)サリチル酸エステル誘導体がサリチル酸グリコールまたはサリチル酸メチルである(III-1)乃至(III-6)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サリチル酸エステル誘導体とカルボキシビニルポリマーに加えて、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコール、及び水を配合し、水1重量部に対する低級アルコールの割合を0.5重量部以下とし、且つ最終製剤のpHを4〜6、好ましくはpH4〜5.5になるように調整することで、サリチル酸エステル誘導体の分解、保型性の低下または/および離水が有意に抑制され、製剤の経時的安定性に優れたゲル状医薬組成物を製造し提供することができる。
【0016】
すなわち、本発明は、サリチル酸エステル誘導体とカルボキシビニルポリマーを併用して調製されるゲル状医薬組成物において、製剤の経時的安定性(サリチル酸エステル誘導体の分解抑制、保型性維持、離水抑制)に優れたゲル状の医薬組成物を提供するうえで有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.ゲル状医薬組成物およびその調製方法
本発明のゲル状医薬組成物は、(a)サリチル酸エステル誘導体(以下、「(a)成分」ともいう)、(b)カルボキシビニルポリマー(以下、「(b)成分」ともいう)、(c)セルロース系水溶性高分子化合物(以下、「(c)成分」ともいう)、(d)低級アルコール(以下、「(d)成分」ともいう)、及び(e)水(以下、「(e)成分」ともいう)を含有するものである。
【0018】
(a)サリチル酸エステル誘導体
サリチル酸エステル誘導体((a)成分)は、外用(経皮投与)によって局所的に鎮痛消炎作用を発揮するサリチル酸系抗炎症剤である。具体的には、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチルが挙げられる。本発明のゲル状医薬組成物100重量%中に含まれる(a)成分の割合としては、制限はされないが、鎮痛消炎作用を発揮しつつ、経時的安定性により優れた組成物とすることができる点から、通常0.5〜7.5重量%の範囲から適宜調整することができ、好ましくは0.5〜6重量%、より好ましくは0.5〜5重量%、よりいっそう好ましくは1.5〜5重量%である。
【0019】
(b)カルボキシビニルポリマー
カルボキシビニルポリマー((b)成分)は、アクリル酸系の親水性架橋ポリマーである。本発明で使用されるカルボキシビニルポリマーは、外用(経皮投与)製剤に、例えば増粘剤などとして使用されるものであれば、この限りにおいて粘度や分子量などは特に制限されないが、例えば、0.2%水溶液の粘度(20℃)は2500〜29000mPa・sであり、好ましくは4000〜29000mPa・sであり、より好ましくは12000〜29000mPa・sである。
【0020】
これらの粘度を有するものは、カーボポール(980、981、2984、5984、ETD2050、Ultez10)(日光ケミカルズ株式会社)などとして、商業的に入手可能である。
【0021】
本発明の外用医薬組成物100重量%中に含まれる(b)成分の割合としては、特に制限されないが、増粘性と経時的安定性により優れた組成物とすることができる点から、通常0.4〜2重量%の範囲から適宜調整することができ、好ましくは0.5〜2重量%、より好ましくは0.7〜2重量%である。
【0022】
(c)セルロース系水溶性高分子化合物
セルロース系水溶性高分子化合物((c)成分)の配合により、ゲル状の医薬組成物の保型性の経時的安定性、及び離水抑制性をより一層向上させることができる。
【0023】
本発明で使用されるセルロース系水溶性高分子化合物((c)成分)としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名:ヒプロメロース)およびヒドロキシエチルセルロースを挙げることができる。経時的安定性により優れたゲル状組成物とすることができる点から、好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、より好ましくはヒドロキシプロピルセルロースである。
【0024】
ヒドロキシプロピルセルロースは、特に限定されないが、例えば、2%水溶液の粘度(20℃、B型粘度計)が2〜5000mPa・s程度であり、幅広い分子重合度が設定されている。これらは、NISSO HPC(L、M、H、SL、SSL)(日本曹達株式会社)などとして商業的に入手可能である。
【0025】
ヒドロキシエチルメチルセルロースは、特に限定されないが、例えば、2%水溶液の粘度(20℃、ブルックフィールド粘度計)が7000〜10000mPa・s程度であり、メセロース(巴工業株式会社)などとして商業的に入手可能である。
【0026】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、特に限定されないが、例えば、1%水溶液の粘度(20℃、B型粘度計)が2〜10000mPa・s程度であり、メトローズ65SH−400、65SH−1500、65SH−4000、90SH−400、90SH−4000(信越化学工業株式会社)などとして商業的に入手可能である。
