説明

コアセルベーションによりコーティングポリマーに導入された薬物を有するマイクロカプセル

ポリマー膜でコートされたコアで構成される、活性成分を有するマイクロカプセルに関する。このマイクロカプセルにおいて、上記の活性成分は、ポリマーコーティング層に取り込まれており、この層は、マイクロカプセル化技術(相分離によるコアセルベーション)を用いて適用される。このように製造されたマイクロカプセルは、味覚をマスクし活性成分を長時間持続するという優れた特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル技術に関する。
【背景技術】
【0002】
不活性なコアを活性成分でコーティングを行うことは、医薬分野において周知の技術であって、コーティングパン(coating pan)又は流動床を用いて一般的に行われる。このコーティングは、粉末積層工程(powder layering process)又は溶液積層工程(solution layering process)に適用されてもよい。両技術において、活性本体の不活性ビーズの表面への適用は、接着剤(binder)により行われる。
【0003】
マイクロカプセルにおけるこの種の処方は、活性本体の水性媒体への暴露を増加させるために、且つ溶解性の低い薬物のバイオアベイラビリティーを増加させるために、一般的に使用される。
【0004】
また、放出を制御し、好まれない味覚(taste)をマスク(mask)し、又は活性成分が光や空気に直接暴露することを回避するポリマーを有するさらなるフィルム(特許文献1参照)で活性本体の層を覆うことにより、上述の種類の処方の放出を制御することが可能な技術も知られている。
【0005】
さらに、特許文献2において、不活性材料のコアの表面を溶液積層工程によりコートして得た消化器耐性を有する処方を開示する。この処方において、活性本体と消化器耐性を有するポリマーとを有する溶液は、流動床装置における上述の不活性なコア上に噴霧される。
【0006】
マイクロカプセルの調製に用いられる周知の方法は、味覚をマスクするように、又は放出特性を改変するように、相分離によるコアセルベーションで活性物質を有する結晶又は顆粒をコーティングする方法である(特許文献3及び4参照)。この方法は、水系及び有機溶媒系のいずれの環境において実施されてもよい。前者の場合、ポリマーは、pH及び/又は温度の変化によりその溶解性を改変させて溶液から分離されるか、溶液に相分離誘導剤を添加して溶液から分離される;後者の場合、ポリマーの分離は、ポリマーが溶解している溶液の温度を変化させて生じる溶解性の変化により、達成される。
【0007】
活性成分を流動床装置又はコーティングパンに適用して行われる上述の粉末積層工程は、時間がかかり、及び比較的コストのかかる多段階の方法である。しばしば、上述の薬物の投与量は、非常に少量で、1〜10mgの場合もある:このように少量の活性成分を有する顆粒又はペレットの製造は、含量の不均一性という問題を生じる可能性がある。さらに、粉末積層によりコア上に活性成分を負荷するには、低投与量の物質である場合、この物質に関して均一な分布を保証するように、非常に低い成分濃度の粉末混合処方を必要とする;これには、大容量の希釈剤と非常に長いコーティング時間とを必要とし、これは、工程のコスト高に影響する。他方、活性成分のみを有するマイクロカプセルを製造する場合、最終的な医薬形態にマイクロカプセルを高いレベルで希釈する必要性があるため、投与量の問題が残る。
【0008】
従って、コア上に薬物粒子を堆積させるのに向上された有効性を有する新規の方法が必要とされており、特に、非常に低投与量の薬物で行う場合であっても、コアの表面上に薬物粒子を均一に堆積させることを保証する高い再現性を有し工業的に低コストの方法が必要とされている。
【特許文献1】米国特許第6,077,533号明細書
【特許文献2】米国特許第4,261,971号明細書
【特許文献3】米国特許第4,411,933号明細書
【特許文献4】米国特許第3,860,733号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
相分離させるコアセルベーション(coacervation)によるマイクロカプセル化の技術を用いると、通常不活性な材料で賦形剤のペレットの形態で無類で活性成分が固形粒子の形態で分散されたポリマー膜でコートされた顆粒などからなるコアを有するマイクロカプセルを製造することが可能となることを、驚くべきことに発見した。
【0010】
このように製造されたマイクロカプセルは、味覚がマスクされた形で、及び/又は放出特性が改変された処方で、活性物質を有利に運搬し得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のマイクロカプセルを得る方法は、コートされるコアと、活性成分の粒子と、任意で膜添加物とが懸濁状態で分散された、適当な溶媒に含有されるコーティング用ポリマーの均一な溶液を製造することを本質的に有する。その後、ポリマーを不溶化させるのにそれ自体知られた方法を使用して、マイクロカプセルを形成するように、コアの周囲をゲル化(コアセルベート化)させる。例えば、相分離は、温度やpHを変化させたり、ポリマーを不溶化させる相分離誘導剤を添加したりして、行ってもよい。最終的に、得られるマイクロカプセルは、硬化され、必要に応じて、回収される。
