説明

コア−シェル型高分子微粒子及びその製造方法

【課題】本発明は、簡便かつ効率的に製造できる粒子径分布の狭い(均一粒子径の)コア−シェル型高分子微粒子を提供する。
【解決手段】PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させることを特徴とする粒子径20nm〜500nm程度のコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル型高分子微粒子及びその製造方法に関する。また、本発明は、該コア−シェル型高分子微粒子を用いて修飾された微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コア(核)−シェル(殻)型高分子微粒子は、粒子の表面と内部が異なった高分子で構成された微粒子であり、表面の高分子は主に媒体中での分散に寄与し、内部に異なる高分子を包含する。内部の高分子に薬剤を包含させたり、感温性などの機能をもたせることで、媒体中における分散に優れた機能性微粒子を提供することができる。そのため、コア−シェル型高分子微粒子の製造方法は非常に注目を集めている。
【0003】
一般的な高分子微粒子の製造法としては、界面活性剤を用いる乳化重合法が知られている。コアシェル型高分子微粒子は、この乳化重合法によって合成できるが、二回以上の重合が必要となる。また、乳化重合法では、界面活性剤を用いることから、塩などの添加によって微粒子の凝集、沈殿を生じ、余剰の界面活性剤が環境に負荷を与えるなどの欠点がある。
【0004】
他のコアシェル型高分子微粒子の合成方法として、例えば、非特許文献1が挙げられる。非特許文献1には、シェル部分形成の原料として極性高分子末端(ポリエチレングリコール)に重合性のビニル基やメタクリロキシ基を導入したマクロモノマーを用い、該マクロモノマーとメチルメタクリレートとを乳化重合して得られるナノスフェアーが記載されている。
【0005】
しかし、上記の末端重合性マクロモノマーを用いた場合、別途水溶性重合開始剤が必要となる。また、反応活性点が高分子末端にあるためミセル形成が不安定であり粒子形成しない場合(溶液に可溶またはゲル化)や、モノマーと反応せずに活性を失いフリーのポリマーを形成し易い傾向がある。さらに、原料のマクロモノマーは極性高分子の構造に近いため極性溶媒にしか溶解しない、ナノスフェアーが得られる組成範囲(溶液組成及びモノマー/マクロモノマー比の組成範囲)が限定される、などの欠点を有する。
【特許文献1】J. Polym. Sci. A., 38, 1811 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、簡便かつ効率的な方法により製造可能な粒度分布が狭いコア−シェル型高分子微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させることにより、ナノスケールのコア−シェル型高分子微粒子を製造できることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次に示すコア−シェル型高分子微粒子、その製造方法等を提供する。
【0009】
項1.PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜500nm程度のコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【0010】
項2.PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【0011】
【化1】

(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である項1に記載の製造方法。
【0012】
項3.疎水性ビニル系モノマーが、(メタ)アクリル酸エステル、N−(モノ又はジ)アルキル(メタ)アクリルアミド、飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル、オレフィン、ビニル芳香族化合物、及び、ビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1又は2に記載の製造方法。
【0013】
項4.疎水性ビニル系モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、4〜500程度である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
項5.項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜500nm程度のコア−シェル型高分子微粒子。
【0015】
項6.疎水性ビニル系モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子微粒子であって、該微粒子の平均粒子径の標準偏差と平均粒子径との比が0.05〜0.6程度であり、該微粒子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.5〜4程度であるコア−シェル型高分子微粒子。
【0016】
項7.項1〜4のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子微粒子を核として用い、水及び/又はアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【0017】
項8.項7に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子。
【0018】
項9.項1〜4のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子微粒子を核として用い、水及び/又はアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【0019】
項10.項9に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子。
【0020】
項11.項9に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子を焼成することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法。
