説明

ゲル電解質電池の分離器

【課題】 製造工程等で陽極と陰極とに分けることが可能で、過充電等で電極の安全な取扱いをするのに必要なシャットダウン機能を備え、さらに、ゲル状ポリマーと微孔質膜との接着に十分な効果を有するゲル電解質電池の分離器を提供する。
【解決手段】 微孔質膜と、該微孔質膜の上にある接着性コーティングとを含んでなり、該接着性コーティングの表面密度が0.3mg/cm2未満であることとを特徴とする電池分離器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質電池の分離器に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量再充電式電池は、電気を動力とした多くの装置、例えば、携帯電話、ポケットベル、コンピュータ、及び電力工具などに使われている。一般的な再充電式電池はリチウムイオン電池である。商業的に今日手に入るリチウムイオン電池は、電解液を使用している。この電解液は有機系をベースにしている。次に、リチウムイオン電池は硬い「缶」に封じられており、電解液の漏れを防止している。この硬い缶の使用を止め、柔軟かつ軽量で漏れのない包装、例えば、金属で表面を被覆したプラスティック製又は薄い金属膜製のバッグを使用する方向へ進むことが望まれている。
【0003】
缶の使用を止めるために提案された一つの方法として、固体の電解質を使用する方法がある(米国特許第5,296,318号(特許文献1)、同第5,437,692号(特許文献2)、同第5,460,904号(特許文献3)、同第5,639,573号(特許文献4)、同第5,681,357号(特許文献5)、及び同第5,688,293号(特許文献6)を参照)。固体の電解質には二つのタイプがあり、固体電解質とゲル電解質である。これら二つのタイプのうち、電導性が優れている点で、ゲル電解質が好ましい。しかし、ゲル電解質は、構造的健全性を容易に提供できないため、例えば製造工程等で陽極と陰極とに分けることができないという欠点や、例えば過充電等で電極の安全な取扱いをするのに必要なシャットダウン機能を備えることができないという欠点がある。
【0004】
米国特許第5,639,573号(特許文献7)、同第5,681,357号(特許文献5)、及び同第5,688,293号(特許文献8)において、吸着性又はゲル状ポリマーと組み合わさった微孔質膜(又は不活性皮膜)を、分離器システムとして使用することを提案している。この分離器システムに電解質を注入した後、ゲル状ポリマーを処理(cure)することで、微孔質膜の周りにゲル状になった電解質が形成される。それによって、ゲル電解質は微孔質膜を含有することになり、ゲル電解質の構造的健全性が向上する。
【0005】
前述の電池の製造において、吸着性又はゲル状の皮膜が不活性皮膜から剥離又は分離を起こすことは有害である。したがって、ゲル状ポリマーに対する微孔質膜の接着力を改善することにより、製造工程における上記2つの構成要素が剥離又は分離することを減少させた新しい分離器が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,296,318号
【特許文献2】米国特許第5,437,692号
【特許文献3】米国特許第5,460,904号
【特許文献4】米国特許第5,639,573号
【特許文献5】米国特許第5,681,357号
【特許文献6】米国特許第5,688,293号
【特許文献7】米国特許第5,639,573号
【特許文献8】米国特許第5,688,293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に対して、製造工程等で陽極と陰極とに分けることが可能で、過充電等で電極の安全な取扱いをするのに必要なシャットダウン機能を備え、さらに、ゲル状ポリマーと微孔質膜との接着に十分な効果を有するゲル電解質電池の分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る電池分離器(battery separator)は、微孔質膜(microporous membrane)と、該微孔質膜上にあり表面密度(surface density)が0.3mg/cm2未満である接着性コーティング(adherent coating)とを含んでなることを特徴とする。また、本発明では、上記表面密度が0.05mg/cm2以上0.3mg/cm2未満の範囲であることもできる。さらにまた、本発明では、上記表面密度が0.1mg/cm2以上0.25mg/cm2以下の範囲であることもできる。また、本発明では、上記接着性コーティングが、ポリふっ化ビニリデン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、及び上記いずれかのポリマー又はそのモノマーを含んだ共重合体、及びこれらの混合物からなるグループから選ばれた1種類の活性成分(active ingredient)を含むことができる。さらに、本発明では、上記活性成分が、ふっ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であっても良い。この共重合体の構造は、一般的なランダム共重合体、一つの単量体が固まってある大きさのブロックを作っているブロック共重合体、及びホモポリマーにもう一つの単量体が枝状に重合したグラフト共重合体などを含むものである。また、本発明は、上述した電池分離器を備えた電池であっても良い。さらにまた、本発明では、上記電池がリチウムイオン電池であることもできる。
