説明

コイル状ワイヤの被覆用プライマー

プライマーおよびトップコート、特に親水性潤滑性トップコートを備えるコーティング系を備える金属ワイヤを提供する方法を開示する。この方法は、Tgが−20℃〜40℃の範囲にある第1相およびTgが25℃〜120℃の範囲にあるハード相を含む多相ビニルポリマーを含む水性コーティング組成物であるプライマーコーティング組成物をワイヤ金属に直接適用することを含む。このプライマーは金属表面およびトップコートの両方に対し十分な接着性を有しており、特に、最終コーティング系に良好な可撓性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、金属ワイヤ、特に、体腔内に医療機器を挿入する際の医療または手術用具として使用することができるコイル状の金属ガイドワイヤを被覆するためのプライマーに関する。特に本発明は、硬化させることにより潤滑性および親水性を有する表面を供する硬化性トップコートと併用されるプライマーに関する。
【0002】
[発明の背景]
体腔内に挿入するための医療機器は幅広く利用されている。その例としては、気管、血管、尿道、または他の体腔もしくは組織に挿入されるカテーテル、電極、センサー、造影補助具(imaging aid)、およびガイドワイヤがある。
【0003】
このような機器は、留置および操作の際に起こる組織外傷を発生させることなくそれを(または他の医療機器を介して)確実に体腔内に導入するために高い平滑性を有することが求められる。
【0004】
挿入された医療機器を使用する際に摩擦または研磨力が生じて医療器具表面に加わる場合がある。挿入された医療器具と他の器具との接触面または患者内部の接触面との間の摩擦抵抗は低いことが望ましい。例えば、カテーテルおよびガイドワイヤ間の摩擦が比較的高いと、ガイドワイヤのカテーテル内への円滑な挿入の妨げとなり得るだけでなく、ガイドワイヤのカテーテル内部における容易な動作も妨げる可能性があり、例えば、予定された血管部位で繊細な留置操作を行うことがより難しくなる。
【0005】
カテーテルは、典型的には、単一または複数のルーメンを有していてもよいプラスチック製チューブからなる。カテーテルには、血管を閉塞するかまたはカテーテルを所望の位置に固定するためのバルーンがチューブに沿って取り付けられている場合がある。カテーテルはまた、遠位端の開口部、一部の長手方向に沿ったサイドポート、または器具の特定の役割を果たすために必要な他の機械的特徴を有している場合もある。カテーテルはまた、連続した長さの管材料からなるものでもよく、あるいは器具の長手方向に沿った異なる位置で異なる特性を示すように、同種または異種材料が一つに溶接された2個以上の部分を含むものでもよい。カテーテルは、1つの区間内で先細りしていても、あるいは直径が異なる複数の区間を有することによって先細りしていてもよい。カテーテルを構成する典型的な材料としては、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等のポリビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、シリコーン等が挙げられる。典型的な直径は、1ミリメートル未満〜8ミリメートル超の範囲内にある。
【0006】
カテーテル挿入時に典型的に行われることであるが、予め定められた部位において、ガイドワイヤの先端がカテーテル先端の開口部まで挿入され、ガイドワイヤを含むカテーテルが、例えば血管内に経皮的に挿入され、これを先導および支持するための案内具としてガイドワイヤを用いることによってカテーテルが血管内にさらに挿入される。このような操作を行う際に摩擦および研磨力が発生して医療器具表面に加わる。カテーテルの内面とガイドワイヤとの間の摩擦抵抗は低いことが望ましい。カテーテルおよびガイドワイヤ間の摩擦が比較的高いと、ガイドワイヤのカテーテル内への挿入が妨げられるだけでなく、ガイドワイヤをカテーテル内で容易に動作させることも妨げられ、予定された血管部位において繊細な留置操作を行うことが難しくなる。場合によってはガイドワイヤをカテーテルから引き抜くことができず、留置操作が完了したにも拘わらずカテーテルのルーメンを使用できなくなる。
【0007】
このような問題を回避するために、当該技術分野においては、テフロン(Teflon)(登録商標)やシリコーン油等の低摩擦抵抗材料をガイドワイヤ外面に適用する試みがなされている。シリコーン油を適用してもシリコーンのコーティングが即座に失われてしまうことから潤滑性は維持されない。摩擦抵抗に加えて頻繁に適用を行うことも上述したような望ましくない問題を生じさせる。
【0008】
したがって、血管内におけるより繊細な操作を可能にし、通常であれば留置時の操作が困難な部位に容易にカテーテルを挿入して維持することを可能にする、摩擦抵抗がより小さい表面を有するカテーテルおよびガイドワイヤが必要とされている。
【0009】
ポリウレタンコーティングを金属表面に直接適用することが行われてきた。このことに関する参考文献が米国特許第4,876,126号明細書である。しかしながら、この技術の商業形態では十分な性能を得るために厚肉の層(60〜80ミクロン厚)を必要としている。実際、厚肉の層が被覆された金属基材の周囲に連続的に広がっている。この層は良好な密着力を有しており、したがって、例えこの層が金属表面に対し十分な接着力を必ずしも有する必要がない場合でさえも、金属表面に強固に結合しているようである。この種のコーティングの欠点は、ポリウレタンおよび他のプラスチック層が厚過ぎるため、その下の金属ワイヤの直径をそれに対応して縮径させなければならないことにある。これは特に、循環器内科(例えば、冠動脈形成術)またはニューロインターベンションにおけるカテーテル挿入術に使用されるような非常に細いワイヤを用いる場合に問題となる。
【0010】
