説明

ゲート装置

【課題】通常利用者と通行弱者が混在して通行する場合に通行弱者を正確に検知して通行弱者に適した通行制御を実行し、接触や転倒事故を避けるゲート装置を提供する。
【解決手段】ゲート装置は、入出場情報読取り装置(52,53)と、入出場読取り装置の読取り動作を制御する入出場制御手段51とを備え、さらに、通行者の移動跡を圧力分布データとして検出する圧力分布センサ61と、圧力分布データに基づき識別対象領域に係る累積圧力分布データを生成する圧力分布データ管理部70と、識別対象領域に係る累積圧力分布データに基づいて通行者が通行弱者であるか否かを判断し、通行弱者であるときには入出場制御手段に通行弱者検出信号を与える通行弱者検出部80を備え、入出場制御手段は、通行弱者検出手段から通行弱者検出信号を受けたときに、入出場読取り装置の読取り動作を一定期間停止させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲート装置に関し、特に車椅子利用者や松葉杖利用者等の移動速度の遅い通行弱者を確実に検知して当該通行弱者の通行の安全を確保するのに好適な自動改札機等のゲート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば従来の自動改札機での通行制御では、利用者の特性には関係なく、同じ一定条件で制御を行っている。従って、自動改札機の改札通路を通行する利用者が車椅子利用者や松葉杖利用者等である場合には、進む速度が遅いので、通り抜けるまでに時間がかかる。このように、自動改札通路等のゲート装置での入出場の通行に関して、通常の利用者(健常者)に比して通行速度が遅いため通行により時間を要する者を、以下では「通行弱者」と記すことにする。本来的に、通行弱者が自動改札機を利用する場合には、通行弱者に応じた通行制御が望ましい。何故なら、同じ条件の通行制御に基づく場合、移動速度の異なる通行弱者と通常の利用者の間で接触等の問題が起きるからである。
【0003】
自動改札機の改札通路内で利用者同士の接触を避けるためには、利用者同士の間隔をできるだけ開けることが望ましい。例えば、ICカード読取り装置(ICカードタッチ部)、磁気カード読取り装置の受付け動作を一定時間遅らせるようにシステムを設定することにより、常に、或る利用者が自動改札機の改札通路に進入してから当該一定時間経過しないと、後続の次の利用者の受付けを行わないとすることで、或る利用者と次の利用者との間隔を広げることができる。しかし、このようなシステム設定では、自動改札機の改札能力を低下させることになり、改札処理効率が悪くなる。従って、本来的には、利用者が通行弱者であるということを判断したときのみに、後続の利用者との間隔を開ける制御を行って利用者同士の接触を減少させることが望ましい。
【0004】
通行弱者か否かを判断する従来の関連技術としては下記の特許文献1,2に記載された技術が存在する。
【0005】
特許文献1に記載された物体検出方法等は、交通弱者(交差点や横断歩道を移動する場合の視覚障害者や車椅子利用者等)を、遠方の距離からも精度良く検出することができるようにする方法等であり、移動物体に設けた光反射物体にパルスレーザを当て、反射光として戻って来るまでの時間で、光反射物体までの距離と光反射物体からの反射光強度とに基づいて移動物体を検出する構成を有している。この構成では、移動物体に光反射物体を備えていていないと、検出を行うことができないという問題がある。また交差点や横断歩道での移動を想定しているので、システム的に遠隔距離での検出を行う構成を有し、比較的に距離が短い範囲での自動改札機での検出に整合しないシステムである。
【0006】
特許文献2に記載された車椅子対応自動改札機は、自動改札機の改札通路の床面にマットセンサを敷設し、改札通路の通行時に利用者がマットセンサの上を移動することで生じるマットセンサの出力信号に基づいて、車椅子か否かを検出するようにしている。しかし、この車椅子対応自動改札機では、検出の手法として、検出したセンサ信号のパターンを標準テンプレートと比較する手法が記載されているだけであり、松葉杖利用者や棒状杖利用者等も含めた上記の通行弱者を検出できるか否かついての言及はなく、そのの有効性については不明である。自動改札機での改札のための通行では、すべての通行弱者が正確に検出し得ることが望まれる。
【0007】
なお、本願発明に関連する従来技術として、感圧センサを利用して入出場者の正確な人数を判断できるように構成されたゲート装置として特許文献3に記載された従来の技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−194617号公報
