説明

コアレスモーター、コアレスモーターを搭載したロボットハンド、およびロボット

【課題】巻線効率が高く、且つ、高トルクなコアレスモーターを提供する。
【解決手段】中空の空芯巻線の内側に、円筒形状の永久磁石を設けてコアレスモーターを
構成する。また空芯巻線は、電線を菱形形状に巻回することによって形成する。そして、
菱形形状の一方の対角線は永久磁石の中心軸と平行とし、他方の対角線は、永久磁石の中
心軸に対して、永久磁石の磁極が切り換わる角度の1.2倍から1.6倍の角度範囲とな
る長さに設定する。こうすれば、菱形形状に巻回して空芯巻線を構成するコアレスモータ
ーの回転トルクを向上させることができる。また、電線が菱形形状に巻回されているので
、高い巻線効率を実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を用いて回転トルクを発生させるモーターに関し、特に円筒形状の空芯
巻線と、その内側に設けられて多極に着磁された永久磁石とを組み合わせて構成したコア
レスモーター、およびコアレスモーターを搭載したロボットハンドあるいはロボットに関
する。
【背景技術】
【0002】
円筒形状に形成された空芯巻線の内側に、多極に着磁された永久磁石によるローターが
設けられ、空芯巻線に流す電流の向きを切り換えることによって、ローターを回転させる
コアレスモーター(インナーローター形式のコアレスモーター)が知られている。あるい
は、空芯巻線をローターとし、その内側に設けられた永久磁石をステーターとするアウタ
ーローター形式のコアレスモーターも知られている(たとえば特許文献1)。これらのコ
アレスモーターには、コアが無いためにローターの回転慣性が小さくなって応答性が向上
し、更に小型化が比較的容易であるという利点がある。また、これらのコアレスモーター
は、永久磁石が形成する磁界の中で巻線に電流を流したときに、巻線が受けるローレンツ
力を利用して回転トルクを発生させることを動作原理としている。
【0003】
ここで、ローレンツ力は、磁界の方向から見て電流の向き(従って巻線の向き)に直角
な方向に作用する。従って、巻線の方向がローターの回転軸の方向に直交している部分で
は、ローレンツ力が発生しても回転軸の方向に向いてしまうので、ローレンツ力を回転ト
ルクに変換することができない。すなわち、ローターの回転軸に直交している部分の巻線
は、回転トルクの発生に寄与していないので、いわゆる巻線効率を低下させる。そして、
巻線効率が低下すると、電気抵抗による電力消費(いわゆる銅損)が増加したり、重量が
増加したりするなどの弊害を引き起こす。
【0004】
そこで、菱形形状に巻線を巻く技術も提案されている。巻線を菱形形状に巻けば、ロー
ターの回転軸に直交する部分が発生しないようにすることができるので、巻線効率を向上
させることができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−236123号公報
【特許文献2】特開2007−124892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、コアレスモーターにおいても、他の方式のモーターと同様に、高トルク化に対
する要請は常に存在している。従って、巻線効率が高く、高い回転トルクを発生させるこ
とが可能なコアレスモーターの開発が望まれている。特に、ロボットハンドやロボットの
アクチュエーターとして組み込むためには、小型で効率が良く、且つ高トルクを発生可能
なモーターが必要となるが、このようなモーターは存在しないという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、巻線効率が高く、高い回転トルクを発生させることが可能なコアレスモ
ーターの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明のコアレスモーターは次の構
成を採用した。すなわち、
電線を巻回することによって中空の円筒形状に形成された空芯巻線と、該空芯巻線の内
周側に設けられて外周面が多極に着磁された円筒形状の永久磁石とを備え、該空芯巻線に
電流を流すことによって回転トルクを発生させるコアレスモーターであって、
前記永久磁石は、該永久磁石の中心軸から見て所定の単位磁極角度の間隔で、交互に極
性が切り換わるように着磁されており、
前記空芯巻線は、前記電線を折り曲げて菱形形状のループ状に形成された単位巻回要素