実例として、ワイヤおよびコイル状ワイヤの直径は200ミクロン〜2ミリメートル超の範囲にあり、ワイヤまたはコイル状ワイヤを含む器具の全長は、一般に50cm〜2.5mの範囲にあり、コイル状部分は、可撓性や耐ねじれ性等の所望の機械的性質に応じて1cm〜ワイヤの全長までどこにでも作製される。器具の全部または一部のみにコーティングが必要とされる場合もある。
【0011】
しかしながら、特にコイル状ワイヤに関して言えば、この種のコーティングの要件は必然的に厳しくなるため、ポリウレタン外被をコーティングで代替することは単純ではない。このコーティングは、コイル状ワイヤと一緒に屈曲するのに十分な弾性を有するべきであり、かつ金属に対する十分な接着性を有するべきである。また、挿入過程に耐える十分な耐摩耗性も有するべきである。
【0012】
金属ワイヤに潤滑性を有する親水性トップコートを施す方法を開示している国際公開第91/19756号パンフレットを参照すると、2層コーティングが適用されている。この参考文献の教示は特に、第1のラテックスコーティングを適用し、次いで、第2のコーティングが適用される前に確実に第1のコーティングが硬化しないようにして第2のコーティングを適用し、その後に両方のコーティングを熱を用いて同時に硬化させることを含むプロセスを対象としている。この文書においては、十分に強力な接着性を有するコーティングを提供することが追求されている。これは、上述したような所望の性質の組合せをさらに改善することには対処していない。この参考文献においては上述の熱硬化プロセスがその本質であり、さらに、ここに開示されている被覆されたワイヤは、本発明が特に関連する放射線硬化型のトップコートには勿論、低温硬化型のトップコートにも適用することができない。
【0013】
概して、以下のうちの1つまたはそれ以上を満たす、体腔内に挿入するのに好適な金属ワイヤ、特にガイドワイヤ、より詳細にはコイル状ワイヤを被覆する方法を提供することが望ましい:コーティングを金属ワイヤに十分に接着させる;コーティング間の接着が十分であり、望ましい潤滑性を有する表面を提供する;コイル状ワイヤに適応する十分な弾性を有する;医療機器内への挿入に用いるのに十分な耐摩耗性を有する:およびコイル状ワイヤに適合させることが可能な(例えば、薄過ぎないことによる)コーティング層に基づく所望の性能を提供する。望ましくは、コーティングは、コイルを屈曲させても破壊しない十分な弾性を有し、かつ屈曲後に変形しない。
【0014】
硬化させることによって潤滑性および親水性を有する表面を供する硬化性トップコートを含むコーティングと一緒に、金属表面、特に金属ワイヤを被覆するために使用されるプライマーを提供することが特に望ましい。このプライマーは、可撓性、弾性、金属表面に対する接着性、およびトップコートに対する接着性を適切に兼ね備えている。望ましくは、こうすることにより、良好なコーティング間の接着性および耐水性を有する最終的なコーティングが金属上に得られる。これらの特性の組合せを満たす系はまだ知られていない。
【0015】
[発明の概要]
前述の要求の1つまたはそれ以上により適切に対処するために、本発明は、一態様において、少なくともプライマーおよびトップコートを備え、前記トップコートが70℃未満で硬化可能であるコーティング系で金属ワイヤを被覆する方法であって、
I)金属ワイヤにプライマーコーティング組成物を直接適用し、プライマーを少なくとも部分的に乾燥させることと、
II)トップコートコーティング組成物を適用することと、
III)トップコートを硬化させることと
を含み、プライマーコーティング組成物が、最低造膜温度が40℃未満、好ましくは30℃未満であり、Tgが−20℃〜40℃まで、好ましくは−20℃〜25℃までの範囲にある第1相およびTgが25℃〜120℃、好ましくは40℃〜120℃の範囲にある第2相を含む多相ビニルポリマーを含み、第2相のTgが第1相のTgよりも高い水性組成物である、方法である。
【0016】
さらなる態様においては、本発明は、金属ワイヤを被覆するための上述のプライマー組成物の使用および結果として得られる被覆された金属ワイヤ、特にコイル状金属ワイヤに関する。
【0017】
さらなる態様においては、本発明は、被覆された金属ワイヤを備える医療器具および循環器内科またはニューロインターベンションにおけるカテーテル挿入におけるこの種の医療器具の使用である。
【0018】
[発明の詳細な説明]
本発明は、広義には、多相ビニルポリマーの水性エマルジョンを含むコーティング組成物が、金属ワイヤ、特にコイル状ワイヤ用コーティングのプライマーに適切な特性の組合せを提供できることを認識したことに基づいている。
【0019】
本発明が対象とする金属ワイヤには、一般に医療用ワイヤ用途に好適なあらゆる種類の金属が包含される。これらは当該技術分野において周知であり、好ましくは、不動態化されたステンレス鋼等のステンレス鋼(例えば、304および316グレード)またはニッケル/チタン合金等を含んでいる。
【0020】
多相ビニルポリマーコーティングは、普通はこのようなガイドワイヤ用コーティングのような小規模用途には用いられない。典型的には、これらは塗料およびワニスに使用される。例えば、国際公開第98/08882号パンフレットまたは米国特許第5,731,377号明細書を参照されたい。本発明は、親水性および潤滑性を有するトップコート用のプライマーは、単一のコーティング組成物では普通は得られない幾つかの特性、すなわち接着性、弾性、および密着性を兼ね備えていることが必要であるという認識を上手く利用したものである。
【0021】
本発明によれば、この特性の組合せは、多相ビニルポリマーを含む水性コーティング組成物を選択することによって提供することができる。
【0022】
本明細書における水性コーティング組成物とは、水が主成分(担体媒体の少なくとも50重量%、最も一般的には少なくとも90重量%)である水性担体媒体中のビニルポリマーの分散液またはエマルジョンを意味する。
【0023】
本発明のプライマーにおいては、多相ビニルポリマー中の第1および第2相のTgのバランスが重要であると考えられている。
【0024】