【特許文献2】特開平9−212693号公報
【特許文献3】特開2010−204768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した通り、車椅子利用者や松葉杖利用者等の通行弱者は、通常の利用者と比較すると、その移動速度が遅いので、同じ距離の改札通路では例えば2〜3秒余分に時間がかかる。従って、駅の自動改札機の改札通路を利用者が移動する場合であって通常の利用者による移動と通行弱者による移動とが混在する場合には、通行弱者に続いて通常の利用者が移動すると、通常の利用者がその前方の通行弱者に気づいていないと、移動速度の違いから利用者同士が接触してしまう可能性がある。このような接触状態が生じると、さらに転倒事故等の二次的な問題が発生する。
【0010】
そこで、近年の自動改札機等のゲート装置での通行制御(または入出場管理)では、通行弱者のすべて(車椅子利用者、松葉杖利用者、棒状杖利用者等)について通行弱者であるか否かを高い精度で迅速に検出して、後続する通常の利用者の通行制御に反映させることが望まれている。
【0011】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、通常の利用者と通行弱者とが混在して通行する場合において、装置システム側で通行者が通行弱者であることを正確に自動検知して通行弱者に適した通行制御(入出場管理)を実行し、当該通行弱者と通常の利用者との接触や転倒事故を避け、通行弱者にとって安全な通行を確保することができるゲート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るゲート装置は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0013】
第1のゲート装置(請求項1に対応)は、
通路を通過する通行者が所持する入出場媒体との間で通行情報の送受を行う入出場情報読取り装置と、入出場読取り装置の読取り動作を制御する入出場制御手段とを備えるゲート装置において、
通路に進入する通行者の移動跡を圧力分布データとして検出する圧力分布センサと、
圧力分布センサから出力される圧力分布データに基づき識別対象領域に係る累積圧力分布データを生成する圧力分布データ管理手段と、
圧力分布データ管理手段から与えられる識別対象領域に係る累積圧力分布データに基づいて通行者が通行弱者であるか否かを判断し、通行弱者であるときには入出場制御手段に通行弱者検出信号を与える通行弱者検出手段と、を備え、
入出場制御手段は、通行弱者検出手段から通行弱者検出信号を受けたときに、入出場読取り装置の読取り動作を一定期間停止させるように構成される。
【0014】
上記のゲート装置では、駅の改札口に設置された自動改札機や公共施設のセキュリティーゲート等において、その入出場のための通路を通過する通行者に関して、通行弱者であるか否かを、通行者の移動跡を圧力分布データとして検出することにより判別し、通行者が通行弱者と判別されたときには後続の通行者の入場等のための読取り動作を一定期間停止することにより遅らせ、これにより通行弱者と後続の通常の利用者との間を開けて衝突等を防ぐようにする。
【0015】
第2のゲート装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、圧力分布データ管理手段は、圧力分布センサの全検出可能対象領域から識別対象領域を検索する識別対象領域検索手段と、識別対象領域検索手段が検索した識別対象領域について累積圧力分布データを求める累積圧力分布データ更新手段を有することを特徴とする。
上記の構成によれば、通行者の足跡(靴跡)、杖先端部の接触跡、車輪の移動跡等に対応する識別対象領域を設定してその圧力分布データを求め、さらに当該圧力分布データを、移動の時間経過に伴って所要の一定時間で累積演算で更新して求めるようにしたため、高い精度で圧力分布データを求めることができ、その後の判別の有効性を高めることができる。
【0016】
第3のゲート装置(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、通行弱者検出手段は、識別対象領域に係る累積圧力分布データからガウス混合分布の特徴情報を求めるガウス混合分布算出手段と、ガウス混合分布算出手段から提供されるガウス混合分布の特徴情報を用いてガウス混合分布の分布形状を判断し、この分布形状から通行弱者であるか否かを判断する分布形状判別手段を有することを特徴とする。