【0009】
本発明の別の側面として、本発明に係る電池分離器は、微孔質膜と該微孔質膜の上にある接着性コーティングとを含んでなり、該微孔質膜の表面エネルギーγmが該接着性コーティングの表面エネルギーγc以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明のさらなる別の側面として、本発明に係る電池分離器は、微孔質膜と該微孔質膜の上にあるゲル状コーティングとを含んでなり、該ゲル状コーティングが吸着性又はゲル状ポリマー(absorbing or gel-forming polymer)と可塑剤とを含んでなることを特徴とする。また、本発明では、上記可塑剤として、エステルを用いることができる。さらに、本発明では、上記エステルとして、フタル酸エステルを用いることができる。さらにまた、本発明では、上記フタル酸エステルとして、フタル酸ジブチル(DBP)を用いることができる。また、本発明は、さらなる別の側面の電池分離器を備えた電池であっても良い。さらに、本発明は、上記電池がリチウムイオン電池であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
上記したところから明らかなように、本発明によれば、製造工程等で陽極と陰極とに分けることが可能で、過充電等で電極の安全な取扱いをするのに必要なシャットダウン機能を備え、さらに、ゲル状ポリマーと微孔質膜との接着に十分な効果を有するゲル電解質電池の分離器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る電池の構造を説明する断面図である。
【図2】本発明に係るコーティングの特徴を表すグラフである。
【図3】本発明に係るコーティングの特徴を表すグラフである。
【図4】本発明に係るコーティングの特徴を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図中、同じ数字のものは、同じ構成要素であることを示す。図1に電池10を示す。電池10は陽極20と、陰極30と、その間にある電解質/分離器システム40とを含んでなる。電解質/分離器システム40は、微孔質膜(ミクロポーラス膜)42と、ゲル電解質44と、その間にある接着性コーティング46とを含んでなる。
【0014】
一般に、陽極と陰極を有する電池10はよく知られており、引用することで本明細書の記載の一部とするD. Linden (Ed.), "Handbook of Batteries, 2d", McGraw-Hill Inc. New York, (1995)、米国特許第5,296,318号、同第5,437,692号、同第5,460,904号、同第5,639,573号、同第5,681,357号、同第5,688,293号、および特願昭59−106556号(1984年5月28日出願)、特願昭61−265840号(1986年11月8日出願)で言及されている。電池は、リチウムイオン電池が好適であり、ゲル電解質を備えたリチウムイオン電池がさらに好適である。
【0015】
電解質/分離器システム40に言及すると、その利点は、微孔質膜42と電解質ゲル44の間にある接着性コーティング46を含有することである。ゲル状ポリマー(及び/又はゲル状ポリマーと電解質との組合せ)は、微孔質膜42から剥離する又は分離する傾向がある。したがって、微孔質膜42の表面に、ゲル状ポリマー(及び/又はポリマーと電解質との組合せ)を適用する前に、これらの間の結合を助けるため、微孔質膜42の表面に、接着性コーティング46が塗布される。
【0016】
微孔質膜42はどんな微孔質膜であっても良い。膜42はポリオレフィンから作られても良い。模範的なポリオレフィンは、以下の例に限定されないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)を含む。膜42は、ドライストレッチ方法(dry stretch process、セルガード方法(CELGARD process)としても知られている)、又は溶媒方法(ゲル押出し(gel extrusion)又は二相分離方法としても知られている)のどちらかによって作られても良い。膜42は以下の特徴;
(1)300sec/100cc以下の気体透過性(好ましくは200sec/100cc以下、さらに好ましくは150sec/100cc以下)と、
(2)5〜500μmの範囲の厚さ(好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm)と、
