説明

ゲル電解質

【課題】室温付近において従来の液体電解質と同等の良好なイオン伝導度を有するゲル電解質を提供する。
【解決手段】固体電解質塩と、環状炭酸エステル類及びエチレンオキシド基を有するエーテル化合物を含む混合溶媒と、下記式(1)で表される化合物及びその類似化合物又はそれらの薬学的に使用可能な塩からなる脂質ペプチド型ゲル化剤とを含む、ゲル電解質。


(式中、R1は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R2は水素原子、又は炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R3は−(CH2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員環と6員環から構成される縮合複素環を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質に関し、詳細には、低分子脂質ペプチド型ゲル化剤を用いたイオン伝導性のゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型軽量化、ポータブル化に伴い、高電圧、高エネルギー密度という特徴を有するリチウム二次電池が注目を集め、特に、環境問題に対応した電気自動車向けなどの用途は非常に期待されている分野であり、研究開発が活発に行われている。こうした背景の中で、更なる高電圧、高エネルギー密度を実現できるようなリチウム二次電池への要求が今後ますます高まることが予想される。
【0003】
従来の電気デバイスの電解質としては、一般に液体電解質、特に有機電解液にイオン性化合物を溶解させたものが用いられている。例えばリチウム二次電池用の電解液(液体電解質)は、リチウム塩等の溶質と、非水溶媒からなり、非水溶媒には、高い誘電率を有すること、酸化電位が高いこと、及び、電池中で安定であることが要求される。こうした要求を一種類の溶媒で達成することは困難であるため、通常、一般に粘性が高い高誘電率溶媒と粘性低減のための低粘度溶媒とを組み合わせた混合溶媒の形態にて用いられている。
【0004】
しかしながら液体電解質は、電解液の外部への液漏れ、揮発、電極物質の溶出などの種々の問題が発生しやすく、自然放電といった、長期信頼性に劣るという問題がある。こうした問題点を解決するために、スチール製のパッケージが採用されているものがある。しかし、これはパッケージ重量が重くなるという別の問題を生じさせ、電子機器の軽量化、ポータブル化には向いていない。軽量なアルミニウムをパッケージ材料として使用するためには、電解液を非液状化させることが安全性の点から必要とされ、種々の検討が行われている。
【0005】
電解液を非液状化させる方法として従来より様々な方法が検討されており、大別すると下記2種の方法が挙げられる:
(1)電解液を高分子化合物でゲル化させる方法、すなわち電解液の流動性を無くしたゲル状ポリマー電解質とする方法、或いは、
(2)有機溶媒を全く使用しない電解質、あるいは、電解質合成時は低沸点の有機溶媒を使用するが、その後に加熱などにより、低沸点の有機溶媒を除去してしまう方法、すなわち高分子固体電解質とする方法。
このうち、ゲル状ポリマー電解質は、耐漏液性を含めた、安全性、貯蔵性に優れた電池を構成できるという利点を有する。
【0006】
これまでに提案されているゲル状のポリマー電解質としては、例えば、有機溶媒に難溶性のポリマーとポリアニオンポリマーを混合あるいは相溶してなるポリマーアロイフィルムと、有機溶媒からなるゲル状のポリマーアロイ電解質(特許文献1)、多孔性合成樹脂フィルムおよび/または合成繊維不織布に、活性光線で重合可能なモノマーあるいはマクロマー、非水系溶媒、および無機イオン塩からなる液状混合物を含浸させた後に、活性光線を照射することによりゲル化させる半固体高分子電解質膜(特許文献2)、さらに、リチウム塩と非水系溶媒とゲル化剤である高分子ポリマーとからなるリチウムイオン伝導性ゲル状電解質(特許文献3)などがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に提案されたポリマーアロイ電解質は、リチウムイオンの輸率は0.99と高いものの、イオン伝導度は、1.4×10-4S/cmと低く、電解質抵抗に起因する電圧損を避けるため、低電流での使用に限定される。
また特許文献2に提案された半固体高分子電解質膜や、特許文献3に提案されたリチウムイオン伝導性ゲル状電解質においても、10-4S/cm位のイオン伝導度が達成されてはいるものの、この値は従来の有機電解液を用いる液体電解質で得られる伝導度:10-3〜10-2S/cm位と比較した場合、十分な値であるとは到底言えない。
また、従来の有機電解液を単に非液状化(ゲル化)させようとしても、溶媒のみであればゲル化できたゲル化剤であっても、電解液に含まれるイオン性化合物(リチウム塩等)の存在などによりゲル化が困難であったり、また仮にゲル化できたとしても、その安定性や性能(イオン伝導度)の点から、満足な結果が常に得られるとは必ずしも言えず、新たな検討が必要とされていた。
【0008】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、従来の液体電解質において得られる、室温付近でおよそ2mS/cm以上のイオン伝導度を達成できる、ゲル電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、低分子脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩からなる脂質ペプチド型ゲル化剤と、固体電解質塩及び溶媒を含む系であって、溶媒として環状炭酸エステル類及びエチレンオキシド基を有するエーテル化合物の組み合わせを採用したものであっても、前記ゲル化剤によって容易にゲル形成され、しかも良好なイオン伝導性を有するゲル電解質となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、第1観点として、固体電解質塩と、溶媒と、下記式(1)乃至式(3):
