説明

コアシェル粒子及びコアシェル粒子の製造方法

【課題】エポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることのできるコアシェル粒子を提供する。また、該コアシェル粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマーからなるシェルに、コア剤を内包するコアシェル粒子であって、前記ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有し、前記コア剤は、疎水性イミダゾール化合物であるコアシェル粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることのできるコアシェル粒子に関する。また、本発明は、該コアシェル粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、シール剤、コーティング剤等の様々な用途に用いられている。一般に、エポキシ樹脂には、硬化反応を進行させるための成分として硬化剤が、また、硬化性を向上させるための成分として硬化促進剤が添加される。特に、硬化剤又は硬化促進剤とエポキシ樹脂とを一液にするために、潜在性をもたせた硬化剤又は硬化促進剤が多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の異方導電性接着剤においては、平均粒径が0.1〜3μmであり、マイクロカプセル壁材膜の厚さが0.01〜0.3μmであるマイクロカプセル化イミダゾール誘導体エポキシ化合物が用いられている。
しかしながら、このようなマイクロカプセル化イミダゾール誘導体エポキシ化合物は、イミダゾール誘導体とエポキシ化合物とを途中段階まで反応させ、反応生成物を微粉砕して得られた粉体であり、イミダゾール誘導体とエポキシ化合物との接触界面が硬化しているにすぎない。そのため、このようなマイクロカプセル化イミダゾール誘導体エポキシ化合物をエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤として用いる場合には、時間の経過とともに硬化反応が進行しやすく、充分な貯蔵安定性が得られない。
【0004】
そこで、硬化反応を途中段階まで進行させることでマイクロカプセル化するのではなく、硬化剤又は硬化促進剤と、シェルとなるポリマーとが溶解された溶液を用い、所定の方法によってポリマーを析出させることで、硬化剤又は硬化促進剤を内包するマイクロカプセルを製造する方法が検討されている。
例えば、特許文献2には、アミン化合物と、有機溶媒中に所定のポリマーからなる膜物質が溶解された疎水性溶液とを、混合して溶解し、これを乳化剤を溶解した水性媒体中に乳化分散させた後、加熱して上記有機溶媒を除去することにより、上記アミン化合物と膜物質とを相分離させて膜物質によってアミン化合物を被覆保護するマイクロカプセルの製法が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、使用するアミン化合物及び膜物質の極性によっては、相分離が不充分となってコアシェル構造が形成されないことがある。また、特許文献2に記載の方法では、球形のマイクロカプセルを製造することが困難であり、マイクロカプセルのアスペクト比が大きくなる。マイクロカプセルのアスペクト比が大きくなると、シェル厚みが一定ではなくなり、このようなマイクロカプセルをエポキシ樹脂用硬化剤又は硬化促進剤として用いる場合には、貯蔵中に部分的に硬化剤又は硬化促進剤が滲み出してエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりする等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3981341号公報
【特許文献2】特許第3411049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることのできるコアシェル粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、該コアシェル粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマーからなるシェルに、コア剤を内包するコアシェル粒子であって、前記ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有し、前記コア剤は、疎水性イミダゾール化合物であるコアシェル粒子である。
また、本発明は、本発明のコアシェル粒子を製造する方法であって、ポリマーとコア剤とを、前記ポリマーと前記コア剤とを共に溶解することのできる溶剤に溶解させて、前記ポリマーと前記コア剤とを含有する混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を水性媒体中に乳化分散させる工程と、前記水性媒体中で前記溶剤を除去する工程とを有するコアシェル粒子の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、ポリマーからなるシェルに、コア剤を内包するコアシェル粒子であって、ポリマーが親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有し、コア剤が疎水性イミダゾール化合物であるコアシェル粒子は、エポキシ樹脂用硬化促進剤として好適に用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
まず、本発明のコアシェル粒子について説明する。
本発明のコアシェル粒子は、ポリマーからなるシェルに、コア剤を内包するコアシェル粒子である。
【0011】
上記ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有する。
本発明のコアシェル粒子は、例えば、上記ポリマーと上記コア剤とを溶剤に溶解させて得られる混合溶液を、水性媒体中に乳化分散させた後、この水性媒体中で溶剤を除去し、上記ポリマーと上記コア剤とを相分離させ、上記ポリマーを析出させてコアシェル構造を形成することにより得られる。このとき、上記ポリマーが上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有することにより、上記ポリマーは上記コア剤と充分に相分離することができ、更に、上記混合溶液は上記水性媒体中で充分に安定なエマルジョンを形成できることから上記ポリマーからなる相の上記水性媒体に接する表面が平滑に維持される。
そのため、本発明のコアシェル粒子は、上記ポリマーが上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有することにより、コアシェル構造を有するとともに、アスペクト比の小さいコアシェル粒子となる。
【0012】
