説明

コアーヤーン複合繊維糸、縫糸およびそれを用いた縫製品

【課題】アンモニア、アミン類、硫化水素、メルカプタン類などの悪臭や、タバコ臭に多く含まれるアルデヒド類、酢酸などに対し、生地に消臭効能がなくても優れた消臭効果を発揮でき、洗濯後も消臭性の低下が殆どなく、工業用や家庭用縫製などの可縫性および縫い目の綺麗さに優れた縫糸を提供する。
【解決手段】芯糸となるマルチフィラメントの周囲に、その長手方向に沿って鞘糸となる短繊維束が全糸重量に対して20〜80重量%で巻き付き、ヨリ係数KがK=1.5〜5.5の範囲で下ヨリが付与される複合繊維糸であって、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が全糸重量に対して20重量%以上含まれ、該短繊維束はポリアミド繊維からなるコアーヤーン複合繊維糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汗臭などの臭いを有効に消臭し、かつ洗濯後は、優れた回復性を有するコアーヤーン縫糸およびそれを用いた縫製品、さらに該コアーヤーン縫糸を構成するコアーヤーン複合繊維糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な消臭機能を有する繊維製品に対する要望がますます高まってきている。従来から繊維に消臭性能を付与する方法として、原糸、原綿を作製する段階で消臭剤を繊維ポリマー中に練り混んだり、後加工段階で消臭剤をバインダーで繊維表面に固着させたり、またグラフト重合方式で親水性の官能基をポリマーに導入し、脱臭を行う方法が行われている。
【0003】
例えば、フタロシアニン多価カルボン酸を担持させた二酸化チタン微粒子を配合させたポリエステル繊維(特許文献1)や臭気成分を酸化分解する脱臭触媒を繊維に被覆させた消臭性繊維(特許文献2)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、消臭剤を繊維ポリマーに練り込む方法は、消臭剤の選択に当たって粒径、耐熱性、繊維ポリマーとの親和性などに制約があり、しかも原糸の物理的強度を損なうため、高強力の原糸を得るのが困難である。
【0005】
一方、後加工方式で繊維に消臭機能を付与する方法も知られている。その付与方法としては、繊維形成後に繊維にグラフト重合する方法、グラフト重合後に酸性基を金属イオンで置換する方法等を挙げることができる(特許文献3〜6)。例えば、グラフト重合する方法は、セルロース繊維にカルボキシル基を含むビニル化合物をグラフト共重合させて、カルボキシメチル化セルロースを得るもの(特許文献3、4)である。カルボキシル基の導入により、繊維の親水性が向上すると共に、アンモニアやアミンなどの塩基性悪臭物質を吸着する機能を有する。しかし、このように得られた改質セルロース繊維は確かに一定の消臭効果があるものの、縫糸としては実用化が困難である。また、特許文献5、6にはグラフト重合後に酸性基を金属イオンで置換する方法が記載されているが、縫糸としての実用化は至っていない。
【0006】
また、これら上述の加工・処理をすることにより該ポリアミド系繊維を使用することにより、静電気の発生や高伸度に伴うローラーへの巻き付き、チューブへの詰まりが発生し、可紡性にも影響を及ぼす。
【0007】
更には、上述の影響を過大に受け、紡績糸の糸ムラや強力不足、スラブ・ネップの発生を及ぼし、縫糸としての品位を大いに損ないかねない。
【特許文献1】特開平07−81206号公報
【特許文献2】特開平07−189120号公報
【特許文献3】特開平06−184941号公報
【特許文献4】特開平06−192963号公報
【特許文献5】特許第2705396号公報
【特許文献6】特許第3279120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アンモニア、アミン類、硫化水素、メルカプタン類などの悪臭や、タバコ臭に多く含まれるアルデヒド類、酢酸などに対し、ある程度以上の量を使用することで優れた消臭効果を発揮でき、紡績糸として品位に優れ、これを用いた縫製品が洗濯後も消臭性の低下が殆どなく、かつ工業用や家庭用縫製などにおいて可縫性および縫い目の綺麗さに優れた縫糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の消臭効能を有する縫糸は、上記課題を達成するため、次の構成を有する。すなわち、
(1)芯糸となるマルチフィラメントの周囲に、その長手方向に沿って鞘糸となる短繊維束が全糸重量に対して20〜80重量%で巻き付き、ヨリ係数KがK=1.5〜5.5の範囲で下ヨリが付与される複合繊維糸であって、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が全糸重量に対して20重量%以上含まれ、該短繊維束はポリアミド繊維からなることを特徴するコアーヤーン複合繊維糸。
【0010】
(2)前記マルチフィラメントもしくは前記短繊維束にのみ、前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が含まれることを特徴とする(1)に記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【0011】
(3)前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維は、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた後、該酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンで置換したものであることを特徴とする前記(1)に記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【0012】
