説明

ゲル軟膏組成物

【課題】レーザー療法時の疼痛緩和等を目的としたゲル軟膏剤の提供。
【解決手段】(1)外用医薬;(2)炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せ;(3)界面活性剤;(4)付着性高分子ポリマーおよび(5)水を含み、懸濁状態であることを特徴とする、ゲル軟膏剤。外用医薬がリドカイン等の局所麻酔薬である上記のゲル軟膏剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル軟膏剤に関する。さらに詳しくは、レーザー療法時の疼痛緩和を目的とした局所麻酔用高付着性ゲル軟膏剤(組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザー療法が、皮膚の治療分野において多く用いられるようになってきている。レーザー療法はメラニン色素に選択的に吸収される特性を有することから、皮膚の局所療法に応用され、目覚しい治療効果をあげている。特に、太田母斑と刺青、および老人性色素班、ホクロ、ソバカス、イボ等に対する治療効果は顕著である。レーザー療法は、一般的な手術療法に比べて侵襲性が少なく、患部によっては、レーザー照射を繰り返し行うことも可能である。しかしながら、レーザー照射の際には、患者に痛みを伴うため麻酔を施す必要があるが、その都度全身麻酔をかけるのでは身体的な負担が大きい。そこで多くの場合、施術前に、局所麻酔製剤の投与が行われている。
このレーザー療法時の疼痛緩和に用いる局所麻酔製剤としては、現在市販されている製剤で内視鏡挿入時などの粘膜表面麻酔に用いられている外用剤(液、ゼリー、スプレー、軟膏等)を転用して用いているが、皮膚表面への適用にはその効果が十分であるとは言えない。また、貼付用局所麻酔剤(リドカイン60%を含有するテープ剤:適用は静脈留置針穿刺時の疼痛緩和)を本疼痛緩和目的で使用した場合にも同様に十分な効果が得られていないのが現状である。
これらの状況において、いくつかの医療施設においては、局所麻酔薬を有効成分とした軟膏剤の院内製剤が報告されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】病院薬局製剤(第5版)P186〜P188
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにレーザー療法においてはいくつかの局所麻酔製剤が提供されているが、効果において不十分であること等、多くの問題が認められている。すなわち、レーザー療法は一般に正常皮膚表面に対して行われるものであるから、レーザー照射時の疼痛緩和用の製剤を皮膚投与する際には、正常皮膚を透過して吸収させる必要がある。しかし、正常皮膚からの経皮吸収は一般的に困難であるため、速やかで十分な局所麻酔効果を得るためには、局所麻酔薬を一定高濃度に配合した製剤が必要となる。更に良好な経皮吸収を考えた場合、その製剤においては、高濃度に局所麻酔薬を溶解状態で含有させることが求められる。しかし、難溶性の局所麻酔薬の場合、高濃度で溶解状態の製剤の調製は困難であり、仮にアルコール類、ポリオール類の比率の高い溶剤を用いて溶解させたとしても、その局所麻酔薬の溶解度が十分でなければ、局所麻酔薬の結晶が析出することになり、製剤の安定性に問題を生じる可能性がある。また、高濃度のアルコール類、ポリオール類を溶剤に含有させることによって、それらの溶剤による皮膚刺激を含めた安全性にも問題を生じる可能性がある。
【0004】
そこで、いくつかの医療施設において調製されている院内製剤のように、アルコール類、ポリオール類を使用しない懸濁製剤とすることが考えられるが、懸濁製剤の場合、懸濁状態の均一性/安定性、作用の発現、持続、効果の強さにおいて満足のいくものではないことが一般的に知られている。
加えて、例えば、軟膏剤においては、適用部位に比較的厚く塗布することから通常の製剤では付着性に乏しくタレ落ちが生じやすい。
また、テープ剤では、かぶれを起こしやすく、有毛部には使い勝手が悪い等の問題があった。
【0005】
かくして、本発明が解決すべき課題は、局所麻酔薬を安定的に高濃度に含有させることが可能であり、製剤の均一性/安定性、作用の発現、持続、効果の強さにおいて満足のいく付着性の高い軟膏剤形態のレーザー療法時の疼痛緩和を目的とした局所麻酔剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、レーザー療法時の疼痛を緩和する目的で臨床上の応用が可能な付着性の良好な軟膏剤を提供すべく鋭意検討を重ねた結果、局所麻酔薬に対する溶解性が高く少量で高濃度の局所麻酔薬を完全に溶解できる特定の可溶化(分散)剤を用い、これに溶かした局所麻酔薬を更に水および付着性高分子ポリマー等から調製したゲル状基剤と混合することにより、局所麻酔薬の溶解度が低下して、これにより局所麻酔薬粒子が微細な懸濁状態となったゲル軟膏剤を見出し、本願発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、局所麻酔薬を可溶化(分散)剤を用いて完全に一旦溶解し、界面活性剤を含有する水および付着性高分子ポリマーによるゲル状基剤に、再分散し、局所麻酔薬を安定な懸濁状態とした局所麻酔用ゲル軟膏剤を提供する。具体的には、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せで、局所麻酔薬を完全に溶解できる少量を用い、一旦局所麻酔薬を溶解し、別途界面活性剤を含有する水および付着性高分子ポリマーで調製されたゲル状基剤中に、攪拌しながら該局所麻酔薬溶液を投入することにより、極めて微細な局所麻酔薬粒子の懸濁状態を作ることが可能であることを発見した。このようにして得られたゲル軟膏製剤を、実際にレーザー療法の前処置に用いると、従来にはなかった顕著な疼痛緩和効果を有することが示され、しかも短時間に作用が発現し、効果の強さ・持続においても優れた結果を示し、塗布した患部においては均一に安定した効果が維持された。また塗布後のタレ落ちや患部のかぶれも起こさず、使用勝手もよかった。