本発明におけるポリマーのTgはガラス転移温度を表し、ポリマーがガラス状の脆い状態からゴム状状態に変化する温度であることが周知である。ポリマーのTgの値は、周知のFoxの式を用いて求めてもよい。したがって、「n」元共重合されたコモノマーを有する共重合体のTg(ケルビン度)は、各種コモノマーの重量部Wおよび各コモノマーから誘導された単独重合体のTg(ケルビン単位)から、式:
1/Tg=W/Tg+W/Tg+......Wn/Tg
に従い与えられる。
【0025】
ケルビン度で求められたTgは容易に℃に変換することができる。
【0026】
Tgが−20℃〜40℃までのポリマーは、本明細書においては「ソフト」ポリマーと定義され、一方、Tgが25℃〜120℃であるポリマーは、「ハード」ポリマーと定義される。
【0027】
少なくとも2つの相のTgの差は、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも35℃、最も好ましくは50℃〜100℃である。
【0028】
好ましくは、多相ビニルポリマーの最低造膜温度は、40℃未満、好ましくは30℃未満、より好ましくは20℃未満である。
【0029】
一般に、多相ビニルポリマーは、存在するハードポリマーよりも軟質となる。したがって、好ましくは、ソフトポリマーまたは場合に応じてポリマーの軟質部分が50重量%〜95重量%の範囲で存在することとなり、ハードポリマーまたは場合に応じてポリマーの硬質部分が5重量%〜50重量%の範囲で存在することになる。好ましくは、3種以上の異なる相を有する多相ポリマーにおいては、硬質相に対する軟質相全体の割合は上記に一致する。
【0030】
本発明はコーティング組成物に関するものであるから、本プライマーに用いられる多相ビニルポリマーはコーティング組成物に適している、すなわちこれらは造膜性を有していると理解されるであろう。当業者は、コーティング組成物に使用するのに好適なビニルポリマーを構成する一般的な方法を周知している。
【0031】
本明細書におけるビニルポリマーとは、ビニルモノマーとしても周知の少なくとも1種のオレフィン性不飽和モノマーの付加重合(ラジカル過程(free radical process)を用いる)から誘導された単独または共重合体を意味する。多段ビニルポリマーの第1および第2相を形成するのに使用することができるビニルモノマーの例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アクリロニトロニトリル(acrylonitronitrile)、メタクリロニトリル、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等)、およびバーサチック酸のビニルエステル(veova 9やveova 10等(veovaはShellの商標))、複素環式ビニル化合物、モノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のアルキルエステル(マレイン酸ジ−n−ブチルやフマル酸ジ−n−ブチル等)、ならびに、特に式CH=CRCOOR(式中、Rは、Hまたはメチルであり、Rは、場合により置換された1〜20個の炭素原子、より好ましくは1〜8個の炭素原子を有するアルキルまたはシクロアルキルである)の(メタ)アクリル酸のエステルが挙げられ、その例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル(すべての異性体)、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸プロピル(すべての異性体)、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル((メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、およびこれらの修飾された類縁体(Tone M−100等(Toneはユニオン・カーバイド・コーポレーション(Union Carbide Corporation)の商標))がある。オレフィン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸の他の例として、(メタ)アクリル酸、ベータカルボキシエチルアクリレート、フマル酸、イタコン酸等も使用してもよい。
【0032】
特に好ましくは、ビニルポリマーは、1種またはそれ以上の上述した式CH=CRCOORのビニルモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、およびアクリロニトリルを少なくとも60重量%含むモノマー系から作製される。この種の好ましいビニルポリマーは、本明細書において(メタ)アクリル系ポリマーと定義される。より好ましくは、ビニルモノマー系は、この種のモノマーを少なくとも70重量%、特に少なくとも80重量%含む。この種の(メタ)アクリル系ポリマー中の他のモノマー(使用される場合)として、1種またはそれ以上の上述した他のビニルモノマーが含まれていてもよく、かつ/またはこの種の他のモノマーとは異なるものが含まれていてもよい。最も好ましいモノマーとしては、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸、スチレン、およびアクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。
【0033】
ビニルポリマーは、結果として得られるポリマーコーティング組成物に接着および/または架橋機能を提供するビニルモノマーを含んでいてもよい。このようなものの例としては、少なくとも1個の遊離カルボニル、ヒドロキシル、エポキシ、アセトアセトキシ、またはアミノ基を有する(メタ)アクリル系モノマー;アリルメタクリレート、テトラエチレングリコールメタクリレート、およびジビニルベンゼンが挙げられる。接着促進モノマーは、アミノ、尿素、またはN−複素環式基を含む。この種のモノマーが使用される場合は、通常は、重合に使用されるモノマーの総重量の0〜5重量%、より通常は0〜2重量%の量で使用される。