(4)前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維がポリアミド繊維であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【0013】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のコアーヤーン複合繊維糸が複数本引き揃えられて、該コアーヤーン複合繊維糸の下ヨリとは反対方向に上ヨリが施されてなり、縫糸としての平均引っ張り強度が2.5cN/dtex以上、3%伸長時の応力が0.2〜1.2cN/dtex、かつ180℃における乾熱収縮率が4%以下であることを特徴とするコアーヤーン縫糸。
【0014】
(6)前記(5)に記載のコアーヤーン縫糸を1重量%以上使用した縫製品であって、アンモニア臭の繰り返し消臭率が3回まで90%以上、且つ洗濯後の初回消臭率が95%以上であることを特徴とする縫製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生地に消臭機能がなくても、ある程度の量以上使用することにより、汗臭の主成分であるアンモニア、アミン類、また硫化水素、メルカプタン類等や、タバコ臭に多く含まれるアルデヒド類、酢酸などに対し、優れた消臭効果を発揮できる工業用縫製品や家庭用縫製品が得られるコアーヤーン縫糸を提供することができる。
本発明のコアーヤーン縫糸を使うことで、消臭加工した生地を使用しなくても消臭効果のある縫製品を得ることができ、デザインも制限されない。すなわち、本発明のコアーヤーン縫糸で縫うことにより消臭機能を付与することが可能となり、加工の自由度が選べることでコスト削減にも繋がるという利点がある。
【0016】
また、縫糸として、十分のストレッチ性があることでスポーツウェア、インナー、Tシャツまたユニフォームなど幅広い生地への対応が可能である。さらに、縫糸として消臭機能の他に、工業ミシンに対応する際に、必要な特性である高強度、耐熱性をも有し、縫製後の縫い目表面が綺麗に見え、品位が優れたものとなるなどの効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のコアーヤーン縫糸の最良の形態について説明する。
【0018】
まず、本発明のコアーヤーン縫糸には、芯糸となるマルチフィラメントの周囲に、その長手方向に沿って鞘糸となる短繊維束が全糸重量に対して20〜80重量%で巻き付き、ヨリ係数KがK=1.5〜5.5の範囲で下ヨリが付与されるコアーヤーン複合繊維糸からなるものであって、該コアーヤーン複合繊維糸の中には、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が全糸重量に対して20重量%以上含まれるものである。さらに、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維は、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた後、該酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンで置換したものであることが好ましい。また、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維は、コアーヤーン複合繊維糸の芯糸となるマルチフィラメントまたは鞘糸となる短繊維束のいずれかのみに含まれていてもよく、その両方に含まれていてもよい。
【0019】
鞘糸となる短繊維束を構成する短繊維としては、紡績糸用原料や布団綿、詰め綿などの原料とされるものであり、具体的な形態のものとして、ステープルファイバーあるいは単にステープルと呼ばれるもの(以下、ステープルという)等が挙げられる。
また、本発明に使用する短繊維は合成繊維の他に半合成繊維、コットンや麻などの天然繊維、ウールやカシミヤなどの獣毛を使用してもよい。
【0020】
以下、本発明に使用される繊維への消臭機能加工(化学改質)について、さらに詳細に説明する。
繊維の機能加工(化学改質)は、消臭機能を有する酸性基を有するビニルモノマーを、グラフト共重合により繊維を構成する素材(ポリマー)に導入する方法が用いられる。
【0021】
グラフト共重合により導入する酸性基を有するビニルモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸やそれらのエステルなどが好ましく挙げられる。素材(ポリマー)に共重合された酸性基により、アンモニアや硫化水素、アミン等の悪臭物質を吸着し、消臭することができる。
【0022】
その理由としては、繊維の分子中に酸性基を導入したことから、アンモニアやアミン等の塩基性の悪臭物質に対する吸着性に優れたもので、脱臭性繊維としての作用を示すものである。即ち、アンモニア基(−NH)はかかる酸性基にて捕捉されてアンモニア臭が消臭されることになる。
【0023】
なお、中性洗剤にて洗濯することにより前記反応を元に戻すことが容易にできる。
【0024】
グラフト共重合する際にはラジカル重合開始剤および還元性物質を使用し、グラフト重合反応を行うことが好ましい。
【0025】
グラフト共重合に使用するラジカル重合開始剤としては特に限定されるものではなく、公知のものなどから任意に選択できるが、中でも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの如き酸化力の強い物質が好ましく挙げられる。
【0026】
また、還元性物質としても特に限定されるものではなく、公知のものなどから任意に選択できるが、中では、硫化水素、ヨウ化水素、水素化アルミニウムリチウム、二酸化イオウ、亜硫酸ナトリウム、硫化ナトリウムなどが好ましく挙げられる。
【0027】
本発明においては、グラフト重合の際に用いる酸性ビニルモノマーの極性を被グラフト物に近づけ、且つ2種以上混合することにより、さらには特に好ましくはラジカル開始剤として過酸化物と還元性物質を同時に用いることにより従来の2段処理の如き煩雑さがなくなり、グラフト重合時間が短縮するとともに、グラフト率が向上出来る効果が得られる。