【0012】
コアセルベーションされる上述の溶液は、慣習上の膜剤(membrane agent)を有するのみならず、コアセルベーションの後にコアのコーティング層に導入される薬物粒子をも有しており、このことが、本発明の特徴である。
【0013】
コアセルベーション法に利用される溶媒は、コーティングポリマーを溶解し、活性成分、膜添加物及び不活性なコアが溶解しないものから選択される。
【0014】
水に不要なコーティングポリマーの場合、コアセルベーション用の溶媒は、シクロヘキサンや有機溶媒の混液などの有機溶媒であり;水系媒体に溶解性を示すコーティングポリマーの場合、コアセルベーション用の溶媒は、必要に応じて緩衝性の塩を添加した水であることが好ましい。
【0015】
有機溶媒環境で使用され得る上述の添加物のうち、使用し得るものとして、ラクトース、マンニトール、ポリビニルピロリドンやその誘導体などの水溶性ポリマー、HPMC、MC、HPCなどのセルロース誘導体などが挙げられる。活性成分とともに上述の膜に含有されてもよい有機環境で使用される他の添加物は、急速に膨潤するものであってもよく、例えば、カルボキシメチルアミド(Explotab)、クロスカルメロース(AcDiSol)、クロスポビドン、前もってゼラチン化されたスターチ(pregelatinized starch;Starch 1500)などが挙げられる。また、完全に崩壊させ、且つ活性成分を完全に分散させるのを促進することを目的として、pH調節剤(有機酸、塩基、塩、緩衝系)を膜に含有させてもよい。
【0016】
水系溶媒環境に使用され得る賦形剤としては、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのカルシウム塩若しくはマグネシウム塩又はケイ酸塩などが挙げられる。
【0017】
相分離は、温度やpHを変化させたり、ポリマーを不溶化させる相分離誘導剤を添加するなどの公知の方法で行われる。得たマイクロカプセルは、その後、硬化され、必要に応じて、最終的に回収される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、少なくとも1つの活性成分を有するマイクロカプセルの調製方法であって、少なくとも1つの活性成分と、任意で少なくとも1つの膜添加物とを有するポリマー膜を、50μm〜1200μmの寸法を有するコアに適用する工程を有し、この適用工程は、相分離させるコアセルベーションの方法により行われることを特徴とする。
【0019】
本発明の方法で得られるマイクロカプセルは、活性成分と、必要に応じて膜添加物とが固形粒子の形態でポリマー膜に分散されていることを特徴とする。
【0020】
相分離によるマイクロカプセル化は、公知の方法である。本発明は、上述のコアセルベーション用の溶液が、慣習上の膜剤に加えて、コアセルベーションの後にコアのコーティング膜に導入される懸濁状態の活性成分を有する点を特徴とする。
【0021】
さらに特に、本発明による方法は:
(a)コーティングポリマーを有する水系又は有機系溶媒の溶液を形成させるステップと;
(b)ステップ(a)で得た溶液に、上述のコア、活性成分の粒子及び、任意で、膜添加剤を懸濁するステップと;
(c)相分離により、ステップ(b)で得た懸濁液中のコーティングポリマーにコアセルベーションを起こさせ、活性成分を導入したポリマー膜でコートされたコアを得るステップと;
(d)必要に応じて、マイクロカプセルに膜の硬化処理を施すステップと;
(e)上述の通り得たマイクロカプセルを好ましく洗浄し且つ回収するステップと;
を有する。
【0022】
ステップ(a)において、溶液の形成に使用する溶媒又はその混液は、懸濁状態で固形粒子の形態で分散された状態で、上述のポリマーを溶解させ得る必要があるが、活性成分及び膜添加剤を溶解させ得る必要はない。
【0023】
上述のコーティングポリマーは、水に溶解性を示しても示さなくてもよい。本発明の使用に好適な非水溶性ポリマーは、エチルセルロースであり、好適な水溶性ポリマーは、ゼラチン、酢酸セルロースフタレート、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP55)又はその誘導体である。
【0024】
使用される上述のコーティングポリマーが水に不溶性である場合、上述のステップ(a)で使用される特に好適な溶媒は、シクロヘキサンであって、水溶性ポリマーで行う場合、この好適な溶媒は、pH1〜9の、好ましくはpH4〜7の水である。このpHは、例えば緩衝液などで好ましく安定化される。
【0025】
ステップ(b)において、コア、活性成分及び種々の膜添加剤を、攪拌下で、ポリマー溶液に添加する。なお、異なる成分を添加する順序は、限定されない。
【0026】
ステップ(a)及びステップ(b)は、攪拌下で溶媒に、ポリマー、コア、活性成分及び種々の膜添加剤を添加する、単一のステップで行われてもよい。