が、前記永久磁石の中心軸に対して所定角度ずつ位置をずらして複数設けられることによ
って形成された空芯巻線であり、
前記単位巻回要素の菱形形状は、一方の対角線が前記永久磁石の中心軸と平行であり、
他方の対角線が、該永久磁石の中心軸に対して前記単位磁極角度の1.2倍から1.6倍
の角度範囲となる長さの菱形形状であることを要旨とする。
【0009】
こうした構成を有する本発明のコアレスモーターにおいては、中空の円筒形状に形成さ
れた空芯巻線の内側に、円筒形状の永久磁石が設けられている。また、空芯巻線は、菱形
形状に形成された複数の単位巻回要素が、所定角度ずつ位置をずらして設けられることに
よって形成されている。そして、単位巻回要素の菱形形状は、一方の対角線が永久磁石の
中心軸と平行であり、他方の対角線が、永久磁石の中心軸に対して単位磁極角度の1.2
倍から1.6倍の角度範囲となる長さに設定されている。
【0010】
一般に電線を菱形形状に巻回して空芯巻線を構成するコアレスモーターでは、菱形形状
の対角線の中、永久磁石の中心軸に直交する方の対角線(回転方向の対角線)の長さが、
永久磁石の中心軸に対して単位磁極角度となるように設定されている。しかし、回転方向
の対角線の長さを延長することで、菱形形状に巻回された空芯巻線を有するコアレスモー
ターの回転トルクを向上させられる可能性がある。詳細には後述するが、このような着想
に基づいて詳しく検討してみると、回転方向の対角線の長さを、永久磁石の中心軸に対し
て単位磁極角度の1.2倍から1.6倍の角度範囲となる長さに設定しておけば、回転ト
ルクを向上させることが可能であることが見いだされた。従って、このようにすることで
、巻線効率が高く、しかも、高い回転トルクを発生させることが可能なコアレスモーター
を実現することが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明のコアレスモーターにおいては、空芯巻線にN相(但しNは2以
上の整数)の電流を流すものとしたときに、複数の単位巻回要素を、永久磁石の中心軸に
対して単位磁極角度のN分の1に相当する角度ずつ位置をずらして設けることによって、
空芯巻線を形成するようにしても良い。
【0012】
こうすれば、単位磁極角度ずつ位置をずらして設けられた単位巻回要素をまとめること
で、複数の単位巻回要素をN相に分けることができる。そして、複数の単位巻回要素をN
相に分けて駆動してやれば、コアレスモーターの回転トルクの変動を小さくすることが可
能となる。
【0013】
また、上述した本発明のコアレスモーターは、巻線効率が高く、高トルクを発生させる
ことができるので、ロボットハンドあるいはロボットに組み込んで使用されるモーターと
して特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例のコアレスモーターの外観形状を示した説明図である。
【図2】本実施例のコアレスモーターの空芯巻線の構造を示した説明図である。
【図3】一般的なコアレスモーターの動作原理を示す説明図である。
【図4】従来の菱形巻線のメリットおよびデメリットについて示した説明図である。
【図5】本実施例の単位巻回要素で得られる回転力を算出するための前提事項を示した説明図である。
【図6】本実施例の単位巻回要素が発生する回転力の導出過程を示す説明図である。
【図7】単位巻回要素を移動させたときに得られる回転力の変化を示した説明図である。
【図8】本実施例のコアレスモーターによって得られる回転力を示す説明図である。
【図9】単位巻回要素の回転方向の対角線の長さと、回転力の平均値との関係を示した説明図である。
【図10】本実施例のコアレスモーターをロボットハンドの関節部分に組み込んだ様子を例示した説明図である。
【図11】ロボットのアクチュエーターとして本実施例のコアレスモーターを組み込んだ様子を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.本実施例のコアレスモーターの構造:
B.コアレスモーターの動作原理:
C.本実施例のコアレスモーターで得られる回転力:
D.適用例:
【0016】
A.本実施例のコアレスモーターの構造 :
図1は、本実施例のコアレスモーター100の構造を示した説明図である。図1(a)
に示されるように、本実施例のコアレスモーター100は、円筒形状の空芯巻線110の
内側に、円柱形の永久磁石120が収容されて、永久磁石120の中心軸と同軸に回転軸
