説明

コア−シェル粒子およびこの粒子から作られる定着器部材

【課題】熱導電性が向上した定着器部材を提供する。
【解決手段】定着器部材100の熱導電性を向上させるため、コア−シェル粒子を定着器部材100の層に分散させる。コア−シェル粒子は、シェル層に囲まれたグラフェンコアを含む。シェル層は、ポリペンタフルオロスチレン、ポリスチレンおよびポリジビニルベンゼンからなる群から選択されるポリマーを含む。コア−シェル粒子は、定着器部材100の中間層120または剥離層130に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、デジタル、多重画像型などを含む電子写真式画像形成装置で有用な熱導電性粒子および定着器部材での使用に関する。それに加え、熱導電性粒子およびこの粒子から作られる定着器部材も、固体インクジェット印刷機の転写固定装置で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
電子写真式印刷プロセスにおいて、トナー画像は、定着器ローラーまたは定着器ベルトを用いて支持板(例えば、紙シート)に固定されてもよく、定着されてもよい。定着器部材の表面は、熱導電性が許容範囲にあることが必要である。定着器部材の材料として使用される多くのポリマーは、それ自体が熱導電性ではなく、ポリマーマトリックスにフィラーを加え、適切な熱導電性を付与することが必要である。
【0003】
ポリマーマトリックスの熱導電性を向上させることができる材料に依然として関心がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態によれば、基材と剥離層とを備える定着器部材が提供される。剥離層は、基材の上に配置されている。剥離層は、フルオロポリマーに分散した複数のコア−シェル粒子を含んでおり、コア粒子は、シェル層に囲まれたグラフェンを含んでいる。シェル層は、以下の式を有するモノマーから作られるポリマーを含み、
【化1】

式中、R、R、R、R、Rは、水素、フッ素またはCH=CH基である。
【0005】
別の実施形態によれば、シェル層に囲まれたグラフェンコアを含むコア粒子が提供される。シェル層は、以下の式を有するモノマーから作られるポリマーを含み、
【化2】

式中、R、R、R、R、Rは、水素、フッ素またはCH=CH基である。
【0006】
別の実施形態によれば、基材と中間層とを含む定着器部材が提供される。中間層は、シリコーンゴム、シロキサン、フルオロエラストマーからなる群から選択される材料に分散した複数のコア−シェル粒子を含む。コア粒子は、ポリマーシェル層に囲まれたグラフェンを含み、このポリマーは、ポリペンタフルオロスチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼンからなる群から選択される。中間層は、基材の上に配置されている。剥離層は、中間層の上に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本教示による円柱状基板を備える例示的な定着部材を示す図である。
【図2】図2は、本教示によるベルト基板を備える例示的な定着部材を示す図である。
【図3A】図3Aは、本発明の教示による、図1に示した定着器ローラーを用いた例示的な定着構造を示す図である。
【図3B】図3Bは、本発明の教示による、図1に示した定着器ローラーを用いた例示的な定着構造を示す図である。
【図4A】図4Aは、本発明の教示による、図2に示した定着器ベルトを用いた例示的な定着構造を示す図である。
【図4B】図4Bは、本発明の教示による、図2に示した定着器ベルトを用いた例示的な定着構造を示す図である。
【図5】図5は、転写固定装置を用いる例示的な定着器構造を示す図である。
【図6】図6は、カプセル化プロセスの模式図である。
【図7】図7は、カプセル化されたグラフェン粒子とカプセル化されていないグラフェン粒子の熱拡散性対フィラー保持量を比較する図である。
【図8】図8は、カプセル化されたグラフェン粒子とカプセル化されていないグラフェン粒子の熱導電性対フィラー保持量を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
固定部材は、1つ以上の機能性層が形成された基板を備えていてもよい。基材は、例えば、円柱またはベルトを含んでいてもよい。画像支持材料(例えば、紙のシート)の上にある定着したトナー画像からのトナー剥離性が良好であり、この性質を維持し、さらに、紙をはがしやすくするために、このような固定部材を、高速高品質の電子写真印刷のための油を用いない定着部材として用いてもよい。
【0009】
種々の実施形態では、固定部材は、例えば、1つ以上の機能性層が形成された基板を備えていてもよい。基板は、例えば、図1および図2に示されるように、特定の構造に依存して、非導電性または導電性の適切な材料を用い、円柱(例えば、円筒管)、円柱状のドラム、ベルト、ドレルト(ドラムとベルトの中間)または膜のような種々の形状で作成されてもよい。
【0010】
特に、図1は、本教示による円柱状基板110を備える固定部材または定着部材100の例示的な実施形態を示し、図2は、本教示によるベルト基板210を備える、別の例示的な固定部材または定着部材200を示す。図1に示されている固定部材または定着部材100および図2に示されている固定部材または定着部材200は、一般化された概略をあらわしており、他の層/基板を加えてもよく、存在する層/基板を除去するか、または変えてもよいことは、当業者には容易に明らかになるはずである。