【0027】
本発明において、用語「活性成分」とは、生物学的活性を有する種々の活性成分を意味し、特に、薬物を意味し、且つこれらを2種類以上有する混合物を包含する。本発明で使用され得る薬物の例は、限定されないが、気管拡張剤、CNS刺激剤、抗うつ薬、抗炎症剤、抗けいれん剤及び抗潰瘍剤などである。
【0028】
上述の膜添加剤は、膜と反対の溶解性を有する:つまり、水溶性膜の場合、水に不溶性の添加剤が使用され;水に不溶性な膜の場合、水溶性の添加剤が使用される。水溶性添加剤の好適例としては、ラクトース、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースや、カルボキシメチルアミド、クロスカルメロース、クロスポビドン、前もってゼラチン化されたスターチなどの膨潤剤が挙げられる。他の例としては、第二リン酸ナトリウム、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リン酸水素カリウムなどのpH調節剤が挙げられ;崩壊手段にひとたび接触すると、1〜9、より好ましくは2〜7.5のpHとなる。水に不溶性の添加剤としては、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのカルシウム塩及びマグネシウム塩や、ケイ酸塩が挙げられる。
【0029】
ステップ(c)において、相分離は、温度やpHなどを変化させる方法や、溶解しているコーティングポリマーの溶解平衡特性を改変させて不溶化させる相分離誘導剤などの物質を添加するなどで、行われてもよい。相分離を行うのに使用される技術は、マイクロカプセル化を行う溶媒に依存して、種々変更する。
【0030】
特に、有機溶媒中でマイクロカプセル化を行う場合、コア及び種々の膜添加剤とともに前もって分散された活性成分を冷却する。冷却する間、活性成分は、ポリマーが分離する効果を介して、混合物として添加された種々の添加剤とともに、ポリマーのゲル化層に固体粒子の形態で取り込まれたままとなる。
【0031】
水系環境におけるマイクロカプセル化の場合、例えばリン酸緩衝液中のCAPのように、ポリマーを適当に溶解させた後、コアを分散し、一定速度の攪拌下で、活性成分を添加する。この場合、pHや温度を変化させたり、溶液に相分離誘導剤を添加するなどして、相分離が起こる。本発明の好適実施例によると、相分離は、ポリマーが分離するという指標である溶液の分離及び粘性を観察して、硫酸ナトリウムの飽和溶液などの相分離誘導剤を徐々に添加して行われる。
【0032】
任意のステップであるステップ(d)において、マイクロカプセルは、膜の硬化処理が施される;この処理は、公知であり、水系環境でのマイクロカプセル化の場合、クエン酸を添加して行われ、有機環境でのマイクロカプセル化の場合、外気温に冷却して行われる。
【0033】
ポリマーの量、その特性及び種々の添加剤は、味覚のマスク及び/又は改変された放出の度合いを調節可能とする活性成分の放出の制御に寄与する。
【0034】
ステップ(e)において、マイクロカプセルは、過剰に残存する試薬を消失させるように、好ましく洗浄され、その後、濾過などで回収された後、乾燥される。
【0035】
必要であれば、本発明のマイクロカプセル上に、1つ以上のさらなる防御コーティング層を設けてもよい。
【0036】
本発明は、また、上述の工程で得られる新規のマイクロカプセルにも関する。本発明のマイクロカプセルは、ポリマー膜でコートされたコアを有し、活性成分及び必要に応じて膜添加物が、固形粒子の形態で分散されていることを特徴とする。
【0037】
コアは、マイクロカプセルの重量に対して、好ましくは50〜95%、さらに好ましくは60〜70%含有されている。また、コアは、50〜1200μm、好ましくは100〜500μmの寸法を有する。
【0038】
コアの主要な機能は、マイクロカプセル用に適した均一で再現し得る担体を提供することである;本発明において、上述の寸法の要件を満たす種々のコアを使用してもよい(例えば、マイクロ顆粒、顆粒、ペレット等);好適なコアは、無類のシード(non−pareil seed)であって、これは、本質的に通常の球形の形状により、コーティングポリマーで均一にカプセル化することが可能となる。
【0039】
コアは、不活性な賦形剤で本質的に構成され、例えば、スクロース、ラクトース、微晶性セルロース、スターチ、タルク、アラビアゴム、モノステアリン酸グリセリン、ベヘン酸グリセリン等に混合される。コアは、活性成分を好ましく有さないが;場合によっては、内部に活性成分が分散されたコアを有してもよい;これは、例えば、多量の活性本体を負荷させたい場合や、長時間放出制御したい場合に有用である;これらの場合、マイクロカプセルは、コーティング壁に活性成分を有するのみならず、コア内部にも活性成分を有する。
【0040】
上述のコーティング膜を構成するポリマーは、マイクロカプセルの重量に対して、2〜40%、好ましくは2〜20%有する。
【0041】
