説明

コアシェル粒子の製造方法

【課題】簡便・確実な、所望の組成からなりかつシェルの膜厚の十分に厚い、コアシェル粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)コアと、目的とする結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有しコアより十分小さい微粒子とを混合し、(2)メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記微粒子を少なくとも1層以上付着させて、前記微粒子の集合体からなる仮シェルを形成し、(3)前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なうことによって、前記コアの表面に前記結晶性無機物質シェルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル粒子の製造方法、特に蛍光体粒子であるコアシェル粒子の製造方法、さらにはエレクトロルミネッセンス蛍光体粒子であるコアシェル粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学的もしくは物理的に不安定な物質を保護したり、物質に特別な機能を持たせたりすることを目的として、核となる物質(コアと呼ぶ)を殻となる物質(シェルと呼ぶ)によって被覆するという技術が知られている。また、そのようにして製造された粒子のことを一般にコアシェル粒子と呼ぶ。
【0003】
コアシェル粒子の用途としては、写真感光材料におけるハロゲン化銀粒子や、熱硬化性樹脂におけるシリコンエラストマー微粒子など、多くのものが知られているが、近年、蛍光体粒子、特にはエレクトロルミネッセンス素子におけるエレクトロルミネッセンス蛍光体粒子としての用途が注目されて来ている。
【0004】
エレクトロルミネッセンス素子は、自己発光する面光源として、別途の光源が不要な新たな表示素子等としての利用が期待されているものである。従来のエレクトロルミネッセンス素子には、「分散型」と「薄膜型」の2つのタイプが存在する。そこでまず、非特許文献1等に記載されている、従来の分散型と薄膜型のエレクトロルミネッセンス素子のそれぞれの基本的な構造、発光機構および特長について、以下に概略的に説明する。
【0005】
分散型エレクトロルミネッセンス素子は、典型的には、図3に示す素子60のように、ガラスやポリエチレンテレフタレート(PET)シート等の透明基板62の上に、透明導電膜の塗布により透明電極64が形成されて、その上に、蛍光体粒子66aが誘電体バインダー66b中に遊離分散されてなる発光層66、絶縁層68および背面電極70が積層された構造を有する。さらに、表面保護層等の追加の層が設けられる場合もある。透明電極64と背面電極70との間に交流電圧を印加すると、発光層66内部の蛍光体粒子66aが電界発光を示し、その光が透明電極64および透明基板62を介して取り出される。
【0006】
絶縁層68は、電流経路を遮断し、各蛍光体粒子66aに安定した高電界を印加するためのものであるが、上記の蛍光体粒子66a同士の遊離分散が完全に実現されており、発光層66内の電流経路が遮断されている場合には、絶縁層68を設けなくてもよい。
【0007】
分散型エレクトロルミネッセンス素子の蛍光体粒子としては、付活剤が蛍光体母材に添加された粒子が用いられる。その代表的なものは、青緑色の発光を示すZnS:Cu,Clであり、その他、所望の発光色に応じて、ZnS:Cu,Al(緑色)やZnS:Cu,Cl,Mn(橙黄色)等が使用される。ここで、下記の発光機構等から、付活剤は銅を含んだものである必要があると言われており、実用化されたものはZnSのみである。また、分散型エレクトロルミネッセンス素子の蛍光体粒子では、20μm前後の粒子径が最適であると考えられている。粒子径が小さくなると発光輝度が著しく低下する。
【0008】
分散型エレクトロルミネッセンス素子の発光は、付活剤として添加された元素が、ドナーおよびアクセプタとして作用し、再結合が起こることによるものである。たとえば、上記のZnS:Cu,Clの場合には、Clがドナー、Cuがアクセプタとして作用する。
【0009】
また、この発光は、蛍光体粒子全体で一様に起こるのではなく、CuSの針状結晶がZnS粒子の格子欠陥に沿って析出しており、その先端部分で局在的に起こるものと考えられている。