(3)0.01〜10μmの範囲の孔径(好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μm)と、
(4)35〜85%の範囲の多孔性(porosity)(好ましくは40〜80%)と、
を有しても良い。
【0017】
膜42は好ましくはシャットダウン分離器であり、例えば、ここに引用することで本明細書の記載の一部とする米国特許第4,650,730号、同第4,731,304号,同第5,281,491号、同第5,240,655号、同第5,565,281号、同第5,667,911号、米国出願第08−839,664号(1997年4月15日出願)、日本特許第2642206号、特願平6−98395号(1994年5月12日出願)、同平7−56320号(1995年3月15日出願)、英国特許出願第9604055.5号(1996年2月27日出願)を参照されたい。膜42は商業的に、セルガードLLC、Charlotte(NC, 米国)、旭化成工業(東京、日本)、東燃(東京、日本)、宇部興産(東京、日本)、及び日東電工(大阪、日本)から入手できる。
【0018】
ゲル電解質44は、ゲル状ポリマーと電解質との混合物である。電池製造工程では、電解質を含まないゲル状ポリマーが、微孔質膜42に塗布されても良く、また、ゲル状ポリマーと電解質との混合物が、膜42に塗布されても良い。ゲル状ポリマーの例として、以下の例に限定されないが、ポリふっ化ビニリデン(PVDF)、ポリウレタン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、及び上記いずれかのポリマー又はそのモノマーを含んだ共重合体、及びこれらの組み合わせが含まれる。電解質は、電池に使用するのに適当ないずれの電解質であっても良い。
【0019】
接着性コーティング46は、まず、膜42の表面、好ましくは膜42の外側表面及び孔の内側表面に塗布され、次に、膜42とゲル電解質44(又はゲル状ポリマー)との間に挟まれる。接着性コーティング46は、(例えば、孔を封鎖することによって)イオン電導度を悪化させることなく、そして、実質的に膜の厚さを増加又は膜の柔軟性を低下させることなく、膜42とゲル電解質44(又はゲル状ポリマー)との剥離を減少させる。本発明のこの点において、コーティング46はゲル状ポリマー皮膜(又はゲル電解質)に加えて使用されるものであって、それらの代用ではない。
【0020】
コーティング46は、活性成分と溶媒との希釈溶液の形態で膜42に塗布される。適した接着力を得るために、コーティング46は、0.3mg/cm2未満の範囲(好ましくは、0.05mg/cm2以上0.3mg/cm2未満の範囲、さらに好ましくは、0.1mg/cm2以上0.25mg/cm2以下の範囲)の表面密度を有するべきである。また一方では、コーティングの表面エネルギー(γc)が膜の表面エネルギー(γm)以下になるように、活性成分が選ばれる。例えば、典型的な膜材料として、ポリエチレン(γPE:約35〜36)及びポリプロピレン(γPP:約29〜30)が用いられる。例えば、A.F.M. Barton, "Handbook of Solubility Parameters, 2d.", C.R.C. Press, (1991), 第586頁を参照されたい。模範的な活性成分は、以下の例に限定されないが、ポリふっ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、及び上記いずれかを含んだ共重合体(例えば、PVDFを含んだ共重合体、より明確にはPVDF:HFP(HFPはヘキサフルオロプロピレン又はヘキサフルオロプロペン)共重合体)、及びこれらの混合物を含む。γPVDFは約32であり、γPVDF:HFPは25以下である。溶媒は、活性成分を溶解できるものから選ばれる。模範的な溶媒は、以下の例に限定されないが、有機溶媒、例えば、テトラヒドロフランと、メチルエチルケトン(MEK)と、アセトンとを含む。希釈溶液は、活性成分を10重量%未満含有するもので良い。図2〜4は、溶液(テトラヒドロフラン)中のPVDF:HFP共重合体の重量%に対して、表面密度(mg/cm2)、マクマリン数(MacMullin Number、米国特許第4,464,238号を参照)、及び接着度(adhesion)(ポンド/インチ)を示したものである。記号「×DBP」は、活性成分に対する可塑剤(DBP)の当量を表す。
【0021】
接着性コーティングを有する分離器を備えた電池の製造方法は、以下の工程;
(1)活性成分と溶媒との混合物で微孔質膜を被覆し、その後、分離器を乾燥することと、
(2)ゲル状ポリマーで分離器を被覆することと、
(3)アノードと被覆された分離器とカソードとをラミネートし、電解質を含まない電池を形成することと、
(4)上記電池を「バッグ」(例えば、缶の代用となる漏れのない柔軟な包装)の中に設置することと、
(5)上記バッグへ電解質を加えることと、
(6)電池を処理し、ゲル電解質を形成させ、それによって活性電池が形成されることと、を含んでなることができる。
【0022】
