説明

コアーヤーン縫糸

【課題】
本発明は、工業用の本縫いミシン機を用いた縫製に好適で、高速可縫性に優れ、芯糸と鞘部の繊維の染色差が目立ちにくく、縫製後の縫い目の毛羽が目立ちにくく、かつ適度のストレッチ性を有する高品位のコアーヤーン縫糸を提供する。
【解決手段】
この発明は、弾性長繊維からなる芯糸の長さ方向に、短繊維が筒状に並行に取り囲んで内側鞘部が形成され、さらにその外層に短繊維が巻き付き取り囲んで外側鞘部が形成されてなるコアーヤーンを複数本用いてなるコアーヤーン縫糸で、外側鞘部が、内側鞘部の短繊維の一部で構成されてなるコアーヤーンが好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性および可縫性に優れたコアーヤーン縫糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コアーヤーン縫糸は、長繊維からなる芯糸繊維とドラフトされた短繊維糸条からなる鞘糸繊維を引き揃え精紡機のフロントローラに供給し、複合精紡と下ヨリの撚糸が同時に施された長短複合糸のコアーヤーンを製造し、さらにそのコアーヤーンを複数本引き揃えて、複合精紡のヨリ向と逆方向に上ヨリが施され製造されてきた。
【0003】
このコアーヤーン縫糸の特徴は、スパン糸比率が100%のスパン縫糸に比べて、強力が高くかつ可縫性も良好であることから、近年その生産量が急増してきた。しかしながら、鞘糸に短繊維を用いるために、その短繊維端は毛羽状として目立つので、特にフィラメント織物などの縫製に縫糸として使用すると、縫目の品位は低く、高級衣料品などへの展開としては品位が不足し、さらに長繊維を芯糸に用いることからコアーヤーン縫糸の原料代が加算するなどコスト高は裂けられないという課題があった。
【0004】
そこで、既に下ヨリが施された長繊維糸条と既に紡績されたスパン糸とを引き揃えて、合ネン機で上ヨリ合撚した合撚構造の複合糸からなる「ポリエステル混撚ミシン糸」が提案されている(特許文献1参照)。このポリエステル混撚ミシン糸は、合理的に製造される混撚ミシン糸であるが、合撚構造上、長繊維糸条が外層に配置される場合もあるので、縫製性は低く、長繊維糸条とスパン糸との染色差や光沢差等も生じることから、コアーヤーン縫糸として品位は低いものであった。
【0005】
その他、静電気により電気開繊された芯糸の長繊維糸条を鞘糸となる短繊維群の断面内に均一に分布させ、複合精紡によりコアーヤーンを製造し、さらにそのコアーヤーンを複数本引き揃え上ヨリが施された「複合ミシン糸」が提案されている(特許文献2参照)。この複合ミシン糸は、縫製性や均一染色性に優れているが、電気開繊工程を通過させるので製造コスト高になることや、やはり毛羽が目立つので品位は低いものである。
【0006】
近年、縫糸の開発やミシン機の高速化や自動機化が進み、縫製品のアイテムによる縫製技術も向上してきている。このような環境下で、例えば、ジーンズなどの縫製について言えば、縫目強力の耐久性が、また薄地ブラウスなどでは縫目の綺麗さ以外にも、ストレッチ性が要求されてきている。上記の縫目強力は強く見栄えが良いことであり、これを達成する縫糸の要求特性は、高強力でかつ細番手でかつストレッチ性である。
【0007】
更に別に、コアーヤーン製造装置およびコアーヤーン製造方法(特許文献3参照)や、二層構造糸及びその製造方法(特許文献4参照)が提案されている。これらの提案は、ノズル軸方向に糸通路が形成された中空ガイド軸体と、その先端部に旋回流を作用させる旋回流発生ノズルとにより構成される紡績部を備えたコアーヤーン製造装置を用いて、ドラフトされた短繊維束と共に紡績部に供給された長繊維の周囲に短繊維を結束巻き付けしつつコアーヤーンを製造する技術である。
【0008】
しかしながら、いずれの提案もコアーヤーン紡績の応用技術として、特に縫糸への展開については言及されておらずまた示唆もなく、さらに細繊度で高強力特性を満足しさらに可縫性や品位に優れた縫糸の技術は開発されていないのである。
