説明

ゲル状調味料

【課題】適度な保形性、食感及び風味を有し、かつ保存性に優れたぽん酢醤油様のゲル状調味料を提供すること。
【解決手段】本発明者らは、ゲル化剤としてローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類を使用し、さらに塩分濃度を調節することにより、ゲル状調味料に適度な保形性及び食感を付与できること、及び、糖アルコールを使用することにより、風味に大きな影響を与えることなく水分活性を低減させ、ゲル状調味料の保存性を高められることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な保形性、食感及び風味を有し、かつ保存性に優れたぽん酢醤油様のゲル状調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ぽん酢醤油(柑橘果汁、食酢及び醤油を主に含有する)は、鍋料理に使用することが主な用途とされてきたが、近年では、そのさっぱりした風味が消費者に受け入れられ、サラダや揚げ物にかけて食べる等、その用途が拡大され、汎用調味料として見直されてきている。
【0003】
しかし、従来のぽん酢醤油は、粘度が低いために食材に絡みにくく、皿の底に溜まってしまうという問題があった。また、従来のぽん酢醤油は、例えば鍋料理のように淡泊な食材に少量つけて食べる等、実質的に薄めて使用される調味料であるため、食材に直接かけると塩味や酸味が強すぎるという問題があった。
【0004】
上記のような問題を解決するための方法としては、ゲル化剤を使って調味料を滑らかなゲル状にすることが考えられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、適度な粘弾性を有し、しかも口解けの良好なゲル状調味料組成物として、常温で10〜60g/cmのゲル強度を有し、調味料を包含するゲル状調味料と液状調味料とを、前者1重量部に対し後者0.05〜0.5重量部の割合で含有することを特徴とするゲル状調味料組成物が開示されている。そして、特許文献1には、上記ゲル状調味料として、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びジェランガムからなるゲル化剤が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、外観上の透明性を保ったまま、素材へ絡み易く、かつ長期的に離水を抑えることができるゲル状調味液として、調味料成分を含み、常温で破断応力が2000〜70000Pa及び破断歪率が10〜50%であり、離水率が0.05〜2%であることを特徴とするゲル状調味液が開示されている。そして、特許文献2には、上記ゲル状調味液が、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム及びιタイプのカラギーナンを含むゲル化剤を含有することが記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1及び2に開示されるゲル状調味料をぽん酢醤油に適用した場合、ゲル化が起こりにくくなり、安定したゲルが得られないという問題が生じた。
【0008】
このように、適度な保形性があって、食材に「乗せる」、「絡める」いずれの使い方もできるぽん酢醤油様のゲル状調味料はこれまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−309760号公報
【特許文献2】特開2006−230330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、適度な保形性があって、食材に「乗せる」、「絡める」のいずれの使い方でも適度な美味しさを有し、開封後の保存性も兼ね備えたぽん酢醤油様のゲル状調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ゲル化剤としてローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類を使用し、さらに塩分濃度を調節することにより、ゲル状調味料に適度な保形性及び食感を付与できること、及び、糖アルコールを使用することにより、風味に大きな影響を与えることなく水分活性を低減させ、ゲル状調味料の保存性を高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0012】
(1)食酢、醤油及び柑橘果汁を含有するゲル状調味料であって、
ローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類、及び糖アルコールを更に含有し、
塩分濃度が、ゲル状調味料全量に対し、4.0〜7.0質量%であり、かつ
水分活性(Aw)が0.93未満であることを特徴とする、上記ゲル状調味料。