【0011】
図1において、例示的な固定部材100は、1つ以上の機能性層120と外側層130(剥離層とも呼ばれる)とが形成された円柱状基板110を備える定着器ローラーであってもよい。外側層130は、厚みが約5μm〜約250μm、または約10μm〜約150μm、または約15μm〜約50μmである。種々の実施形態では、円柱状基板110は、円筒管の形(例えば、内部に加熱ランプを備える中空構造を有するもの、または中身が詰まった円筒状のシャフト)をしていてもよい。図2において、例示的な固定部材200は、1つ以上の機能性層(例えば、220)と外側表面230とが形成されたベルト基板210を備えていてもよい。外側層230(剥離層とも呼ばれる)は、厚みが約5μm〜約250μm、または約10μm〜約150μm、または約15μm〜約50μmである。
【0012】
(基材層)
ベルト基板210および円柱状基板110は、当業者には知られているように、剛性および構造の完全性を維持するために、例えば、ポリマー材料(例えば、ポリイミド、ポリアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリケトン、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリイミドまたはフルオロポリウレタン)または金属材料(例えば、アルミニウムまたはステンレス鋼)から作られていてもよい。
【0013】
(中間層)
中間層120および220(機能性層とも呼ばれる)の例としては、フルオロシリコーン、シリコーンゴム、例えば、室温加硫(RTV)シリコーンゴム、高温加硫(HTV)シリコーンゴム、低温加硫(LTV)シリコーンゴムが挙げられる。これらのゴムは既知であり、商業的に簡単に入手可能であり、例えば、SILASTIC(登録商標)735ブラックRTVおよびSILASTIC(登録商標)732 RTV(いずれもDow Corning製)、106 RTV Silicone Rubberおよび90 RTV Silicone Rubber(いずれもGeneral Electric製)、JCR6115CLEAR HTVおよびSE4705U HTVシリコーンゴム(Dow Corning Toray Silicones製)である。他の適切なシリコーン材料としては、シロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン(フルオロエラストマー)(例えば、Sampson Coating(リッチモンド、バージニア)から入手可能なSilicone Rubber 552)、液体シリコーンゴム、例えば、ビニル架橋した熱硬化性ゴム、またはシラノールを室温で架橋した材料などが挙げられる。別の特定の例は、Dow Corning Sylgard 182である。市販のLSRゴムとしては、Dow Corning製のDow Corning Q3−6395、Q3−6396、SILASTIC(登録商標)590 LSR、SILASTIC(登録商標)591 LSR、SILASTIC(登録商標)595 LSR、SILASTIC(登録商標)596 LSR、SILASTIC(登録商標)598 LSRが挙げられる。中間層は、弾力性を付与し、必要な場合には、例えば、SiCまたはAlのような無機粒子と混合してもよい。
【0014】
また、中間層120および220の例としては、フルオロエラストマーも挙げられる。フルオロエラストマーは、(1)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのうち、2つのコポリマー、(2)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのターポリマー、(3)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、キュアサイトモノマーのテトラポリマーといった種類に由来する。これらのフルオロエラストマーは、種々の名称、例えば、VITON A(登録商標)、VITON B(登録商標)、VITON E(登録商標)、VITON E 60C(登録商標)、VITON E430(登録商標)、VITON 910(登録商標)、VITON GH(登録商標)、VITON GF(登録商標)、VITON ETP(登録商標)で商業的に知られている。VITON(登録商標)という名称は、E.I.DuPont de Nemours,Incの商標である。キュアサイトモノマーは、4−ブロモペルフルオロブテン−1、1,1−ジヒドロ−4−ブロモペルフルオロブテン−1、3−ブロモペルフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロ−3−ブロモペルフルオロプロペン−1、または任意の他の適切な既知のキュアサイトモノマー、例えば、DuPontから市販されているものであってもよい。他の市販されているフルオロポリマーとしては、FLUOREL 2170(登録商標)、FLUOREL 2174(登録商標)、FLUOREL 2176(登録商標)、FLUOREL 2177(登録商標)、FLUOREL LVS 76(登録商標)が挙げられ、FLUOREL(登録商標)は、3M Companyの登録商標である。さらなる市販材料としては、AFLASTMというポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン)、FLUOREL II(登録商標)(LII900)というポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレンビニリデンフルオリド)(これらも、3M Companyから入手可能)、FOR−60KIR(登録商標)、FOR−LHF(登録商標)、NM(登録商標)FOR−THF(登録商標)、FOR−TFS(登録商標)、TH(登録商標)、NH(登録商標)、P757(登録商標)TNS(登録商標)T439(登録商標)、PL958(登録商標)、BR9151(登録商標)、TN505(登録商標)として特定されるTecnoflon(Ausimontから入手可能)が挙げられる。