【特許文献1】特開平02−33341号公報
【特許文献2】特公昭63−3977号公報
【特許文献3】特開2002−69760号公報
【特許文献4】特開2002−69774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、特に工業用の本縫いミシン機を用いて縫製するに際し好適で、高速可縫性に優れ、芯糸と鞘糸の染色差が目立ちにくく、縫製後の縫目の毛羽が目立ちにくく、かつ適度のストレッチ性を有する高品位のコアーヤーン縫糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0011】
すなわち、本発明のコアーヤーン縫糸は、弾性長繊維からなる芯糸の長さ方向に、短繊維が筒状に並行に取り囲んで内側鞘部が形成され、さらにその外層に短繊維が巻き付き取り囲んで外側鞘部が形成されてなるコアーヤーンを複数本用いてなることを特徴とするコアーヤーン縫糸である。
【0012】
本発明のコアーヤーン縫糸の好ましい態様のひとつは、上記の外側鞘部が、内側鞘部の短繊維の一部で構成されてなることである。
【0013】
また、本発明のコアーヤーン縫糸の好ましい態様のひとつは、上記の外側鞘部の重量比が、コアーヤーン全体重量の10〜30重量%であることである。
また、本発明のコアーヤーン縫糸の好ましい態様のひとつは、伸長率が20〜50%であり、かつ伸長弾性率が40〜90%であることである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業用の本縫いミシン機を用いて縫製するに際し、高速可縫性に優れ、芯糸と鞘糸の染色差が目立ちにくく、縫製後の縫目の毛羽が目立ちにくく、かつ適度のストレッチ性を有する高品位のストレッチ性コアーヤーン縫糸を提供することができる。
縫製対象品としては、一般衣料用から特にジーンズやユニフォームなどストレッチ性が特に要求される用途には好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、高速縫製中の糸切れが少なく、コアーヤーンの芯糸と鞘糸の染色差が目立ちにくく、毛羽品位が高く、かつ適度のストレッチ性を有するコアーヤーン縫糸について、鋭意検討し、特定構造の実質無ヨリ状ストレッチ性のコアーヤーンを複数本引き揃えて撚り掛けして縫糸を作ってみたところ、かかる課題を一挙に解決する縫糸を提供することができることを究明したものである。
【0016】
本発明のストレッチ性のコアーヤーン縫糸の構成要件について説明する。まず、ストレッチ性のコアーヤーン縫糸を構成するストレッチ性のコアーヤーンは、長短複合糸が実ヨリはなく実質無ヨリ状であることが特徴である。
【0017】
本発明で用いられるコアーヤーンにおいて、芯糸に用いられる弾性長繊維としては、ポリエステルやポリアミドなどの合成繊維が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系合成繊維が適している。また、ポリアミド系合成繊維としては、ナイロン6やナイロン66などにおいて高弾性特性を有する品種のものが好適である。また、高弾性長繊維としてポリウレタン系合成繊維を使用することができる。
【0018】
本発明において、弾性長繊維の弾性とは、10%伸長時における弾性回復率が少なくとも50%以上の繊維を指す。
【0019】
一方、鞘部を構成する短繊維としては、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドなどの合成繊維、さらにはレーヨン、竹繊維およびアセテートなどのセルロース系繊維や、木綿、絹、羊毛などの天然系繊維、あるいは生分解性繊維などが挙げられる。また、鞘部を構成する短繊維には、芯糸と同素材の弾性短繊維を組み合わせて用いても良い。
【0020】
芯糸にポリエステル系繊維を用いる場合は、鞘糸も同系のポリエステル系の短繊維あるいは天然繊維を用いることが、染色条件などの点から好ましい組み合わせである。これは、同浴染色が可能、同じレサイプが可能、同じ色に染色できるなどの利点がある。
