説明

コク味を増強する調味料の製造方法

【課題】本発明は、調味料として食品に用いることができ、魚介類を用いた食品のコク味を増強する調味料の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】グルタミン酸含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキス添加した水溶液又は水懸濁液、粉体混合物を加熱処理することにより、製造される調味料がコク味を増強し、特に魚介類を用いる食品で好適に用いることができる調味料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類を用いた食品のコク味を増強する調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カツオは漁獲制限やツナ缶需要の急増により高騰し、カツオエキスや鰹節エキスの値上げの要因となっている。エキスの高騰は食品メーカーにおいてコストアップの要因となっている。またカツオエキスや鰹節エキスにおいては、エキス自体の風味のバラツキが大きいという欠点もある。

【0003】
魚の風味、旨味、コク味を有し、かつ魚の生臭みが少ない調味料の製造方法を提供する方法としては、魚介缶詰の製造時に生じる魚介煮汁に5‘−ヌクレオチド含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキス、野菜エキス、単糖類を混合、溶解した後に加熱して、調味料を得る報告(特許文献1)がある。ここで原料となる魚介煮汁は、主に缶詰製造時に副生するものであるため、原料供給量が不安定であり、また魚種や蒸煮条件の違いにより品質や味質が一定しないという課題がある。
【0004】
また、糖とアミノ酸を含有する調味液、主にだし醤油に含硫化合物を添加し加熱する方法により褐変を抑制することについての報告(特許文献2)がある。
【0005】
特許文献3には、5'-ヌクレオチド含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキスに、単糖類、デキストリン及び食塩を添加し加熱する調味料の製造方法がある。この調味料はコク味を付与する効果は強いものの、畜肉系の風味を有するため、魚介系の食品には必ずしも適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−207432号公報
【特許文献2】特開平8-228714号公報
【特許文献3】特開2003-169627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、魚介類を原料とすることなく、安定生産できる酵母エキスを主原料として用いる調味料であって、魚介類を用いた食品のコク味を増強する調味料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果グルタミン酸高含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキスを添加した水溶液もしくは水懸濁液、または粉体混合物を加熱処理することにより、コク味を増強する調味料を製造する方法を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)グルタミン酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有したグルタミン酸含有酵母エキス及びグルタチオン含有酵母エキスを添加した水溶液もしくは水懸濁液、または該グルタミン酸含有酵母エキスとグルタチオン含有酵母エキスとの粉体混合物を加熱処理することにより製造する調味料の製造方法、
(2)前記グルタミン酸含有酵母エキスの配合比が1〜99重量部、グルタチオン含有酵母エキスの配合比が1〜99重量部であることを特徴とする、上記(1)記載の調味料の製造方法、
(3)前記グルタミン酸含有酵母エキスの配合比が40〜99重量部、グルタチオン含有酵母エキスの配合比が1〜60重量部であることを特徴とする、上記(1)記載の調味料の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、魚介類を原料とせず、主に酵母エキスのみを原料として用いて、コク味を増強する調味料が提供される。この調味料は、特に魚介類を使用する食品に用いることで、カツオなどの魚介風味を増強し、かつバランスの良い風味を付与することができる。
なお、本発明におけるコク味とは5基本味(甘味、塩味、酸味、苦味およびうま味)では表せない味を意味し、厚み、ひろがり、持続性、まとまりなど基本味だけでなく、基本味の周辺の味をも増強した味をいう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、グルタミン酸高含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキスを添加した水溶液もしくは水懸濁液、または粉体混合物を加熱処理するものである。
【0012】
本発明で用いられるグルタミン酸含有酵母エキスはグルタミン酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有した酵母エキスであり、好ましくは30重量%以上含有したものである。グルタミン酸の含有量が少ないと、得られた調味料は食品に添加した場合コクやバランスなどの効果が低いものとなる。
【0013】
グルタミン酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有した酵母エキスは、たとえば特開2009-261253号公報に記載される酵母エキスである。
エキスの抽出は、一般的に酵母エキスの製造で用いられる手法、例えば、加熱抽出法や酵素分解法、あるいは自己消化法のいずれでも可能である。抽出後、遠心分離等の方法により固形分を除去し、エキス分を得る。酵母エキス中のグルタミン酸濃度をさらに高める為に市販のグルタミナーゼをエキス抽出中、もしくはエキス分離後に作用させ、グルタミンからグルタミン酸へ変換させることにより得られる。
