説明

ゲル粒子及びその製造方法

【課題】水に不溶性ないし難溶性の生理活性物質にも有効に適用可能なゲル粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】キサンテン系色素で修飾した高分子化合物及びハイドロゲンドナーを含む有機溶媒溶液を、該有機溶媒と相溶しない水性溶媒に添加して分散させ、懸濁液に可視光を照射して分散粒子中の高分子化合物をハイドロゲンドナーの存在下に架橋、硬化させてゲル粒子を得る。高分子化合物及びハイドロゲンドナーを有機溶媒に溶解させて有機溶媒溶液を水性溶媒に添加して懸濁させるため、この有機溶媒溶液に生理活性物質を溶解させておくことにより、水に不溶性ないし難溶性の生理活性物質であっても容易にこれをゲル粒子に包埋させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリシステム(DDS)等において、各種医薬・医療用の担体として用いられるゲル粒子の製造方法と、この方法により製造されたゲル粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
pH応答性カプセルや経時性に溶解するカプセルなどを利用した経口投与DDSは古くから行われてきたが、近年は、生理活性物質を失活させず、また細胞に傷害を与えることなくゲル内に包埋、封入した数ナノメーター径〜数百ナノメーター径のゲル粒子を静注や経皮経管的手法などで血液中へ直接投与してDDSに用いることが検討されている。
【0003】
このようなゲル粒子の製造方法として、下記非特許文献1及び2がある。非特許文献1及び2では、ベンゾフェノンで修飾したゼラチンやPEGに紫外線を照射して架橋し、不溶化させることでゲル粒子を得る。ここで用いる原料溶液は水溶液であり、これを相溶しない流動パラフィンなどへ分散させてから紫外線を照射する。原料溶液の流動パラフィンへの分散は、原料溶液を微粒子の形態とするための操作であり、分散の際の攪拌条件、即ち分散度でゲル粒子の粒子径を調整する。
【0004】
非特許文献1,2のベンゾフェノン類で修飾した高分子化合物の架橋には、エネルギーの高い紫外線や放射線を使用してラジカルを発生させる必要があり、このため、高分子化合物自体の分解が起こり、その結果、ゲル粒子の形状が変形したりゲル強度が不足したりする問題がある。この高分子化合物の光分解は、ゲル粒子を生体内へ投与した後の生分解とは分解挙動が異なり、この際に生成した分解物自体が毒性も有することもあり、更には分解生成物が生理活性物質と化学反応を惹起して生理活性物質を失活させることもある。また、紫外線照射や紫外線により発生するオゾンでも生理活性物質の失活や高分子化合物の分解が起こる。更に放射線や紫外線を使用することは、製造技術的にも安全性管理の観点からも課題が多い。
【0005】
このような問題を解決するものとして、本出願人らは先に、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物と、生理活性物質とを親油性液体に添加して分散させ、次いで可視光を照射して分散粒子を光架橋させることによりゲル化させてゲル粒子を得る方法を提案した(特許文献1。以下「先願」という。)。
【0006】
先願の方法は、より具体的には、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物とハイドロゲンドナーを含む水溶液を流動パラフィンや非イオン性界面活性剤を混合した親油性液体へ分散させ、可視光を照射して架橋不溶化させることでゲル粒子を得るものである。
【0007】
この方法であれば、放射線や紫外線のように光エネルギーにより高分子化合物の分解や生理活性物質の失活を引き起こす危険性が少なく、また、オゾンが発生することもないため安全面でも有利である。
【特許文献1】特願2005−035822号
【非特許文献1】S.Nishi et al, b-FGF Impregnated Hydrogel Micropheres, ASAIO J, 405-410, 1998
【非特許文献2】中山泰秀,光硬化型親水性高分子,人工臓器28,250-255,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先願を含め、従来技術ではゲル粒子の原料である高分子化合物を水溶液とし、これを有機溶媒(親油性液体)中へ滴下、攪拌、分散させてから光照射を行っているため、水溶性の生理活性物質には有効に適用可能であるが、水不溶性ないしは水難溶性の生理活性物質には適用が困難であるという問題があった。即ち、タクロリムスなどの免疫抑制剤、トリクロロメチアジドなどの抗高血圧剤、スルファメトキサゾールなどのサルファー剤、ビタミンEなどのビタミン剤、リノール酸などの高級不飽和脂肪酸、トロピカミドなどの副交感神経遮断剤、ナプロキセンなどの解熱鎮痛剤、フェンブフェンなどの消炎剤、ニセリトロールなどの抗高脂血症剤、フロセミドなどの利尿剤をはじめカルモフール、ジョサマイシン、シンフィブラート、エリスロマイシン、スピロノラクトン、ジフェニルヒダントイン、フェノバルビタールなどの当業者に広く利用されている多種多様な医薬物質の多くは水に溶解しないか又は難溶であり、これらを包埋したゲル粒子が製造できないことは大きな課題である。