【0028】
グラフト重合処理は、ステープル(原綿)やマルチフィラメントに行ってもよく、また、コアーヤーン複合繊維糸やコアーヤーン縫糸(以下、繊維構造物という)とした後でも、どの段階で行ってもよいが、グラフト重合の効率の点からステープル(原綿)やマルチフィラメントに対して行うのが好ましい。
【0029】
本発明においては、さらに、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた後、該酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンで置換したものであることが好ましい。
【0030】
例えば、ポリアミド繊維にグラフト重合し、さらに該酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンで置換する方法としては、上記のように酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた後、得られた繊維または繊維構造物を通常の染色工程により染色し、しかる後、アルカリ剤で処理してから、繊維中の酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンを含む化合物を含有する液に浸し、繊維構造物を処理する。なお、染色工程がアルカリ条件下で行なわれる場合には、アルカリ剤による処理を必要としない。
【0031】
金属イオン化合物の濃度は、耐久性のある脱臭効果を付与する一方、繊維強力の低下や色相の変化を防ぐ観点から、固形分換算で繊維に対して0.05〜3%、さらには0.15〜0.6%付着させるのが好ましい。
【0032】
この置換処理は、通常の仕上加工工程に含めて行なってもよいし、仕上加工とは独立の工程としてもよい。後者の場合には、特定の金属イオンを含んだ処理浴中で50〜80℃、20秒〜3分程度処理するのが好ましい。
【0033】
本発明において、グラフト重合のグラフト率を5%〜25%とすれば目的とする消臭性能を発揮できる。5%以下になると、目的とする消臭性能を達成するため縫糸としての使用量を大幅に増加させなければならなくなり、好ましくない。25%を超えると、風合いの粗硬化、および染色時の染色ムラに繋がるので好ましくない。さらに、グラフト率は8%〜22%の方がより好ましい。
また、前記機能加工(化学改質)をコアーヤーン複合繊維糸とする前のステープルやマルチフィラメントの段階で行った場合は、繊維構造物に仕上げる際に、他の素材と混合しても構わない。前記機能加工(化学改質)を施したステープルやマルチフィラメントが縫糸の全重量に対して20重量%以上使用されていれば、目的とする消臭性能を発揮できる。例えば、ポリアミドステープルに前記機能加工(化学改質)を施した場合、紡績において混打綿工程で他のステープルを混合してもよいが、混打綿工程で混合する場合、混合相手はポリエステルステープルがよい。また、ポリアミドマルチフィラメントに前記機能加工(化学改質)を施した場合、コアーヤーン複合繊維糸を芯糸として挿入する際に、他の糸と合糸して挿入してもよい。その合糸する相手はポリアミド繊維でもよく、ポリエステル繊維でもかまわない。
【0034】
本発明に使用される短繊維束を構成する繊維(ステープル)の素材としては、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系などの合成繊維、あるいは、レーヨンなどの半合成繊維などが用いられるが、酸性基を有するビニルポリマーをグラフト重合させることが技術的に容易であることからポリアミド繊維が好ましい。本発明でいうポリアミドとは、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の他、これらの共重合体などが挙げられる。
ステープルとしては、単繊維繊度は0.4〜5dtexの範囲が好ましく、カードの通過性など紡績性の向上に繋がるので、0.7dtex以上、2.5dtex以下がより好ましい。また、繊維長としては、短紡式の30mm〜51mm程度、梳毛式の51〜90mmのいずれであっても構わないが、本縫糸の縫製後の綺麗さからは前者が、高強力特性からは後者の紡績方式のものが好ましいといえる。また、ステープルの断面形状は、特に限定されるものではなく、丸型、三角型、Y字型、W字型、中空型、バイメタル型など公知のものなどから任意に選択できる。
【0035】
また、前記コアーヤーン複合繊維糸の芯糸を構成するマルチフィラメントの素材としては、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系などの合成繊維、あるいは、レーヨンなどの半合成繊維などが用いられるが、それらのマルチフィラメント、特にポリアミドマルチフィラメントが好ましい。本発明でいうポリアミドマルチフィラメントの主成分は、ポリアミドであれば特に限定されないが、繊維形成能および力学的特性の点でナイロン66、ナイロン6が好ましい。また、それらの共重合ポリマーあるいはブレンドポリマーであっても良い。また、本発明のポリアミドマルチフィラメントには、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、架橋ポリエチレンオキサイド系ポリマーなどの吸湿・吸水物質やポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の汎用熱可塑性樹脂が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていてもよい。また、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていてもよい。
【0036】
