説明

コエンザイムQ10の光劣化防止剤及び経口組成物

【課題】遮光もしくは非遮光の条件に拘らず、PET容器等の非遮光性条件下であっても、光に対して経日安定性に優れるコエンザイムQ10の光劣化防止剤及び経口組成物の提供。
【解決手段】カロチノイドとアスコルビン酸とを含有することを特徴とするコエンザイムQ10の光劣化防止剤(但し、コエンザイムQ10の100重量部に対して、β−カロチンを1〜100重量部、L−アスコルビン酸を10〜1000重量部含んでなるコエンザイムQ10含有栄養組成物を除く)、及びその経口組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コエンザイムQ10の光劣化防止剤及びコエンザイムQ10を含有する経口組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10(補酵素Q−10)は、一般的にはビタミンQとも呼ばれ、ユビデカレノン、ユビキノン、ユビキノール−10とも呼ばれている。融点が約48℃の黄色からだいだい色の結晶性の粉末で、におい及び味はない。また、強力な抗酸化物質であり、身体を最も望ましい状態で機能させるために細胞に与えるとよい栄養素の一つである。このコエンザイムQ10は、体内の細胞でも合成されるが、加齢とともに体内生産能力が低下することが知られている。
【0003】
コエンザイムQ10は、経口的に投与されると心筋細胞のミトコンドリアに取り込まれ、ミトコンドリアDNAやミトコンドリア膜の酸化を防ぐ働きをするものであることから、従来、軽度および中程度のうっ血性心不全による浮腫、肺うっ血、狭心症を含む心筋障害の改善、低下した心拍出量の改善を目的とした医薬品の有効成分として用いられてきた。
【0004】
このような形態で用いられてきたコエンザイムQ10は、油性でありそのままでは水溶液に溶解し難いという問題点を有するものであったが、乳化により水溶液中への分散が可能であるという性質に着目し、通常水を主成分とする飲料に分散することにより上記問題点を克服してきた。しかしながら、コエンザイムQ10は、一般に、光の存在下で分解されやすく、ビタミン等の様々な成分の共存下においても、該成分により分解されるという性質であり、分散液とした場合には、この性質が顕著にあらわれ、長期間の残存性を確保することは大変困難であった。
【0005】
そこで、コエンザイムQ10の分散液を、遮光条件下の分散液中で長期間安定に残存させる方法として、クエン酸及びリンゴ酸による安定化方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、PET容器等の非遮光性条件下においては、やはり光安定性に劣り、改良の余地があった。
【0006】
また、コエンザイムQ10の光に対する安定化方法としては、カロチノイドを共存させることが知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、カロチノイド単独では、まだ光安定性に劣り、更なる改良の余地があった。
【0007】
【特許文献1】特許第3406911号公報
【特許文献2】特許第3053408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、遮光もしくは非遮光の条件に拘らず、PET容器等の非遮光性条件下であっても、光に対して経日安定性に優れるコエンザイムQ10の光劣化防止剤及び経口組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カロチノイドとアスコルビン酸とを含有することを特徴とするコエンザイム
Q10の光劣化防止剤により上記目的を達成する。
【0010】
また、本発明は、コエンザイムQ10を含有する経口組成物において、カロチノイドとアスコルビン酸とを含有することを特徴とする経口組成物により上記目的を達成する。
【0011】
好ましくは、カロチノイドの含有量が、経口組成物全体重量中0.000001重量%以上である。また、更に好ましくは、アスコルビン酸の含有量が、経口組成物全体重量中0.001〜0.1重量%である。
【0012】
更には、カロチノイドがβ−カロチンであることが好適である。
また、経口組成物が飲料であってもよく、包材が非遮光性包材であってもよい。
【0013】
すなわち、本発明者は、コエンザイムQ10含有組成物を流通や展示販売する際に問題となる日光や照明等の光に因るコエンザイムQ10の劣化を防止することにより、上記組成物の品質を維持することについて検討した。