この膜は、水に溶解性を示しても示さなくてもよい;不溶性の膜を有するマイクロカプセルにおいて、好適なコーティングポリマーは、エチルセルロースであり;溶解性膜を有するマイクロカプセルでは、最も適したポリマーは、例えば、ゼラチン、酢酸セルロースフタレート(CAP)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP55)及びその誘導体から選択されてもよい。
【0042】
上述の膜に含有される活性成分の粒子は、コアの径よりも小さい平均径を有し、固形粒子の形態でマイクロカプセルをコートするポリマー膜に分散される。
【0043】
活性成分粒子は、好ましくは0.1〜80μm、さらに好ましくは1〜30μmの寸法を有し;活性成分は、マイクロカプセルの重量に対して、好ましくは0.1〜40%、さらに好ましくは0.2〜21%で、マイクロカプセルに含有される。
【0044】
本発明者らは、本発明のコアセルベーション法により、利用するポリマーの種類に依存した膜層に異なる分散様式で活性本体が存在するマイクロカプセルを得ることが可能であることを、驚くべきことに見出した。さらに、本発明者らは、本発明の方法に使用するポリマーの種類及びポリマーの量を調節することにより、活性本体の味覚がマスクされ、及び/又はさらなるコーティング層を用いることなく改変された放出性を示すマイクロカプセルを得られ得ることを、驚くべきことに見出した。
【0045】
水溶性ポリマーを用いたマイクロカプセルの場合、本発明の方法で得たマイクロカプセルは、活性成分粒子がポリマーとコアとの間の境界に広く分散されることを特徴とする。事実、図1に示すように、この場合、活性本体の粒子は、ポリマー壁内に分散され、その濃度は、コアから膜の離れた部分に向かって徐々に減少し、外部表面では、本質的にゼロとなる。
【0046】
この種類のマイクロカプセルは、膜の遠い部分で活性本体が存在しないため、味覚のマスク効果と、さらなる防御層を必要とすることなく改変された放出性とを得るのに使用され得るという効果を有する。本発明に使用されるポリマーで得られる、改変された放出性、特に遅延した放出性は、ポリマーの量と種類とに依存する。同様のポリマーは、味覚のマスク適用にも有効である。
【0047】
膜の内部で上述の薬物が分離することは、コア上での薬物の均一な分布に影響を及ぼさないことを強調することも重要である;事実、コアの各表面単位上での活性成分の堆積率は、マイクロカプセルを施したバッチ全体で本質的に一定であり、これにより、コアの表面上での必要な、投与の均一性を保証する。
【0048】
水に不溶性のポリマーを用いたマイクロカプセル化を行う場合、マイクロカプセルは、活性本体の粒子がコーティング膜内で均一に分散された形で得られる(図2及び図3)。
【0049】
下述の例で示すように、この場合、改変された放出性及び/又は味覚のマスク性を有するマイクロカプセルを得ることが可能である。ポリマーの量及び添加剤の存在のいずれも、活性本体の崩壊率に影響を及ぼし、従って、所望する改変された放出性及び/又は味覚のマスク性が得られる。
【0050】
上述の膜は、薬物及びコーティングポリマーのほか、例えば、透過性、機械的耐性、可塑性などの特性を調節したり、官能面(色調、臭い、味覚)を修正するのに有用な膜添加剤を有してもよい。膜添加剤は、膜と逆の溶解性を有する:つまり、水溶性膜の場合、水に不溶性の添加剤が使用され;水に不溶性の膜の場合、水溶性の添加剤が使用される。水溶性添加剤の例として、ラクトース、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースや、カルボキシネチルアミド、クロスカルメロース、クロスポビドン、前もってゼラチン化されたスターチなどの膨潤剤などが挙げられる。その他の例として、第二リン酸ナトリウム、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リン酸水素カルシウムなどのpH調節剤などが挙げられる:崩壊手段にひとたび接触すると、これらにより、pHが1〜9、さらに好ましくは2〜7.5に調節される。水に不溶性の添加剤として、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのカルシウム塩及びマグネシウム塩や、ケイ酸塩が挙げられる。
【0051】
上述の添加剤のうち、例えば、ポリビニルピロリドンは、活性成分の崩壊率に影響を及ぼしてもよい。
【0052】
膜添加剤は、コアの径よりも小さな平均粒径を有し、好ましくは、0.1〜80μm、さらに好ましくは、7〜30μmであり、マイクロカプセルの重量に対して、好ましくは2〜20%、さらに好ましくは、3〜10%有する。
【0053】
活性成分の放出をさらに調節するのに、さらなるコーティングを行ってもよい。このコーティング層に用いる材料及びその適用方法は、当業者周知のものを用いてもよい。
【0054】
本発明に関し、薬学的コアの表面上での活性成分の再現可能な量の堆積は、簡単な製造方法を用いて、上述の通り達成される;この方法は、導入される薬物が低量で存在する場合であっても、信頼できるものである;さらに、活性本体の味覚がマスクされ、及び/又はさらなるコーティング層を適用する必要がなく改変された放出性を有するマイクロカプセルが得られ得る。
【実施例】