【0010】
薄膜型エレクトロルミネッセンス素子は、典型的には、図4に示す素子80のように、分散型と同様に透明基板82の上に、透明電極84が形成され、その上に、第1の絶縁層86a、真空蒸着やスパッタリング等の手法により薄膜状に形成された蛍光体の発光層88、第2の絶縁層86bおよび背面電極90が積層された構造を有する。さらに、表面保護層や、発光層と絶縁層間のバッファ層等の、追加の層が設けられる場合もある。一般的には、発光層88以外の各層も、真空蒸着等の薄膜形成技術により形成されることが多い。図4の素子80は説明のため図3の素子60とほぼ同様の厚さに描かれているが、実際には、薄膜型エレクトロルミネッセンス素子の厚さは、分散型エレクトロルミネッセンス素子の1/100程度である。しかし、最近では印刷技術を用いて高誘電率の厚膜絶縁層を設け、全体の膜厚が上記分散型素子の1/数程度のものも知られている。透明電極84と背面電極90との間に交流電圧を印加すると、発光層88が電界発光を示し、その光が透明電極84および透明基板82を介して取り出される。発光層88に用いられる代表的な蛍光体材料は、発光中心となるMnを母材ZnS中にドープしたZnS:Mnであり、これは橙黄色の発光を示す。また、近年青色発光を示すBaAl:Euが開発され、注目を集めている。薄膜型の場合も、複数の色に対応する異なる種類の発光中心をドープした発光部分を2次元状に配した「デュアル・パターン方式」や「トリプル・パターン方式」と呼ばれる構成を採用したり、複数の色に対応する上記の図4に示す構造を多重に重ね合わせたりすることにより、カラーディスプレイ等への応用が可能である。
【0011】
分散型エレクトロルミネッセンス素子がドナー−アクセプタ間の再結合により発光するのに対し、薄膜型エレクトロルミネッセンス素子の発光は、母材中を走るホットエレクトロンによる発光中心の衝突励起によるものであるとされている。このホットエレクトロンは、電圧印加時に、発光層88と絶縁層86aおよび86bとの界面および/または発光層88内のトラップ等から、発光層88中に注入された電子が、高電界下で加速されたものである。
【0012】
分散型と薄膜型のエレクトロルミネッセンス素子を比較すると、それぞれに長所および短所がある。分散型の長所としては、製造工程を、真空蒸着等を含まない簡略なものとすることができるので、製造コストが安く、素子の大型化が容易であり、また、可撓性を有するフレキシブルな素子も製作できる点等が挙げられる。短所は、薄膜型に比べて輝度が低いこと、色の多様性が少ないこと、分散される蛍光体粒子の粒子径が大きく、高精細ディスプレイ等の用途には向かないこと等である。一方、薄膜型の長所は、分散型より輝度が高く明るいこと、色を決定する発光中心のバリエーションが多いため多様な色を表現できること、高精細表示が可能であること等が挙げられる。短所は、製造工程が複雑でコストが高いこと等である。また、薄膜型では、発光した光の大部分が発光層と絶縁層の界面で全反射されるため、光の取出効率が非常に低く、5から10%程度しかない点も問題とされている。
【0013】
一方、特許文献1および2等において、図3に示した構造と同様の分散型様の構造を採りながら、発光層中に分散される蛍光体粒子として、従来は薄膜型素子の発光層に使用されていた蛍光体材料を粒子形状にしたものを使用したエレクトロルミネッセンス素子も提案されている。さらに特許文献1では、蛍光体のみからなる粒子に代えて、誘電体コアを覆う蛍光体シェルを設けたコアシェル粒子や、さらにその蛍光体シェルを覆う誘電体被覆層を設けた粒子を用い、蛍光体被覆層の材料として従来の薄膜型素子の発光層に使用されていた蛍光体を用いた、分散型様の構造を有するエレクトロルミネッセンス素子も提案されている。これらの特許文献1および2に記載されているようなエレクトロルミネッセンス素子では、発光層中の蛍光体部分とその周囲の誘電体との界面および/または蛍光体部分内のトラップ等から、蛍光体部分内部に電子が注入され、その電子が加速されてホットエレクトロンとなり蛍光体部分内の発光中心を励起し、従来の薄膜型素子に類似の発光機構が実現されると考えられる。基本的な構造自体は従来の分散型素子と同様であるので、製造コストは低く抑えることができる。
【0014】