また、本発明におけるポリアミドマルチフィラメントの断面形状は、丸断面、凸型断面、三角断面、マルチローバル断面、偏平断面、H型断面、π型断面、C型断面その他公知の異形断面でもよい。また、2種類以上の異形断面を混繊した断面ミックスマルチフィラメントであってもよい。
【0037】
本発明におけるポリアミド繊維は延伸糸であっても良いし、半延伸糸(POY)であっても良い。また、通常の仮撚工程で作った仮撚加工糸であっても良い、仮撚加工糸とした場合、エラスチック性に富み、ボリューム感のあるミシン糸が生地によくマッチし、機能的でソフトな縫い目をつくることができ、縁縫いや飾り縫いなど、用途も多様となる。
また、該マルチフィラメントの総繊度としては、好ましくは30〜300dtexの範囲が、フィラメント本数は12〜200フィラメントの範囲が適しており、例えばマルチフィラメントの総繊度が33dtexでは12〜30フィラメントが、44dtexでは15〜40フィラメント、56dtexでは18〜56フィラメントが、100dtexでは24〜72フィラメントの糸構成であることがより好ましい。これは単繊維繊度が太くなると縫糸が硬くなり、縫い目が生地から浮き出るからである。一方、細くなると撚糸工程から最後の仕上げ工程までにおいて、毛羽発生したり強力低下を生じるので、上記の範囲がバランスの取れた条件である。
【0038】
さらに、マルチフィラメントを構成するフィラメント(単繊維)の本数は、多い方はコアーヤーンの曲げやねじり特性が柔らかくなり可縫性が高くなり、縫い目のパッカリングが向上するなど好ましい使い方であるが、逆に染色性の濃色が得られにくくなることがある。
本発明におけるポリアミドフィラメントに機能加工(化学改質)を施す場合は、ヨリ加工未実施のポリアミドマルチフィラメントに直接施してから、精紡工程で短繊維とコアーヤーン複合繊維を作ってもよい、或いは精紡工程でコアーヤーン複合繊維糸を作り、その後上ヨリをかけ、通常の巻き返し工程でチーズリワインドした後に施してもよい。
次に、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法について説明する。まず、常法によりポリアミドを溶融紡糸して未延伸糸を得、一旦パッケージに巻き取る。この未延伸糸を室内常温湿で2〜20日間エージングした後、該未延伸糸1.1〜2.5倍に延伸して、延伸糸を得る。このときのヒーター温度を50〜180℃に加熱しておく。
本発明に用いられるコアーヤーン複合繊維糸の精紡方式は、従来のリング紡績も好ましいが、更に毛羽を少なくすることができる、MJS紡績機、革新紡績機MVS(“MURATA VORTEX SPINNER”(登録商標))を用いることもできる。
本発明のコアーヤーン縫糸は、前記機能加工(化学改質)した繊維を含むコアーヤーン複合繊維糸をその撚り(下ヨリ)方向とは反対方向に複数本合わせて撚糸した縫糸であり、好ましくはコアーヤーン複合繊維糸を2〜3本で撚糸することがよく、本数が2本未満であると、縫糸としての強度が得られないばかりか、縫製中の糸切れの原因となるため好ましくない。逆に本数が4本以上であると撚糸が困難になり、糸の均一性も損なわれることにもなり可縫性が低下するため好ましくない。
本発明のコアーヤーン縫糸に関しては、コアーヤーン複合繊維糸の下ヨリ方向はS方向でもZ方向でも構わないが、一般的に下ヨリ方向と逆方向に追撚をかける方が好ましい。これは下ヨリと同方向に上ヨリをかけると糸自体が膨らみ、縫い針に引掛かるため可縫性を阻害するためである。
また、該コアーヤーン複合繊維糸にかかるヨリ係数はK=1.5〜5.5の範囲で加撚したものが好ましい。ヨリ係数Kが1.5未満になると、糸の締まりが悪く、毛羽が多くなり、縫い目の品位、強力の低下に繋がるので好ましくない。反面、ヨリ係数Kが5.5を超えると縫糸の強力が増加するが、仕上げ後の縫糸の硬直性に繋がり、可縫性に影響をもたらすため好ましくない。より好ましくは、紡績糸の毛羽感、スナールなどを鑑み、K=2.5〜4.0の範囲であることが好ましい。ここで下ヨリ方向をS方向とした場合、コアーヤーン複合繊維糸を複数本引き揃えて上ヨリを下ヨリ方向とは逆方向のZ方向に撚糸して(上ヨリを施して)、本発明のコアーヤーン縫糸とする。
【0039】
なお、ヨリ係数K =T/(Ne)1/2
T:紡績糸の1インチ(2.54cm)当たりの撚数
Ne:紡績糸の英式綿番手
で表される。
本発明のコアーヤーン縫糸は、ポリアミド繊維を使用しているが、ポリアミドは帯電し易く、短繊維束にするにあたって20重量%以上混綿する場合には、周囲の環境を高温多湿状態にしなければ容易に紡績できない。
【0040】
本発明のポリアミド繊維から形成される短繊維束は、ポリアミド100%で形成されていても糸ムラが少なく、且つポリアミド特有のソフトな風合いを併せ持つことを特徴とする。
【0041】
一般的にポリアミド100%、及びポリアミド混紡糸は周囲の環境に影響され易く、室内湿度が低いと静電気を帯び、逆に室内湿度が高いとポリアミド自体が膨潤し繊維の収束性が悪くなり紡績が困難になる。
【0042】
これらを解消するために、本発明は紡績工場内温度を25℃±5℃、工場内湿度60RH%±5RH%に固定管理し紡績を実施し、各工程でのドラフト倍率を通常ドラフト倍率よりも15〜20%低ドラフトで紡績することにより、静電気の抑制、ドラフトムラ抑制、スラブ・ネップの抑制が可能となる。
【0043】
これらを達成するのに、細かな温湿度の管理を留意するほか、各工程のドラフト率のコントロールに細心を払う必要があり、当然ながら低ドラフトによる生産効率のダウンを招くが、ポリアミド繊維の製造工程には不可欠である。
【0044】
これらが不十分であると、カード工程での巻き上がり、練条工程でのローラー巻き付き、チューブ詰まりを発生させることとなる。
【0045】
本発明において得られた短繊維束を、精紡工程で、前述した長繊維と複合され、下よりをかけられながら、コアーヤーン複合繊維糸を形成する。その後、収縮止めあるいは下ヨリ後の残留トルク発現防止のために熱セットを施すことが好ましい。
【0046】
