説明

コア/シェル構造を有するマイクロスフェア

開示されているのは、コア/シェル構造を有すると共に球状の形状を有するマイクロスフェアであって、(a)コアが固体状のアリピプラゾールを含有しており、(b)シェルがコアの表面の全体又は大部分を被覆しており、該シェルが生体分解性ポリマーを含有しているマイクロスフェア、その製造方法、該マイクロスフェアを含有する水性懸濁注射剤等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾールを含有するマイクロスフェア、その製造方法及び該マイクロスフェアを含有する水性懸濁注射剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アリピプラゾール等の薬物の制御放出のために、薬物と基材ポリマーとからなるマイクロスフェアを利用することが行われている。従来から知られている様々のマイクロスフェアは、ポリマー等の基材マトリックス中に薬物がほぼ均一に分布しているマトリックス型である。
【0003】
例えば、基材と薬物を共に溶媒に溶解し、そのまま乾燥させ、圧縮・粉砕する方法によれば、基材と薬物のマトリックス型のマイクロ粒子が得られる(特許文献1)。しかし、このようなマトリックス型のマイクロスフェアでは、薬物/基材の重量比を、例えば1以上(すなわち、薬物含量50重量%以上)といった高含量とすると、マイクロスフェアの大部分が薬物となるので、マイクロスフェアの表面にも多くの薬物が存在することになる。一般に、マイクロスフェアの表面上に多くの薬物が存在すると、基材による溶出の制御ができないと考えられている。
【0004】
また、ジクロロメタン等の有機溶媒に薬物と基材を溶解し、水系でO/W型エマルションを調製し、ジクロロメタンを揮発させる方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2004/0247870 A1
【特許文献2】国際公開 WO94/10982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の研究によると、薬物を高含量にして、特にアリピプラゾールを高含量にして特許文献2に記載の方法を採用すると、エマルション中で薬物結晶の成長が起こって、球状にならずに薬物結晶由来の(針状やひし形等の)形状となってしまい、球状で且つコア/シェル構造を有するマイクロスフェアが得られない(後述の比較例1及び2参照)。
【0007】
注射剤の製造における充填時の流動性や注射剤の投与時のシリンジ通過性(通針性)、筋肉内の刺激等を考慮すると、マイクロスフェアは、球状であることが望ましい。
【0008】
さらに、アリピプラゾールは高用量投与する必要があるので、懸濁注射剤として投与する際の粉体量が多くなってしまう。注射剤に含まれる粉体量が多くなると、懸濁液の粘度が上がり投与時の通針性が悪くなるといった問題が生じる。従って、マイクロスフェア中のポリマー等の基材の割合をできるだけ少なくし、活性成分であるアリピプラゾールを多く含むことが望まれる。
【0009】
本発明は、アリピプラゾールを高含量で含むマイクロスフェア、その製造方法及び該マイクロスフェアを含有する水性懸濁注射剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0011】
(a)有機溶媒中にアリピプラゾールと生体適合性ポリマーを溶解させ、該溶液と水とを、該有機溶媒の蒸発が抑制される条件下、乳化剤の存在下又は不存在下で混合してエマルションを形成し、エマルション中から該有機溶媒を、該エマルション中でアリピプラゾールが球状の粒子として析出する条件下で、少なくとも部分的に除去すると、驚くべきことに、該生体適合性ポリマーがアリピプラゾール粒子の表面の全体又は大部分を包囲したコア/シェル構造を有する球状のマイクロスフェアが得られる。
【0012】
(b)こうして得られるコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、アリピプラゾールを高含量で含有している。
【0013】
(c)このアリピプラゾールを高含量で含むコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、優れた徐放性能を有する。
【0014】
本発明は、この様な知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、下記項1〜20に示すように、アリピプラゾールを高含量で含むコア/シェル構造を有するマイクロスフェア、その製造方法及び該マイクロスフェアを含有する水性懸濁注射剤等を提供する。
【0015】
項1. コア/シェル構造を有すると共に球状の形状を有するマイクロスフェアであって、
(a)該コアが固体状態のアリピプラゾールを含有しており、
(b)該シェルが該コアの表面の全体又は大部分を被覆しており、該シェルが生体分解性ポリマーを含有しているマイクロスフェア。
【0016】
項2. アリピプラゾールの含有率が、マイクロスフェア全体量の55〜95重量%である項1に記載のマイクロスフェア。
【0017】
項3. 平均粒子径が、20〜150μmである項1又は2に記載のマイクロスフェア。
【0018】
項4. シェルの平均厚さが、0.5〜20μmである項1〜3のいずれかに記載のマイクロスフェア。
【0019】
項5. 生体分解性ポリマーが、ポリ乳酸及び乳酸−グリコール酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である項1〜4のいずれかに記載のマイクロスフェア。
【0020】
項6. ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体の分子量が、5000〜200000である項5に記載のマイクロスフェア。
【0021】
項7. 項1〜6のいずれかに記載のマイクロスフェア、そのためのビヒクル、および注射用水を含有する水性懸濁注射剤。
【0022】
項8. 注射されると少なくとも1ヶ月間アリピプラゾールを放出する項7に記載の水性懸濁注射剤。
【0023】
項9. 前記ビヒクルが、
(1)少なくとも1種の懸濁化剤、
(2)少なくとも1種の等張化剤、及び
(3)必要に応じて少なくとも1種のpH調整剤
を含む項7又は8に記載の水性懸濁注射剤。
【0024】
項10. コア/シェル構造を有すると共に球状の形状を有するマイクロスフェア(特に、項1に記載のマイクロスフェア)の製造方法であって、
(i)アリピプラゾール、生体分解性ポリマー及び有機溶媒を含む溶液を調製する工程、
(ii)上記工程(i)で得られた溶液を、上記有機溶媒の蒸発を抑制する条件下で、水と混合してO/W型エマルションを調製する工程、及び
(iii)上記O/W型エマルションからアリピプラゾールが球状の粒子として析出するのに有効な条件下で有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程
を備えていることを特徴とする製造方法。
【0025】
項11. 前記工程(i)で使用する有機溶媒が、水に非混和性の有機溶媒である項10に記載の製造方法。
【0026】
項12. 前記工程(ii)で使用する水が乳化剤を含有する項10又は11に記載の製造方法。
【0027】
項13. 工程(ii)が、(a)工程(i)で得られた溶液を、乳化剤の存在下又は不存在下で、水中に分散してO/W型エマルションを形成する段階、及び、(b)上記段階(a)で得られたO/W型エマルションを、乳化剤の存在下又は不存在下で、水中に分散させてO/W型エマルションを形成する段階を含む項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【0028】
項14. 工程(ii)において、有機溶媒の蒸発を抑制するのに有効な低温条件でO/W型エマルションを製造し、工程(iii)において、工程(ii)で得られた低温のエマルションを、室温の開放系において撹拌して有機溶媒を揮散させる項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
【0029】
項15. 治療が必要な患者へ項7〜9のいずれかに記載の水性懸濁注射剤を投与することを包含する、統合失調症の治療方法。
【0030】
項16. 統合失調症の治療薬の製造のための項7〜9のいずれかに記載の水性懸濁注射剤の使用。
