説明

ゲージ板による屋根面積の算出方法

【課題】屋根の面積を簡単に測定できるようにする。
【解決手段】屋根4に円板状のゲージ板1を置いて撮影した画像に、矩形状の測定範囲を設定し、その矩形の対向する辺を延長して消失点αを設ける。この消失点αから消失線10を画面上のゲージ板1の両側a、cと中央b及びdを介して前記測定範囲の矩形の辺lと交わる点A、B、C、Dを設ける。こうすることで、前記ゲージ板1の両側a、cと中央bの点を射影する。この射影した点列abcdとABCDの複比は同じになる。したがって、この複比と前記ゲージ板1の寸法とから辺lの長さを算出できる。一方の辺lの長さが算出できれば、同様にして矩形の隣り合う辺lの長さを算出して、算出したlとlから屋根の面積を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射影幾何を用いたゲージ板による屋根面積の算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋根を撮影した画像からその大きさ(屋根面積)を算出する方法として、例えば(特許文献1)に示すようなものがある。
【0003】
この方法では、屋根面(例えば、切妻屋根ではあるが)に単位板を載せて撮影し、その撮影した画像データをディスプレイに表示させる。そして、その表示した画像の中から屋根の領域を抽出し(マウスなどでクリックして)、例えば、抽出された屋根面の水平方向の長さと、画像内の単位板の水平方向の長さとを比較する。
【0004】
すなわち、屋根面の水平方向の長さは、抽出された屋根面の画像の水平方向の長さを画像内の単位板の水平方向の長さで除した値に、補正係数を乗じることにより算出する。
【0005】
同様に、屋根面の流れ方向の長さは、抽出された屋根面の流れ方向の長さと、単位板の流れ方向の長さとを比較し、抽出した屋根面の画像の流れ方向の長さを画像内の単位板の流れ方向の長さで除した値に、補正係数を乗じることにより算出するというものである。
【0006】
ここで、補正係数は、単位板の水平方向の長さと流れ方向の長さの比とに対応して予め定められた係数である。また、この補正係数は、画像中における単位板との距離に応じて定まるもので、予め実験的に単位板と屋根面とを撮影して得られる画像中の距離と実際の距離とに基づいて定めるものである。
【0007】
したがって、この補正係数は、計測する屋根ごとに実験的に求めなければならないため、上記の単位板を用いた方法は手間がかかる。
【0008】
この問題を解決するため、(特許文献1)の第2実施形態には、屋根瓦の働き幅から、水平方向に配列された屋根瓦の数と、流れ方向に配列された屋根瓦の数とを算出することにより、屋根面の水平方向及び流れ方向の長さを求めることが記載されている。
【0009】
具体的には、デジタルカメラで撮影した屋根面の画像から水平方向と流れ方向の瓦の数をコンピュータがカウントするというものである。
【0010】
しかし、この方法では、瓦葺された屋根の大きさしか算出できない問題がある。
【0011】
この問題を解決する方法として、(特許文献1)の第3実施形態には、複数の撮影方向で撮影して得られた複数の画像を用いて屋根の大きさを算出する方法が記載されている。
【0012】
この方法では、図10に示すように、建物を正面から撮影した際の屋根の軒P1に対する仰角θ1と、屋根の棟P2に対する仰角θ2を求める。次に、建物を横方向から撮影した際の屋根の棟P2に対する仰角θ3(図示せず)を求める。これを画像B2の撮影距離L2と棟P2に対する仰角θ3とから距離B4を求め、それに撮影高さB1を加算して、棟P2の高さB5を求める。また、軒P1に対する仰角θ1と撮影距離L1とから距離B2を求め、それに撮影高さB1を加算して軒の高さB3を求める。さらに、軒P2の高さB5と棟P2に対する仰角θ2とから、画像Aの撮影位置と棟から地面に降ろした垂線の足との間の距離(L2+L1)を求める。
【0013】
これら得られた軒の高さB3と棟の高さB5と撮影距離L1と画像Aの撮影位置と前記(L2+L1)とから、屋根の軒P1の座標とP2の座標とが求められる。また、求めた屋根の軒P1の座標とP2の座標とから、屋根の軒P1とP2との間の距離L(屋根面の流れ方向の長さ)を求めることができる。
【0014】
一方、屋根の水平方向の長さは、実際に計測するか、撮影中心を軒の左端に合わせて撮影したときの撮影位置と、軒の右側に撮影中心を合わせて撮影したときの撮影位置との間の距離を実測することにより求める。
【0015】
このようにして、求めた屋根面の流れ方向の長さと、屋根の水平方向の長さとから屋根の面積を算出するというものである。