その後、コアーヤーン複合繊維糸を複数本合わせて撚糸して縫糸とするが、その方法としては下ヨリが付与された20〜100sのコアーヤーン複合繊維を2〜3本合わせて上ヨリをかけて撚糸とすることが好ましい。本数が2本未満であると、縫糸としての強度が得られず、縫製中の糸切れの原因となるため、好ましくない。逆に本数が4本以上であると上ヨリを施すのが難しく、また糸の均一性が損なわれ可縫性が低下する傾向があるため、3本以下がよい。
本発明の製造方法における上ヨリ付与の方法は、特に限定されるものではなく、ダブルツイスター、ダウンツイスターなどの通常の方法から任意に選択できる。
【0047】
また、上ヨリ数は上述した下ヨリ数の60%〜95%が好ましく、より好ましくは70%以上、85%以下である。上ヨリ数が下ヨリ数の60%未満であると、繊維同士の空隙が大きくなり、縫製中にミシン針穴を通過する際に糸切れの原因となり好ましくない。また、上ヨリ数が下ヨリ数の95%より多くなると、トルクバランスが崩れ、縫製時の目飛びの原因となるため、好ましくない。
【0048】
また、縫糸の用途に応じて、撚り止めセット後はソフト巻きを施したチーズを作成し、チーズ染色加工を施し、仕上げ巻きによってコアーヤーン縫糸の製品が得られる。
【0049】
本発明の縫糸の好ましい特性としては、コアーヤーン縫糸としての平均引っ張り破断強度は2.5cN/dtex以上が好ましく、さらに好ましくは2.8cN/dtex以上である。一般的に、耐久性や可縫性から鑑みて糸強度が高い方が好ましく、厚地やジーンズ用途では生地厚さに対応すべく2.8cN/dtex以上が好ましい。また、通常の衣料用生地に用いる縫糸としては、2.5cN/dtexもあれば充分である。しかし、逆に6.0cN/dtexより高くなると、縫製品に大きな負荷がかかり、縫い目付近の生地を痛めるため好ましくなく、これらを鑑みると6.0cN/dtex以下が好ましい。
さらに、本発明のコアーヤーン縫糸は3%伸長時の応力が0.2〜1.2cN/dtexであることが好ましい。これは特に目飛びの発生に関係し、3%伸長時の応力を大きくする程、縫製時に針糸のループ形状が大きくなり安定化し、ルーパーによる下糸通しミスがなくなることに繋がるので0.2cN/dtex以上にすることが好ましい。また、1.2cN/dtexを超えると、ループ形状が小さくなり、あるいは不安定な形になることにより、目飛びの現象に繋がるので、好ましくない。
【0050】
また、コアーヤーン縫糸として、破断強度が2.5cN/dtex以上を達成するためには、前述するヨリ係数の選定範囲とすることによって実現できるものである。なお、ここで言及した平均引っ張り破断強度は後述(実施例の欄(2))する測定方法で求める。
さらにまた、本発明のコアーヤーン縫糸は、180℃における乾熱収縮率は4%以下が好ましい。これは縫製後にアイロンなどの熱処理を受けた時、又は洗濯された時、縫製品が収縮を起こさないようにし、パッカリングを防止して縫製品の品質を著しく低下させることを防止するためである。なお、ここで言及した乾熱収縮率は後述(実施例の欄(1))する測定方法で求める。
【0051】
また、本発明のコアーヤーン縫糸の毛羽数としては、1mm以上3mm未満の毛羽で250〜800個/10mの範囲の毛羽数を有することが好ましい。より好ましくは300〜650個/10mの範囲内である。1mm以上3mm未満の毛羽数がこの範囲であると、針穴と紡績糸間の通過性が安定し目飛び糸切れが減少し、安定した可縫性を得ることができる。逆に毛羽数が250個/10m以下になると、針と紡績糸との擦過熱の放熱作用が上手くいかずに、特に高速縫製時においては放熱性が低下すると糸切れが発生するなどの問題が生ずる。一方、800個/10mを超えると、針穴への紡績糸の通過性が不安定となり目飛び、糸切れが増加し、さらに毛羽が目立ち過ぎて、縫い目の品位が悪くなる。
【0052】
また、3mm以上5mm未満の毛羽が1〜30個/10mであることが好ましく、さらに好ましくは1個/10m以上、20個/10m以下である。3mm以上5mm未満の毛羽が1個/10m未満であると、縫製時に針穴熱を放熱する効果が低く、縫糸切れの原因となるため、好ましくない。一方、3mm以上5mm未満の毛羽が30個/10mより多くなると、強力のバラツキが大きくなり、縫製時に糸切れなどのトラブルに繋がるので、好ましくない。
【0053】
また、5mm以上の毛羽が5個/10m以下であることが好ましい。5mm以上の毛羽が5個/10m以上であると、強力のバラツキが大きくなり、縫製中や縫い目の糸切れの原因となるため好ましくない。
本発明においてコアーヤーン縫糸を得た後、毛羽立ち性、染色性等の観点からチーズ染色することが好ましい。チーズ染色の方法、染料は、特に限定されるものではなく、ナイロン縫糸の染色は反応染料や酸性染料、含金染料等の染料から任意に選択できる。
【0054】
また、本発明の縫糸を製造する方法において、可縫性を向上させるためにチーズ染色後に仕上げ油剤を付与することが好ましい。仕上げ油剤の付与方法は特に限定されるものではないが、毛羽の発生が少なく余計な油剤を吸い上げる心配がないオイリングローラによる油剤の付与方法がより好ましい。
また、本発明のコアーヤーン縫糸を製造する方法における仕上げ油剤種はとくに限定されるものではなく、公知の仕上げ油剤から任意に選択できるが、平滑性の良さや低コストの面からシリコンを主体とした仕上げ油剤を用いることがより好ましい。
本発明のコアーヤーン縫糸を後述する評価方法(実施例(5))で消臭効果を確認したところ、消臭未加工生地に、縫製品全重量に対して1重量%以上を縫製することが好ましい。より好ましくは消臭精度を向上させることから縫製品前重量対比5重量%以上を使用することが好ましい。この時、汗臭の主成分であるアンモニア臭に対する消臭率が、繰り返し測定3回まで消臭率90%以上を保持し、繰り返し5回まででも消臭率80%以上保持し、優れた性能を有する。さらに、一般の家庭洗濯(1回)後の消臭率が95%以上と、洗濯を行っても優れた消臭性能を示す。