そして、鋭意研究した結果、光に対する安定化剤であるカロチノイドを、コエンザイムQ10を分解しやすい成分として知られるアスコルビン酸と組合わせると、驚くべきことに、コエンザイムQ10が光に対して安定性を示すと共に、他の成分の共存下でも、それらに影響を受けることなくコエンザイムQ10を安定に保持できるという事実を見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コエンザイムQ10含有組成物の形態に拘らず、コエンザイムQ10の光劣化を防止することができる。特に、組成物の中でも経口組成物では、コエンザイムQ10を長期間安定に保持し得ることができ、コエンザイムQ10本来の効能を発揮させることができる。また、経口組成物の包装の有無に拘らず、又は包装されている場合であれば、その包材の遮光性、非遮光性に拘らず、光に対して不安定な経口組成物中のコエンザイムQ10を経日安定に保持し得ることができる。
更には、他の成分の共存下でも、それらの成分の影響を受けてコエンザイムQ10が劣化することなく、コエンザイムQ10本来の効能を発揮させることができる。
また、本発明によれば、経口組成物の風味に影響を及ぼすことなく、コエンザイムQ10の光劣化防止効果が得られる。
更には、製造工程において煩雑な装置及び工程を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明のコエンザイムQ10の光劣化防止剤は、カロチノイドとアスコルビン酸とを含有するものである。
【0016】
まず、カロチノイドとしては、α−カロチン、β−カロチン、γ−カロチン、δ−カロチン、リコペン、クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、ロドキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、クロセチン、スクアレン、β−イオノン等を挙げることができる。これらは単独もしくは複数組合せて用いればよい。この中でも、特にβ−カロチンは、コエンザイムQ10の光劣化防止効果が好適に得られる点で好ましい。
【0017】
アスコルビン酸としては、一般に知られているアスコルビン酸を用いればよく、例えばL−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸ステアリン酸エステル等を挙げることができる。これらは単独もしくは複数組合せて用いればよい。この中でも、特にL−アスコルビン酸ナトリウムは、カロチノイドの光吸収能力を向上させる点で好適である。
【0018】
本発明の光劣化防止剤は、上記カロチノイド及びアスコルビン酸を有効成分として含有する。有効成分とは、目的とする機能が発揮される程度にカロチノイド及びアスコルビン酸を含有することを示す。その含有量は、適宜調整すればよく、好ましくは、上記カロチノイド及びアスコルビン酸の合計量が、剤全体重量中50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上であることが、コエンザイムQ10の光劣化を有効に防止し得る点で好適である。なお、本発明の光劣化防止剤は、カロチノイド及びアスコルビン酸のみにより構成される場合も含む。
上記カロチノイドとアスコルビン酸との配合比率は、カロチノイドの重量1に対して、アスコルビン酸を好ましくは0.1〜100000、更に好ましくは100〜1000に設定することが、カロチノイドの光吸収能力を向上させる点で望ましい。
【0019】
本発明の光劣化防止剤には、上記成分の他に本発明の目的を損なわない範囲で賦形剤、糖質甘味料、調味料、香料、乳化剤、安定剤等の副原料を選択して、単独もしくは複数組合せて用いてもよい。
【0020】
コエンザイムQ10の光劣化防止剤の形態は、特に限定するものではなく、例えば、液体状、粉体状、ペースト状等様々な形態が挙げられる。
【0021】
本発明の光劣化防止剤は、コエンザイムQ10の光に対する劣化を長期間にわたって防止し得るものである。なお、コエンザイムQ10が、カロチノイド及びアスコルビン酸の共存下で光に対する安定化を示すのは、コエンザイムQ10が光を吸収するよりも先に、アスコルビン酸により光吸収能力が向上されたカロチノイドが、光を吸収することによるものと考察される。
本発明の光劣化防止剤は、コエンザイムQ10を含有する組成物、例えば、各種飲食物,内服薬等の経口組成物や、洗口剤,うがい薬等の口腔用組成物や、化粧料や、注射剤等に用いることができる。
【0022】
次に、本発明のコエンザイムQ10を含有する経口組成物について説明する。
本発明のコエンザイムQ10を含有する経口組成物は、カロチノイド及びアスコルビン酸を含有するものである。