122が設けられている。永久磁石120は、中心軸から等角度でN極とS極とが交互に
切り換わるように着磁されている。また、空芯巻線110は、電線を巻回することによっ
て中空の円筒形状に形成された後、樹脂によって固められて構成されている。
【0017】
尚、回転軸122が永久磁石120に設けられていることから明らかなように、本実施
例のコアレスモーター100は、永久磁石120がローターとなり、空芯巻線110がス
テーターとなったいわゆるインナーローター形式のコアレスモーター100である。もち
ろん、このような構成に限られるものではなく、空芯巻線110に回転軸122を設ける
ことによって、いわゆるアウターローター形式のコアレスモーター100を構成すること
も可能である。
【0018】
図1(b)は、回転軸122の方向から、本実施例のコアレスモーター100の底面を
見た様子を示す説明図である。詳細には後述するが、本実施例のコアレスモーター100
の空芯巻線110は、電線を菱形形状に何回も巻回することによって形成した単位コイル
112を、所定角度ずつ位置をずらして重ねることによって形成されている。また、単位
コイル112をずらす角度は、永久磁石120で等角度間隔で磁極が切り換わる角度(以
下では、単位磁極角度と呼ぶ)の半分の角度に設定されている。
【0019】
図2は、本実施例の空芯巻線110の構造を示した説明図である。尚、前述したように
空芯巻線110は、永久磁石120の周囲を取り巻く中空の円筒形状に形成されているが
、理解の便宜を図るために、図2では、円筒形状の空芯巻線110および永久磁石120
が平面上に展開した状態で表示されている。図2(a)に示されるように、単位コイル1
12は、ほぼ菱形形状に形成されており、この菱形形状の単位コイル112が等距離ずつ
位置をずらしながら重ねられることによって、空芯巻線110が形成されている。尚、図
2では円筒形状の空芯巻線110を平面に展開した状態で表示されているから、図2の図
面上で単位コイル112が等しい「距離」ずつ位置がずれていることは、実際の空芯巻線
110では等しい「角度」ずつ位置がずれていることに対応する。
【0020】
また、本実施例のコアレスモーター100では、これら複数の単位コイル112が2つ
のグループに分けられており、同じグループの単位コイル112は、一続きの電線を巻回
することによって形成されている。以下では、一方のグループを「a相」と呼び、他方の
グループを「b相」と呼ぶことにする。これらa相の単位コイル112aとb相の単位コ
イル112bとは、交互に重ねられている。すなわち、a相の単位コイル112aの上に
、所定距離(角度)だけ位置をずらしてb相の単位コイル112bが重ねられ、そのb相
の単位コイル112bの上に所定距離(角度)だけ位置をずらしてa相の単位コイル11
2aが重ねられるといったように、a相の単位コイル112aとb相の単位コイル112
bとが交互に重ねられている。図2(b)あるいは図2(c)には、空芯巻線110を構
成する複数の単位コイル112の中から、a相の単位コイル112aのみあるいはb相の
単位コイル112bのみを抜き出した様子が示されている。上述したように、a相の単位
コイル112aとb相の単位コイル112bとは、永久磁石120の単位磁極角度の半分
の角度ずつ位置をずらして設けられている。そして、a相の単位コイル112aとb相の
単位コイル112bとは、互い違いに設けられているから、a相の単位コイル112a同
士、あるいはb相の単位コイル112b同士は、単位磁極角度ずつ、位置をずらして設け
られていることになる。
【0021】
ここで、a相あるいはb相の単位コイル112は、一本の電線が菱形形状に何度も巻回
されることによって形成されている。以下では、菱形形状に一回だけ巻回された電線を、
「単位巻回要素114」と呼ぶことにする。菱形形状の単位巻回要素114は、図2の紙
面上で左右方向(すなわち、永久磁石120の回転方向)および、これに直交する方向の
二つの対角線を有している。そして、本実施例のコアレスモーター100では、図2(d
)に示されるように、永久磁石120の回転方向に沿った対角線の長さ(実際には角度範
囲)が、永久磁石120の極性が切り換わる単位磁極角度(図中ではpと表示)の1.2
倍〜1.6倍に設定されている。このようにすることで、本実施例のコアレスモーター1
00では、巻線効率が高く、高い回転トルクを発生させることが可能となる。以下、この