【0016】
【特許文献1】特開2004−45203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記の複数の撮影方向で撮影して得られた複数の画像を用いて屋根の大きさを算出する方法では、屋根を撮影した画像だけでは求められず実測値が必要である。すなわち、屋根面の流れ方向の長さを算出するためには、撮影画像の他に撮影距離L1と撮影距離L2の実測値を要する。また、屋根の水平方向の長さは、実際に計測するか、撮影中心を軒の左端に合わせて撮影した位置と、軒の右側に撮影中心を合わせて撮影した位置との間の距離を実測する必要がある。このように撮影以外に距離も測らねばならないので、手間が掛かって、時間もかかるため作業効率が悪い。
【0018】
そこで、この発明の課題は、撮影するだけで屋根の面積が算出できるようにして、手間を省き、時間を短縮して作業効率の向上が図れるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、この発明では、屋根に寸法が既知のゲージ板を置いて撮影し、その撮影した画像をディスプレイに表示して、その表示した画像の屋根に矩形状の測定範囲を設定し、設定した測定範囲の四隅に基準点を設け、前記基準点を設けた矩形の対向する辺を延長してその交点を消失点としたのち、前記消失点から画面上のゲージ板の両側と中央へ向けてそれぞれ消失線を設け、その各消失線と測定範囲の矩形の辺との交点を求めて、その交点間の画面上での長さとゲージの両側と中央間の実寸法とから複比に基づいて矩形の縦・横の辺の寸法を算出し、その算出した縦・横の辺の寸法から測定範囲の面積を算出するという構成を採用したのである。
【0020】
このような構成を採用することにより、屋根に矩形状の測定範囲を設定する。そして、設定した測定範囲の四隅に基準点を設け、前記基準点を設けた矩形の対向する辺を延長してその交点を消失点とする。こうして設けた消失点は、画像内の3次元空間中の平行線群の収束点なので、この点から消失線を画面上のゲージ板の両側と中央を介して前記測定範囲の矩形の辺と交わる点を設ける。こうすることで、前記消失線と矩形の消失線との交点に、前記ゲージ板の両側と中央の点を射影したことになる。このため、射影した矩形の辺の交点とゲージ板の点の複比は同じになるので、この複比と前記ゲージ板の寸法とから辺の長さを算出できる。こうして一方の辺の長さが算出できれば、同様にして矩形の隣り合う辺の長さを算出して、算出した縦と横の辺から屋根の面積を算出できる。
【0021】
このとき、ゲージ板を径が既知の円板で構成し、そのゲージ板を屋根に置いて撮影した画像をディスプレイに表示して、設定した測定範囲の矩形の対向する辺を延長して交点を消失点としたのち、前記消失点から画面上の円形のゲージ板の両側と中心へ向けてそれぞれ消失線を設け、その各消失線と測定範囲の矩形の辺との交点を求めて、その交点間の画面上での長さとゲージ板の両側と中心間の寸法とから複比に基づいて矩形の縦・横の辺の実寸法を算出し、その算出した辺の縦・横の寸法から測定範囲の面積を算出する。
【0022】
このような構成を採用することにより、ゲージ板は円形なので屋根に置いた際に、円形のゲージ板の両側に接する消失線と、円形のゲージ板の中心を通る消失線の間の距離は、どのような向きに置いても円板の半径となり一定になるので、屋根に置く向きによる誤差を生じない。
【0023】
ちなみに、ゲージ板が円形以外の形状、例えば正方形や長方形であると、それら四角形を屋根に設置した際に、設置した向きが四角形の各辺を測定範囲に設定した矩形の辺とが平行でないと、置いた向きによって両側に接する消失線と、中心を通る消失線の間の長さがまちまちとなるので計測に誤差を生じることがある。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、以上のように構成したことにより、撮影しただけで屋根の面積を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
この形態では、図1に示すようなゲージ板1とデジタル撮影手段2とを使用し、デジタル撮影手段2で撮影した画像データをコンピュータ(パソコン)3で処理して屋根面積を算出する構成となっている。
【0027】
ゲージ板1は、円板状のもので、木材、樹脂、金属など素材や色はどのようなものでも良いが、軽くて撮影したときに屋根と区別できるものであればよい。また、その寸法(径)は、サイズを大きくすれば精度の向上を図れるが、サイズが大きくなりすぎると後述のような撮影作業がし辛くなる。逆に、サイズが、小さくなりすぎると撮影作業は容易になるが、精度が低下する。したがって、ゲージ板1は、計測する屋根の大きさ、計測場所などに基づいて、経験や実験などにより最適な寸法のものを用いるのが良い。