【0034】
多段重合ビニルポリマー(multistage vinyl polymer)は、上で議論した1種またはそれ以上のビニルモノマーから作製できるが、所望のTg特性を得るためにこの種のモノマーの量および種類の両方を選択することが必要であることは理解されるであろう。
【0035】
本明細書において用いられるビニルポリマーという用語には、1種類のビニルポリマーだけでなく1種類を超えるビニルポリマーも包含される。
【0036】
ビニルポリマーの調製は、多相ポリマーが得られるように実施される。多相という用語は、単一膜を形成するコーティング組成物が異なる特性および/または形態を併せ持つポリマーを可能にする任意のポリマー構成を指すために用いられる。このような構成としては、オリゴマー−ポリマー構成、2種のポリマーのブレンド物、連続重合体(sequential polymer)(コア−シェルを含む)、および上記したものの組合せが挙げられる。
【0037】
プライマーに使用される多相ビニルポリマーは、好ましくは多段重合ビニルポリマーである。これは、多段乳化重合法により形成されたポリマー系を指し、2種以上の別個のモノマー混合物を水性連続乳化重合させることにより2種以上のポリマー相を調製したものである。したがって、その最も単純かつ好ましい形態においては、第1ポリマー相は、好ましくは乳化重合により形成され(これが例えば、本発明において定義されるソフトまたはハードのいずれかとなり得る)、次いで第2ポリマー相が、好ましくは第1ポリマー相の存在下における乳化重合により形成される。第2ポリマーは、第1ポリマーがハードである場合はソフトであってもよく、あるいは第1ポリマーがソフトである場合はハードであってもよい。より複雑な多段重合体の設計としては、2種以上のソフトポリマー相および/または2種以上のハードポリマー相を有するものが挙げられ、重合は任意の順序で実施される。
【0038】
好ましくは、多段重合ビニルポリマーは、イオン性または潜在的イオン性の水分散性基を有するビニルモノマーを10重量%未満、より好ましくは0.5〜6重量%、最も好ましくは2〜5.5重量%含む。
【0039】
好ましくは、イオン性または潜在的イオン性の水分散性基を有するビニルモノマーは、アニオン性または潜在的アニオン性の水分散性基を有するビニルモノマー、より好ましくはカルボン酸基を有するビニルモノマー、最も好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0040】
好ましい実施形態においては、ハードポリマー相は、(i)メタクリル酸メチル、スチレン、メタクリル酸エチル、およびアクリロニトリルから選択される少なくとも1種のモノマーを40〜100重量%(より好ましくは、60〜90重量%);アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸2−エチルヘキシルから選択される少なくとも1種のモノマーを0〜60重量%(より好ましくは10〜40重量%);ならびにアクリル酸、メタクリル酸、およびベータカルボキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを0〜6重量%(好ましくは0.5〜4.5重量%)を含むビニルモノマー組成物から誘導されたものであってもよい。
【0041】
好ましい実施形態においては、ソフトポリマー相は、(ii)アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸2−エチルヘキシルから選択される少なくとも1種のモノマーを40〜100重量%(好ましくは50〜80重量%);メタクリル酸メチル、スチレン、メタクリル酸エチル、およびアクリロニトリルから選択される少なくとも1種のモノマーを0〜60重量%(好ましくは20〜50重量%);ならびにアクリル酸、メタクリル酸、およびベータカルボキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを0〜6重量%を含むビニルモノマー組成物から誘導されたものであってもよい。
【0042】
本発明のプライマーに使用されるコーティング組成物を構成するポリマーは、中程度の酸価を有することが望ましい。好ましくは、各相は、モノマーの総量を基準として、カルボン酸官能基を有するモノマーを2〜10重量%有する。
【0043】
好ましくは、多相ポリマー(全体)は、カルボン酸基を有するモノマーを、モノマーの総量を基準として2.5〜10重量%有する。
【0044】
好ましくは、酸価は、10mg〜70mgkoh/gポリマー、より好ましくは30mg〜50mgkoh/gポリマーである。
【0045】
プライマーに使用される多相ポリマーは、好ましくは比較的小さい粒子を形成する。平均粒度は、通常は500nm未満であろう。好ましくは、平均粒度は400nm未満、より好ましくは300nm未満、最も好ましくは150nm未満である。
【0046】
粒度とは、マルバーン・ゼータサイザー(Malvern Zeta sizer)3000 hsaを用いた光散乱によって測定された粒子の直径または大きさの平均を指す。
【0047】
本発明において使用される多相ポリマーの製造には、開始剤、連鎖移動剤、界面活性剤等の加工助剤を含む慣用の重合方法を用いることができる。
【0048】
通常、本発明の組成物に使用されるビニルポリマーは、水性ポリマーエマルジョンを形成することを目的として、水性乳化重合法においてフリーラジカル付加重合を用いて作製される。このような水性乳化重合法は、それ自体は当該技術分野において周知であり、かなり詳細に説明する必要はない。この種の方法が、水性媒体中にビニルモノマーを分散することと、フリーラジカルを生成する開始剤ならびに(通常は)適切な加熱(例えば、30〜120℃)および振動(撹拌)を用いて重合を実施することとを含むと言えば十分である。水性乳化重合は、1種またはそれ以上の慣用の界面活性剤を用いて実施することができる。アニオン性および非イオン性界面活性剤および2種の組合せが好ましい。連鎖移動剤(例えば、メルカプタンまたは好適なコバルトキレート錯体)が所望により分子量を制御する目的で含まれていてもよい。