点について詳しく説明する。
【0022】
B.コアレスモーターの動作原理 :
先ず始めに、一般的なコアレスモーターの動作原理について簡単に説明しておく。図3
は、一般的なコアレスモーターの動作原理を示した説明図である。一般的なコアレスモー
ターでは、電線は菱形形状ではなく長方形に巻回されている。図3には、長方形に巻回さ
れた単位巻回要素116が示されている。単位巻回要素116の短辺の長さ(実際には角
度範囲)は、永久磁石120の単位磁極角度pと同じに設定されている。
【0023】
単位巻回要素116が、永久磁石120の磁極に対して図3(a)に示すような位置関
係にあるときに、破線で示した方向の電流を単位巻回要素116に流してやる。すると、
フレミングの左手の法則によって、単位巻回要素116には図中に白抜きの矢印で示した
方向のローレンツ力が作用する。ここで、単位巻回要素116はステーター側であるから
動かない。このため、永久磁石120が反作用を受けて回転するようになる。図中に示し
た黒塗りの矢印は、永久磁石120の回転方向を表している。
【0024】
また、永久磁石120が回転すると、図3(b)に示したように、単位巻回要素116
に及ぼす磁界の向きが逆転する。従って、同じ方向に電流を流し続けていたのでは、ロー
レンツ力の方向が逆転して、永久磁石120を回転させ続けることができなくなる。そこ
でこのような場合には、単位巻回要素116に流す電流の向きを逆転させる。こうすれば
、単位巻回要素116に及ぼす磁界の向きが反転しても、ローレンツ力の方向は同じに保
つことができるので、永久磁石120の回転を継続することができる。このようにコアレ
スモーターでは、永久磁石120の回転に応じて電流の向きを切り換えることによって、
単位巻回要素116に作用するローレンツ力を回転トルクに変換している。
【0025】
ここで、図3から了解できるように、回転トルクに変換できるのは、単位巻回要素11
6の中で、回転軸に沿った方向を向いている部分(図3に示した例では、長方形の長辺に
対応する部分)である。長方形の短辺の部分は、永久磁石120の磁界が作用しないので
ローレンツ力が発生しないか、ローレンツ力が作用しても回転軸に沿った方向に作用する
ので回転トルクに変換することができない。従って、単位巻回要素116の中のこのよう
な部分は、電流を流しても単に抵抗となるだけであり、巻線効率を大きく低下させる。単
位巻回要素116を菱形形状としてやれば、こうした問題は生じない。その一方で、単位
巻回要素116を菱形形状とした場合には、別の問題が懸念される。
【0026】
図4は、菱形形状の単位巻回要素114によるメリットおよびデメリットを説明するた
めの説明図である。尚、図中に示されるように、従来の菱形形状の単位巻回要素114で
は、菱形の二つの対角線の中で永久磁石120の回転方向(図上では左右方向)の対角線
の長さ(実際には角度範囲)は、永久磁石120の単位磁極角度pと同じに設定されてい
る。
【0027】
先ず、菱形形状の単位巻回要素114によるメリットとしては、たとえば、図4(a)
を見れば明らかなように、菱形形状の単位巻回要素114では全ての部分で回転トルクを
発生させることが可能となり、巻線効率が大きく向上することが挙げられる。また、永久
磁石120の磁極の境界が、菱形形状の中央にある場合には、図3に示した長方形の単位
巻回要素116の場合と同等の回転トルクを得ることができる。
【0028】
しかし、永久磁石120の磁極の境界が菱形形状の中央にない場合は、回転トルクが低
下する。このことが、菱形形状の単位巻回要素114のデメリットとなる。たとえば図4
(b)に示した例では、図面上で菱形形状の左側の斜辺では、途中で磁界の向きが逆転し
ている。このため左側の斜辺では、途中でローレンツ力の方向が逆転し、回転トルクを打
ち消そうとする結果、回転トルクの低下を引き起こす。
【0029】
そこで本願の発明者らは、図4(b)中に細い破線で示したように単位巻回要素114
の左右方向(回転方向)の対角線の長さを延長することによって、回転トルクの低下を補
えるのではないかと着想した。そして、このような着想を得た上で、以下に説明するよう
な詳細な検討を加えた結果、新たな知見を見いだすことによって本願発明を完成させた。
【0030】
C.本実施例のコアレスモーターで得られる回転力 :
図5は、本実施例の単位巻回要素114で得られる回転力を算出するための前提事項を