【0023】
本発明における経口組成物とは、飲料、錠菓、ゼリー、冷菓等の各種飲食物、内服薬等が挙げられ、この中でも、特にコエンザイムQ10が分解されやすい環境下で存在する飲料であっても、好適にコエンザイムQ10の光劣化防止効果が得られる点で望ましい。
【0024】
本発明の経口組成物に用いるコエンザイムQ10は、従来から用いられているものである。
【0025】
また、本発明の経口組成物に用いるカロチノイド及びアスコルビン酸については、上記コエンザイムQ10の光劣化防止剤で用いるものと同様である。
【0026】
上記カロチノイドの含有量は、経口組成物全体重量中、好ましくは0.000001重量%以上、更に好ましくは0.000001〜0.01重量%、より好ましくは0.00001〜0.01重量%に設定することが光吸収能力を有効に発揮できる点で好適である。
【0027】
上記アスコルビン酸の含有量は、経口組成物全体重量中、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.003〜0.03重量%に設定することが、アスコルビン酸自体がコエンザイムQ10を直接分解することなく、カロチノイドの光吸収能力を向上
させる点で好適である。
【0028】
また、本発明の経口組成物は、コエンザイムQ10の重量1に対して、好ましくはカロチノイドを0.00003〜4、アスコルビン酸を0.03〜40含有させることが、コエンザイムQ10の光劣化を有効に防止し得る点で好適である。
【0029】
なお、本発明の経口組成物には、上記コエンザイムQ10、カロチノイド、アスコルビン酸、経口組成物を構成する主成分の他、必要に応じて副原料を含有してもよい。副原料としては、上記コエンザイムQ10の光劣化防止剤で用いるものと同様のものが挙げられる。
【0030】
本発明の経口組成物は、商品化等の際に包装される場合には、その包装形態は経口組成物の形態により適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。また、包材も特に限定されるものではない。具体的には、飲料の場合であればPET容器等の密封容器が挙げられ、ゼリーの場合であればプラスチック容器等が挙げられ、冷菓の場合であればポリプロピレン製包装用袋等が挙げられる。
また、包材の遮光性、非遮光性に関しても、特に限定されるものではないが、本発明においては、非遮光性包材の場合であっても、有効にコエンザイムQ10の光劣化防止効果を得ることができる点で望ましい。なお、包材が遮光性であっても、遮光性が低かったり、一部に非遮光性部分が形成されていたりなどする場合や、包装を解いて喫食中に一時保管する場合等においては、コエンザイムQ10の光劣化が問題となるので、本発明では包材が遮光性の場合でも目的とする効果を得ることができるのである。
【0031】
本発明の経口組成物の一例である密封容器入り飲料は、例えば、次のようにして製造することができる。
すなわち、コエンザイムQ10とカロチノイドとを混合し、他方でアスコルビン酸とその他必要に応じて副原料及び水を混合する。次いで、両者を更に混合した後、90℃にて殺菌し、PET容器に充填、密封すればよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0033】
〈実施例1〜5、比較例1〜2〉
《密封容器入り飲料の調製》
表1に示す組成で、まず、コエンザイムQ10液とβ−カロチンとを混合し、他方で、残りの原料を混合した。そして、それぞれの混合物を更に一つに混合して調合液を調製した後、その調合液を90℃にて殺菌し、非遮光性PET容器に充填密封することにより、密封容器入り飲料を調製した。
なお、本実験においては、コエンザイムQ10液として、乳化剤を加えて乳化し、グリセリン、食用油脂、増粘剤等を加えて調製された日清ファルマ(株)製のCoQ10水溶化液10S(コエンザイムQ10を9.8%含有)を用いた。
【0034】
《コエンザイムQ10の残存量測定》
上記の実施例及び比較例で得られた密封容器入り飲料(25℃)に対して、日光にて光照射(飲料の温度が20〜30℃に保持される条件)試験を行った。そして、試験開始時、7日後、10日後においてコエンザイムQ10の残存量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下の条件で測定した。測定結果を、表1に併せて示す。
なお、表1の光照射試験の結果は、開始時ピーク面積を100%とした時の7日後、10日後のピーク面積の割合を示すものである。すなわち、値が大きいほど光劣化が少ないことを示すものである。そして、光照射7日後とは約6ヶ月間の流通に相当し、光照射1