従来型の銅を含む蛍光体を用いたものと、上記の薄膜型素子の発光層に使用されていた蛍光体を用いたものとのいずれかを問わず、分散型様の構造を有するエレクトロルミネッセンス素子において高い発光効率を得るためおよび/または低い印加電圧で発光を開始させるためには、素子に印加した電圧が、発光層中の蛍光体粒子に効率的に印加される必要がある。そのための手段として、たとえば上記の特許文献2に記載されたエレクトロルミネッセンス素子では、発光層中のバインダーにBaTiO3等の高誘電率の誘電体を使用し、その中に蛍光体粒子を分散させている。
【0015】
ところで、コアシェル粒子の製造方法としては、上記特許文献1および2の他にも様々なものが提案されている。特許文献3においては、蛍光体構成元素の化合物と、蛍光体でない無機物質を混合して焼成することにより当該無機物質からなるコアに当該蛍光体からなるシェルを被覆せしめるコアシェル粒子の製造方法であって、水中にて当該無機物質粒子表面に蛍光体構成元素の化合物を沈殿させ、しかる後に乾燥・焼成させるものが開示されている。また、特許文献4においては一実施例として、無機化合物粉末粒子表面に複数の元素を層状に担持させた、電子部品用のセラミックス粒子の製造方法であって、当該無機化合物粉末粒子表面に、メカノケミカル反応によって複数の元素を層状に担持させるものが開示されている。
【特許文献1】国際公開第02/080626号パンフレット
【特許文献2】特許公開2000−195674号公報
【特許文献3】特許公開2002−180041号公報
【特許文献4】特許公開平成10−158059号公報
【非特許文献1】猪口敏夫著、「エレクトロルミネセントディスプレイ」、初版、産業図書株式会社、平成3年7月25日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のコアシェル粒子においては、製造された粒子のコアおよびシェルの組成が、それぞれの用途が要求する機能にかんがみて所望のものとなっていることが重要である。また、用途により異なるが、一般に、特にシェルが蛍光体の場合は要求される輝度の関係から、シェルの膜厚を厚くすることが重要である。
【0017】
特許文献3においては、元素により沈殿速度が異なることから、複合組成の化合物においては組成の制御が難しい。また、酸化物以外の組成(硫化物、窒化物)の合成が困難である。さらには、厚膜シェル(100nm以上)を得ることが難しい。
【0018】
特許文献4においては、被覆層原料粉末と生成した被覆層との形状・組成の関係が不明確であり、また被覆層を構成する金属元素は、熱処理によってコア粒子内に拡散されるものであり、最終的に被覆層を形成して機能発現をするものではない。
【0019】
したがって、本発明の目的は、簡便・確実な、所望の組成からなりかつシェルの膜厚の十分に厚い、コアシェル粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の発明者は、メカノケミカル反応を用いてコア表面にシェル原料を付着させた後に、さらに当該シェル原料が焼結する温度で熱処理を行う工程を加えることによって、簡便・確実に、所望の組成からなりかつシェルの膜厚の十分に厚い、コアシェル粒子を製造し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0021】
本発明に係る第1のコアシェル粒子の製造方法は、
(1)コアと、目的とする結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有しコアより十分小さい微粒子とを混合する工程と、
(2)メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記微粒子を少なくとも1層以上付着させて、前記微粒子の集合体からなる仮シェルを形成する工程と、
(3)前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なうことによって、前記コアの表面に前記結晶性無機物質シェルを形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る第2のコアシェル粒子の製造方法は、
(1)コアと、目的とする結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有するように配合された前記コアより十分小さい2種類以上の微粒子とを混合する工程と、
