説明

コア−シェル構造粒子、ペースト組成物およびそれを用いた磁性体組成物

【課題】磁性無機粒子を樹脂中で分散させ、硬化後に絶縁性磁性体材料として優れた性能を示す磁性体無機粒子をコアとするコア−シェル構造粒子ならびにそれを用いたペースト組成物を提供すること。
【解決手段】磁性体無機粒子をコアとするコア−シェル構造粒子であって、前記シェルがグリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂を含むことを特徴とするコア−シェル構造粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコア−シェル構造粒子およびこれを含むペースト組成物や磁性体組成物に関する。より詳しくは、本発明は、パソコン、自動車、携帯電話や携帯情報端末、フラットパネルテレビ、ゲーム機器、高度道路情報システム、無線LANなどに内蔵するインダクタコア用や電磁波吸収体などに含有されるペースト組成物およびそれを硬化させてなる磁性体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用を始めとして、パソコン、自動車、携帯電話や携帯情報端末、フラットパネルテレビ、ゲーム機器、高度道路情報システム、無線LANなど、GHz帯の高周波を利用した情報通信機器等が普及してきている。高周波は信号にノイズを発生させて情報伝達を悪化させたり、またその高周波に伴い電磁波が情報機器から放射され、他の電子機器への誤作動を引き起こしたりする可能性が指摘されている。それらに対応するため、高周波ノイズを除去し、かつ電圧を安定化させる役割を担うインダクタが情報通信機器に内蔵されている。透磁率の高いコアをインダクタに挿入することで、インダクタンスをさらに向上させることができる。コアとしては磁性体金属や磁性体セラミックスなどの無機材料のほか、樹脂中に磁性体無機粒子を高充填したものが利用されている。
【0003】
一般に、樹脂中に金属粒子を高充填に分散させた場合、金属粒子同士は樹脂中で均一に分散せず、凝集体を形成している。その結果、金属粒子同士が凝集し、ペーストを膜とした際の複合材自体の絶縁性が取れないといった問題があった。さらに、磁性体無機粒子を用いた場合、凝集体は一つの大きな磁性粒子として振舞い、高周波では渦電流を生じやすくなる。そして、エネルギー損失の増加を引き起こし、コア材料としての特性が損なわれる場合がある。
【0004】
そこで、樹脂中に磁性体無機粒子の分散性を向上させ、上記特性を満たす材料として、磁性体無機粒子を樹脂と実質的に同一の成分で予め被覆した材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−249673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の材料では、磁性体無機粒子を樹脂で被覆することにより磁気損失(tanδ)は低下するものの、比透磁率も小さくなってしまうという問題があった。
【0007】
かかる状況に鑑み、本発明は、磁性体材料として優れた性能を示し、絶縁性にも優れた磁性体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、磁性体無機粒子をコアとするコア−シェル構造粒子であって、前記シェルがグリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂を含むことを特徴とするコア−シェル構造粒子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコア−シェル構造粒子を用いることにより、磁性体材料として優れた性能を示し、絶縁性にも優れた磁性体組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるコア−シェル構造粒子のコアである磁性体無機粒子としては、軟磁性金属やフェライトなどが挙げられる。軟磁性金属は電気抵抗が小さく、高周波帯域では渦電流の発生により急激に透磁率が低下するといった特徴がある。また、フェライトは軟磁性金属に比べ電気抵抗は高いものの、材料本来の透磁率が低いといった特徴がある。本発明においては、Fe(カルボニル鉄)、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金、Fe−Si合金、Fe−Al合金、Fe−Cr−Si合金、Fe−Cr−Al合金、Fe−Al−Si合金などのFe合金類、Fe基アモルファス、Co基アモルファスなどのアモルファス合金、Mg−Znフェライト、Mn−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Cu−Znフェライト、Mg−Mn−Srフェライト、Ni−Znフェライト、Baフェライトなどのフェライトを用いることが好ましい。
【0011】
