説明

コアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置

【課題】
逆巻きや回転ローラへの巻付き、および弾性糸の損傷を招くことのない、コアヤーン製造装置を提供する。
【解決手段】
駆動モータ23によって回転駆動する回転ローラ22に弾性糸パッケージ21を当接させ、回転ローラ22を回転させることにより、弾性糸パッケージ21を所定周速Vで回転させながら弾性糸Dを解舒し、解舒された弾性糸Dを芯糸としてコアヤーンCを製造するコアヤーン製造装置100において、弾性糸パッケージ21を停止状態から起動する際、所定周速Vに至るまで、弾性糸パッケージ21の周速を徐々に増速するための起動時周速制御手段CMを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性糸を芯糸とし、その周囲に短繊維からなる繊維束を巻き付けたカバーリング・スパンデックス・コアヤーン(以下、コアヤーンと称する)の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパンデックス等の弾性糸を芯糸に用い、その周囲を毛又は綿等の短繊維からなる繊維束で覆ったコアヤーンは、弾性糸の優れた伸縮性と天然繊維の良好な風合を兼備するという特長を有している。
【0003】
このコアヤーンを製造する装置は、パッケージから解舒した弾性糸に適正な張力を付与しつつ、当該弾性糸をドラフト装置等に供給し、そこでドラフト中の短繊維束と合流させ、空気紡績装置で芯糸に短繊維を絡み付かせることにより、コアヤーンを製造するように構成されている。
【0004】
そして、弾性糸をそのパッケージから解舒し、ドラフト装置等に供給するには、クレードルアームに回転自在に支持された弾性糸パッケージを、駆動モータによって所定の周速で回転せしめられる回転ローラに当接させ、それに従動させて一定周速(以下、所定周速 Vと称する)で解舒を行い、ガイドやエアサッカー装置等を介して、下方に配置されたドラフト装置に弾性糸を給糸している。
【特許文献1】特開2002−363834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記駆動モータはインバータによって制御されているが、そのインバータは、駆動モータ停止状態において制御装置から駆動開始信号を受けると、図4に示す如く、駆動モータすなわち弾性糸パッケージの周速Vが上記所定周速Vまで即座に到達するよう、駆動モータに最大駆動電流Iを与え、その後、所定周速Vを維持するための所定の駆動電流Iを与えて制御しているのが一般的である。
【0006】
しかしながら、上述のように急激に弾性糸パッケージを回転起動すると、緊張状態でパッケージに巻き上げられ互いに粘着する傾向にある弾性糸は、パッケージ表面から円滑に解舒されずに、反対にパッケージに巻き取られてしまう所謂逆巻きを生じたり、回転ローラへ巻き付いたりし、ドラフト装置へ供給される途中で切れてしまうことがあった。
また、弾性糸に対して急激に張力が付与されることとなるため、弾性糸が損傷してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、逆巻きや回転ローラへの巻付き、および弾性糸の損傷を招くことのない、コアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、駆動モータによって回転駆動する回転ローラに弾性糸パッケージを当接させ、当該回転ローラを回転させることにより、前記弾性糸パッケージを所定周速Vで回転させながら弾性糸を解舒し、解舒された弾性糸を芯糸としてコアヤーンを製造するコアヤーン製造装置において、前記弾性糸パッケージを停止状態から起動する際、前記所定周速Vに至るまで、前記弾性糸パッケージの周速を徐々に増速するための起動時周速制御手段を設けた。
【0009】
また、上記構成において、前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータをインバータによって駆動制御し、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしたのが好ましい。
【0010】
また、上記構成において、前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータを間欠的に駆動制御し、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしてもよい。
【0011】