(2)メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記2種類以上の微粒子を均一に分散した状態で少なくとも1層以上付着させて、前記2種類以上の微粒子および/またはその化合物の集合体からなる仮シェルを形成する工程と、
(3)前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なうことによって、前記コアの表面に前記結晶性無機物質シェルを形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の第1および第2のコアシェル粒子の製造方法において、該結晶性無機物質シェルは蛍光体とすることができる。また、該蛍光体はエレクトロルミネッセンス蛍光体とすることができ、特にZnS:MnまたはZnSiO:Mnとすることができる。
【0024】
本発明の第1および第2のコアシェル粒子の製造方法において、該コアは誘電率の大きな誘電体とすることができる。ここで、誘電率の大きな誘電体とは、少なくとも比誘電率100程度のものをいう。また、該誘電体はBaTiOとすることができる。
【0025】
また、上記シェルとコアとの物質の組み合わせについては適宜選択することができる。
【0026】
ここで、本発明において「コアシェル粒子」とは、粒子の全体を指し、エレクトロルミネッセンス素子に使用される場合にあっては、発光層中に分散される各粒子の全体を指すものとする。すなわち、実際にエレクトロルミネッセンスによる発光が生じるのは、粒子中の蛍光体部分であるが、本発明においては、コアや、あれば誘電体被覆層やバッファ層等を含めた粒子全体を、「コアシェル粒子」と呼ぶものとする。
【0027】
上記の本発明のコアシェル粒子の製造方法によって製造されるエレクトロルミネッセンス蛍光体粒子は、コアと、そのコアの外側に設けられた蛍光体シェルとを含むものであるが、これも必要最低限の構成を示したものである。たとえば、コアと蛍光体シェルとの間にバッファ層等の追加の層が設けられていてもよいし、蛍光体シェルの外側に、追加の誘電体被覆層と蛍光体シェルとの組や、表面保護層等が設けられていてもよい。
【0028】
本発明においては、コアシェル粒子、コア粒子、シェル原料微粒子等の粒径は、直径をもって定義する。
【0029】
本発明において「メカノケミカル反応」とは、粒子に、粒子同士の衝突等を通じて大きな機械的エネルギーを与えることにより、その機械的エネルギーを化学エネルギーに変換し、その粒子を反応せしめることをいう。
【0030】
本発明に係るコアシェル粒子の製造方法において、当該微粒子が「前記コアより十分小さい」とは、当該微粒子の粒径が当該コアの粒径の5分の1以下であることをいう。
【発明の効果】
【0031】
本発明における第1のコアシェル粒子の製造方法においては、メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記微粒子を少なくとも1層以上付着させて、前記微粒子の集合体からなる仮シェルを形成する工程を経て、前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なっているので、シェルの組成をシェル原料の変更により容易に制御でき、所望の組成のシェルを有するコアシェル粒子を得ることができる。また、メカノケミカル反応の作用によりシェルの膜厚の厚いコアシェル粒子を得ることができる。
【0032】
本発明における第2のコアシェル粒子の製造方法においては、メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記2種類以上の微粒子を均一に分散した状態で少なくとも1層以上付着させて、前記2種類以上の微粒子および/またはその化合物の集合体からなる仮シェルを形成する工程を経て、前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なっているので、シェルの組成を当該2種類以上の材料の量などの変更により容易に制御でき、所望の組成からなるコアシェル粒子を簡便に得ることができる。また、メカノケミカル反応の作用によりシェルの膜厚の厚いコアシェル粒子を得ることができる。
【0033】