【化1】

(式中、R1は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R2は水素原子、又は炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R3は−(C
2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員環と6員環か
ら構成される縮合複素環を表す。)
【化2】

(式中、R4は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R5乃至R7はそれぞれ独立して
水素原子、炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員
環と6員環から構成される縮合複素環を表す。)
【化3】

(式中、R8は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R9乃至R12はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員
環と6員環から構成される縮合複素環を表す。)で表される化合物又はその薬学的に使用可能な塩のうちの少なくとも一種からなる脂質ペプチド型ゲル化剤を含むゲル電解質であって、
前記溶媒が、環状炭酸エステル類及びエチレンオキシド基を有するエーテル化合物を含むことを特徴とする、ゲル電解質に関する。
第2観点として、前記溶媒が、更に鎖状炭酸エステル類を含むことを特徴とする、第1観点に記載のゲル電解質に関する。
第3観点として、前記環状炭酸エステル類が、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートである、第1観点に記載のゲル電解質に関する。
第4観点として、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物が、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの誘導体からなる群から選択される、第1観点に記載のゲル電解質に関する。
第5観点として、前記鎖状炭酸エステル類が炭酸ジメチル、炭酸ジエチル及び炭酸エチルメチルからなる群から選択される、第2観点に記載のゲル電解質に関する。
第6観点として、前記固体電解質塩は、リチウムイオン二次電池に使用可能な固体電解質塩からなることを特徴とする、第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載のゲル電解質に関する。
第7観点として、前記固体電解質は、LiN(SO2252、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF32、及びこれらの混合物からなる群から選択される、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載のゲル電解質に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゲル電解質は、従来の有機電解液を用いる液体電解質と同程度の伝導度、すなわち、室温付近では2mS/cm以上であり、低温環境下であっても1mS/cmを超える高いイオン伝導性を実現できる。
また、本発明のゲル電解質は、電解質がゲル状の形態を有していることから、電解液の外部への液漏れや揮発、電極物質の溶出という問題や、パッケージの重量化といった、従来の液体電解質に付随する問題点を解消することができる。
このため本発明のゲル電解質は、高電圧や高エネルギー密度、耐漏液性、長期信頼性、そして軽量性等が求められる燃料電池の固体電解質や、電池分野での電解質等として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、固体電解質塩と、溶媒と、前記式(1)乃至式(3)で表される化合物又はその薬学的に使用可能な塩のうちの少なくとも一種からなる脂質ペプチド型ゲル化剤とを含む、ゲル電解質に関する。
特に本発明は、上記脂質ペプチド型ゲル化剤が、良好なリチウムイオン伝導性と後述するSEI皮膜形成とを両立した電池特性的に好適である電解液組成に対して良好なゲル化能を示すことを見出したことにより、実現に至ったものである。
【0013】
前述のとおり、従来の液体電解質には、一般に粘性の高い高誘電率溶媒(例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル類、γ−ブチロラクトン等の環状カルボン酸エステル類など)と、低粘度溶媒(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、ジメトキシエタン等のエーテル類などとを組み合わせて使用されている。
これは、溶媒の比誘電率は溶媒中に溶解する溶質をカチオンとアニオンに解離する性質と関係し、溶媒の粘度は溶媒中のイオンの移動に対して粘性抵抗の形で影響を与えるため、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのような粘性の高い溶媒のみを電解液として用いた場合、イオンの解離には良い影響を与えるとみられる一方で、イオン伝導性は低くなることが予想される。また、特にエチレンカーボネートについては常温で固体であるため、例えば5℃以下程度の低温領域で用いられた場合、粘度が上昇するどころか、凝固してしまうことが考えられ、より一層イオン伝導性が低下することが懸念される。