【0009】
また、先願では高分子化合物へのキサンテン系色素の導入量が大きくなると、高分子化合物が水へ溶解しない又は難溶となってしまうので、キサンテン系色素導入量には限界がある。一方で、キサンテン系色素の導入量が少ないと、架橋・硬化までの光照射時間に多大の時間を要してしまい、場合によっては十分な架橋が得られずにゲル粒子を得ることができないことも起こり得る。この問題は、ベンゾフェノンを導入する非特許文献1,2においても同様である。そして、光照射時間が長くなるとたとえ光源が可視光であっても光感受性の高い生理活性物質の場合には変性、失活などの問題が発生することがある。
【0010】
従って、本発明は、水に不溶性ないし難溶性の生理活性物質にも有効に適用可能なゲル粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、キサンテン系色素の導入量を増やし、光架橋性を高めた高分子化合物を用いることにより少ない光照射時間でゲル化可能なゲル粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明(請求項1)のゲル粒子の製造方法は、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物及びハイドロゲンドナーを含む有機溶媒溶液を、該有機溶媒と相溶しない水性溶媒に添加して分散させる懸濁工程と、該懸濁工程で得られた、前記有機溶媒溶液の分散粒子が分散している懸濁液に可視光を照射して該分散粒子中の高分子化合物をハイドロゲンドナーの存在下に架橋、硬化させてゲル粒子を得るゲル化工程とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項2のゲル粒子の製造方法は、請求項1において、前記有機溶媒溶液が生理活性物質を含有し、該生理活性物質を包埋したゲル粒子を得ることを特徴とする。
【0014】
請求項3のゲル粒子の製造方法は、請求項1又は2において、前記高分子化合物が、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、環状エステルの重合体、ポリビニルアルコールヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
請求項4のゲル粒子の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ハイドロゲンドナーが、チオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール、並びに1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
請求項5のゲル粒子の製造方法は、請求項2ないし4のいずれか1項において、生理活性物質が、前記水性溶媒への25℃における溶解度が、10g/mL以下であることを特徴とする。
【0017】
なお、前記生理活性物質としては、タクロリムス、カルモフール、ジョサマイシン、シンフィブラート、エリスロマイシン、スピロノラクトン、ジフェニルヒダントイン、フェノバルビタール、ポリフェノール、トリクロロメチアジド、スルファチアゾール、スルファメトキサゾール、ビタミンE、リノール酸、トロピカミド、ナプロキセン、フェンブフェン、ニセリトロール、フルオロメトロン、フルジアゼパム、ジドロゲストロン、クロチアゼパム、カフェイン、ドロペリドール、フルオシノニド、フロセミド及びクルクミンよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0018】
請求項6のゲル粒子の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記キサンテン系色素がエオシンであることを特徴とする。
【0019】
請求項7のゲル粒子の製造方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記有機溶媒が炭化水素、ハロゲン化炭化水素、及び天然油よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0020】
請求項8のゲル粒子の製造方法は、請求項4ないし7のいずれか1項において、前記高分子化合物がゼラチンであることを特徴とする。
【0021】
請求項9のゲル粒子の製造方法は、請求項8において、前記キサンテン系色素で修飾した高分子化合物が、ゼラチン1分子中に10個以上のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とする。
【0022】
請求項10のゲル粒子の製造方法は、請求項9において、前記キサンテン系色素で修飾した高分子化合物が、ゼラチンが1分子中に15〜35個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とする。
【0023】
請求項11のゲル粒子の製造方法は、請求項1ないし10のいずれか1項において、製造されたゲル粒子の直径が2nm〜200μmであることを特徴とする。
【0024】
