説明

コア/シェル型シリコン量子ドット及びそれを用いた生体物質標識剤

【課題】細胞毒性のないコア/シェル型シリコン量子ドットを提供する。また、それを用いた生体物質標識剤を提供する。
【解決手段】シリコンを含有するコア部と酸化ケイ素を含有するシェル層からなるコア/シェル型シリコン量子ドットであって、当該コア/シェル型シリコン量子ドットを一定条件下熱水処理したときに遊離する過酸化水素の濃度が、過マンガン酸カリウム滴定法により100ppm以下であることを特徴とするコア/シェル型シリコン量子ドット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性のないコア/シェル型シリコン量子ドット及びそれを用いた生体物質標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子のうち、電子の波長(10nm程度)より小さい粒子径を有するナノサイズの粒子は、量子サイズ効果として電子の運動に対するサイズ有限性の影響が大きくなってくるために、バルク体とは異なる特異な物性を示すことが知られている。一般に、ナノ・メートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す半導体ナノ粒子は、「量子ドット」とも称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。
【0003】
したがって、量子ドットは、量子サイズ効果によりユニークな光学特性を有することが知られている。具体的には、(1)粒子のサイズを制御することにより、様々な波長,色を発光させることができる。(2)吸収帯が広く、単一波長の励起光で様々なサイズの微粒子を発光させることができる。(3)蛍光スペクトルが良好な対称形である。(4)有機色素に比べて耐久性、耐退色性に優れる、といった特徴を有する。
【0004】
一方、小動物を対象としたin vivo光イメージングが注目されており、小動物の生体内の細胞を外部より、生体を傷つけることなく(非侵襲で)観察するような光学系装置が各メーカから販売され始めている。これは、生体内の観察したい部位に選択的に集まるような標識をつけた蛍光材料を生体内に注入し、外部より励起光を照射し出てきた発光を外部でモニターする方法である。生体物質を標識する手段として、分子標識物質をマーカー物質に結合した生体物質標識剤を用いる方法が検討されている。
【0005】
近年、上記マーカー物質として量子ドットを用いる方法が注目されている。例えば、極性官能基を有する高分子を半導体ナノ粒子の表面に物理的および/または化学的に吸接合した生体物質標識剤が検討されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
量子ドットを生体物質標識剤として応用するにあたり、発光本体である量子ドットをコアに、極性官能基を有する高分子を結合させる足場として、コアを覆うシェルを形成させることが公知である。例えば、特許文献1で実質的にその効果も含めて開示されている量子ドットは、CdSeをコアに、ZnSをシェルとした「コア/シェル型量子ドット」である。
【0007】
しかしながら、例えば、特許文献1で実質的にその効果も含めて開示されている量子ドットは、(CdSe/ZnS型)量子ドットであり、使用されているカドミウム類は、発光半値幅は狭いが、有害重金属であるため、製造プロセスにおいても環境面への悪影響が懸念され、代替材料が求められている。
【0008】
このような状況を鑑み、無毒性・無害性の量子ドットとしてシリコン量子ドットが検討をされている。中でも、より簡便なプロセスとして気相法が注目されている(特許文献2および3参照)。特許文献2においては、シリコン量子ドットの製造方法として、高周波スパッタリング法を用いて、シリコン量子ドットが粒子単位で分散した溶液を得る製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献2には、生体物質標識剤として必要な、分子標識物質を結合させる方法については記載がない。
【0009】
また特許文献3には、熱処理SiOx(x=1.999)のフッ酸中溶解によりシリコン量子ドットを製造する方法、p型シリコンウェハーの陽極化成によりシリコン量子ドットを製造する方法が開示されている。特許文献3によれば、いずれの製造法においてもコアとなるシリコン結晶を製造したのちに、自然酸化によりシリコン結晶からなるコアの周囲に酸化ケイ素からなるシェル層を形成する。ついで分子標識物質を結合させるにあたり、上述のコア/シェル構造のシリコン量子ドットを、過酸化水素水との反応により表面を水酸化させる。水酸化した上でシランカップリング剤など有機分子と反応させ、官能基を導入し、さらに分子標識物質を結合させ、生体標識剤とする方法が開示されている。
