説明

コイル、変圧素子、スイッチング電源装置

【課題】より巻き数が大きく、かつ、薄型でありながら、反りや歪みが発生しにくいコイルを提供する。
【解決手段】1次側コイルは、基板31Cの表面に沿って所定の隙間を隔てて巻回する導体31A,31Bを有する。ここで、各巻線体31T1〜31T3は、自らの幅が拡大する部分と縮小する部分とを交互に含んでいる。すなわち、各巻線体31T1〜31T3における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭が、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分とを交互に含む波形状となっている。よって、高温環境下であっても熱膨張に伴う基板31Cと導体31A,32Bとの間に発生する応力を、巻回方向以外の方向にも分散させることができ、1次側コイル全体の反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に沿って巻回するコイル、ならびにそのようなコイルを備えた変圧素子およびスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチング電源装置として種々のDC−DCコンバータが提案され、実用に供されている。その多くは、電力変換トランス(変圧素子)の1次側コイルに接続されたスイッチング回路のスイッチング動作により直流入力電圧をスイッチングし、スイッチング出力を電力変換トランスの2次側コイルに取り出す方式を採用したものである。スイッチング回路のスイッチング動作に伴い、2次側コイルに現れる電圧は、整流回路によって整流された後、平滑回路によって直流に変換されて出力される。
【0003】
最近、このようなスイッチング電源装置のコンパクト化が求められており、それに伴って変圧素子の小型化および薄型化が進んでいる。このため、1次側コイルや2次側コイルとして、樹脂製の基板上に設けられた薄膜状(あるいは薄板状)のコイルが採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
なお、上記のようなコイルに関連するものとして、特許文献2,3には、絶縁基板上に導電パターンが設けられたインダクタが開示されている。
【特許文献1】特開平9−326316号公報
【特許文献2】特開2000−232019号公報
【特許文献3】特開平8−107018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、より大きな変圧比が要求される場合には、1次側コイルの巻き数と2次側コイルの巻き数との比(巻数比)を大きくする必要があるので、いずれか一方のコイルの巻き数を増大させなければならない。しかしながら、限られた形成面積においてコイルの断面積を高めつつ、コイルの巻き数を増やすとなると、必然的にコイルの各ターンの幅が狭くなる。そうした場合、上記のような樹脂基板に設けられた薄膜状(あるいは薄板状)のコイルでは、製造時や使用時における温度変化に伴う応力に起因する反りや歪みが発生しやすくなる。
【0006】
具体的には、高温環境下に置かれると、金属からなるコイルは、主に巻回方向へ伸びることとなる。図12(A)は、図示しない樹脂基板上に設けられたコイル130を上面から眺めた概略図であり、図12(B)は、図12(A)のXIIB−XIIB線に沿った断面の概略図である。さらに、図12(C)は、図12(A)に示したコイル130を構成する巻線体131T1〜131T3における位置P101から位置P102までの区間を直線状に伸ばした様子を表し、特に、実線が駆動前の常温時に対応し、破線が駆動中(後)の高温時に対応している。図12(C)では、巻回方向Rに沿った紙面横方向が樹脂基板の表面における、位置P101から位置P102までのコイル130に沿った距離に相当し、紙面上下方向が樹脂基板の表面と直交する方向(厚み方向)におけるコイル130の変位に相当する。このようなコイル130が自らの巻回方向に熱膨張しようとした場合、コイル130は樹脂基板と密着しているので単独では変位することができない。そのため、コイル130の熱膨張率と樹脂基板の熱膨張率との間に大きな差がある場合、基板とコイル130との接合界面近傍において応力が生じる。特に、コイル130の巻き数を増やすことで、コイル130の各巻線体131T1〜131T3の幅を狭くすると共に全長を長くすると、高温環境下での巻回方向Rに沿った応力は顕著に大きくなる。そのような応力を緩和するため、コイル130は、図12(B),12(C)に示したように実線で示した基板表面に平行な所定位置から、破線で示した位置へ樹脂基板と共に変位することとなる。この結果、樹脂基板およびコイルが一体となったコイル基板全体として、反りを発生させる。
【0007】