【0015】
3種類の既知のフルオロエラストマーの例は、(1)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのうち、2つのコポリマー類、例えば、VITON A(登録商標)として商業的に知られているもの、(2)VITON B(登録商標)として商業的に知られている、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのターポリマー類、(3)VITON GH(登録商標)またはVITON GF(登録商標)として商業的に知られている、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、キュアサイトモノマーのテトラポリマー類である。
【0016】
フルオロエラストマーであるVITON GH(登録商標)およびVITON GF(登録商標)は、フッ化ビニリデンの量が比較的少ない。VITON GF(登録商標)およびVITON GH(登録商標)は、約35重量%のフッ化ビニリデンと、約34重量%のヘキサフルオロプロピレンと、約29重量%のテトラフルオロエチレンと、約2重量%のキュアサイトモノマーとを有している。
【0017】
ローラー構造の場合、機能性層120の厚みは、約0.5mm〜約10mm、または約1mm〜約8mm、または約2mm〜約7mmであってもよい。ベルト構造の場合、機能性層220は、約25μm〜約2mm、または約40μm〜約1.5mm、または約50μm〜約1mmであってもよい。いくつかの実施形態では、機能性層120の硬度は、約20 Shore A Durometer〜約80 Shore A Durometer、または約40 Shore A Durometer〜約60 Shore A Durometer、または約50 Shore A Durometer〜約60Shore A Durometerである。いくつかの実施形態では、機能性層120の導電性は、約0.1W/mK〜約3.0W/mK、または約1.0W/mK〜約3.0W/mK、または約2.5W/mK〜約3.0W/mKである。
【0018】
(剥離層)
本明細書に記載する表面層130または230(剥離層とも呼ばれる)として使用するのに適したフルオロポリマーとしては、フッ素含有ポリマーが挙げられる。これらのポリマーとしては、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー繰り返し単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。フルオロポリマーは、直鎖または分枝鎖のポリマー、架橋したフルオロエラストマーを含んでいてもよい。フルオロポリマーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDF(登録商標)またはVF2)とのコポリマー、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF(登録商標))、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)のターポリマー、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VF2)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)のテトラポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。フルオロポリマー粒子は、化学薬品および熱に安定であり、表面エネルギーが低い。
【0019】
(接着層)
場合により、任意の既知の接着層および入手可能な適切な接着層が、外側層、機能性層、基板の間に配置されていてもよい。適切な接着剤の例としては、アミノシランのようなシラン類(例えば、Dow Corning製のHV Primer 10)、チタネート、ジルコネート、アルミネートなど、およびこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、接着剤は、約0.001%溶液〜約10%溶液の形態で基板にのせられてもよい。接着層は、約2nm〜約2,000nm、または約2nm〜約500nmの厚みで基板または外側層にコーティングされてもよい。接着剤を、スプレーコーティングまたはワイピングを含む既知の任意の適切な技術によってコーティングしてもよい。
【0020】