【0021】
項12.項11に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。
【0022】
以下、本発明を詳述する。
I.コア−シェル型高分子微粒子
本発明のコア−シェル型高分子微粒子は、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」とも表記する)含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させて製造することができる。本発明の、コア−シェル型高分子微粒子は、疎水性ビニル系モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部とからなるコア−シェル型高分子微粒子である。
【0023】
本発明において、コア−シェル型高分子微粒子とは、粒子の表面と内部が異なった高分子で構成された微粒子を意味する。また、ソープフリー乳化重合とは、PEG含有高分子アゾ重合開始剤以外の界面活性剤を含まない系における乳化重合を意味する。
【0024】
本発明のコア−シェル型高分子微粒子の原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤とは、分子内にPEG及びアゾ基(−N=N−)を含有する繰り返し単位を含む高分子化合物である。具体的には、一般式(I):
【0025】
【化2】

(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である。
【0026】
一般式(I)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0027】
より具体的には、一般式(II):
【0028】
【化3】

(式中、R1はH又はアルキル基、R2はH又はアルキル基、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す)
一般式(II)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0029】
一般式(II)において、R1で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチルが好ましい。
【0030】
一般式(II)において、R2で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチルが好ましい。
【0031】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の分子量は、5000〜10万程度、好ましくは1万〜5万であればよい。また、該開始剤のPEG部分の分子量は、800〜1万程度、好ましくは1000〜8000程度であればよい。
【0032】
このPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、PEGを有しているためソープフリー乳化重合反応の媒体である水及び/又はアルコール中に良好に溶解することができ、また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:―N=N−)を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。さらに溶媒に溶解しない疎水性モノマーを添加した場合にミセルを形成する組成範囲(溶媒中の水/アルコール比と疎水性モノマー/PEG含有高分子アゾ重合開始剤との比)が広いという特徴を有している。しかも、分子骨格中にラジカル発生部分であるアゾ基を有しているため、末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、安定性が高いという特徴をも有している。
【0033】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、和光純薬製の高分子アゾ開始剤VPE0201(PEG部分の分子量2000)、VPE0401(PEG部分の分子量4000)VPE0601(PEG部分の分子量6000)などが例示される。高分子アゾ重合開始剤VPEシリーズの合成方法は、例えば、J.J.Laverty and Z.G.Gardlund, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 15, 2001 (1977)、A.Ueda, S.Nagai, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 24, 405 (1986)等の文献に記載されている。
【0034】
本発明のコア−シェル型高分子微粒子の原料である疎水性ビニル系モノマーとは、分子内にラジカル重合性のビニル基を有しており、水との親和性の低いモノマーである。この疎水性ビニル系モノマーは、ソープフリー乳化重合によりコア−シェル型高分子微粒子のコア部を形成する。
【0035】
疎水性ビニル系モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル、N−(モノ又はジ)アルキル(メタ)アクリルアミド、飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル、オレフィン、ビニル芳香族化合物、ビニルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素原子数1〜14個のアルコールの(メタ)アクリルエステルが挙げられ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が例示される。
【0037】
N−(モノ又はジ)アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド、或いはN,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
【0038】
飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルとしては、炭素原子数が1〜14個の飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルが挙げられ、例えば、ヘキサン酸ビニル、ラウリル酸ビニル等が例示される。
【0039】