【0028】
デジタル撮影手段2は、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの撮影した静止画像をデジタル画像ファイルとして出力できるものが好ましいが、これらに限定されるものではない。これ以外にフィルムカメラを使用して、撮影したものをスキャナなどでデジタル画像ファイルに変換するようにしてもよい。
【0029】
コンピュータ3は、ここでは、パーソナルコンピュータに面積算出用の処理プログラムを備えたもので、前記コンピュータは、デジタル撮影手段2から画像ファイルを取り込み、その取り込んだ画像を前記処理プログラムで処理することにより、屋根の面積を算出する。
【0030】
なお、実施形態では、面積の算出にパーソナルコンピュータを用いるが、これに限定されるものではない。これ以外にも、例えば、Webサーバに前記処理プログラムを搭載し、ネットワーク経由で使用するようにしても良い。
【0031】
この形態は、上記のように構成されており、次に、その動作を述べることにより、本願の
ゲージ板による屋根面積の算出方法について説明する。
【0032】
この方法では、図2のように、まず、面積を算出しようとする屋根4にゲージ板1を載置する。ゲージ板1の載置には、梯子を使って屋根4に持って上がっても良いが、図2のように、釣竿5などを使って屋根4に垂らすようにしてもよい。こうすることで安全に撮影ができる。このとき、撮影者は屋根面に対し真正面ではなく、左右どちらかに少し移動する。また、ゲージ板も撮影者と近い屋根4の端に接近させて置く方が、後述のように、消失線10を設けた際に誤差を少なくできる。このとき、ゲージ板1は、円形としたことにより、どのような向きに置いても、後述するようにゲージ板1の中心から消失線10との接線までの距離は半径となるので誤差を生じない。また、演算も楽にできる。
【0033】
ゲージ板1の載置ができると、次に、ゲージ板1を載置した屋根4をデジタル撮影手段2で撮影する。撮影は、画像内に算出しようとする屋根4の全体を写し込む。勿論その中にはゲージ板1が写し込まれていなければならない。
【0034】
このように撮影した画像は、コンピュータ3に取り込んで面積算出用の処理プログラムを実行する。前記処理プログラムは、本願の射影幾何を用いた算出方法により屋根4の面積を算出するもので、以下、その処理を説明することにより、本願のゲージ板1による屋根面積の算出方法を説明する。
【0035】
いま、処理プログラムを立ち上げると、コンピュータ3のディスプレイに、例えば図3のビューワ6が表示されるので、先程読み込んだ画像ファイルを開く。するとビューワ6には、撮影した屋根4の画像が表示されるので、矩形状の測定範囲を設定する。
【0036】
このとき、測定範囲の設定は、ビューワ6内の、図4のように、例えば、屋根の四隅イ、ロ、ハ、ニをクリックして指定する。すると、画像上の座標が入力され測定範囲を設定できるようにする。この座標の算出は、例えばマウスのカウンタなどを使用すれば容易に実現できる。
【0037】
また、こうして、測定範囲を設定すると、プログラムは、その測定範囲の四隅イ、ロ、ハ、ニを基準点とし、その基準点イ、ロ、ハ、ニを延長して交点α、βを求める。すなわち、前記基準点イ、ロ、ハ、ニを設けた矩形の対向する辺を、それぞれ延長して上下方向と左右方向に消失点α、βを算出する。この消失点α、βは、画像内の3次元空間中の平行線群の収束点なので、その各消失点α、βから画面上のゲージ板1へ向けて消失線10を設ける。
【0038】
消失線10は、円形のゲージ板1のそれぞれ両側に接するものと、中心を通るもの併せて3本を設ける。このとき、ディスプレイ上に表示されるゲージ板1は、例えば図5のように歪む。これは、前記ゲージ板1に遠近が生じたためで、歪みに応じて消失線10との交点で分割される矩形の辺の長さlも違ってくる。そこで、図5のように、ゲージ板1を囲む四角形を形成して対角線を設け、その交点bをゲージ板1の中心点と見なして消失点αとを結ぶ消失線10を設け、その消失線10を延長して、測定範囲の矩形の辺lとの交点を求めることで誤差を縮小するようにした。そして、その消失線10とゲージ板1の各消失線10と測定範囲の矩形の辺lとの交点A、B、Cを求める。こうすることで、前記消失線10と測定範囲の矩形の辺lとの交点に、前記ゲージ板1の両側と中央の点a、b、cを射影したことになる。また、図6のようにd点とD点を設けると、射影した矩形の辺lの交点A、B、C、Dとゲージ板1による点a、b、c、dの複比は同じになり、この複比と前記ゲージ板1の寸法とから辺lの長さを算出することができる。