【0031】
項17. 統合失調症の治療用の項7〜9のいずれかに記載の水性懸濁注射剤。
【0032】
項18. 治療が必要な患者へ項1〜6のいずれかに記載のマイクロスフェアを投与することを包含する、統合失調症の治療方法。
【0033】
項19. 統合失調症の治療薬の製造のための項1〜6のいずれかに記載のマイクロスフェアの使用。
【0034】
項20. 統合失調症の治療用の項1〜6のいずれかに記載のマイクロスフェア。
【発明の効果】
【0035】
(a)本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、アリピプラゾールを含有するコアの表面の全体又は大部分が生体分解性ポリマーからなるシェルで被覆されているため、優れた徐放性能を有する。
【0036】
(b)また、該マイクロスフェアは、球状なので、水性懸濁注射剤の製造における充填時の流動性や該水性懸濁注射剤の投与時のシリンジ通過性(通針性)に優れている。
【0037】
(c)さらに、該マイクロスフェアは、アリピプラゾールを高含量で含有するので、注射剤を投与する際、注射剤中の粉体(マイクロスフェア)量が少なくても高用量のアリピプラゾールを投与することができる。
【0038】
(d)このマイクロスフェアは球状であるため、注射剤として使用する場合に懸濁後のケーキング(粒子が沈降し、沈降層が堅く固まること)が起こりにくい。そのため、注射剤中に分散した後、沈降しても再分散が容易である。
【0039】
(e)本発明のマイクロスフェアの製造時、アリピプラゾール及び生体分解性ポリマーを有機溶媒に一度溶解するため、ろ過滅菌可能であり、無菌原薬を必要とせず製造において大きな利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例5で得られたマイクロスフェアの電子顕微鏡像である。
【図2】実施例6で得られたマイクロスフェアの電子顕微鏡像である。
【図3】参考例1で得られたアリピプラゾール球状粒子の電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2で得られたマイクロスフェアを切断した断面全体の電子顕微鏡像であり、2つの三角形(▲)の間の層がシェルである。
【図5】実施例2で得られたマイクロスフェアを切断した断面の一部を拡大した電子顕微鏡像を示し、2つの三角形(▲)の間の層がシェルである。
【図6】実施例5で得られたマイクロスフェアを切断した断面全体の電子顕微鏡像であり、2つの三角形(▲)の間の層がシェルである。
【図7】実施例5で得られたマイクロスフェアを切断した断面の一部を拡大した電子顕微鏡像であり、2つの三角形(▲)の間の層がシェルである。
【図8】実施例5で得られたマイクロスフェアを切断し酢酸水溶液(20%)に浸潤させ洗浄後乾燥させた断面の電子顕微鏡像である。
【図9】実施例5及び実施例6で得られたマイクロスフェアの溶出試験結果を示すグラフである。
【図10】試験例2の表1及び表2の結果を示すグラフである。
【図11】比較例1で得られた粒子の電子顕微鏡像である。
【図12】比較例2で得られた粒子の電子顕微鏡像である。
【図13】比較例2で得られた粒子を切断した断面全体の電子顕微鏡像である。
【図14】比較例2で得られた粒子を切断した断面の一部を拡大した電子顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
コア/シェル構造を有するマイクロスフェア
本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、後述の実施例で得られたマイクロスフェアの電子顕微鏡像(図1及び2)に示されるように球状である。
【0042】
また、後述の実施例で得られたマイクロスフェアの電子顕微鏡像(図4〜7)に示されるように、本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、基本的には、中心核を構成するコアと、コアの表面の全体又は大部分を被覆するシェルとで構成される。
【0043】
マイクロスフェアの平均粒子径は、20〜150μm程度、好ましくは30〜100μm程度である。
【0044】
なお、本明細書において、マイクロスフェアの平均粒子径は、後述の実施例の欄に記載の方法で測定したものである。
【0045】
本発明のマイクロスフェアは、優れた徐放性能を有する。
【0046】
コア
コアは、基本的には固体状のアリピプラゾールを含んでおり、球状の形状を有しており、本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアの中心核を形成している(図4〜7参照)。
【0047】
コアは、通常は、固体状のアリピプラゾールから実質的になるものであるが、これに加えて、後述の生体分解性ポリマーを含有していてもよい。従って、該コアは、基本的にはアリピプラゾール又はアリピプラゾールと生体分解性ポリマーとの混合物から実質的になる。また、後述のように、製造時に乳化剤を用いた場合は、コアには、更に該乳化剤が含まれることもある。
【0048】
マイクロスフェア全量に対して、コアに含まれるアリピプラゾールの含有率は極めて高く、一般には、マイクロスフェア全量に対して55〜95重量%程度、好ましくは60〜90重量%程度、より好ましくは60〜80重量%程度である。
【0049】
なお、マイクロスフェア全体中のアリピプラゾールの含有量は、後述の実施例の欄に記載の方法で測定したものである。
【0050】
コアに含まれる固体状のアリピプラゾールは、固体であればよく、その形態は特に限定されないが、一般には非晶質の固体(特に、球状の非晶質固体)である。場合によっては、多数の微粒子(一次粒子)の集合物、結晶等の形態で存在していてもよく、これらの形態の場合も、球状の形状を有することが好ましい。
【0051】
シェル
シェルは、基本的には、上記コアの表面の全体を被覆するものである(図4〜7参照)。しかしながら、場合によっては、シェルは、コアの表面の大部分、例えばコアの表面の80〜90%程度を被覆しており、コアが部分的に露出していてもよい。
【0052】
シェルは、基本的には生体分解性ポリマーから実質的になる。シェルには、更に上記アリピプラゾールが少量含有されていてもよい。従って、シェルは、基本的には生体分解性ポリマー又はアリピプラゾールと生体分解性ポリマーとの混合物から実質的になる。また、後述のように、製造時に乳化剤を用いた場合は、さらに該乳化剤が含まれることもある。
【0053】
しかし、典型的には、本発明のマイクロスフェアは、シェルはほとんどが生体分解性ポリマーであり(即ち、シェルは生体分解性ポリマーから実質的になっており)、コア部のほとんどがアリピプラゾールである(即ち、コアはアリピプラゾールから実質的になる)。
【0054】
シェルの平均厚さは、コアに含まれるアリピプラゾールがマイクロスフェア全量に対して55〜95重量%程度、好ましくは60〜90重量%程度、より好ましくは60〜80重量%となるように、かつ、所望の徐放性が得られる程度となるように適宜調節すればよく、例えば、0.5〜20μm程度、好ましくは1〜10μm程度、より好ましくは1〜5μm程度である。図4〜図7において、2つの三角形(▲)の間の距離がシェルの厚みを示している。なお、シェルの平均厚さは、後述の実施例の欄に記載の方法で測定した値である。
【0055】
シェルを形成するのに用いる生体分解性ポリマーとしては、生体内で徐々に分解されて所望の徐放性能が得られるものであればよく、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、乳酸−アスパラギン酸共重合体、乳酸−ヒドロキシカプロン酸共重合体、グリコール酸−ヒドロキシカプロン酸共重合体、ポリプロピオラクトン、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ(p‐ジオキサノン)、ポリ(a-シアノアクリル酸エステル)、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)、ポリトリメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリγ-ベンジル-L-グルタミン酸、ポリL-アラニン及びポリアルギン酸、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリアミノ酸、ポリアルキレンアルキレート、ポリエチレングリコール、ポリウレタン等の単独重合体及びこれらの共重合体が挙げられる。これらの中でもポリ乳酸及び乳酸/グリコール酸共重合体が好ましい。シェルを形成するこれらの生体分解性ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体を使用する場合、その分子量は、広い範囲から適宜選択すればよいが、例えば、5000〜200000程度、好ましくは、20000〜150000程度、より好ましくは、50000〜120000程度である。