上記の構成によれば、足跡(靴跡)のみが残る通常の利用者の当該足跡(圧力分布データに関して2峰性のガウス混合分布)と、松葉杖等を利用する通行弱者の移動跡(圧力分布データに関して単峰性のガウス分布を含む)との差異が顕著に抽出・判別することができ、通弱者であるか否かを高い精度で迅速に検知することができる。
【0017】
第4のゲート装置(請求項4に対応)は、上記の構成において、好ましくは、分布形状判別手段は、ガウス混合分布の分布形状が単峰性を有するときに通行者が通行弱者であると判別することを特徴とする。
【0018】
第5のゲート装置(請求項5に対応)は、上記の構成において、好ましくは、入出場情報読取り装置がICカード読取り装置と磁気券読取り装置のいずれか一方または両方であり、入出場管理装置が改札制御手段であり、自動改札機として機能することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自動改札機やセキュリティーゲート等のゲート装置の通路を通常の利用者と通行弱者とが混在して通行する場合において、通行者の移動跡を圧力分布データとして検出する圧力分布センサと、圧力分布データに基づき識別対象領域に係る累積圧力分布データを生成する圧力分布データ管理手段と、識別対象領域に係る累積圧力分布データに基づいて通行者が通行弱者であるか否かを判断し、通行弱者であるときには入出場制御手段に通行弱者検出信号を与える通行弱者検出手段とを備え、通行弱者検出手段から通行弱者検出信号を受けた入出場制御手段は、入出場読取り装置の読取り動作を一定期間停止させるようにしたため、通行弱者とこれに続く通常の利用者との間の距離を大きくすることができ、通行弱者と通常の利用者との接触や転倒事故を避け、通行弱者にとって安全な通行を確保することができる
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】自動改札機の改札通路に進入する通行者に応じた足跡(靴跡)等の各種のパターン(A)〜(E)を示す概略的な平面図である。
【図2】2通りの人間の足跡(靴跡)の場合の圧力分布の形状(A),(B)を示す図である。
【図3】人間の足跡(靴跡)以外のもの(車輪、杖先端部)の跡の場合の圧力分布の形状(A),(B)を示す図である。
【図4】ガウス混合分布による圧力分布の2峰性と単峰性の判別の例を説明するための図である。
【図5】通行者の足跡(靴跡)マークとそれに対応する圧力分布との組みからなる4つの状態図である。
【図6】通常の歩行時における圧力分布の推移の例を説明する図である。
【図7】本実施形態に係る自動改札機の通行制御システムと通行弱者判別システムの構成を示すブロック図である。
【図8】本実施形態に係る自動改札機の通行制御および通行弱者判別の処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】通行弱者検出の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明に係るゲート装置の代表的な例として自動改札機の実施形態を説明する。自動改札機は、駅構内の改札口に設置され、鉄道の電車に乗降する旅客を改札のための通行制御する機械である。自動改札機内には通行制御システムが備えられている。本実施形態に係る自動改札機によれば、さらに、改札通路を通行しようとする者(旅客)が、健常者つまり通常の利用者であるかまたは通行弱者であるかを判断するシステムを備える。当該判断システムが通行者は通行弱者であると判断した場合には、通行制御システムは、通行制御を通常の利用者の場合の通行制御に比較して変更し、通行弱者と後続する通常の利用者との間の距離が大きくなるようにする。例えば、通行弱者と判断された場合には、予め設定された一定時間を経過しないとICカード読取り装置(ICカードタッチ部)や磁気券読取り装置の受付動作が行われないようにする。これにより通行弱者と通常の利用者との間の間隔を広くし、さらにこれにより衝突を防ぐ。
【0023】
ここで「通行弱者」とは、例えば、車椅子利用者、松葉杖利用者、棒状杖利用者等のごとく、通常の利用者に比較して、通行速度が遅く、改札通路の通行に時間がかかる者のことを意味している。
【0024】
改札通路の通行者が、通行弱者であるかまたは通常の利用者であるかを判断するシステムは、自動改札機の改札通路の入口前の箇所で通行者の判別(識別)を行う。その判別の考え方(原理)を図1〜図6を参照して説明する。
【0025】