本発明(請求項12)のゲル粒子は、このような本発明のゲル粒子の製造方法により製造されたものであり、DDS用ゲル粒子として好適である(請求項13)。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物及びハイドロゲンドナーを有機溶媒に溶解させた有機溶媒溶液を、水性溶媒に添加して懸濁させるため、この有機溶媒溶液に生理活性物質を溶解させておくことにより、水に不溶性ないし難溶性の生理活性物質であっても容易にこれをゲル粒子に包埋させることができる。
【0026】
また、高分子化合物についても有機溶媒に溶解させるため、キサンテン系色素の導入量を多くすることができ、従って、キサンテン系色素の導入量の多い光架橋性の高い高分子化合物により、少ない光照射時間でゲル化することができ、これにより、光照射による生理活性物質の変性、失活等の問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0028】
本発明においては、まず、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物及びハイドロゲンドナーを有機溶媒に溶解させた有機溶媒溶液を、この有機溶媒とは相溶しない水性溶媒に添加して分散させて、有機溶媒溶液の分散粒子が懸濁した懸濁液を調製する。この際、得られるゲル粒子に生理活性物質を包埋させる場合には、有機溶媒溶液に更に生理活性物質を溶解させておく。
【0029】
キサンテン系色素で修飾した高分子化合物、ハイドロゲンドナー及び必要に応じて生理活性物質を溶解させるための有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、流動パラフィンなどの炭化水素;クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;ヒマシ油、オリーブ油などの天然油;等の疎水性有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0030】
キサンテン系色素で修飾した高分子化合物としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどそれ自体が疎水性有機溶媒へ可溶なものであっても良く、ゼラチン、ポリエチレングリコールなど水溶性のものであっても、キサンテン系色素の導入量を多くして水不溶性で有機溶媒可溶とすることで使用可能である。また、高分子化合物としては、ポリアクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N−アルキルアミノアルキルアクリルアミド、N−アルキルアミノアルキルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレートなど水及び疎水性有機溶媒の両方に親和性のものも使用することができる。この場合には、懸濁工程において、高分子化合物が水性溶媒側へ若干移行する可能性があるが、光照射による光架橋を速やかに行うことで、高分子化合物の水性溶媒への溶出による影響をゲル化に問題ない程度に抑えることができる。
【0031】
本発明に使用可能な高分子化合物としては、次のようなものが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、環状エステルの重合体、ポリビニルアルコールヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン
【0032】
なお、ここでいう環状エステルの重合体としては、炭素数2から14の環状エステル化合物を開環重合することによって合成することができる。かかる環状エステル化合物の例としては、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、カプリロラクトン、ラウロラクトン、バルミトラクトン、ステアロラクトン、グリコシド、ラクチド、クマリン、クロトラクトン、α−アンゲリカラクトンやβ−アンゲリカラクトン、1,4−ジオキサン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン及びトリメチレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0033】
これらの高分子化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0034】
キサンテン系色素で修飾した高分子化合物におけるキサンテン系色素としてはエオシンが好適であり、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物としてはエオシン化ゼラチンが好適である。このエオシン化ゼラチンについては後に記述する。
【0035】
ゼラチンをキサンテン系色素で修飾する場合、ゼラチン1分子に対するキサンテン系色素分子の導入数は10個以上が好ましく、特に15〜35個であることが好ましい。この導入数が10よりも少ないと、ゼラチンが有機溶媒へ難溶となり、本発明方法によるゲル粒子の製造が困難となる。
【0036】