磁性体無機粒子の製造方法としては、固相反応法、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、しゅう酸塩法、乾式法、湿式法、共沈法および噴霧熱分解法など公知の方法が挙げられる。得られた磁性体無機粒子は、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、遊星式ボールミル等によって粉砕され、目的の粒径を有する磁性体無機粒子が得られる。
【0012】
磁性体無機粒子の形状としては、球状、略球状、楕円球状、針状、板状、鱗片状、棒状などが挙げられるが、特に、限定されるものではない。これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0013】
本発明に用いられる磁性体無機粒子の平均粒子径は30μm以下であることが好ましい。磁性体無機粒子の平均粒子径が30μm以下であると、ペースト組成物および磁性体組成物の各形態においての膜の平坦性が良好となり、膜厚のばらつきを小さくすることができる。さらに、百MHzを超える高周波帯域においては、磁性体無機粒子内での渦電流による磁気損失を抑制し、低tanδ化が可能になることから、平均粒子径は小さい方が好ましい。具体的には、平均粒子径が15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。一方、磁性体無機粒子同士の凝集が抑制され、磁性体組成物とした時の膜のクラックを抑制できる点から、平均粒子径は10nm以上であることが好ましい。さらに、磁性体組成物の透磁率が向上する点から、平均粒子径は0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
【0014】
ここで、本発明における磁性体無機粒子の平均粒子径とは数平均粒子径である。ペースト組成物や磁性体組成物中の磁性体無機粒子の平均粒子径を測定する方法は以下の通りである。ペースト組成物の場合はこれを任意の基板上に塗布し、後述の方法で磁性体組成物としてから、磁性体組成物中の磁性体無機粒子の平均粒子径の測定方法と同様にして求める。磁性体組成物の場合は、これをSEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)により少なくとも100個の粒子が観測できる程度の倍率で観察したときの視野における粒子を観察し、無作為に選んだ100個の粒子の粒子径の数平均を計算して求めることができる。
【0015】
なお、ペースト組成物中および磁性体組成物中の磁性体無機粒子は、凝集が完全にほぐれた1次粒子の状態にあるものと、複数個の1次粒子が凝集した状態(2次粒子)にあるものが存在する。本発明における磁性体無機粒子の粒子径とは、凝集していない1次粒子はその粒子の粒子径であり、1次粒子が凝集したものはその凝集体を構成している1次粒子の粒子径である。
【0016】
また、前処理として磁性体無機粒子の表面処理を行ってもよい。このような処理としては、シラン系、チタン系、アルミニウム系などの各種カップリング剤による処理、脂肪酸による処理、ロジン処理、酸性処理、塩基性処理などが挙げられる。特に、磁性体無機粒子をシランカップリング剤等で前処理するのが好ましい。例えば、シランカップリング剤、磁性体無機粒子、水およびビーズを混合して攪拌する。そこからビーズを除去して得られた分散液を濾過して濾物を得る。その濾物を乾燥することで、シランカップリング剤で処理した磁性体無機粒子が得られる。その結果、磁性体無機粒子を被覆したシランカップリング剤にシェルが付きやすくなり、シェルが厚くなりやすい。
【0017】
前処理に用いられるシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明におけるコア−シェル構造粒子のシェルは、グリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂を含む。グリシジルアミン型エポキシ化合物は熱硬化性の樹脂である。グリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂は、耐熱性や耐溶剤性に優れるため、ペースト組成物の保存安定性に優れ、結果として、それを硬化した磁性体組成物は十分な絶縁性を発現する。また、グリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂は、コアである粒子の表面に容易にシェルを形成する。その理由は、グリシジルアミン型エポキシ化合物が付加重合する際に、分子内の窒素原子が触媒活性となり、粒子表面の水酸基とグリシジルアミン型エポキシ化合物のエポキシ基の付加反応を促進するためであると考えられる。その結果、本発明のコアーシェル構造粒子を有するペースト組成物を用いて得られる磁性体組成物は、十分な絶縁性を発現する。
【0019】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、下記に示した構造(基)を有する化合物が上げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