そこで、粘性抵抗の低減を目的として、鎖状炭酸エステルやエーテル系の低粘度溶媒を組み合わせることにより、電解液の低粘度化、ひいてはイオン伝導性の向上が図られている。
【0014】
また、ある種の有機溶媒、例えばエチレンカーボネート系溶媒は、リチウム金属と反応してリチウム金属表面上に保護皮膜を生成するために、さらなる反応が制御され速度論的に安定状態となることが知られている。この保護皮膜をSEI(Solid Electrolyte Interphase)皮膜と称する。
リチウムイオン電池で使用される負極材用黒鉛材料の実用領域での放電容量は従来、300〜330mAh/gであったが、その改良が進められ近年では理論容量である372mAh/gに近い材料も開発されている。この放電容量は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション可能な量として規定した場合、黒鉛結晶が発達しているものほど高い値を示すと言うことができる。実際、天然黒鉛は人造黒鉛に比べて炭素の結晶性がすぐれ、コストも低く放電容量も高い値が得られる。
このような黒鉛系材料を使用する場合、充電時において黒鉛結晶が破壊されるという欠点を克服するために、初回の充電時にSEI皮膜を形成することが知られているエチレンカーボネート系の電解液を使用することが好ましいとされており、このように高性能の電池を得るという意味合いにおいて電解液(質)にエチレンカーボネート等の環状炭酸エステルの使用は重要なものとなっている。
【0015】
なお、エチレンオキシド構造が2以上結合したエチレンオキシド骨格を有するエーテル化合物は、該骨格内の近接する酸素原子とリチウムイオンが錯体を形成することが知られている(非特許文献1)。このため、エチレンオキシド骨格を有するエーテル系化合物の添加は、系中のリチウムイオンの濃度を向上させることによるイオン伝導度の向上が期待される。
【0016】
このように、SEI被膜を形成することでサイクル特性等の電池性能を向上させる役割を担う前記環状炭酸エステル類と、粘性の高い高誘電率溶媒としての側面も有する該環状炭酸エステル類の粘度を低減させ、電解質塩として含有するリチウム塩を解離させることで電解質自身のリチウムイオン伝導能を向上させる(電池の内部抵抗を軽減させる)役割を担うエチレンオキシド基を有するエーテル化合物との混合溶媒を、固体電解質塩を含んだ状態でゲル化できれば、ゲル電解質として非常に有用なものが期待できる。しかしながら、塩を含む液体のゲル化は、通常のゲル化剤を適用しても困難な場合が多い。
そして本発明者らは如何にしてゲル化させるかを種々検討した結果、特殊な工程を経ることなく容易にゲル化できること、そして単にゲル化できるだけでなく、得られたゲルが室温付近だけでなく低温下でも高いイオン伝導度を実現できるゲル化剤が、前記脂質ペプチド型ゲル化剤であることを見出し、本発明の完成に至った。
以下、各構成成分について説明する。
【0017】
[脂質ペプチド型ゲル化剤]
本発明において用いる脂質ペプチド型ゲル化剤としては、下記式(1)乃至式(3)で表される化合物(脂質ペプチド)又はその薬学的に使用可能な塩(疎水性部位である脂質部と親水性部位であるペプチド部とを有する低分子化合物)を用いることができる。
【化4】

【0018】
上記式(1)において、R1は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、好ましくは、
1は不飽和結合を0乃至2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基である
ことが望ましい。
1は及び隣接するカルボニル基で構成される脂質部(アシル基)の具体例としては、
ラウロイル基、ドデシルカルボニル基、ミリストイル基、テトラデシルカルボニル基、パルミトイル基、マルガロイル基、オレオイル基、エライドイル基、リノレオイル基、ステアロイル基、バクセノイル基、オクタデシルカルボニル基、アラキドイル基、エイコシルカルボニル基、ベヘノイル基、エルカノイル基、ドコシルカルボニル基、リグノセイル基、ネルボノイル基等を挙げることができ、特に好ましいものとして、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、ステアロイル基、オレオイル基、エライドイル基及びベヘノイル基が挙げられる。
【0019】
上記式(1)において、ペプチド部に含まれるR2は、水素原子、又は炭素原子数1若
しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表す。
上記炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基とは
、主鎖の炭素原子数が1乃至4であり、かつ炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得るアルキル基を意味し、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基などが挙げられる。
【0020】
上記R2は好ましくは、水素原子、又は炭素原子数1の分岐鎖を有し得る炭素原子数1
乃至3のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
炭素原子数1の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至3のアルキル基とは、主鎖の炭素原子数が1乃至3であり、かつ炭素原子数1の分岐鎖を有し得るアルキル基を意味し、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基又はsec−ブチル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、i−プロピル基、i−ブチル基又はsec−ブチル基である。