【0057】
ここで、上記分子量は、ポリスチレンを基準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量をいう。
【0058】
また、上記乳酸−グリコール酸共重合体における乳酸:グリコール酸(lactide:glycolide)の比率は、特に限定されず広い範囲から適宜選択すればよいが、一般には乳酸:グリコール酸(lactide:glycolide)のモル比は、99:1〜50:50程度、好ましくは99:1〜75:25程度である。
【0059】
ポリ乳酸は、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリ−DL−乳酸のいずれでもよく、好ましくはポリ−DL−乳酸である。また、乳酸−グリコール酸共重合体は、D−乳酸−グリコール酸共重合体、L−乳酸−グリコール酸共重合体、DL−乳酸−グリコール酸共重合体のいずれでもよく、好ましくはDL−乳酸−グリコール酸共重合体である。
【0060】
また、必要であれば、シェルには、上記生体分解性ポリマーに加えて、非分解性の生体適合性ポリマーを含有してもよい。
【0061】
製造方法
本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアの製造方法は、
(i)アリピプラゾール、生体分解性ポリマー及び有機溶媒を含む溶液を調製する工程、
(ii)上記工程(i)で得られた溶液を、上記有機溶媒の蒸発を抑制する条件下で、水と混合して水中油型(O/W型)エマルションを調製する工程、及び
(iii)上記O/W型エマルションからアリピプラゾールの球状粒子が析出するのに有効な条件下で有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程
を備える。
【0062】
工程(i)
まず、有機溶媒中に、アリピプラゾール及び生体分解性ポリマーを溶解させ、均一な溶液を得る。
【0063】
アリピプラゾールの結晶形は、特に限定されず、例えば、一水和物形態(アリピプラゾール水和物A)又は無水結晶B、無水結晶C、無水結晶D、無水結晶E、無水結晶F、無水結晶G等の形態で存在することが知られている多数の無水形態が使用できる。また、これらの結晶形は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
該有機溶媒は、アリピプラゾール及び生体分解性ポリマーを溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;エチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪酸エステル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド等が挙げられ、これらの混合物等も用いられる。これらの中でも、水に非混和性の有機溶媒、特にジクロロメタンが好ましい。
【0065】
アリピプラゾールの濃度は、該有機溶媒に対して、通常、0.1〜20%(W/V)程度、好ましくは1〜10%(W/V)程度、より好ましくは3〜7%(W/V)程度である。アリピプラゾールの濃度の単位である%(W/V)は、有機溶媒の容量に対するアリピプラゾールの重量のパーセントを示す。例えば、有機溶媒100ml中にアリピプラゾールが1gであれば、アリピプラゾールの濃度は1%(W/V)となる。
【0066】
生体分解性ポリマーの濃度は、該有機溶媒に対して、通常、0.1〜10%(W/V)程度、好ましくは0.5〜5%(W/V)程度、より好ましくは1〜3%(W/V)程度である。
【0067】
生体分解性ポリマーの使用量は、コアに含まれるアリピプラゾールがマイクロスフェア全量に対して55〜95重量%程度、好ましくは60〜90重量%程度、より好ましくは60〜80重量%となるように、かつ、所望の徐放性が得られる程度となるように適宜調節すればよい。
【0068】
工程(ii)
次に、工程(i)で得られた溶液(アリピプラゾール、生体分解性ポリマー及び有機溶媒を含む)を水と混合し、水中に該溶液が均一に分散したO/W型エマルションを得る。
【0069】
工程(i)で使用した有機溶媒が、水に非混和性の溶媒である場合、工程(i)で得られた溶液は、水にほとんど混和しないので、水中では小さな液滴になって分散する。
【0070】
工程(i)で水に混和性の溶媒を使用した場合は、乳化剤を使用することにより、工程(i)で得られた溶液はミセルの形態で分散する。
【0071】
工程(i)で得られた溶液の水に対する割合は、所望の粒子サイズのO/W型エマルションが得られる割合であれば、特に限定されないが、通常、水に対して0.1〜20重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度、より好ましくは1〜5重量%程度である。
【0072】
また、工程(i)で用いた有機溶媒が、水混和性又は水非混和性のいずれの場合も、水中には乳化剤を加えてもよい。
【0073】
乳化剤は、O/W型エマルション、好ましくは安定なO/W型エマルションを形成できるものであればいずれでもよく、例えば、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸等が用いられる。これら、乳化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
乳化剤を用いる場合、その濃度は、特に限定されず、幅広い範囲から選択されるが、水の量に対して例えば、0.0001〜20重量%程度、好ましくは0.001〜10重量%程度、より好ましくは0.001〜5重量%程度である。
【0075】
上記O/W型エマルションは、該エマルションを構成する有機溶媒及び水が凍結せず、有機溶媒の蒸発が抑制される温度条件下で形成される。該温度は、使用する有機溶媒の種類によっても異なるが、例えば、有機溶媒としてジクロロメタンを使用する場合は、常圧下であれば、例えば、0〜18℃程度、特に0〜15℃程度である。
【0076】
O/W型エマルションの調製方法は、特に限定されず、上記溶液(アリピプラゾール、生体分解性ポリマー及び有機溶媒を含む)が水中に適当なサイズの液滴ないしミセルとして分散する方法を用いればよい。該調製方法としては、例えば、ホモジナイザー等で上記溶液と水の混合物を適当な回転速度で攪拌し、水中で上記溶液を微細化してO/W型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターに上記溶液と水の混合物を一定速度で通過させることにより上記溶液を微細化してO/W型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターに上記溶液を一定速度で通過させて上記溶液を微細化した後、水と混合する方法等を用いればよい。
【0077】
必要であれば、工程(ii)におけるエマルション形成は、多段階で行ってもよい。例えば、工程(ii)を2段階で行う場合、段階(a)において、工程(i)で得られた溶液を、乳化剤の存在下又は不存在下で、水中に分散してO/W型エマルションを形成し、段階(b)において、得られたO/W型エマルションを、乳化剤の存在下又は不存在下で水中に分散させてO/W型エマルションを形成する。更に、必要であれば、工程(ii)は、そのような2段階を包含する3以上の段階で行ってもよい。
【0078】
このように多段階でO/W型エマルションを形成する場合、それぞれの段階で使用された水の合計量に対する、工程(i)で得られた溶液の割合は、所望の粒子サイズのO/W型エマルションが得られる割合であれば、特に限定されないが、通常、0.1〜20重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度、より好ましくは1〜5重量%程度である。各段階で使用する乳化剤としては、前記した乳化剤が使用できる。