更に、上記ゲル軟膏剤および製造方法は、局所麻酔薬に限らず、一般的な外用医薬においても同様の製剤状態、効果などが得られると考えられ、適用可能である。
【0008】
本発明では、(1)外用医薬;(2)可溶化(分散)剤;(3)界面活性剤;(4)付着性高分子ポリマーおよび(5)水を含む、ゲル軟膏剤を提供する。
【0009】
具体的に本発明では、(1)外用医薬;(2)可溶化(分散)剤;(3)界面活性剤;(4)付着性高分子ポリマーおよび(5)水を含み、懸濁状態であることを特徴とする、ゲル軟膏剤を提供する。更に具体的には、上記可溶化(分散)剤が、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せであるゲル軟膏剤を提供する。
【0010】
更に本発明では、(1)局所麻酔薬;(2)可溶化(分散)剤;(3)界面活性剤;(4)付着性高分子ポリマーおよび(5)水を含み、懸濁状態であることを特徴とする、局所麻酔用ゲル軟膏剤を提供する。更に具体的には、上記可溶化(分散)剤が、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せである、局所麻酔用ゲル軟膏剤を提供する。
【0011】
また本発明では、上記局所麻酔用ゲル軟膏剤において、上記局所麻酔薬が、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカイン、ブピバカイン、プロピトカイン、アミノ安息香酸エチル、オキシブプロカイン、パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、メピバカイン、オキセサゼイン、およびピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチルからなる群から選択される1または2以上である、局所麻酔用ゲル軟膏剤を提供する。
【0012】
また本発明では、上記ゲル軟膏剤または局所麻酔用ゲル軟膏剤の懸濁状態において、懸濁状態にある油滴が1〜10μmであることを特徴とする、ゲル軟膏剤または局所麻酔用ゲル軟膏剤を提供する。
【0013】
更に本発明では、外用医薬(または局所麻酔薬)を、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せに溶解し、その溶液を別途調製した界面活性剤、粘着性高分子ポリマーおよび水を含んだゲル状基剤に加えて、外用医薬(または局所麻酔薬)を懸濁状態にすることを特徴とする、上記ゲル軟膏剤(または局所麻酔用ゲル軟膏剤)を得る製造方法を提供する。より具体的には、外用医薬(または局所麻酔薬)を、少量の炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せに完全に一旦溶解し、その溶液を別途界面活性剤、粘着性高分子ポリマーおよび水などにより調製したゲル状基剤に攪拌しながら加えて、極めて微細な外用医薬(または局所麻酔薬)の懸濁状態にすることを特徴とする、上記ゲル軟膏剤(または局所麻酔用ゲル軟膏剤)を得る製造方法を提供する。
【0014】
また本発明では、上記製造方法で製造されたゲル軟膏剤(または局所麻酔用ゲル軟膏剤)を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるゲル軟膏剤とは、ゲル状の軟膏剤をいう。ここで軟膏剤とは、適当な稠度の全質均等な半固形状に製した皮膚に塗布する外用剤をいう。
【0016】
本ゲル軟膏剤で用いられる外用医薬は、特に限定されず、例えば、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、消炎剤、抗菌剤、抗真菌剤、免疫抑制剤、ビタミン剤、抗アレルギー剤などが挙げられ、具体的には、これらに限らないが、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカイン、ブピバカイン、プロピトカイン、アミノ安息香酸エチル、オキシブプロカイン、ロピバカイン、パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、メピバカイン、オキセサゼイン、ピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチル、コカインなどおよびそれらの塩酸塩の局所麻酔薬;ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、ラウリル酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸トリプロリジン、塩酸プロメタジン、酒石酸アリメマジン、塩酸イソチペンジル、塩酸ヒドロキシジン、パモ酸ヒドロキシジン、塩酸ホモクロルシクリジン、塩酸シプロヘプタシンなどの抗ヒスタミン薬;酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、酢酸パラメタゾン、酢酸ハロプレドン、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