上記一般式(1)中、Rは、グリシジル基または炭素数1〜5のアルキル基である。一般式(1)で表される構造(基)を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、特に制限はないが、例えば以下の構造で表されるものが挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
一般式(2)〜(3)中、R〜R17はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、グリジシルエーテル基、前記一般式(1)で表される基、水素原子、または、炭素数1〜5のアルキル基である。ただし、一般式(2)においては、R〜Rのうち少なくとも1つがグリシジルエーテル基であって少なくとも1つが前記一般式(1)で表される基であるか、R〜Rのうち少なくとも2つが前記一般式(1)で表される基である。また、一般式(3)においては、R〜R12のうち少なくとも1つとR13〜R17のうち少なくとも1つが前記一般式(1)で表される基である。また、上記一般式(3)中、Xは直接結合、炭素数1〜6のアルキレン基、エーテル基、チオエーテル基、スルホニル基またはアリーレン基を表す。アルキレン基は鎖状でも環状でもよい。
【0024】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、具体的には、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’−テトラキス(2,3−エポキシプロピル)−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(オキシラン−2−イルメチル)−4,4’−メチレンジアニリン、jER−630、jER−630LSD、jER−604(商品名、三菱化学(株)製)、アデカレジンEP−3900S(商品名、(株)アデカ製)、YH−434、YH−434L(商品名、新日鐵化学(株)製)、TEPIC−S(商品名、日産化学工業(株)製)等が挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用される。
【0025】
さらに本発明のコア−シェル構造粒子のシェルは、上記のグリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂のみから構成されていてもよいし、グリシジルアミン型エポキシ化合物とそれ以外のエポキシ化合物を混合して付加重合させて得られる樹脂でもよい。そのようなエポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、およびトリフェニルメタン型エポキシ化合物等のグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0026】
次に、本発明のコア−シェル構造粒子の製造方法について説明する。ただし、以下の方法は一例であり、本発明のコア−シェル構造粒子を得る方法であれば、各工程は適宜変更することができる。
【0027】
まず、磁性体無機粒子(2次粒子、凝集状態のものを含む)、グリシジルアミン型エポキシ化合物および溶媒を所定の分量で混合する。この際、磁性体無機粒子は前処理としてシランカップリング剤等で表面処理が施されていてもよい。また、磁性体無機粒子は混合前に解砕および分散処理として、磁性体無機粒子、溶媒、および必要に応じて分散剤を混合し、分散メディアを用いて処理を行ってもよい。分散および解砕方法としては、ボールミル、ホモジナイザー、ビーズミル、遊星式ボールミルなどが挙げられる。分散メディアには微小ビーズを用いる。本発明においては、ビーズの平均粒子径が0.03mm以上5mm以下のものを用いることが好ましい。ビーズの平均粒子径が5mm以下である場合、ビーズの間を磁性体無機粒子が通過する際に、磁性体無機粒子がビーズと接触する頻度が高く、十分な分散効果が得られる。ビーズの平均粒子径が0.03mm以上である場合、個々のビーズの持つ運動量が十分大きく、磁性体無機粒子の凝集をほぐすのに十分なせん断応力が得られる。
【0028】
コア−シェル構造粒子の製造に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく、グリシジルアミン型エポキシ化合物を溶解するものであればよい。具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのアセテート類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2−ヘプタノンなどのケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノ−ル、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、その他、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0029】