【0049】
好適なフリーラジカルを生成する開始剤としては、過硫酸K、Na、またはアンモニウム、過酸化水素、過炭酸塩等の無機過酸化物;過酸化アシル(例えば、過酸化ベンゾイル等)、アルキルヒドロペルオキシド(t−ブチルヒドロペルオキシドやクメンヒドロペルオキシド等)等の有機過酸化物;ジ−t−ブチルヒドロペルオキシド等のジアルキルペルオキシド;過安息香酸t−ブチル等の過酸化エステル等が挙げられ、混合物も使用してもよい。ペルオキシ化合物は、有利には、ピロ亜硫酸または硫酸水素NaまたはKやイソアスコルビン酸等の好適な還元剤(レドックス系)と併用される場合もある。Fe・EDTA(EDTAはエチレンジアミン四酢酸)等の金属化合物もレドックス開始剤系の一部として有用に用いることができる。アゾ基を有する開始剤も使用してもよい。好ましいアゾ開始剤としては、アゾビス(イソブチロニトリル)および4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)が挙げられる。使用される開始剤または開始剤系の量は、従来通り、例えば、使用されるビニルモノマー全体を基準として0.05〜4重量%の範囲内である。好ましい開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、アゾビス(イソブチロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、および/またはt−ブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。
【0050】
好適な連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール等のメルカプタン、チオグリコール酸イソオクチル、C〜Cメルカプトカルボン酸およびそのエステル(3−メルカプトプロピオン酸や2−メルカプトプロピオン酸等)、ならびにハロゲン系炭化水素(四臭化炭素やブロモトリクロロメタン等)が挙げられる。使用される連鎖移動剤は、必要なビニルモノマーの重量を基準として、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、最も好ましくは使用されない。
【0051】
多段重合体を作製するための乳化重合に使用される界面活性剤の量は、多段重合体の第1および第2相のポリマーに使用されるモノマーの総重量を基準として、好ましくは0.25〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%、特に1〜2重量%である。
【0052】
好ましくは、コーティング組成物中の遊離モノマーの量は、500ppm未満、好ましくは200ppm未満、より好ましくは100ppm未満である。
【0053】
本明細書において上述した多相ビニルポリマーを含むプライマーコーティング組成物は、金属ワイヤのプライマーとして用いられる。これは、当該プライマーコーティング組成物が金属に直接適用される最初の層であることを意味する。コーティング組成物がプライマーとして使用されるという事は、プライマー層がワイヤの最終外面を形成しないことも意味する。
【0054】
プライマーを適用する前に、例えば、ASTM A967またはASTM A380に記載された方法を用いることにより金属ワイヤを予備処理してもよい。
【0055】
外面は、上に示したように、トップコートである。医療用途に好適な、例えば、抗菌または抗血栓形成作用を示すコーティングなどの任意のトップコートを使用してもよい。特に、トップコートは、潤滑性親水性トップコートである。
【0056】
プライマーおよびトップコートのいずれか一方または両方が1を超える層に存在することが考えられる。プライマーおよびトップコートとは異なるさらなるコーティング組成物が、1またはそれ以上のプライマー層および1またはそれ以上のトップコート層の間に中間コーティングとして適用されることも考えられる。金属にプライマーコーティング組成物をプライマー層として適用する前に他のポリマー溶液または分散液とブレンドすることも可能である。しかしながら、これは、本発明のプライマーを用いることによる利点の1つ、すなわちワイヤ金属およびトップコートの両方に十分に接着するという好ましい特性が失われ得る危険性があるため、好ましくない。また、可撓性等のプライマーの利点をすべて維持しようとする場合は、中間コーティングの弾性、密着性、および他の材料特性をプライマーのそれに適合させるべきである。したがって、金属ワイヤ上に適用されるコーティング全体が、プライマー(上述した多相ビニルポリマーコーティング組成物の1またはそれ以上の層)およびトップコートから基本的になることが好ましい。
【0057】
通常、トップコートは、水溶性親水性ポリマーの水溶液から作製される。好適な親水性ポリマーの例は:
(1)アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド(「Separan」、「Purifloc」、「Magnafloc」、および「Hercules」の商品名で市販されているポリアクリルアミド製品等)、アクリル酸(「Carbopol」、「Versicol」、および「Primal」の商品名で市販されているポリアクリル酸製品等)、およびメタクリル酸の単独重合体または共重合体、
(2)カルボキシメチルセルロース、
(3)無水マレイン酸およびビニルエーテルの共重合体(「Gantrex」の商品名で市販されている製品等)、
(4)デキストラン等の多糖
である。
【0058】
