説明

ゲル状食品及びその感覚強度増強方法

【課題】 ゲル状食品の香りや味の感覚強度を増強し、香味成分の使用量低減、コスト抑制や香味の感覚強度の増強による摂食行動の亢進および満腹感の増加、維持を達成する。
【解決手段】一種類以上の連続相を構成するゲルに、分散相として味、香り、食感(ゲルの物理的性質)などが異なる一種類以上のゲルを混じり合うことなく分散させた二相ゲル状食品を製造する。このとき、感覚強度を増強するように分散相のゲルに香味成分を集中させ、さらには、多相ゲル状食品の全量に対する分散相ゲルの重量比や連続相ゲルと分散相ゲルの物理的性質の差を厳密に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル状食品の香味の感覚強度を増強することにより、調味料や香料の使用量を低減することによるコスト抑制や、摂食行動(噛む、飲む)の亢進および満腹感の増加、維持を達成するための食品構造体の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な食品の香りや味(以下、香味という)を増強したり、特定の香気成分等を際立たせたりする検討が行われている(特許文献1乃至3)。しかしながら、これらの技術によれば、特殊なアミド融合体や特殊なペプチドを含有する酵母などの成分を食品に添加することによって食品の香味の増強をなすものであり、簡便に実施できず、また添加時に香味のバランスが崩れる可能性があるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−517493号公報
【特許文献2】特表2008−530020号公報
【特許文献3】特開2011−103795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゼリー等のデザート類の開発においては、香味の向上が最も重要な課題の一つであり、また対象となる香味も多様化している。このような状況の中、かかる食品の香味増強に関する新しい技術が求められている。しかしながら、様々な成分を添加することによって香味の感覚強度を増強する技術は多数開示されているものの、ゲル状食品の構造設計に関する香味の増強については未だ開示されていないのが現状である。つまり、香味の増強については専ら化学的手法のみにおいてなされており、物理的な手法による改善はなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は従来に無い視点で、ゲル状食品の香味の感覚強度を増強させるためのものである。それを実現するための手段として、具体的には、少なくとも1種以上の味や香り物質(以下、香味成分という)を含有したゲル状物を、予め裁断するなどして細分化して容器に投入し、この細分化したゲル状物よりも、香味成分の含有量が少ないか若しくは含まないゲル化性物質(溶液状)を充填し、該ゲル化性物質を冷却、カチオン添加、pHの調整などにより凝固させることによって、香味成分の濃度が高い分散相を、香味成分の濃度が低い連続相中に含有してなる二相ゲル状食品を製造する。このとき、分散相の大きさ、分散相と連続相の質量比などを厳密に制御することにより、同総重量中に含まれる香味成分の含量が等しい均一ゲル状食品に比べて、味や香りの感覚強度を増強させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記の項1〜項8に示すゲル状食品の香味の感覚強度増強方法である。
項1.香味成分を含有する分散相のゲルが、香味成分を含有しないか又は分散相よりも少ない香味成分量を含有する連続相のゲル中に分散してなることを特徴とする、香味の感覚強度が増強されたゲル状食品。
項2.ゲル状食品中の分散相を形成するゲルの割合が10〜50重量%である項1記載のゲル状食品。
項3.分散相を形成するゲルの大きさが、短辺が3.0mmより大きく、長辺が10.0mmより小さいことを特徴とする項1又は2に記載のゲル状食品。
項4.分散相を形成するゲルの圧縮速度10mm/sにおける全面圧縮時の破断応力が、連続相を形成するゲルの同破断応力の1.5倍の値以下である項1乃至3に記載のゲル状食品。
項5.香味成分を含有する分散相のゲルを、香味成分を含有しないか又は分散相よりも少ない香味成分量を含有する連続相のゲル中に分散することを特徴とする、ゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
項6.ゲル状食品中の分散相を形成するゲルの割合が10〜50重量%である項5記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