示した説明図である。図5(a)に示されるように、単位巻回要素114の菱形形状の左
右方向(回転方向)の対角線の長さ(実際には角度範囲に対応)を「u」、上下方向(回
転軸方向)の対角線の長さを「v」、斜辺の長さを「d」とする。また、永久磁石120
の磁極が切り換わる角度範囲(単位磁極角度)を「p」とする。更に、永久磁石120の
磁極が切り換わる境界から、単位巻回要素114の菱形形状の中心までの距離を「t」と
する。このようすると、単位巻回要素114の形状は、左右方向(回転方向)の対角線の
長さを示す変数uによって表され、単位巻回要素114の位置は、永久磁石120の磁極
の境界から単位巻回要素114の中心までの距離を示す変数tによって表されることにな
る。
【0031】
また、永久磁石120の磁界が単位巻回要素114に及ぼす状態には、二つの状態が存
在する。すなわち、変数tの値が小さい間は、図5(b)に示したように、単位巻回要素
114の左側の斜辺では途中で磁界の向きが切り換わるが、右側の斜辺では磁界の向きが
切り換わらない状態(以下、第1状態と呼ぶ)となる。また、変数tの値が大きくなると
、図5(c)に示したように、単位巻回要素114の左側の斜辺および右側の斜辺の何れ
でも、途中で磁界の向きが切り換わる状態(以下、第2状態と呼ぶ)となる。尚、第1状
態では、磁界が逆転している部分の長さを「d2」とし、逆転していない部分の長さを「
d1」とする。また、第2状態では、磁界が逆転している部分の長さを「d2」および「
d4」とし、逆転していない部分の長さを「d1」および「d3」とする。
【0032】
ちなみに、図5(b)に示した状態に対して左右が逆転した状態、すなわち、単位巻回
要素114の右側の斜辺では途中で磁界の向きが切り換わり、左側の斜辺では磁界の向き
が切り換わらない状態は、第1状態で変数tが負の値を取る場合と考えることができる。
更に、磁極の境界が単位巻回要素114の中心を通る状態は、第1状態で変数tが「0」
の場合と考えることができる。
【0033】
始めに、図5(b)に示した第1状態について検討する。図5(b)の第1状態では、
左側の斜辺の一部で磁界の向きが逆転しているので、この部分では逆方向にローレンツ力
が作用する。従って、単位巻回要素114の左上の斜辺(以下では、この斜辺を第1辺と
呼ぶ)では、磁界の向きが逆転していない部分には斜辺に対して直角に、正方向のローレ
ンツ力F1が作用し、磁界の向きが逆転している部分には斜辺に対して直角に、負方向の
ローレンツ力f1が作用する。尚、小文字のfのローレンツ力は、負方向(回転トルクを
打ち消す方向)のローレンツ力を表し、大文字のFのローレンツ力は、正方向(回転トル
クを増やす方向)のローレンツ力を表すものとする。同様に、単位巻回要素114の左下
の斜辺(以下では、この斜辺を第2辺と呼ぶ)でも、正方向のローレンツ力F2、および
負方向のローレンツ力f2が作用する。また、単位巻回要素114の右下の斜辺(以下で
は、この斜辺を第3辺と呼ぶ)、および右上の斜辺(以下では、この斜辺を第4辺と呼ぶ
)では、それぞれ正方向のローレンツ力F3、およびF4が作用する。従って、単位巻回
要素114の第1辺〜第4辺に作用するこれらローレンツ力の回転方向(図面上では左右
方向)の成分が、回転トルクに変換される回転力となる。特に、正方向のローレンツ力F
1〜F4の回転方向の成分は、回転トルクを増加させる回転力となり、負方向のローレン
ツ力f1、f2の回転方向の成分は、回転トルクを減少させる回転力となる。尚、以下で
は、ローレンツ力の回転方向の成分は、添字xを付けて表記するものとする。たとえば、
F1xは、ローレンツ力F1の回転方向の成分を表すものとする。
【0034】
図5(c)に示した第2状態についても、ほぼ同様なことが成立する。すなわち、単位
巻回要素114の第1辺〜第4辺には、正方向のローレンツ力F1〜F4、および負方向
のローレンツ力f1〜f4が作用し、それらローレンツ力の回転方向の成分が回転力とな
る。尚、図5(c)では、図示が煩雑となることを避けるため、それぞれのローレンツ力
の回転方向の成分のみが表示されている。
【0035】
以上の検討に基づいて、一つの単位巻回要素114で得られる回転力Fを、第1状態、
第2状態のそれぞれについて導出する。図6は、回転力Fの導出過程を示した説明図であ
る。図6(a)には、第1状態での回転力Fの導出過程が示されており、図6(b)には
、第2状態での回転力Fの導出過程が示されている。図中の「B」は磁界の強さを表し、