【0010】
ところが、公知の方法により本発明者らが作製したシリコン量子ドットからなる生体標識剤を、細胞内にインジェクションしたところ、その細胞は正常に培養せず、細胞毒性があることが懸念された。
【特許文献1】特開2003−329686号公報
【特許文献2】特開2006−70089号公報
【特許文献3】特開2005−172429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、細胞毒性のないコア/シェル型シリコン量子ドットを提供することである。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、従来法で得られるコア/シェル型シリコン量子ドットからなる生体標識材料の細胞毒性は、酸化ケイ素からなるシェル層を水酸化するために用いられる過酸化水素水によることを見出した。酸化ケイ素からなるシェル層を水酸化するために過酸化水素水により処理する工程後に、熱水洗浄することにより残存する過酸化水素水濃度を一定以下とすることで、無毒性な生体物質標識剤を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.シリコンを含有するコア部と酸化ケイ素を含有するシェル層からなるコア/シェル型シリコン量子ドットであって、当該コア/シェル型シリコン量子ドットを一定条件下熱水処理したときに遊離する過酸化水素の濃度が、過マンガン酸カリウム滴定法により100ppm以下であることを特徴とするコア/シェル型シリコン量子ドット。
【0015】
2.前記シェル層が、コア/シェル型シリコン量子ドットの製造工程において、過酸化水素水による水酸化処理とその後に熱水洗浄処理を施されていることを特徴とする前記1に記載のコア/シェル型シリコン量子ドット。
【0016】
3.前記1又は2に記載のコア/シェル型シリコン量子ドットであって、その表面が有機分子により修飾されていることを特徴とするシリコン量子ドット。
【0017】
4.前記1〜3のいずれか一項に記載のコア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【0018】
5.前記分子標識物質が、ヌクレオチド鎖またはタンパク質であることを特徴とする前記4に記載の生体物質標識剤。
【0019】
6.前記コア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする前記4又は5に記載の生体物質標識剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記手段により、細胞毒性のないコア/シェル型シリコン量子ドットを提供することができる。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、シリコンを含有するコア部と酸化ケイ素を含有するシェル層からなるコア/シェル型シリコン量子ドットであって、当該コア/シェル型シリコン量子ドットを一定条件下熱水処理したときに遊離する過酸化水素の濃度が、過マンガン酸カリウム滴定法により100ppm以下であることを特徴とする。この特徴は、請求項1〜6に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0022】
なお、本発明の実施態様としては、前記シェル層が、コア/シェル型シリコン量子ドットの製造工程において、過酸化水素水による水酸化処理とその後に熱水洗浄処理を施されている態様が好ましい。また、当該コア/シェル型シリコン量子ドットの表面が有機分子により修飾されていることも好ましい。
【0023】
本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、有機分子を介して分子標識物質と結合させ生体物質標識剤とすることができる。この場合、分子標識物質は、ヌクレオチド鎖またはタンパク質であることが好ましい。また、当該コア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを結合させる有機分子は、ビオチン及びアビジンであることが好ましい。
【0024】
以下、本発明とその構成要素、および発明を実施するための最良の形態について詳細な説明をする。
【0025】
〔コア/シェル型シリコン量子ドットの製造方法〕