【0027】
ヒドロキシエチルセルロースは、特に限定されないが、例えば、1%水溶液の粘度が60〜6000mPa・s程度であり、HECダイセル(SP200、SP600、SP900、SE550、EP850)(ダイセル化学株式会社)などとして商業的に入手可能である。
【0028】
本発明のゲル状医薬組成物100重量%中に配合される(c)成分の割合としては、上記作用を発揮する限りにおいて特に制限されないが、経時的安定性により優れた組成物とすることができる点から、通常0.2〜5重量%の範囲から適宜調整することが好ましく、より好ましくは0.25〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。
【0029】
また、(c)成分をゲル状医薬組成物中に含まれるサリチル酸エステル誘導体((a)成分)100重量部に対する割合に換算した場合、通常2〜1000重量部となるように調整することが好ましく、より好ましくは4〜600重量部、さらに好ましくは10〜400重量部、いっそう好ましくは10〜140重量部である。また、ゲル状医薬組成物中に含まれるカルボキシビニルポリマー((b)成分)100重量部に対する割合に換算した場合、通常10〜1250重量部となるように調整することが好ましく、より好ましくは12〜600重量部、さらに好ましくは25〜300重量部である。
【0030】
(d)低級アルコール
低級アルコール((d)成分)の配合により、カルボキシビニルポリマーのゲル化形成能を高め、またゲル状の医薬組成物の保型性の経時的安定性と離水抑制性をより一層向上させることができる。
【0031】
本発明で使用される低級アルコール((d)成分)としては、メチルアルコール;エチルアルコール;n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール;ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール;ベンジルアルコールなどの炭素数1〜7のアルコールを例示することができる。好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。より好ましくは外用医薬組成物に配合することができるエチルアルコールおよびイソプロピルアルコールであり、特に好ましくはエチルアルコールである。
【0032】
当該(d)成分は、本発明のゲル状医薬組成物に配合される水((e)成分)1重量部に対して、0.5重量部以下の割合で配合される。その下限は、上記本発明の効果を発揮する限りにおいて特に制限されないが、製剤の保型性と離水抑制性から、通常0.04重量部以上、より好ましくは0.06重量部以上を例示することができる。(d)成分の好適な配合割合としては、水((e)成分)1重量部に対して0.12〜0.5重量部、好ましくは0.2〜0.45重量部、より好ましくは0.25〜0.45重量部を挙げることができる。
【0033】
本発明のゲル状医薬組成物100重量%中に配合される(d)成分の割合としては、上記効果を発揮する限りにおいて特に制限されないが、経時的安定性により優れた組成物とすることができる点から、通常3〜30重量%の範囲から適宜調整することが好ましく、より好ましくは4〜28重量%、さらに好ましくは5〜26重量%である。
【0034】
(e)水
本発明において水((e)成分)は、本発明の医薬組成物をゲル状にするうえで、カルボキシビニルポリマーとともに必須の成分である。
【0035】
本発明のゲル状医薬組成物100重量%中に配合される(e)成分の割合としては、上記効果を発揮する限りにおいて特に制限されないが、経時的安定性(保型性、離水抑制)により優れた組成物とすることができる点から、通常50〜85重量%の範囲から適宜調整することができ、好ましくは54〜84重量%、より好ましくは56〜83重量%である。
【0036】
(f)pH
本発明のゲル状医薬組成物は、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分、及び(e)成分を含有するとともに、そのpHが4〜6の範囲にあることを特徴とする。pHが4より小さいと保型せず、ゲル状の製剤になりにくい傾向があり(比較例12及び13参照)、一方、pHが6を超えると経時的に保型性が低下し、また離水が発生しやすい傾向がある(比較例3〜6参照)。サリチル酸エステル誘導体の分解を抑制して鎮痛消炎作用を発揮しつつ、経時的安定性により優れた組成物とすることができる点から、より好ましくはpH4.5〜6、特に好ましくはpH4.5〜5.5である。
【0037】