【0055】
以下の限定されない例により、本発明を説明する。
【0056】
(例1)
シクロヘキサン(1000部)に、エチルセルロース(10部)とポリエチレン(20g)とを80℃で溶解し、MCCコア(Selphere FMC)(184部)に分散する。攪拌下で、粉末カフェイン(D4.3=25μm)(4部)及びポリビニルピロリドン(2部)を添加する。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、濾過し、乾燥して、分離する。
【0057】
(例2)
シクロヘキサン(1000部)に、エチルセルロース(12部)とポリエチレン(20g)とを80℃で溶解し、MCCコア(Cellets PHARMATRANS)(172部)に分散する。攪拌下で、塩酸メトクロプラミド(D4.3=30μm)(12部)及びマンニトール(4部)を添加する。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、濾過し、乾燥して、分離する。
【0058】
(例3)
リン酸ナトリウム及び/又はリン酸カルシウムで構成される緩衝液を有する水(6000部)に、酢酸セルロースフタレート(CAP)(140部)を溶解する。なお、このpHは、6.0〜6.5であり、イオン強度は0.5である。
【0059】
不溶性無機塩及び有機脂肪酸のトリグリセライドなどの結合物質に基づき、造粒して得た顆粒又はペレットで構成される、700部のコアを分散し;攪拌下で、10〜30μmの寸法のイブプロフェン(160部)を添加する。
【0060】
CAPの相分離を促進する20%の硫酸ナトリウムで構成される相分離誘導剤を添加し、膜を硬化させるクエン酸溶液を添加する。濾過で分離し、乾燥させてマイクロカプセルを得る。
【0061】
上述の通り得たマイクロカプセルを電子顕微鏡で分析した(図1)。図1は、ポリマーとコアとの境界に広く分布した固形粒子の形態で、ポリマー膜内に活性本体の粒子が分布していることを示す。
【0062】
(例4)
エチルセルロース 100STD p(30g)とポリエチレン(60g)とを、高温で、シクロヘキサン(3000g)に溶解し、不活性なコア(273g)(寸法350μm)内に分散する;攪拌しながら、微粉末化した無水テオフィリン(60g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0063】
このようにして得たマイクロカプセルに関して、崩壊試験を行う。なお、比較には、結晶形態の無水テオフィリンを用いた。
【0064】
【表1】

【0065】
崩壊試験で得た結果が示すように、マイクロカプセル化により、改変された放出性が実現した。なお、崩壊試験は、アメリカ薬局方26に基づいて行った。
【0066】
(例5)
エチルセルロース 100STD p(30g)とポリエチレン(60g)とを、高温でシクロヘキサン(3000g)に溶解し、不活性なコア(273g)(寸法500μm)内に分散する;攪拌しながら、微粉末化した無水テオフィリン(60g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0067】
(例6)
エチルセルロース 100STD p(8g)とポリエチレン(20g)とを、高温で、シクロヘキサン(1000g)に溶解し、不活性なコア(92g)(寸法200μm)内に分散する;攪拌しながら、微粉末化した無水テオフィリン(17g)及びポリビニルピロリドンCL(3g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0068】
(例7)
例5及び例6で得たマイクロカプセルに関して、例4で述べた方法に従って崩壊試験を行う。
【0069】
【表2】

【0070】
その結果、添加剤(例7)を導入すると、崩壊性がさらに改変可能であることが示された。
【0071】
(例8)
エチルセルロース 100STD p(22g)とポリエチレン(60g)とを、高温でシクロヘキサン(3000g)に溶解し、不活性なコア(273g)(寸法350μm)内に分散する;攪拌しながら、カフェイン(60g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0072】
上述の通り得たマイクロカプセルを電子顕微鏡で分析した(図3)。図3は、ポリマーとコアとの境界に広く分布した固形粒子の形態で、ポリマー膜内に活性本体の粒子が分布していることを示す。このようにして得たマイクロカプセルに関して、崩壊試験を行うと、生材料であるカフェインと比較して、改変された崩壊性が得られることが示される。
【0073】
【表3】

USP(アメリカ薬局方)26に準じて崩壊試験を行った。
【0074】
(例9)
エチルセルロース 100STD p(8g)とポリエチレン(20g)とを、高温で、シクロヘキサン(1000g)に溶解し、不活性なコア(92g)(寸法100μm)内に分散する;攪拌しながら、オメプラゾール(17g)及びポリビニルピロリドンCL(3g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0075】