【0021】
上記式(1)において、R3は−(CH2)n−X基を表す。上記−(CH2)n−X基
において、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又
は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環式基若しくは6員環式基、又は5員環と6員環から構成される縮合複素環式基を表す。
上記R3を表す−(CH2)n−X基において、Xは好ましくはアミノ基、グアニジノ基、カルバモイル基(−CONH2基)、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又は
インドール基であり、より好ましくはイミダゾール基である。また、上記−(CH2)n
−X基において、nは好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
従って、上記−(CH2)n−基は、好ましくはアミノメチル基、2−アミノエチル基
、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルブチル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノブチル基、ピロールメチル基、4−イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基、又は3−インドールメチル基を表し、より好ましくは4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−グアニジノブチル基、4−イミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、さらに好ましくは4−イミダゾールメチル基である。
【0022】
上記式(1)で表される化合物において、脂質ペプチド型ゲル化剤として特に好適な脂質ペプチドとしては、以下の脂質部とペプチド部(アミノ酸集合部)から形成される化合物である。なおアミノ酸の略称としては、アラニン(Ala)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)を表す。:ラウロイル−Gly−His、ラウロイル−Gly−Gln、ラウロイル−Gly−Asn、ラウロイル−Gly−Trp、ラウロイル−Gly−Lys、ラウロイル−Ala−His、ラウロイル−Ala−Gln、ラウロイル−Ala−Asn、ラウロイル−Ala−Trp、ラウロイル−Ala−Lys;ミリストイル−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gln、ミリストイル−Gly−Asn、ミリストイル−Gly−Trp、ミリストイル−Gly−Lys、ミリストイル−Ala−His、ミリストイル−Ala−Gln、ミリストイル−Ala−Asn、ミリストイル−Ala−Trp、ミリストイル−Ala−Lys;パルミトイル−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gln、パルミトイル−Gly−Asn、パルミトイル−Gly−Trp、パルミトイル−Gly−Lys、パルミトイル−Ala−His、パルミトイル−Ala−Gln、パルミトイル−Ala−Asn、パルミトイル−Ala−Trp、パルミトイル−Ala−Lys;ステアロイル−Gly−His、ステアロイル−Gly−Gln、ステアロイル−Gly−Asn、ステアロイル−Gly−Trp、ステアロイル−Gly−Lys、ステアロイル−Ala−His、ステアロイル−Ala−Gln、ステアロイル−Ala−Asn、ステアロイル−Ala−Trp、ステアロイル−Ala−Lys。
【0023】
最も好ましいものとして、ラウロイル−Gly−His、ラウロイル−Ala−His-ミリストイル−Gly−His、ミリストイル−Ala−His;パルミトイル−Gl
y−His、パルミトイル−Ala−His;ステアロイル−Gly−His、ステアロイル−Ala−Hisが挙げられる。
【0024】
【化5】

【0025】
上記式(2)において、R4は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、好ましい具体
例としては、前出のR1で定義したものと同じ基が挙げられる。
上記式(2)において、R5乃至R7は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2)n
−X基を表し、且つR5乃至R7のうち少なくとも一つ以上が−(CH2)n−X基を表す
。nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原
子を1乃至3個有し得る5員環式基若しくは6員環式基、又は5員環と6員環から構成される縮合複素環式基を表す。ここでR5乃至R7の好ましい具体例としては、前出のR2
びR3で定義したものと同じ基が挙げられる。
【0026】