なお、かかるpH調整には、塩基性物質または酸性物質を用いて行うことが行うことができる。塩基性物質としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエタノールアミンやジイソプロパノールアミンなどの有機アミン類;アルギニン、リジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸などを挙げることができる。また、酸性物質としては、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸などの無機酸及び有機酸を挙げることができる。
【0038】
(g)製造方法
本発明のゲル状医薬組成物は、通常以下に説明する調製法によって製造することができる。まず、サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコールおよび水を用いて増粘させ、これに必要に応じて、下記で説明するような外用製剤に用いられる汎用の基剤を加えて、pH4〜6の範囲になるように調整する。
【0039】
より具体的には、例えば、ゲル剤とする場合は、有効成分のサリチル酸エステル誘導体を低級アルコールに溶解させる。別にカルボキシビニルポリマーとセルロース系高分子を水に加えて混合して増粘させ、そこに上記溶解物を加えて混合し、pH調整剤によりpH4〜6の範囲になるように調整する。
【0040】
本発明のゲル状医薬組成物は、特に制限されないが、通常、粘度50,000〜1,500,000mPa・s、好ましくは70,000〜130,000mPa・sになるように調製することができる。
【0041】
ここで、粘度は、プログラムデジタルB型粘度計(例えば、B型粘度計ヘリパススタンド付(BrookField社製DV−II+)、ヘリパススピンドル(T−E)を用いて、内径約6cmのプラスチック製容器に本発明のゲル状医薬組成物約60gを入れた状態で測定される(20℃、4.0rpm、1分間)。
【0042】
また、本発明のゲル状医薬組成物は、他成分として薬効補助剤を配合することも可能である。かかる薬効補助剤としては、カンフル、テレピン油、ハッカ油、メントール及びその誘導体、ユーカリ油、乳酸メンチルなどの清涼化剤;ノナン酸バニリルアミド、カプサイシンなどの局所刺激剤;グリチルリチン酸などの抗炎症剤;ジフェニルイミダゾール、ジフェンヒドラミン及びその塩、マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤;酢酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルなどの血行促進剤;アルニカチンキ、オウバクエキス、サンシシエキス、セイヨウトチノキエキス、ロートエキス、ベラドンナエキス、トウキエキス、シコンエキス、サンショウエキス、トウガラシエキスなどの生薬などが挙げられる。本発明のゲル状医薬組成物には、上記の成分の他、適当な併用可能な活性成分、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤等の通常の皮膚外用剤に使用される添加剤を適宜用いることができる。
【0043】
本発明のゲル状医薬組成物は、前述するようにゲル形状を有する外用剤として調製され、局所的に外用投与することができる。本発明のゲル状の外用医薬組成物の投与量は、治療すべき症状の程度により左右されるが、1回あたりの塗布量が500mg〜3000mg程度となる量であることが望ましい。
【0044】
本発明のゲル状医薬組成物は、具体的にはサリチル酸エステル誘導体を有効成分とする外用消炎鎮痛剤として、肩こり、筋肉痛、関節痛、腰痛、打撲痛、ねんざ痛、などの炎症の改善(消炎)を目的として好適に使用することができ、特に血流障害や筋緊張を伴う肩こりの改善に好適に使用される。
【0045】
II.サリチル酸エステル誘導体およびカルボキシビニルポリマーを含有するゲル状医薬組成物の製剤安定化方法
本発明の方法は、(a)サリチル酸エステル誘導体および(b)カルボキシビニルポリマーに、前述する(c)セルロース系水溶性高分子化合物、(d)低級アルコール、及び(e)水を組み合わせて、pHを4〜6の範囲になるように調整することで実施することができる。
【0046】
当該(a)成分および(b)成分と組み合わせて用いられる(c)成分及び(d)成分の種類と割合としては、(a)成分の安定性、つまり消炎鎮痛作用に悪影響を与えることなく、(a)成分と(b)成分によって形成されたゲル状組成物の保型性を経時的に安定化させ、離水抑制性を発揮する範囲であり、具体的には、(I)に記載する種類と割合を挙げることができる。
【0047】
本発明の方法は、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を配合し、pHを4〜6の範囲になるように調整することを特徴とする。pHが4より小さいと保型せず、ゲル状製剤になりにくい傾向があり(比較例12及び13参照)、一方、pHが6を超えると経時的に保型性が低下し、また離水が発生しやすい傾向がある(比較例3〜6参照)。好ましくはpH4.5〜6、より好ましくはpH4.5〜5.5である。かかるpH調整には、(I)に記載のとおり塩基性物質または酸性物質を用いて行うことができる。
【0048】
