説明

コア集約型耐震構造物

【課題】水平2方向(長辺と短辺)の距離に差がある平面を有する構造物において、一平面内の一部に2方向の耐震要素を集約させ、平面計画上の自由度を高め、開口部の高さ寸法を確保する。
【解決手段】幅と長さが相違する複数の平面1〜3を複数の方向に組み合わせた平面形を有し、各平面1〜3内に連層の耐震要素4〜6が配置された耐震構造物において、複数の平面の内、いずれか二つの平面1、2における各耐震要素4、5を各平面1、2の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列させる。
前記二つの平面1、2における各耐震要素4、5を互いに交差する方向に向け、一方の平面1と他方の平面2の内、少なくともいずれか一方の平面における一部の耐震要素7を平面上の一部に集約させ、コア7Aを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐震壁等の連層の耐震要素がコアを構成するコア集約型耐震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連層の耐震要素を有する構造物は2方向に分散して配置されるべき耐震要素をコアとして平面上の中心部等、一部に集約させることで、コア以外の領域での平面計画上の自由度が増す利点がある(特許文献1、2参照)。この場合、平面上の外周部には、コアと共に地震時の水平力を分担する多数の柱を配置することが必要になり、形式的にはコア壁を有するチューブ構造となることが多い。
【0003】
但し、2方向分の耐震要素を平面上の中心部に集約させた構造を採用できる構造物は水平2方向(長辺と短辺)の距離に極端な差がない平面を有する場合に限られ、水平2方向の距離に差がある場合には、長辺方向(桁行方向)の水平力に対する抵抗要素を付加することが不可欠になる(特許文献3参照)。この場合、長辺方向には柱・梁のフレームが耐震要素となる。
【0004】
柱を壁柱状に形成した上で、長辺方向(桁行方向)にも連層の耐震要素を配置すれば、水平2方向の耐震要素を集約させることは可能であるが(特許文献4参照)、長辺と短辺の差が大きくなれば、長辺方向を向く耐震要素の量も多くなるため、結局、長辺方向を向く耐震要素は長辺方向に分散せざるを得ず、構造形式は壁式構造になる。
【0005】
壁式構造は屋内への柱型と梁型の突出がなく、床の有効面積が拡大される利点がある。反面、図10−(a)に示すように短辺方向(スパン方向)を向く耐震要素(耐震壁)には長辺方向を向く耐震要素としての袖壁が接続するため、短辺方向を向く耐震要素によって区画される領域内の間取り割りの変更が利かない、床面積が削減される等、平面計画上の自由度が制限される不利益がある。
【0006】
壁式構造ではまた、スラブに腰壁と垂れ壁が接続し、壁梁が形成されるため、開口部の高さ寸法も制約され、開口部に収納されるサッシの寸法上の自由度も制限される。
【0007】
【特許文献1】特開2003−328586号公報(請求項1、段落0010〜0012、図1〜図3)
【特許文献2】特開2006−45933号公報(請求項1、段落0024〜0029、図1、図2)
【特許文献3】特開2006−328797号公報(請求項1、段落0010〜0014、図1)
【特許文献4】特許第2914187号公報(請求項1、請求項2、段落0018〜0025、0027〜0040、図1〜図24、図31〜図34)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように水平2方向(長辺と短辺)の距離に差がある平面を有する構造物では、一平面内の一部に2方向の耐震要素を集約させることが難しいため、平面計画上の自由度と開口部の高さ寸法が常に制約を受けることになる。
【0009】
本発明は上記背景より、短辺方向を向く耐震要素に長辺方向を向く耐震要素を接続する必要のないコア集約型耐震構造物を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明のコア集約型耐震構造物は、幅と長さが相違する複数の平面を複数の方向に組み合わせた平面形を有し、前記各平面内に連層の耐震要素が配置された耐震構造物であり、