なお、コアシェル粒子のアスペクト比が小さいと、シェル厚みがほぼ一定となり、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いることで、貯蔵中に部分的に上記コア剤が滲み出してエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりする等の問題を軽減することができる。
【0013】
上記親水性基は特に限定されないが、後述するコア剤に用いられる疎水性イミダゾール化合物と反応することのできる官能基が好ましい。
上記疎水性イミダゾール化合物と反応することのできる官能基として、例えば、グリシジル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン基等が挙げられる。なかでも、グリシジル基が好ましい。
【0014】
上記疎水性基は特に限定されず、例えば、フェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、メタクリル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基が好ましい。
【0015】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとして、具体的には、例えば、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体等が挙げられる。なかでも、ポリスチレン誘導体が好ましい。
上記ポリスチレン誘導体は、上記親水性基と上記疎水性基とを有するポリスチレン誘導体であれば特に限定されないが、例えば、上記親水性基としてグリシジル基を有し、上記疎水性基としてポリスチレン骨格に由来するフェニル基を有するポリスチレン誘導体が好ましい。
【0016】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーは、分子中の親水性基の数と疎水性基の数との比が0.5:9.5〜3.5:6.5であることが好ましい。上記範囲よりも分子中の親水性基の数が少ないと、上記ポリマーの疎水性が大きくなりすぎて、粒子がコアシェル粒子とならないことがある。上記範囲よりも分子中の親水性基の数が多いと、上記ポリマーの親水性が大きくなりすぎて、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなることがある。上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーは、分子中の親水性基の数と疎水性基の数との比が2.0:8.0〜3.1:6.9であることがより好ましい。
【0017】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限が5000、好ましい上限が10万である。上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの重量平均分子量が5000未満であると、コアシェル粒子の耐熱性が低下して、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いる場合には、所望のエポキシ樹脂の硬化温度に到達する前に硬化が始まってしまうことがあり、また、コアシェル粒子の耐溶剤性が低下して、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として溶剤と混合して用いる場合には、シェルが溶解してエポキシ樹脂組成物の長期の貯蔵安定性が低下することがある。上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの重量平均分子量が10万を超えると、上記ポリマーの析出速度が速くなりすぎて粒子がコアシェル粒子とならないことがあり、また、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなることがある。
【0018】
上記ポリマーは、更に、無機ポリマーを含有してもよい。
上記ポリマーが上記無機ポリマーを含有することで、コアシェル粒子は耐溶剤性が向上し、溶剤と混合する場合であってもエポキシ樹脂用硬化促進剤として好適に用いられる。
上記無機ポリマーは特に限定されないが、分子中に2個以上の炭素数1〜6のアルコキシ基を有し、かつ、Si、Al、Zr及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有する有機金属化合物の重合体が好ましい。このような有機金属化合物の重合体として、例えば、シリコーン樹脂、ポリボロシロキサン樹脂、ポリカルボシラン樹脂、ポリシラスチレン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリチタノカルボシラン樹脂等が挙げられる。なかでも、シリコーン樹脂が好ましく、グリシジル基を有するシリコーン樹脂がより好ましい。
【0019】
上記ポリマーが上記無機ポリマーを含有する場合、上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量と、上記無機ポリマーの配合量との重量比が4:6〜7:3であることが好ましい。上記範囲よりも上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量が少ないと、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなることがあり、また、コアシェル粒子の耐熱性が大きくなりすぎて、温度によっては、加熱しても上記コア剤が放出されないことがある。上記範囲よりも上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量が多いと、コアシェル粒子の耐溶剤性が低下して、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として溶剤と混合して用いる場合には、シェルが溶解して
エポキシ樹脂組成物の長期の貯蔵安定性が低下することがある。上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量と、上記無機ポリマーの配合量との重量比は、5:5〜6:4であることがより好ましい。
【0020】
上記コア剤は、疎水性イミダゾール化合物である。
なお、本明細書中、疎水性イミダゾール化合物とは、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であるイミダゾール化合物を意味する。
【0021】
上記疎水性イミダゾール化合物は、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であれば特に限定されないが、炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物が好ましい。
上記炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物として、例えば、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)−エチル−s−トリアジン等が挙げられる。なかでも、2−ウンデシルイミダゾールが好ましい。