トップコートは放射線硬化型であってもよい。使用される放射線は、ガンマ線、電子線、紫外(UV)線、または近赤外線(NIR)であってもよい。好ましくは、トップコートは放射線硬化型である。より好ましくは、UV硬化型、例えば、DSM neoresins BVからのneoradシリーズ、例えば、neorad R440(UV硬化型脂肪族ウレタン分散液、MFT4℃未満)である。
【0059】
トップコートは、有機酸官能基を有する親水性ポリマー、有機酸官能基を有する第2ポリマー、および有機酸基と反応することができる官能基を有する第2多官能性架橋剤の、水性またはアルコール性(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)または水性アルコール混合物中溶液または分散液から形成してもよい。この組成物を乾燥することにより、第1または第2架橋剤を介して、親水性ポリマーおよび第2ポリマーと第1コーティング組成物中の第1ポリマーとの共有結合が達成され、一体的な親水性トップコートが形成される。親水性ポリマーも、自身に有機酸官能性が存在することによって別のコーティング組成物と共有結合することが可能な幅広いポリマーから選択することができる。特に好ましいのは、ポリアクリル酸ポリマーおよびアクリルアミド−アクリル酸共重合体であり、これらの親水性ポリマーは、その場で潤滑性を供するためにコーティングの外面近傍または外面上に存在すべきである。これらの親水性ポリマーを乾燥すると、水溶液と接触した際に潤滑性を呈する。親水性ポリマーは、有機酸官能基を有する1種またはそれ以上のモノマーからのモノマー単位を含んでいてもよい。この種のモノマーの好ましい例としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびイソクロトン酸が挙げられる。有機酸官能基を有する少なくとも1種のモノマーからのモノマー単位を含むことに加えて、親水性ポリマーは、有機酸官能基を全く有していないビニルピロリドンやアクリルアミド等の少なくとも1種の親水性モノマーからのモノマー単位を含んでいてもよい。本発明による方法において親水性ポリマー中に使用されるかまたは親水性ポリマーとして使用される共重合体の好ましい例は、アクリル酸−アクリルアミド共重合体である。アクリルアミド−アクリル酸共重合体は、Allied ColloidsよりVersicolおよびGlascolの商標で供給されている。この種の共重合体の具体例としては、Versicol WN 23およびGlascol WN 33がある。親水性ポリマーは、好ましくは、水溶液中に0.5〜5重量パーセント、典型的には約1.25重量パーセントの濃度で存在する。
【0060】
最も好ましくは、トップコートは、ポリビニルピロリドン(PVP)をベースとするUV硬化型コーティング組成物である。好適なUV硬化型トップコートとしては、国際公開第2006/056482号パンフレット、国際公開第2008/104573号パンフレット、欧州特許第1957130号明細書、および国際公開第2009/112548号パンフレットに記載されているものが挙げられる。
【0061】
プライマーは、当該技術分野において一般に周知の技法を用いて適用してもよい。例えばこれは、刷毛塗り、ワイプ塗り(wiping)、スワビング(swabbing)、または類似の適用方法と同様に、ディップ、スプレー、またはフローコーティングにより実施される。好ましくは、これは、ディップコーティングにより行われる。まず最初に、金属基材の脱脂を、例えばアセトンを用いて例えば清浄化することが望ましい。当業者に周知の方法を用いて金属表面を不動態化してもよい。プライマーを適用した後は、トップコートを適用する前にプライマーが半硬化乾燥(touch−dry)する程度まで少なくとも部分的に乾燥させるような乾燥ステップが続くことになる。乾燥は、好ましくは空気中、室温または高温で行われる。温度は、典型的には70℃未満である。
【0062】
プライマーは、好ましくは、層の厚みが500nm〜200μmの範囲となるように適用される。好ましい層の厚みは1μm〜20μmの範囲である。
【0063】
トップコートは、当該技術分野において一般に周知の技法を用いて適用してもよい。好ましくは、これは、ディップコーティングによって実施される。トップコートは、例えば、UV照射または熱によって硬化される。
【0064】
結果として得られるプライマーおよびトップコートを含むコーティング系は、金属ワイヤ、特にコイル状ワイヤ用コーティングの特性を適切に兼ね備えている。潤滑性や可撓性等の代表的な特性は摩擦試験によって測定することができる。
【0065】
摩擦が小さいことは、人体の心血管用途に用いられるワイヤに特に重要である。したがって、血管または他の組織の感染および損傷を防ぐためには、被覆されたワイヤが極めて平滑であること、すなわち摩擦は可能な限り小さいことが好ましい。
【0066】
コイル状ワイヤに使用するのに適したものにするには、コーティング系の可撓性が非常に高いことが必要である。
【0067】
人間または動物の体内に適用する場合は、コーティング系は、規制の観点から許容可能であるべきことが理解されるであろう。
【0068】
本発明のプライマーを用いた結果として、本明細書において上述したコーティング系は、金属ワイヤ上で接着性を付与するために適用することができる。
【0069】
本発明はまた、本発明による方法により得ることができる被覆された金属ワイヤおよび本発明による方法により得ることができるコーティングを備えた医療器具、特にカテーテルまたはガイドワイヤにも関する。
【0070】
本発明に従い記載したように被覆された金属ワイヤは、金属ワイヤが通常使用される、ガイドワイヤ、ステント、チューブ等の任意の医療器具(医療器具の部品を含む)に使用することができる。このプライマーにより提供される好ましい接着性、密着性、および可撓性にトップコートの良好な潤滑性が組み合わさることを鑑みると、本発明の器具は、循環器内科、特に冠動脈形成術またはニューロインターベンションにおけるカテーテル挿入に使用するのに特に好適である。
【0071】