このようなコイル基板の反りは、それを搭載する変圧素子などのコンパクト化を妨げる要因となる。また、この種のコイル基板では、コイルが設けられた樹脂基板の裏面に、アルミニウムなどの熱伝導率の高い冷却基板を接触させ、コイルの冷却を行うことがあるが、その場合、あらかじめ樹脂基板に反りが生じていると、樹脂基板と冷却基板との間に隙間が生じてしまい冷却効率が低下してしまう。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、より巻き数が大きく、かつ、薄型でありながら、反りや歪みが発生しにくいコイルを提供することにある。本発明の第2の目的は、コンパクトな構成でありながら、より大きな変圧比を得るのに適した変圧素子およびそれを備えたスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコイルは、基板の表面に沿って所定の隙間を隔てて巻回する導体を有し、 隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方が、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第1の部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第2の部分とを交互に含むものである。
【0010】
本発明の変圧素子およびスイッチング電源装置は、磁芯と、その磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルとを備え、1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方として、上記本発明のコイルを用いるようにしたものである。
【0011】
本発明のコイルでは、隙間における巻回内周側および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方が上記した第1および第2の部分を交互に含むことから、導体における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方においても同様に波形状となる。よって、加熱された際には、巻回方向以外の向きへ膨張しようとする応力成分が増大し、巻回方向に沿って膨張しようとする応力成分が低減される。
【0012】
本発明のコイルおよび変圧素子では、隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭の双方が、第1の部分と第2の部分とを交互に含むものであるとよい。加熱された際に、巻回方向に沿って膨張しようとする応力成分がより効果的に低減されるからである。
【0013】
本発明のコイルおよび変圧素子では、導体は、巻回方向に沿って自らの幅が拡大する部分と縮小する部分とを交互に含むものであってもよい。あるいは、導体は、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう平均ベクトルを有する第1の導体部分と、巻回外周側へ向かう平均ベクトルを有する第2の導体部分とを交互に含むものであってもよい。後者の場合、導体が、その輪郭の法線方向において一定の幅を有しているとよい。
【0014】
また、本発明のコイルおよび変圧素子では、隙間がその輪郭の法線方向において一定の幅を有するようにするとよい。所定の領域内において導体が占める面積の割合、すなわち線積率が向上しつつ、導体の巻回方向に沿った応力成分が全体に亘って偏りなく低減されるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコイルによれば、基板表面上を巻回する導体の隙間である隙間の輪郭を、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第1の部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第2の部分とが交互に位置する形状としたので、熱膨張に伴う基板と導体との間に発生する応力を、巻回方向以外の方向にも分散させることができる。したがって、隙間の輪郭が平坦な曲線状であるような従来の導体を有するコイルと比べ、反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。
【0016】
本発明の変圧素子およびスイッチング電源装置によれば、上記本発明のコイルを備えるようにしたので、変圧比の向上を図りつつ、さらなるコンパクト化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態としてのスイッチング電源装置の回路構成を表すものである。このスイッチング電源装置は、高圧バッテリ10から供給される高圧の直流入力電圧Vinをより低い直流出力電圧Voutに変換し、図示しない低圧バッテリに供給して負荷6を駆動するDC−DCコンバータとして機能するものである。なお、本実施の形態に係る変圧素子も、以下併せて説明する。
【0019】
このスイッチング電源装置は、1次側高圧ラインL1Hと1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられたスイッチング回路1および入力平滑コンデンサ2と、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bを有する変圧素子としてのトランス3とを備えている。1次側高圧ラインL1Hの入力端子T1と1次側低圧ラインL1Lの入力端子T2との間には、高圧バッテリ10から出力される直流入力電圧Vinが印加されるようになっている。このスイッチング電源装置は、トランス3の2次側に設けられた整流回路4と、この整流回路4に接続された平滑回路5とをさらに備えている。
【0020】