【0079】
また、各段階で使用する乳化剤の濃度は、特に限定されず、幅広い範囲から選択されるが、典型的には、水の量に対して例えば、0.0001〜20重量%程度、好ましくは0.001〜10重量%程度、より好ましくは0.001〜5重量%程度である。
【0080】
このように工程(ii)を多段階で行う場合、各段階は、有機溶媒及び水が凍結せず、有機溶媒の蒸発が抑制される温度条件を採用して行う。該温度は、使用する有機溶媒の種類によっても異なるが、例えば、有機溶媒としてジクロロメタンを使用する場合は、常圧下であれば、例えば、0〜18℃程度、特に0〜15℃程度である。
【0081】
工程(ii)で得られるO/W型エマルション中の上記液滴ないしミセルのサイズは、種々の方法で調整することが可能である。例えば、上記ホモジナイザー等で高速処理したり、ポア径の小さいフィルターを通すことにより、上記液滴ないしミセルのサイズを小さくすることができる。また、上記有機溶媒中のアリピプラゾール及び生体分解性ポリマーの含有量を増やすことにより上記液滴ないしミセルのサイズを大きくすることができる。
【0082】
上記液滴ないしミセルのサイズを小さくして粒子径の小さいマイクロスフェアを得ると、比表面積が大きくなることによりシェル材料の必要量が増えシェルは薄くなる。また、上記液滴ないしミセル中の生体分解性ポリマーの割合を増やすとシェルは厚くなる。コアのサイズの調整は、上記溶液中のアリピプラゾールの割合、上記エマルション中の液滴ないしミセルのサイズ(マイクロスフェアのサイズ)等を適宜調整することにより行えばよい。
【0083】
工程(iii)
上記工程(ii)で得られたO/W型エマルションから有機溶媒を少なくとも部分的に除去することにより、アリピプラゾールの表面の全体又は大部分が生体分解性ポリマーで被覆されたコア/シェル構造を有するマイクロスフェアの水懸濁液が得られる
該有機溶媒の少なくとも一部を除去する方法は、種々の方法があるが、例えば、常圧下で上記エマルションを加熱する方法や室温で放置する方法が挙げられる。これらの方法の場合、使用する有機溶媒の沸点は、水の沸点よりも低いことが望ましい。
【0084】
工程(iii)において、O/W型エマルションからの有機溶媒の少なくとも一部の除去は、液滴中のアリピプラゾールが球状に析出するのに有効な条件下で行うことが重要である。
【0085】
このアリピプラゾールの析出に有効な条件としては、上記有機溶媒の少なくとも一部を徐々に揮散させて除去する方法が挙げられる。このように有機溶媒の少なくとも一部を徐々に除去することにより、液滴中で濃度の高いアリピプラゾールが優先的に球状に析出し、その後、生体分解性ポリマーが、球状のアリピプラゾールの表面に析出して、マイクロスフェアのコア/シェル構造が形成されると考えられる。
【0086】
O/W型エマルションから有機溶媒の少なくとも一部を徐々に除去する方法としては、典型的には、例えば、工程(ii)で得た低温のO/W型エマルションを、室温で常圧下の開放系において攪拌することにより、O/W型エマルションの温度が室温まで上昇し、それにより該有機溶媒の少なくとも一部を徐々に揮散させる方法が挙げられる。
【0087】
工程(iii)において、O/W型エマルションから有機溶媒を急速に除去すると、アリピプラゾールと生体分解性ポリマーが同時に析出し、アリピプラゾールと生体分解性ポリマーがマトリックス状になるか、又はアリピプラゾールが結晶成長してしまう。
【0088】
工程(iii)において、有機溶媒は、本発明のマイクロスフェアが生成するまで除去すればよい。例えば、有機溶媒としてジクロロメタンを使用する場合は、通常、常圧下で1時間〜24時間程度、好ましくは2時間〜12時間程度撹拌を行えばよい。
【0089】
なお、工程(ii)と工程(iii)とは、一連の操作で行ってもよい。例えば、工程(ii)において、工程(i)で得られた有機溶媒溶液を該有機溶媒の蒸発が抑制される条件下(一般的には低温条件下)で水と混合し、該溶液が均一に分散した低温のO/W型エマルションを得るが、この場合均質なO/W型エマルションを得る必要はなく、均質性の低いO/W型エマルションを得た時点から、室温下で撹拌することもできる。その場合は、均質なエマルション形成と有機溶媒の揮散とが同時に進行する。
【0090】
工程(iii)によって得られたマイクロスフェアは、水中に存在しているので、ろ過等の適当な方法によりマイクロスフェアを分離し、得られたマイクロスフェアを風乾や減圧乾燥、凍結乾燥等することによって単離できる。乾燥後のマイクロスフェアは、必要に応じて篩で篩化し、目的とする平均粒子径を有するマイクロスフェアを得てもよい。
【0091】
本発明の製造方法は、上記工程(i)において、アリピプラゾール及び生体分解性ポリマーを有機溶媒に一度溶解するため、ろ過滅菌が可能である。このため、無菌のアリピプラゾール原末でなくても使用することができ、製造工程において大きな利点を有する。
【0092】
水性懸濁注射剤
本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、後述の試験例から明らかなように、優れた徐放性能を有する。また、該マイクロスフェアは、球状なので、注射剤の製造における充填時の流動性や注射剤の投与時のシリンジの通過性に優れる。さらに、該マイクロスフェアは、アリピプラゾールを高含量で含有するので、注射剤を投与する際、注射剤中の粉体(本発明のマイクロスフェア)量が少なくても高用量のアリピプラゾールを投与することができる。
【0093】
従って、本発明は、治療が必要な患者へ本発明のマイクロスフェアを投与することを包含する、統合失調症の治療方法を提供するものである。また、本発明は、統合失調症の治療薬の製造のための本発明のマイクロスフェアの使用を提供するものでもある。更に、本発明は、統合失調症の治療用の前記マイクロスフェアを提供する。
【0094】
また、本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、水性懸濁注射剤として好適に用いることができる。
【0095】
本発明の水性懸濁注射剤は、本発明のマイクロスフェア、そのためのビヒクル、および注射用水を含む。
【0096】
本発明の水性懸濁注射剤中のマイクロスフェアの含有量は、注射剤中でマイクロスフェアが分散されれば特に限定されないが、例えば、5〜50重量%程度、好ましくは10〜40重量%程度、より好ましくは10〜30重量%程度である。
【0097】
本発明の水性懸濁注射剤に含まれるビヒクルは、
(a)少なくとも1種の懸濁化剤、
(b)少なくとも1種の等張化剤、及び
(c)必要に応じて少なくとも1種のpH調整剤
を含む。
【0098】
(a)懸濁化剤
本発明の水性懸濁注射剤に含まれる懸濁化剤の例としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0099】
本発明のマイクロスフェアのためのビヒクルの中で使用するのに好適な他の懸濁化剤としては、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然プロダクト(natural products)、および界面活性剤(非イオン性およびイオン性界面活性剤を含む)、例えば、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス(cetomacrogol emulsifying wax)、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000のようなマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(polyoxyethylene castor oil derivatives)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、市販のTweens(登録商標)、例えば、Tween20(登録商標)およびTween80(登録商標)(ICI Specialty Chemicals));ポリエチレングリコール類(例えば、Carbowaxs 3350(登録商標)および1450(登録商標)、ならびにCarbopol 