また、上記構成において、前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータと前記回転ローラとの間に介在する無段変速装置からなり、当該無段変速装置によって、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明のパッケージ駆動装置によれば、弾性糸パッケージが急激に起動せしめられることなく緩やかに起動せしめられるため、逆巻きや回転ローラへの巻付き、および弾性糸の損傷を生じることなく、コアヤーンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい一実施形態につき説明する。図1は、本発明にかかるパッケージ駆動装置が適用されるコアヤーン製造装置100を示す正面図であり、図2は、コアヤーン製造装置100の側断面図である。
まず、当該コアヤーン製造装置100について、概略的に説明する。
【0014】
コアヤーン製造装置100は主に、図1または図2に示す如く、弾性糸供給装置2、ドラフト装置3、空気紡績装置4、糸送りローラ5、スラブキャッチャ7、およびコアヤーン巻取装置8からなる、機台長手方向に複数並設された紡績ユニット1と、それらの間を走行自在である糸継台車9とにより、構成されている。
【0015】
ドラフト装置3は主に、図1または図2に示す如く、上下で対になっているバックローラ31、エプロンベルトが掛け渡されたミドルローラ32、およびフロントローラ33から構成されており、後部のケンス(不図示)からガイド(不図示)を介して供給されるスライバSを所定の繊維束S1に引き揃える。
【0016】
空気紡績装置4は、図1または図2に示す如く、ドラフト装置3の下流であってフロントローラ33に近接した位置に配置されており、後述する弾性糸供給装置2から供給される弾性糸Dと、ドラフト装置3によりドラフトされた繊維束S1とに対し、圧縮空気の旋回気流を作用させて紡績し、弾性糸Dの周囲を繊維束S1でカバーリングしたコアヤーンCを製造する。
【0017】
上下で対になっている糸送りローラ5は、図1または図2に示す如く、空気紡績装置4の下流に設けられており、製造されたコアヤーンCに送り力を付与して、下流側に給送する。ここで、糸送りローラ5の回転による周速は、後述する弾性糸供給装置2における回転ローラ22の周速よりも大きくされており、弾性糸Dは、回転ローラ22から糸送りローラ5までの間、適正な張力が付与されて延伸されている。
【0018】
巻取装置8は、図1または図2に示す如く、紡績ユニット1の前面下部に設けられており、給送されたコアヤーンCをパッケージ81に巻き取る。
【0019】
スラブキャッチャ7は、糸送りローラ5と巻取装置8との間に設けられており、給送されたコアヤーンCの糸むら等の糸欠陥を検出する。
スラブキャッチャ7により糸欠陥が検出されると、空気紡績装置4と糸送りローラ5との間に配設されたカッター6が作動して、コアヤーンCを切断する。この切断が行われると、空気紡績装置4、バックローラ31、および後述する弾性糸パッケージ21の駆動が停止され、更に、後述するクランプカッター25が、弾性糸Dを把持すると共にその端部を切断するように制御される。そして、不要な糸を除去した後、後述する糸継台車9により糸継作業が行われる。
【0020】
糸継台車9は主に、糸継部91、旋回自在に設けられたサクションノズル92およびサクションマウス93、並びにサクションを発生させるブロワ(不図示)からなり、前面が開放された断面C形状に形成された紡績ユニット1の枠体1aにおける長手方向に連続した内部空間に、レール94,95に沿って走行自在なように配置されている。
サクションノズル92は、吸引口92aが空気紡績装置4の出口近傍となる位置まで、上方に回動して紡出側の糸端を吸引し、元の位置に復帰することにより、その糸端を糸継部91に導く。
一方、サクションマウス93は、巻取装置8のパッケージ81の近傍まで回動して巻取側の糸端を吸引し、元の位置に復帰することによりその糸端を糸継部91に導く。
そして、糸継部91が、上記紡出側の糸端と巻取装置8側の糸端とを糸継ぎし、運転が再開される。
【0021】
弾性糸供給装置2は主に、図2に示す如く、弾性糸Dのパッケージ21、回転ローラ22、駆動モータ23、弾性糸ガイド24、クランプカッター25、およびエアスレッティング用エアサッカー26とから構成されており、並設された紡績ユニット1に沿って掛け渡されている。
【0022】