スイッチング回路1は、4つのスイッチング素子S1〜S4から構成されたフルブリッジ型の回路構成となっている。具体的には、スイッチング素子S1,S2の一端同士が互いに接続されると共に、スイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続されている。また、スイッチング素子S1,S3の他端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S2,S4の他端同士が互いに接続され、これらの他端同士は、それぞれ入力端子T1,T2に接続されている。スイッチング回路1はこのような構成により、図示しない駆動回路から供給される駆動信号に応じて、入力端子T1,T2間に印加される直流入力電圧Vinを入力交流電圧に変換するようになっている。なお、これらスイッチング素子としては、例えば電界効果型トランジスタ(MOS−FET;Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)などのスイッチ素子が用いられる。
【0021】
入力平滑コンデンサ2は、入力端子T1,T2から入力された直流入力電圧Vinを平滑化するためのものである
【0022】
トランス3の一対の2次側コイル32A,32Bは接続部Cで互いに接続され、この接続部Cが出力ラインLOを介して出力端子T3に導かれている。つまり、このスイッチング電源装置はセンタタップ型のものである。このトランス3は、スイッチング回路1によって生成された入力交流電圧を変圧し、一対の2次側コイル32A,32Bの各端部A,Bから、互いに180度位相が異なる出力交流電圧を出力するようになっている。なお、この場合の変圧比は、1次側コイル31と2次側コイル32A,32Bとの巻数比によって定まる。
【0023】
整流回路4は、一対の整流ダイオード4A,4Bからなる単相全波整流型のものである。整流ダイオード4Aのカソードはトランス31の2次側コイル32Aの端部Aに接続され、整流ダイオード4Bのカソードはトランス31の2次側コイル32Bの端部Bに接続されている。また、これら整流ダイオード4A,4Bのアノード同士は互いに接続され、接地ラインLGに接続されている。つまり、この整流回路4はセンタタップ型のアノードコモン接続の構成となっており、トランス3からの出力交流電圧の各半波期間を、それぞれ整流ダイオード4A,4Bによって個別に整流して直流電圧を得るようになっている。
【0024】
平滑回路5は、チョークコイル51と出力平滑コンデンサ52とを含んで構成されている。チョークコイル51は出力ラインLOに挿入配置されており、その一端は接続部Cに接続され、その他端は出力ラインLOの出力端子T3に接続されている。チョークコイル51は、例えばフェライトなどの磁性材料からなる磁芯の周囲に、例えば銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの高導電性材料からなる配線が巻回した構造を有している。出力平滑コンデンサ52は、出力ラインLO(具体的には、チョークコイル51の他端)と接地ラインLGとの間に接続されている。接地ラインLGの端部には、出力端子T4が設けられている。このような構成により平滑回路5では、整流回路4で整流された直流電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、これを出力端子T3,T4から低圧バッテリ(図示せず)に給電するようになっている。
【0025】
次に、図2〜図5を参照し、トランス3について、より詳細に説明する。
【0026】
図2は、トランス3の要部構成を表す斜視図であり、図3は、その分解斜視図である。さらに、図4は、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bのみの構成を表す分解斜視図である。
【0027】
図2および図3に示したように、トランス3は、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bのほか上部コア30Aおよび下部コア30Bを有している。上部コア30Aは、いわゆるE型コアと呼ばれ、例えばフェライトなどの磁性材料からなる平板状部材の両端および中心部に突起部301〜303が設けられたものである。一方、下部コア30Bは、同じくフェライトなどの磁性材料からなる平板状部材である。下部コア30Bは、突起部301〜303と接し、中心部の突起部301と両端の突起部302,303との間に空間を確保するように上部コア30Aと対向して配置されている。
【0028】
1次側コイル31は、例えばエポキシなどの樹脂からなり、開口31Kが設けられた基板31Cと、基板31Cの一方の面上において開口31Kの周囲を巻回する導体31Aと、基板31Cの他方の面上において開口31Kの周囲を巻回する導体31Bとを有している。この1次側コイル31は、基板31Cの開口31Kが上部コア30Aの突起部301によって貫かれるように配置されている。このため、導体31A,31Bが突起部301の周囲を巻回するようになっている。ここで、導体31A,31Bは、互いに逆方向に巻回している。すなわち、上方(図3,4に示した矢印Vの方向)から眺めた場合、導体31Aは、図5(A)に示したように巻回外周側から巻回中心側へ向けて右回りに巻回しており、導体31Bは、図5(B)に示したように巻回外周側から巻回中心側へ向けて左回りに巻回している。さらに、導体31Aおよび導体31Bは、巻回中心側(最内周側)の各々の端部31A1,31B1が、基板31Cを貫通する接続部(図示せず)によって互いに導通しており、1本のコイルとして機能するように構成されている。また、巻回外周側(最外周側)の端部31A2,31B2は、それぞれ、引出線L1P,L2Pと接続されている、なお、図5(A),5(B)は、1次側コイル31を構成する導体31A,31Bの、図3,4に示した矢印Vの方向から眺めた平面構成をそれぞれ表すものである。