次に、混合した溶液を所定の時間、加熱することで、コア−シェル構造粒子を得ることができる。加熱する温度は、100〜200℃が好ましく、加熱時間は1〜12時間が好ましい。この際、粒子の沈降を防ぐために、攪拌しながら加熱することが好ましい。
【0030】
コア−シェル構造粒子のシェルの平均厚さは10nm以上1000nm以下であることが好ましい。シェルの平均厚さが1000nm以下であれば、磁性体無機粒子の高充填が可能となり、比透磁率が高い磁性体組成物を得ることができる。より好ましくは500nm以下である。シェルの平均厚さが10nm以上であればコア−シェル構造粒子のコア同士の導通を抑えることができ、体積抵抗率を増大させることができる。より好ましくは20nm以上である。なお、本発明においては、シェルの平均厚さが10nm未満である場合は、TEM観察で、シェルであるかどうかの判定が難しいことから、コア−シェル構造粒子ではないとした。
【0031】
なお、本発明においてシェルの平均厚さとは、以下のようにして得られた値をいう。すなわち、作製したコア−シェル構造粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行い、得られたTEM写真から、測定対象としたいコア−シェル構造粒子について10箇所のシェルの厚さを測定し、最大値と最小値を除いた8つの値の平均値をシェル層の平均厚さとする。なお、複数のコア−シェル構造粒子のシェル部分が接触している場合は、接触している領域については測定点には含めないものとする。
【0032】
得られたコア−シェル構造粒子を粉末として取り出すためには、コア−シェル構造粒子分散液を濾過してコア−シェル構造粒子を分離する。また、濾過ではなく、上澄みを捨てて沈殿物を取り出す方法も可能である。また、コア−シェル構造粒子分散液のコア−シェル構造粒子を自然沈降させて得る方法もある。この場合は、一度上澄みを捨て、それから沈殿物に溶媒を加えてかき混ぜ、再び沈殿させ、上澄みを捨てる工程を数回行ってから、沈殿物を得ることで、未反応の樹脂モノマーやコア−シェル構造粒子にならなかった樹脂を除去できる可能性が高くなる。
【0033】
上記の方法によれば、磁性体無機粒子表面が樹脂により効率よく覆われ、容易にコア−シェル構造粒子を得ることができる。
【0034】
本発明のペースト組成物はマトリックス樹脂を含有する。マトリックス樹脂としては、電子部品の分野で通常用いられる絶縁材料であれば良い。具体的には、ビニル樹脂、ノルボルネン樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、エポキシメタクリレート樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、シロキサン樹脂などの、重合性基を有する熱硬化型あるいはUV硬化型の樹脂が挙げられる。また、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂、ノボラック樹脂など重合性基を持たない樹脂も挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、複数種を適当な比にて用いてもよい。
【0035】
上記の中でも、硬化後の磁性体組成物の耐熱性や基材との接着性に優れる点から、エポキシ樹脂を含有することが好ましい。また、ペースト組成物から得られる磁性体組成物をインダクタ用コアや電磁波吸収体に用いる場合は、UV硬化型の樹脂を選定すると、フォトリソグラフィー法による磁性体組成物のパターニングが実現でき好ましい。
【0036】
また、エポキシ樹脂を用いる場合は、エポキシ樹脂と硬化剤を組み合わせることが好ましい。硬化剤を用いることで、ペースト組成物をより低温および短時間で硬化させることができる。さらに、硬化物の耐熱性や靭性を向上することが可能となる。
【0037】
このように、硬化剤はエポキシ樹脂の硬化を促進する役割を持つものであるから、公知の硬化剤を特に制限なく用いることができる。例えば、各種脂肪族アミン系化合物、芳香族アミン系化合物、酸無水物系化合物、ジシアンジアミド系化合物、フェノール系化合物、カルボン酸系化合物、チオール系化合物、およびイミダゾール系化合物などが挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用される。
【0038】
本発明のペースト組成物は、必要に応じて、塗布した膜の表面状態を良好なものとするために、界面活性剤を含有しても良い。また、基材との接着性を高めるために、シランカップリング剤、チタンキレート剤などを含有することもできる。
【0039】
さらに、本発明のペースト組成物は必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、溶解調整剤、安定剤、消泡剤などを含有することもできる。