項7.分散相を形成するゲルの大きさが、短辺が3.0mmより大きく、長辺が10.0mmより小さいことを特徴とする項5又は6に記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
項8.分散相を形成するゲルの圧縮速度10mm/sにおける全面圧縮時の圧縮破壊応力が、連続相を形成するゲルの同圧縮破壊応力の1.5倍の値以下である項5乃至7に記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、上述の通り香味成分の量が少ないか若しくは含まれていない連続相と、香味成分を連続相よりも多く含む分散相からなる二相ゲル状食品に関する。かかる構成とすることにより、均一なゲル状食品に比べてゲル状食品全体における添加量が同一あるいは低い場合でも、香味成分の香りや味を強く感じることができる(感覚強度が増強する)という特徴を有するものである。
【0008】
本発明に用いられる分散相となるゲルを製造するためのゲル化剤は、食品製造に使用されるゲル化剤であれば制限なく使用できる。例えば、寒天、ゼラチン、カラギナン(カッパ型、イオタ型など)、ペクチン(高メトキシル型、低メトキシル型)、ジェランガム(高アシル型、低アシル型)、キサンタンガム、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン類(グアーガム、ローカストビーンガムなど)、キシログルカン、カードラン、アルギン酸、アルギン酸塩等のうち1種又は2種以上を組み合わせたものを用いることができるが、なかでもジェランガムやカッパ型のカラギナンのような、加熱殺菌などにより高温になった場合においても保形性がある熱不可逆的なゲルを形成するゲル化剤が望ましい。
【0009】
前記分散相となるゲルには、1種類もしくは2種類以上の味や香りを有する成分、即ち香味成分が含まれる。具体的には香料をはじめ甘味料、酸味料、塩味料、旨味料などの呈味成分が例示できる。本発明では、これら飲食品に対し味や香りを付与するために使用されている成分全般を総括して香味成分と称す。
【0010】
本発明で使用される香味成分の具体例として、香料としては、食用に用いられる香料であればどのようなものでも使用することができる。例えば、テルペン系炭化水素、アルコール香料、フェノール香料、アルデヒド香料、ケトン香料、エーテル香料、エステル香料、有機酸香料、有機窒素香料、有機ハロゲン香料、有機硫黄化合物香料などの合成香料や各種植物由来および動物由来の天然香料やそれらを組み合わせた調合香料などがある。香料の形態としては、水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、粉末香料、乳化粉末香料など、どの形態の香料でも使用できるが、香り移りの少ない乳化香料や乳化粉末香料を使用することがより望ましい。
【0011】
また、使用できる呈味成分も食用として使用されているものであれば特に制限は無く、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、ネオテームなどの甘味料、酢酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、リン酸などの酸味料、カフェイン、香辛料抽出物、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物、ボラペット、メチルチオアデノシン、レイシ抽出物などの苦味料、食塩、塩化カリウムなどの塩味料、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸やそれらのナトリウムもしくはカリウム塩などの旨味料などがあげられる。さらには、調味用の天然の果汁、苦汁などを単独もしくは合成調味料と組み合わせて使用してもよい。
【0012】
分散相を構成するゲルの大きさは、短辺が3.0mm以上、長辺が10.0mmより小さい必要がある。短辺が3.0mmより小さい場合は、香味の感覚強度の増強効果が現れにくい。また、10.0mmより大きい場合は、ゲルを連続相に均一に分散させることが難しく、食した際に十分な味や香りの感覚強度の増強効果を感じることができない。更に、分散相のゲルを短辺が4.0mmより大きく、長辺が8.0mmより小さいサイズにすると、食した際の食感や味や香りの感じ方がより良くなるだけでなく食感的にも好ましくなる。
【0013】