先ず図1を説明する。図1は、自動改札機10の改札通路11の入口11Aの手前の領域における各種の通行者の足跡等について、いくつかのパターン(A)〜(E)を示している。自動改札機10は、平行に設置された2つの改札機本体10A,10Bによる概略的な平面図として示されおり、改札通路11は平行な2つの改札機本体10A,10Bの間に形成されている。図1中で、改札通路11の下側の端部が入口11Aに設定されている。左側の4つのパターン(B)〜(E)は基本的なパターン(A)に対する対比として示されている。
【0026】
図1において、パターン(A)は通常の利用者の通常歩行に基づくパターンであり、左右の靴による等間隔の足跡(靴後)21から形成される。パターン(B)はキャリーバックを持った通常の利用者の歩行に基づくパターンであり、通常歩行の足跡21と併せてキャリーバックの車輪による2つの直線状軌跡22が生じている。パターン(C)は松葉杖利用者のパターンであり、片足の足跡21と左右の松葉杖の先端部の跡23とから形成されている。パターン(D)は棒状杖利用者のパターンであり、左右の足の足跡21と1本の棒状杖の先端部の跡24とから形成されている。パターン(D)は車椅子利用者のパターンであり、左右の車輪間隔が異なる前輪の軌跡25と後輪の軌跡26とから形成されている。以上のパターン(A)〜(E)で明らかなように、通行者が、通常歩行(通常の利用者による歩行)、キャリーバックを持った通常の利用者、松葉杖利用者、棒状杖利用者、車椅子利用者で、それぞれ異なるパターンとなる。従って、自動改札機10の改札通路11の入口11A側の床面において実線で示す領域27に圧力に感応するマットセンサを配置すれば、これらのパターン(A)〜(E)をマットセンサ上での圧力分布データとして検出することができ、これにより改札通路11に進入しようとする通行者がどのようなタイプの利用者であるかを進入する前の段階で判別することができる。以下の説明では、特定の領域27の部分を「マットセンサ27」と記す
【0027】
上記の圧力分布を検出することができる平面形状が長方形のマットセンサ27それ自体は、マット状部材の内部に格子状に配列して設けられた複数の圧力センサを利用して構成されており、公知の圧力分布検出手段である。但し、本実施形態に係る自動改札機10において利用する場合に、マットセンサ27から取り出されるその上面における圧力分布のデータに基づいて通行弱者の検出を高い精度で正確に行うことが必要であるため、マットセンサ27から与えられる圧力分布データを処理部で処理することに関して、実際には、靴による足跡か、車輪による移動軌跡か、杖の先端部による跡かについての判別では次のような処理が行われる。
【0028】
マットセンサ27から得られる圧力分布データにおいて、人間の足跡(靴後)以外のものから発生した圧力データが検出される場合には、原則的に通行弱者であるとみなす。キャリーバックを有する通常の利用者の場合でも、実際には、何も持たない場合の通常の利用者と比較して通行に要する時間がかかると予想される。従って通行弱者と同じ取扱いにすることが望ましい。
【0029】
人間の足跡(靴跡)の場合の圧力分布の形状には図2の(A),(B)のようになる。図2において(A)は女性のハイヒール31による足跡の圧力分布32を示し、(B)は通常のシューズ等33による足跡の圧力分布34を示している。図示された圧力分布32,34では、下方に行くほど圧力が高いことを意味している。いずれも、歩いているときには、最初に踵部分で接触し、次に前部分も接触し、最後につま先部分で蹴るように移動する。従って、時間の経過を考慮してその特徴を大きく把握すると、圧力分布32,34の各々では2つの峰部分(または谷部分)32a,34aを有するように圧力分布が形成されるということになる。
【0030】
他方、人間の足跡(靴跡)以外のものの跡の場合の圧力分布の形状は図3の(A),(B)のようになる。図3において、(A)は車輪35の移動(矢印方向D1)による圧力分布36を示し、(B)は杖先端部37による圧力分布38を示している。圧力分布36では車輪35の回転移動の範囲において1つのなだらかな峰を有するように圧力分布が形成され、圧力分布38では杖先端部37が当たった狭い箇所のみが1つの尖った峰を有するように圧力分布が形成される。このような単峰の形状を有する圧力分布36,38が検知されたとき、利用者が通行弱者であるとみなすことができる。
【0031】
上記のように、通行弱者を判別するためには、マットセンサ27で検出される圧力分布のデータに基づいて当該圧力分布の形状を正確に識別し判別することが必要となる。この例の場合には、通常の利用者の足跡(靴跡)の場合には多峰(2峰)の分布形状を有した圧力分布であり、通行弱者の跡の場合には、足跡の圧力分布の他に、単峰の分布形状を有した圧力分布が含まれることになる。従って、マットセンサ27から出力される圧力分布に係る信号(データ)について、当該圧力分布の形状が単峰の形状を有するか否かを調べることにより通行弱者であるか否かを識別し、判別することができる。