【0040】
本発明において、ペースト組成物中のコア−シェル構造粒子の含有量は、有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して、50重量%以上98重量%以下であることが好ましい。ペースト組成物中の固形成分に対するコア−シェル構造粒子の含有量が50重量%以上であると、得られる磁性体組成物の透磁率を大きくすることができる。ペースト組成物中の固形成分に対するコア−シェル構造粒子の含有量は、より好ましくは80重量%以上である。ペースト組成物中の固形成分に対するコア−シェル構造粒子の含有量が98重量%以下であると、耐クラック性や基板との接着性が向上する。
【0041】
次に、本発明のペースト組成物を作製する方法を説明する。本発明のペースト組成物は磁性体無機粒子をコアとするコア−シェル構造粒子、マトリックス樹脂を含有し、ペーストの流動性を調整するために必要に応じて有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては特に制限はないが、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0042】
まず、コア−シェル構造粒子、マトリックス樹脂および必要に応じ有機溶媒を所定量混合する。その後、ペースト組成物を均質にするために、ボールミルやロールミル、ニーダーを用いた処理を行う。このような処理を行える装置としては、例えば、3本ロール(EXAKT(株)製、model−50)等がある。3本ロールは、高せん断応力を持つため、ペースト組成物をより均質にすることができる。
【0043】
このとき必要に応じさらに他の物質を混合してもよい。また、ペースト組成物の粘度を調整するために、さらに有機溶媒を追加したり、加熱や減圧により有機溶媒を適量除去したりしてもよい。また、このとき得られたコア−シェル構造粒子と樹脂溶液を混合する前に、コア−シェル構造粒子を前処理させたものを利用してもよい。
【0044】
さらに、本発明のペースト組成物は、上記の混合物を3本ロール等で混錬後にフィルターで濾過したものであっても構わない。濾過する方法としては、真空濾過、加圧濾過、大気濾過等があるが、この中でも加圧濾過が好ましい。加圧濾過の場合は、圧力は0.1〜0.4Mpaが好ましく、また、濾過フィルターは、捕捉粒子径0.5〜100μmのメンブレムフィルターが好ましい。
【0045】
次に、上記のようにして製造したペースト組成物を硬化させて、磁性体組成物を製造する方法について詳細に説明する。例えば、ペースト組成物をある被着体に塗布し、有機溶媒を除去し、加熱処理などによりペースト組成物を硬化させ、磁性体組成物を製造することができる。ただし、本発明の磁性体組成物は焼結体ではないので、樹脂を完全に分解、除去する必要はなく、電子部品の耐熱温度範囲内(例えば、500℃以下の温度)で加熱することが好ましい。
【0046】
ペースト組成物を塗布する被着体は、例えば、シリコンウエハー、ガラス類、セラミックス類およびガリウムヒ素などの基板、有機系回路基板、無機系回路基板、ならびにこれらの基板に回路の構成材料が配置されたものなどが挙げられるが、これらに限定されない。有機系回路基板の例としては、ガラス布・エポキシ銅張積層板などのガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板などのコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリイミド樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板などの耐熱・熱可塑性基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板などのフレキシブル基板が挙げられる。
【0047】
また、無機系回路基板の例は、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板などのセラミック基板、アルミニウムベース基板、鉄ベース基板などの金属系基板が挙げられる。回路の構成材料の例は、銀、金、銅などの金属を含有する導体、無機系酸化物などを含有する抵抗体、ガラス系材料および/または樹脂などを含有する低誘電体、樹脂や高誘電率無機粒子などを含有する高誘電体、ガラス系材料などを含有する絶縁体などが挙げられる。
【0048】
また、被着体とペースト組成物との接着性を高めるために、被着体表面にシランカップリング剤などによる表面処理を施してもよい。
【0049】
ペースト組成物を被着体に塗布する方法としてはスピナーを用いた回転塗布、スプレー塗布、ロールコーティング、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、カレンダーコーター、メニスカスコーター、バーコーターなどの方法がある。また、塗布膜厚は、塗布手法、組成物の固形分濃度、粘度などによって異なるが、通常、乾燥後の膜厚が、0.1〜300μmになるように塗布することが好ましい。