図3A〜4Bおよび図4A〜4Bは、本発明の教示による融合プロセスのための例示的な定着構造を示す。図3A〜3Bに示されている定着構造300A〜B、および図4A〜4Bに示されている定着構造400A〜Bが、一般化された概略図を示しており、他の部材/層/基板/構造を追加してもよく、または、既存の部材/層/基板/構造を取り除くか、または変えてもよいことが当業者には容易に明らかになるはずである。本明細書では電子写真式プリンターを記載しているが、開示されている装置および方法を、他の印刷技術に応用してもよい。実施例としては、オフセット印刷およびインクジェット機および固体転写固定機が挙げられる。
【0021】
図3A〜3Bは、本教示による、図1に示される定着器ローラーを用いた定着構造300A〜Bを示す。構造300A〜Bは、定着器ローラー100(すなわち、図1の100)を備えていてもよく、このローラーは、加圧機構335(例えば、図3Aの加圧ローラーまたは図3Bの加圧ベルト)とともに、画像支持材料315のための定着器用爪を形成する。種々の実施形態では、加圧機構335を、加熱ランプ337と組み合わせて用い、トナー粒子を画像支持材料315の上で融合させるプロセスのために圧力と熱を両方加えてもよい。それに加え、構造300A〜Bは、図3Aおよび図3Bに示されているように、1つ以上の外部熱ローラー350を、例えば、クリーニングウェブ360とともに備えていてもよい。
【0022】
図4A〜4Bは、本教示による、図2に示される定着器ベルトを用いた定着構造400A〜Bを示す。構造400A〜Bは、定着器ベルト200(すなわち、図2の200)を備えていてもよく、このベルトは、加圧機構435、例えば、図4Aの加圧ローラーまたは図4Bの加圧ベルトとともに、媒体基板415のための定着器用爪を形成する。種々の実施形態では、加圧機構435を、加熱ランプと組み合わせて用い、トナー粒子を媒体基板415の上で融合させるプロセスのために圧力と熱を両方加えてもよい。それに加え、構造400A〜Bは、定着器ベルト200を動かし、媒体基板415の上でトナー粒子を融合させ、画像を作成するような機械システム445を備えていてもよい。機械システム445は、1つ以上のローラー445a〜cを備えていてもよく、必要な場合には、これらを加熱ローラーとして用いてもよい。
【0023】
図5は、ベルト、シート、膜などの形態であってもよい、転写固定部材7の一実施形態の図を示す。転写固定部材7は、上述の定着器ベルト200と似た構成である。現像した画像12が中間転写体1の上にあり、ローラー4およびローラー8を介して転写固定部材7と接触し、転写固定部材7に転写される。ローラー4および/またはローラー8は、これらに関連して熱を帯びていてもよいし、帯びていなくてもよい。転写固定部材7は、矢印13の方向に進む。複写基板9がローラー10とローラー11との間を進むにつれて、現像した画像が複写基板9に転写され、融合する。ローラー10および/またはローラー11は、これらに関連して熱を帯びていてもよいし、帯びていなくてもよい。
【0024】
本明細書には、市販のグラフェン粒子に基づくカプセル化された粒子またはコア−シェル粒子が開示されている。コア−シェル粒子を使用し、定着器部材の上に剥離層を作成する。剥離層は、コア−シェル粒子をフルオロポリマーに分散させることによって作られる。剥離層は、カプセル化されていないグラフェン粒子と比較して、定着器部材に優れた熱導電性を付与する。グラフェン粒子は、フッ素化モノマーの層でコーティングされ、表面で開始される重合によって、グラフェン粒子の表面にコーティングまたはシェル層を製造する。これにより、フルオロポリマー中のコア−シェル粒子の分散性が向上し、得られた層の最終的なコンポジットの熱導電性が向上する。この改良されたコアシェル粒子を、種々の融合サブシステムおよび層の定着器材料として使用してもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、コア−シェル粒子を中間層として使用してもよい。すでに記載したように、中間層は、シリコーンゴム、低温加硫(LTV)シリコーンゴム、シロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン、液体シリコーンゴム、例えば、ビニル架橋した熱硬化性ゴムまたはシラノールを室温で架橋した材料などの材料である。中間層は、フルオロエラストマーであってもよい。中間層を、本明細書に記載のコア−シェル粒子と混合してもよい。
【0026】
本明細書に記載したコアシェル粒子を作るためのカプセル化は、従来のシラン処理または他のナノ粒子の処理よりも効果的である。グラフェン粒子を、コア−シェル粒子の合計重量を基準として、約1重量%〜約20重量%のポリマーでカプセル化するか、またはコア−シェル粒子の合計重量を基準として、約1重量%〜約10重量%、または約1重量%〜約5重量%のポリマーでカプセル化する。グラフェン粒子は、厚みが約1nm〜約20nm、またはいくつかの実施形態では、約1nm〜約10nm、または約3nm〜約10nmの範囲である。グラフェン粒子は、面寸法が約2ミクロン〜約20ミクロン、または約1ミクロン〜約10ミクロン、または約1ミクロン〜約5ミクロンである。コア−シェルグラフェン粒子は、機能性層または剥離層の配合中および調製中に、フルオロポリマーまたはシリコーンへの分散性が改良されている。フッ素化ビニルモノマー、ポリスチレンおよび/またはポリジビニルベンゼンを用いることによってカプセル化が達成される。グラフェン上のコーティングは、フルオロポリマーと化学的に似ている。また、熱安定性を高め、ポリマーに相溶性の有機コーティングのために、他のカプセル化コーティングを、フルオロ−スチレンおよびペンタフルオロ−スチレンおよび他の市販のモノマーと置き変えることも可能である。