(2)カラギーナンが、κ−カラギーナン及びι−カラギーナンを含むことを特徴とする、上記(1)に記載のゲル状調味料。
(3)κ−カラギーナン1に対するι−カラギーナンの質量比が0.5〜1.5であることを特徴とする、上記(2)に記載のゲル状調味料。
(4)醤油を、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、5質量部以上含むことを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゲル状調味料。
(5)酢酸濃度が、ゲル状調味料全量に対し、0.7〜1.5質量%であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のゲル状調味料。
(6)ブリックス度が20〜40であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のゲル状調味料。
(7)ボストウィック粘度計での測定値が21cm/60秒以下であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のゲル状調味料。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゲル状調味料は、適度な保形性があって、食材に「乗せる」、「絡める」のいずれの使い方でも適度な美味しさを有し、開封後の保存性も備えたぽん酢醤油様の風味を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.柑橘果汁、食酢及び醤油
本発明に用いる柑橘果汁としては、ゆず、すだち、かぼす、だいだい、レモン、ライム、オレンジ及びグレープフルーツ等が挙げられる。これらの2種以上を使用することもできる。上記柑橘果汁の中では、ゆず、すだち、かぼす及びだいだいが好ましく、ゆずが特に好ましい。
【0015】
本発明に用いる食酢としては、醸造酢、米酢、玄米酢及び黒酢等の穀物酢、リンゴ酢、ブドウ酢及び梅酢等の果実酢が挙げられる。これらの2種以上を使用することもできる。食酢の中では、醸造酢が好ましく、醸造酢として、通常の食酢(酢酸濃度1%程度)よりも酢酸濃度が高い高酸度酢(酢酸濃度10%程度)を使用することもできる。
【0016】
本発明に用いる醤油としては、濃口醤油、淡口醤油及びたまり醤油等のような旨味成分を強化したものが挙げられる。これらの2種以上を使用することもできる。上記醤油の中では、濃口醤油が好ましい。
【0017】
本発明のゲル状調味料には、柑橘果汁、食酢及び醤油の混合物として、市販のぽん酢醤油、例えば味ぽん(株式会社ミツカングループ本社)及び昆布ぽん酢(ヤマサ醤油株式会社)等を使用することもできる。
【0018】
2.増粘多糖類
本発明のゲル状調味料は、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類をゲル化剤として含む。カラギーナンとしては、κ−カラギーナン及びι−カラギーナンが好ましい。ローカストビーンガムとキサンタンガムとを組み合わせることにより、みずみずしいゲルが得られる。ローカストビーンガムとキサンタンガムとの組合せにさらにカラギーナンを組み合わせることにより、ゲルに適度な保形性が付与され、その結果、舌触りのよい滑らかな食感で、食材に乗るような固さを持ったゲルが得られる。このように、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類をゲル化剤として使用することにより、みずみずしく口どけの良い滑らかな食感と食材に乗せたり絡めたりすることができる適度な保形性を両立させることが可能となる。また、カラギーナンとして、κ-カラギーナンとι-カラギーナンを併用した場合には、食感が柔らかく、口当たりのよい、滑らかなゲル状調味料が得られるので好ましい。
【0019】
3.糖アルコール
本発明に用いる糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、マルチトール及びキシリトール等が挙げられる。これらの2種以上を使用することもできる。上記糖アルコールの中では、甘さが少なく風味への影響が少ない点で、ソルビールが好ましい。
【0020】
4.その他の材料
本発明のゲル状調味料には、必要に応じて、上記材料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の材料を配合することができる。その他の材料としては、柑橘類の皮を細かく刻んだ風味材や、昆布だし、かつお節粉末、核酸系調味料、砂糖、食塩、pH調整剤及び香料等が挙げられる。
【0021】
5.物性
本発明のゲル状調味料の水分活性(Aw)は、保存性を高める観点から、0.93未満であることが必要である。さらに、水分活性(Aw)は、適度な味の濃さとするために、0.89〜0.92であることが好ましい。水分活性(Aw)は、主に、糖アルコールの配合量により調節する。
【0022】