本発明の第1および第2のコアシェル粒子の製造方法において、該結晶性無機物質シェルを蛍光体とした場合には、上記と同様の効果を奏しつつ、ディスプレイ等に用い得るコアシェル粒子を簡便・確実に得ることができる。また、該蛍光体をエレクトロルミネッセンス蛍光体とした場合には、上記と同様の効果を奏しつつ、エレクトロルミネッセンス素子に用い得るコアシェル粒子を簡便・確実に得ることができる。
【0034】
本発明の第1および第2のコアシェル粒子の製造方法において、該コアを誘電率の大きな誘電体とした場合には、上記と同様の効果を奏しつつ、エレクトロルミネッセンス素子等に用い得るコアシェル粒子を簡便・確実に得ることができる。
【0035】
また、上記シェルとコアとの物質の組み合わせについて適宜選択することにより、エレクトロルミネッセンス素子にさらに好適に用い得るコアシェル粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明の第1のコアシェル粒子の製造方法について、詳細に説明する。
【0037】
[コアおよびシェル原料微粒子の混合工程]
本発明に用い得るシェルの材料は、メカノケミカル法によってコアに付着するものであって、熱処理により結晶性を示す無機物であるものが挙げられる。特にエレクトロルミネッセンス発光素子のためには、従来の分散型エレクトロルミネッセンス素子で用いられているZnS:Cu,Cl等の銅を含む蛍光体を用いてもよいし、ZnS:Mnのように、従来は薄膜型エレクトロルミネッセンス素子で用いられていたホットエレクトロンにより励起される発光中心を含んだ蛍光体を用いてもよい。後者を用いた場合は、発光機構自体は従来の薄膜型素子に類似のものとなる上、蛍光体被覆層の形状効果や発光層全体の光散乱効果のために全反射条件が成り立たなくなり、従来の薄膜型素子に比べて発光層からの光の取出効率が向上するため、従来の分散型素子ならびに薄膜型素子に比べて高い輝度が得られるという利点がある。ZnS:Mn以外のそのような蛍光体の例としては、以下の表に示すものが挙げられる。
【表1】

【0038】
本発明に用い得るコアの材料としては、コアシェル粒子の用途に応じて選択し得るが、特にエレクトロルミネッセンス発光素子のためには、BaTiO、SrTiO、HfO、SiO、TiO、Al、Y、Ta、BaTa、Sr(Zr,Ti)O、PbTiO、Si、ZnS、ZrO、PbNbO、Pb(Zr,Ti)O等が使用可能である。ただし、蛍光体シェルに効率的に電界を印加するためには誘電率の大きな材料が好ましい。誘電体被覆層を設ける場合には、誘電体被覆層と誘電体コアに同一の材料を用いてもよいが、誘電体被覆層による遮蔽効果を低く抑えて蛍光体シェルに効率的に電界を印加するためには、誘電体コアの方により比誘電率の高い材料を使用することが好ましい。
【0039】
混合に当たっての、コアとシェル原料微粒子のサイズ比、重量比についても、コアシェル粒子の用途に応じて適宜決定すればよいが、メカノケミカル反応では、シェル原料のほとんど(99%)をコアに付着させることができるので、最終的に得たいコアシェル粒子の大きさ、シェル膜厚から逆算して定めればよい。被覆の効率の都合上、シェル原料微粒子の粒径はコアの粒径の5分の1以下であるが、好ましくは20分の1以下である。なお、エレクトロルミネッセンス発光素子に用いるエレクトロルミネッセンス蛍光体であれば、誘電体コアのコア径は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
これは、誘電体コアのコア径が小さすぎると、蛍光体被覆層に電界を集中するために蛍光体被覆層を過度に薄くしなくてはならない等の問題が生じ、逆に誘電体コアのコア径が大きすぎると、発光粒子全体の大きさが大きくなり発光層16の平滑性を損ねる等の問題が生じるためである。一方、無機物質シェル原料の微粒子の大きさは、1nm以上0.1μm以下であることが好ましい。
【0041】
なお、シェルが蛍光体でないが、本発明に係る製造方法により作成できるコアシェル粒子としては、コンデンサー内に充填される充填粒子であって、コアがSrTiOやBaTiOであり、シェルがCuO、MnOであるもの、が挙げられる。
【0042】
コアおよびシェル原料微粒子の混合は、メノウ乳鉢など公知の手段を用い得る。
【0043】
[メカノケミカル反応工程]
上記のように混合された材料を、遊星ボールミル、ライカイ機などの手段によりメカノケミカル反応させる。
【0044】