【0032】
本実施形態では、圧力分布形状が単峰形状を有するか否かについての判別のための演算処理は次の手順で行われる。
上記の判別にはガウス混合分布モデルが用いられる。ガウス混合分布モデルは複数のガウス分布からなる分布であり、ガウス分布を下記の(数1)で表すとき、ガウス混合分布は下記の(数2)となる。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
上記の(数2)において、Kは混合数、πkは混合計数、μkは平均、Skは共分散行列を表す。また、この場合のガウス分布は2次元であるので、m=2となる。混合数が1の場合には単峰となり、2の場合には2峰となる。従って、混合数を1とした場合と、混合数を2とした場合の適合度合いが高い方を選ぶことで、単峰であるかどうかを調べることができる。「適合度合い」は下記の(数3)で示される式で表される尢度によって求めることができる。
【0036】
【数3】

【0037】
上記の(数3)において、Nは圧力分布からサンプリングされた点数(データ数)を表している。
【0038】
図4にガウス混合分布による圧力分布の2峰性と単峰性の判別の一例を示している。図4の(A)は、マットセンサ27の検出信号として得られた圧力分布の形状である。この図4(A)の圧力分布に対して、図4の(B)は混合数1(K=1)で得られるガウス混合分布を示し、図4の(C)は混合数2(K=2)で得られるガウス混合分布である。この場合、混合数2のときの適合度合いが高くなり、図4の(A)の圧力分布は2峰形状と判断され、人間の足跡による圧力分布であると認識される。同様にして、マットセンサ27の検出信号として得られた圧力分布が、混合数1のときの適合度合いが高くなる場合には、当該圧力分布は単峰形状として判断され、人間の足跡以外のものによる圧力分布であると認識される。
【0039】
上記のごときガウス混合分布モデルを利用した処理演算に基づく判別によって、マットセンサ27から得られた圧力分布が単峰形状を有するか否かを判別する。こうしてマットセンサ27から得られた圧力分布により単峰形状と判断され、自動改札機10の改札通路11を通行しようとしている者が通行弱者であると判断された場合、当該通行弱者の次の通行者に対しては通行間隔が広くなるようにICカード読取り装置(ICカードタッチ部)および磁気券読取り装置の動作を一時的に停止させ、改札処理を遅らせる。こうすることにより、次の通行者は、通行弱者に接近して通行することはできなくなるので、通行速度の違いが生む接触事故の可能性を大幅に低減することができる。
【0040】
所定の平面領域上で生じる圧力分布を検出することのできるマットセンサ27から出力される圧力分布信号は、データ化され、圧力分布に係るデータは処理装置のメモリに累積される。一定時間の間、圧力がゼロの状態にある領域の累積圧力分布データが判別の対象となる。図5に累積圧力分布の一例を示す。
【0041】
図5では、通行者の足跡(実際には靴跡)マーク41とそれに対応してマットセンサ27が検出する圧力分布42との組みからなる4つの状態図(A)〜(D)が示されている。図5の状態図(A)〜(D)の各々において、足跡マーク41に関しての縦軸Yは上方に向かって通行者が移動する方向を意味し、圧力分布42に関しての横軸Xは圧力の大きさを意味している。足跡マーク41の縦軸Yの方向の各位置と、圧力分布の縦軸Yの方向の圧力値は対応している。また状態図(A),(B),(C)は時間(t)の経過に従って順次に推移している。
【0042】
図5の状態図(A)では、最初に靴の踵がマットセンサ27の表面に接触して(踵の足跡マーク41)圧力が加わった状態であり、これに対応した圧力分布42が生じる。状態図(B)では、靴の裏面全体がマットセンサ27の表面に接触して(裏面全体の足跡マーク41)圧力が加わった状態であり、これに対応した圧力分布42が生じている。状態図(C)では、通行者がさらに進んで、靴の裏面の前半部(つま先部分)のみがマットセンサ27の表面に接触して(前半部の足跡マーク41)圧力が加わった状態であり、これに対応した圧力分布42が生じる。以上の状態図(A)〜(C)の結果、各状態での足跡マーク41で生じた累積的な圧力分布が状態図(D)に示される。状態図(D)では、足跡マークは消え、既に通行者は前方に移動した状態であり、また累積的な圧力分布42は、状態図(A)〜(C)で示したその時々の圧力分布42を加算したものである。このように、同じ箇所における一連の足跡マーク41で生じる圧力分布41は、当該箇所での累積的な圧力分布データ(状態Dでの圧力分布42)として取得され、これにより識別を行うことができる。