本発明の方法によれば、(a)成分、(b)成分及び(e)成分に、前述する(c)成分及び(d)成分を組み合わせて使用し、pHを4〜6の範囲になるように調整することにより、(a)成分および(b)成分を含有するゲル状医薬組成物の経時的安定性を向上させることができる。ゆえに本発明の方法は、製剤安定性に優れたゲル状の医薬組成物、特にゲル状外用消炎鎮痛剤を提供するために有効に利用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実験例および実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0050】
実験例1:製剤安定性の評価(その1)
表1に記載する成分を混合し、pHが3.4〜7の範囲になるように調整して、医薬組成物を調製した(実施例1〜5及び比較例1〜13)。具体的には、表1の記載に従って、サリチル酸グリコール及びエタノールを量り取り、撹拌混合し有機相とする。別に、水を量り、カルボキシビニルポリマーおよびヒドロキシプロピルセルロースを加え、撹拌混合して水相とする。水相に有機相を加え、撹拌混合しながらpH調整剤でpHを調整して医薬組成物を調製した。
【0051】
調製した各医薬組成物(実施例1〜5及び比較例1〜13)を、プラスチック製ジャー容器に充填し、50℃、60%RH条件下または4℃、60%RH条件下で30日間保存して、下記の方法に従って製剤の経時的安定性((1) サリチル酸グリコールの安定性、(2)保型性及び離水性)を評価した。
【0052】
(1)サリチル酸エステル誘導体の安定性の評価試験
50℃で保存した後の医薬組成物(50℃保存品)と保存前の各医薬組成物(初期品)中のサリチル酸グリコール濃度を下記条件のHPLCにて測定し、初期品のサリチル酸グリコール濃度に対する50℃保存品のサリチル酸グリコール濃度の割合から、50℃保存後のサリチル酸グリコール残留%を算出した。
【0053】
<HPLC条件>
内径4.6mm、長さ15cmのHPLC用カラムを用い、日局一般試験法 液体クロマトグラフィー「定量」(1)内標準法を準用して試験を行った。
【0054】
かかる残留%をもとに、下記の規準に従って、各医薬組成物中のサリチル酸グリコールの安定性を評価した。
【0055】
○:50℃保存品中のサリチル酸グリコール残留% 90%以上
×:50℃保存品中のサリチル酸グリコール残留% 90%未満。
【0056】
(2)保型性および離水性の評価試験
保型性及び離水性の評価は、3点比較法により評価した。具体的には、4℃、60%RH条件下で30日間保存した医薬組成物(4℃保存品)2つ、50℃、60%RH条件下で30日間保存した医薬組成物(50℃保存品)1つを検体として用意し、10名のパネラーに目視にて対比してもらうことにより、保型性及び離水性で評価した。
【0057】
<保型性>
50℃保存品を4℃保存品と比べて「保型性が低下している」と判別した者が、10名中7名以上であれば、両者を判別可能(50℃保存品の保型性の低下を認識できる)と判断し、10名中6名以下であれば、判別不能(50℃保存品の保型性の低下を認識できない)と判断した。判別不能と判断した検体については保型性について「○」と評価した。
【0058】
さらに、両者を判別可能(50℃保存品の保型性の低下を認識できる)と判断した者について、「それは使用に際してどの程度問題であるか」との質問に5段階評価(問題ない、あまり問題ない、どちらでもない、やや問題がある、問題ある)で回答してもらい、以下の基準に従って評価した。
【0059】
△:容器充填直後と比較して保型性がやや低下するが、使用に問題ない。
(「問題ない」、「あまり問題ない」と回答した者の合計が全体の70%以上)
×:容器充填直後と比較して保型性がやや低下するが、使用可能である。
(「問題ない」、「あまり問題ない」と回答した者の合計が全体の70%未満)。
【0060】
<離水性>
50℃保存品を4℃保存品と比べて「離水している」と判別した者が、10名中7名以上であれば、両者を判別可能(50℃保存品の離水を認識できる)と判断し、10名中6名以下であれば、判別不能(50℃保存品の離水を認識できない)と判断した。判別不能と判断した検体については、離水性について「○」と評価した。
【0061】
両者を判別可能(50℃保存品の離水を認識できる)と判断した者について、「それは使用に際してどの程度問題であるか」との質問に5段階評価(問題ない、あまり問題ない、どちらでもない、やや問題がある、問題ある)で回答してもらい、「問題ない」、「あまり問題ない」と回答したものが全体の70%以上の場合、「△」、70%未満の場合、「×」と評価した。
【0062】
(3)試験結果