上記式(2)で表される化合物において、好適な脂質ペプチドとしては、以下の脂質部とペプチド部(アミノ酸集合部)から形成される化合物である。ミリストイル−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−Gln、ミリストイル−Gly−Gly−Asn、ミリストイル−Gly−Gly−Trp,ミリストイル−Gly−Gly−Lys、ミリストイル−Gly−Ala−His、ミリストイル−Gly−Ala−Gln、ミリストイル−Gly−Ala−Asn、ミリストイル−Gly−Ala−Trp,ミリストイル−Gly−Ala−Lys、ミリストイル−Ala−Gly−His、ミリストイル−Ala−Gly−Gln、ミリストイル−Ala−Gly−Asn、ミリストイル−Ala−Gly−Trp,ミリストイル−Ala−Gly−Lys、ミリストイル−Gly−His−Gly、ミリストイル−His−Gly−Gly、パルミトイル−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−Gln、パルミトイル−Gly−Gly−Asn、パルミトイル−Gly−Gly−Trp,パルミトイル−Gly−Gly−Lys、パルミトイル−Gly−Ala−His、パルミトイル−Gly−Ala−Gln、パルミトイル−Gly−Ala−Asn、パルミトイル−Gly−Ala−Trp、パルミトイル−Gly−Ala−Lys、パルミトイル−Ala−Gly−His、パルミトイル−Ala−Gly−Gln、パルミトイル−Ala−Gly−Asn、パルミトイル−Ala−Gly−Trp,パルミトイル−Ala−Gly−Lys、パルミトイル−Gly−His−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly。
【0027】
これらのうち、最も好ましいものとして、ラウロイル−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−His−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly、ステアロイル−Gly−Gly−Hisが挙げられる。
【0028】
【化6】

【0029】
上記式(3)において、R8は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、好ましい具体
例としては、前出のR1で定義したものと同じ基が挙げられる。
上記式(3)において、R9乃至R12は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子
数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2
n−X基を表し、且つR9乃至R12のうち少なくとも一つ以上が−(CH2)n−X基を表す。nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素
原子を1乃至3個有し得る5員環式基若しくは6員環式基、又は5員環と6員環から構成される縮合複素環式基を表す。ここでR9乃至R12の好ましい具体例としては、前出のR2及びR3で定義したものと同じ基が挙げられる。
したがって上記式(3)で表される化合物において、好適な脂質ペプチド型ゲル化剤として、特に好適な脂質ペプチドとしては、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−His−Gly、パルミトイル−Gly−His−Gly−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly−Gly、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His等が挙げられる。
【0030】
本発明において用いられる脂質ペプチド型ゲル化剤は、上記式(1)乃至式(3)で表される化合物(脂質ペプチド)又はその薬学的な使用可能な塩のうちの少なくとも一種からなり、ゲル化剤としてこれら化合物を単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明によるゲル電解質において、脂質ペプチド型ゲル化剤の割合は、得られるゲル電解質の総質量の0.1乃至30質量%、好ましくは、15乃至20質量%である。
【0032】
[固体電解質塩]
本発明において用いる固体電解質塩としては、リチウムイオン二次電池に使用可能な固体電解質塩が使用できる。具体例としては、LiN(SO2252[LiBETI]、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2
32、LiN(SO2252[LiTFSI]等やこれらの混合物が挙げられる。
本発明によるゲル電解質において、固体電解質塩は、得られるゲル電解質に0.01乃至2mol/kg、好ましくは、0.1乃至1mol/kgの濃度で用いられる。
【0033】
[溶媒]
本発明において、溶媒とは、該固体電解質塩を溶解すると共に前記脂質ペプチド型ゲル化剤をも溶解し、且つ、該ゲル化剤によってゲル化されるものであり、更に該固体電解質塩とゲル化剤の両者と反応することがないものを意味する。
そして本発明において、上記溶媒として環状炭酸エステル類及び前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物を必須として用いる。
本発明によるゲル電解質において、溶媒の割合は、得られるゲル電解質の総質量の30乃至98質量%、好ましくは、60乃至95質量%である。
【0034】
<有機溶媒>
本発明において、溶媒とは、該固体電解質塩を溶解すると共に前記脂質ペプチド型ゲル化剤をも溶解し、且つ、該ゲル化剤によってゲル化されるものであり、更に該固体電解質塩とゲル化剤の両者と反応することがないものを意味する。
本発明において、上記溶媒として、有機溶媒が使用できる。
本発明によるゲル電解質において、溶媒の割合は、得られるゲル電解質の総質量の30乃至98質量%、好ましくは、60乃至95質量%である。
【0035】
前記環状炭酸エステル類としては、エチレンカーボネート(炭酸エチレン、EC)及びプロピレンカーボネート(炭酸プロピレン、PC)が挙げられ、中でも、エチレンカーボネートが好適に使用される。