本発明のゲル状調味料の塩分濃度は、ゲル状調味料全量に対し、4.0〜7.0質量%であり、4.2〜6.2質量%であることが好ましい。塩分濃度は、味及び調味料としての美味しさの観点から、4.0質量%以上であることが必要であり、増粘多糖類によるゲル化を可能にし、適度な保形性を得るために、7.0質量%以下であることが必要である。塩分濃度は、主に、上記した醤油、及び食塩等のその他の材料の配合量により調節する。塩分濃度は、モール法により測定した塩化物イオンの濃度を食塩の濃度と仮定して算出した値である。
【0023】
本発明のゲル状調味料の酢酸濃度は、味及び調味料としての美味しさの観点から、ゲル状調味料全量に対し、0.7〜1.5質量%であることが好ましく、0.9〜1.2質量%であることが特に好ましい。酢酸濃度は、主に、上記した食酢、及びその他の材料の配合量により調節する。
【0024】
本発明のゲル状調味料のブリックス度は、酸味の角を取る、味に厚みを出すなど風味のバランスをとるという観点から、20〜40であることが好ましく、25〜35であることが特に好ましい。ブリックス度は、主に、糖アルコールの配合量により調節する。ブリックス(Brix)とは、20℃における屈折率を測定し、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純蔗糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値をいう。ブリックスの測定は、一般に市販されている糖度計を用いて行えばよい。
【0025】
本発明のゲル状調味料の粘度は、適度な保形性及び食感を得るために、ボストウィック粘度計での測定値が21cm/60秒以下であることが好ましく、13〜19cm/60秒であることが特に好ましい。ボストウィック粘度計は、主に、増粘多糖類の配合量により調節する。ボストウィック粘度計の測定方法は、以下のように行う。まず、ボストウィック粘度計(深谷精機(株)製)を水準器を用いて水平に置く。そして、各試料100gを品温20℃に保持して、チャンバーに満たした後、レバーを押して仕切り板をはね上げ、30秒間後に流れ広がる試料の最先の距離をmm単位まで測定する。
【0026】
6.組成
柑橘果汁の配合量は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5〜10質量部であることが特に好ましい。
【0027】
食酢は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、高酸度酢(酸度10%)として7〜15質量部であることが好ましく、10〜12質量部であることが特に好ましい。
【0028】
醤油の配合量は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、5質量部以上であることが好ましく、8〜20質量部であることが特に好ましい。
【0029】
柑橘果汁、食酢及び醤油の合計配合量は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、15〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることが特に好ましい。
【0030】
増粘多糖類の配合量は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、0.1〜3.0質量部であることが好ましく、0.5〜1.5質量部であることが特に好ましい。ローカストビーンガム0.1〜0.7質量部、キサンタンガム0.01〜0.1質量部及びカラギーナン0.1〜0.5質量部からなる増粘多糖類が好ましい。また、カラギーナンとしてκ−カラギーナン及びι−カラギーナンを併用する場合、κ−カラギーナン1に対するι−カラギーナンの質量比は、0.5〜1.5であることが好ましく、0.7〜0.9であることが特に好ましい。
【0031】
糖アルコールの配合量は、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、1質量部以上であることが好ましく、5〜15質量部であることが特に好ましい。
【0032】
7.製造方法
本発明のゲル状調味料の製造方法は、基本的に通常のゲル状調味料の製造方法であればよく、特に限定はされないが、例えば増粘多糖類を糖アルコールと混合して加熱、溶解させた後、容器にホットパック充填し、流水等で冷却する方法を好適な方法として採用することができる。その他の材料は、材料の性質等を考慮して、各工程において適宜添加することができる。
【0033】
8.用途
本発明のゲル状調味料は、鍋料理の他に、サラダ用、総菜用、豆腐用、揚げ物用等に使用することができる。具体的には、これら食材の上に乗せたり、絡めたり、食品と和えたりして使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実施例において製造したゲル状のポン酢醤油調味料の材料及びその配合量を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1