前記複数の平面の内、いずれか二つの平面における各耐震要素が各平面の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列し、
前記二つの平面における各耐震要素が互いに交差する方向を向き、
前記一方の平面と前記他方の平面の内、少なくともいずれか一方の平面における一部の耐震要素が平面上の一部に集約され、コアを構成していることを構成要件とする。
【0011】
幅と長さが相違する平面とは、例えば長辺と短辺を有する長方形、平行四辺形、台形等の形状を言うが、不整形もあるため、必ずしも全長に亘って一定の幅を有する形状であるとは限らない。幅と長さが相違する複数の平面を複数の方向に組み合わせた平面形とは、二つ以上の平面の中心線が互いに交差する方向に二つ以上の平面を組み合わせた形を言い、各平面の中心線は任意の角度で交差し、直交する場合を含む。平面が平行四辺形の場合で言えば、長辺(底辺)の方向が長さ方向、高さの方向が幅方向になるが、各平面において耐震要素が配列する「長さ方向に交差する方向」はこの幅方向と四辺形の短辺方向を含む。
【0012】
構造物の平面形が複数の平面を組み合わせた形をすることから、平面が複数層(階)に亘る場合、構造物は最下層の平面を、その平面形状のまま複数層重ねた立体形状、または最下層の平面形状を次第に縮小させながら複数層重ねた立体形状になる。
【0013】
耐震要素が各平面の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列するとは、構造物の平面形を構成する一平面が例えば長辺方向(桁行方向)と短辺方向(スパン方向)を有する長方形である場合に、耐震要素が長辺方向に間隔を置き、短辺方向に配列することを言う。但し、平面は不整形もあるため、耐震要素の配列方向は必ずしも平面の短辺方向である必要はなく、短辺方向に傾斜した方向も含まれる。
【0014】
二つの平面における各耐震要素が互いに交差する方向を向くとは、二つの平面の中心線が交差する方向に関係なく、それぞれの耐震要素が互いに交差する方向を向くことを言い、直交する場合を含む。
【0015】
耐震要素は水平2方向に均等に分散して配置されることが望ましいことから、いずれか二つの平面における各耐震要素は互いに直交することが合理的であるが、2方向の耐震要素が交差すれば、組み合わせにより直交する場合と同等の抵抗力を発揮できるため、必ずしも直交する必要はない。
【0016】
一方の平面と他方の平面の内、少なくともいずれか一方の平面における一部の耐震要素が平面上の一部に集約されるとは、少なくともいずれか一方の平面内に配置されるべき一部の耐震要素が、間隔を置いて配列する耐震要素の位置とは異なる位置に集約して配置されることを言う。この一部の耐震要素は平面上の一部に集約されることで、コアを構成する。コアはいずれかの平面内に配置され、各平面内に配置されることもある。コアの平面形状は問われない。
【0017】
いずれか二つの各平面において各平面の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列した各耐震要素が互いに交差する方向を向くことで、一方の平面の長辺方向(桁行方向)に作用する、または卓越する水平力に対しては、他方の平面内の耐震要素が抵抗する。同様に他方の平面の長辺方向(桁行方向)に作用する、または卓越する水平力に対しては、一方の平面内の耐震要素が抵抗する。各平面内の耐震要素はそれぞれの平面の短辺方向(スパン方向)に作用する、または卓越する水平力に対して抵抗する。
【0018】
このように二つの平面が対になることで、いずれか一方の平面の耐震要素が互いに他方の平面の耐震性を補う関係が成立するため、各平面内の耐震要素に、それに直交等、交差する方向の袖壁等の耐震要素を接続する必要がなくなる。
【0019】