また、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物が、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの誘導体が挙げられ、これらは一種を単独で、あるいは二種以上を用いてもよい。中でも、前記エチレンオキシド基を2個以上有するエーテル化合物、すなわち、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)が好ましい。
【0036】
また本発明において、前記環状炭酸エステル及びエチレンオキシド基を有するエーテル化合物に加えて、第3の溶媒として鎖状炭酸エステル類を含んでいてもよい。
ここで第3の溶媒として好適に添加される鎖状炭酸エステル類としては、粘度が例えば粘度が1.9mPa・s以下の低粘性溶媒であれば、特に限定されることはない。このような低粘性溶媒の中でも特に、炭酸ジメチル(ジメチルカーボネート、DMC)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート、DEC)又は炭酸エチルメチル等が挙げられる。
【0037】
さらに本発明において、上記3種の溶媒に加え、第4の溶媒としてその他の溶媒を含んでいてもよい。
このようなその他の溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級脂肪族アルコール系溶媒;1,2−ジメトキシエタン(エチレングリコールジメチルエーテル)、1,2−ジエトキシエタン(エチレングリコールジエチルエーテル)等の前記エーテル化合物以外のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の脂肪族エステル又は脂肪族エステルエーテル系溶媒;そして、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。
その他溶媒は、溶媒全体の質量に対して0〜50質量%の割合であることが好ましい。
【0038】
上記環状炭酸エステル類及び前記エチレンオキシド基を有するエーテルを含む溶媒と、
固体電解質の好ましい組み合わせとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;トリエチレ
ングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiN(CF3
SO22の組み合わせ;ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ポリエチレングリコールジメチ
ルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わ
せ;ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiBF4の組み合わせ;トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネー
トの2種混合溶媒とLiBF4の組み合わせ;ジエチレングリコールジブチルエーテル、
エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiBF4の組み合わせ;ポリエチレングリコー
ルジメチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiBF4の組み合わせで
ある。
【0039】
これらのうちで特に好ましい溶媒と固体電解質の組み合わせとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ポリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートの2
種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;トリエチレングリコールジメチルエ
ーテル、エチレンカーボネートの2種混合溶媒とLiBF4の組み合わせが挙げられる。
ここで、エチレンカーボネートと前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物とからなる2種混合溶媒の好ましい配合割合としては質量%で10:90乃至90:10であり、より好ましくは25:75乃至75:25であり、最も好ましくは50:50である。
【0040】
また上記環状炭酸エステル類、前記エチレンオキシド基を有するエーテル及び第三の溶媒として鎖状炭酸エステル類を含む溶媒と、固体電解質の好ましい組み合わせとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;トリエチレングリコールジメチ
ルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレンカーボネ
ートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ポ
リエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ジエチレングリコールジエチル
エーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiBF4
組み合わせ;トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiBF4の組み合わせ;ジエチレングリコールジブチ
ルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiBF4
の組み合わせ;ポリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiBF4の組み合わせが挙げられる。