これら分散相となるゲルの形状は特に制限されず、使用するゲル化剤の特性に応じて適宜調製方法を選択することができる。具体的には、使用するゲル化剤が温度低下によりゲル化するもの(例えば寒天、高アシル型ジェランガム、ゼラチンなど)である場合、かかるゲル化剤を含む溶液をゲル化温度以上まで加温し、呈味成分等を添加混合し、ゲル化温度付近まで温度を下げ、香料を添加し、さらに温度を下げ静置することによってゲルを得る。または、ゲル化剤がカチオンやpHによってゲル化するもの(例えばカラギナン、低アシル型ジェランガム、アルギン酸など)である場合、ゲル化剤や呈味成分等を含有する水溶液を加熱攪拌等により調製し、香料を添加後カチオン濃度又はpHをゲル化する状態へと調整することによってゲルを得る。
【0014】
得られたゲルを攪拌機や裁断機等によって、上述の大きさとなるように調製すればよい。ゲルの形状に得に制限はなく、攪拌によって得られた不定形なもの、裁断によって得られる直方体或いは立方体であってもよい。或いは、ゲル化剤がカチオンやpHによりゲル化するものであれば、ゲル化剤を含む溶液を、当該ゲル化剤がゲル化するカチオン濃度又はpHの条件に調節した水溶液中に滴下することによって、球状或いはティアドロップ状に成型することもできる。この時、ゲル化剤を含む溶液を通す細管の内径や滴下速度を調節することによって、得られるゲルの大きさを制御することが可能である。
【0015】
連続相となるゲルを製造するためのゲル化剤は、分散相となるゲルと同様、食品製造に用いられているゲル化剤ならどのようなものでも使用できる。例えば、寒天、ゼラチン、カラギナン、ペクチン、ジェランガム、キサンタンガム、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キシログルカン、アルギン酸、アルギン酸塩などの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いることができる。
【0016】
連続相となるゲルは、上記で得られた分散相となるゲルを充填した容器に、上記ゲル化剤を含む溶液を注入し、選択したゲル化剤の特性に応じたゲル化方法をとればよい。即ち、容器へ連続相となる溶液を注入し、ゲル化温度以下に冷却するか、カチオン濃度若しくはpHを調節することによって、連続相中のゲル化剤がゲル化するようにすればよい。
【0017】
二相ゲル状食品の全重量に対する分散相のゲルの重量比として、式1で定義される“分散相ゲルの充填率”が10重量%〜50重量%である必要があり、さらには、好ましくは20重量%〜40重量%である。分散相ゲルの充填率が10重量%より小さいあるいは分散相のゲルの充填率が50重量%より大きい場合のいずれも香味の感覚強度の増強効果が十分でない。
【式1】
【0018】

【0019】
以下、本発明の二相ゲル状食品の製造方法の一例を、工程順に詳細に説明する。尚、以下の説明は、1種類の連続相と1種類の分散相からなる二相のゲル状食品の製造を主としているが、2種類以上の分散相を有する場合も同様に製造することができる。
【0020】
まず、室温もしくは加熱した水中に前記分散相のゲル化剤を、呈味料やその他の食品素材とともに添加し、溶解させる。このとき、発酵セルロースなどの分散剤を同時に添加すると、香味成分が分散相ゲルから連続相ゲルに移り難くなる。使用されるゲル化剤がカチオンやpHに対する依存性が少なく、主として温度低下によってゲル化する場合(例えば、寒天、高アシル型ジェランガム、ゼラチンなど)、この水溶液をゲル化温度以上に加熱した後に攪拌しながらゲル化温度付近まで冷却させる。香味成分等はこのタイミングで添加することが好ましい。また、香料として乳化香料(W/O、O/W、W/O/W型など)を使用することにより、分散相ゲルから連続相ゲルへの成分の移行を抑制する効果がある。この水溶液をゲル化温度以下(好ましくはゲル化温度より10℃以上低い温度)に冷却し、十分に静置してゲル化させ、分散相のゲルを製造する。さらに、得られたゲルを攪拌機や3.0〜10.0mmの間隔の格子状に配置された刃物などを用いて、分散相のゲルを適宜な大きさに裁断するなどして細分化する。また、分散相のゲル化剤がカチオンやpHに拠ってゲル化する場合(例えば、カッパ型カラギナン、イオタ型カラギナン、低アシル型ジェランガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩など)、ゲル化剤および呈味成分やその他の食品素材を含有する水溶液を加熱攪拌して均一にした後、カチオン濃度および/又はpHをゲル化する状態まで調整してゲル化させ、分散相ゲルを製造する。さらに、得られたゲルを攪拌機や3.0〜10.0mmの間隔の格子状に配置された刃物などを用いて、分散相のゲルを適宜な大きさに裁断するなどして細分化する。ゲル化剤がカチオンやpHに拠ってゲル化するタイプのものの場合、ゲル化剤および呈味成分、香料やその他の食品素材を含有する分散液を、カチオン濃度および/又はpHが調整された水溶液中に細管を通して滴下することによって、球状かそれに近い形状のゲル状粒子を調製することもできる。このとき、細管の内径や滴下速度を調整することにより、ゲル状粒子の大きさを制御することができる。