(例10)
例9で得たマイクロカプセルに関して崩壊試験を行ったところ、改変される崩壊性は、不活性なコアの粒子径に影響されることが示された。
【0076】
【表4】

USP(アメリカ薬局方)26に準じて崩壊試験を行った。
【0077】
(例11)
エチルセルロース 100STD p(5g)とポリエチレン(20g)とを、高温でシクロヘキサン(1000g)に溶解し、不活性なコア(77g)(寸法200μm)内に分散する;攪拌しながら、フルオキセチン(6g)及びポリビニルピロリドンCL(3g)を加える。さらに攪拌しながら、外気温まで徐々に冷却する。このようにして得たマイクロカプセルを、デカンテーションし、洗浄し、濾過し、乾燥する。
【0078】
このようにして得たマイクロカプセルを電子顕微鏡で分析した(図2)。図2は、ポリマー膜内で、活性本体の粒子が固形粒子の形態で均一に分散することを示す。
【0079】
上述の通り得たマイクロカプセルに関して崩壊試験を行って、生材料のフルオキセチンと比較した。
【0080】
5分後、若干量が溶解し、コーティングポリマーによる味覚のマスク効果が達成されることが示された。
【0081】
【表5】

USP(アメリカ薬局方)26に準じて崩壊試験を行った。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の例3に従って得たマイクロカプセルの顕微鏡画像である。
【図2】本発明の例11に従って得たマイクロカプセルの顕微鏡画像である。
【図3】本発明の例8に従って得たマイクロカプセルの顕微鏡画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの活性成分を有するマイクロカプセルの調製方法であって、
少なくとも1つの活性成分と、任意で少なくとも1つの膜添加剤とを有するポリマー膜を、50μm以上1200μm以下の寸法のコアに適用する工程を有し、
前記の適用する工程は、相分離させるコアセルベーション法により行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
(a)水系溶媒又は有機溶媒中で、コーティングポリマーの溶液を形成させるステップと;
(b)前記ステップ(a)で得た溶液中で、コアと、活性成分の粒子と、任意で膜添加剤とを懸濁させるステップと;
(c)前記ステップ(b)で得た懸濁液中で、前記コーティングポリマーに、相分離でコアセルベーションを生じさせるステップと;
(d)任意で、マイクロカプセルに、膜の硬化処理を施すステップと;
(e)得たマイクロカプセルを回収するステップと;
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)と前記ステップ(b)とを単一ステップとして行うことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記のポリマーは、水に不溶性であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記のポリマーは、エチルセルロースであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)で使用する溶媒は、シクロヘキサンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)で添加する前記の添加剤は、ラクトース、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ヒドロプロピルメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース並びにカルボキシメチルアミド、クロスカルメロース、クロスポビドン及び前もってゼラチン化されたスターチなどの膨潤剤並びにpH調節剤から選択されることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記のポリマーは、水溶性であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記のポリマーは、ゼラチン、酢酸セルロースフタレート及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート並びにその誘導体からなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(a)で使用する溶媒は、pH1〜9の水であることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記pHは、4〜7であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)で添加する前記の添加剤は、第二リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びケイ酸塩から選択されることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(c)において、温度を変化させて相分離を行うことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(c)において、pHを変化させ、温度を変化させ、又は相分離誘導剤を添加して前記のポリマーを不溶化して、相分離を行うことを特徴とする請求項8乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