ハイドロゲンドナーとしては、有機溶媒に溶解可能なものが用いられ、例えば、チオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール、1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物が挙げられ、特に1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物、例えば、エチルアミン、ジメチルアミン、ジメチルアミノ安息香酸ナトリウム、2-ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノプロピル酢酸ナトリウム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドオリゴマー、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートオリゴマー、N-(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドオリゴマー等が挙げられる。これらのハイドロゲンドナーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
生理活性物質としては、タクロリムス、ビタミンE等の有機溶媒に可溶で水不溶性の油性のものが好適に用いられるが、有機溶媒に界面活性剤等を添加しておくことにより、水溶性のものを用いることもできる。この場合も前述の高分子化合物のように、懸濁工程において、生理活性物質が水性溶媒側へ若干移行する可能性があるが、光照射による光架橋を速やかに行うことで、生理活性物質の水性溶媒への溶出による歩留り低下を抑えることができる。
【0038】
このようなことから、本発明において、生理活性物質としては、油性に限らず水溶性のものも適用可能であり、例えば、次のようなものを用いることができるが、水性溶媒への25℃における溶解度が、10g/mL以下であるものを用いることが好ましい。
タクロリムス、カルモフール、ジョサマイシン、シンフィブラート、エリスロマイシン、スピロノラクトン、ジフェニルヒダントイン、フェノバルビタール、ポリフェノール、トリクロロメチアジド、スルファチアゾール、スルファメトキサゾール、ビタミンE、リノール酸、トロピカミド、ナプロキセン、フェンブフェン、ニセリトロール、フルオロメトロン、フルジアゼパム、ジドロゲストロン、クロチアゼパム、カフェイン、ドロペリドール、フルオシノニド、フロセミド及びクルクミン。
【0039】
これらの生理活性物質は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
本発明において、ゲル粒子の原料溶液となる有機溶媒溶液(以下「原料溶液」と称す場合がある。)は、有機溶媒にキサンテン系色素で修飾した高分子化合物、ハイドロゲンドナー及び生理活性物質を添加、混合することにより調製される。ここで、有機溶媒に対する有機溶媒にキサンテン系色素で修飾した高分子化合物、ハイドロゲンドナー及び生理活性物質の添加順序に特に制限はなく、取り扱い性等を考慮して適宜決定される。
【0041】
原料溶液中のキサンテン系色素で修飾した高分子化合物の濃度は過度に高いと生成するゲル粒子の密度が高くなり、結果、生理活性物質の担持量が低減し、また、過度に低濃度であると、ゲル粒子が形成されなくなるため、0.1〜50重量%程度であることが好ましい。
【0042】
また、原料溶液中のハイドロゲンドナーの濃度は架橋反応に寄与できる必要量を加えれば良い。過度に高いと生理活性物質を失活させたり、余剰のハイドロゲンドナーがゲル粒子から溶出したりする可能性が生じる。過度に低いと光照射の間に十分な架橋が行われないことから、ハイドロゲンドナーはキサンテン系色素で修飾した高分子化合物に対して0.1〜100重量%程度用いることが好ましい。
【0043】
また、原料溶液に生理活性物質を添加する場合、原料溶液中の生理活性物質の濃度は、使用する生理活性物質の有効ドーズ数と毒性が発現される危険性のある濃度、使用するキサンテン系色素で修飾した高分子化合物の種類と目標とする徐放持続時間などを考慮して当業者によって適宜設定されるが、0.001ppm〜10%程度であることが好ましい。例えば、エオシンで修飾したポリエチレングリコール系の高分子化合物(分子量2000程度)を使用して、bFGFを48時間程度で徐放させたい場合であれば0.2ppm程度である。
【0044】
なお、有機溶媒には、ポリオキシエチレンセシルエーテル、オキシエチレンオキシプロピレンコポリマー、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加してもよく、これにより生理活性物質の経時的な溶解安定性を維持することができる。界面活性剤の有機溶媒への添加量は0.1〜50重量%程度が好適である。
【0045】
また、有機溶媒に、ポリエチレングリコール等の増粘剤を添加してもよく、これにより分散粒子径を均一にしたり、分散粒子径を小さくしたりすることができる。増粘剤の有機溶媒への添加量は0.1〜20重量%程度が好適である。
【0046】
このようにして得られた原料溶液は、原料溶液の調製に用いた有機溶媒と相溶しない水性溶媒に添加して懸濁させる。
【0047】