【0022】
本発明のコアシェル粒子における上記コア剤の内包率は特に限定されないが、好ましい下限が20重量%、好ましい上限が50重量%である。上記コア剤の内包率が20重量%未満であると、コアシェル粒子のシェル厚みが増大し、温度によっては、加熱しても上記コア剤が放出されないことがある。上記コア剤の内包率が50重量%を超えると、コアシェル粒子のシェル厚みが低下し、上記シェルの保持性が低下することがある。本発明のコアシェル粒子における上記コア剤の内包率のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は40重量%である。
なお、本発明のコアシェル粒子におけるシェル厚みは特に限定されないが、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が1.0μmであり、より好ましい下限が0.1μm、より好ましい上限が0.5μmである。
【0023】
更に、上記コア剤の内包率が上記範囲を外れると、コアシェル粒子を製造する際の上記ポリマーと上記コア剤との量の割合が大きく変化することから、コアシェル構造が形成されなかったり、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなったりすることがある。
【0024】
本発明のコアシェル粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が5.0μmである。上記平均粒子径が0.5μm未満であると、上記範囲の内包率を維持しようとすると、コアシェル粒子のシェル厚みが低下し、上記シェルの保持性が低下することがある。上記平均粒子径が5.0μmを超えると、コアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いる場合に、加熱により上記コア剤が放出された後、大きなボイドが生じて硬化物の信頼性が低下することがある。本発明のコアシェル粒子の平均粒子径のより好ましい上限は3.0μmである。
【0025】
本発明のコアシェル粒子のアスペクト比は特に限定されないが、好ましい上限が1.1である。上記アスペクト比が1.1を超えると、コアシェル粒子のシェル厚みが一定ではなくなり、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いる場合には、貯蔵中に部分的に上記コア剤が滲み出してエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりすることがある。本発明のコアシェル粒子のアスペクト比のより好ましい上限は1.05である。
【0026】
本発明のコアシェル粒子の粒子径のCV値は特に限定されないが、好ましい上限が50%である。上記粒子径のCV値が50%を超えると、コアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いる場合には、貯蔵中に部分的に上記コア剤が滲み出してエポキシ樹脂組
成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりすることがある。上記粒子径のCV値のより好ましい上限は30%である。
【0027】
なお、本明細書中、コアシェル粒子の平均粒子径、アスペクト比及び粒子径のCV値は、以下のようにして求めた値を意味する。
コアシェル粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のコアシェル粒子が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のコアシェル粒子の最長径及び最短径を、ノギスを用いて測定する。最長径を粒子径とし、粒子径の数平均値を求め、これを平均粒子径とし、最短径に対する最長径の比(最長径/最短径)の数平均値を求め、これをアスペクト比とする。なお、アスペクト比は、1に近くなるほど真球状に近いことを意味する。
また、粒子径のCV値は、下記式(1)で表される。
CV値(%)=(粒子径の標準偏差σ/数平均粒子径Dn)×100 (1)
【0028】
本発明のコアシェル粒子は、100〜200℃以上の温度に加熱されると上記シェルが溶解又は崩壊し、上記コア剤、即ち、上記疎水性イミダゾール化合物を放出することから、エポキシ樹脂用硬化促進剤として好適に用いられる。
本発明のコアシェル粒子は、アスペクト比が小さく、シェル厚みがほぼ一定であり、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いることで、貯蔵中に部分的に上記コア剤が滲み出してエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりする等の問題を軽減することができる。
【0029】
次に、本発明のコアシェル粒子の製造方法について説明する。
本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、まず、上述したようなポリマーとコア剤とを、上記ポリマーと上記コア剤とを共に溶解することのできる溶剤に溶解させて、上記ポリマーと上記コア剤とを含有する混合溶液を調製する工程を行う。
【0030】
上記溶剤は、上記ポリマーと上記コア剤とを共に溶解することができれば特に限定されず、使用するポリマーとコア剤とに合わせて適宜選択されるが、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤、酢酸エチルとイソプロピルアルコールとの混合溶剤、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤等が挙げられる。
【0031】
本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、次いで、上記混合溶液を水性媒体中に乳化分散させる工程を行う。
上記水性媒体は特に限定されず、例えば、水、又は、水とメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶剤との混合物等が挙げられる。
上記水性媒体の添加量は特に限定されないが、上記混合溶液100重量部に対する好ましい下限が300重量部、好ましい上限が1000重量部である。
【0032】
上記水性媒体は、必要に応じて、乳化剤を含有してもよい。
上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0033】
上記乳化分散させる方法は特に限定されず、例えば、上記混合溶液に上記水性媒体を滴下し、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が挙げられる。
【0034】
本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、次いで、上記水性媒体中で上記溶剤を除去する工程を行う。