結果を表1に合わせて示す。なお、表1において「−」は測定していないことを示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1において、実施例1〜5と比較例12及び13との対比からわかるように、サリチル酸エステル誘導体(サリチル酸グリコール)、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物(ヒドロキシプロピルセルロース)、低級アルコール(エタノール)、及び水を配合し、水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下になるように調製しても、pHが3.4と低い場合は液状のままでゲル状にならなかったのに対して(比較例12及び13)、pHを4.5〜6に調整すると、ゲル状組成物が調製でき、しかもゲル状組成物中のサリチル酸エステル誘導体も安定しているとともに、安定した保型性を有し、且つ離水性も抑制されていた(実施例1〜5)。但し、尿素を配合するとサリチル酸グリコールが不安定になる傾向が認められる(比較例13)。このため、必ずしも制限はされるものではないが、本発明のサリチル酸エステル誘導体を有効成分とするゲル状医薬組成物において、尿素がサリチル酸エステル誘導体の安定性に悪影響を及ぼす場合は、当該尿素を配合することなく調製することが好ましい。
【0065】
以上のことから、サリチル酸エステル誘導体(サリチル酸グリコール)、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物(ヒドロキシプロピルセルロース)、低級アルコール(エタノール)、及び水を配合し、水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下に、且つpHを4〜6、好ましくはpH4.5〜6、より好ましくはpH4.5〜5.5に調整することにより、サリチル酸エステル誘導体が安定に維持され、しかも保型性が良好で離水の発生も抑制され、長期にわたって安定な形状が維持されることができることが判明した。
【0066】
また、実施例において、カルボキシビニルポリマーを、カーボポール981、2984または5984とした場合も同様に製剤安定性に優れていた。
【0067】
実験例2:製剤安定性の評価(その2)
実験例1で最も良好な製剤安定性を示した実施例1の処方をもとにして、サリチル酸エステル誘導体の種類及び配合量、カルボキシビニルポリマーの種類及び配合量、及びセルロース系水溶性高分子化合物の種類及び配合量を変えた医薬組成物を調製し、実験例1と同様にして、製剤安定性(サリチル酸エステル誘導体の安定性、製剤の保型性と離水性)を評価した。
【0068】
各医薬組成物の組成及び製剤安定性評価の結果を表2及び表3に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2及び3に示すように、サリチル酸エステル誘導体の種類及び配合量、カルボキシビニルポリマーの種類及び配合量、及びセルロース系水溶性高分子化合物の種類及び配合量の別にかかわらず、サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコール(エタノール)、及び水を含有し、水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下に、pHが4〜6の範囲にある医薬組成物はいずれも良好な製剤安定性を示していた。
【0072】
表4に記載の処方例に従い、ゲル状の医薬組成物を調製した(処方例1〜8)。これらにおいても実施例と同様に良好な製剤安定性(サリチル酸エステル誘導体の安定性、製剤の保形性と離水性)を示していた。
【0073】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコールおよび水を含有するゲル状医薬組成物であって、
水1重量部に対する低級アルコールの割合が0.5重量部以下であり、
pHが4〜6であることを特徴とするゲル状医薬組成物。
【請求項2】
セルロース系水溶性高分子化合物がヒドロキシプロピルセルロースである請求項1に記載するゲル状医薬組成物。
【請求項3】
外用消炎鎮痛剤である請求項1または2に記載するゲル状医薬組成物。
【請求項4】
サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー、セルロース系水溶性高分子化合物、低級アルコール及び水を含有するゲル状医薬組成物の製造方法であって、低級アルコールを水1重量部に対して0.5重量部以下の割合で配合し、pHを4〜6に調整することを特徴とする、製剤安定性に優れたゲル状医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
サリチル酸エステル誘導体、カルボキシビニルポリマー及び水を含有するゲル状医薬組成物の製剤安定化方法であって、他成分としてセルロース系水溶性高分子化合物、及び低級アルコールを配合し、水1重量部に対する低級アルコールの割合を0.5重量部以下、pHを4〜6の範囲に調整することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2012−211096(P2012−211096A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76781(P2011−76781)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】