【0043】
次に図6を参照して、通常の歩行時における圧力分布の推移の例を説明する。図6では、より具体的には、マットセンサ27における7段階の時刻の推移(t〜t)での足跡マーク41の推移、すなわち圧力分布の推移を示している。時刻tは左足が着いた状態であり、時刻tは右足の踵が着いた状態であり、時刻tは右足のつま先が接地すると同時に左足の踵が離れた状態である。また、時刻tは左足は完全に離れた状態にあり、左足が接地していた部分の圧力はゼロになっている。圧力がゼロになった一定時間経過後に、前述した累積圧力分布データを用いて、この部分の圧力分布のデータの識別(判別)が行われる。識別対象領域の累積圧力分布データは識別後にクリアされる。一定時間経過後に識別するのは、例えば、時刻tのような状態での識別を避けるためである。圧力計測の誤差を考慮し、圧力が非常に小さい値の場合、圧力がゼロであるとみなしてよい。また、時刻t〜tの圧力分布の推移は、右足の足跡マークの推移である。右足についても左足の場合と同じである。
【0044】
次に図7〜図9を参照して、本実施形態に係る自動改札機10の通行制御システムに関する構成とその動作を説明する。この通行制御システムには、改札通路の通行者が通行弱者であるか否かを判断するシステム(通行弱者判別システム)が組み込まれている。この判断システムには、図1〜図6を参照して説明した通行者が通行弱者であるか否かについての判別の原理を適用される。
【0045】
図7において、自動改札機10は、従来より知られた通常の改札制御を行うための改札機制御部51を備えている。改札機制御部51は、通常、ICカード読取り装置52または磁気券読取り装置53で読み取った通行者に関する改札情報を受けて、その有効・無効の判断処理、通行阻止用ドアの開閉制御、および料金処理等を実行する。この際、改札機制御部51は、通行者が通常の利用者であることを前提にして、ICカード読取り装置52および磁気券読取り装置53の受付動作を制御している。ICカード読取り装置52の受付動作は通行者が携帯所持するICカードとの無線による送受信の実行であり、磁気券読取り装置53の受付動作は磁気券投入口蓋部53aを開状態に設定し通行者が所持する磁気券の投入口への投入を可能にする動作である。
【0046】
本実施形態に係る自動改札機10では、図7に示すように、上記の改札機制御部51に対して、さらに圧力分布センサ61、圧力分布データ管理部70、通行弱者検出部80が設けられる。圧力分布センサ61、圧力分布データ管理部70、通行弱者検出部80により通行弱者判別システムが構成される。
【0047】
圧力分布センサ61は上記のマットセンサ27に対応している。圧力分布センサ61はマット面の平面的領域に格子状に配置された複数の圧力センサによって構成されている。圧力分布センサ61から出力される圧力分布データは圧力分布データ管理部70に入力される。
【0048】
圧力分布データ管理部70は、累積圧力分布データ更新部71とメモリ72と識別対象領域検索部73を備えている。圧力分布センサ61から与えられる圧力分布データは累積圧力分布データ更新部73に入力される。圧力分布データは累積圧力分布データ更新部71により累積処理の更新がなされ、その後メモリ72に継続して保存される。累積圧力分布データ更新部71は、圧力分布データが入力されるたびに、メモリ72に保存される累積圧力分布データを読み出してさらに累積演算処理を行い、その後、再びメモリ72に保存する。識別対象領域検索部73は、マット状の圧力分布センサ61の圧力受面における識別対象領域を指定し、当該識別対象領域に関する累積圧力分布データを累積圧力分布データ更新部71から取り込み。識別対象領域検索部73は、所定条件後、識別対象領域の累積圧力分布データを通行弱者検出部80に送る。
【0049】
通行弱者検出部80はガウス混合分布算出部81と分布形状判別部82を備える。ガウス混合分布算出部81は、識別対象領域の累積圧力分布データを取り込み、前述したガウス混合分布パラメータを求める。ガウス混合分布算出部81は、求めたガウス混合分布パラメータと識別対象領域の累積圧力分布データとを分布形状判別部82に提供する。分布形状判別部82は、適合度合いに基づきガウス混合分布パラメータに対応するガウス混合分布を判断し、識別対象領域の累積圧力分布データが単峰か否かを判別する。識別対象領域の累積圧力分布データが単峰であると判別されたときには、通行弱者の通行であると判別され、分布形状判別部82から改札機制御部51に対して通行弱者検出信号が出力される。