これにより、コアの表面にシェル原料からなる仮シェルが付着したものが得られる。
【0045】
図1を用いて遊星ボールミルについて説明する。遊星ボールミル10において、反応容器12は、公転台14上に乗って公転運動をするとともに、自らは公転方向と反対回りの自転運動を行う。反応容器12には、反応させるべき原料16の他に粉砕ボール18が入れられる。粉砕ボール18は、上記の公転運動および自転運動の両方の影響を受けて、激しい運動を行う。この際、反応させるべき原料16は粉砕ボール18と反応容器12に挟まれるなどして、通常のボールミルに比べて強い運動エネルギーを受け、この運動エネルギーが化学エネルギーに転化してメカノケミカル反応が進むこととなる。
【0046】
[熱処理工程]
本発明においては更に、上記のコアの表面にシェル原料からなる仮シェルが付着したものを熱処理することが望ましい。
【0047】
上記の表面が被覆された粒子を、石英ボート、アルミナルツボ、石英ルツボなどの耐熱性容器に充填し、電気炉の炉芯に入れて熱処理を行う。熱処理温度は、目的とする無機物質シェルの化合物種によっても異なるが、一般には600℃乃至1600℃の範囲にあり、好ましくは700℃乃至1300℃の範囲にある。熱処理時間は、目的とする無機物質シェルの化合物種や量によっても異なるが、一般には10分乃至100時間の範囲にある。熱処理雰囲気も、目的とする無機物質シェルの化合物種表面被覆粒子の種類や量などによって異なる。一般に、無機物質シェルが酸化物である場合には、少量の水素を含有する不活性ガス雰囲気などの還元性雰囲気(N/H、NHガス等)、不活性ガス雰囲気などの中性雰囲気(He、Ne、Ar、N等)、少量の酸素を含有する不活性ガス雰囲気や大気あるいは酸素などの酸化性雰囲気(N/O等)、あるいは真空雰囲気を用いる。また、窒化物または酸窒化物である場合には、中性雰囲気、還元性雰囲気、弱酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気を用いる。これらの熱処理条件を変えて再熱処理を行ってもよい。
【0048】
また、目的とする無機物質シェルが硫化物からなる場合は、還元性雰囲気、不活性ガス雰囲気(HSあるいはCSなどのイオウ系ガスを含有しても良い)または真空雰囲気を用い、大気中においてルツボで熱処理する場合はその硫化物に近い組成を有する粒子からなるダミー粒子を充填してから熱処理することが望ましい。
【0049】
得られたコアシェル粒子には、必要に応じて、ほぐし、篩分け処理などを施してもよい。
【0050】
コア表面に仮シェルを付着したものを熱処理工程に掛けることにより、仮シェルを固相反応させて、単相化させることができる。
【0051】
このようにして、コア表面に結晶性無機物質からなるシェルが形成されたコアシェル粒子が得られる。シェルの膜厚は、一般には1nm乃至10μmの範囲にあり、好ましくは10nm乃至5μmの範囲にある。
【0052】
次に、本発明の第2のコアシェル粒子の製造方法について、詳細に説明する。
【0053】
[コアおよびシェル原料微粒子の混合工程]
シェル原料微粒子として、目的とする結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有するように配合されたコアより十分小さい2種類以上の微粒子を用意する。例えば、製造後のコアシェル粒子のシェルが複酸化物からなる場合は、2種類以上の微粒子として、複酸化物の各元素の酸化物あるいはその前駆体を用意すればよい。
【0054】
本発明の第2のコアシェル粒子の製造方法においても、混合に当たってのコアとシェルのサイズ比、重量比は、コアシェル粒子の用途に応じて適宜決定すればよく、最終的に得たいコアシェル粒子の大きさ、シェル膜厚から逆算して定めればよい。
【0055】
その他の点は、本発明の第1のコアシェル粒子の製造方法と同様である。
【0056】
[メカノケミカル反応工程]
上記のように混合された材料を、遊星ボールミル、ライカイ機などの手段によりメカノケミカル反応させる。この際、メカノケミカル反応の作用により、コアにシェル原料である各微粒子が化学結合によって付着し、仮シェルを形成する。この際、各微粒子同士が一部反応を起こし、化合物となってから、化学結合によりコアに付着する場合もある。
【0057】
その他の点は、本発明の第1のコアシェル粒子の製造方法と同様である。