なお、本発明のコアーヤーン縫糸を用いて縫製品を作製する場合には、汗をかきやすい箇所や汚れやすい箇所に本発明の縫糸を用いることが効果的である。例えば、衣服の脇の下や襟などである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、測定方法は以下のとおりとした。
【0056】
(1)見掛け繊度、番手、乾熱収縮率、沸騰水収縮率
JIS L1013(1999)に準拠して1水準につき20サンプル測定し、その平均値を算出した。
【0057】
(2)平均引っ張り破断強度、平均引っ張り破断伸度、3%伸長時の応力
計測器工業(株)製STATIMAT MEにより、つかみ長200mm、引張速度100%/minで、1水準につき20サンプルの測定を行い、平均引っ張り破断強力(cN)及び平均引っ張り破断伸度(%)を求めた。
【0058】
平均引っ張り破断強度(cN/dtex)は平均引っ張り破断強力と(1)で測定した見掛け繊度から算出した。
【0059】
また、得られた強力−伸度曲線から、3%伸長した時の強力を求め、その20サンプルの平均値を(1)で測定した見掛け繊度から算出することにより、3%伸長時の応力を得た。
【0060】
(3)毛羽数
JIS L1095(1999)(一般紡績糸試験法)9.22 B法に準じ、測定装置は敷島テクノ(株)製 F−INDEX TESTERを用いて測定した。
速度30m/minで解舒しながら静電式コンデンサを使用して、各々の糸の直径に対して1mm以上、3mm以上及び5mm以上はみ出ている表面毛羽本数を数えたものである。表中のデータは長さ10m当たりの毛羽数(個/10m)であり、各毛羽長さについてそれぞれ10回測定した平均値である。
【0061】
(4)消臭性能
[消臭評価用サンプル作成]
消臭効果のないベース布であるポリエステル標準織物タフタに対し、本発明の縫糸を1重量%以上の割合で簡易縫製品を作成し、消臭効果を確認した。本評価には、約1.3g(15cm×15cm)のポリエステル標準織物タフタに、重量%で換算した縫糸長さで縫製し、準備した。
【0062】
[アンモニア臭]
500ccのふたつきポリエチレン容器に0.28%のアンモニア水溶液を80μl滴下し、次いで同容器に上記の試料を投入して密閉し、アンモニアを気化させた。初期アンモニア濃度及び20分室温で放置後の容器から採取した気体中の残存アンモニア濃度を(株)ガステック製ガス検知管を用いて測定した。
初期アンモニア濃度は約200ppmであり、20分後の値が20ppm以下であれば、良好なアンモニア脱臭性を有する。
【0063】
[硫化水素臭]
500ccのふたつきポリエチレン容器に0.5%の硫化ナトリウム水溶液を30μl、0.5%の硫酸100μlを滴下し、次いで同容器に上記の試料を投入して密閉し、硫化水素ガスを発生させた。初期硫化水素濃度及び20分室温で放置後の容器から採取した気体中の残存硫化水素濃度を(株)ガステック製ガス検知管を用いて測定した。
【0064】
初期硫化水素濃度は約20ppmであり、20分後の値が2ppm以下であれば、良好な硫化水素脱臭性を有する。
【0065】
[消臭率、繰り返し測定]
消臭率は、以下の式により算出した。
【0066】
消臭率={1−(残留ガス濃度)/(初期ガス濃度)}×100
また、繰り返し測定については、試料を1回測定したあと、洗濯せずにそのまま、次の500ccのふたつきポリエチレン容器に入れ、同じ条件で連続的に測定するものである。
【0067】
[洗濯条件]
洗濯は、一般家庭で用いられる中性洗剤を使い、2槽式洗濯機で、洗濯(水温40℃)×5分×1回、すすぎ(水温40℃)×5分×2回で行った。浴比は試料:水=1:30(重量比)とした。
【0068】
なお、洗濯後の消臭率測定は、洗濯後のサンプルを自然風乾したあと、そのまま同じ方法再測定を行った。
【0069】
(5)縫製性評価方法
A.高速可縫性(前進縫い):T/Cブロード生地を10枚重ねて2m縫製可能なミシン機で、糸切れがなく縫製できる最高回転数(針/分)を測定した。測定は、1000〜5000(針/分)の範囲でテストした。
【0070】
B.バック可縫性(バック縫い):T/Cブロード生地を4枚重ね、ミシン機で1500(針/分)で1m縫製したときにおける糸切れ回数(平均回数/10回)を測定した。評価基準は下記の通りとした。
× :縫製不可もしくは6回以上
△ :3〜5回
○ :1〜2回
○○:0回。
【0071】
C.ジグザグステッチ縫い(家庭用途):T/Cブロード生地を2枚重ね、ミシン機でジグザグステッチ(縫いピッチ1.4mm、ジグザグ幅:4mm)で0.5m縫製したときにおける、縫い目欠点(目飛び、縫い目不良個数)の発生回数を測定した。針回転数は300spm(ステッチ/min)とした。評価基準は下記の通りとした。
× :6回以上
△ :3〜5回
○ :1〜2回
○○:0回。
【0072】
D.縫い目品位:A項の高速可縫性(前進縫い)評価において、1000(針/分)の回転数で縫製したサンプルを目視評価した。
△ :毛羽が多い。
○ :毛羽を発見できる。
○○:殆ど毛羽が目立たない。
【0073】
実施例1、7、比較例1、2及び参考例1
常法によるナイロン66ステープル(1.7dtex、繊維長44mm)から、1.1g/mの粗糸を作る。強度5.4cN/dtexのポリアミドフィラメント44T−34fと同時に精紡機に供給し、コアーヤーン複合繊維を得た。
【0074】
そして、該コアーヤーン複合繊維を3本撚ってコアーヤーン縫糸を製造するため、該コアーヤーン複合繊維にヨリ係数4.0(実施例1)、1.3(比較例1)、5.8(比較例2)で、S方向の下ヨリを付与してコアーヤーン複合繊維糸とし、次に3本引き揃えていずれもZ方向に下ヨリ数の80%の上ヨリ数で上ヨリを施し、3子撚りのコアーヤーン縫糸を製造した。
【0075】
次に、3子撚りのコアーヤーンをチーズに巻き上げ、撚り止め処理として、95℃で30分間スチームセットを施し、続いてソフトチーズに巻き上げた。
【0076】