コアを構成する一部の耐震要素は二つの平面内に間隔を置いて配列する各耐震要素の和では負担しきれない分の水平力を負担するが、各耐震要素の和が十分に水平力を負担できる場合には、コアを構成する一部の耐震要素分、構造物は余力を持つことになる。
【0020】
従って一方の平面内における耐震要素がその平面の短辺方向(スパン方向)に作用する水平力に対する抵抗力を有し、他方の平面の長辺方向(桁行方向)に作用する水平力に対する抵抗力を有すれば、構造物は二つの平面内に配置される耐震要素のみによって水平2方向の耐震性を保有することになる。
【0021】
耐震要素は1方向を向く耐震壁やブレース等によって構成され、前記のように耐震要素(耐震壁)の端部にその方向に直交する方向の耐震要素(袖壁)を接続する必要がないため、いずれの平面内においても、短辺方向(スパン方向)を向く耐震要素とスラブのみによって耐震構造物が成立することになる。
【0022】
この結果、スラブ上の空間は短辺方向(スパン方向)を向く耐震要素のみによって区画され、その区画内に耐震要素が突出することがないため、区画内においては間取り割りの変更が自由になり、平面計画上の自由度が格段に向上する。またスラブには腰壁と垂れ壁を接続する必要もないため、開口部の高さ寸法上の制約も解消され、開口部に収納されるサッシの寸法上の自由度も向上する。
【0023】
コアを構成する一部の耐震要素は平面上の一箇所に集約される他、複数箇所に集約される。複数のコアに集約される場合には、各コアが独立して水平力に抵抗することによる変形量を抑制するために、請求項2に記載のように複数のコアの脚部間に境界梁が架設される。または請求項3に記載のように複数のコアの頂部間に頂部梁が架設される。
【0024】
これらの場合、コアが水平力を受けて曲げ変形しようとするときに、境界梁や頂部梁がコアに曲げ戻しモーメントを作用させ、コアの変形を拘束するように働くため、コアの剛性と耐力、並びに構造物の剛性と耐力が向上する。
【0025】
構造物が集合住宅の場合、高層化するに従い、いずれかの平面上の上層階が高さ制限や斜線制限を受けることがあり、その場合、その平面を含む構造体(棟)は図10−(b)に示すようにセットバックした立体形状になることがある。セットバックした構造体の平面積は上層階になる程、小さくなることから、その平面内に配置される耐震要素の数(枚数)は上層階程、少なくなる。
【0026】
従って通常であれば、各層(階)の平面内に床面積に応じた一定量の耐震要素を配置する必要から、上層階程、耐震要素の厚さを大きくせざるを得なくなることがある。その場合、セットバックした構造体の剛心が構造体の前面側(階数の少ない側)へ寄り、構造体の背面側(階数の多い側)に位置する重心との偏心量が大きくなる。偏心量の増大は構造体への捩じれを招き易くし、構造体を振れ易くする。この偏心に対処する必要から、階数が多くなる構面程、耐震要素の厚さ(壁厚)を大きくせざるを得ない。
【0027】
これに対し、請求項1では一部の耐震要素が平面上の一部に集約され、コアを構成することで、前記のようにいずれかの平面の耐震要素が他方の平面の耐震性を補う関係が成立するため、セットバックに伴う捩じれを低減することが可能になっている。その結果として請求項4に記載のように一方の平面の耐震要素と他方の平面の耐震要素の内、少なくとも一方の厚さを一定にすることが可能になる。
【0028】
請求項4では構造体のセットバックに拘らず、各層(階)の平面内の耐震要素の厚さが一定であることで、剛心を構造体の背面側へ接近させることができるため、重心との偏心量を抑え、構造体の捩じりを低減することが可能になる。また耐震要素の厚さが一定であることで、耐震要素が耐震壁の場合に、全耐震壁を一定厚さのプレキャストコンクリートで製作できる利点もある。
【0029】
構造物は2方向を向く耐震要素を有することで、耐震構造物として構築されるが、上部構造(構造体)と基礎等の下部構造との間、もしくは上部構造の中間層に免震装置を介在させることもできる。その場合、上部構造(構造体)が免震構造化することで、耐震要素の負担が軽減されるため、全耐震要素の量、またはコアを構成する耐震要素の量を低減することが可能である。
【0030】