「I」は単位巻回要素114に流れる電流を表している。
【0036】
先ず始めに、図6(a)に示した第1状態での回転力Fの導出過程について簡単に説明
する。第1状態となるのは、t+u/2<pが成り立つときである。簡単のために、tが
0以上の場合についてだけ考えると、第1状態となるのは、変数tの値が、0≦t<(p
−u/2)の範囲を取る場合となる。
【0037】
また、フレミングの左手の法則によれば、単位長さ当たりに作用するローレンツ力は、
磁界の強さBと、電流Iとに比例する。従って、第1辺に作用する正方向のローレンツ力
F1は、電線の長さd1に、BおよびIを乗算した値d1・B・Iとなり、回転方向の成
分F1xは、その余弦成分(d1・B・I・cosθ)となる。他の三辺に作用する正方
向のローレンツ力の回転方向の成分F2x〜F4xについても同様に、それぞれ(d1・
B・I・cosθ)、(d・B・I・cosθ)、(d・B・I・cosθ)となる。そ
して、これらを合計した値が、正方向の回転力となる。
【0038】
また、第1辺に作用する負方向のローレンツ力の回転方向の成分f1xは、電線の長さ
d2に、BおよびIを乗算した値の余弦成分であるから、(d2・B・I・cosθ)と
なる。第2辺についても同様に、f2xは(d2・B・I・cosθ)となる。尚、図5
(b)に示したように、第1状態では、第3辺および第4辺には負方向のローレンツ力は
作用しない。従って、f3x、f4xは「0」となる。そして、これらを合計した値が、
負方向の回転力となる。結局、第1状態で、単位巻回要素114に作用するローレンツ力
の回転方向の成分(すなわち、回転力)は、正方向の回転力から負方向の回転力を減算す
ることによって求められ、2・B・I・v・(1−2t/u)となる。
【0039】
第2状態での回転力Fも、同様にして導出できる。先ず、第2状態となるのは、変数t
の値が、(p−u/2)よりも大きく、(u/2)よりも小さいとき、すなわち、(p−
u/2)≦t<(u/2)の範囲を取る場合である。また、第1辺〜第4辺に作用する正
方向のローレンツ力F1〜F4や、負方向のローレンツ力f1〜f4、およびそれらの回
転方向の成分も同様にして求めることができる。その結果、第2状態で、単位巻回要素1
14に作用するローレンツ力の回転方向の成分(すなわち、回転力)は、正方向の回転力
から負方向の回転力を減算することによって求められ、2・B・I・v・(2p/u−4
t/u)となる。
【0040】
図7は、回転方向(図上では左右方向)の対角線の長さが「u」の単位巻回要素114
を、永久磁石120に対して移動させたときに得られる回転力Fを示したグラフである。
グラフの横軸には、永久磁石120に対する単位巻回要素114の位置を示す変数tが取
られている。変数tが0〜(p−u/2)の範囲にあるときは、単位巻回要素114が第
1状態となるから、図6(a)を用いて前述したように、回転力Fは、2・B・I・v・
(1−2t/u)によって求められる。また、変数tが(p−u/2)〜(u/2)の範
囲にあるときは単位巻回要素114が第2状態となるから、図6(a)を用いて前述した
ように、回転力Fは、2・B・I・v・(2p/u−4t/u)によって求められる。図
7中に示した実線は、このようにして求められた回転力Fを表している。
【0041】
また、単位巻回要素114が永久磁石120に対して反対方向に移動する場合(すなわ
ち、変数tが負の値となる場合)の回転力Fは、実線で示した回転力Fを、t=0を中心
に反転させたものと考えて良い。図7中に示した太い破線は、このようにして求められた
回転力Fを表している。更に、単位巻回要素114が、永久磁石120の単位磁極角度p
に相当する角度だけ移動すると、単位巻回要素114に作用する磁界の向きが逆転するが
、単位巻回要素114に流す電流の向きも逆転させるので、結局、単位巻回要素114が
単位磁極角度pだけ移動しても全く同様なことが成り立つ。従って、図7中に細い破線で
示した回転力Fが発生することになる。
【0042】
そして、図2(b)を用いて前述したように、a相の単位コイル112a同士は単位磁
極角度pずつ離して設けられているので、図7に示した回転力Fは、a相の複数の単位コ
イル112aで得られる回転力Fを示していると考えることができる。更に、b相の単位
コイル112bについては、a相の単位コイル112aに対して単位磁極角度pの半分の
角度だけずれているだけで、その他については全く同様なことが成り立つと考えて良い。