弾性糸Dのパッケージ21は、図2に示す如く、弾性糸供給装置2の上方において、水平の軸27aに俯仰自在に取り付けられたクレードルアーム27に回転自在に支持されており、回転ローラ22に当接して従動するように配置されている。そして、回転ローラ22は、ベルト28を介して駆動モータ23と接続されており、駆動モータ23によって回転せしめられる。更に、駆動モータ23は、紡績ユニット1毎に設けられたインバータ(不図示)によって制御されており、回転ローラ22すなわち弾性糸パッケージ21の周速がコアヤーン製造中一定となるように、駆動されている。
なお、上述の如く、ユニット毎に設けられた駆動モータによって回転ローラが駆動される場合は、各ユニット共通の1つの駆動モータによって、共通の駆動軸を介して回転ローラが駆動される場合と比較して、弾性糸パッケージの回転制御の自由度が増し、装置のメンテナンスが容易となり、かつ、小ロット生産時への対応が容易となるメリットがある。
【0023】
エアスレッティング用エアサッカー装置26は、図2に示す如く、円板状であって径の異なる糸通し孔(不図示)を有する複数の糸通し部材を、下流側に向かって径が小さくなるように配置して構成されている。従って、糸通し部材の間隙からエアを効果的に逃しつつ、糸通し孔の中心軸上に高圧のエアを流すことができ、弾性糸Dを緩ませることなく、導入管29を介して確実にドラフト装置3に供給することが可能となる。
【0024】
クランプカッター25は、図2に示す如く、回転ローラ22とエアサッカー装置26との間に配置され、最初の糸セット時または上述したスラブキャッチャ7によるコアヤーンCの切断時に、弾性糸Dを把持すると共にその端部を切断する。
【0025】
弾性糸ガイド24は、ガイド孔(不図示)を有しており、図2に示す如く、回転ローラ22とクランプカッター25との間に、解舒された弾性糸Dをエアサッカー装置26に案内すべく配置されている。
なお、この弾性糸ガイド24とクランプカッター25との間には、非接触式の弾性糸検出センサ(不図示)が取り付けられており、最初の糸セット時または糸欠陥検出による糸切断時に、当該箇所における弾性糸Dの有無を検出できるようにされている。
【0026】
上記弾性糸供給装置2は、これより供給される弾性糸Dが、フロントローラ33とミドルローラ32との間から繊維束S1に合流するように、ドラフト装置3の上方に配置される。
【0027】
以上のように、本発明が適用されるコアヤーン製造装置100は、図2に示す如く、駆動モータ23によって回転駆動する回転ローラ22に対して、弾性糸パッケージ21を当接させておき、回転ローラ22を回転させることにより、弾性糸パッケージ21を所定周速Vで回転させながら弾性糸Dを解舒してドラフト装置3に供給し、弾性糸Dを芯糸とするコアヤーンを製造するための製造装置である。
本発明は、上述のようなコアヤーン製造装置100に対し、弾性糸パッケージ21の起動時における回転周速を制御しようとするものである。
【0028】
本発明にかかるパッケージ駆動装置は、弾性糸パッケージ21を停止状態から起動する際、所定速度Vに至るまで、弾性糸パッケージ21の周速を徐々に増速するための起動時周速制御手段CMを設けたものからなっている。この起動時周速制御手段CMは、図2に示す如く、駆動モータ23をインバータ(不図示)によって駆動制御し、回転ローラ23に当接する弾性糸パッケージ21を徐々に増速制御するようにした構成、あるいは、駆動モータ23を間欠的に駆動制御して、回転ローラ22に当接する弾性糸パッケージ21を徐々に増速制御するようにした構成のものからなっている。
【0029】
次に、上記パッケージ駆動装置による弾性糸パッケージ21の起動の一例について、説明する。図3は、その起動時における駆動モータ23の駆動電流Iおよび周速Vの時間変化を示す図である。
【0030】
起動時周速制御手段CMは、最初の糸セット完了後または糸継ぎ完了後の駆動モータ23の停止状態において制御装置(不図示)から駆動開始信号を受けると、インバータ(不図示)に対して信号を送り、予め設定されたパターンに従って駆動モータ23に駆動電流Iが与えられるように制御する。
本実施形態における上記パターンは、図3に示す如く、駆動モータ23に与えることができる最大の駆動電流Iを数回ON/OFFして与え、駆動モータ23を間欠的に駆動して駆動モータの周速Vが緩やかに所定周速Vに達するようにし、その後、所定駆動電流Iを与えて所定周速Vを維持するように構成されている。
なお、送り出される弾性糸Dの先端が、ドラフト装置3におけるフロントローラ33に到達した時点においては、弾性糸パッケージ21は、所定周速Vとなっている必要がある。なぜならば、フロントローラ33に捕捉された時点でなお緩やかに起動されていると、弾性糸Dは延伸され過ぎて切断されるおそれがあるからである。