【0029】
2次側コイル32A,32Bは、例えばエポキシなどの樹脂からなり、開口32Kが設けられた基板32Cの、互いに異なる面にそれぞれ設けられている。なお、図3では、2次側コイル32Bを、基板32Cの下側の面(1次側コイル31と対向する側)に設けるようにしたが、2次側コイル32Aを基板32Cの下側の面に設けるようにしてもよい。ここで、基板32Cの開口32Kは、上部コア30Aの突起部301によって貫かれている。したがって、2次側コイル32A,32Bは、いずれも突起部301の周囲を巻回するようになっている。なお、本実施の形態では、2次側コイル32A,32Bの巻き数を1としている。さらに、2次側コイル32Aおよび2次側コイル32Bは、各々の一方の端部32A1,32B1が、基板32Cを貫通する接続部C(図4)によって互いに導通すると共に引出線LOとそれぞれ接続されるように構成されている。また、各々の他方の端部32A2,32B2は、それぞれ、引出線L1S,L2Sと接続されている。
【0030】
上記した導体31A,31Bおよび2次側コイル32A,32Bは、例えば銅やアルミニウムなどの高導電性材料によって構成されたプリントコイルである。
【0031】
さらに、図6を参照して、導体31A,31Bの構成についてより詳細に説明する。図6は、導体31Aの平面構成の要部を拡大して表すものである。なお、導体31Bにおいても同様の構成であるので、ここでは省略する。図6に示したように、導体31Aは、その一部をなす巻線体31T1,31T2,31T3(以下、まとめて巻線体31Tという。)が所定の隙間31S1,31S2(以下、まとめて隙間31Sという。)を隔てて並ぶように巻回している。なお、本実施の形態では、導体31A,31Bの巻き数をそれぞれ3ターンとしたが、その数は任意に設定可能である。ここで、巻線体31Tは、自らの幅が拡大する部分と縮小する部分とを交互に含んでいる。すなわち、巻線体31Tにおける巻回内周側の輪郭OL1,OL3,OL5および巻回外周側の輪郭OL2,OL4,OL6は、いずれも、巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分とを交互に含む波形状となっている。より具体的には、図6に示したように、巻回内周側から巻回外周側へ巻線体31T1,31T2,31T3を横断する方向に区切った区間311,312を参照すると、巻線体31T1,31T3は、巻回方向Rに沿って区間311において幅が拡大し、区間312において幅が縮小するようになっている。一方、巻線体31T2は、巻回方向Rに沿って区間311において幅が縮小し、区間312において幅が拡大するようになっている。すなわち、輪郭OL1,OL4,OL5のうち、区間311に対応する部分が巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分であり、区間312に対応する部分が巻回方向Rを基準として巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分である。一方、輪郭OL2,OL3,OL6のうち、区間311に対応する部分が巻回方向Rを基準として巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分であり、区間312に対応する部分が巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分である。また、隙間31S1,31S2は、その輪郭OL2〜OL5と直交する方向において一定の幅を有している。
【0032】
このような構成の1次側コイル31を形成する場合には、例えば以下のようにすればよい。まず、エポキシなどからなる絶縁性の基板31Cの両面に銅箔を設けた基体を用意し、ドリル加工などによりその基体の所定位置に貫通孔を形成する。次いで、電解めっきや無電解めっきなどにより、その貫通孔の壁面に銅めっきを施し、導体31Aと導体31Bとを繋ぐための接続部を形成する。さらに、基体の両面を感光材料で覆い、選択的な露光および現像ののち、ウェットエッチングなどにより銅箔の選択的な除去を行うことで、基板31Cの両面に導体31A,31Bをそれぞれ形成する。最後に、必要部分をレジストで覆うなど所定の工程を経ることで1次側コイル31が完成する。
【0033】
次に、図7および図8を参照して、以上のような構成のスイッチング電源装置の動作について説明する。
【0034】
スイッチング回路1では、入力端子T1,T2から供給される直流入力電圧Vinをスイッチングして入力交流電圧が生成され、この入力交流電圧はトランス3の1次側コイル31へ供給される。そしてトランス3では入力交流電圧が変圧され、2次側コイル32A,32Bから、変圧された出力交流電圧が出力される。