【0021】
次に、本発明で用いられるコアーヤーンの糸構造について説明する。本発明で用いられるコアーヤーンは、芯部の弾性長繊維からなる芯糸を、短繊維が筒状に並行に取り囲んだ内側鞘部を形成する。ここに、並行とは、内側鞘部の短繊維が芯糸の長さ方向と実質的に同方向に並んで芯糸を取り囲んだ状態を意味する。
【0022】
このように構成された2層構造の外側に、該短繊維の残りの単繊維が内側鞘部の全面に巻き付いて内側鞘部を取り囲んで外側鞘部を形成し、全体として3層構造を構成する。すなわち、本発明で用いられるコアーヤーンの断面構成は、中心に芯糸があり、その芯糸を内側鞘部の短繊維が並行に覆い、その内側鞘部の外側に短繊維が巻き付いた外側鞘部が配置されてなる、全体として実ヨリがない実質無ヨリ状の構造である。ここで実質無ヨリ状の構造とは、実ヨリが入っていない構造のことである。
【0023】
実質無ヨリとは一般的には、糸長方向にごくわずかのネジレあるいはヨリを有していても、単位長さ当たりではヨリがゼロになることを言う。単位長さ当たりとは、一般的には1mを指す。
【0024】
本発明のコアーヤーン縫糸は、この実質無ヨリ状のコアーヤーンを複数本引き揃え、さらに上ヨリが施されて構成されるコアーヤーン縫糸である。
【0025】
本発明における外側鞘部の短繊維の巻き付き状態について、さらに具体的に説明すると、外側鞘部の短繊維が、糸条の長さ方向と巻き付きする方向を挟む角度が、好適には20〜70度の範囲で巻き付けられている。 その巻き付け角度が平均20度未満になると、巻き付き結束力は低くなって素抜けが生じ、紡出性が大きく低下する傾向を示す。また、巻き付け角度が平均70度を超えると巻き付き結束力は高くなるが、巻き付き太さムラが生じ、紡出性が低下する傾向を示す。紡出性や糸形成の最も好ましい巻き付け角度は、平均30〜60度の範囲である。
【0026】
また、短繊維は同方向でほぼ同じ角度で、ほぼ同じピッチに巻き付きランダム性がないことが特徴である好ましい。
【0027】
巻き付け角度の測定は、走査型電子顕微鏡で倍率40倍にて撮影した糸形態写真から、1インチ当たりに含まれる巻き付き繊維の角度を10本測定し、その平均値を算出したものである。
【0028】
本発明では、外側鞘部の短繊維は緊密に巻き付いていることが好ましい。緊密に巻き付いている状態は、まず外観的には外側鞘部を通して芯糸がほとんど確認できない程度に全面に均一に被覆していることである。これは、染色したとき芯糸の弾性長繊維と鞘部の短繊維との染色イラツキが認められないことである。
【0029】
さらに、外側鞘部の短繊維は巻きついてはいるが、実ヨリは挿入されておらず実質無ヨリで巻き付き芯鞘構造が形成されているのである。
【0030】
本発明で用いられるコアーヤーンにおいて、巻き付きする外側鞘部の短繊維の重量比は、好ましくはコアーヤーン全体重量の10〜30重量%である。巻き付きする外側鞘部の短繊維の重量比が10%未満になると、被覆性が不良になり芯糸が鞘部群の短繊維隙間から露出したり、見えたりするので、染色した場合に、芯部の芯糸と鞘部の繊維の色差やイラツキとして目立ち問題になる。一方、重量比が30%を超えると鞘糸量が多くなり色差やイラツキの問題は生じないが、コアーヤーン縫糸の太さに対する強力が低くなることや、糸加工性が低下する。また、内側鞘部の短繊維の割合は、外部鞘部の割合より多くなる。
本発明のコアーヤーン縫糸は、上記のコアーヤーンを複数本引き揃えそれを加撚して構成される。具体的には、コアーヤーンに下ヨリを施し、それを複数本引き揃え、それに上ヨリをかけて縫糸とする。
【0031】
本発明のコアーヤーン縫糸の伸長率は、好ましくは20〜50%であり、また、伸長弾性率は好ましくは40〜90%である。 通常、コアーヤーン縫糸は、縫製ループを形成する上から、適度の剛性を有し伸びは少なく設計されているが、ストレッチ性があると剛性が低くなりループ形成性は低下するので、可縫性は一般には低下する傾向にある。しかしながら、本発明のストレッチ性のコアーヤーン縫糸は、適度な硬さとストレッチ性および高伸長弾性率の特性を有しているのである。