【0050】
改札機制御部51は、通行弱者検出部80の分布形状判別部82から通行弱者検出信号を受けると、ICカード読取り装置52、および磁気券読取り装置53の磁気券投入口蓋部53aに対して受付停止信号を提供する。ICカード読取り装置52は受付停止信号を受けると、その受付動作を停止する。磁気券読取り装置53では、受付停止信号を受けると、磁気券投入口蓋部53aを動作させて磁気券投入口を閉じ、これにより受付動作を停止する。改札機制御部51は、その後(例えば約2〜3秒後)、ICカード読取り装置52、および磁気券読取り装置53の磁気券投入口蓋部53aに対して受付開始信号を提供し、受付停止を解除し、受付動作を開始する。こうして、通行弱者に続く次の通行者が通常の利用者である場合には、受付動作を少し遅らせることにより、通行弱者と通常の利用者との間の距離を広くする改札制御が行われる。
【0051】
次に、図8と図9のフローチャートを参照して上記の動作に関する一連の処理の流れを説明する。
【0052】
図8において、最初のステップでは判断ステップS11が実行される。判断ステップS11は、圧力分布センサ61が物体を検知したか否か、換言すれば、自動改札機10の改札通路11を通行しようとする通行者等の荷重による圧力を検知したか否かを判断する。このことは、具体的に、図7において、圧力分布データ管理部70の累積圧力分布データ更新部71で、圧力分布センサ61から圧力分布データが提供されたか否かということに基づいて判断される。判断ステップS11でNOである場合には、それ以降のステップを実行せず、終了状態に到り、当該判断ステップS11が予め定められた時間間隔で定期的に繰り返される。判断ステップS11でYESである場合には、次の処理ステップS12に移行する。
【0053】
処理ステップS12では累積圧力分布データが更新される。この処理内容は、圧力分布センサ61から圧力分布データの提供を受けた上記の累積圧力分布データ更新部71で実行される。その後、次の判断ステップS13に移行する。
【0054】
判断ステップS13は、通常的な改札処理が行われたか否かを判断するためのステップであり、ICカードの読取り処理または磁気券の読取り処理が完了したか否かが判断される。判断ステップS13でNOである場合には、再度、最初の判断ステップS11の処まで戻って、当該判断ステップS11を実行する。実際に、物体(通行者)が検知されたか否かを確認するためである。再度の判断ステップS11でNOである場合には、検知エラー等として処理を終了する。判断ステップS13でYESの場合には通行弱者検出の処理ルーチンS100が実行される。通行弱者検出の処理ルーチンS100の内容は、検出の原理と圧力分布データ管理部70および通行弱者検出部80とにおいて説明した通りの内容であり、これを処理の流れとして示すと、図9に示すようなフローチャートとなる。
【0055】
図9において、最初に識別対象領域が検索され(処理ステップS101)、検索された識別対象領域に関する圧力分布データに基づきガウス混合分布が算出される(処理ステップS102)。次いで、ガウス混合分布に基づいて通行弱者であること検出され(処理ステップS103)、その後さらに上記識別対象領域に関する累積圧力分布データがクリアされる(処理ステップS104)。こうして通行弱者検出の処理ルーチンS100が実行されて、通行弱者を検出するための処理が行われる。
【0056】
再び図8のフローチャートにおいて、次の判断ステップS14で、通行弱者検出(ルーチンS100)の結果、通行弱者が検出されたか否かが判断される。通行弱者が検出されない場合(NOの場合)には処理を終了し、改札機制御部51において通常の改札制御が実行される。通行弱者が検出された場合(YESの場合)には、改札機制御部51は受付停止信号をICカード読取り装置52と磁気券読取り装置53の磁気券投入口蓋部53aに与え、ICカードの読取り動作または磁気券の読取り動作を停止する(処理ステップS15)。そして、その後、予め設定された任意時間の間、上記の読取り動作の中止状態を維持する(処理ステップS16)。当該任意な一定時間の経過後、改札機制御部51は受付開始信号をICカード読取り装置52と磁気券読取り装置53の磁気券投入口蓋部53aに与え、ICカードの読取り動作または磁気券の読取り動作を開始し、受付動作を再開する(処理ステップS17)。
【0057】