【0035】
整流回路4では、この出力交流電圧が整流ダイオード4A,4Bによって整流される。これにより、センタタップC(出力ラインLO)と整流ダイオード4A,4Bの接続点D1との間に、整流出力が発生する。
【0036】
平滑回路5では、このセンタタップC(出力ラインLO)と整流ダイオード4A,4Bの接続点D1との間に生じる整流出力が平滑化され、出力端子T3,T4から直流出力電圧Voutとして出力される。そしてこの直流出力電圧Voutは、図示しない低圧バッテリに給電されてその充電に供されると共に、負荷6が駆動される。
【0037】
ここで、このスイッチング電源装置では、スイッチング回路1において、スイッチング素子S1,S4がオン状態になる期間と、スイッチング素子S2,S3がオン状態になる期間とが、交互に繰り返されるようになっている。よって、このスイッチング電源装置の動作をより詳細に説明すると、以下のようになる。
【0038】
まず、図7に示したように、スイッチング回路1のスイッチング素子S1,S4がオン状態になると、スイッチング素子S1からスイッチング素子S4の方向に1次側ループ電流Ia1が流れる。すると、トランス3の2次側巻線32A,32Bにそれぞれ現れる電圧VOA,VOBは、整流ダイオード4Bに対して逆方向となる一方、整流ダイオード4Aに対して順方向となる。このため、整流ダイオード4Aから2次側コイル32A、そして出力ラインLOへ、出力電流Ixが流れる。これにより、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷6が駆動される。
【0039】
また、このとき、整流ダイオード4A、トランス3の2次側コイル32A、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る2次側ループ電流Ia2も流れており、出力平滑コンデンサ52への充電(エネルギーの蓄積)が行われるようになっている。
【0040】
一方、図8に示したように、スイッチング回路1のスイッチング素子S1,S4がオフ状態になると共にスイッチング素子S2,S3がオン状態になると、スイッチング素子S3からスイッチング素子S2の方向に1次側ループ電流Ib1が流れる。すると、トランス3の2次側コイル32A,32Bにそれぞれ現れる電圧VOA,VOBは、整流ダイオード4Aに対して逆方向となる一方、整流ダイオード4Bに対して順方向となる。このため、整流ダイオード4Bから2次側コイル32B、そして出力ラインLOへ、出力電流Ixが流れる。これにより、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷6が駆動される。
【0041】
また、このとき、整流ダイオード4B、トランス3の2次側コイル32B、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る2次側ループ電流Ib2も流れており、出力平滑コンデンサ52への充電(エネルギーの蓄積)が行われるようになっている。
【0042】
続いて、1次側コイル31の作用について説明する。このスイッチング電源装置では、その動作の際、上記のように1次側コイル31(導体31A,32B)に1次側ループ電流Ia1,Ib1が流れるようになっている。そのため、導体31A,32Bそのものの温度が上昇する場合がある。その場合、基板31Cと導体31A,32Bとの熱膨張率の相違により、基板31Cと導体31A,32Bとの接合界面において応力が発生することとなる。ところが、このスイッチング電源装置では、導体31A,32Bにおける輪郭OL1〜OL6が巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かうベクトルを有する部分と、巻回外周側へ向かうベクトルを有する部分とを交互に含む波形状となっている。よって、導体31A,32Bの温度上昇が生じた際には、巻回方向R以外の向きへ膨張しようとする応力成分が増大し、巻回方向Rに沿って膨張しようとする応力成分が低減される。
【0043】
図9は、この温度変化による導体31Aの変位の様子を模式的に表したものである。図9は、図5(A)に示した巻回体31T3における位置P1から位置P2までの区間を直線状に伸ばした様子を表し、特に、実線が駆動前の常温時に対応し、破線が駆動中(後)の高温時に対応している。図9では、巻回方向Rに沿った紙面横方向が基板31Cの表面における位置P1から位置P2までの導体31Aに沿った距離に相当し、紙面上下方向が基板31Cの表面と直交する方向(厚み方向)における導体31Aの変位に相当する。図9に示したように、常温時に比べて高温時には巻回体31T3自体の長さは増加するものの、位置P1から位置P2に至るまで細かい振幅を繰り返すように伸びる方向が変化するので、位置P1から位置P2までの距離はほとんど変化しない。よって、結果的に基板31Cを含めた1次側コイル31全体の反りや歪みが生じにくくなる。特に、本実施の形態では、巻回体31Tにおいて巻回内周側の輪郭と巻回外周側の輪郭とが巻回方向Rを基準としてほぼ左右対称な形状を有しているので、巻回内周側へ向かう応力成分と巻回外周側へ向かう応力成分とが互いに打ち消しあうこととなり、1次側コイル31全体の歪みや反りの発生がより抑制される。