この水性溶媒としては、通常、水が用いられるが、アセトン、メタノール等の極性有機溶媒や、水とこれらの溶媒との混合溶媒であっても良い。
【0048】
また、このような水性溶媒に、イオン強度のある電解質、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の1種又は2種以上を0.1〜30重量%程度溶解させておくことにより、原料溶液中の水溶性物質の水性溶媒への移行や有機溶媒の水性溶媒への溶解を抑制することができる。
【0049】
原料溶液を添加する水性溶媒の量は、原料溶液量に対して過度に少ないと良好な懸濁液を調製し得ず、逆に過度に多いと反応容器が大型化し、光の照射効率が悪くなるなどして好ましくない。従って、水性溶媒は原料溶液に対して1〜100,000容量倍程度用いることが好ましい。
【0050】
ここで、得られる懸濁液中に分散している原料溶液の分散粒子の粒径が、得られるゲル粒子の粒径を決定することになるため、目的に応じて好適な粒径の分散粒子が得られるように懸濁液の調製には工夫を要する。一般的には、ゲル粒子は、その用途において、後述の如く、2nm〜200μm程度の大きさのミクロ粒子であることが好ましいことから、このような大きさの分散粒子が得られるように、懸濁液の調製に当っては、キャピラリー等を用いて、原料溶液を撹拌下の水性溶媒に滴下することが好ましい。
【0051】
このようにして調製した懸濁液に次いで可視光を照射して、分散粒子中の高分子化合物をハイドロゲンドナーの存在下に架橋、硬化させてゲル粒子を得る。この光照射は波長400〜700nmの可視光を1〜500mW/cmへ調整して1〜60分程度照射することにより行うことが好ましい。
【0052】
このようにして分散粒子を光架橋によりゲル化させて得られる本発明のゲル粒子は、直径2nm〜200μmであることが好ましい。ゲル粒子の直径が2nm未満では担持できる生理活性物質の量が少なく、200μmを超えると血管閉塞のリスクが高くなる。特に本発明のゲル粒子をDDS用ゲル粒子として用いる場合、ゲル粒子の粒径は血管内で異物として認識されやすく、毛細血管の閉塞などの危険性が生じる400nmよりも小さく、例えば2〜200nmが好ましい。
【0053】
このようにして製造される本発明のゲル粒子は、賦形剤、浸透促進剤、増粘剤などと混合してシップ薬材として製剤したり、界面活性剤と混合して水へ乳化させて投与するという方法で医薬組成物とするなど、各種医薬、医療用途への応用が可能である。
【0054】
次に、本発明においてキサンテン系色素で修飾した高分子化合物として用いるのに好適なエオシン化ゼラチンについて説明する。
ここでゼラチンは、分子量5千〜10万、アミノ基約10〜100個/1分子程度の通常のゼラチンで良い。
エオシン化ゼラチンは、下記反応に従ってゼラチンの側鎖にエオシンを導入することにより調製される。
【0055】
【化1】

【0056】
ゼラチン分子へのエオシンの導入数は、例えば、エオシン化ゼラチンの水溶液の吸光度をエオシンの最大吸収波長522nmにおいて測定し、エオシンのモル吸光係数(ε=94755)を基に算出可能であり、ゼラチン1分子に対して10個以上、特に15〜35個程度が好ましい。このエオシン等の感光基を有する化合物の導入数が少ないと水溶性となり好ましくなく、また、光照射によるゲル化率が低いものとなって、ゲル化のための光照射に長時間を要するようになる。エオシンの導入数は、必要以上に多くてもゼラチン固有の柔軟性が損なわれる可能性があり、好ましくない。
【0057】
このエオシン化ゼラチンは、粘稠性の液体状である。これを例えば濃度1〜10重量%のクロロホルム溶液とした場合には、300〜30,000lx程度の可視光、特に生体に対する用途にあっては、300〜15,000lx程度の比較的低照度で、生体に対して影響の低い可視光を0.1〜30分程度照射してゲル状に硬化させることができる。
【実施例】
【0058】
以下に、合成例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
合成例1:エオシン化ゼラチンの合成
ゼラチン(分子量95,000、アミノ基量約37個/分子)に、水溶性カルボジイミドであるN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)の存在下、下記反応でゼラチンの側鎖のアミノ基にエオシンを結合させることにより、ゼラチン1分子当たりエオシン約15個を導入してエオシン化ゼラチンを合成した。精製は透析で行い、ゼラチン鎖へのエオシンの導入率は522nmの吸光度から算出した。
【0060】
【化2】

【0061】
実施例1
クロロホルム(関東化学,JIS特級試薬)及び日本薬局方注射用水を高純度窒素ガスにてそれぞれ24時間づつバブリングし、液体中の溶存酸素を除去した。
【0062】
合成例1で合成したエオシン化ゼラチンを前記脱酸素処理したクロロホルムへ溶解させた。更に、ハイドロゲンドナーとしてN,N-ジエチルアミノプロピルベンゼンと生理活性物質としてdl−α−トコフェロール(日本薬局方,ビタミンE)をこの脱酸素処理したクロロホルムへ溶解させた。
【0063】