オレフィンとしては、炭素数6〜14のオレフィンが挙げられ、二重結合を2以上含んでいてもよい。例えば、オクテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ビニルシクロヘキサン等が例示される。
【0040】
ビニル芳香族化合物、としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が例示される。
【0041】
ビニルエーテルとしては、例えば、エチルビニルエーテル、フェニルビニルサルファイド等が例示される。
【0042】
疎水性ビニル系モノマーは、上記のうちの1種、或いは上記のうちから選ばれる2種以上を選択することができる。
【0043】
本発明の乳化重合の媒体は、水及び/又はアルコールが用いられる。水は、塩を含まないイオン交換水を用いることが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコールが好適である。好ましい媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、水とアルコールの体積比が95/5〜40/60程度、好ましくは90/10〜50/50程度の混合媒体が好適である。なお、水及びアルコールに加えて、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等の他の溶媒を用いてもよいが、媒体全体の体積の50体積%以下であることが好ましい。
【0044】
ソープフリー乳化重合における媒体の使用量は、溶液中の85〜95wt%程度であればよい。
【0045】
ソープフリー乳化重合に際し、原料である疎水性ビニル系モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、疎水性ビニル系モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、4:1〜500:1程度、好ましくは4:1〜400:1程度になるように配合される。かかる範囲であれば、球状粒子となるため好ましい。ここで、「PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数」とは、PEG換算分子量を[PEG部分の分子量+226]として、(PEG含有高分子アゾ重合開始剤の使用量g)/(PEG換算分子量[PEG部分の分子量+226])で算出される値を意味する。
【0046】
さらに、上記の疎水性ビニル系モノマーに加えて、必要に応じて架橋剤を添加してもよい。架橋剤は、疎水性ビニル系モノマーと共重合反応性を有するものであれば特に限定されないが、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、ビニレン基等の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を挙げることができる。具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。架橋剤を添加する場合その添加量は、疎水性ビニル系モノマーに対し、0.2〜10モル%程度、好ましくは0.5〜5モル%程度であればよい。
【0047】
本発明のコア−シェル型高分子微粒子は、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、上記した配合量に基づき、次のようにして実施することができる。
【0048】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤を水(特に、イオン交換水)に溶解(分散)した後、アルコール(特に、エタノール又はイソプロパノール)及び疎水性ビニル系モノマーを加えて、60〜85℃(好ましくは65〜80℃)に加熱して攪拌する。加熱攪拌は、窒素ガスを連続的にバブリングさせて行う。窒素ガス導入後約20分程度で反応溶液は乳白色に濁りはじめ、その後窒素気流下5〜24時間加熱攪拌を続ける。得られた混合物を、遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)を行うことによりコア−シェル型高分子微粒子を得る。ここで、水に対して透析とは、透析膜に合成して得た混合溶液を入れ、透析膜ごと水中に放置しておく(ビーカー等に入れて)と、浸透圧で水と低分子量成分が入れ替わり、コア−シェル型高分子微粒子の水分散液が得られるとするものである。この製造方法の模式図を図1に示す。
【0049】
本発明では、PEG含有高分子アゾ重合開始剤は、活性点(ラジカル開始点)を主鎖骨格中に有しているため活性点が安定であり、また1分子中に数個の活性点を有しているためモノマーと反応しやすい。したがって高い収率でコア-シェル微粒子を得ることができる。また広い溶媒組成、モノマー・高分子アゾ重合開始剤比の組成範囲においてコア−シェル型高分子微粒子を得ることができる。
【0050】
得られるコア−シェル型高分子微粒子の平均粒子径は、20〜500nm程度、好ましくは90〜400nm程度であり、平均粒子径の標準偏差と平均粒子径との比が0.05〜0.6程度、特に0.1〜0.3程度と、個々の微粒子がほぼ均一の大きさであり、単分散に近い分布をしている。なお、平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定により行う。
【0051】
コア−シェル型高分子微粒子の重量平均分子量(Mw)は、6万〜120万程度であり、数平均分子量(Mn)は、4万〜70万程度である。また、該微粒子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比が1.4〜4程度と、分子量の分布も狭い。分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて行う。
【0052】
また、本発明において、原料である疎水性ビニル系モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比を、4〜500程度の範囲で調節することにより、製造されるのコア−シェル型高分子微粒子の平均粒子径を20〜500nm程度の範囲に制御できるという利点がある。通常、疎水性ビニル系モノマーのモル数に対し、PEG換算のモル数が大きくなると、コア−シェル型高分子微粒子の平均粒子径が減少していく。具体的には、実施例1、3〜6を見れば容易に理解できる。