、ジフルプレドナート、フルオシノニド、吉草酸ジフルコルトロン、アムシノニド、ハルシノニド、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸デプロドン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、フルニソリド、リン酸ベタメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、ブデソニド、シクレソニド、フランカルボン酸フルチカゾンなどのステロイド薬;アスピリン、メフェナム酸、インドメタシン、ピロキシカム、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イププロフェンピコノール、スプロフェン、ブフェキサマク、ベンダザック、ウフェナマート、ナプロキセン、プラノプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、メロキシカム、ロルノキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブなどの非ステロイド系鎮痛消炎薬;ナジフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、オルビフロキサシン、スパルフロキサシン、サラゾスルファピリジン、スルファジアジン、スルファジアジン銀、リン酸クリンダマイシン、フシジン酸ナトリウム、アモキシリン、トシル酸スルタミシリン、セファゾリンナトリウム、塩酸セフォチアム、セフメタゾールナトリウム、フロモキセフナトリウム、セファレキシン、セファクロル、セフジトレンピボキシル、硫酸カナマイシン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸フラジオマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、塩酸ミノサイクリン、クロラムフェニコールなどの抗菌剤;アムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ミカファンギンナトリウム、塩酸テルビナフィン、グリセオフルビン、ナイスタチン、トルナフテート、シクロピロクスオラミン、クロトリマゾール、硝酸エコナゾール、硝酸イソコナゾール、硝酸スルコナゾール、硝酸オキシコナゾール、塩酸クロコナゾール、ビホナゾール、ケトコナゾール、塩酸ネチコナゾール、リラナフタート、塩酸ブテナフィン、塩酸アモロルフィン、ラノコナゾール、ルリコナゾールなどの抗真菌剤;タクロリムス、ピメクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリンなどの免疫抑制剤;ビタミンA、エトレチナート、タカルシトール、カルシポトリオール、マキサカルシトールなどのビタミン剤;クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、フマル酸ケトチフェン、アンレキサノクス、塩酸アゼラスチン、オキサトミド、塩酸フェキソフェナジン、塩酸エピナスチン、エバスチン、塩酸セチリジン、ベシル酸ベポタスチン、塩酸オロパタジン、ロラタジン、塩酸オザグレル、セラトロダスト、プランルカスト水和物、モンテルカストナトリウムなどの抗アレルギー薬を挙げることができる。
【0017】
また、本発明で用いる局所麻酔薬は、特に限定されず、例えば、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカイン、ブピバカイン、プロピトカイン、アミノ安息香酸エチル、オキシブプロカイン、パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、メピバカイン、オキセサゼイン、ピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチル等が挙げられ、1種または2種以上が選ばれる。特に好ましいものとしてリドカインが挙げられる。
【0018】
また、本ゲル軟膏剤における、外用医薬の含有量は、外用医薬の種類や目的等に応じて、適宜変更することが可能であるが、一般的には、ゲル軟膏剤の組成の1.0〜30.0質量%が好適であり、同2.0〜20.0質量%が特に好適であり、同4.0〜10.0質量%が極めて好適である場合が多い。
このように、本ゲル軟膏剤は、外用医薬を比較的多量に含有させることが可能ではあるが、過度に多量に含有させると、外用医薬による皮膚の安全性が懸念されるため、外用医薬を多量に含有させる場合には、安全性の観点から、外用医薬の種類に応じて、その含有量の上限が規定される。
【0019】
本ゲル軟膏剤において懸濁状態にある外用医薬は、一部が油相に溶解した油滴の粒子として存在すると考えられ、その油滴の粒子径は1〜10μmである。なお、ここで求める粒子径は、通常用いられる方法で測定され、例えば、顕微鏡による観察で行うなどの方法が挙げられる。
【0020】
また、本ゲル軟膏剤で懸濁状態にある外用医薬においては、一部が油相および/または水相において溶解状態にあり、その溶解状態にある外用医薬が経皮吸収されると共に、溶解状態にない外用医薬が再溶解されて順次経皮吸収されて、良好な経皮吸収が成されていくと考えられる。
【0021】