【0039】
すなわち、図7に示すような点αを射影の中心として有向線分l上の4つの点列S、P、Q、Tを有向線分l上のS´、P´、Q´、T´に射影すると、
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

【0042】
いま、消失点αは無限遠点にあって各消失線10は並行である。また、ABCDはabcdを射影したものなので、前記ab、bc、cdを、図6の画像上から算出したゲージ板1の長さとし、AB、BCをゲージ板の半径として、CDを上記の式から求めれば、辺lの長さを求められる。
【0043】
すなわち、上記(1)式を変形して
【数3】

【0044】
こうしてCDの長さを算出するとADの長さは、AD=AB+BC+CDから算出できる。一方、図6のAから基準点イまでの長さは、例えばイ点をEとして同様の方法でEAを算出すれば、屋根の横方向(左右方向)の辺lの長さを算出できる。横方向の辺lの長さが算出できれば、同じようにして、消失点βを設けて、屋根の上下方向の辺lの長さを算出し、算出した縦と横の辺lとlを掛け合わせれば屋根の面積を算出できる。
【0045】
このように、屋根4にゲージ板1を置いて撮影するだけで面積を算出できる。そのため、実測定の手間を省き作業効率も向上させることができる。
【0046】
ちなみに、図9のように、屋根の形状が四角形と異なる場合でも、四角形に分ければ算出できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、屋根の面積を簡単に測定できる。また、ゲージ板も円板なので位置決め精度がいらないので、例えば釣竿などで配置することができ、屋根に上る必要がなく、安全に撮影ができる。そのため、例えば、屋根面に設置可能な太陽電池モジュールの数や配置を決定する際の設計支援などに使用するのに最適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態の構成を示すブロック図
【図2】実施形態の作用説明図
【図3】実施形態の作用説明図
【図4】実施形態の作用説明図
【図5】実施形態の作用説明図
【図6】実施形態の作用説明図
【図7】実施形態の作用説明図
【図8】他の態様を示す作用説明図
【図9】他の態様を示す作用説明図
【図10】従来例の作用説明図
【符号の説明】
【0049】
1 ゲージ板
2 デジタル撮影手段
3 コンピュータ
4 屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根に寸法が既知のゲージ板を置いて撮影し、その撮影した画像をディスプレイに表示して、その表示した画像の屋根に矩形状の測定範囲を設定し、設定した測定範囲の四隅に基準点を設け、前記基準点を設けた矩形の対向する辺を延長してその交点を消失点としたのち、前記消失点から画面上のゲージ板の両側と中央へ向けてそれぞれ消失線を設け、その各消失線と測定範囲の矩形の辺との交点を求めて、その交点間の画面上での長さとゲージの両側と中央間の実寸法とから複比に基づいて前記測定範囲の矩形の縦・横の辺の寸法を算出し、その算出した辺の縦・横の寸法から測定範囲の面積を算出するゲージ板による屋根面積の算出方法。
【請求項2】
上記ゲージ板を径が既知の円板で構成し、そのゲージ板を屋根に置いて撮影した画像をディスプレイに表示して、設定した測定範囲の矩形の対向する辺を延長して交点を消失点としたのち、前記消失点から画面上の円形のゲージ板の両側と中心へ向けてそれぞれ消失線を設け、その各消失線と測定範囲の矩形の辺との交点を求めて、その交点間の画面上での長さとゲージ板の両側と中心間の寸法とから複比に基づいて前記測定範囲の矩形の縦・横の辺の実寸法を算出し、その算出した辺の縦・横の寸法から測定範囲の面積を算出する請求項1に記載のゲージ板による屋根面積の算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−32551(P2008−32551A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206654(P2006−206654)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(593120431)岡村印刷工業株式会社 (3)