上記エオシン化ゼラチンとハイドロゲンドナーと生理活性物質溶液を混合し、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物、ハイドロゲンドナー及び生理活性物質を含む溶液とした。終濃度はキサンテン系色素で修飾した高分子化合物10重量%、ハイドロゲンドナー1重量%、生理活性物質1重量%となるように調整した。以下、この溶液を原料溶液と言う。
【0064】
別に、前記脱酸素処理した水300mLを密閉系で窒素ガスをバブリングしながら強く攪拌し、ここへ原料溶液をキャピラリーを使用しながら10mL滴下し、攪拌することにより分散させて懸濁液とした。
【0065】
この懸濁液に対して、撹拌下、光化学反応装置(ウシオ電機製)中でハロゲンランプ(トクヤマ社製)にて波長400nm〜520nmの可視光を200mW/cmに調整して20分間照射し、エオシン化ゼラチンを架橋させた。攪拌を停止すると反応装置の底面にクロロホルム溶液の層が分離された。上澄の水をアスピレーターで除去し、減圧乾燥することで平均粒径約20μmのゲル粒子を得た。
【0066】
このゲル粒子の顕微鏡写真を図1に示す。
【0067】
このゲル粒子を10重量%エタノール水溶液へ分散させて攪拌し、溶液中へ溶出するdl−α−トコフェロールを経時的に測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィーで行い、条件は、
カラム:ODSカラム(島津製作所STR−II,4mm)
カラム温度:40℃
移動相:50重量%メタノール水溶液,1mL/分
検出器:紫外可視分光光度計(波長292nm)
で行った。その結果、約72時間後までゲル粒子からdl−α−トコフェロールが徐放されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1で製造したゲル粒子の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンテン系色素で修飾した高分子化合物及びハイドロゲンドナーを含む有機溶媒溶液を、該有機溶媒と相溶しない水性溶媒に添加して分散させる懸濁工程と、
該懸濁工程で得られた、前記有機溶媒溶液の分散粒子が分散している懸濁液に可視光を照射して該分散粒子中の高分子化合物をハイドロゲンドナーの存在下に架橋、硬化させてゲル粒子を得るゲル化工程と
を有することを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記有機溶媒溶液が生理活性物質を含有し、該生理活性物質を包埋したゲル粒子を得ることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記高分子化合物が、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、環状エステルの重合体、ポリビニルアルコールヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ハイドロゲンドナーが、チオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール、並びに1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、生理活性物質が、前記水性溶媒への25℃における溶解度が、10g/mL以下であることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記キサンテン系色素がエオシンであることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記有機溶媒が炭化水素、ハロゲン化炭化水素、及び天然油よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項において、前記高分子化合物がゼラチンであることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記キサンテン系色素で修飾した高分子化合物が、ゼラチン1分子中に10個以上のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、前記キサンテン系色素で修飾した高分子化合物が、ゼラチン1分子中に15〜35個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、製造されたゲル粒子の直径が2nm〜200μmであることを特徴とするゲル粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のゲル粒子の製造方法により製造されたゲル粒子。
【請求項13】
請求項12において、ドラッグデリバリシステム用ゲル粒子であることを特徴とするゲル粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−306788(P2006−306788A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131883(P2005−131883)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】