【0044】
このように、本実施の形態の1次側コイル31では、導体31A,32Bにおける輪郭OL1〜OL6を、巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する部分とを交互に含む形状としたので、高温環境下に置かれた場合であっても熱膨張に伴う基板31Cと導体31A,32Bとの間に発生する応力を、巻回方向R以外の方向にも分散させることができる。したがって、1次側コイル31全体の反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。よって、この1次側コイル31を備えたトランス3においては、変圧比の向上を図りつつ、さらなるコンパクト化を実現することができる。特に、隙間31Sが(その輪郭OLと直交する方向において)一定幅を有するようにしたので、導体31A,31Bの線積率が向上し、よりコンパクト化を図ることができる。その一方で、巻回方向Rに沿った応力成分を全体に亘って偏りなく低減することができ、1次側コイル31における局所的な歪みや反りの発生を抑制することができる。
【0045】
<変形例>
次に、図10(A),10(B)を参照して、本実施の形態における変形例について説明する。図10(A)は、1次側コイル31を構成する導体31Aの変形例としての導体31Dの平面構成を表すものであり、図5に対応している。また、図10(B)は、導体31Dの平面構成の要部を拡大して表すものであり、図6に対応している。
【0046】
図10(A),10(B)に示したように、導体31Dは、その一部をなす巻線体31T1,31T2,31T3が巻回方向Rを基準として巻回内周側へ向かう平均ベクトルを有する第1の導体部分と、巻回外周側へ向かう平均ベクトルを有する第2の導体部分とを交互に含むものとなっている。具体的には、巻線体31T1,31T2,31T3において、区間311が上記第1の導体部分に相当し、区間312が上記第2の導体部分に相当する。なお、区間311,312は、輪郭OL1〜OL6における輪郭ベクトルが、巻回方向Rを基準として巻回内周側から巻回外周側へ向かうように切り替わるピーク位置と、巻回外周側から巻回内周側へ向かうように切り替わるピーク位置との間の領域を意味する。また、平均ベクトルとは、ある区間における導体部分に対応した輪郭の、平均的なベクトルを意味する。また、導体31Dは、巻線体31T1,31T2,31T3が(輪郭OL1〜OL6と直交する方向において)一定の幅を有すると共に、一定の間隔を空けて巻回するように(すなわち、隙間31S1,31S2も一定の幅を有するように)構成されている。
【0047】
この場合においても、上記実施の形態と同様、1次側コイル31全体の歪みや反りの発生を抑制することができる。
【0048】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、上記実施の形態等では、本発明のコイルを、トランス3の1次側コイル31に適用する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、平滑回路5のチョークコイル51に適用することも可能である。また、本発明のコイルにおける導体および隙間の輪郭の形状は、上記実施の形態等で説明したものに限定されるものではない。上記実施の形態等では、それらの輪郭を、連続する曲線としたが、屈曲した不連続な線としてもよい。すなわち、それらの輪郭は、導体の巻回方向以外のベクトル成分を有するものであればよい。
【0050】
また、上記実施の形態等では、巻回する導体を基板の両面に設けるようにしたが、例えば図11に示したように、いずれか一方の面にのみに設けるようにしてもよい。図11(A)は、上記実施の形態における1次側コイル31を構成する導体31Aの他の変形例としての導体31Eの外観構成を表すものであり、図11(B)は、その分解斜視図である。なお、その場合、導体31Eにおける巻回中心側の端部31E1を、所定の接続部材31E2を介して引出線L2Pと接続するようにすればよい。さらに、巻回する導体を基板の少なくとも一方の面に設けたものを複数組み合わせることで1つのコイルを構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスイッチング電源装置の構成を表す回路図である。
【図2】図1に示したトランスの外観構成を表す斜視図である。
【図3】図1に示したトランスの分解斜視図である。
【図4】図1に示したトランスのうち、1次側コイルおよび2次側コイルの詳細な構成を表す分解斜視図である。
【図5】図4に示した1次側コイルおよび2次側コイルの平面構成を表す平面図である。
【図6】図5に示した1次側コイルおよび2次側コイルの、要部を拡大した平面図である。
【図7】図1に示したスイッチング電源装置の基本動作を説明するための回路図である。
【図8】図1に示したスイッチング電源装置の基本動作を説明するための回路図である。
【図9】図5に示した1次側コイルを構成する導体の、温度変化による変位の様子を模式的に表した概念図である。
【図10】図4に示した1次側コイルの変形例における平面構成を表す平面図である。
【図11】図4に示した1次側コイルの他の変形例における外観構成を表す斜視図である。
