説明

コアシェル粒子の分析法

【課題】高コントラスト観察とライン分析による粒子内の組成分析を可能とし、コアシェル粒子を容易に同定する。
【解決手段】被検物であるコアシェル粒子を担体に担持する工程を含むことを特徴とするコアシェル粒子の分析法である。このコアシェル粒子の分析法には、更に、コアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡によりコアシェル構造であることを確認する工程、及びコアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡により組成分析する工程を付加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易にコアシェル粒子を同定できるコアシェル粒子の分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
コアシェル粒子を同定するためには、コアシェル構造とコアシェル粒子内部の組成分布を把握する必要がある。これまでのコアシェル粒子の電子顕微鏡による同定法では、粒子の固定がなされず、粒子保護剤を含む溶媒が残っているために、電子線照射によって溶媒由来の不純物発生と粒子ドリフトが起こるために、構造と組成分布の把握ができなかった。
【0003】
コアシェル粒子を同定するためには、先ずコアシェル構造の有無を確認し、次いでコアシェル粒子内部の組成分布を把握する必要がある。しかし、現状の観察手法ではこの点を満たすことが困難である。
【0004】
例えば、下記非特許文献1には、Redox Transmetalation法で生成したCoコアPtシェル粒子のTEM観察を実施して、粒径は6nm程度でコアシェルのコントラストを確認し、明視野像において、シェル部がコア部と比べて暗いことから、シェル部の組成がPtであると結論している。
【0005】
これまではコアシェル粒子を含むコロイド溶液をメッシュ状のホルダーに滴下して電子顕微鏡で観察してきた。この手法では溶媒由来の不純物が電子線照射によって発生してしまう。このため、像のコントラストの低下と粒子のドリフトが起こり、組成分析を困難にしてきた。このように、従来法には、サンプルの状態に問題があった。
【0006】
【非特許文献1】J. American Chemical Society 126, 9072 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高コントラスト観察とライン分析による粒子内の組成分析を可能とし、コアシェル粒子を容易に同定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コアシェル粒子を担体に固定し溶媒除去した担持体をサンプルとして用いることで、高コントラスト観察とライン分析による粒子内の組成分析を可能とし、コアシェル粒子を容易に同定することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、コアシェル粒子の分析法の発明であり、被検物であるコアシェル粒子を担体に担持する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
コアシェル粒子を担体に担持し、その担持物から溶媒を除去することで乾燥サンプルを作製し、これを電子顕微鏡により観察することで、得られたサンプルからの不純物の発生が抑えられるため、高コントラストでコアシェル構造の有無を把握できる。また、粒子は担体に固定されているので、ドリフトが抑制される結果、後述するように、EDX等分析技術を組み合わせることで粒子内部の組成分析が可能となる。以上の技術により、コアシェル粒子の同定が可能になる。
【0011】
本発明では、前記被検物であるコアシェル粒子を担体に担持する担持法としては、含浸法を含む液相担持法、物理混合等が挙げられるが、粒子を分散した状態で固定したほうが電子顕微鏡観察が容易になるので、コアシェル粒子が担持された担体を含む溶液から溶媒を除去して乾燥サンプルを作製する液相担持が好ましく用いられる。
【0012】
本発明では、コアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡によりコアシェル構造であることを確認する工程を含むことができる。電子顕微鏡での観察にあたっては、TEM、STEM等高分解能型電子顕微鏡を用いることが望ましい。この中でもSTEMを用いたHAADF法による観察は、原子番号の2乗に比例してコントラストが表現されるので、コアシェル粒子の観察には最適である。
【0013】
本発明では、コアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡により組成分析する工程を含むことができる。電子顕微鏡による組成分析としては、EDX、EELS、及びWDXから選択される1種以上の方法が好ましく例示される。また、その表示法としてはマッピング分析(2次元、3次元)、ライン分析、点分析などが例示される。
【0014】
本発明で用いる担体は電子線照射によって粒子が移動しないように表面ラフネスがあり、比表面積が大きな材料が望ましい。具体例としては、活性炭、カーボンブラック、MgO、SiO、TiO、ZrO、CeO等セラミック材料、が例示される。加えて、STEM−HAADF法によるコアシェル観察法では原子番号の2乗に比例してコントラストが表現されるので、遷移金属、希土類金属等、重元素から構成されるコアシェル粒子を同定する場合は、炭素、シリコンなど比較的軽元素から構成される担体を選択することが望ましく、逆に軽元素から構成されるコアシェル粒子を同定する場合は、遷移金属、希土類金属等、重元素から構成される担体を選択することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