【0032】
具体的に、本発明のコアーヤーン縫糸は、伸長率では20〜50%の伸びが適しており、伸長率が20%未満では伸度が少なく縫い目のストレッチ性が不足し、また、伸長率が50%を超えると伸びすぎるので縫製性が低下し易い。
【0033】
また、コアーヤーン縫糸を一旦伸長した後、その伸張が回復する伸長弾性率は、40〜90%が好ましく、伸長弾性率が40%未満では弾性率が低すぎるので、縫い目が伸び切ってしまう恐れがある。また、伸長弾性率が90%を超えると、生地の回復性より、縫糸による縫目の回復性が良すぎるので、薄地ではパッカリングを生じる場合がある。要は生地と共に伸長し、生地と共に弾性回復するような、生地とのなじみの良い伸長・弾性特性が最も好ましい。
【0034】
次に、本発明をさらに好ましく実施するための態様について説明するならば、前記のコアーヤーンは実ヨリは存在しないので、通常の縫糸の糸構造とするために、ヨリ割れ防止や糸強度向上目的に施される下ヨリは、通常の縫糸の半分以下と極めて少ない範囲であることが好ましい。さらに、コアーヤーンの複数本が引き揃えられ上ヨリを施したストレッチ性のコアーヤーン縫糸は、コアーヤーンに挿入される下ヨリ数が少ないほど、コアーヤーン間の絡み合いは強く、ヨリ戻りやヨリ割れと言われる現象が起こりにくくなり、縫製性におけるバック縫性や自動機縫性が特に優れるのである。
【0035】
コアーヤーンに施す下ヨリは、通常のリング式紡績により製造されるコアーヤーンと同程度に挿入されると、コアーヤーンは既に集束されていることから、硬化しやすく可縫性を著しく低下させるので好ましくはないが、上ヨリ工程通過性や上ヨリ後の糸筋のさらなる均一性を考慮すれば、ある程度の下ヨリを挿入することは構わない。
【0036】
すなわち、下ヨリ数Tは、Dをコアーヤーンのトータル繊度(dtex)としたとき、8000/D1/2≧T≧0(t/m)の下ヨリが挿入されていることが好ましく、なるべく少ない方が可縫性は適している。
【0037】
ここで、下ヨリが8000/D1/2より多く挿入されると縫製性の大幅な低下が起こり、特にバック縫性や自動機縫製性において、糸切れが多発したり高速縫製性が低下する傾向を示す。
【0038】
例えば、芯糸のトータル繊度が70dtexで、鞘部のトータル繊度が130dtex相当のトータル繊度が200dtexのコアーヤーンでは、下ヨリ数が570T/m以上では可縫性が低下するが、500t/m未満になれば、可縫性は向上するのである。好ましい縫製性から言えば、下ヨリ数は少ないほど適しており、ゼロつまり下ヨリ数を施さない条件が最も優れているが、上記したように、上ヨリ工程通過性や上ヨリ後の糸筋の均一性を考慮すれば、50〜100t/m程度挿入しておくことが実用的に好ましい。
【0039】
また、上ヨリについては、通常の縫糸に施されている範囲の上ヨリが適用される。例え
ば、上記と同じ、芯糸のトータル繊度が70dtexで、鞘糸のトータル繊度が130dtex相当である、トータル繊度が200dtexのコアーヤーンでは、下ヨリ方向とは逆のZ方向に、500t/mから900t/mの上ヨリが挿入される。
【0040】
本発明のコアーヤーン縫糸に挿入されるヨリ方向について、下ヨリの挿入方向は、外側鞘部の短繊維が弾性長繊維芯糸に巻き付く方向に挿入されている方が、糸筋が滑らかになるので好ましく、また上ヨリの挿入方向は、トルクバランスが均衡されるので、下ヨリとは逆方向に挿入することが好ましい。
【0041】
通常、ミシン機の針回転機構から縫糸の下ヨリと上ヨリの組み合わせは、通常下ヨリはS方向に上ヨリはZ方向に撚糸されることが可縫性の点から優れており、上ヨリがS方向の場合は縫製中の糸切れが多発することがある。
【0042】