この場合、免震装置には積層ゴム支承、弾性滑り支承その他の振動絶縁装置が使用されるが、免震装置の主材料がゴムである場合には、免震装置が軸方向の引張力を受けたときに、免震装置の機能が損なわれる可能性がある。
【0031】
そこで、前記一方、もしくは他方の平面を含む構造体の一部の層に免震装置が設置された場合に、請求項5に記載のようにこの免震装置に支持される上部構造の最下部に、前記免震装置への許容値を超える軸方向引張力の作用を抑制する極厚スラブが構築されれば、免震装置への軸方向引張力の作用を抑止することが可能であり、免震装置の機能の低下を回避することが可能になる。この場合、構造体は免震装置の設置層を挟んで上部構造と下部構造に区分される。
【0032】
免震装置には水平力による構造体の浮き上がり時の他、鉛直方向の振動時に軸方向引張力が作用し得るが、請求項5における「許容値を超える軸方向引張力の作用を抑制する」とは、ある程度、例えば1N/mm程度以下ならば、引張力の作用が許容される場合に、その許容応力度を超える軸方向引張力の作用を抑制することを言う。
【0033】
請求項5では上部構造の最下部に極厚スラブが構築されることで、構造体に作用する転倒モーメントにより構造体が浮き上がりを生じようとするときに、極厚スラブが自身の質量により浮き上がりを阻止する働きをするため、免震装置には一定値以下の引張力、または圧縮力が作用する状態が得られる。極厚スラブはまた、構造体の上部構造の一部になることで、上部構造の剛性を高める機能も発揮するため、境界梁や頂部梁の機能を補うことが可能である。
【発明の効果】
【0034】
二つの平面において各平面の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列した各耐震要素が互いに交差する方向を向くことで、一方の平面の長辺方向(桁行方向)、及び他方の平面の長辺方向(桁行方向)に作用する水平力に対し、互いの平面の耐震要素を抵抗させることができる。
【0035】
二つの平面が対になることで、一方の平面の耐震要素が他方の平面の耐震性を補う関係が成立するため、各平面内にコア以外の耐震要素を2方向に向けて配置する必要がなく、いずれの平面内においても、短辺方向(スパン方向)を向く耐震要素とスラブのみによって耐震構造を成立させることができる。
【0036】
この結果、スラブ上の空間は短辺方向(スパン方向)を向く耐震要素のみによって区画され、その区画内に耐震要素が突出することがないため、区画内においては間取り割りの変更が自由になり、平面計画上の自由度が向上する。スラブには腰壁と垂れ壁を接続する必要もないため、開口部の高さ寸法上の制約も解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0038】
図1−(a)は幅と長さが相違する複数の平面1、2を複数の方向に組み合わせた平面形を有し、各平面1、2内に連層の耐震要素4、5が配置された耐震構造物において、一部の耐震要素7が平面上の一部に集約され、コア7Aを構成しているコア集約型耐震構造物(以下、構造物)の概要例を示す。
【0039】
図1−(a)は二つの平面1、2の中心線が互いに直交する方向を向いて組み合わせられた平面形を有する構造物の平面図を示すが、図2、図3に示すように二つの平面1、2の組み合わせ角度は任意である。ここで言う平面1、2は構造物内におけるスラブ8に相当する。
【0040】
前記複数の平面(スラブ8)1、2の内、いずれか二つの平面1、2における各耐震要素4、5は各平面1、2の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に直交する方向等、交差する方向を向いて配列する。この二つの平面1、2における各耐震要素4、5は互いに直交等、交差する方向を向く。この一方の平面1と他方の平面2の内、少なくともいずれか一方の平面における一部の耐震要素7が平面上の一部に集約され、コア7Aを構成する。
【0041】