ローカストビーンガム、キサンタンガム、κ−カラギーナン及びι−カラギーナンからなる増粘多糖類と砂糖を袋に入れて混合した。この粉体を、ソルビトール及び一部の水を混合したものに添加し、混合した。その後、残りの水を加えて更に混合した。残りの材料を加えて混合し、85℃まで加熱した。
【0038】
得られたポン酢醤油調味料をボトルに75℃以上の温度でホットパック充填した。これを流水で30分間以上冷却することによりゲル状のポン酢醤油調味料が得られた。
【0039】
実施例2
ローストビーンガムが0.2質量部、キサンタンガムが0.05質量部、κ−カラギーナンが0.35質量部であり、ι−カラギーナンを使用しないこと以外は、実施例1と同様にしてゲル状のポン酢醤油調味料を得た。
【0040】
比較例1
食塩の量を4.7質量部とすること以外は、実施例1と同様にしてゲル状のポン酢醤油調味料を得た。
【0041】
比較例2
食塩の量を0.7質量部とすること以外は、実施例1と同様にしてゲル状のポン酢醤油調味料を得た。
【0042】
比較例3
ソルビトールを使用しないこと以外は、実施例1と同様にしてゲル状のポン酢醤油調味料を得た。
実施例1、2及び比較例1〜3のゲル状のポン酢醤油調味料の物性を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例1、2及び比較例1〜3のゲル状のポン酢醤油調味料の性能を以下の項目について評価した。
【0045】
<保形性及び食感>
食感は官能テストで、保形性は野菜サラダで確認テストを行った。
<風味>
官能テストを行った。
<保存性>
指標菌として耐塩性乳酸菌をそれぞれのゲル状ポン酢醤油調味料に植菌し、30℃に温度を保った恒温槽で培養した。増殖するまでの日数で保存性を評価した。
結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例1のゲル状のポン酢醤油調味料は、保形性、食感、風味及び保存性のいずれにおいても優れていることがわかる。
【0048】
実施例1のゲル状のポン酢醤油調味料は、ι-カラギーナンを含むために、実施例2のゲル状のポン酢醤油調味料と比較して柔らかい食感を有することがわかる。
【0049】
比較例1のゲル状のポン酢醤油調味料は、食塩濃度が高いために、増粘多糖類によるゲル化が起き難く、また塩味が強く、保形性及び風味が劣ることがわかる。
【0050】
比較例2のゲル状のポン酢醤油調味料は、食塩濃度が低いために、ゲルが固くなり、また滑らかな流動性がなく、保形性及び食感が劣ることがわかる。また、比較例2のゲル状のポン酢醤油調味料は、調味料として味が薄く、風味が劣ることがわかる。
【0051】
比較例3のゲル状のポン酢醤油調味料は、糖アルコールを含まないために、風味及び保存性が劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢、醤油及び柑橘果汁を含有するゲル状調味料であって、
ローカストビーンガム、キサンタンガム及びカラギーナンを含む増粘多糖類、及び糖アルコールを更に含有し、
塩分濃度が、ゲル状調味料全量に対し、4.0〜7.0質量%であり、かつ
水分活性(Aw)が0.93未満であることを特徴とする、上記ゲル状調味料。
【請求項2】
カラギーナンが、κ−カラギーナン及びι−カラギーナンを含むことを特徴とする、請求項1に記載のゲル状調味料。
【請求項3】
κ−カラギーナン1に対するι−カラギーナンの質量比が0.5〜1.5であることを特徴とする、請求項2に記載のゲル状調味料。
【請求項4】
醤油を、ゲル状調味料全量を100質量部としたとき、5質量部以上含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル状調味料。
【請求項5】
酢酸濃度が、ゲル状調味料全量に対し、0.7〜1.5質量%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゲル状調味料。
【請求項6】
ブリックス度が20〜40であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のゲル状調味料。
【請求項7】
ボストウィック粘度計での測定値が21cm/60秒以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のゲル状調味料。

【公開番号】特開2012−135292(P2012−135292A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291724(P2010−291724)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】