被検物であるコアシェル粒子を担体に担持することで、電子線放射によるコアシェル粒子のずれが生じにくいため、コントラストの強いコアシェル画像を得ることができる。また、従来はTEMを利用していたため、Pt−Cのような原子番号に差のある組合せのコアシェル粒子に限ってしか画像を得ることができなかったため、観察できるコアシェル粒子の組成が限定されていたのに対して、本発明のSTEM−HAADF法などによるコアシェル観察法により、どのような組成のコアシェル粒子に対してもコントラストの強い画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を説明する。
[コアシェル粒子の担持法]
PtPdAuコアシェルコロイド水溶液(Pt:Pd:Au=0.4:0.2:0.4(wt.%)、PVP保護)9gにカーボンブラック0.11gを加え、400rpmで攪拌しながらエタノール200mlを1ml/min.のペースで滴下した。滴下終了後攪拌を停止し、1晩静置した。その後遠心分離機で2層に分離し、上澄みを除去した。残った沈殿物を室温で真空乾燥することで、粉末状のPtPdAu/Cを得た。
【0017】
[コアシェル粒子の観察法]
・試料調製法; PtPdAu/C粉末をカーボン支持膜付マイクログリッドに付着
・装置; FETEM/STEM+EDX:FEI製 TECNAI 加速電圧200keV
【0018】
[観察結果]
図1〜3にPtPdAu/CのSTEM観察結果を示す。電子線照射に伴うコンタミ形成は起こらず、試料ドリフトも少なかったため(0.05nm/s以下)、安定した状態でSTEM観察を実施することができた。低倍率での観察(図1)より、PtPdAu粒子がカーボン担体に分散して担持されていることがわかる。PtPdAu粒子を拡大して観察すると(図2、図3)、3層のコントラストが確認され、HAADF像ではより明瞭にコントラストが浮かび上がった。
【0019】
図4に、図3中のA点からB点へのPtPdAu/CのSTEM−EDX分析結果を示す。EDXライン分析により、電子線を粒子の外側から内側に移動すると、Au、Pd、Ptの順でシグナルが増加し、中心を越えるとPt、Pd、Auの順でシグナルが減少する様子が観測された。また、AuとPdはカルデラ状のプロファイルを、Ptは山状のプロファイルを描く傾向が見出された。
【0020】
以下、以下、EDXライン分析結果の解釈について考察する。
一般に、薄い試料に対するEDXのカウント数(検出X線強度)は、試料の電子線照射方向の厚さに比例して高くなる。図5のようなコアシェル粒子モデルを仮定し、x軸に沿ってAu、Pd、Pt各層のy方向厚さを極座標系を用いて見積もった結果、図6のプロファイルを得た。
【0021】
図6から、AuとPdはカルデラ状のプロファイルを、Ptは山状のプロファイルを描くことが示され、これは図4で示された分析結果と一致する。また、Au(Pd)層の厚さはPd(Pt)との界面で最大となることがわかる。
【0022】
比較のために、一方、カーボンに担持しない従来法での観察では(図7〜9)、数秒間の電子線照射で低倍でも視認できるほどの不純物が発生し、コアシェルのコントラストは低下した。また、EDX分析においては(図10)、粒子のドリフトが原因でPtコアPdシェルAuシェルを示すプロファイルを確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、高コントラスト観察とライン分析による粒子内の組成分析を可能とし、コアシェル粒子を容易に同定することが可能となった。これにより、各種触媒など、コアシェル粒子が利用される分野で本発明は活用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】PtPdAu/CのSTEM観察結果を示す。
【図2】PtPdAu/CのSTEM観察結果を示す。
【図3】PtPdAu/CのSTEM観察結果を示す。
【図4】PtPdAu/CのSTEM−EDX分析結果を示す。
【図5】PtPdAuコアシェル断面図を示す。
【図6】PtPdAuコアシェルの各層プロファイルを示す。
【図7】従来のPtPdAuコロイドのSTEM観察結果を示す。
【図8】従来のPtPdAuコロイドのSTEM観察結果を示す。
【図9】従来のPtPdAuコロイドのSTEM観察結果を示す。
【図10】従来のPtPdAuコロイドのSTEM−EDX分析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物であるコアシェル粒子を担体に担持する工程を含むことを特徴とするコアシェル粒子の分析法。
【請求項2】
前記被検物であるコアシェル粒子を担体に担持する工程が、コアシェル粒子が担持された担体を含む溶液から溶媒を除去して乾燥サンプルを作製する液相担持法であることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル粒子の組成分析法。
【請求項3】
コアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡によりコアシェル構造であることを確認する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のコアシェル粒子の分析法。
【請求項4】
コアシェル粒子が担持された担体を電子顕微鏡により組成分析する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコアシェル粒子の分析法。
【請求項5】
前記電子顕微鏡による組成分析が、EDX、EELS、及びWDXから選択される1種以上の方法であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のコアシェル粒子の分析法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−112816(P2010−112816A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285110(P2008−285110)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】