芯糸を構成する弾性長繊維は、マルチフィラメントが好適である。芯糸を構成する弾性長繊維のトータル繊度は、好ましくは30〜200dtexの範囲が、またフィラメント本数は12〜200本の範囲が適している。例えば、芯糸のトータル繊度が33dtexのときはフィラメント本数は12本〜30本が、また、芯糸のトータル繊度が78dtexのときはフィラメント本数は24本〜72本が、芯糸のトータル繊度が200dtexのときフィラメント本数は50本〜200dtexの糸構成であることが好ましい。
【0043】
トータル繊度とフィラメント本数に関係し、フィラメントの単繊維繊度が太くなると縫糸が硬くなり縫目が生地から浮き出たりし、また細くなると撚糸工程から最後の仕上げ巻工程までにおいて、毛羽発生したり強力低下を生じるので、上記の範囲がバランスのとれた条件である。
【0044】
さらに、フィラメントの本数は、多い方がコアーヤーンの曲げやネジリ特性が柔らかくなり可縫性が高くなり、縫目のパッカリングが向上するなど好ましい使い方であるが、逆に染色性の濃色が得られにくくなることがある。
【0045】
もちろん、上記の範囲外の単繊維繊度とトータル繊度においても実施可能であるが、縫目の美しさや耐久性あるいは生地との色合わせなど、諸問題を引き起こす原因につながるので目的や用途に応じて設計することである。
【0046】
芯糸の弾性長繊維は、100%弾性繊維からなる単独糸または弾性繊維糸と非弾性繊維糸を複合紡糸した複合糸であってもよく、またサイドバイサイド型や芯/鞘型の複合糸など、いずれも適用可能である。具体例として、弾性ポリプロピレンテレフタレートと非弾性ポリエチレンテレフタレートのサイドバイサイド型複合糸や、芯糸に弾性ポリプロピレンテレフタレート繊維を用い、鞘糸に非弾性のポリエチレンテレフタレート繊維を用いた芯/鞘同心円型複合糸などがある。上記のサイドバイサイド型複合糸や芯/鞘同心円型複合糸を本発明のコアーヤーン縫糸に適用すると、前者が後者に比べて可縫性はやや良好であるが伸縮性はやや劣る傾向にある。
【0047】
なお、コアーヤーンの糸構成は芯部にこのように弾性長繊維を用いるので、コアーヤーンでありながら高伸長性や高弾性の特性を有しているので、伸縮性に富むものである。
【0048】
芯糸の弾性長繊維の特性としては、切断強度は、高い方が縫製性が高くなるので、切断強度は好ましくは少なくとも3cN/dtex以上、さらには4cN/dtex以上であるものが適している。また、沸騰水収縮率は、縫製後のパッカリングを阻止するには、好ましくは6%以下であり、より好ましくは3%以下である。
【0049】
内側鞘部と外側鞘部を構成する短繊維の原綿特性において、その単繊維繊度は0.1〜3dtexの範囲が好ましく、また、0.5〜1.5dtexの範囲のものが、コアーヤーン紡績性やコアーヤーン縫糸の糸筋の滑らかさ、あるいはコアーヤーン縫糸の柔らかさから高可縫性につながるので、より好ましい範囲である。
【0050】
短繊維の繊維長は、短紡式の25mm〜40mmや、長紡式の38mm〜70mmのいずれであっても構わないが、コアーヤーン縫糸の縫製後の綺麗さからは前者が好ましく、また高強力特性からは後者の紡績方式のものが好ましく、目的により適宜選択することができる。
【0051】
内側鞘部の短繊維が筒状に並行に取り囲む本数および外側鞘部の短繊維が結束巻き付きする本数は、好ましくは紡績工程通過性性、紡績糸形成性、紡績糸強力などから最低40本以上とすることが好ましい。また、その本数が500本を超えると、結束力が逆に低下するという現象が生じることがある。この本数は、本発明のコアーヤーン縫糸の任意の横断面における内側鞘部と外側鞘部の合計短繊維本数である。
【0052】
次に、図面を用いて本発明のコアーヤーン縫糸の構成を詳細に説明する。図1は、本発明で用いられるコアーヤーンの外観モデルの一例を示す側面図である。
【0053】
図1は、下ヨリが施される前のコアーヤーンの糸形態例であり、芯糸の弾性長繊維1の周囲に、内側鞘部の短繊維2が弾性長繊維1の芯糸を筒状に並行に取り囲んでおり、さらにその外側に外側鞘部の短繊維3が巻き付いている。コアーヤーンの表面には、毛羽4、たるみ5、そしてループ6が存在する。