【0053】
また、原料の疎水性ビニル系モノマーとして、例えばN−イソプロピルアクリルアミドを用いた場合、温度応答性を有するコア−シェル型高分子微粒子を製造することができる。この場合、コア−シェル型高分子微粒子は温度によって平均粒子径を変化させることができ、32〜37℃程度の範囲にLCSTが存在する。
【0054】
ここで温度応答性とは、一般に化合物の水溶液が下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature、LCST)以上の温度に加熱すると白濁し、それ以下の温度に冷却すると再び溶解して透明に戻るという可逆的な相分離挙動を示す性質をいう。
II.コア−シェル型高分子微粒子の修飾
上記で得られる本発明のコア−シェル型高分子微粒子を、次のようにして修飾することも可能である。
【0055】
例えば、コア−シェル型高分子微粒子を核として用い、水及び/又はアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させて高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子を製造することができる。
【0056】
用いるビニル系モノマーは、その目的に応じて適宜選択することができ、疎水性又は親水性のいずれのものでもよい。具体例としては、グリシジルメタクリレート(GMA)、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどが好適に用いられる。ビニル系モノマーの添加量は、コア−シェル型高分子微粒子に対して、0.5〜10wt%程度、好ましくは1〜5wt%程度であればよい。
【0057】
重合反応は、溶液重合、乳化重合等の公知の反応を用いることができる。例えば、コア−シェル型高分子微粒子の水/エタノール分散液にビニル系モノマー(例えば、GMA等)を加えて、窒素気流下70〜90℃で5〜20時間程度加熱処理することにより、コア−シェル型高分子微粒子の外側にビニル系モノマー由来の高分子層を有する複合微粒子が製造される。
【0058】
また、コア−シェル型高分子微粒子を核として用い、金属アルコキシドを反応させて金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子を製造することもできる。
【0059】
用いる金属アルコキシドとしては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタン、トリアルコキシアルミニウム等が例示される。
【0060】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシランなどが挙げられ、好ましくは、TEOS、テトライソプロポキシシランである。また、テトラアルコキシチタンとしては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタンなどが挙げられ、好ましくは、テトラエトキシチタン又はテトライソプロポキシチタンである。
【0061】
溶媒としてはアルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなど)またはアルコール/水混合系(100/0〜50/50程度)が用いられる。
【0062】
金属アルコキシドの添加量は、微粒子全重量中の金属酸化物の重量分率が、10〜90wt%程度、好ましくは20〜75wt%程度になるように添加すればよい。
【0063】
金属酸化物層の形成は、ゾル−ゲル法等の公知の反応を用いることができる。例えば、コア−シェル型高分子微粒子のエタノール分散液に触媒量のアンモニア水溶液を加えて、これを撹拌しながら室温で金属アルコキシド(例えば、TEOS等)を加えて、室温で2〜10時間程度撹拌する。得られた混合物を遠心分離にかけて分離して、金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子が製造される。
【0064】
更に上記で製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子を焼成することにより有機成分を除去して中空金属酸化物微粒子を製造することもできる。焼成は、500〜700℃の温度で、2〜7時間程度であればよい。
III.用途
本発明のコア−シェル型高分子微粒子は、分子量分布や平均粒子径の分布が狭く、均質な微粒子である。
【0065】
本発明のコア−シェル型高分子微粒子は、シェル部に親水性ポリマーを有していることから、シェル部に抗原タンパクを結合させて血液などの診断薬として用いることができる。抗体の検出により、抗原−抗体反応によって粒子同士が凝集することから、透過率を測定することによって容易に診断が可能となる。
【0066】
また、コア部分に用いる高分子の選択によって、特定温度以上で収縮する感温性のゲル微粒子、コア内に不安定な薬効成分を包含させて患部に達した際に効果を発揮させるドラッグデリバリーシステム、コア内に診断に有効な発光性微粒子あるいは磁気微粒子を包含させた診断剤などの応用が可能である。粒子径分布が狭く、分子量分布も比較的狭く、容易にコア・シェル微粒子を得ることができるため、上記のような従来のコアシェル微粒子の使用用途において、より高性能な使用が可能となり、用途拡大が期待される。たとえば、診断精度の向上、感温性ゲル微粒子の場合の収縮温度範囲を狭くする、などである。
【0067】
その他、エマルションとして、粘着剤、塗料、フィルム形成材、インクなど従来の工業製品にも用いることが可能であり、同様に高性能化、用途拡大が期待される。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、簡便かつ効率的に粒子径分布が狭いコア−シェル型高分子微粒子を製造することができる。PEG含有高分子アゾ重合開始剤には、PEGを有しているため水性媒体に分散しやすく、分子鎖骨格中に重合開始部分を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。しかも、ラジカルの反応性、安定性が高いという特徴を有している。
【0069】
そのため、本発明のコア−シェル型高分子微粒子は、広範な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