934(登録商標)(Union Carbide))、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ポリオキシエチレンステアレート、コロイダル二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム(carboxymethylcellulose calcium)、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、HPC、HPC−SL、およびHPC−L)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロースフタレート、非結晶性セルロース(noncrystalline cellulose)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイドおよびホルムアルデヒドとの4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノールポリマー(チロキサポール(tyloxapol)、スペリオン(superione)、およびトリトン(triton)としても公知)、ポロキサマー(poloxamers)(例えば、Pluronics F68(登録商標)およびF108(登録商標)、これらは、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのブロックコポリマーである);ポロキサミン(例えば、Tetronic 908(登録商標)、Poloxamine 908(登録商標)としても公知、これは、エチレンジアミンへのプロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの連続付加から誘導される四官能性ブロックコポリマーである(BASF Wyandotte Corporation,Parsippany,N.J.));荷電リン脂質(charged phospholipid)、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオクチルスルホサクシネート(DOSS);Tetronic 1508(登録商標)(T−1508)(BASF Wyandotte Corporation)、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル(例えば、Aerosol OT(登録商標)、これはスルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステルである(American Cyanamid));Duponol P(登録商標)、これはラウリル硫酸ナトリウムである(DuPont);Tritons X−200(登録商標)、これはアルキルアリールポリエーテルスルホネートである(Rohm and Haas);Crodestas F−110(登録商標)、これはスクロースステアレートおよびスクロースジステアレートの混合物である(Croda Inc.);p−イソノニルフェノキシポリ−(グリシドール)、Olin−10G(登録商標)またはSurfactant 10−G(登録商標)としても公知(Olin Chemicals,Stamford,Conn.);Crodestas SL−40(登録商標)(Croda,Inc.);ならびにSA9OHCO、これはC1837CH(CON(CH))−CH(CHOH)(CHOH)である(Eastman Kodak Co.);デカノイル−N−メチルグルカミド;n−デシル β−D−グルコピラノシド;n−デシル β−D−マルトピラノシド;n−ドデシル β−D−グルコピラノシド;n−ドデシル β−D−マルトシド;ヘプタノイル−N−メチルグルカミド;n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド;n−ヘプチル β−D−チオグルコシド;n−ヘキシル β−D−グルコピラノシド;ノナノイル−N−メチルグルカミド;n−ノニル β−D−グルコピラノシド;オクタノイル−N−メチルグルカミド;n−オクチル−β−D−グルコピラノシド;オクチル β−D−チオグルコピラノシド等が挙げられる。
【0100】
これらの懸濁化剤の大部分は、公知の薬学的賦形剤であり、例えば、the American Pharmaceutical Association及びThe Pharmaceutical Society of Great Britainによって共同発行されたthe Handbook of Pharmaceutical Excipients(The Pharmaceutical Press, 1986)に詳細に記載されている。
【0101】
これらの懸濁化剤は、市販されており、当該分野において公知の技術によって製造され得る。これらの懸濁化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0102】
懸濁化剤の量は、注射剤に使用可能な量であれば特に限定されず、本発明のマクロスフェアを水性懸濁注射剤中に懸濁させるのに足る量、典型的には本発明の注射剤中に含有される注射用水100重量部に対して、0.01〜20重量部程度、好ましくは0.1〜10重量部程度とすればよい。
【0103】
(b)等張化剤
本発明の水性懸濁注射剤に含まれる等張化剤は、注射剤を等張化できるものであれば特に限定されないが、例えば、グリセリン、アラビトール、キシリトール、アドニトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール等の多価アルコール類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類;アラビノース、キシロース、リボース、2−デオキシリボース、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース、フコース等の単糖類;スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース等の二糖類、マルトトリオース、ラフィノース、スタキオース等のオリゴ糖;グリシン、ロイシン、アルギニン等のアミノ酸類、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0104】
これらの等張化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0105】
等張化剤の量は、注射剤に使用可能な量であれば特に限定されず、本発明の水性懸濁注射剤を体液と等張化させるのに足る量、典型的には本発明の注射剤中に含有される注射用水100重量部に対して0.1〜20重量部程度、好ましくは0.5〜15重量部程度とすればよい。
【0106】
(c)pH調整剤
本発明の水性懸濁注射剤は、pH調整剤を必要に応じて含んでいてもよく、水性懸濁液のpHを、2〜12程度、好ましくは7程度に調整するのに有効な量で使用すればよい。
【0107】
pH調整剤は、水性懸濁注射剤のpHが、所望の約7の中性pHに達するために上昇される必要があるのかあるいは低下される必要があるのかに依存して、酸または塩基であり得る。
【0108】
pHが低下される必要がある場合、pH調整剤としては、例えば、塩酸、酢酸等の酸性pH調整剤等が挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。
【0109】
pHが上昇される必要がある場合、pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等塩基性pH調整剤等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0110】
本発明の水性懸濁注射剤は、ヒト患者における、統合失調症および関連障害(例えば、双極性障害および痴呆)を治療するために使用される。本発明の注射製剤は基本的に1回の投与により1ヶ月以上の再投与を必要としない単回注射または複数注射である。注射製剤は、好ましくは筋肉内投与されるが、皮下注射も同様に許容される。本発明の水性懸濁注射剤は、1回当たり0.1〜5ml程度、好ましくは0.5〜3ml程度を投与すればよい。
【0111】