上記溶剤を除去する方法は特に限定されず、例えば、加熱しながら減圧する方法、上記ポリマーの貧溶媒を添加する方法等が挙げられる。
【0035】
上記水性媒体中で上記溶剤を除去する工程を行うことにより、上記ポリマーと上記コア剤とが相分離し、上記ポリマーが析出してコアシェル構造が形成され、コアシェル粒子分散液が得られる。
なお、上記ポリマーが上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有することにより、上記ポリマーは上記コア剤と充分に相分離することができ、更に、上記混合溶液は上記水性媒体中で充分に安定なエマルジョンを形成できることから上記ポリマーからなる相の上記水性媒体に接する表面が平滑に維持される。そのため、本発明のコアシェル粒子の製造方法によれば、コアシェル構造を有するとともに、アスペクト比の小さいコアシェル粒子を製造することができる。
更に、上記コア剤を上記疎水性イミダゾール化合物とすることにより、上記ポリマーと上記コア剤との相分離をより安定化することができる。
【0036】
本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥等により乾燥してもよい。
【0037】
以上のような本発明のコアシェル粒子の製造方法によって、上記ポリマーからなるシェルに、上記コア剤を内包するコアシェル粒子が得られる。
本発明のコアシェル粒子の製造方法によって製造されるコアシェル粒子は、アスペクト比が小さく、シェル厚みがほぼ一定であり、このようなコアシェル粒子をエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いることで、貯蔵中に部分的に上記コア剤が滲み出してエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が低下したり、硬化が不均一となって硬化物の信頼性が低下したりする等の問題を軽減することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、エポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることのできるコアシェル粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該コアシェル粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0040】
(実施例1)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0130S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)3重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)3重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0041】
(実施例2)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−1010S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)3重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)3重量部とを、酢酸エチルとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(酢酸エチル:イソプロピルアルコール(IPA)=6:4)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0042】
(実施例3)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0130S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)2.4重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)3.6重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0043】
(実施例4)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0130S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)4.2重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)1.8重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0044】
(実施例5)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0130S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)6重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液
を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0045】
(実施例6)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0130S、ポリスチレン一部エポキシ置換、日油社製)2重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)4重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで撹拌して乳化分散させた。その後、得られた溶液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液中の粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0046】
(実施例7)
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーとしてマープルーフ(G−0150M、アクリル系ポリマー一部エポキシ置換、日油社製)6重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌して乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0047】
(比較例1)