平面1と平面2はそれぞれ複数層、重なることで、構造体(棟)1Aと構造体(棟)2Aを構成する。耐震要素4と耐震要素5はそれぞれ構造体1Aと構造体2Aの最下層の平面(スラブ8)1、2から立ち上がり、最上層の平面(スラブ8)1、2まで連続し、各層の平面(スラブ8)1、2に接続する。耐震要素4、5は耐震壁やブレース等から構成される。最下層の平面(スラブ8)1、2の少なくとも一部は後述の極厚スラブ12であることもある。
【0042】
図1−(a)の平面形と同一の平面形を有する従来の壁式構造の例を図10−(a)に示す。ここに示すように従来構造の各平面内に、その短辺方向を向いて配置される耐震要素の両端には、平面の長辺方向の耐震要素として機能する袖壁が耐震要素に直交する方向に接続する。この袖壁は短辺方向を向く耐震要素の長さ方向中間部に接続することもあるため、隣接する耐震要素で区画される領域内での間取り割りの自由な変更を阻害する要因になる。図10−(a)に示す耐震要素(耐震壁)の詳細例を図7−(b)に示す。
【0043】
これに対し、図1−(a)に示す例ではY方向を向く平面2内に配置される耐震要素5、5間の領域に、耐震要素5に直交する耐震要素が接続しないため、この領域内での間取り割りの変更を自由に行うことが可能になっている。図1−(a)ではX方向を向く平面1内に複数のコア7A、7Bを配置している関係から、この平面1内に配置された耐震要素4、4間の領域での間取り割りの変更はコア7A、7Bに制約されるが、コア7A、7Bが単数であれば、変更の自由度は増大する。
【0044】
図1−(a)に示す耐震要素(耐震壁)4(5)の詳細例を図7−(a)に示す。また耐震要素4(5)の長さ方向の端部は他の部分と同一厚さの柱、もしくは袖壁を内蔵した構造になっている。この内蔵柱41の内部には主筋41aが配筋され、この主筋41aの周りには主筋41aを包囲する主筋拘束筋41bが配筋されており、内蔵柱41の部分は柱としての機能を備えている。
【0045】
このように本発明では例えば、コア7A、7B以外の耐震要素4(5)がその本体部分と同一厚さの内蔵柱41を両端に有することで、耐震要素4(5)に直交する方向の袖壁を接続する必要がなく、耐震要素4(5)の平面形状が完全な直線状でよい構造になっている。但し、内蔵柱41を含む耐震要素4(5)は一例であるから、内蔵柱41を含むことと同等の構造であれば、必ずしも内蔵柱41を有する必要はない。
【0046】
図2、図3は構造物の具体例として三つの平面1〜3を3方向に組み合わせた平面形を有する14階建ての集合住宅の平面図を示す。図2は2階(基準階)の平面を、図3は10階及び11階の平面を示す。図2、図3中、平面1はX方向を向き、平面2はY方向に対して平面1寄りに傾斜した方向を向いている。図2、図3では三つの平面1〜3から構造物を構成しているが、耐震構造物としては平面1と平面2の二つの平面によっても成立する。図2、図3の例では平面3内に配置された耐震要素6がX方向とY方向のいずれにも交差しているため、この耐震要素6はX方向とY方向の2方向の水平力に対して抵抗でき、平面1、2に対する耐震要素としての機能を発揮する。
【0047】
この構造物の外観を図6に示すが、平面2を含む構造体(棟)2Aはその先端側から、平面1を含む構造体1Aとの接続側へかけてセットバックした外観をし、図2、図3から分かるように低層から上層へかけて平面2の長さが短くなっている。
【0048】
図2中、平面1内の耐震要素4は平面1の短辺方向(スパン方向)を向き、長辺方向(桁行方向)に間隔を置いて配列する。エレベータシャフトを通る耐震要素4はエレベータシャフトの位置で分断され、エレベータホールと階段室を区画している。基本的に耐震要素4の両端、すなわち平面1の短辺方向の端部にはそれに直交等、交差する方向の耐震要素は接続しない。
【0049】
図2において耐震要素4が分断されるエレベータシャフトの周りには耐震要素7からなるコア7Bが配置されている。コア7Bはこの他、平面1内の、平面2寄りのエレベータシャフト周りにも配置されている。コア7Bは四角形以外の形状をすることもあるが、四角形状をする場合には、例えば耐震要素4に平行な耐震要素71とそれに直交等、交差する方向の耐震要素72から構成される。図2、図3では平面1と平面2の双方に交差しながら連続する平面3内にもコア7Bを配置している。