【0050】
次に被着体上に塗布したペースト組成物膜から有機溶媒を除去する。有機溶媒を除去する方法としては、オーブン、ホットプレート、赤外線などによる加熱乾燥や真空乾燥などが挙げられる。加熱乾燥は50℃から180℃の範囲で1分から数時間行うのが好ましい。なお、本工程はいわゆる乾燥工程に該当するため、ここで有機溶媒を完全に除去する必要はない。
【0051】
その後、用いたペースト組成物中の樹脂の硬化機構に応じて、加熱処理や光照射などによりペースト組成物の硬化反応を進行させる。なお、加熱処理の場合は、次工程である膜強化のための加熱処理と兼ねてもよい。
【0052】
次に、膜強化のために加熱処理を行う。加熱の処理温度は120℃から400℃の範囲内が好ましく、一定温度あるいは段階的に昇温し、処理時間は5分から5時間の範囲で実施することができる。より好ましくは、150℃以上、250℃未満である。さらに好ましくは200℃以下である。200℃以下であると、コア−シェル構造粒子を製造するにあたり前処理でシランカップリング剤を利用した場合に、そのシランカップリング剤が失活する可能性が低くなり、その結果、コア−シェル構造粒子のシェル膜を維持でき、高体積抵抗率を得ることができる。また、窒素などの不活性雰囲気下での処理とすると、重合体の酸化を抑制するので好ましい。酸素により活性が失われるラジカルを発生させる重合促進剤を用いた組成で硬化を行う場合も、窒素などの不活性雰囲気下での処理とすると、重合を阻害しないので好ましい。
【0053】
以上のように作製された、本発明のコアーシェル構造粒子を含むペースト組成物から得られる磁性体組成物は、磁性体無機粒子の樹脂中での分散性が良好で、比透磁率を大きく保ったままtanδが小さくなるなど、磁性体材料として優れた特性を示す。また体積抵抗率も高い。
【0054】
磁性体組成物の体積抵抗率は、1×10Ωcm以上であることが好ましい。1×10Ωcm以上であると、絶縁性が良好であり、リーク電流を抑制することが可能となる。より好ましくは1×1010Ωcm以上であり、さらに好ましくは、1×1012Ωcm以上であり、この場合には絶縁性が特に良好となる。
【0055】
本発明のコア−シェル構造粒子含有の磁性体組成物の形態は特に限定されず、膜状、棒状、球状など、用途に合わせて選択することができるが、特に膜状であることが好ましい。ここでいう膜とは、フィルム、シート、板、ペレットなども含まれる。もちろん、導通のためのビアホール形成、インピーダンスや静電容量あるいは内部応力の調整、または、放熱機能付与など、用途にあわせた加工を行うこともできる。
【0056】
次に、本発明のコア−シェル構造粒子やペースト組成物の用途として、磁性体組成物を有するインダクタについて説明する。なお近年は様々なインダクタが提案されており、本発明のペースト組成物の用途は以下に限定されるものではない。
【0057】
本発明のコア−シェル構造粒子や、コア−シェル構造粒子を利用したペースト組成物および磁性体組成物の用途は、例えば、高透磁率を有するインダクタ用コアへの適用が好ましい。また、本発明でいうインダクタは、半導体素子、ICチップ、回路基板およびこれらを含む電子部品に形成されていることが好ましい。
【0058】
本発明のコア−シェル構造粒子およびペースト組成物の硬化物を有するインダクタの製造方法の例は以下の通りである。ICチップの電子回路が形成されていない面に渦巻き状の巻き線が平面内にスパイラルインダクタを形成する。スパイラルインダクタの製造方法は、公知の製造技術を用いて製造することができ、例えば電解メッキ法を用いて製造することができる。次に、そのスパイラルインダクタ上に本発明のコア−シェル構造粒子を含むペースト組成物を塗布し、乾燥する。その後、加熱処理することによって、本発明のコア−シェル構造粒子を含む磁性体組成物がコアとして用いられたインダクタが得られる。また、別の製造方法としては、例えば、フェライト粉末をポリイミド樹脂等でペースト状にして薄い中空を持つ膜を多数作り、それらの膜に導電パターンを印刷して、重ねて焼成してできたインダクタの中空部に、上記で作製したコア−シェル構造粒子含有のペースト組成物を塗布し、硬化させる。その結果、本発明のコア−シェル構造粒子を含む磁性体組成物がコアとして用いられたインダクタが得られる。
【0059】
本発明の磁性体組成物の透磁率は、たとえば次のように測定することができる。ガラス基板やフィルム基板等の非磁性基板の上に形成した高透磁率材料の薄膜試料をコイル中に配置し、コイル近傍のストリップ線路からコイルに磁束が鎖交するように交流磁界をかける。測定を行なう周波数に対し、ネットワークアナライザーでSパラメータの伝達係数S21を測定し、試料をコイル中に置くことによって伝達係数S21がどの程度変化するかによって透磁率を求めることができる。このような方法で測定できる装置としては、例えば、高周波薄膜透磁率測定装置((株)東栄科学産業製)がある。