このように、本発明は、治療が必要な患者へ本発明の水性懸濁注射剤を投与することを包含する、統合失調症の治療方法を提供するものである。また、本発明は、統合失調症の治療薬の製造のための本発明の水性懸濁注射剤の使用を提供するものでもある。更に、本発明は、統合失調症の治療用の水性懸濁注射剤を提供する。
【実施例】
【0112】
以下、実施例、参考例、比較例及び試験例をあげて本発明をより詳しく説明する。なお、実施例、参考例、比較例及び試験例中の「%」は、特に断らない限り、「重量%」である。
【0113】
以下の実施例、参考例及び比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。
【0114】
生体分解性ポリマーの分子量
生体分解性ポリマーの分子量は、ポリスチレンを基準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0115】
マイクロスフェアの平均粒子径
レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3000J、島津製作所)によって測定した。下記の実施例で得られたマイクロスフェアの平均粒子径は、いずれも、20〜150μmの範囲に入るものであった。
【0116】
マイクロスフェア中のアリピプラゾール含有率
マイクロスフェアをアセトンに溶解後、HPLCの移動相でメスアップし、HPLCでアリピプラゾールの量を測定した。移動相は、無水硫酸ナトリウム1.59gを水560mLに溶かし、アセトニトリル330mL、メタノール110mLを混和して調製した。
【0117】
シェルの平均厚さ
マイクロスフェアをパラフィンにて固定化し、滑走式ミクロトーム(SM2000R、LEICA社)にて切断し、電子顕微鏡にて観察した。電子顕微鏡写真のシェルの任意の5個所について厚みを測定して平均値を算出してシェルの平均厚さとした。
【0118】
実施例1
(i)アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量20,000)約66mgをジクロロメタン2mLに溶解した。
【0119】
(ii)このジクロロメタン溶液を氷冷下の1%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液20mLに加え、ホモジナイザー(商品名「ポリトロンホモジナイザーPT3000」、KINEMATICA社製)にて2000rpmで1分間乳化して、O/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルションを400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液80mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。
【0120】
(iii)得られたO/W型エマルション(約10℃)を、200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩攪拌した。その結果、粒子の析出が確認された。
【0121】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は38.0μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含有率は57.8%であった。
【0122】
実施例2
アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量約100,000)約25mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液100mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を、200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩攪拌した。
【0123】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子(本発明のマイクロスフェア)を得た。得られたマイクロスフェアのアリピプラゾール含有率は72.7%であった。
【0124】
粒子の内部を観察するため、得られたマイクロスフェアをパラフィンにて固定化し、滑走式ミクロトームで切断し、電子顕微鏡にて観察した。得られた電子顕微鏡像を図4及び5に示す。その結果、表面に厚さ数μmの層(シェル)が観察された。図4及び5において、2つの三角形(▲)の間の距離がシェルの厚さを示している。
【0125】
実施例3
アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量約100,000)約66mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液100mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を、200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩攪拌した。
【0126】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子(本発明のマイクロスフェア)を得た。得られたマイクロスフェアのアリピプラゾール含有率は56.9%であった。
【0127】
実施例4
アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量約100,000)約11mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液100mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を、ガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩攪拌した。
【0128】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子(本発明のマイクロスフェア)を得た。得られたマイクロスフェア中のアリピプラゾール含有率は89.6%であった。
【0129】
実施例5
アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量100,000)約25mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を氷冷下の1%PVA水溶液20mLに加え、ポリトロンホモジナイザーにて2000rpmで1分間攪拌した。得られた液を400rpmにて撹拌下の1%PVA溶液80mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩攪拌した。
【0130】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は64.9μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含有率は79.7%であった。
【0131】
得られた粒子の電子顕微鏡像を図1に示す。図1から明らかなように、得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)は、球状である。
【0132】
次に、粒子の内部を観察するため、得られたマイクロスフェアをパラフィンにて固定化し、滑走式ミクロトームで切断し、電子顕微鏡にて観察した。電子顕微鏡像を図6及び7に示す。その結果、図6及び7から分かるように、表面に厚さ数μmの層(シェル)が観察された。図6及び7において、2つの三角形(▲)の間の距離がシェルの厚みを示している。
【0133】
さらに、切断した粒子を、ポリ乳酸は溶解せずアリピプラゾールのみ溶解する酢酸水溶液(20%)に1時間浸潤し、精製水で洗浄後、電子顕微鏡にて観察した。電子顕微鏡像を図8に示す。その結果、図8から明らかなように、コア部のみが溶解しシェル部は溶解しなかった。このことから、本発明のマイクロスフェアは、シェルがポリ乳酸から実質的になり、コア部がアリピプラゾールから実質的になることが分かった。
【0134】
実施例6