ポリスチレン3重量部と、疎水性イミダゾール化合物として2−ウンデシルイミダゾール3.2重量部と、無機ポリマーとしてシリコーン樹脂(X−41−1053、アルコキシオリゴマー一部エポキシ置換、信越化学工業社製)3重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコール(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール(IPA)=9:1)170重量部に溶解させて混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで撹拌して乳化分散させた。その後、得られた溶液を、減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して溶剤を除去することにより、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液中の粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥した。
【0048】
(評価)
実施例、比較例で得られたコアシェル粒子について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(1)平均粒子径、CV値
得られたコアシェル粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のコアシェル粒子が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のコアシェル粒子の最長径を粒子径としてノギスを用いて測定した。ここで、平均粒子径とは、数平均粒子径である。また、CV値は、上記式(1)で表される。
(2)アスペクト比
得られたコアシェル粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のコアシェル粒子が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のコアシェル粒子の最長径及び最短径を、ノギスを用いて測定した。最短径に対する最長径の比(最長径/最短径)の数平均値を求め、これをアスペクト比とした。
【0050】
(3)貯蔵安定性試験
得られたコアシェル粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、ジャパンエポキシレジン社製)とを5:10の重量比で混合し、コアシェル粒子含有樹脂組成物を300g調製した後、得られたコアシェル粒子含有樹脂組成物の25℃における粘度(cps)をB型粘度計により測定した。その後、コアシェル粒子含有樹脂組成物を25℃で30日間放置した後の粘度(cps)を測定した。
得られた貯蔵前後(25℃、30日間の放置前後)の粘度の差を算出することにより、貯蔵安定性を評価した。
【0051】
(4)硬化性試験
得られたコアシェル粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、ジャパンエポキシレジン社製)とを5:10の重量比で混合し、コアシェル粒子含有樹脂組成物を300g調製した。コアシェル粒子含有樹脂組成物を離型処理したPETフィルムの離型処理面にバーコーターを用いて塗布し、140℃で30分硬化させた後、PETフィルムを剥がして厚さ200μmのフィルム状の測定サンプルを作製した。
得られた測定サンプルについて、テンシロン試験機(RTC−1310A、オリエンテック社製)を用いて、JIS K−6911に準拠して引張速度5mm/minにより引張強度(kgf/cm)を測定することにより、硬化性を評価した。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、エポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられ、エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化物の信頼性を高めることのできるコアシェル粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該コアシェル粒子の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーからなるシェルに、コア剤を内包するコアシェル粒子であって、
前記ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有し、
前記コア剤は、疎水性イミダゾール化合物である
ことを特徴とするコアシェル粒子。
【請求項2】
親水性基は、グリシジル基であることを特徴とする請求項1記載のコアシェル粒子。
【請求項3】
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーは、ポリスチレン誘導体及びポリメタクリル酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2記載のコアシェル粒子。
【請求項4】
親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーは、分子中の親水性基の数と疎水性基の数との比が0.5:9.5〜3.5:6.5であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のコアシェル粒子。
【請求項5】
ポリマーは、更に、無機ポリマーを含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のコアシェル粒子。
【請求項6】
無機ポリマーは、シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項5記載のコアシェル粒子。
【請求項7】
シリコーン樹脂は、グリシジル基を有するシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項6記載のコアシェル粒子。
【請求項8】
ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量と、無機ポリマーの配合量との重量比が4:6〜7:3であることを特徴とする請求項5、6又は7記載のコアシェル粒子。
【請求項9】
疎水性イミダゾール化合物は、炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のコアシェル粒子。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のコアシェル粒子を製造する方法であって、
ポリマーとコア剤とを、前記ポリマーと前記コア剤とを共に溶解することのできる溶剤に溶解させて、前記ポリマーと前記コア剤とを含有する混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を水性媒体中に乳化分散させる工程と、
前記水性媒体中で前記溶剤を除去する工程とを有する
ことを特徴とするコアシェル粒子の製造方法。

【公開番号】特開2011−115755(P2011−115755A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277611(P2009−277611)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】