本発明において付着性高分子ポリマーとは、任意に適用したときに付着性を示す高分子のポリマーを意味し、例えば、これらに限らないが、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース等が例示される。これらを複数組み合わせて使用してもよい。これら付着性高分子ポリマーのうち、皮膚への付着性を有し、比較的厚く塗布しても適用部位からの製剤のタレ落ちが生じにくい好適な付着性高分子ポリマーが特に好ましく、例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロースのような水溶性ポリマーが好ましく、特にカルボキシビニルポリマーを用いた本ゲル軟膏基剤が好ましい。
本発明の付着性高分子ポリマーとして用いるカルボキシビニルポリマーは、アクリル酸を主成分として重合して得られる親水性ポリマーが挙げられ、通常用いるもの、例えば、米国Noveon社より市販されているカーボポール(登録商標)を用いることができる。カルボキシビニルポリマーの使用濃度は、これらに限らないが、通常0.1〜2.0質量%で用いられる。
【0022】
本発明で用いられる可溶化(分散)剤として、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類が挙げられ、これらをそれぞれ単体または2以上組み合わせて用いてもよい。
炭酸プロピレンは、無色澄明な液で水と適当量で混和する溶剤であり、医薬品に一般的に使用されているものでよい。N−メチル−2−ピロリドンは、無色澄明な液で水と適当量で混和する溶剤であり、通常のもの、たとえば、米国ISP社より市販されているファーマソルブ(登録商標)をもちいることができる。可溶化(分散)剤の使用濃度は、通常1.0〜20.0質量%で用いられるが、外用医薬を一旦溶解させるに足る量で十分である。
【0023】
また、本発明においては界面活性剤を含むことが望ましく、界面活性剤としては非イオン性界面活性剤を1種または2種以上含有させることが、本外用医薬の安定な懸濁状態を維持する等、さらなる製剤の安定化を図る上で、好適である。
この非イオン性界面活性剤は、特に限定されず、外用組成物に含有させることが可能な非イオン性界面活性剤であれば、用いることができる。
例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエートのソルビタン脂肪酸エステル類、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン等のグリセリン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、プルロニック等のプルロニック型類等の親水性非イオン界面活性剤等が挙げられる。
本ゲル軟膏組成物に、非イオン性界面活性剤を含有させる場合の含有量は、ゲル軟膏剤の組成の0.1〜10.0質量%が好適であり、特に好適には、同0.5〜5.0質量%である。
【0024】
なお、本明細書においてゲル状基剤とは、外用医薬の懸濁状態を安定に保持することが可能な基剤を意味し、界面活性剤、粘着性高分子ポリマーおよび水を含んだ半固形状のものをいう。
【0025】
本ゲル軟膏剤には、その他、必要に応じて、外用組成物に一般的に含有され得る成分、例えば、上記成分以外の界面活性剤、清涼剤、抗酸化剤、キレート剤、吸収促進剤、粉末類、増粘剤、pH調整剤、防腐剤、香料、色剤等を、本発明の所期の効果を損なわない範囲で含有させることができる。また、これらの添加剤の添加については、特に不都合が起こらない限り、その製造工程のいずれの中間体においても可能である。
【0026】
本ゲル軟膏剤の形態は、半固形状の外用組成物であれば、特に限定されないが、各種材質のチューブ、各種材質のジャー容器、ローション容器、スプレー容器などが好適である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例及び試験例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、これにポリオキシエチレンラウリルエーテルを加えて均一にゲル状の基剤を製する。このゲル状基剤にN−メチル−2−ピロリドンに溶解したリドカインの溶液を攪拌しながら、少量ずつ添加していき微細なリドカインの懸濁ゲル軟膏組成物を調製する。
【0028】
(実施例2)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、これにポリオキシエチレンラウリルエーテルを加えて均一にゲル状の基剤を製する。このゲル状基剤に炭酸プロピレンに溶解したジブカインの溶液を攪拌しながら、少量ずつ添加していき微細なジブカインの懸濁状態を作り、最後に精製水に溶解した塩化ベンザルコニウムを加えゲル軟膏組成物を調製する。
【0029】
(実施例3)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、これにポリオキシエチレンオレイルエーテルを加えて均一にゲル状の基剤を製する。このゲル状基剤にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60に溶解したアミノ安息香酸エチルの溶液を攪拌しながら、少量ずつ添加していき微細なアミノ安息香酸エチルの懸濁ゲル軟膏組成物を調製する。
【0030】
(実施例4)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、これにポリオキシエチレンラウリルエーテルを加えて均一にゲル状の基剤を製する。このゲル状基剤にN−メチル−2−ピロリドン及び炭酸プロピレンに溶解したリドカインの溶液を攪拌しながら、少量ずつ添加していき微細なリドカインの懸濁状態を作り、最後に精製水に溶解した塩化ベンゼトニウムを加えゲル軟膏組成物を調製する。