また、図2は、上記コアーヤーンに下ヨリを施した糸条を2本引き揃えて上ヨリを施した、2子ヨリ糸の本発明のコアーヤーン縫糸の例であり、コアーヤーン縫糸の表面は、外側鞘部の短繊維3で覆われており、毛羽4が示されている。上ヨリ撚糸する、とたるみとループは消滅したり極めて小さくなる。
【0054】
次に、本発明のコアーヤーン縫糸の製造法方について説明する。まず、紡績工程の練条工程後のステープルファイバー、つまり短繊維の束を用いて、精紡機の供給部の中央に配置した短繊維の束と、その短繊維の束を挟んであるいは短繊維の束の下方に配置した別の短繊維の束とからなる短繊維束をドラフトし、次いで、ドラフトされたその短繊維束と、クリールから解じょされた弾性長繊維の芯条とを引き揃え、旋回空気流を利用した紡績部材に供給して、弾性長繊維からなる芯糸に短繊維束を絡ませなが空気精紡加工することにより、ストレッチ性のコアーヤーンを製造する。この精紡における加工速度は、従来のリング式精紡機より10〜30倍の早い速度で合理的に製造することができ、大幅な製造コストダウンを図ることができる。
【0055】
次いで、得られたコアーヤーンを複数本引き揃えて、旋回空気流で巻き付いた方向とは逆方向に上ヨリを加えるか、もしくは、得られたコアーヤーンを旋回空気流で巻き付いた方向と同じ方向に下ヨリを施し、得られたストレッチ性のコアーヤーンを複数本引き揃え、下ヨリ方向と逆方向の上ヨリを施すことによって、本発明のコアーヤーン縫糸を製造することができる。
【0056】
本発明のコアーヤーン縫糸は、上ヨリが施された後、収縮止めあるいは上ヨリ後の残留トルク消滅を目的に熱セットが施される場合がある。引き続き、ソフト巻きを施したチーズを作成し、チーズ状でチーズ染色加工が施され、ストレッチ性の染色されたコアーヤーン縫糸が製造される。
【0057】
本発明のコアーヤーン縫糸は、特に工業用の本縫いミシン機を用いて縫製するに際の縫糸として好適である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により、本発明のコアーヤーン縫糸についてさらに詳細に説明する。本発明で用いられる特性は、次の測定方法で求められる。
【0059】
(1)繊度と強度:
JIS L 1090(1992年)に準ずる。
【0060】
(2)伸長率:
初荷重0.1CN/dtexを吊したときの長さを測定しL1とし、続いて定荷重3CN/dtexを吊したときの長さを測定しL2とし、次式により伸長率を算出する。
伸長率(%)={(L2−L1)/L2}×100。
【0061】
(3)伸長弾性率:
定荷重3CN/dtexを吊したときの長さを測定しS1とし、続いて初荷重0.1CN/dtexを吊したときの長さを測定しS2とし、次式により伸長弾性率を算出する。伸長弾性率(%)={(S1−S2)/S1}×100。
【0062】
(4)鞘糸の巻き付き重量比:
1インチ長さのコアーヤーン縫糸を採取し、上ヨリを解ネンして下ヨリ糸を取り出し、外側鞘部の巻き付き短繊維をはぎ取り採取し、その重さW1を測定する。別に、コアーヤーン縫糸自体の重さWOを測定し、次式により重量比を算出する。
重量比(%)={(WO−W1)/WO}×100。
【0063】
(5)縫製性:
ポリエステル繊維/綿混(T/C)ブロード布を用いて、ミシン機の針回転数変更し、前進縫いとバック縫いおよび自動機縫製性をテストした。縫製評価方法は、次のとおりである。
【0064】
・ 高速可縫性:
T/Cブロード生地を10枚重ね、これを2m縫製可能なミシン機により最高回転
1000〜5000(針/分)の範囲での縫製テストを行う。高速可縫性は、
縫製における糸切れ回数で評価した。
△; 糸切れ2〜5回/2m
○; 糸切れ1〜2回/2m
・ バック縫性:
T/Cブロード生地を4枚重ね、これを1500(針/分)で1m縫製における糸切れ回数(平均回数/n数=10)で評価する。
×; 縫製不可
△; 2〜5回
○; ○〜2回
・自動機対応性:
T/Cブロード生地を4枚重ね、これを1500(針/分)で2m縫製可能な張力範囲で評価する。