【0027】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子表面で、いくつかのスチレン類似体の遊離ラジカル重合を実施してもよい。カプセル化されるグラフェン粒子を反応容器に加え、4−ビニルピリデンまたは機能性シランのようなカップリング剤を図6に模式的に示されるように溶媒に溶解させる。カップリング剤は任意である。許容範囲の有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン鉱物スピリット、トルエン、イソプロピルアルコールが挙げられる。モノマーを加え、容器を約70℃〜約80℃に維持し、次いで、開始剤、例えば、過酸化ベンゾイルまたは塩化アルミニウムを加える。反応剤を16〜20時間かけて一晩撹拌し、遠心分離し、許容範囲の有機溶媒で洗浄し、減圧乾燥器中、約80℃で約24時間乾燥させた。使用したモノマーは、以下の一般式によってあらわされ、
【化3】

式中、R、R、R、R、Rは、水素、フッ素またはCH=CH基である。この例で使用するモノマーは、ジビニルベンゼン、スチレン、ペンタフルオロスチレンである。
【0028】
反応を図6に示す。粒子のシェルは、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。このコポリマーの実施形態では、ジビニルベンゼン:スチレン:ペンタフルオロスチレンの重量比は、約100:0:0〜約50:0:50〜約50:25:25であってもよく、その間のすべての範囲であってもよい。シェル層の厚みは、約1ナノメートル〜約100ナノメートル、または約5ナノメートル〜約50ナノメートル、または約10ナノメートル〜約250ナノメートルである。
【0029】
上に記載したコア−シェルグラフェン粒子を用いて剥離層または中間層を製造するために、選択したポリマーを適切な溶媒に十分に溶解する。ポリマーを溶解するのに適した溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN−メチル 2 ピロリドン(NMP)のようなWittig反応溶媒とともに、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチル−tertブチルエーテル(MTBB)、メチル n−アミルケトン(MAK)、テトラヒドロフラン(THF)、Alkalis、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、または任意の他の低分子量カルボニル、極性溶媒、難燃性油圧油が挙げられる。次いで、カプセル化されたグラフェン粒子を、所望の性質を達成するのに十分な量で加える。融合用途に適切なポリマーとしては、すでに述べたシリコーン、シロキサン、フルオロシリコーン、フルオロエラストマーおよびフルオロプラスチックが挙げられる。撹拌棒または撹拌ブレードまたは超音波デバイスを用いることによって、混合物を十分に混合した後、さらなる化学硬化剤を加える。コア−シェルまたはカプセル化された粒子の重量比は、約80:20〜約95:5(コア:シェル)である。
【0030】
いくつかの実施形態では、熱導電性を高めるために、約0.5重量%〜約40重量%のカプセル化されたグラフェン粒子を剥離層に付与してもよい。いくつかの実施形態では、熱導電性を高めるために、約1重量%〜約20重量%のカプセル化されたグラフェン粒子、または約2重量%〜約10重量%のカプセル化されたグラフェン粒子を剥離層または機能性層に付与してもよい。剥離層または中間体を、スプレーコーティング、フローコーティング射出成型または別の適切な方法によって作成してもよい。
【0031】
本明細書に記載の剥離層に使用するのに適したフルオロポリマーとしては、フッ素含有ポリマーが挙げられる。これらのポリマーとしては、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー繰り返し単位を含むフッ素系ポリマーが挙げられる。フルオロポリマーは、直鎖または分枝鎖のポリマー、架橋したフルオロエラストマーを含んでいてもよい。フルオロポリマーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDF(登録商標)またはVF2)とのコポリマー、テトラフルオロエチレン(TFE)と、フッ化ビニリデン(VDF(登録商標))と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのターポリマー、テトラフルオロエチレン(TFE)と、フッ化ビニリデン(VF2)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのテトラポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。フルオロポリマー粒子は、化学薬品安定性および熱安定性を付与し、表面エネルギーは低い。フルオロポリマー粒子は、融点が約200℃〜約400℃、または約255℃〜約360℃、または約280℃〜約330℃である。
【0032】