【0050】
図2、図3に示すようにコア7Bが平面1内に複数、配置される場合、図1−(b)に示すように平面1の長辺方向に隣接するコア7B、7Bの脚部間にはコア7Bの変形を拘束する境界梁9が架設されることもある。コア7B、7Bの頂部間には頂部梁10が架設されることもある。図2、図3中、破線で示すように境界梁9は平面1中の平面2寄りのエレベータシャフト周りにおいて、耐震要素4を挟んで隣接するコア7B、7Bの耐震要素72、72間に架設されている。
【0051】
図2、図3において平面2寄りで隣接するコア7A、7A間の境界梁9はその他のコア7Bまで延長させられ、図8−(a)に示すように基礎梁13として全コア7A、7Bをつなぐように架設されることもある。図8−(a)に示す基礎梁13は上部構造(構造体1A、2A)に一体化する。破線円で示す免震装置11を挟んだ基礎梁13の下方には図5に示すようにこの基礎梁13と対になる、下部構造の基礎梁14が構築される。図8−(b)は(a)の立面図である。免震装置11は基礎梁13と基礎梁14に接合される。
【0052】
図8−(a)に示すように構造体1A、2Aの下に平面1、2の長さ方向に連続する基礎梁13を構築した場合、構造体1A、2Aは(b)に示すように基礎梁13とそれに連続して立ち上がる耐震要素4、5、及びコア7Bと、各層において耐震要素4、5、及びコア7Bをつなぐスラブ8から構成され、剛性の高い架構として構築される。図8中、太い実線は構造体1A自体が巨大な骨格(フレーム)を形成している様子を示す。
【0053】
この剛性の高い架構全体(構造体1A、2A)は地震時には剛体として挙動し易くなるため、図8では特に短辺方向の転倒に対する安定性を確保している。
【0054】
従来構造の場合には、コアを免震支持するために、コアの直下に免震装置を配置することが行われるため、抵抗モーメントの腕の長さが短く、抵抗モーメントは有効には作用しない。これに対し、図8では抵抗モーメントが構造体1Aの最下部のスラブ8に接続した、短辺方向両側の基礎梁13、13間に働き、腕の長さが大きくなるため、抵抗モーメントが有効に作用することになる。前記のように最下部のスラブ8の少なくとも一部は極厚スラブ12であることもある。
【0055】
図8は図2、図3における平面1の、平面2から遠い側のコア7B周りの耐震要素4及びコア7Bと、免震装置11の配置関係を示している。図9−(a)、(b)は平面1の平面2寄りのコア7A周りでのコア7Aと免震装置11の配置関係を示す。後述のように平面2寄りのコア7A周りには極厚スラブ12が構築されることから、免震装置11は極厚スラブ12の下に設置されている。この場合、免震装置11は基礎梁14と極厚スラブ12に接合される。
【0056】
前記のように剛性の高い構造体1Aは剛体として挙動することから、図9においても免震装置11からの転倒モーメントに対する反力のモーメントが最大になるよう、免震装置11は極厚スラブ12の周辺寄りに配置される。(a)は極厚スラブ12の中心の片側にコア7Aが配置された様子を、(b)は極厚スラブ12の中心にコア7Aの中心が位置する様子を示す。
【0057】
図9−(a)ではコア7Aの平面形状に関係なく、構造体1Aの抵抗モーメントが最大になるよう、極厚スラブ12の四隅位置に免震装置11を配置している。(b)ではコア7Aが正方形状であることから、水平2方向に有効に抵抗モーメントが発生するよう、コア7Aを構成する耐震要素71、72の延長線上に免震装置11を配置しているが、(b)の場合には極厚スラブ12の四隅位置に免震装置11を配置しても効果は同等である。図9の場合、抵抗モーメントは構造体1Aの最下部のスラブ8である極厚スラブ12の短辺方向両側間に働く。図8−(a)では、平面1の短辺方向両側に基礎梁13、13が位置することで、コア7Bの両側位置に免震装置11を配置することができている。
【0058】