【0031】
(比較例1:一般的に院内製剤として用いられている薬局製剤)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、これにポリオキシエチレンラウリルエーテルとともに乳鉢で粉砕しておいたリドカインを加えてゲル軟膏組成物を調製する。
【0032】
(比較例2)

精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散・膨潤させた後、精製水に溶解した水酸化ナトリウムで増粘させ、1,3−ブチレングリコールを加え、加温する。この水相にリドカインをオクチルドデカノール、モノステアリン酸グリセリン及びモノステアリン酸ポリエチレングリコールに加温して溶解した油相を加え、乳化させた後、冷却しリドカインクリーム剤とする。
【0033】
(比較品)市販リドカインテープ剤:ペンレス(登録商標、ワイス株式会社)
(リドカイン 18mgを含有するテープ剤(30.5×50.0mm))
【0034】
試験例1
実施例1および比較例1、2並びに比較品を用いてレーザー照射時の疼痛緩和効果を被験者の自己申告から評価した。
(試験方法)
試験部分を消毒用アルコールで清拭後、約15cmに実施例1および比較例1、2の各軟膏製剤約6.0gを塗布後、食品包装用ラップフィルム(サランラップ(登録商標))で密封包帯した。又、比較品を1枚貼付した。塗布又は貼付後30分に軟膏製剤またはテープ剤を除去し、レーザー照射を開始する。
(評価方法)
レーザー照射時の疼痛の程度により下記の4段階で評価する。
1:著効(痛くない)
2:有効(少し痛い)
3:やや有効(がまんできる程度に痛い)
4:無効(すごく痛い)
(評価結果)
被験者15名のうち、著効または有効の判定をした被験者の合計の割合を以下にまとめた。実施例1を用いた被験者においては、比較例1および2、並びにテープ剤である比較品を用いた被験者に比べ、顕著に疼痛緩和効果があった。
実施例1:80.0%(12/15)
比較例1:53.3%(8/15)
比較例2:33.3%(5/15)
比較品 :20.0%(3/15)
【0035】
試験例2
実施例1および比較例1、2を用いて使用性試験を実施した。5名のボランティアにより、試験品を背中に塗布することによりタレ落ちに関し評価を行った。
(試験方法)
試験部分を消毒用アルコールで清拭後、約15cmに実施例1および比較例1、2の各軟膏製剤約6.0gを塗布し、5分後タレ落ちを観察した。
(評価方法)
塗布部位から2cm以上下に移動した場合、タレ落ちあると判断した。
(評価結果)
各試験軟膏サンプルについて、5名の被験者のサンプルの液だれの結果を以下に示す。比較例1および2では液だれが観察されたが、実施例1では液だれは全く観察されなかった。
実施例1:5人中、一人も、タレ落ちが確認されなかった。
比較例1:5人中、一人にタレ落ちが確認された。
比較例2:5人中、すべてにタレ落ちが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)外用医薬;(2)炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せ;(3)界面活性剤;(4)付着性高分子ポリマーおよび(5)水を含み、懸濁状態であることを特徴とする、ゲル軟膏剤。
【請求項2】
外用医薬が局所麻酔薬である、請求項1のゲル軟膏剤。
【請求項3】
局所麻酔薬が、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカイン、ブピバカイン、プロピトカイン、アミノ安息香酸エチル、オキシブプロカイン、パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、メピバカイン、オキセサゼイン、およびピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチルからなる群から選択される1または2以上である、請求項2のゲル軟膏剤。
【請求項4】
懸濁状態中にある油滴が1〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかのゲル軟膏剤。
【請求項5】
外用医薬を、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、及び酸化エチレンの平均付加モル数が40以上である水と混和するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のいずれか1種またはそれらの組合せに溶解し、その溶液を別途調製した界面活性剤、粘着性高分子ポリマーおよび水を含んだゲル状基剤に加えて、外用医薬を懸濁状態にすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかのゲル軟膏剤を製造する方法。
【請求項6】
請求項5の方法で製造したゲル軟膏剤。

【公開番号】特開2009−286710(P2009−286710A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139098(P2008−139098)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(390002705)東興薬品工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】