総じて、プライマーおよび親水性潤滑性トップコートを備えるコーティング系を有する金属ワイヤを提供する方法を記載する。この方法は、ワイヤ金属上に、Tgが−20℃〜40℃の範囲にある第1相およびTgが25℃〜120℃の範囲にある第2相を有するポリマーを含む多相ビニルポリマーを含む水性コーティング組成物であるプライマーコーティング組成物を直接適用することを含む。プライマーは、金属表面およびトップコートの両方に良好な接着性を示し、特に、最終的なコーティング系に良好な可撓性を与える。
【0072】
上述した様々なパラメータおよび実施した試験には以下の基準が適用される:
−摩擦試験は、ISO 11070:1998(E),annex F(使い捨て用滅菌済み血管内カテーテルイントロデューサー(Sterile single−use intravascular catheter Introducers))に基づく試験を用いて実施した。
−Tgは、ISO 11357−2に従いDSCを用いて測定した。
−最低造膜温度(MFFT)は、ISO 2115:1996(E)に従い測定した。
−摩擦測定は以下のように説明することができる試験を用いて実施する:試験は、ISO 6601:2002(E)に記載された平面−円筒接触(plane−cylinder contact)を用いて一定速度である1cm/sでの往復運動を用いて実施する。室温中、脱イオン水に浸したシリコーン(60 Durometer)の対向面に対して試験を実施する。所与の実験には通常の荷重を取り付けるが、1N〜10Nの任意の値を用いてもよい。
−ISO 1170:1998(E),annex Fに基づき、被覆されたガイドワイヤを円筒の周囲に8回巻き付けることにより曲げ試験を実施した。円筒の直径は、ワイヤの最大直径の10倍とした。ワイヤの最大直径の5倍の円筒を用いて、より半径が小さい曲げ試験を実施した。
【0073】
以下の非限定的な実施例を参照しながら本発明を例示する。
【0074】
[実施例1]
2種類の乳化モノマー供給原料を調製した。モノマー供給原料1は、水(165.5g)、炭酸水素ナトリウム(0.7g)、Surfagene(登録商標)FAZ 109V(50.9g)(界面活性剤)、アクリル酸(30.7g)、アクリル酸ブチル(175.2g)、メタクリル酸ブチル(374.6g)、メタクリル酸メチル(32.8g)を混合することにより調製した。モノマー供給原料2は、水(103.9g)、炭酸水素ナトリウム(0.5g)、Surfagene(登録商標)FAZ 109V(29.3g)、アクリル酸(13.1g)、メタクリル酸ブチル(188.1g)、メタクリル酸メチル(61.5g)を混合することにより調製した。開始剤原料は、水(48.7g)、過硫酸アンモニウム(2.6g)、炭酸水素ナトリウム(0.4g)、およびSurfagene(登録商標)FAZ 109V(17.9g)を混合することにより調製した。モノマー供給原料1はビニルポリマーの76重量%を構成し、モノマー供給原料2はビニルポリマーの24重量%を構成する。
【0075】
撹拌機、窒素導入口、温度計、およびバッフルを備えた2リットルの三ツ口丸底ガラス反応器に、水(582.7g)、炭酸水素ナトリウム(0.5g)、Surfagene(登録商標)FAZ 109V(41.9g)、および過硫酸アンモニウム(0.5g)を充填した。
【0076】
反応器の相の温度を90℃に昇温し、モノマー供給原料1の10%を加えた。次いで、開始剤供給原料の67%に加えて、全部のモノマー供給原料1を50分間かけて反応器に添加した。モノマー供給原料1の添加が完了したら、反応混合物を90℃で15分間維持した。次いで、モノマー供給原料2に加えて残りの開始剤供給原料を25分間かけて反応器に加えた。両方の供給原料の添加が完了したら、反応混合物を90℃で30分間維持した後、室温に冷却した。必要に応じてこの段階でt−ブチルヒドロペルオキシドおよびi−アクリル酸を用いて任意の残留モノマーを85℃で消費した。25%アンモニア溶液を用いてphを調節した。最後に反応混合物を濾過して、ポリマーラテックスを回収した。最終ポリマーのphは5.5、粘度は200mpa.S、固形分は46%であり、この調製による凝塊は0.10%未満であった。平均粒度は99nmであり、供給原料1から形成されたビニルポリマーのTgの計算値は0℃であり、供給原料2から形成されたビニルポリマーのTgの計算値は40℃であった。
【0077】
[比較例2]
水(269.4g)、炭酸水素ナトリウム(1.2g)、Surfagene(登録商標)FAZ 109V(80.2g)、アクリル酸(43.8g)、アクリル酸ブチル(175.2g)、メタクリル酸ブチル(438g)、メタクリル酸メチル(219g)を混合することにより、乳化モノマー供給原料を調製した。水(69.2g)、過硫酸アンモニウム(2.6g)、炭酸水素ナトリウム(0..4g)、およびSurfagene(登録商標)FAZ 109V(17.9g)を混合することにより開始剤供給原料を調製した。
【0078】
撹拌機、窒素導入口、温度計、およびバッフルを備えた2リットルの三ツ口丸底ガラス反応器に、水(582.7g)、炭酸水素ナトリウム(0.5g)、Surfagene(登録商標)FAZ 109V(41.9g)、および過硫酸アンモニウム(0.5g)を充填した。
【0079】
反応器の相の温度を90℃に昇温し、モノマー供給原料の10%を加えた。次いで、開始剤供給原料に加えてモノマー供給原料を75分間かけて反応器に添加した。モノマー供給原料の添加が完了したら、反応混合物を室温に冷却した。必要に応じて、この段階で、任意の残留モノマーを消費するためにt−ブチルヒドロペルオキシドおよびi−アクリル酸を85℃で用いた。25%アンモニア溶液を用いてphを調節した。最後に反応混合物を濾過して、ポリマーラテックスを回収した。最終ポリマーのphは5.5、粘度は200mpa.S、固形分は46%であり、この調製による凝塊は0.10%未満であった。平均粒度は120nmであり、モノマー組成物全体に基づくTgの計算値は20℃であった。