【0058】
[熱処理工程]
本発明の第1のコアシェル粒子の製造方法と同様に行うことができる。
【0059】
ここで、本発明のコアシェル粒子の製造方法により得られたコアシェル粒子をエレクトロルミネッセンス発光素子に用いる際の構成を説明する。
【0060】
エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を使用した素子は、たとえば図2に示す素子20のような、基板22、透明電極24、発光層26、絶縁層28、背面電極30および表面保護層32からなる構造とすることができる。その作製は、たとえば以下の方法により行うことができる。まず、PETシートを基板22とし、その上に、ITO(酸化インジウムスズ)を蒸着して透明電極24を形成する。次に、誘電体バインダーの材料であるシアノエチルセルロースを、溶媒のN,N’−ジメチルホルムアミドに、体積比にして(シアノエチルセルロース):(N,N’−ジメチルホルムアミド)=3:7で混合したシアノエチルセルロース溶液中に、本発明のコアシェル粒子の製造方法により得られたエレクトロルミネッセンス蛍光体粒子を分散させる。この分散液を透明電極24上に塗布し乾燥させ、発光層26を形成する。続いて、発光層26の形成に用いたのと同様のシアノエチルセルロース溶液中に、平均粒径0.2μmのBaTiO粒子を分散させた分散液を、発光層26上に塗布し乾燥させ、平均層厚5μmの絶縁層28を形成する。最後に、絶縁層28上にアルミニウムを蒸着して背面電極30とし、その上にPETシートをラミネートして表面保護層32を形成する。
【0061】
このようにエレクトロルミネッセンス発光素子を作成することにより、誘電体コアと誘電体バインダーに挟まれた蛍光体シェルの部分に電界が集中し、単に同量の蛍光体粒子を分散した場合に比べ、同一印加電圧であっても高い輝度を実現することができる。
【0062】
以下に、本発明のコアシェル粒子の製造方法の具体例を記載する。
【実施例1】
【0063】
ZnS:Mn微粒子(粒径4nm、20g)、BaTiOコア粒子(粒径2.0μm、25g)とを、遊星ボールミル中で混合することにより、BaTiO上にZnS:Mnナノ粒子の集合体からなる仮シェルを有する粒子を形成した。
【0064】
上記粒子を、ZnSダミー粒子を充填したルツボ中にて、900℃、2時間の条件でZnS:Mnの熱処理を行なうことにより、BaTiO/ZnS:Mnコアシェル粒子を形成した。
【0065】
形成された粒子は平均膜厚200nmの結晶性のシェルを有していた。また、上記コアシェル粒子を用いてエレクトロルミネッセンス素子を作成したところ、585nmを中心としたエレクトロルミネッセンス発光スペクトルを観測した。
【実施例2】
【0066】
ZnSiO:Mnナノ粒子(粒径50nm、25g)、BaTiOコア粒子(粒径2.0μm、25g)とを、遊星ボールミル中で混合することにより、BaTiO上にZnSiO:Mn微粒子の集合体からなる仮シェルを有する粒子を形成した。
【0067】
上記粒子を、Ar雰囲気下、1300℃、2時間の条件でZnSiO:Mnの熱処理を行なうことにより、BaTiO/ZnSiO:Mnコアシェル粒子を形成した。
【0068】
形成された粒子は平均膜厚200nmの結晶性のシェルを有していた。また、上記コアシェル粒子を用いてエレクトロルミネッセンス素子を作成したところ、525nmを中心としたエレクトロルミネッセンス発光スペクトルを観測した。
【実施例3】
【0069】
ZnO微粒子(粒径40nm、16.3g)、SiO微粒子(粒径50nm、6.0g)、Mn微粒子(粒径80nm、0.5g)、BaTiOコア粒子(粒径2.0μm、22.3g)とを、遊星ボールミル中で混合することにより、BaTiO上にZnO微粒子・SiO微粒子・Mn微粒子の集合体からなる仮シェルを有する粒子を形成した。
【0070】
上記粒子を、Ar雰囲気下、1300℃、2時間の条件で熱処理を行なうことにより、BaTiO/ZnSiO:Mnコアシェル粒子を形成した。
【0071】