アリピプラゾール水和物100mgとポリ乳酸(分子量100,000)約25mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を氷冷下の1%PVA水溶液20mLに加え、ポリトロンホモジナイザーにて2000rpmで1分間攪拌した。得られた液を400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液80mL中(約10℃)に加えてO/W型エマルションを得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて4時間攪拌した。
【0135】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は55.1μmであった。
【0136】
得られた粒子の電子顕微鏡像を図2に示す。図2から明らかなように、得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)は球状であった。
【0137】
実施例7
アリピプラゾール水和物400mgとポリ乳酸(分子量100,000)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径10μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて4時間撹拌した。
【0138】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は78.4μmであった。
【0139】
実施例8
アリピプラゾール水和物400mgとポリ乳酸(分子量100,000)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径20μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて4時間撹拌した。
【0140】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は129.3μmであった。
【0141】
実施例9
アリピプラゾール水和物400mgとポリ乳酸(分子量100,000)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径15μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて4時間撹拌した。
【0142】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は125.5μmであった。
【0143】
実施例10
アリピプラゾール水和物400mgと乳酸‐グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25(モル比)、分子量約63,800)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径10μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してエマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて3時間撹拌した。
【0144】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を40℃にて真空乾燥し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は69.3μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含量は72.0%であった。
【0145】
実施例11
アリピプラゾール水和物500mgと乳酸‐グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25(モル比)、分子量約63,800)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径10μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて3時間撹拌した。
【0146】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を40℃にて真空乾燥し、150μmの篩にて篩化し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は85.5μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含量は75.2%であった。
【0147】
実施例12
アリピプラゾール水和物500mgとポリ乳酸(分子量100,000)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径10μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて3時間撹拌した。
【0148】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を40℃にて真空乾燥し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は89.2μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含量は75.8%であった。
【0149】
実施例13
アリピプラゾール水和物500mgとポリ乳酸(分子量100,000)約125mgをジクロロメタン10mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を孔径10μmを有するシラス多孔質ガラスフィルターに25mL/minで通し、1%PVA水溶液500mL(約10℃)と混合してO/W型エマルションを調製した。得られたO/W型エマルション(約10℃)を1Lガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて室温で400rpmにて3時間撹拌した。
【0150】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を40℃にて真空乾燥し、150μmの篩にて篩化し、乾燥粒子を得た。得られた粒子(本発明のマイクロスフェア)の平均粒子径は78.1μmであり、マイクロスフェア中のアリピプラゾール含量は75.6%であった。
【0151】
参考例1
アリピプラゾール水和物100mgをジクロロメタン2mLに溶解し、400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液100mL(約10℃)に滴下してO/W型エマルション(約10℃)を得た。得られたO/W型エマルション(約10℃)を200mLガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて一晩撹拌した。
【0152】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。得られた粒子の電子顕微鏡像を図3に示す。図3から明らかなように、得られたアリピプラゾール粒子は球状であった。
【0153】
試験例1
日本薬局方に従い、溶出試験をパドル法にて行った。即ち、実施例5及び実施例6のマイクロスフェアをアリピプラゾール無水物に換算して約50mgを量り取り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液900mL中に加え、100rpmにてパドル法にて溶出試験を行った。
【0154】
結果を図9に示す。図9から分かるように、実施例5及び実施例6のマイクロスフェアは、2ヶ月以上の溶出を示す。
【0155】
試験例2
ウサギにマイクロスフェアを投与し、アリピプラゾールの血中濃度を測定した。即ち、実施例11で得られた乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)マイクロスフェア(以下、PLGA MSという)及び実施例13で得られたポリ乳酸(PLA)マイクロスフェア(以下、PLA MSという)を0.75%塩化ナトリウム含有1.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に、アリピプラゾール含量が10%(W/V)となるようにそれぞれ分散した。