そして、これらa相の単位コイル112aで得られる回転力Fと、b相の単位コイル11
2bで得られる回転力Fとを合計した値が、コアレスモーター100の空芯巻線110が
発生する回転力Fとなり、この回転力Fに回転半径を乗算した値が、コアレスモーター1
00の回転トルクとなる。
【0043】
図8は、本実施例のコアレスモーター100によって得られる回転力Fを示した説明図
である。図8(a)にはa相の単位コイル112aで得られる回転力Faが示されており
、図8(b)にはb相の単位コイル112bで得られる回転力Fbが示されている。尚、
単位コイル112は、何度も電線が巻回されており、複数の単位巻回要素114によって
構成されているから、実際の単位コイル112によって得られる回転力は、それぞれの回
転力Fa,Fbに、単位コイル112に電線が巻回される回数nを乗算した値となる。し
かし、説明が煩雑となることを避けるため、以下ではn=1であるものとして説明する。
【0044】
空芯巻線110が発生する回転力Fは、a相の単位コイル112aによって得られる回
転力Faと、b相の単位コイル112bによって得られる回転力Fbとを合計したもので
あるから、図8(c)に示す波形となる。図示されているように、合計した回転力Fは、
2・B・I・vと、8・B・I・v・(1−p/u)との間で、p/2の周期で変動する
波形となる。
【0045】
尚、図8(a)に示したa相の回転力Faが最小となるタイミングでは、図8(b)に
示したb相の回転力Fbが最大となり、逆に、図8(b)に示したb相の回転力Fbが最
小となるタイミングでは、図8(a)に示したa相の回転力Faが最大となる。このため
、a相の回転力Faとb相の回転力Fbとを合計して得られた回転力Fでは、それぞれの
回転力Fa,Fbよりも変動幅が小さくなっている。
【0046】
このようにして得られた回転力Fの平均の回転力Faveを求めると、2・B・I・v
・(4−u/p−2・p/u)が得られる。得られた算出式には、単位巻回要素114の
回転方向の対角線の長さを示す変数uが含まれている。従って、平均の回転力Faveは
、変数uの取り方によって増減する。
【0047】
また、図4(b)を用いて前述したように、巻線が菱形形状に巻回された従来のコアレ
スモーターでは、菱形形状の回転方向の対角線の長さが単位磁極角度pに相当する長さに
設定されており、本願発明では、この長さを延長することによって回転トルクの向上を意
図している。そこで、変数uが単位磁極角度p以上となる範囲に着目して、平均の回転力
Faveの挙動を調べてみる。
【0048】
図9は、単位巻回要素114の回転方向の対角線の長さuを変更したときに、平均の回
転力Faveが変化する様子を示した説明図である。尚、参考として、変数uが単位磁極
角度pよりも小さな値を取る場合も、破線によって表示してある。図9中に実線で示され
るように、平均の回転力Faveは、変数uが、単位磁極角度pに対して、2の平方根倍
の値を取るときに最大値となる。すなわち、菱形形状をした単位巻回要素114の回転方
向の対角線の長さuを、永久磁石120の単位磁極角度pに対応する長さに対して、2の
平方根倍に設定しておけば、コアレスモーター100の回転トルクを最も高くすることが
可能となる。
【0049】
もっとも、実際の単位巻回要素114は、図5(a)に示したように完全な菱形形状に
形成できるわけではない。また、永久磁石120が形成する磁界の強さも、極性が切り換
わる境界付近では弱くなる。これらの影響で、実際の単位巻回要素114で回転トルクが
最も高くなるのは、2の平方根倍から多少変動し得る。更に、回転トルクが最も高くなる
条件から多少外れたとしても、巻線が従来の菱形形状に巻回されたコアレスモーターに比
べれば、依然として回転トルクが大きく向上しているものと考えられる。これらの要素を
考慮すると、菱形形状の単位巻回要素114の回転方向の対角線の長さuを、永久磁石1
20の単位磁極角度pに対応する長さに対して、1.2〜1.6倍程度の範囲内になるよ
うに設定しておけば、コアレスモーター100の回転トルクを大きく向上させることがで
きる。もちろん、この場合でも、単位巻回要素114は菱形形状をしているので、巻線効
率が低下することはない。その結果、本実施例のコアレスモーター100は、巻線効率が
高く、高い回転トルクを発生させることが可能となる。
【0050】
D.適用例 :