図9の場合にも、免震装置11が圧縮力を受けるときに極厚スラブ12は免震装置11から反力を受ける。極厚スラブ12の上部で引張力が作用する場合に、免震装置11が引張力を受けようとするときには、極厚スラブ12は特に質量が大きいことで、転倒モーメントに抵抗することにより浮き上がりを防止する。結果として免震装置11への引張力の作用が回避される。
【0059】
図2、図3の場合、平面1(構造体1A)に接続する平面2(構造体2A)は平行四辺形状をしていることから、平面2内の耐震要素5は平面2の短辺方向、すなわち平面1の長辺方向を向き、平面2の長辺方向に間隔を置いて配列している。この耐震要素5の両端にも基本的にそれに交差する方向の耐震要素は接続しない。図2、図3では安全のために、耐震要素5の一方(右側)の端部にこれに交差する方向の、短い長さの耐震要素を接続しているが、この耐震要素は必ずしも必要ではない。
【0060】
平面1内の耐震要素4の端部にそれに交差する耐震要素を接続する必要がなく、平面2内の耐震要素5の端部にそれに交差する耐震要素を接続する必要がないことは、平面1内の耐震要素4の不足分と平面2内の耐震要素5の不足分が平面1内のコア7Aに集約されていることによる。
【0061】
前記の通り、平面2を含む構造体(棟)2Aはセットバックしているが、図2、図3では平面2内の耐震要素5の厚さを階数に関係なく一定にし、上階になる程、厚さを大きくすることをしていない。
【0062】
平面2を含む構造体2Aがセットバックした形状をする場合、上階になる程、平面積が小さくなるが、平面積に応じた一定数の耐震要素を配置する必要から、通常は次第に耐震要素の厚さを増す必要がある。その結果として構造体1Aとの接続側寄りに位置する構造体2Aの重心の位置と、それより構造体2Aの端部(前面)側に位置する剛心の位置との間の距離(偏心量)が大きくなり、水平力を受けたときに捩じりを起こし易くなる。
【0063】
これに対し、図2、図3では構造体2Aがセットバックした形状をしながらも、階数に関係なく平面2内の耐震要素5の厚さが一定であることで、耐震要素5の厚さが増大する場合より剛心が構造体1Aとの接続側へ寄るため、偏心量の増大が抑えられ、捩じりの発生が抑制されている。
【0064】
図2、図3に示す平面形を有する構造物にX方向に作用する水平力に対しては、平面2内の耐震要素5と、コア7Aを構成する、耐震要素5と平行な耐震要素72が抵抗する。Y方向の水平力に対しては、平面1内の耐震要素4と、コア7Aを構成する、耐震要素4と平行な耐震要素71が抵抗する。すなわち2方向を向いた二つの平面1、2が組み合わせられることにより、一方の平面1(2)の耐震要素4(5)が互いに他方の平面2(1)の耐震性を補う関係が成立する。
【0065】
図2、図3では構造物全体を地上階等の上部構造と基礎等の下部構造に区分し、その境界に積層ゴム支承や弾性滑り支承等の免震装置11を介在させ、上部構造を免震構造化することにより耐震要素4〜7の負担を軽減している。負担の軽減により免震装置11がない場合より耐震要素4〜7の厚さが抑えられている。免震装置11の平面上の配置位置を図4に示すが、免震装置11は地上階の中間層に介在させられることもある。図4中、○が積層ゴム支承を、◎が弾性滑り支承を示すが、免震装置11の形態は問われない。
【0066】
図4中、太線で囲い、ハッチングを入れた帯状の領域は積層ゴム支承上の基礎の範囲を示す。この基礎全体の領域を含む範囲には図5に示すように免震装置11に軸方向引張力に対処するために、上部構造(構造体1A、2A)の底板としての極厚スラブ12が構築されている。太線で示した帯状の領域を含め、免震装置11の配置位置を含む格子状の部分は上部構造(構造体1A、2A)に一体化する基礎梁13を示す。
【0067】
極厚スラブ12は図1−(c)に示すように免震装置11上の上部構造の下に構築されることで、水平力に伴って上部構造に作用する転倒モーメントにより免震装置11に引き抜き力が作用することを防止し、免震装置11に主に軸方向圧縮力を作用させる機能を持つ。極厚スラブ12は図5の例では構造体1Aの1層分の高さに相当する3000mmの厚さになっている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は本発明の耐震構造物の概要を示した平面図、(b)は耐震構造物に境界梁(基礎梁)と頂部梁を付加し、基礎梁の下に免震装置を配置した様子を示した立面図、(c)は構造体の下に極厚スラブを付加した様子を示した立面図である。