本発明のコア/シェル型シリコン量子ドット(以下において、適宜、当該シリコン量子ドットのコア部を単に「シリコン量子ドット」という。)の製造方法においては、従来公知の種々の方法を利用することができるが、形成するシリコン量子ドットの粒子サイズを容易に制御することのできる高周波スパッタリング法と、シリコン量子ドットの形態を膜形態から粒子形態へ変えるための酸処理と攪拌処理をする工程を含む製造方法を採用することが好ましい。この製造方法の場合、シリコン量子ドットの形態を、膜形態から粒子形態に変え、溶液中に分散させて蛍光発光させる点に特徴がある。
【0026】
具体的には、本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、高周波スパッタリング法により製造されたコア/シェル型シリコン量子ドットであって、下記製造工程を経て製造されたことを特徴とする。
【0027】
工程(1):ターゲット材料としてシリコンとシリカを用い、高周波スパッタリング法により基板上にアモルファス酸化ケイ素薄膜を作製する。
【0028】
工程(2):上記アモルファス酸化ケイ素薄膜に熱処理を施し、アモルファス酸化ケイ素薄膜内にシリコン量子ドット(コア部)を形成する。
【0029】
工程(3):上記熱処理後アモルファス酸化ケイ素薄膜に、フッ酸による処理を施して、シリコン量子ドットを露出させる。
【0030】
工程(6):上記シリコン量子ドットが露出した基板を溶媒中に浸漬させることで、シリコン量子ドットを基板より離散させて、シリコン量子ドットが分散した溶液を得る。
【0031】
工程(7):シリコン量子ドットの表面を酸素雰囲気中で自然酸化、または加熱して熱酸化し、シリコン量子ドットからなるコアの周囲に酸化ケイ素からなるシェル層を形成する。
【0032】
工程(8):上記シリコン量子ドットを過酸化水素水中で反応させ、結晶表面を水酸化させる。水酸化させることにより、シランカップリング剤などとの反応が容易に進行するようにできる。
【0033】
工程(9):上記水酸化したシリコン量子ドットを熱水により洗浄する。
【0034】
なお、本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、以下の工程を経て、分子標識物質と有機分子を介して結合させることにより生体物質標識剤とすることができる。
【0035】
工程(10):上記熱水洗浄したシリコン量子ドットの水酸基と有機分子と結合させる。
【0036】
工程(11):有機分子と反応させたシリコン量子ドットを分子標識物質と結合させ、生体物質標識剤を得る。なお、前記有機分子が、ビオチン及びアビジンであることが好ましい。また、生体物質標識剤において、前記分子標識物質がヌクレオチド鎖またはタンパク質であることが好ましい。
【0037】
なお、本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、シリコンを含有するコア部と酸化ケイ素を含有するシェル層からなるコア/シェル型シリコン量子ドットでことを特徴とするが、発光強度を高めるために、コア部及びシェル層のうち少なくともいずれか一方にドーパントとして、Be、Ga、Mg、Ge等の原子を微量含有させることも好ましい。
【0038】
本発明のコア/シェル型シリコン量子ドットは、平均粒径が2〜10nmであり、かつ200〜400nmの範囲内の波長の紫外〜可視光により励起されたときに、400〜800nmの範囲内の波長の可視光の発光を示す態様のシリコン量子ドットであることが好ましい。
【0039】
本発明において、コア/シェル型シリコン量子ドットの平均粒径は本来3次元で求める必要があるが、微粒子過ぎるため難しく、現実には二次元画像で評価せざるを得ないため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡写真の撮影シーンを変えて数多く撮影し平均化することで求めることが好ましい。従って、本発明において、当該平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とした。TEMで撮影するクラスター粒子数としては100個以上が好ましく、1000個の粒子を撮影するのが更に好ましい。本願においては、1000個の粒子の算術平均を平均粒径とした。
【0040】
〈高周波スパッタリング法〉
本発明に係る高周波スパッタリング法は、シリコン量子ドットの製造初期の段階で、発光色に直接寄与する粒子サイズを自在に制御することができるので、本発明では、様々な発光色を容易に実現することが可能である。
【0041】