【0156】
得られた懸濁液をウサギ頚部後にアリピプラゾールの投与量が25mg/kgとなるように皮下注射投与した。投与後、84日間ウサギの採血を行い、アリピプラゾールの血中濃度(平均値及び標準偏差(S.D.))を測定した。PLA MS の結果を表1、PLGA MSの結果を表2に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

【0159】
表1及び表2に示される結果を図10のグラフに示す。
【0160】
図10から分かるようにウサギ血中のアリピプラゾール濃度は、84日間持続的に高い値を示した。84日間経過時も血中濃度は下がっておらず、3ヶ月以上高いレベルで持続化することが推測される。
【0161】
比較例1
アリピプラゾール水和物約100mgと乳酸‐グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50(モル比)、分子量約20,000)約66mgをジクロロメタン2mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を、400rpmにて撹拌下の23℃の1%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液100mLに加えてO/W型エマルション(約23℃)を得た。
【0162】
得られたO/W型エマルション(約23℃)をガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて400rpmにて32時間撹拌した。
【0163】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。
【0164】
図11から明らかなように、この方法では得られる粒子は板状などの不定形な粒子であり、球状のマイクロスフェアを得ることはできなかった。
【0165】
比較例2
アリピプラゾール水和物約190mgと乳酸‐グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50(モル比)、分子量約20,000)約1.2gをジクロロメタン4mLに溶解した。このジクロロメタン溶液を23℃の1%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液100mLに加え、ホモジナイザー(商品名「ポリトロンホモジナイザーPT3000」、KINEMATICA社製)にて2000rpmで1分間乳化してO/W型エマルション(約23℃)を得た。得られたO/W型エマルション(約23℃)を400rpmにて撹拌下の1%PVA水溶液900mL中(約23℃)に加え、得られた混合物をガラスビーカーに入れ、該ガラスビーカーを室温の開放系に置いて32時間撹拌した。
【0166】
その後、10μmのフィルターにてろ過し、フィルター上の粒子を風乾し、乾燥粒子を得た。
【0167】
図12から明らかなように、得られた粒子は球状であった。このマイクロスフェアをパラフィンにて固定化し、滑走式ミクロトームで切断し、電子顕微鏡にて観察した。観察された切断粒子を図13及び14に示した。図6及び7と比較すると明らかなように、コア/シェル構造は観察されなかった。この方法ではコア/シェル構造のマイクロスフェアは得られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、アリピプラゾールを高含量で含有するので、投与の際の粉体(マイクロスフェア)量が少なくても高用量のアリピプラゾールを投与することができる。また、本発明のコア/シェル構造を有するマイクロスフェアは、アリピプラゾールを含有するコアがシェルである生体分解性ポリマーで被覆されているため、優れた徐放性能を有する。さらに、本発明の該マイクロスフェアは、球状なので、注射剤製造における充填時の流動性や注射剤投与時のシリンジの通過性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア/シェル構造を有すると共に球状の形状を有するマイクロスフェアであって、
(a)該コアが固体状態のアリピプラゾールを含有しており、
(b)該シェルがコアの表面の全体又は大部分を被覆しており、該シェルが生体分解性ポリマーを含有しているマイクロスフェア。
【請求項2】
アリピプラゾールの含有率が、マイクロスフェア全体量の55〜95重量%である請求項1に記載のマイクロスフェア。
【請求項3】
平均粒子径が、20〜150μmである請求項1又は2に記載のマイクロスフェア。
【請求項4】
シェルの平均厚さが、0.5〜20μmである請求項1又は2に記載のマイクロスフェア。
【請求項5】
生体分解性ポリマーが、ポリ乳酸及び乳酸−グリコール酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のマイクロスフェア。
【請求項6】
ポリ乳酸又は乳酸−グリコール酸共重合体の分子量が、5000〜200000である請求項5に記載のマイクロスフェア。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロスフェア、そのためのビヒクル、および注射用水を含有する水性懸濁注射剤。
【請求項8】
注射されると少なくとも1ヶ月間アリピプラゾールを放出する請求項7に記載の水性懸濁注射剤。
【請求項9】
前記ビヒクルが、
(a)少なくとも1種の懸濁化剤、
(b)少なくとも1種の等張化剤、
(c)必要に応じて少なくとも1種のpH調整剤
を含む請求項7又は8に記載の水性懸濁注射剤。
【請求項10】
コア/シェル構造を有すると共に球状の形状を有する請求項1に記載のマイクロスフェアの製造方法であって、
(i)アリピプラゾール、生体分解性ポリマー及び有機溶媒を含む溶液を調製する工程、
(ii)上記工程(i)で得られた溶液を水と混合して、上記有機溶媒の蒸発を抑制するのに有効な条件下で、O/W型エマルションを得る工程、及び
(iii)上記O/W型エマルションからアリピプラゾールが球状の粒子として析出するのに有効な条件下で有機溶媒を少なくとも部分的に除去する工程
を備えている製造方法。
【請求項11】
前記工程(i)で使用する有機溶媒が、水に非混和性の有機溶媒である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(ii)で使用する水が乳化剤を含有する請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(ii)が、(a)工程(i)で得られた溶液を、乳化剤の存在下又は不存在下で、水中に分散してO/W型エマルションを形成する段階、及び、(b)上記段階(a)で得られたO/W型エマルションを、乳化剤の存在下又は不存在下で、水中に分散させてO/W型エマルションを形成する段階を含む請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(ii)において、有機溶媒の蒸発を抑制するのに有効な低温条件でエマルションを製造し、工程(iii)において、工程(ii)で得られた低温のエマルションを、室温の開放系において撹拌して有機溶媒を揮散させる請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
治療が必要な患者へ請求項7に記載の水性懸濁注射剤を投与することを包含する、統合失調症の治療方法。
【請求項16】
統合失調症の治療薬の製造のための請求項7に記載の水性懸濁注射剤の使用。
【請求項17】
統合失調症の治療用の請求項7に記載の水性懸濁注射剤。

【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−531303(P2010−531303A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512899(P2010−512899)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【国際出願番号】PCT/JP2008/060919
【国際公開番号】WO2009/001697
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】