続いてソフトチーズに巻き上げた後、通常のチーズ染色機に詰め込み、常法により精練した後、重量に対しアクリル酸4wt%、メタクリル酸を12wt%、過硫酸ナトリウムのホルマリン縮合物を3wt%含む処理浴を調製し、40℃から1℃/分の速度で昇温し、80℃で60分間液中加熱処理を施し、グラフト加工した。
【0077】
続いて、130℃で40分間のチーズ染色を行い、黒色に仕上げ、次いで高松油脂(株)製仕上げ油剤GS−100SHをオイリングにて3.0%o.w.f付与してコアーヤーン縫糸を製造した。得られた縫糸を2.0m(実施例1、比較例1、比較例2)、0.73m(実施例7)、0.18m(参考例1)使用してポリエステル織物タフタに縫製し、評価した。
【0078】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表1〜4に示した。
【0079】
実施例2
実施例1と同様に作製したコアーヤーン複合繊維による3子撚り糸をソフトチーズに巻き上げた後、染色機に詰め込み、常法により精練した後、当該3子撚り糸に対しアクリル酸4wt%、メタクリル酸を12wt%、過硫酸アンモニウムを1wt%、亜硫酸ナトリウムのホルマリン縮合物を3wt%含む処理浴を調製し、40℃から1℃/分の速度で昇温し、80℃で60分間液中加熱処理を施しグラフト加工した。
【0080】
次にこのものを水洗したあと、同様にパッケージ染色機で炭酸ナトリウムが被処理物に対し20wt%になるように処理浴を調整し、80℃×30分間、加熱処理後、繊維内部に導入したカルボキシル基をNaに置換させた。
【0081】
その後、同様にパッケージ染色機で硫酸亜鉛が被処理物に対し20wt%になるように処理浴を調整し、80℃×30分間、置換反応をさせた。次に、130℃で40分間のチーズ染色を行い、黒色に仕上げ、次いで高松油脂(株)製仕上げ油剤GS−100SHをオイリングにて3.0%o.w.f付与してコアーヤーン縫糸を製造した。
【0082】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表1〜2に示した。
【0083】
実施例3
まず、強度5.4cN/dtexのポリアミドフィラメント44T−34fの糸条をソフトチーズに巻き上げた後、通常のチーズ染色機に詰め込み、常法により精練した後、重量に対しアクリル酸4wt%、メタクリル酸を12wt%、過硫酸ナトリウムのホルマリン縮合物を3wt%含む処理浴を調製し、40℃から1℃/分の速度で昇温し、80℃で60分間液中加熱処理を施し、グラフト加工した。
【0084】
その後、常法によるナイロン66ステープル(1.7dtex、繊維長44mm)から、1.1g/mの粗糸を作る。上記機能加工後のポリアミドフィラメントと同時に精紡機に供給し、コアーヤーン複合繊維を得た。
【0085】
そして、該コアーヤーン複合繊維を3本撚ってコアーヤーン縫糸を製造するため、該コアーヤーン複合繊維にヨリ係数4.0(実施例3)のS方向の下ヨリを施した。次に3本引き揃えてZ方向に下ヨリ数の80%の上ヨリ数で上ヨリを施し、3子撚りのコアーヤーン縫糸を製造した。このコアーヤーン縫糸をチーズに巻き上げ、撚り止め処理として、95℃で30分間スチームセットを施し、続いてソフトチーズに巻き上げた。
【0086】
続いてソフトチーズに巻き上げた後、通常のチーズ染色機に詰め込み、130℃で40分間のチーズ染色を行い、黒色に仕上げ、次いで高松油脂(株)製仕上げ油剤GS−100SHをオイリングにて3.0%o.w.f付与してコアーヤーン縫糸を製造した。得られた縫糸を2m使用してポリエステル織物タフタに縫製し、評価した。
【0087】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表1〜2に示した。
【0088】
実施例4、5
ナイロン66ステープル(1.7dtex、繊維長44mm)をオーバーマイヤー型パッケージ染色機に詰め込み、常法により精練した後、当該ステープルに対しアクリル酸4wt%、メタクリル酸を12wt%、過硫酸ナトリウムのホルマリン縮合物を3wt%含む処理浴を調製し、40℃から1℃/分の速度で昇温し、80℃で60分間液中加熱処理を施し、グラフト加工した。
【0089】
次いで水洗、乾燥したグラフト化ナイロン66ステープルを通常の紡績方法で、1.1g/mのスライバーを得た。
【0090】
次ぎに、常法による作られた強度5.4cN/dtexのポリアミドフィラメント44T−34f(実施例4)、と強度6.0cN/dtexのポリエステル56T−36f(実施例5)をそれぞれに精紡機に供給し、下ヨリ係数4.0でS方向の下ヨリをかけて、コアーヤーン複合繊維を得た。このコアーヤーン複合繊維を3本引き揃えていずれもZ方向に下ヨリ数の80%の上ヨリ数で上ヨリを施し、3子撚りのコアーヤーン縫糸を製造した。
【0091】
得られたコアーヤーン縫糸をチーズに巻き上げ、撚り止め処理として、95℃で30分間スチームセットを施し、続いてソフトチーズに巻き上げた。
【0092】
続いてソフトチーズに巻き上げた後、通常のチーズ染色機に詰め込み、130℃で40分間のチーズ染色を行い、黒色に仕上げ、次いで高松油脂(株)製仕上げ油剤GS−100SHをオイリングにて3.0%o.w.f付与してコアーヤーン縫糸を製造した。得られた縫糸を2m使用してポリエステル織物タフタに縫製し、評価した。
【0093】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表1〜2に示した。
【0094】
実施例6
実施例4と同様に作製したグラフト化ナイロン66ステープルを50重量%、通常のポリエステルステープル(1.7dtex、繊維長44mm)を50重量%の比率で、通常の方法で1.1g/mのスライバーを得た。続いて実施例4と同様に、強度5.4cN/dtexのポリアミドフィラメント44T−34f(実施例4)と同時に精紡機に供給し、コアーヤーン複合繊維を紡績した。その際の精紡条件およびその後の撚糸条件、染色条件は実施例4と同じである。