高周波スパッタリング装置は、側面下部にアルゴンガス導入口と排気口を備える真空チャンバー、真空チャンバーの上面に絶縁材料を介して取り付けられ、冷却管から導入、排出される冷却水で冷却される基板ホルダー、及び、真空チャンバーの下面に絶縁材料を介して取り付けられ、冷却管から導入、排出される冷却水で冷却される陰極シールドを備える高周波電極から構成されている。
【0042】
そして、上記装置において、アルゴンガスを真空チャンバー内にアルゴンガス導入口から導入し、高周波コントローラによりアルゴンガスをイオン化し、イオン化されたアルゴンイオンを、高周波電極上のターゲット材料であるシリコンチップと石英ガラスへ衝突させ、ターゲット材料から放出された原子や分子を基板ホルダーに保持した基板上に堆積させ、アモルファス酸化ケイ素薄膜を形成する。
【0043】
シリコン量子ドットの粒子サイズは、ターゲット材料を構成するシリコンチップと石英ガラスの面積比を変化させることで制御することができる。この面積比は、通常、1〜50%とするが、好ましくは5〜30%。さらに好ましくは10〜15%である。
次に、上記アモルファス酸化ケイ素薄膜を不活性ガス(アルゴン等)の雰囲気中で熱処理して、該薄膜内に、所定粒子サイズのシリコン量子ドットを形成する。
【0044】
上記熱処理の際、熱処理温度は900〜1200℃とするが、好ましくは、1000〜1100℃である。また、熱処理時間は15〜100分であるが、好ましくは、30〜80分、さらに好ましくは、50〜70分である。
【0045】
また、スパッタリング条件である高周波電力やガス圧(作製中の圧力であり、本製造プロセスではアルゴンガスの圧力)を変化させても、粒子サイズを制御することが可能である。このとき、高周波電力は10〜500Wの範囲内で変化させ、ガス圧は、1.3×10-2〜1.3×10Pa(1×10-4〜1×10-1torr)の範囲内で変化させる。
【0046】
次に、シリコン量子ドットが形成された酸化ケイ素薄膜を載置する基板をアクリル板に貼り付け、フッ酸水溶液を収容する容器に対し、上記酸化ケイ素薄膜を下にして装着する。
【0047】
このとき,フッ酸水溶液の濃度は1〜50%とする。好ましくは10〜40%であり、さらに好ましくは、20〜30%である。
【0048】
そして、上記フッ酸水溶液を収容する容器を、ヒーターを備え、純水を収容する恒温水槽内に設置し、フッ酸水溶液処理を行う。
【0049】
上記処理の際、処理温度は10〜70℃である。好ましくは、30〜50℃であり、さらに好ましくは、40℃である。また、処理時間は0.5〜25分である。好ましくは、1〜20分である、さらに好ましくは、8〜15分である。
【0050】
上記フッ酸水溶液処理においては、容器内の酸水溶液から蒸発したフッ酸が薄膜の表面に付着し、酸化ケイ素薄膜中の酸化ケイ素部分を表面から徐々にエッチングしていく。その結果、基板上には、多数のシリコン量子ドットが凝集状態で露出する。
【0051】
次に、シリコン量子ドットが凝集露出した基板を、エタノールを収容した容器に浸漬する。容器内に磁気撹拌子をいれ、スターラーにて撹拌する又は容器ごと超音波洗浄器に載置して超音波照射を行う。この撹拌処理により、基板上に凝集状態で露出していたシリコン量子ドットは、基板から離散し、エタノール中に分散する。
【0052】
攪拌処理の処理時間は、通常、10〜12000秒とするが、好ましくは、30〜900秒であり、さらに好ましくは、60〜600秒である。
【0053】
次に、エタノール中分散したシリコン量子ドットを酸素雰囲気において自然酸化、または加熱して熱酸化させる。酸化処理においては、シリコン量子ドットからなるコアの周囲に酸化ケイ素からなるシェル層を形成する。
【0054】
上記処理の際、処理温度は20〜50℃である。好ましくは、25〜40℃であり、さらに好ましくは、25〜35℃である。また、処理時間は2〜24時間である。好ましくは、5〜18時間である、さらに好ましくは、8〜14時間である。
【0055】
次に、上述のシリコン量子ドットを過酸化水素水と反応させる、結晶表面を水酸化させる。
【0056】
上記反応の際、処理温度は15〜50℃である。好ましくは、20〜40℃であり、さらに好ましくは、25〜35℃である。また処理時間は1〜60分である。好ましくは、5〜40分である、さらに好ましくは、10〜30分である。このとき過酸化水素水の濃度は、1〜50%とする。好ましくは10〜45%であり、さらに好ましくは、20〜35%である。
【0057】
次に、上記水酸化したシリコン量子ドットを熱水により洗浄する。通常、10〜600秒とするが、好ましくは、20〜300秒であり、さらに好ましくは、30〜240秒である。処理温度は60〜90℃である。好ましくは、70〜85℃であり、さらに好ましくは、75〜80℃である。