【0060】
本発明のコア−シェル粒子含有の磁性体組成物は、パソコン、携帯電話や携帯情報端末、フラットパネルテレビ、ゲーム機器等の小型機器の電子回路に用いられるものである。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中のコア−シェル構造粒子並びにペースト組成物の評価は以下の方法により行った。
【0062】
<シェルの平均厚さの測定>
作製したコア−シェル構造粒子をH−7100FA((株)日立製作所製)を用いてTEM観察を行い、100nmが実測で5cmとなるまで拡大した(50万倍)。この状態で、測定対象としたいコア−シェル構造粒子について10箇所のシェルの厚さを測定し、最大値と最小値を除いた8つの値の平均値をシェルの平均厚さとした。なお、粒子同士がシェル樹脂を介して接触している場合には、接触している部分については測定個所には含めなかった。
【0063】
<磁性体組成物の体積抵抗率の測定方法>
まず、ペースト組成物をCr膜付きシリコン基板上に塗布した後、熱風オーブン炉で60℃で30分乾燥した。次いで、イナートオーブン“INL−60”(商品名、光洋サーモシステム(株)製)を用いて大気雰囲気下、150℃で1時間加熱処理し、磁性体組成物を得、さらに、磁性体組成物の上に、Au電極(電極面積1cm)を蒸着した。Au電極とCr膜付きシリコン基板間で、DC電圧5Vを印加し、その時得られた抵抗値と磁性体組成物の膜厚から、体積抵抗率を求めた。体積抵抗率は、“絶縁抵抗計6517A”(商品名、ケースレーインスツルメンツ(株)製)を用いて測定した。磁性体組成物の膜厚は、サンプル断面のSEM(走査型電子顕微鏡)観察から測定した。
【0064】
<磁性体組成物の透磁率測定>
まず、ガラス基板上にペースト組成物を塗布した後、熱風オーブン炉で60℃で30分乾燥した。次いで、イナートオーブン“INL−60”(商品名、光洋サーモシステム(株)製)を用いて大気雰囲気下、150℃で1時間加熱処理し、磁性体組成物を得た。磁性体組成物の膜厚は約100μmになるようにした。その磁性体組成物を5mm角にカットした後、そのサンプルを高周波薄膜透磁率測定装置((株)東栄科学産業製)に入れて、透磁率測定を行った。測定は、その薄膜試料をコイル中に配置し、コイル近傍のストリップ線路からコイルに磁束が鎖交するように10M〜2GHzまでの交流磁界をかけ、ネットワークアナライザーでSパラメータの伝達係数S21を測定し、試料をコイル中に配置しない場合と比べてS21がどの程度変化するかによって透磁率を求めた。また、透磁率の補正には、測定で得られた伝達係数S11、S22等を用いた。また、磁性体組成物の膜厚は、サンプル断面のSEM(走査型電子顕微鏡)観察から測定した。
【0065】
透磁率は、μ=μ’+iμ”(μ’:実部、μ”:虚部)で表され、各実施例における透磁率はμ’の値を、また、tanδは、μ”/ μ’の値を記載した。なお、各実施例においては、1GHzでの値を代表して示した。
【0066】
実施例、比較例で用いた各材料は以下のとおりである。
【0067】
<磁性体無機粒子>
HQ粉(商品名、BASF製カルボニル鉄粉末、平均粒子径1.2μm)
アモルファス合金パウダー(商品名、エプソンアトミックス製Fe基アモルファス、平均粒子径10.45μm)。
【0068】
<シェル作製に用いた化合物>
jER−630LSD(商品名、三菱化学(株)製、グリシジルアミン型エポキシ化合物)
jER−604(商品名、三菱化学(株)製、グリシジルアミン型エポキシ化合物)
850S(商品名、DIC(株)製、ビスフェノールA型エポキシ化合物)
【0069】
【化3】

【0070】
<エポキシ樹脂>
EXA−4850−150(商品名、DIC(株)製)
EXA−4880(商品名、DIC(株)製)
jER−4250(商品名、三菱化学(株)製)
850S(商品名、DIC(株)製)
<硬化剤>
ビス(3−アミノフェニル)スルホン(以下、3,3’−DDSとする)
<溶媒>
N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPとする)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMEとする)
γ−ブチロラクトン(以下、GBLとする)。
【0071】
各実施例および比較例で用いたコア−シェル構造粒子は以下の方法により合成した。
【0072】
<コア−シェル型構造粒子Iの合成例>
磁性体無機粒子HQ粉を50g、グリシジルアミン型エポキシ化合物jER−630LSDを5g、NMP200gを四つ口フラスコに投入した。次に、シリコンオイルバスを用いて、40℃で1時間攪拌し、その後160℃で3時間攪拌を行い、コアーシェル構造粒子分散液を得た。次に、0.45μmのメンブレムフィルターを用いて加圧濾過し、濾過後、さらに上からPGMEを加え、コア−シェル構造粒子を洗浄し、加圧濾過を行った。得られた濾物を熱風オーブン炉で80℃で1時間乾燥させ、コアーシェル構造粒子48gを得た。シェルの平均厚さは22nmであった。