【図2】本発明の耐震構造物として、三つの平面を3方向に組み合わせた平面形を有する12階建ての集合住宅の例を示した2階(基準階)の平面図である。
【図3】図2に示す構造物の10階及び11階を示した平面図である。
【図4】図2に示す構造物における免震装置の設置位置を示した下部構造の平面図である。
【図5】図2に示す構造物における一方の平面(構造体)の立面図である。
【図6】図2に示す構造物の外観を示した斜視図である。
【図7】(a)は本発明の耐震要素(耐震壁)詳細例を示した平面図、(b)は従来の耐震要素(耐震壁)詳細例を示した平面図である。
【図8】(a)は本発明の耐震要素(耐震壁)及びコアと、基礎梁及び免震装置の位置関係を示した平面図、(b)は(a)の立面図である。
【図9】(a)、(b)は本発明のコアと、極厚スラブ及び免震装置の位置関係を示した平面図である。
【図10】(a)は図1−(a)に示す本発明の構造物に対応した従来の構造物の耐震要素の配置状態を示した平面図、(b)はセットバックした構造体を含む構造物の例を示した立面図である。
【符号の説明】
【0069】
1……平面、1A……構造体
2……平面、2A……構造体
3……平面、3A……構造体
4……耐震要素、41……内蔵柱、41a……主筋、41b……主筋拘束筋
5……耐震要素、6……耐震要素
7……耐震要素、7A、7B……コア、71……耐震要素、72……耐震要素
8……スラブ
9……境界梁
10……頂部梁
11……免震装置
12……極厚スラブ
13……基礎梁(上部構造)
14……基礎梁(下部構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅と長さが相違する複数の平面を複数の方向に組み合わせた平面形を有し、前記各平面内に連層の耐震要素が配置された耐震構造物であり、
前記複数の平面の内、いずれか二つの平面における各耐震要素は各平面の長さ方向に間隔を置き、長さ方向に交差する方向を向いて配列し、
前記二つの平面における各耐震要素は互いに交差する方向を向き、
前記一方の平面と前記他方の平面の内、少なくともいずれか一方の平面における一部の耐震要素が平面上の一部に集約され、コアを構成していることを特徴とするコア集約型耐震構造物。
【請求項2】
前記一部の耐震要素が平面上、複数のコアに集約され、その複数のコアの脚部間に境界梁が架設されていることを特徴とする請求項1に記載のコア集約型耐震構造物。
【請求項3】
前記一部の耐震要素が平面上、複数のコアに集約され、その複数のコアの頂部間に頂部梁が架設されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のコア集約型耐震構造物。
【請求項4】
前記一方の平面の耐震要素と前記他方の平面の耐震要素の内、少なくとも一方の厚さが一定であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のコア集約型耐震構造物。
【請求項5】
前記一方、もしくは他方の平面を含む構造体の一部の層に免震装置が設置され、この免震装置に支持される上部構造の最下部に、前記免震装置への許容値を超える軸方向引張力の作用を抑制する極厚スラブが構築されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のコア集約型耐震構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−267074(P2008−267074A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114531(P2007−114531)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】