形成された粒子は平均膜厚200nmの結晶性のシェルを有していた。また、上記コアシェル粒子を用いてエレクトロルミネッセンス素子を作成したところ、525nmを中心としたエレクトロルミネッセンス発光スペクトルを観測し、蛍光体組成が均一であることを示した。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、これらの実施形態は例示的なものに過ぎず、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲のみによって定められるべきものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)遊星ボールミルを上から見た図 (b)遊星ボールミルの概観図
【図2】本発明に係る第1のエレクトロルミネッセンス素子の実際の構造の例を示す断面図
【図3】従来の分散型エレクトロルミネッセンス素子の基本的な構造を示す断面図
【図4】従来の薄膜型エレクトロルミネッセンス素子の基本的な構造を示す断面図
【符号の説明】
【0074】
10 遊星ボールミル
12 反応容器
14 公転台
18 粉砕ボール
20、60、80 エレクトロルミネッセンス素子
22、62、82 基板
24、64、84 透明電極
26、66、88 発光層
66a 蛍光体粒子
66b バインダー
28、68、86a、86b 絶縁層
30、70、90 背面電極
32 表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコアと結晶性無機物質シェルとからなるコアシェル粒子の製造方法であって、
前記コアと、前記結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有しコアより十分小さい微粒子とを混合する工程と、
メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記微粒子を少なくとも1層以上付着させて、前記微粒子の集合体からなる仮シェルを形成する工程と、
前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なうことによって、前記コアの表面に前記結晶性無機物質シェルを形成する工程と、
を有することを特徴とする、コアシェル粒子の製造方法。
【請求項2】
少なくともコアと結晶性無機物質シェルとからなるコアシェル粒子の製造方法であって、
前記コアと、前記結晶性無機物質シェルと同一の構成金属元素を有するように配合された前記コアより十分小さい2種類以上の微粒子とを混合する工程と、
メカノケミカル反応を用いて、前記コア表面に前記2種類以上の微粒子を均一に分散した状態で少なくとも1層以上付着させて、前記2種類以上の微粒子および/またはその化合物の集合体からなる仮シェルを形成する工程と、
前記仮シェルが固相反応する温度で熱処理を行なうことによって、前記コアの表面に前記結晶性無機物質シェルを形成する工程と、
を有することを特徴とする、コアシェル粒子の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性無機物質シェルが蛍光体であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコアシェル粒子の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体がエレクトロルミネッセンス蛍光体であることを特徴とする、請求項3に記載のコアシェル粒子の製造方法。
【請求項5】
前記エレクトロルミネッセンス蛍光体がZnS:Mnであることを特徴とする請求項4に記載のコアシェル粒子の製造方法。
【請求項6】
前記エレクトロルミネッセンス蛍光体がZnSiO:Mnであることを特徴とする請求項4に記載のコアシェル粒子の製造方法。
【請求項7】
前記コアが誘電率の大きな誘電体であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のコアシェル粒子の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体がBaTiOであることを特徴とする、請求項7に記載のコアシェル粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−232920(P2006−232920A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47330(P2005−47330)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】