【0058】
(シリコン量子ドットに残存する過酸化水素の定量方法)
シリコン量子ドットに残存する過酸化水素を評価するために、過酸化水素濃度を、以下の手順で過マンガン酸カリウム滴定により測定した。
【0059】
〈0.05M−シュウ酸ナトリウム一次標準溶液の調製〉
(1)乾燥した空の秤量瓶の質量を分析天秤で測定する。
(2)秤量瓶に上皿天秤(電子天秤)を使って、乾燥したシュウ酸ナトリウムを約1.7g採取する。
(3)分析天秤で、シュウ酸案ナトリウムを入れた秤量瓶の質量を精秤する。
(4)あらかじめ、100mlビーカーに純水を約60ml入れておき、その中に採取したシュウ酸ナトリウムを洗い落とし、攪拌して溶解する。純水で秤量瓶をよくすすぎ、秤量瓶中にシュウ酸ナトリウムが残らないようにする。
(5)ロートとロート台を用い、250mlメスフラスコに溶解したシュウ酸ナトリウム溶液を入れる。純水でビーカーやガラス棒、ロートをよくすすぎ、シュウ酸ナトリウムを全てメスフラスコへ洗い入れる。
(6)メスフラスコの8分目程度まで純水を加え、良くかくはんする。さらに純水を加え、標線の少し下まで入れたら、後は駒込ピペットを用い、液面の最下部(メニスカス)が標線に重なるよう純水を加える。
(7)メスフラスコに共栓をし、栓を手で押さえ、メスフラスコを逆さにして、よく混合し、溶液の濃度を均一にする。
(8)この0.05M−シュウ酸ナトリウム一次標準溶液の力価を計算する。
【0060】
〈0.02M−過マンガン酸カリウム標準溶液の標定〉
(1)褐色ビュレットに、0.02M−KMnO4標準溶液を入れ、ビュレット台にセットする。
(2)0.05M−シュウ酸ナトリウム一次標準溶液10mlを、ホールピペットを用いコニカルビーカーに正確にとる。
(3)メスシリンダーで純水を約100ml加える。
(4)H2SO4(1:4)溶液を約10ml加える。
(5)コニカルビーカーを湯せんなべに入れ、液温を温度計で確認しながら70〜80℃に加温する。
(6)0.02M−KMnO4溶液で滴定をする。滴定中液温が60℃を下らないよう注意する。終点は、淡赤色が少なくとも15秒間つづくときとする。
(7)2〜6の操作を3回繰り返す。
(8)0.02M−KMnO4標準溶液の力価を求める。
【0061】
〈試料溶液の滴定〉
(1)被検試料としてのコア/シェル型シリコン量子ドットを純水10mlあたりに1×10-8〜1×10-1g、好ましくは1×10-7〜1×10-2g、さらに好ましくは1×10-6〜1×10-4gの条件で分散させる。分散させた試料5mlをホールピペットで100mlメスフラスコに正確に採取する。試料溶液5mlを、ホールピペットを用いて正確にコニカルビーカーにとる。
(2)メスシリンダーで純水を約100ml加える。
(3)H2SO4(1:4)溶液を約20ml加える。
(4)ビュレットの0.02M−KMnO4標準溶液で滴定を行う。
(5)1〜3の操作を3回繰り返す。
(6)滴定平均値から、試料中の過酸化水素量を計算する。
【0062】
なお、本発明においては、被検試料としてのコア/シェル型シリコン量子ドット1×10-5gを純水10mlに分散させ、80℃にて12時間加熱し、得られた溶液について、上記過マンガン酸カリウム滴定法により過酸化水素濃度を測定したときに、過酸化水素濃度が100ppm以下であることを要する。なお、当該濃度値が小さいほど、毒性が少なく、好ましい。
【0063】
(有機分子修飾)
本発明に係る生体物質標識剤は、有機分子修飾されたコア/シェル型シリコン量子ドットと、分子標識物質とが有機分子により結合されている。当該有機分子としてはコア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビンおよびカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0064】
当該有機分子としては、メルカプト基(チオール基)、カルボキシル基、アミノ基等を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオール、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどがあげられる。
【0065】
(生体物質標識剤)
本発明に係る生体物質標識剤は、上述したコア/シェル型シリコン量子ドットと、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0066】