【0021】
こうして得られた分散相のゲルを、カップ状又はそれに準ずる形状の製品容器内に投入する。分散相をゲルの製品容器内に投入する方法は特に限定されないが、一定量(分散相ゲルの充填率が10重量%〜50重量%になる量)が容器内へ自動的に投入されるような機構を有する装置であれば、工業的に簡便である。その際に用いる製品容器は、殺菌に耐える必要がある。
【0022】
次に、連続相のゲルを調製するために、室温もしくは加熱した水中にゲル化剤、呈味成分やその他の食品素材とともに加熱、攪拌しながら投入し、均一に溶解させる。このとき、感覚強度を強調したい香味成分の連続相中の濃度は、分散相のゲル中の濃度よりも低い必要があり、可能ならば該当する香味成分を添加しないことが好ましい。また、このとき、発酵セルロースなどの分散剤を同時に添加すると、香味成分が分散相ゲルから連続相ゲルに移り難くなる。使用されるゲル化剤がカチオンやpHに対する依存性が少なく、主として温度低下によってゲル化する場合(例えば、寒天、高アシル型ジェランガム、ゼラチンなど)、分散相ゲルが再溶解しない温度まで冷却した連続相の水溶液を分散相のゲルが入った容器に攪拌しながら添加し、分散相ゲルを連続相水溶液に均一に分散させる。これを連続相のゲル化剤のゲル化温度以下に冷却して、連続相のゲルの内部に分散相のゲルが均一に分散された食品体を調製する。また、連続相のゲルに使用されるゲル化剤がカチオンやpHに拠ってゲル化する場合(例えば、カッパ型カラギナン、イオタ型カラギナン、低アシル型ジェランガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩など)、分散相ゲルが再溶解しない温度まで冷却した連続相の水溶液を分散相のゲルが入った容器に攪拌しながら添加し、分散相ゲルを均一に分散させると同時にカチオン濃度もしくはpHを調整する。これを一定期間静置して、連続相のゲルの内部に分散相ゲルが均一に分散されたゲル状食品を調製する。
【0023】
このような手順で製造された、本発明の二相ゲル状食品は、香味成分の濃度が高い分散相とその濃度が低い若しくは含まない連続相からなっており、長期保存によっても分散相から連続相への味や香りの移行が少ない。また、このようなゲル状食品は同総重量中に含まれる香味成分の添加量が等しい均一ゲル状食品に比べて、香味成分の感覚強度が増強されており、それによって、香味成分の使用量の低減によるコスト抑制や、感覚強度の増強による摂食行動(噛む、飲む)の亢進、さらには満腹感の増加、維持などの効果が期待できる。
【0024】
尚、本願発明の如く、連続相・分散相のような複数の相からなるゲル状食品は、特開2002−320462号、特開平11−164657号、特開2008−67638号、特開平10−276690号、特開平5−304907号、特開平9−248142号等で開示されているが、本願発明の特徴であるゲル状固形食品の味覚・嗅覚などの感覚強度を増強させるため、ゲル状食品自体を設計するといった着想も示唆も、これらには一切開示されていない。
【実施例】
【0025】
本発明は従来法に無い視点、即ちゲル状食品の構造に特徴を持たせることによって、当該ゲル状食品の味や香りの発現を増強するものである。以下に実施例をあげて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。処方中の「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示し、「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であることを示す。
【0026】
<試験試料の調製方法>
1)分散相ゲルの調製
99.85gのイオン交換水に0.15gの発酵セルロース溶液(サンアーティスト※PG*)を添加し、室温にて1300rpmで10分間攪拌した後、ホモゲナイザーを用いて15MPaの圧力条件下でホモジナイズして、0.15重量%の発酵セルロース溶液を得た。前記の0.15重量%発酵セルロース溶液(98.0g)に、表1に示した重量の脱アシル型ジェランガム(ケルコゲル*、以下、ジェランガムと表記)、ι型カラギナン(カラギニンCSI−1(F)*、以下、カラギナンと表記)を添加し、90℃、1300rpmで10分間加熱撹拌溶解した。実施例1〜9及び比較例1〜3では、この水溶液に表1に記載の重量の香料(アップルベース3087FA*)と0.1g乳酸カルシウムを添加し、85℃に加熱したイオン交換水で全量を100gに調整し、100ml容の耐熱プラスチックカップに充填後、8℃で2時間冷却して分散相のゲルを調製した。