【0031】
上記のように駆動モータ23が起動されるコアヤーン製造装置100によれば、駆動モータ23すなわち弾性糸パッケージ21は、急激に起動せしめられることなく緩やかに起動せしめられるため、所謂逆巻きや回転ローラへの巻付き、および弾性糸の損傷を生じることなく、コアヤーンを製造することができる。
【0032】
以上、具体例を例示しつつ、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
インバータが紡績ユニット毎に設けられておらず、各紡績ユニットに共通の1つのインバータのみが設けられている場合は、そのインバータから出力される各紡績ユニット共通の駆動電流のうち、起動すべき紡績ユニットに対する駆動電流を、起動時周速制御装置CMによってON/OFFし、上記と同様に駆動モータの起動が緩やかになるように制御してもよい。
【0033】
また、上記の起動パターンは、駆動電流Iを上記の最大駆動電流Iまで直線的または曲線的に漸増させた後、所定駆動電流Iを与えるパターンであってもよい。
【0034】
また、駆動モータ23と回転ローラ22との間に無段変速装置を設け、これを用いて、弾性糸パッケージ21が緩やかに起動されるようにしてもよい。この場合、インバータが不要となるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかるコアヤーン製造装置の正面図である。
【図2】本発明にかかるコアヤーン製造装置の側断面図である。
【図3】本発明にかかるコアヤーン製造装置の、起動時における駆動モータの駆動電流および周速Vの時間変化を示す図である。
【図4】従来のコアヤーン製造装置の、起動時における駆動モータの駆動電流および周速Vの時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
C コアヤーン
CM 起動時周速制御手段
D 弾性糸
21 弾性糸パッケージ
22 回転ローラ
23 駆動モータ
100 コアヤーン製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータによって回転駆動する回転ローラに弾性糸パッケージを当接させ、当該回転ローラを回転させることにより、前記弾性糸パッケージを所定周速Vで回転させながら弾性糸を解舒し、解舒された弾性糸を芯糸としてコアヤーンを製造するコアヤーン製造装置において、
前記弾性糸パッケージを停止状態から起動する際、前記所定周速Vに至るまで、前記弾性糸パッケージの周速を徐々に増速するための起動時周速制御手段を設けたことを特徴とするコアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置。
【請求項2】
前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータをインバータによって駆動制御し、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のコアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置。
【請求項3】
前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータを間欠的に駆動制御し、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のコアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置。
【請求項4】
前記起動時周速制御手段が、前記駆動モータと前記回転ローラとの間に介在する無段変速装置からなり、当該無段変速装置によって、前記回転ローラに当接する前記弾性糸パッケージを徐々に増速制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のコアヤーン製造装置における弾性糸パッケージ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−306586(P2006−306586A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132336(P2005−132336)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】