×; 縫製不可
△; 縫製可能(張力範囲不定)
○; 100〜200g(縫製張力範囲がこれを外れると糸切れが起こりやすく上図に縫製できない範囲。)
・縫目品位 :目視評価する。
×; 毛羽を発見できる
△; 毛羽はほとんど目立たない
○; 毛羽なし。
【0065】
・縫目伸度 :
縫目を横方向に両手で引っ張ったとき、縫目が10%以上伸長する場合を○、ほとんど伸長しない場合を×とし、その中間を△とした。
【0066】
・総合評価
×; ストレッチ性縫糸として実用不可
△; 実用の可能性低く用途限定される。例えば、ジーンズ用の縫目品位は低くてもストレッチ性があれば構わないなど。
○; 実用可能
(実施例1)
ムラタ・ボルテックススピナー機械(村田機械(株)製)を用いて、芯糸となる、強度が4.4cN/dtexであり、伸長弾性率が10%伸長では95%で、20%伸長では91%のポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント(78dtex、24フィラメント)の弾性長繊維糸条と、単繊維繊度が1.2dtexで繊維長が38mmのポリエステル短繊維のスライバーを鞘部繊維として用いて、紡速270m/min、ノズル圧力0.55Mpa、スピンドル径φ1.2、オーバーフィード率1〜2%、メインドラフト40倍、トータルドラフト140倍、ノズルゲージ21mmにて、S方向巻き付けの旋回気流式紡績方法によりコアーヤーンを製造した。得られたコアーヤーンは、芯糸にポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条が存在し、その外周部をポリエステル短繊維が糸の長手方向に実質的に並行に筒状に取り囲み、さらにその最外層にS方向に巻き付き角度は55〜60度で緊密に、全面巻き付きした上記のポリエステル短繊維が実質無ヨリで巻き付いた3層構造を形成していた。
得られたストレッチ性のコアーヤーンを2子ヨリ縫糸に製造するため、下ヨリ数を100t/mとし、上ヨリ数をいずれもZ方向に700t/m施し、2子ヨリのコアーヤーン縫糸を製造した。この2子ヨリのストレッチ性のコアーヤーン縫糸をチーズに巻き上げヨリ止め処理として、105℃の温度で20分間スチームセットを施し、続いてソフトチーズに巻き上げ、水洗・湯先を60℃の温度で10分間行い、120℃の温度で40分間のチーズ染色を行い、還元洗浄、湯洗・水洗し黒色に仕上げ、巻き付け角度の平均が55〜57度、36番2子ヨリのストレッチ性コアーヤーン縫糸を製造した。ストレッチ性のコアーヤーン縫糸の構成、特性および可縫性評価結果を、表1に示す。
【0067】
(比較例1)
芯糸となる、強度が4.4cN/dtexであり、伸長弾性率が10%伸長では95%で、20%伸長では91%のポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント(78dtex、24フィラメント)の弾性長繊維糸条を準備した。一方、単繊維繊度が1.2dtexで繊維長が38mmのポリエステル短繊維のスライバーを用いて、リング式精紡により製造したS方向850t/mの60番単糸紡績糸を製造した。得られた単糸紡績糸に、90℃×20分間の湿熱処理を行いヨリ止めセットを行った。得られた単糸紡績糸と上記の弾性長繊維糸条の2本引き揃え、Z方向に750t/mの上ヨリを合ネン機により施しさらに、105℃×20分間の湿熱処理を行いヨリ止めセットを行った。続いてソフトチーズに巻き上げ、水洗・湯先を60℃の温度で10分行い、120℃の温度で40分間のチーズ染色を行い、還元洗浄、湯洗・水洗し黒色に仕上げ混撚ミシン糸を製造したが、芯糸は鞘糸の紡績糸の間から見え被覆性は不良であった。混撚ミシン糸の糸構成、特性および可縫性評価結果を、表1に示す。
【0068】
(比較例2)