別の実施の形態として、ここに引用することで本明細書の記載の一部とする米国特許第5,639,573号、同第5,681,357号、及び同第5,688,293号で議論されている吸着性又はゲル状皮膜は、可塑剤を含有することによって改善される。可塑剤の第一の機能は、厚く被覆(すなわち0.3mg/cm2以上)された吸着性又はゲル状皮膜において、抽出フィルター(extractable filter)として働くものである。上記の厚く被覆された皮膜は、微孔質膜の孔を隠す又は孔の径を小さくする傾向があり、電導性を低下させてしまうため、上記皮膜において可塑剤が必要とされる。模範的な可塑剤としては、以下の例に限定されないが、エステル、例えば、フタル酸ジブチル(DBP)のようなフタル酸系エステルが用いられる。
【0023】
ゲル状ポリマーと可塑剤とのコーティングを有する分離器を備えた電池の製造方法は、以下の工程;
(1)ポリマーと可塑剤との溶媒和された混合物(solvated mixture)で微孔質膜を被覆することと、
(2)その後、分離器を乾燥することと、
(3)アノードと分離器とカソードとをラミネート(例えば加熱加圧)し、電解質を含まない電池を形成することと、
(4)可塑剤を(例えばメタノール等の適切な溶媒で抽出することにより)除去することと、
(5)「バッグ」の中に電池を設置することと、
(6)バッグへ電解質を加え、それにより活性電池が形成されることと、
を含んでなることができる。
【0024】
本発明は、本発明の思想又は基本的な特性から外れない限り、他の形態によって実施されても良い。したがって上述してきた発明の詳細な説明は、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲の通りである。
【符号の説明】
【0025】
10 電池
20 陽極(正極)
30 陰極(負極)
40 電解質/分離器システム
42 微孔質膜
44 ゲル電解質
46 接着性コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微孔質膜と、該微孔質膜の上にあり表面密度が0.3mg/cm2未満である接着性コーティングとを含んでなることを特徴とする電池分離器。
【請求項2】
上記表面密度が、0.05mg/cm2以上0.3mg/cm2未満の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の電池分離器。
【請求項3】
上記表面密度が、0.1mg/cm2以上0.25mg/cm2以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の電池分離器。
【請求項4】
上記接着性コーティングが、ポリふっ化ビニリデン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、及び上記いずれかのポリマー又はそのモノマーを含んだ共重合体、及びこれらの混合物からなるグループから選ばれた1種類の活性成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の電池分離器。
【請求項5】
上記活性成分が、ふっ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることを特徴とする請求項4に記載の電池分離器。
【請求項6】
請求項1に記載の電池分離器を備えた電池。
【請求項7】
リチウムイオン電池である請求項6に記載の電池。
【請求項8】
微孔質膜と該微孔質膜の上にある接着性コーティングとを含んでなり、該微孔質膜の表面エネルギーγmが該接着性コーティングの表面エネルギーγc以上であることを特徴とする電池分離器。
【請求項9】
微孔質膜と該微孔質膜の上にあるゲル状コーティングとを含んでなり、該ゲル状コーティングが吸着性又はゲル状ポリマーと可塑剤とを含んでなることを特徴とする電池分離器。
【請求項10】
上記可塑剤が、エステルであることを特徴とする請求項9に記載の電池分離器。
【請求項11】
上記エステルが、フタル酸エステルであることを特徴とする請求項10に記載の電池分離器。
【請求項12】
上記フタル酸エステルが、フタル酸ジブチルであることを特徴とする請求項11に記載の電池分離器。
【請求項13】
請求項9に記載の電池分離器を備えた電池。
【請求項14】
リチウムイオン電池である請求項13に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−282976(P2010−282976A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185334(P2010−185334)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【分割の表示】特願平11−8637の分割
【原出願日】平成11年1月18日(1999.1.18)
【出願人】(500108987)セルガード,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】