次に本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるわけではない。
【0071】
実施例1
200ml四つ口フラスコに高分子アゾ開始剤VPE0201(和光純薬製、PEG部分の分子量2000)5g(PEG換算のモル数2.210X10-3モル)を入れ、イオン交換水45mlに完全に溶かした後、エタノール(以下EtOH)15ml、メタクリル酸メチル(以下MMA)5g(5X10-2モル)を加えて攪拌した。MMAのモル数/PEG換算のモル数=22.62であった。
【0072】
窒素ガス導入用キャピラリー管、攪拌羽根、冷却管を取り付け、オイルバス中において加熱攪拌し、70℃に達した後窒素ガスを連続的にバブリングさせた。窒素ガス導入後20分程度で、反応溶液は乳白色に濁りはじめた。その後窒素気流下20時間加熱攪拌を続け、遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)によりMMAコア/PEGシェルのコアシェル微粒子を得た。
【0073】
動的光散乱法による粒度分布測定(大塚電子製ELS-8000HW)により得られた粒子径は169.3±20.1nm(個数分布)であり、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡観察の結果とほぼ一致した。ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による重量平均分子量Mw=549000, 数平均分子量Mn=214700(Mw/Mn=2.56)であった。
【0074】
得られたコア−シェル型高分子微粒子のSEMおよびTEM像を図2に示す。
【0075】
実施例2(コアシェル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子)
(1)実施例1で得られた微粒子0.2gを100ccエルレンマイヤーフラスコに入れ、EtOH 50mlを加えて超音波洗浄器を用いて再分散させた。分散後、アンモニア水溶液(28%)4mlを加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温においてテトラエトキシシラン(TEOS)2ccを一気に加えた。室温において5時間攪拌を続けた後、遠心分離により得られた微粒子を分離させた。コアMMA/シェルPEGの外側にシリカ層を有する複合微粒子を得た。得られた複合微粒子のSEM像を図3に示す。
【0076】
25℃における粒子径424.7±88.9nm(個数分布)。示差熱熱天秤測定による750℃での残渣から、シリカ成分は約70wt%であり、計算で求められるシリカ含有率72.9wt%とほぼ一致した。
(2)600℃、3時間で焼成後も粒子形状などに変化は見られず、焼成によって中空微粒子が得られたものと考えられる。
【0077】
実施例3
実施例1におけるMMA添加量を1g(1X10-2モル)として、他の条件は変えずに合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=4.52であった。
【0078】
その結果、粒子径95.4±18.4nm(個数分布)のコアシェル型微粒子を得た。用いるモノマー量とVPE0201との比が小さい場合には粒子径が小さく、比を大きくすると粒子径が大きくなる傾向にあった。
【0079】
実施例4
実施例1におけるVPE0201添加量0.7069g (3.125X10-4mol)、 MMA 添加量10g (0.1mol)、とし、イオン交換水40ml、EtOH 40mlを用いて70℃10時間加熱攪拌により合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=320であった。
【0080】
その結果、粒子径217.5±32.9nm(個数分布)、GPCによるMw=195400, Mn=79800(Mw/Mn=2.45)のコアシェル型微粒子を得た。
【0081】
比較例1
実施例4におけるVPE0201の替わりにビニル基末端PEGマクロモノマーであるブレンマーPME4000(日本油脂製、分子量4060)1.2688gおよび水溶性重合開始剤過硫酸カリウム0.11gを用いて、同様の重合を行った。その結果、粒子径409.4±100.2nm(個数分布)、GPCによるMw=114700, Mn=23100(Mw/Mn=4.97))であった。
【0082】
VPE0201を用いた実施例4に比べてブレンマーPME4000を用いた場合、粒子径が大きく、粒度分布が広がり、分子量が小さく、分子量分布も広いことがわかった。また、微粒子のSEM像から、ブレンマーPME4000を用いた場合、粒子が不定形であったが、VPE0201を用いた場合には球形に近いことがわかった。
【0083】
PEGの分子量がある程度大きい方が分散安定化などへの寄与が大きいと考えられるが(Ming-Qing Chen, M.Akashi et.al J.Polym.Sci.,A Polym.Chem., 38, 1811 (2000).)、VPE0201の方がブレンマーPME4000よりもPEG部分の分子量は小さいにもかかわらず、得られた微粒子の分子量は大きく、粒子径は小さい。VPE0201は分子内に分子量2000のPEGを約9.9ユニット程度含んでおり、全体の分子量としては大きいため、粒子の分散安定化が効率的にできること、ならびに重合開始基であるアゾ基を分子内に含んでいるため、ミセル内の重合を効率的に行うことができること、が関係しているものと考えられる。
【0084】
実施例5
実施例1におけるVPE0201添加量0.5655g g (2.5X10-4mol)、MMA 添加量10g (0.1mol)、とし、イオン交換水60ml、EtOH 20mlを用いて70℃7時間加熱攪拌により合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=400であった。
【0085】
その結果、粒子径273.9±54.8nm(個数分布)、GPCによるMw=406200, Mn= 121800(Mw/Mn=3.33)のコアシェル型微粒子を得た。
【0086】
得られた微粒子のSEM像を図4に示す。
【0087】
比較例2
実施例5におけるVPE0201の替わりにブレンマーPME4000 1.015g(2.5x10-4mol)および水溶性重合開始剤過硫酸カリウム0.11gを用いて、同様の重合を行った。
【0088】