【図12】従来のコイルにおける平面図、断面図、および温度変化による変位の様子を模式的に表した概念図である。
【符号の説明】
【0052】
10…高圧バッテリ、1…スイッチング回路、2…入力平滑コンデンサ、3…トランス、30A…上部コア、30B…下部コア、301〜303…突起部、31…1次側コイル、31A…導体、31B…導体、31C…基板、31D…導体、31E…導体、31T1〜31T3…巻線体、31S1,31S2…隙間、311,312…区間、32A,32B…2次側コイル、32C…基板、4…整流回路、4A,4B…整流ダイオード、5…平滑回路、51…チョークコイル、52…出力平滑コンデンサ、6…負荷、L1P,L2P,L1S,L2S…引出線、OL1〜OL6…輪郭、S1〜S4,S5,S6…スイッチング素子、C1,C2…コンデンサ、L1H…1次側高圧ライン、L1L…1次側低圧ライン、LO…出力ライン、LG…接地ライン、T1,T2…入力端子、T3,T4…出力端子、A,B…端部(引出端)、C…接続部(引出端)、Vin…直流入力電圧、Vout…直流出力電圧、Ia1,Ib1…1次側ループ電流、Ia2,Ib2…2次側ループ電流、Ix…出力電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に沿って所定の隙間を隔てて巻回する導体を有し、
前記隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方が、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第1の部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第2の部分とを交互に含むものである
ことを特徴とするコイル。
【請求項2】
前記隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭の双方が、前記第1の部分と前記第2の部分とを交互に含むものである
ことを特徴とする請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記導体は、巻回方向に沿って自らの幅が拡大する部分と縮小する部分とを交互に含むものである
ことを特徴とする請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
前記導体は、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう平均ベクトルを有する第1の導体部分と、巻回外周側へ向かう平均ベクトルを有する第2の導体部分とを交互に含むものである
ことを特徴とする請求項2に記載のコイル。
【請求項5】
前記導体は、その輪郭の法線方向において一定の幅を有している
ことを特徴とする請求項4に記載のコイル。
【請求項6】
前記隙間は、その輪郭の法線方向において一定の幅を有している
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のコイル。
【請求項7】
磁芯と、
前記磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルと
を備え、
前記1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方は、
基板の表面に沿って所定の隙間を隔てて巻回する導体を有し、
前記隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方が、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かうベクトルを有する第1の部分と、巻回外周側へ向かうベクトルを有する第2の部分とを交互に含むものである
ことを特徴とする変圧素子。
【請求項8】
直流入力電圧をスイッチングして入力交流電圧を生成するスイッチング回路と、
磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルを有し、前記入力交流電圧を変圧して出力交流電圧を出力する変圧素子と、
前記変圧素子の2次側に並列接続され、前記出力交流電圧の整流動作を行うことで直流出力電圧を生成する整流回路と
を備え、
前記変圧素子における1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方は、
基板の表面に沿って所定の隙間を隔てて巻回する導体を有し、
前記隙間における巻回内周側の輪郭および巻回外周側の輪郭のうち少なくとも一方が、巻回方向を基準として巻回内周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第1の部分と、巻回外周側へ向かう輪郭ベクトルを有する第2の部分とを交互に含むものである
ことを特徴とするスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−45126(P2010−45126A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207333(P2008−207333)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】