【0095】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表1〜2に示した。
【0096】
比較例3
通常のポリエチレンテレフタレートステープル(1.7dtex、繊維長44mm)、とポリエチレンテレフタレート長繊維44T−34fで綿番手50Sのコアーヤーン複合繊維を紡績した。その際の精紡条件およびその後の撚糸条件、染色条件は実施例1と同じである。
【0097】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表3〜4に示した。
【0098】
比較例4
通常のポリナイロン66ステープル(1.7dtex、繊維長44mm)、とポリアミド長繊維44T−34fで綿番手50Sのコアーヤーン複合繊維を紡績した。その際の精紡条件およびその後の撚糸条件、染色条件は実施例1と同じである。
【0099】
得られた縫糸の特性および可縫性評価結果を後述する表3〜4に示した。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
実施例1の縫糸は、高速可縫性、自動機対応などのあらゆる工業用途において優れた性能をもっており、さらに家庭用などで使われている複雑なジグザグステッチにも対応可能であった。また、消臭効果においては、消臭評価時に使用した縫糸の量が5.5重量%であるが、アンモニア臭、硫化水素に対しする繰り返し消臭率が3回まで90%以上であり、優れた消臭効果を持っていることが分かった。さらに洗濯したところ、元のレベルの消臭率に回復した。また、実施例7では、消臭評価時に使用した縫糸の量が2重量%であるが、また十分の消臭効果があるとはいえる。さらに、その縫い糸の使用量を減らすと、参考例1のように0.5%では、消臭効果はあるものの実施例1よりは劣る結果となっている。
【0105】
一方、精紡工程で下ヨリ係数を1.3にした比較例1では、強度が2.8cN/dtexしかなくて、可縫性評価ではいい結果が得られなかった。また、下ヨリ係数を5.8にした比較例2では、下撚りが多めに入っているため、縫糸が硬直になり、やはり可縫性評価はやや低い結果となっている。
【0106】
また、実施例2の縫糸の消臭効果においては、アンモニアについてやや実施例1より劣るものの、硫化水素への消臭効果については実施例1より優れた結果となった。
【0107】
実施例3、4、5及び6について、可縫性、消臭評価では、ほぼ同等なレベルを示した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、生地に消臭効能がなくても、縫糸により消臭効果を発揮できる。さらに、縫糸として高強度、優れた耐熱性による工業用における高速可縫性、自動機対応縫製性、バック縫製、ならびに家庭用における、ジグザグステッチなど複雑のパターンにも対応できる縫い目の綺麗さなどを要求される一般衣料用として、例えばハリ・腰風合いに優れた特徴を活かした高級婦人衣料や、ストレッチ性を要求されるスポーツウェア、紳士パンツなど、さらに洗濯の回数が比較的に少ないユニフォームなどに、優れた消臭機能を付与することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸となるマルチフィラメントの周囲に、その長手方向に沿って鞘糸となる短繊維束が全糸重量に対して20〜80重量%で巻き付き、ヨリ係数KがK=1.5〜5.5の範囲で下ヨリが付与される複合繊維糸であって、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が全糸重量に対して20重量%以上含まれ、該短繊維束はポリアミド繊維からなることを特徴するコアーヤーン複合繊維糸。
【請求項2】
前記マルチフィラメントもしくは前記短繊維束にのみ、前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維が含まれることを特徴とする請求項1に記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【請求項3】
前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維は、酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた後、該酸性基の水素イオンをZn2+、Cu2+、Ni、Mn2+、Ag、およびFe2+からなる群より選ばれた1種以上の金属イオンで置換したものであることを特徴とする請求項1または2に記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【請求項4】
前記酸性基を有するビニルモノマーをグラフト共重合させた繊維がポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコアーヤーン複合繊維糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコアーヤーン複合繊維糸が複数本引き揃えられて、該コアーヤーン複合繊維糸の下ヨリとは反対方向に上ヨリが施されてなり、縫糸としての平均引っ張り強度が2.5cN/dtex以上、3%伸長時の応力が0.2〜1.2cN/dtex、かつ180℃における乾熱収縮率が4%以下であることを特徴とするコアーヤーン縫糸。
【請求項6】
請求項5に記載のコアーヤーン縫糸を1重量%以上使用した縫製品であって、アンモニア臭の繰り返し消臭率が3回まで90%以上、且つ洗濯後の初回消臭率が95%以上であることを特徴とする縫製品。

【公開番号】特開2009−235645(P2009−235645A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85859(P2008−85859)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】