改札機制御部51に関する上記の処理ステップS15〜S17によって、通行弱者が自動改札機10の改札通路11に進入したときには、その後、改札のための受付動作が遅延されるようにし、通行弱者に続いて改札通路11に進入しようとする利用者の進入動作が遅れるようにし、通行弱者と後続者との間の間隔を広くする。これにより通行弱者と後続の通常の利用者との間の接触および衝突の事故をなくすことができる。
【0058】
上記の実施形態では自動改札機の例を説明したが、本発明は自動改札機に限定されず、セキュリティーゲート等のゲート装置にも一般的に適用することができる。一般的なゲート装置の場合には、上記の改札通路は入出場のための通路となり、ICカード読取り装置52および磁気券読取り装置53は、通路を通過しようとする通行者が所持する入出場媒体(入場用のICカードや磁気チケット等)との間で通行情報の送受を行う入出場情報読取り装置となる。また改札機制御部51は、当該入出場読取り装置の読取り動作を制御する入出場制御手段となる。
【0059】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るゲート装置は、駅の改札口に設置された自動改札機等で通常の利用者(旅客)や通行弱者が混合した状態で通行する場合において、通行弱者を高い精度で迅速に検知することにより、通行弱者に続いて通常の利用者が通行しようとするときこれの改札制御処理を少し遅らせることにより接触等の事故発生を防止することに利用される。
【符号の説明】
【0061】
10 自動改札機
10A,10B 改札機本体
11 改札通路
11A 入口
21 足跡(靴跡)
22 車輪の軌跡
23 松葉杖の先端部跡
24 棒状杖の先端部跡
25,26 車椅子の前後輪の軌跡
27 領域(マットセンサ)
31 ハイヒール
33 シューズ
32,34 圧力分布
35 車輪
37 杖先端部
36,38 圧力分布
51 改札機制御部
52 ICカード読取り装置
53 磁気券読取り装置
61 圧力分布センサ
70 圧力分布データ管理部
80 通行弱者検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路を通過する通行者が所持する入出場媒体との間で通行情報の送受を行う入出場情報読取り装置と、前記入出場読取り装置の読取り動作を制御する入出場制御手段とを備えるゲート装置において、
前記通路に進入する前記通行者の移動跡を圧力分布データとして検出する圧力分布センサと、
前記圧力分布センサから出力される前記圧力分布データに基づき識別対象領域に係る累積圧力分布データを生成する圧力分布データ管理手段と、
前記圧力分布データ管理手段から与えられる前記識別対象領域に係る前記累積圧力分布データに基づいて前記通行者が通行弱者であるか否かを判断し、前記通行弱者であるときには前記入出場制御手段に通行弱者検出信号を与える通行弱者検出手段と、を備え、
前記入出場制御手段は、前記通行弱者検出手段から前記通行弱者検出信号を受けたときに、前記入出場読取り装置の読取り動作を一定期間停止させることを特徴とするゲート装置。
【請求項2】
前記圧力分布データ管理手段は、前記圧力分布センサの全検出可能対象領域から前記識別対象領域を検索する識別対象領域検索手段と、前記識別対象領域検索手段が検索した前記識別対象領域について前記累積圧力分布データを求める累積圧力分布データ更新手段を有することを特徴とする請求項1記載のゲート装置。
【請求項3】
前記通行弱者検出手段は、前記識別対象領域に係る前記累積圧力分布データからガウス混合分布の特徴情報を求めるガウス混合分布算出手段と、前記ガウス混合分布算出手段から提供される前記ガウス混合分布の前記特徴情報を用いて前記ガウス混合分布の分布形状を判断し、この分布形状から通行弱者であるか否かを判断する分布形状判別手段を有することを特徴とする請求項1記載のゲート装置。
【請求項4】
前記分布形状判別手段は、前記ガウス混合分布の分布形状が単峰性を有するときに前記通行者が通行弱者であると判別することを特徴とする請求項3記載のゲート装置。
【請求項5】
前記入出場情報読取り装置がICカード読取り装置と磁気券読取り装置のいずれか一方または両方であり、前記入出場管理装置が改札制御手段であり、自動改札機として機能することを特徴とする請求項1記載のゲート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−230492(P2012−230492A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97345(P2011−97345)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】