本発明に係る生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0067】
当該分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0068】
具体的には、コア/シェル型シリコン量子ドットをメルカプトウンデカン酸で処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合当該ナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさらに分子標識物質と結合することにより生体物質標識剤となる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
〈実施例1〉
(スパッタリングによる成膜)
真空チャンバー内にアルゴンガスを導入し、高周波コントローラによりイオン化されたアルゴンイオンをシリコンチップと石英ガラスからなるターゲット材料に衝突させ、これから放出された原子および分子を半導体基板上に体積し、シリコン原子と酸素原子が混ざった薄膜を形成した。スパッタリング条件は、プラズマ出力100W,アルゴン圧力1Paとし、このときの膜厚は3ミクロンであった。シリコンチップと石英チップの比率をかえた試料を作製し、このときの、シリコンチップの面積%を表1にを示す。
【0071】
(熱処理)
得られた薄膜を、アルゴン雰囲気中において、1100℃まで急速に昇温し60分間熱処理を行った。
【0072】
(フッ酸処理)
得られたシリコン量子ドット含有薄膜を40℃のフッ酸蒸気に10分間晒すことで、シリカ溶解処理を行い、シリコン量子ドット露出させた。
【0073】
(発光スペクトル)
得られたシリコン量子ドット含有薄膜について、磁気撹拌子を備えたビーカーにエタノールを入れたところに浸漬し、600秒撹拌処理を行うことで、シリコン量子ドットをエタノール分散溶液として得た。波長280nmの励起光を照射して発生する蛍光スペクトルを日立分光光度計F7000を用いて測定した。発光スペクトルの、極大発光波長を表1に示す。
【0074】
(シリコン量子ドットの溶液への分散)
上記シリコン量子ドットが露出した基板をエタノール中に浸漬させ、超音波照射を120秒することで、シリコン量子ドットを基板より離散させて、シリコン量子ドットが分散した溶液を得た。
【0075】
(酸化処理)
上記シリコン量子ドットが分散した溶液に、25℃にて空気を8時間通じることで、表面に酸化ケイ素からなるシェルを形成させた。
【0076】
(過酸化水素水による水酸化処理)
上記酸化ケイ素からなるシェルをもつコア/シェル型シリコン量子ドットを、30%過酸化水素水に10分間分散させ、表面を水酸化させた。
【0077】
(熱水洗浄処理)
上記表面を水酸化処理したコア/シェル型シリコン量子ドットを、80℃の熱水で60秒洗浄処理を行った。
【0078】
〈過酸化水素濃度の測定〉
合成したコア/シェル型シリコン量子ドット1×10-5gを純水10mlに分散させ、80℃にて12時間加熱した。得られた溶液について前記の過マンガン酸カリウム滴定法により過酸化水素濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
〈毒性評価法および細胞形態観察〉
上記熱水洗浄処理までの各種処理を施したコア/シェル型シリコン量子ドットのE.coli細胞に対する毒性について振盪フラスコ実験で試験した。使用したE.coli菌株は、BL21(DE3)[pUC18]である。
【0080】
初めにLB培地で種培養を行った。LB培地の組成は下記のとおり。10gNaCl、10gトリプトン、5g酵母抽出物。E.Coli細胞を、500mlの振盪フラスコに入れた100mlのLB培地中で、37℃、220rpmで一晩培養した。その後、発酵培養用のMR培地が入れられた500ml振盪フラスコに種培養をピペットで加えた。各フラスコには15g/lのグルコースと10%(v/v)の播種された種培養を含む100mlのMR培地が入れられている。MR培地の組成は次のとおり。13.5gKH2PO4、4.0g(NH42HPO4、0.7gMgSO4・7H2O、0.85gクエン酸、10.0mlの10g/l FeSO4・7H2O、10.0mlの微量金属溶液(TE)、及び1.0mlの20g/l CaCl2・2H2O。各フラスコには更に以下の濃度で異なる量のコア/シェル型シリコン量子ドットが加えられている。すなわち全部で4本のフラスコに対して0%(対照)、0.5%、1%、2%である。4本のフラスコを用いて37℃、220rpmで発酵培養を行った。