【0027】
一方、実施例10〜12では前記の0.15重量%発酵セルロース溶液(98.0g)に、表1に示した重量の脱アシル型ジェランガム(ケルコゲル*、以下、ジェランガムと表記)、ι型カラギナン(カラギニンCSI−1(F)*、以下、カラギナンと表記)および呈味成分を添加し、90℃、1300rpmで10分間加熱撹拌溶解した。尚、呈味成分として実施例10は甘味料としてスクラロース製剤(サンスイート※SU−100*)、実施例11は酸味料(クエン酸)、実施例12は塩味料(食塩)を用いた。加熱溶解後の水溶液に0.1g乳酸カルシウムを添加し、85℃に加熱したイオン交換水で全量を100gに調整し、100ml容の耐熱プラスチックカップに充填後、8℃で2時間冷却して分散相のゲルを調製した。
【0028】
2)連続相ゲル用の溶液調製
前記の0.15重量%発酵セルロース溶液(98.0g)に0.15gのジェランガム、0.1gカラギナンを添加し90℃、1300rpmで10分間加熱撹拌溶解した。
【0029】
3)二相ゲル状食品の調製
分散相のゲルを一辺が表1に示す大きさの立方体状に裁断し、表1に示した充填率になるように直径25mm、高さ15mmのガラス製容器中に充填した。このガラス製容器中に0.1%の乳酸カルシウムを添加した連続相ゲル用の溶液を流し込み、連続相をゲル化させた。ガラス製容器の上面を耐熱プラスチック製の平板蓋を用いて密閉した後、殺菌のため85℃で30分間加熱し、その後8℃で冷却することによって、実施例1乃至12および比較例1乃至3の二相ゲル状食品を調製した。なお、表1に記載の“分散相ゲルの一辺長”とは、裁断された分散相のゲル(立方体)の長さを示している。
【0030】
【表1】

1) 甘味料:スクラロース製剤(サンスイート※SU-100)を用いた。
2) 酸味料:クエン酸を用いた。
3) 塩味料:食塩を用いた。
【0031】
4)均一なゲル状食品(一相ゲル状食品)の調製
表2に記載の処方に基づき、比較例として、分散相、連続相といった構造的な特徴を有さない均一なゲル状食品を調製した。
前述の0.15重量%発酵セルロース溶液に、脱アシル型ジェランガム(ケルコゲル*)、ι型カラギナン(カラギニンCSI−1(F)*)および香料(比較例4〜8)又は呈味成分(比較例9〜11)を添加し、90℃、1300rpmで10分間加熱撹拌溶解した。尚、呈味成分として、比較例9は甘味料としてスクラロース製剤(サンスイート※SU−100*)、比較例10は酸味料(クエン酸)、比較例11は塩味料(食塩)を用いた。比較例4〜8の水溶液には香料(アップルベース3087FA*)と0.1gの乳酸カルシウムを添加した後、85℃に熱したイオン交換水で全量を100gに調整し、これを直径25mm、高さ15mmのガラスリングに充填した後、殺菌のため85℃で30分間加熱し、その後8℃で冷却することによって、均一なゲル状食品(一相ゲル状食品)を調製した。
【0032】
【表2】

1) 甘味料:スクラロース製剤(サンスイート※SU-100)を用いた。
2) 酸味料:クエン酸を用いた。
3) 塩味料:食塩を用いた。
【0033】
5)官能評価方法
25〜40歳の6名の健常者(男4名、女2名、平均32.5歳)を被験者とし、二相ゲル状食品(実施例1−12)の試験試料の香味の感覚強度が香味成分の濃度が等しい一相のゲル状食品と比較して、高いか、低いか、あるいは変わらないかを判断させた。感覚強度が高いと答えた被験者が6人の場合+++、5人の場合++、3〜4人の場合+、2人以下の場合±とした。
【0034】
実験1 分散相ゲルの充填率が香気の感覚強度に及ぼす影響
香料の総濃度が0.3重量%になるように調製した一相ゲル状食品(比較例4)と香料の総濃度が同じであるが、分散相ゲルのみに香料を添加した二相ゲル状食品(実施例1乃至3および比較例1)の香気の感覚強度について、一相ゲル状食品(比較例4)との比較で官能評価を行った。結果を表3に示す。なお、実施例1乃至3および比較例1の分散相のゲルの形状は6mmの立方体とした。
【0035】
【表3】

【0036】
香料の総濃度が同じであるにもかかわらず、香料を分散相のゲルに集中させた二相ゲル状食品(実施例1乃至3)のほうが、比較例4の一相ゲル状食品(ゲル全体に均一に香料が分散したゲル状食品)に比べて、香りの感覚強度が高く評価された。分散相の充填率が20〜40重量%と低い(実施例1および2)、すなわち香料の集中率がより高い二相ゲル状食品のほうが、充填率が50重量%のもの(実施例3)より感覚強度が高くなる傾向があった。分散相の充填率が60重量%以上になると(比較例1)、一相ゲル状食品との差が小さくなり、感覚的な香りの増強効果は十分とはいえなくなった。