【0041】
これらのうちで特に好ましい溶媒と固体電解質の組み合わせとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22の組み合わせ;ポリエチレングリコールジメチルエーテル、エ
チレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiN(CF3SO22
組み合わせ;トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3種混合溶媒とLiBF4の組み合わせが挙げられる。
ここで、エチレンカーボネート、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物、そしてジエチルルカーボネートからなる3種混合溶媒の好ましい配合割合としては、エチレンカーボネートが全体の10質量%以上、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物が10質量%以上、残りがジエチルカーボネートであることが挙げられる。より好ましい配合割合は、エチレンオキシドが40質量%以上、前記エチレンオキシド基を有するエ
ーテル化合物が10質量%以上、残りがジエチルカーボネートであり、最も好ましい配合割合はエチレンカーボネートが50質量%以上、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物が12質量%以上、残りがジエチルカーボネートであることが挙げられる。
【0042】
[ゲル電解質]
本発明のゲル電解質は、種々の方法によって得ることができる。たとえば、前記脂質ペプチド型ゲル化剤と前記固体電解質塩を前記溶媒に加熱溶解し、混合物(キャスティング液)を得る。加熱溶解時の温度は、使用する溶媒の沸点以下であればよい。
次のこの混合物を、必要に応じて、例えば平滑な面に適当量を滴下、或いは、適当な型に注入した後、室温以下で冷却し、静置することにより、ゲル電解質を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例及び試験例を例に挙げて詳しく説明するが、本発明がこれらの例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例の記載において用いる略記号の意味は、次のとおりである。
<脂質ペプチド型ゲル化剤>
Pal−GH:N−パルミトイル−Gly−His(Gly:グリシン、His:ヒスチジン)
<溶媒1:環状炭酸エステル類>
EC:エチレンカーボネート
<溶媒2:エチレンオキシド基を有するエーテル化合物>
DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
TEGDME:トリエチレングリコールジメチルエーテル
H−MPM:ハイソルブMPM(商品名)(東邦化学工業(株)製、化合物名:ポリエチレングリコールジメチルエーテル 平均分子量240)
<溶媒3:鎖状炭酸エステル類>
DEC:ジエチルカーボネート
【0044】
[合成例1:脂質ペプチド(N−パルミトイル−Gly−His)の合成]
本実施例において、ゲル化剤として用いた脂質ペプチドは、以下に示す方法で合成した
500mLの4つ口フラスコに、ヒスチジン14.2g(91.6mmol)、N−パルミトイル−Gly−メチル30.0g(91.6mmol)、トルエン300gを投入し、塩基であるナトリウムメトキサイド 28%メタノール溶液35.3g(183.2mmol)を加え、油浴で60℃に加熱し1時間攪拌を続けた。その後、油浴を外し、25℃まで放冷し、この溶液をアセトン600gで再沈殿させ、濾取した。ここで得られた固体を、水600gとメタノール750gの混合溶液に溶解し、ここに6規定塩酸30.5ml(183.2mmol)を加えて中和し固体を析出させ、ろ過した。次に、得られた固体をテトラヒドロフラン120gと水30gの混合液に60℃で溶解させ、酢酸エチル150gを加え、60℃から30℃まで冷却した。その後、析出した固体をろ過した。さらに得られた固体を、テトラヒドロフラン120gとアセトニトリル60g溶剤中に溶解し、60℃に加熱し、1時間攪拌した後に冷却し、ろ過した。ここで得られた固体を水120gで洗浄し、ろ過後に減圧乾燥を行いN−パルミトイル−Gly−Hisフリー体(以下、単にN−パルミトイル−Gly−Hisとも称する)の白色の結晶、26.9g(収率65%)を得た。
【0045】
[ゲル電解質の作製]
表1に従って、各組成物(ゲル化剤、有機溶媒3種類又は2種類、固体電解質塩)をナス型フラスコに秤量した。ナス型フラスコを表1に示す所定温度にて所定時間加熱・撹拌し、淡黄色の溶液、もしくは懸濁液を得た。得られた溶液、もしくは懸濁液を円筒状のサ
ンプル瓶に挿入し、氷水中で放冷、ゲル形成の確認を行った。ゲル形成の確認(ゲル状電解の形成の確認)は、倒置法により行った。上記の方法に従って加熱及び冷却操作を行った各組成物を含む、円筒状のサンプル瓶を室温で倒置させ、ゲルが崩壊せずに、倒立状態を維持しているものを「ゲル形成:○」と評価した。得られた結果を表1に示す。環状炭酸エステル溶媒類を溶媒1、エチレンオキシド基を有するエーテル化合物系溶媒類を溶媒2、その他の溶媒を溶媒3として表中に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示す通り、溶媒として環状炭酸エステル類:EC、エチレンオキシド基を有するエーテル化合物:TEGDME、DEGDEE又はH−MPMを含み、またさらにその他の有機溶媒:DECを含む混合溶媒を用いた系(実施例1乃至実施例6)ではゲル化が確認された。