【0081】
分光光度計(Hewlett Packard8452A)で600nmの光学密度を測定し、細胞増殖の指標とした。8時間後の光学密度を測定し、対照試料のそれと同等にある場合、細胞増殖を阻害しない、つまり毒性なし。減少している場合を毒性ありと判定する。結果を表1に示す。
【0082】
また8時間後にフラスコより採取した培養細胞について光学顕微鏡によりその形態を観察し、対照試料の細胞と、コア/シェル型シリコン量子ドット2%添加の試料の細胞とで比較し、形態変化の有無を目視にて判定した。対照試料との細胞とくらべ、形態が大きく変化しているものを異常。変化のわずかのものを良好、変化がないものを正常と判定した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から本発明の生体物質標識剤に用いられるシリコン量子ドットは、所望の蛍光発光を示すのはもちろん、過酸化水素濃度が十分低く、細胞毒性を示さないことが分かる。
【0085】
比較例では、過酸化水素濃度が高く、細胞毒性を示したとわかる。このことから、本発明のコア/シェル型シリコンナノ粒子は、生体物質標識剤に好適に使用できると言える。
【0086】
〈実施例2〉
(有機分子の修飾)
得られたシリコン量子ドット10-5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することでシリコン量子ドットの表面をカルボキシル基で修飾した。
【0087】
〈分子標識物質の結合〉
上記メルカプトウンデカン酸修飾シリコン量子ドット1.0×10-5mol/lの水分散液にアビジン25mgを添加し40℃で10分間攪拌を行い、アビジンコンジュゲートナノ粒子を作製した。
【0088】
得られたアビジンコンジュゲートナノ粒子溶液にビオチン化された塩基配列が既知であるオリゴヌクレオチドを混合攪拌し、ナノ粒子で標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドを作製した。
【0089】
さまざまな塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを固定化したDNAチップ上に上記の標識(ラベリング)したオリゴヌクレオチドを滴下・洗浄したところ、標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチドのスポットのみが粒子の粒径に依存して異なる色の発光を示すことを確認した。
【0090】
このことより、ナノ粒子でのオリゴヌクレオチドの標識(ラベリング)を確認することができた。すなわち、この結果により、本発明のシリコン量子ドットを用いた生体物質標識剤を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含有するコア部と酸化ケイ素を含有するシェル層からなるコア/シェル型シリコン量子ドットであって、当該コア/シェル型シリコン量子ドットを一定条件下熱水処理したときに遊離する過酸化水素の濃度が、過マンガン酸カリウム滴定法により100ppm以下であることを特徴とするコア/シェル型シリコン量子ドット。
【請求項2】
前記シェル層が、コア/シェル型シリコン量子ドットの製造工程において、過酸化水素水による水酸化処理とその後に熱水洗浄処理を施されていることを特徴とする請求項1に記載のコア/シェル型シリコン量子ドット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコア/シェル型シリコン量子ドットであって、その表面が有機分子により修飾されていることを特徴とするコア/シェル型シリコン量子ドット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のコア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【請求項5】
前記分子標識物質が、ヌクレオチド鎖またはタンパク質であることを特徴とする請求項4に記載の生体物質標識剤。
【請求項6】
前記コア/シェル型シリコン量子ドットと分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の生体物質標識剤。

【公開番号】特開2009−124067(P2009−124067A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299030(P2007−299030)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】