上述した本実施例のコアレスモーター100は、応答性も高いというコアレスモーター
の利点を保ったまま、巻線効率が高く、高い回転トルクも発生させることができるという
優れた特性を有している。このため、本実施例のコアレスモーター100は、ロボットハ
ンドの関節に組み込む用途のコアレスモーターとして特に適している。
【0051】
図10は、本実施例のコアレスモーター100をロボットハンド200の関節部分に組
み込んだ様子を例示した説明図である。図示したロボットハンド200には、2本の指2
02が向かい合うようにして設けられており、それぞれの指202には、根本を含めて3
つの関節が設けられている。本実施例のコアレスモーター100は、応答性が高く、高ト
ルクが発生可能であるため、関節を滑らかに動かすことが可能である。また、巻線効率が
高いので、コアレスモーター100内での電力損失(いわゆる銅損)を抑制することがで
きるので、こうした用途に特に適している。
【0052】
また、図11は、ロボット500のアクチュエーターとして本実施例のコアレスモータ
ー100を組み込んだ様子を例示した説明図である。上述したように、本実施例のコアレ
スモーター100は、応答性や電力効率が高い上に、高いトルクを出力可能という優れた
特性を有している。このため、本実施例のコアレスモーター100をアクチュエーターと
して用いることで、高性能なロボット500を構成することが可能となる。
【0053】
以上、本実施例および変形例のコアレスモーターについて説明したが、本発明は上記す
べての実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において
種々の態様で実施することが可能である。
【0054】
たとえば上述した実施例および変形例では、コアレスモーター100がa相およびb相
の二相のモーターであるものとして説明したが、三相以上の任意のコアレスモーター10
0に対しても、本発明を好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
100…コアレスモーター、 110…空芯巻線、 112…単位コイル、
114…単位巻回要素、 116…単位巻回要素、 120…永久磁石、
122…回転軸、 200…ロボットハンド、 202…指、
500…ロボット、 p…単位磁極角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を巻回することによって中空の円筒形状に形成された空芯巻線と、該空芯巻線の内
周側に設けられて外周面が多極に着磁された円筒形状の永久磁石とを備え、該空芯巻線に
電流を流すことによって回転トルクを発生させるコアレスモーターであって、
前記永久磁石は、該永久磁石の中心軸から見て所定の単位磁極角度の間隔で、交互に極
性が切り換わるように着磁されており、
前記空芯巻線は、前記電線を折り曲げて菱形形状のループ状に形成された単位巻回要素
が、前記永久磁石の中心軸に対して所定角度ずつ位置をずらして複数設けられることによ
って形成された空芯巻線であり、
前記単位巻回要素の菱形形状は、一方の対角線が前記永久磁石の中心軸と平行であり、
他方の対角線が、該永久磁石の中心軸に対して前記単位磁極角度の1.2倍から1.6倍
の角度範囲となる長さの菱形形状であるコアレスモーター。
【請求項2】
前記空芯巻線にN相(但しNは2以上の整数)の電流を流すことによって回転トルクを
発生させる請求項1に記載のコアレスモーターであって、
前記空芯巻線は、前記複数の単位巻回要素が、前記永久磁石の中心軸に対して前記単位
磁極角度の前記N分の1に相当する角度ずつ位置をずらして設けられた空芯巻線であるコ
アレスモーター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコアレスモーターを搭載したロボットハンド。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のコアレスモーターを搭載したロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−147622(P2012−147622A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5576(P2011−5576)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】