その結果、粒子径300.7±77.7nm(個数分布)、GPCによるMw=379800, Mn=83800(Mw/Mn=4.53)であった。比較例1の場合と同様、VPE0201を用いた実施例5に比べてブレンマーPME4000を用いた場合、粒子径が大きく、粒度分布が広がり、分子量が小さく、分子量分布も広いことがわかった。
【0089】
得られた微粒子のSEM像を図5に示す。
【0090】
実施例6
実施例1におけるVPE0201の代わりにVPE0601(和光純薬製、PEG部分の分子量6000)6.5g(PEG換算のモル数1.038X10-3モル)を用い、MMA添加量を7g(7X10-2モル)とし、イオン交換水60ml、EtOH 20mlを用いて70℃12時間加熱攪拌により合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=82.85であった。
【0091】
その結果、粒子径229.6±34.1nm(個数分布)、GPCによるMw=1154000, Mn=641000(Mw/Mn=1.80)のコアシェル型微粒子を得た。
【0092】
得られた微粒子のSEM像を図6に示す。
【0093】
実施例7
実施例6においてVPE0601 6.5g(1.038X10-3モル)、MMAの代わりにN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM) 6.79g(6.0X10-2モル)、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.238g(1.20X10-3モル)を用い、溶媒としてイオン交換水60ml、2-プロパノール(IPA) 20mlを用いて80℃20時間加熱攪拌により合成を行った。NIPAM及びEGDMAのモル数/PEG換算のモル数=58.96であった。
【0094】
その結果、25℃における粒子径298.0±66.9nm、40℃における粒子径 117.0 ±25.8nm(個数分布)であるコアNIPAM/ シェルPEGの感温性ポリマーゲル微粒子を得た。
【0095】
得られた微粒子のSEM像を図7に示す。
【0096】
実施例8
(1)実施例7においてNIPAM 4.526g(4.0X10-2モル)、EGDMA 0.159g(8.0X10-4モル)とした以外は他の条件は同じで合成を行い、25℃における粒子径307.2±66.9nmのコアNIPAM/ シェルPEG微粒子を得た(25℃における粒子307.2±66.9nm(個数分布))。NIPAM及びEGDMAのモル数/PEG換算のモル数=39.31であった。
(2)得られた微粒子分散液75mlにグリシジルメタクリレート(GMA)0.08ml(6.0X10-4モル)を加えて窒素気流下80℃でさらに8時間加熱し、コア/シェルポリマーゲル微粒子の外側にGMA層を有する複合微粒子を得た。25℃における粒子径413.2±49.1nm(個数分布)。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】コア−シェル型高分子微粒子の製造方法の模式図を示す。
【図2】実施例1で得られた微粒子の(a)SEM像及び(b)TEM像を示す
【図3】実施例2(1)で得られた複合微粒子のSEM像を示す
【図4】実施例5で得られた微粒子のSEM像を示す。
【図5】比較例2で得られた微粒子のSEM像を示す。
【図6】実施例6で得られた微粒子のSEM像を示す。
【図7】実施例7で得られた微粒子のSEM像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/又はアルコール中でソープフリー乳化重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜500nm程度のコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【請求項2】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【化1】

(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
疎水性ビニル系モノマーが、(メタ)アクリル酸エステル、N−(モノ又はジ)アルキル(メタ)アクリルアミド、飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル、オレフィン、ビニル芳香族化合物、及び、ビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
疎水性ビニル系モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、4〜500程度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜500nm程度のコア−シェル型高分子微粒子。
【請求項6】
疎水性ビニル系モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子微粒子であって、該微粒子の平均粒子径の標準偏差と平均粒子径との比が0.05〜0.6程度であり、該微粒子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比が1.5〜4程度であるコア−シェル型高分子微粒子。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子微粒子を核として用い、水及び/又はアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子微粒子を核として用い、水及び/又はアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子。
【請求項11】
請求項9に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子微粒子を焼成することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−257139(P2006−257139A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72889(P2005−72889)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】