添加剤およびさらなる導電性フィラーまたは非導電性フィラーが、上述の剥離層中に存在していてもよい。種々の実施形態では、例えば、無機粒子を含む他のフィラー材料または添加剤をコーティング組成物およびその後に形成される表面層に使用してもよい。本明細書で使用する導電性フィラーとしては、カーボンブラック(例えば、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、アセチレンブラック、フッ素化カーボンブラックなど)、カーボンナノチューブ、金属酸化物およびドープされた金属酸化物、例えば、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモンがドープされた酸化スズ、二酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、インジウムがドープされた三酸化スズなど、およびこれらの混合物が挙げられる。特定のポリマー、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ピロール、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリ(フッ素)、ポリナフタレン、有機スルホン酸塩、リン酸エステル、脂肪酸エステル、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、およびこれらの混合物を、導電性フィラーとして用いてもよい。種々の実施形態では、当業者に知られている他の添加剤を入れ、開示されているコンポジット材料を作成することもできる。フィラーを約0重量%〜約30重量%、または約0重量%〜約5重量%、または約1重量%〜約3重量%加えてもよい。この層の熱導電性は、約0.1W/mK〜約3.0W/mK、または約1.0W/mK〜約3.0W/mK、または約2.5W/mK〜約3.0W/mKの範囲であった。
【0033】
一連のコアシェルグラフェン粒子を上述のように製造した。グラフェン粒子は、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ポリスチレン(PS)またはポリペンタフルオロスチレン(PPFS)のいずれかのシェル層を有していた。また、シェル層をもたないグラフェン粒子を用いたコントロールも存在していた。
【0034】
フルオロエラストマー(Dupont製Viton GF)内に一連のカプセル化されていないグラフェン粒子およびカプセル化されたグラフェン粒子を保持するナノコンポジット膜を調製した。熱拡散性および熱導電性について、この膜を25℃で評価した。結果を図7および図8にプロットする。コア−シェルグラフェン膜はすべて、フルオロポリマー中に含まれるカプセル化されていないグラフェン粒子よりも高い熱拡散性および熱導電性を有している。それに加え、カプセル化されていないグラフェン粒子ナノコンポジットは、コーティングされていない一連のグラフェンナノコンポジットと比較したとき、拡散性が2倍より高く、導電性が4倍より高い。Netzsch Nanoflash LFA−447を用いて平面全体の熱拡散性および熱導電性を測定した。図7および図8は、それぞれ粒子の保持量(重量%)の関数として、それぞれ熱拡散性および熱導電性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
任意要素の中間層と、
前記基材または任意要素の中間層の上に配置されている剥離層と、を備え、前記剥離層が、フルオロポリマーに分散した複数のコア−シェル粒子を含み、前記コアシェル粒子が、ポリマーシェル層に囲まれたグラフェン粒子を含み、ポリマーが、以下の式を有するモノマーから作られ、
【化1】

式中、R、R、R、R、Rは、水素、フッ素またはCH=CH基である、定着器部材。
【請求項2】
前記ポリマーシェル層が、ポリペンタフルオロスチレン、ポリスチレンおよびポリジビニルベンゼンおよびこれらの混合物からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項1に記載の定着器部材。
【請求項3】
前記シェル層の厚みが、約1ナノメートル〜約100ナノメートルである、請求項1に記載の定着器部材。
【請求項4】
シェル層に囲まれたグラフェンコアを含み、このシェル層が、以下の式を有するモノマーから作られるポリマーを含み、
【化2】

式中、R、R、R、R、Rは、水素、フッ素またはCH=CH基である、コア−シェル粒子。
【請求項5】
基材と、
前記基材の上に配置され、シリコーンゴム、シロキサンおよびフルオロエラストマーからなる群から選択される材料に分散した複数のコア−シェル粒子を含み、コア−シェル粒子が、ポリマーシェル層でカプセル化されたグラフェンを含み、前記ポリマーが、前記基材の上に配置された、ポリペンタフルオロスチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼンおよびこれらの混合物からなる群から選択される中間層と、
前記中間層の上に配置された剥離層と、を備える、定着器部材。
【請求項6】
前記剥離層が、約0.1W/mK〜約3.0W/mKの熱導電性を有する、請求項5に記載の定着器部材。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61638(P2013−61638A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180307(P2012−180307)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】