芯糸にポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(78dtex、24フィラメント)の通常延伸糸と、実施例1と同様のスライバーを用いて、S方向に850t/mのヨリ数を施しリング式精紡による通常のコアーヤーンを製造した。管糸上がり状態の該コアーヤーンに90℃×20分間の湿熱処理を行いヨリ止めセットを行った。得られた該コアーヤーンを2本引き揃えZ方向に820t/mの上ヨリを施し、105℃×20分間の湿熱処理を行いヨリ止めセットを行った。続いてソフトチーズに巻き上げ、水洗・湯先を60℃の温度で10分行い、130℃の温度で40分間のチーズ染色を行い、還元洗浄、湯洗・水洗し黒色に仕上げ30番2子ヨリ相当のコアーヤーン縫糸を製造したが、伸縮性はほとんどなかった。コアーヤーン縫糸の糸構成、特性および可縫性評価結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1のコアーヤーン縫糸は、比較例1のコアーヤーン縫糸に比べて、縫目品位が特に優れている。これは、芯糸が鞘部の短繊維で、十分に被覆されており、コアーヤーン縫糸の表面に露出していないからである。したがって、実施例1のコアーヤーン縫糸は、染色による芯・鞘のイラツキや染差は起こりにくく品位の高いストレッチ性のコアーヤーン縫糸である。 また、縫目伸度において、比較例2のコアーヤーン縫糸は伸縮性の発現はほとんど認められなく、縫製後の縫目伸度もほとんどない。
【0071】
また、比較例2は、実施例1および比較例1の縫糸構造とは全く異なる、従来のリング式によるコアーヤーン縫糸であるが、芯糸が鞘部の繊維から露出しやすく、縫目の品位が低いものである。また、通常のリング式によるので毛羽が目立ちやすくなり品位低下につながっている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、工業用の本縫いミシン機を用いて縫製するに際し、高速可縫性に優れ、芯糸と鞘部の短繊維の染色差が目立ちにくく、縫製後の縫い目の毛羽が目立ちにくく、かつ適度のストレッチ性を有する高品位のストレッチ性コアーヤーン縫糸を提供することができる。
【0073】
縫製対象品としては、一般衣料用から特にジーンズやユニフォームなどストレッチ性が特に要求される用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明で用いられるコアーヤーンの外観モデルの一例を示す側面図である。
【図2】図2は、本発明のコアーヤーン縫糸の外観モデルの一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0075】
1:芯糸の弾性長繊維
2:内側鞘部の短繊維
3:外側鞘部の短繊維
4.毛羽
5:たるみ
6:ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性長繊維からなる芯糸の長さ方向に、短繊維が筒状に並行に取り囲んで内側鞘部が形成され、さらにその外層に短繊維が巻き付き取り囲んで外側鞘部が形成されてなるコアーヤーンを複数本用いてなることを特徴とするコアーヤーン縫糸。
【請求項2】
外側鞘部が、内側鞘部の短繊維の一部で構成されてなることを特徴とする請求項1記載のコアーヤーン縫糸。
【請求項3】
外側鞘部の重量比が、コアーヤーン全体重量の10〜30重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のコアーヤーン縫糸。
【請求項4】
伸長率が20〜50%であり、かつ伸長弾性率が40〜90%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコアーヤーン縫糸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−132038(P2006−132038A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323203(P2004−323203)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】