【0073】
<コア−シェル型構造粒子IIの合成例>
磁性体無機粒子アモルファス合金パウダーを50g、グリシジルアミン型エポキシ化合物jER−630LSDを5g、NMP200gを四つ口フラスコに投入した。次に、シリコンオイルバスを用いて、40℃で1時間攪拌し、その後160℃で3時間攪拌を行い、コアーシェル構造粒子分散液を得た。次に、0.45μmのメンブレムフィルターを用いて加圧濾過し、濾過後、さらに上からPGMEを加え、コア−シェル構造粒子を洗浄し、加圧濾過を行った。得られた濾物を熱風オーブン炉で80℃で1時間乾燥させ、コアーシェル構造粒子49gを得た。シェルの平均厚さは25nmであった。
【0074】
<コア−シェル型構造粒子IIIの合成例>
磁性体無機粒子アモルファス合金パウダーを50g、グリシジルアミン型エポキシ化合物jER−604を5g、NMP200gを四つ口フラスコに投入した。次に、シリコンオイルバスを用いて、40℃で1時間攪拌し、その後160℃で3時間攪拌を行い、コアーシェル構造粒子分散液を得た。次に、0.45μmのメンブレムフィルターを用いて加圧濾過し、濾過後、さらに上からPGMEを加え、コア−シェル構造粒子を洗浄し、加圧濾過を行った。得られた濾物を熱風オーブン炉で80℃で1時間乾燥させ、コアーシェル構造粒子48gを得た。シェルの平均厚さは19nmであった。
【0075】
<コア−シェル型構造粒子IVの合成例>
磁性体無機粒子HQ粉を50g、EPICLON−850Sを5g、NMP200gを四つ口フラスコに投入した。次に、シリコンオイルバスを用いて、40℃で1時間攪拌し、その後160℃で3時間攪拌を行い、コアーシェル構造粒子分散液を得た。次に、0.45μmのメンブレムフィルターを用いて加圧濾過し、濾過後、さらに上からPGMEを加え、コア−シェル構造粒子を洗浄し、加圧濾過を行った。得られた濾物を熱風オーブン炉で80℃で1時間乾燥させ、コアーシェル構造粒子48gを得た。シェルの平均厚さは10nm未満であり、シェルは形成されなかったと判断した。
【0076】
実施例1
上記方法で得られた、コア−シェル型構造粒子Iの粉末10gと、マトリックス樹脂および硬化剤としてEXA−4850−150と3,3’−DDSの混合物(3,3’−DDSを100重量部に対しEXA−4850−150を360重量部)のGBL溶液1.5g(固形分0.53g)を混ぜ、3本ロール(EXAKT M−80S)で400rpmで10回通した。その後、ハイブリッドミキサー(KEYENCE(株)製HM−500、攪拌5分+脱泡2分)で攪拌し、ペースト組成物を得た。
【0077】
次いで、上述の磁性体組成物の体積抵抗率の測定方法に従い、体積抵抗率の測定を行ったところ、8×10Ωcmであった。さらに、同様に磁性体組成物の透磁率の測定を行ったところ、透磁率(μ’)4.3、tanδ0.16であった。
【0078】
実施例2〜7、比較例1〜3
表1に示すように、磁性体無機粒子およびマトリックス樹脂を変えた以外は実施例1と同様の方法でペースト組成物を作成し、上述の方法に従って、体積抵抗率と透磁率の評価を行った。その結果を表1〜表2に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体無機粒子をコアとするコア−シェル構造粒子であって、前記シェルがグリシジルアミン型エポキシ化合物を付加重合させて得られる樹脂を含むことを特徴とするコア−シェル構造粒子。
【請求項2】
前記グリシジルアミン型エポキシ化合物が下記一般式(1)に示した構造を有する化合物である請求項1に記載のコア−シェル構造粒子。
【化1】

(一般式(1)中、Rは、グリシジル基または炭素数1〜5のアルキル基である。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のコア−シェル構造粒子およびマトリックス樹脂を含有するペースト組成物。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂がエポキシ樹脂を含有する請求項3記載のペースト組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載のペースト組成物を熱処理して得られる磁性体組成物。
【請求項6】
体積抵抗率が1×10Ωcm以上である請求項5記載の磁性体組成物。
【請求項7】
請求項3または4に記載のペースト組成物の硬化物を有するインダクタ。

【公開番号】特開2012−177044(P2012−177044A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41381(P2011−41381)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】