【0080】
[実施例3]
0.2mmの直線状芯材を含む基材である0.20×0.69×400mmのステンレス鋼304コイル状ワイヤをプライマーに浸して10秒間浸漬し、1cm/sの一定速度で引き上げ、被覆された器具を室温で乾燥させた。
【0081】
適用されたプライマーの特性を以下の表に示す(表1)。次いで、以下に示すトップコート配合物をディップコーティングにより1cm/sの引き上げ速度で適用し、風乾し、UV−VIS線により360秒間硬化させた。
【0082】
【表1】



【0083】
次いで、被覆された試料をISO 11070:1998(E),annex Fに従い記載された曲げ試験に従い特定の半径(4.5mm)およびより小さい半径(2mm)の周囲で評価した。ISO 6601:2002(E)に記載された平面−円筒接触の往復運動を用いて1cm/sの一定速度で摩擦試験を実施した。試験は室温中、脱イオン水に浸したシリコーンゴム(60 Durometer)の対向面に対し、通常の荷重である6Nで実施した。
【0084】
表(表1)に示したプライマーを実施例1と同様の方法で生成させた。当業者は、本文に記載された方法に従いTgを計算することによって特定の特性を達成するための好適なモノマーの組合せを選択することができる。
【0085】
プライマー2は実施例1に従い調製されたプライマーに対応し、プライマー12は比較例2に従い調製されたプライマーに対応する。
【0086】
【表2】



【0087】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともプライマーおよびトップコートを含み、前記トップコートが70℃未満で硬化可能であるコーティング系を金属ワイヤに提供する方法であって:
I)前記金属ワイヤにプライマーコーティング組成物を直接適用し、前記プライマーを少なくとも部分的に乾燥させることと、
II)トップコートコーティング組成物を適用することと、
III)前記トップコートを硬化させることと
を含み、前記プライマーコーティング組成物が、最低造膜温度が40℃未満、好ましくは30℃未満であり、Tgが−20℃から40℃まで、好ましくは−20℃から25℃までの範囲にある第1相およびTgが25℃〜120℃、好ましくは40℃〜120℃の範囲にある第2相を含み、前記第2相のTgが前記第1相のTgよりも高い多相ビニルポリマーを含む水性組成物である、方法。
【請求項2】
前記多相ビニルポリマーが、2種以上の別個のモノマー混合物の水性連続乳化重合により2種以上のポリマー相を調製する多段乳化重合法により形成される多段重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多相ビニルポリマーが、(メタ)アクリル系ポリマーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多相ポリマーの前記2相のTgの差が、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも35℃、より好ましくは50℃〜100℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1相が、前記多相ビニルポリマーの50重量%〜95重量%を構成し、前記第2相が、前記多相ポリマーの5重量%〜50重量%を構成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多相ビニルポリマーが、カルボン酸官能性モノマーを、モノマーの総量を基準として2.5重量%〜10重量%有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記多相ビニルポリマーの酸価が、10mg〜70mgkoh/gポリマー、好ましくは30mg〜50mgkoh/gポリマーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多相ビニルポリマーが、平均粒度が500nm未満、好ましくは150nm未満の粒子を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記トップコートが、放射線硬化型、より好ましくはUV硬化型である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記トップコートコーティング組成物を硬化させると潤滑性親水性トップコートとなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属ワイヤがコイル状ワイヤである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属がステンレス鋼である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により得ることができる被覆された金属ワイヤであって、外面上の親水性潤滑性トップコートと、前記金属表面上の多相ビニルポリマーを含むプライマーとを含む多層コーティング系を備える、金属ワイヤ。
【請求項14】
請求項13に記載の被覆された金属ワイヤ、好ましくは、ガイドワイヤ、ステント、またはチューブを備える医療器具。
【請求項15】
循環器内科、好ましくは、冠動脈形成術またはニューロインターベンションにおけるカテーテル挿入に用いるための、請求項14に記載の医療器具。

【公表番号】特表2012−514676(P2012−514676A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544883(P2011−544883)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050232
【国際公開番号】WO2010/079229
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】