【0037】
この実験により、ゲル状食品全体に含まれる香料の総濃度が同じであっても、分散相ゲルに香料を集中的に添加し、さらの該ゲルの充填率が低い二相ゲル状食品のほうが、香りを強く感じるとの結果が得られた。
【0038】
実験2 分散相のゲルの大きさが香気の感覚強度に及ぼす影響
ゲル状食品全体に含まれる香料の総濃度を0.3重量%、香料が添加された分散相ゲルの充填率を20重量%とし、立方体である分散相ゲルの一辺長を2mm〜8mmまで変化させた二相ゲル状食品(実施例4乃至6および比較例2)を調製し、該ゲル状食品の香りの感覚強度を一相ゲル状食品(比較例4)を基準として官能評価を行った。官能評価の内容は実験1に準じた。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
分散相のゲルの一辺長が8mmと比較的長い実施例6の二相ゲル状食品の香りの感覚強度が最も高く、一辺長が2mmである比較例2では一相ゲル状食品(比較例4)との差が小さく、感覚的な香りの増強効果が十分ではないとの結果が得られた。
【0041】
実験3 連続相ゲルと分散相ゲルの物理的性質の差が香りの感覚強度に及ぼす影響
分散相ゲルに含まれるジェランガムの濃度を0.05重量%〜0.30重量%まで変化させ、様々な破断応力を有する分散相ゲルを調製した。分散相ゲルの破断応力測定には直径20mm、高さ10mmの円筒形に整形した試料を用いた。同様に、ジェランガムの濃度が0.15重量%である連続相ゲルについても、直径20mm、高さ10mmの円筒形に整形した試料をもちいて破断応力を測定した。破断応力は、テクスチャーアナライザーTA-XT 2i(Stables Micro System 社製)を用いて測定した。プランジャーとして直径100mmのアルミ製平板プランジャーを用い、速度10mm/sで圧縮した。各ゲル試料を平板プランジャーで圧縮するとゲルが歪み、各ゲル試料が破断するまでは、歪みの大きさに従って応力が上昇するが、各ゲル試料が破断した時点において、歪みが緩和されることにより応力が一時的に低下する。このような応力低下が見られる直前の応力を破断応力と定義した。破断応力の測定結果を表5に示す。また、分散相ゲルの破断応力の連続相に対する比率(倍)を表5に示す。
【0042】
次に、前記の分散相ゲルを一辺長6mmの立方体に裁断し、ジェランガムの濃度が0.15重量%である連続相ゲル中に、充填率20重量%で分散させて実施例1、7、8、9および比較例3の二相ゲル状食品を調製した。これら5種類の二相ゲル状食品の、香りの感覚強度について、分散相のジェランガム濃度と等しいジェランガム濃度である一相ゲル状食品(比較例4、5、6、7、8)との比較で官能評価を行った。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
分散相ゲルの破断応力が連続相ゲルの破断応力と等しいかあるいは小さい実施例1、7および8の二相ゲル状食品において、ジェランガム濃度が等しい一相のゲル状食品に比べて香りの感覚強度が大きく増強されていることが確認された。また、連続相ゲルの破断応力対する分散相ゲルの破断応力比が約1.3倍である、実施例9の二相ゲル状食品でも、ジェランガム濃度が等しい比較例7と比べて、香りの感覚強度が高くなったが、効果は実施例1、7、8よりもやや小さかった。一方、連続相ゲルの破断応力に対する分散相ゲルの破断応力比が2倍以上である、比較例3の二相ゲル状食品は、比較例8と比べて香りの感覚強度に大きな差がみられなかった。
【0045】
以上の結果より、連続相ゲルの破断応力対する分散相ゲルの破断応力比が、1.5倍以下となる場合に、感覚的な香りの増強効果が得られることがわかった。
【0046】
実験4 二相ゲル状食品における呈味成分の感覚強度
分散相ゲルに甘味、酸味、塩味の呈味成分を付与した二相ゲル状食品(順に実施例10、11および12)の味の感覚強度について、呈味成分の総濃度が同じである一相ゲル状食品(順に比較例9、10、11)との比較で官能評価を行った。結果を表6に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
甘味、酸味、塩味の全ての呈味成分において、二相ゲル状食品(順に実施例10、11および12)は、呈味成分の総濃度が同じである一相ゲル状食品(順に比較例9、10および11)に比べて、味の感覚強度が高くなることが確認された。本発明の二相ゲル状食品は、香りだけでなく味の感覚強度も増強させる効果があることが確認された。