50μm以上1200μm以下の寸法を有するコアと、固形粒子の形態で分散された少なくとも1つの活性成分を有するポリマー膜からなるコーティングとを有するマイクロカプセルであって、
前記ポリマー膜を構成するポリマーは、水溶性ポリマーであり、
前記活性成分の粒子は、前記コアから前記ポリマー膜の離れた部位に向かって徐々に減少する濃度で、前記ポリマー膜内に分散されている、
ことを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項16】
前記活性本体の味覚は、マスクされていることを特徴とする請求項15に記載のマイクロカプセル。
【請求項17】
前記活性本体の放出性が改変されていることを特徴とする請求項15又は16に記載のマイクロカプセル。
【請求項18】
前記の改変された放出性は、遅延された放出性であることを特徴とする請求項17に記載のマイクロカプセル。
【請求項19】
前記水溶性ポリマーは、ゼラチン、酢酸セルロースフタレート及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート並びにその誘導体から選択されることを特徴とする請求項15乃至18のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項20】
前記ポリマー膜は、水に不溶性の膜添加剤をさらに有することを特徴とする請求項15乃至19のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項21】
50μm以上1200μm以下の寸法を有するコアからなり、且つ1つ以上の活性成分が固体粒子の形態で均一に分散されたポリマー膜でコートされた、マイクロカプセルであって、
前記ポリマー膜を構成するポリマーは、水に不溶性のポリマーであることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項22】
前記活性成分の放出性が改変されたことを特徴とする請求項21に記載のマイクロカプセル。
【請求項23】
前記の水に不溶性のポリマーは、エチルセルロース及びその誘導体から選択されることを特徴とする請求項21又は22に記載のマイクロカプセル。
【請求項24】
前記ポリマー膜は、水溶性添加剤をさらに有することを特徴とする請求項21乃至23のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項25】
前記活性成分は、0.1μm以上80μm以下の寸法を有し、当該マイクロカプセルの重量に対して0.1%以上40%以下で含有されていることを特徴とする請求項15乃至24のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項26】
前記活性成分は、1μm以上30μm以下の寸法を有し、当該マイクロカプセルの重量に対して0.2%以上21%以下で含有されていることを特徴とする請求項25に記載のマイクロカプセル。
【請求項27】
前記コアは、当該マイクロカプセルの重量に対して50%以上95%以下を構成し、コーティングポリマーは、当該マイクロカプセルの重量に対して2%以上20%以下で変化することを特徴とする請求項15乃至26のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項28】
前記の膜は、0.1μm以上80μm以下の平均径を有し当該マイクロカプセルの重量に対して2%以上10%以下を構成する添加剤を有することを特徴とする請求項15乃至27のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項29】
前記膜添加剤は、7μm以上30μm以下の平均径を有し、当該マイクロカプセルに対して3%以上5%以下を構成することを特徴とする請求項28に記載のマイクロカプセル。
【請求項30】
コーティング層でさらにコートされたことを特徴とする請求項15乃至29のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−509844(P2007−509844A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530223(P2006−530223)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050962
【国際公開番号】WO2004/105725
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(307000318)ユーランド ソシエタ ペル アチオニ (1)
【Fターム(参考)】