0日後とは約9ヶ月の流通に相当するものである。また、ピーク面積の割合が70%以上が、コエンザイムQ10が有効量残存していることを示す。
(HPLC条件)
カラム:XTerra MSC185μm(4.6×150mm)
移動相:メタノール・無水エタノール(80:20)
流量:1ml/min
温度:40℃ 注入50μl
【0035】
【表1】

【0036】
〈実施例6、比較例3〜4〉
《密封容器入り粒状ゼリーの調製》
表2に示す組成で、アスコルビン酸以外の各原料を混合してゼリー溶液を調製し、80℃に加温して更に充分混合した後、20℃まで冷却した。次いで、このゼリー溶液にアス
コルビン酸を添加、混合した後、これを非遮光性プラスチック容器に充填された20%の乳酸カルシウム溶液に滴下することにより成形し、密封することにより密封容器入り粒状ゼリーを調製した。
【0037】
《コエンザイムQ10の残存量測定》
上記の実施例及び比較例で得られた密封容器入り粒状ゼリー(25℃)に対して、実施例1〜5及び比較例1〜2の密封容器入り飲料と同様の測定方法によって、日光にて光照射(粒状ゼリーの温度が20〜30℃に保持される条件)試験を行い、コエンザイムQ10の残存量の測定を行った。測定結果を、表2に併せて示す。
【0038】
【表2】

【0039】
以上のように、実施例の飲料及び粒状ゼリーは、非遮光性容器であるPET容器又はプラスチック容器に充填保存されているにも拘らず、光照射7日後、10日後においても、コエンザイムQ10が有効量残存されていた。すなわち、実施例の飲料及び粒状ゼリーは
、約9ヶ月という長期間流通させても有効量のコエンザイムQ10が残存するため、コエンザイムQ10の本来の効能を発揮させることができる。
これに対し、比較例1の飲料及び比較例3の粒状ゼリーは、β−カロチンが含有されていないため、7日後から既にコエンザイムQ10を残存させることができなかった。また、比較例2及び比較例4は、β−カロチン単独でアスコルビン酸が含有されていないため、7日後はコエンザイムQ10が少量残存しているものの10日後にはコエンザイムQ10が殆ど残存していなかった。すなわち、比較例の飲料及び粒状ゼリーは、長期間流通させるとコエンザイムQ10が劣化し、コエンザイムQ10の本来の効能を発揮させることができないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロチノイドとアスコルビン酸とを含有することを特徴とするコエンザイムQ10の光劣化防止剤(但し、コエンザイムQ10の100重量部に対して、β−カロチンを1〜100重量部、L−アスコルビン酸を10〜1000重量部含んでなるコエンザイムQ10含有栄養組成物を除く)。
【請求項2】
カロチノイドとアスコルビン酸とを含有するコエンザイムQ10の光劣化防止剤であって、日光による光照射後のコエンザイムQ10の残存量であるピーク面積の割合が70%以上であることを特徴とするコエンザイムQ10の光劣化防止剤(但し、酵素処理ルチンを除く)。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコエンザイムQ10の光劣化防止剤を含有する経口組成物。
【請求項4】
カロチノイドとアスコルビン酸とを含有することを特徴とするコエンザイムQ10の光劣化防止方法(但し、コエンザイムQ10の100重量部に対して、β−カロチンを1〜100重量部、L−アスコルビン酸を10〜1000重量部含んでなるコエンザイムQ10含有栄養組成物を除く)。
【請求項5】
カロチノイドとアスコルビン酸とを含有するコエンザイムQ10の光劣化防止方法であって、日光による光照射後のコエンザイムQ10の残存量であるピーク面積の割合が70%以上であることを特徴とするコエンザイムQ10の光劣化防止方法(但し、酵素処理ルチンを除く)。

【公開番号】特開2010−285454(P2010−285454A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179906(P2010−179906)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【分割の表示】特願2004−79671(P2004−79671)の分割
【原出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(393029974)クラシエフーズ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】