【0049】
実験5 二相ゲル状食品における摂食行動の亢進
二相ゲル状食品は、歯による咀嚼や舌と口蓋による押しつぶしなどといった口内摂食行動時に、香り、味、もしくは食感が多様に変化する。このような変化は、摂食者の口内摂食行動に対する興味や楽しさを惹起し、それによって摂食行動を亢進させることが期待される。本実験では、筋電位測定装置MP150WSW(バイオパック社製)を用いて、二相ゲル状食品(実施例1)と一相ゲル状食品(比較例4)を摂食してから嚥下するまでの筋電位の最大振幅と筋活動時間を測定した。結果を表7に示す。筋電位測定装置は、皮膚の特定の箇所に貼り付けられた2つの電極間の電位差を測定することにより、電極の貼り付けられた皮膚の直下にある筋肉の活動を経時的に検出するものであり、これによって特定の筋肉が、どの程度の強度(筋電位の振幅で評価)でどの程度の時間動いていたかを定量的に解析することが出来る。本実験では、下顎中央部の皮膚に電極を貼り付け、この皮膚の直下にある、舌骨上筋群を対象とした。なお、舌骨上筋群とは舌の動きと連動しており、舌と口蓋による押しつぶし(便宜的に“咀嚼”と呼ぶ)および嚥下の両方に活躍する筋肉群である。
【0050】
【表7】

【0051】
咀嚼時における筋電位の最大振幅を比較すると、二相ゲル状食品(実施例1)と一相ゲル状食品(比較例4)との間には殆ど差異が見られなかったが、筋活動時間は、実施例1ほうが長かった。このことは、2種類のゲル状食品を比較した場合、舌を用いた咀嚼の容易さには殆ど差がないが、実施例1のほうが、飲み込むまでにより時間をかけていることを示しており、このことは、ゲルを多相化したことによって、舌を用いた咀嚼行動を亢進させることが出来ることを示唆している。一方、嚥下時においては、二相ゲル状食品(実施例1)は一相のゲル状食品(比較例4)に比べて最大振幅が小さく、筋活動時間も減少した。この結果はゲルを多相にしたことによって嚥下しやすくなったことを示唆している。
【0052】
以上の結果により、本発明の二相ゲル状食品は、一相ゲル状食品に比べて、香りや味などの感覚強度を増強し、それによって摂食行動を亢進することが確認された。摂食行動の亢進は満腹感の増加、維持にも影響を与えると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味成分を含有する分散相のゲルが、香味成分を含有しないか又は分散相よりも少ない香味成分量を含有する連続相のゲル中に分散してなることを特徴とする、香味の感覚強度が増強されたゲル状食品。
【請求項2】
ゲル状食品中の分散相を形成するゲルの割合が10〜50重量%である請求項1記載のゲル状食品。
【請求項3】
分散相を形成するゲルの大きさが短辺が3.0mmより大きく、長辺が10.0mmより小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のゲル状食品。
【請求項4】
分散相を形成するゲルの圧縮速度10mm/sにおける全面圧縮時の破断応力が、連続相を形成するゲルの同破断応力の1.5倍の値以下である請求項1乃至3に記載のゲル状食品。
【請求項5】
香味成分を含有する分散相のゲルを、香味成分を含有しないか又は分散相よりも少ない香味成分量を含有する連続相のゲル中に分散することを特徴とする、ゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
【請求項6】
ゲル状食品中の分散相を形成するゲルの割合が10〜50重量%である請求項5記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
【請求項7】
分散相を形成するゲルの大きさが短辺が3.0mmより大きく、長辺が10.0mmより小さいことを特徴とする請求項5又は6に記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。
【請求項8】
分散相を形成するゲルの圧縮速度10mm/sにおける全面圧縮時の破断応力が、連続相を形成するゲルの破断応力の1.5倍の値以下である請求項5乃至7に記載のゲル状食品の香味の感覚強度増強方法。

【公開番号】特開2013−111006(P2013−111006A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259735(P2011−259735)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】