一方、溶媒として環状炭酸エステル類:ECとその他の有機溶媒:DEC(50:50(wt%))を混合した系(比較例1〜3)はゲル化できないかった。
【0048】
[イオン伝導度測定1]
表1に示す実施例1乃至実施例6及び比較例4及び比較例5のゲル組成に基づいて、[ゲル電解質の作製]と同様の方法で、ゲル電解質を作製した。
得られたゲル電解質を2枚のアルミニウム板で挟み、交流インピーダンス法(PARSTAT〔登録商標〕2273 Advanced Electrochemical System、Princeton Applied Resurch社製)を用いて、室温(25℃)でイオン伝導度を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例7乃至実施例10の結果はいずれも、比較例6と比べて高い電気伝導度を示す結果となった。
この結果は、環状炭酸エステル類に対する添加剤として、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物を含む混合溶媒の使用が、高いイオン伝導度を達成できる点を示すものであった。
【0051】
[イオン伝導度測定2]
表1に示す実施例1及び実施例2、並びに比較例4及び比較例5のゲル組成に基づいて、[イオン伝導度測定1]と同様にゲル電解質を作製し、また、同様の手順にて冷却状態(2℃)でイオン伝導度を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例13、及び実施例14の結果はいずれも、比較例8、及び比較例9と比べて高いイオン伝導度を示す結果となった。
この結果は、環状炭酸エステル類に対する添加剤として、前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物を含む混合溶媒の使用が、低温環境下においても、高いイオン伝導度を達成できる点を示すものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開平10−50345号公報
【特許文献2】特許第2715309号明細書
【特許文献3】特公平7−32022号公報
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】Henderson. W. A. J. Phys. Chem.B ,2006, 110, 13177−13183.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質塩と、溶媒と、下記式(1)乃至式(3):
【化1】

(式中、R1は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R2は水素原子、又は炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表し、R3は−(C
2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員環と6員環か
ら構成される縮合複素環を表す。)
【化2】

(式中、R4は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R5乃至R7はそれぞれ独立して
水素原子、炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員
環と6員環から構成される縮合複素環を表す。)
【化3】

(式中、R8は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R9乃至R12はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は5員
環と6員環から構成される縮合複素環を表す。)で表される化合物又はその薬学的に使用可能な塩のうちの少なくとも一種からなる脂質ペプチド型ゲル化剤を含むゲル電解質であって、
前記溶媒が、環状炭酸エステル類及びエチレンオキシド基を有するエーテル化合物を含むことを特徴とする、ゲル電解質。
【請求項2】
前記溶媒が、更に鎖状炭酸エステル類を含むことを特徴とする、請求項1に記載のゲル電解質。
【請求項3】
前記環状炭酸エステル類が、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートである、請求項1に記載のゲル電解質。
【請求項4】
前記エチレンオキシド基を有するエーテル化合物が、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載のゲル電解質。
【請求項5】
前記鎖状炭酸エステル類が炭酸ジメチル、炭酸ジエチル及び炭酸エチルメチルからなる群から選択される、請求項2に記載のゲル電解質。
【請求項6】
前記固体電解質塩は、リチウムイオン二次電池に使用可能な固体電解質塩からなることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のうち何れか一項に記載のゲル電解質。
【請求項7】
前記固体電解質は、LiN(SO2252、LiPF6、LiBF4、LiClO4、L
iAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF32、及びこ
れらの混合物からなる群から選択される、請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載のゲル電解質。

【公開番号】特開2012−186056(P2012−186056A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48919(P2011−48919)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】