【0014】
本発明で用いられるグルタチオン含有酵母エキスは、グルタチオン含有酵母を、温熱水で抽出する方法、蛋白質分解酵素、細胞壁溶解酵素などを添加して抽出する方法、酵母中の酵素を利用して自己消化により抽出する方法等で得られた、グルタチオンを1重量%以上、好ましくは3重量%以上含有している酵母エキスをいい、たとえば「ハイチオンエキスYH」(株式会社興人)などがある。グルタチオンの含有量が少ないと、得られた調味料はコク味・厚みに欠けるものとなる。
【0015】
グルタミン酸高含酵母エキスとグルタチオン含有酵母エキスに用いられる酵母としては、食品あるいは食品添加物として用いられる酵母で、例えばパン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができ、中でもトルラ酵母であるキャンディダ・ユティリスが好ましい。
【0016】
本発明において、グルタミン酸含有酵母エキスとグルタチオン含有酵母エキスとの配合比は、グルタミン酸含有酵母エキス1〜99重量部:グルタチオン含有酵母エキス1〜99重量部が望ましい。さらに、コク味増強効果の点では、グルタミン酸含有酵母エキス40〜99重量部、グルタチオン含有酵母エキス1〜60重量部の配合比がより望ましく、特に、グルタミン酸含有酵母エキス50重量部に対してグルタチオン含有酵母エキス50重量部の比率が望ましい。
これらの配合比の違いにより風味の違いはあるが、いずれもコク味を増強する効果を呈する。
【0017】
本発明の調味料は、グルタミン酸含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキスの粉体混合物、またはそれらを添加した水溶液もしくは水懸濁液を加熱処理することにより製造される。
その他の成分として、食塩等無機塩類やデキストリン、糖類も添加することもできる。
【0018】
本発明においては、グルタミン酸高含有酵母エキス及びグルタチオン含有酵母エキスを添加後、加熱処理をする。加熱反応は、水に各成分を溶解もしくは懸濁、または粉体混合の後、70〜150℃、好ましくは90〜120℃、10分から2時間程度行えば十分である。加熱反応は密閉系で実施することが望ましい。
【0019】
加熱反応終了後、水溶液または水懸濁液の場合は、乾燥、例えばスプレードライヤー等で、粉末状として容易に取得することができる。なお、乾燥時に食塩、デキストリン、糖類等を添加して乾燥することができる。あるいはそのまま濃縮してペースト状とすることもできる。
【実施例】
【0020】
製造例で本発明に使用する高グルタミン酸含有酵母エキスの製造方法について具体的に説明する。
グルタミン酸ナトリウム塩換算で20%以上のグルタミン酸含有酵母エキスは、特開2009-261253号公報実施例記載の方法で製造した。
(製造例1) グルタミン酸含有酵母エキスの製造
酵母エキスの製造には、キャンディダ・ウチリス変異株36D61株(FERM P-21546)の連続培養液を用いた。供試菌株を予めYPD培地を含む 三角フラスコで種母培養し、これを5L容発酵槽に0.5〜1.5%植菌した。培地組成は、グルコース6重量%、リン酸1カリウム2重量%、硫酸アンモニウム1.4重量%、硫酸マグネシウム0.06重量%、硫酸第二鉄10ppm、硫酸亜鉛18ppm、硫酸銅1ppm、硫酸マンガン8ppmである。培養条件は、槽内液量2L、pH4.3(アンモニアによる自動コントロール)、培養温度30℃、通気1 vvm、撹拌 600rpmで行った。この時の比増殖速度は0.24〜0.25 hr-1であった。得られた菌体について分析した結果、遊離のグルタミン酸とグルタミンの総和は14.3重量%(グルタミン酸 5.0重量%、グルタミン 9.3重量%)、対糖菌体収率は56.1%であった。
連続培養液を氷冷しながら回収し、遠心分離により集菌し、湿潤酵母菌体を得た。これを水に再懸濁して、遠心分離し、乾燥重量として約21gの菌体を得た。
ここに得られた酵母に水を加え、全量を200mlとし、次いで湯浴中で加熱し、90℃に逹温してから、90℃で2分間加熱した。この後直ちに流水中で冷却し、液温を50℃とした後、ツニカーゼ(天野エンザイム製細胞壁溶解酵素)の0.2gを少量の水に溶解後添加し、50℃で1hr撹拌しながら反応させた。反応後の液を遠心分離により不溶性固形分を除去しエキスを得た。このエキスに対して、グルタミナーゼ C100S 0.56gを添加し、40〜60℃で5時間、撹拌しながら反応させた。このエキスを90〜95℃で30分加熱し、冷却した後、遠心分離によりエキス中の不溶性固形分を再度除去した。次いでロータリーエバポレーターで濃縮し、凍結乾燥を行い、粉末酵母エキス約11gを得た。エキス抽出率は約51%で、このエキス中の遊離グルタミン酸含量はナトリウム塩換算で
38.2重量%であった。
本製法を繰り返すことにより使用する量の酵母エキスを得た。
【0021】
(実施例1)
製造例1の方法によりグルタミン酸含有酵母エキス(グルタミン酸ナトリウム塩換算で38.2%)を取得し、当該酵母エキスを25重量部、グルタチオン含有酵母エキスとしてハイチオンエキスYH(興人製)(総グルタチオン量17.7%)25重量部を、水50重量部に溶解し105℃、60分加熱反応し調味料を得た。
【0022】
(比較例1)
製造例1の方法により得られたグルタミン酸含有酵母エキス(グルタミン酸ナトリウム塩換算で38.2%含有)25重量部、ハイチオンエキスYH((株)興人製、総グルタチオン量17.7%)25重量部を、水50重量部に溶解し加熱反応をせずに調味料を得た。
【0023】
(比較例2)
グルタミン酸ナトリウムの粉末9.54重量部、ハイチオンエキスYH((株)興人製、総グルタチオン量17.7%)25重量部を、水65.5重量部に溶解し、105℃、60分加熱反応し調味料を得た。
【0024】
(比較例3)
製造例1の方法により得られたグルタミン酸含有酵母エキス(グルタミン酸ナトリウム塩換算で38.2%含有)25重量部、還元型グルタチオンの粉末4.43重量部を水70.57重量部に溶解し、105℃、60分加熱反応し調味料を得た。
【0025】
(比較例4)
グルタミン酸ナトリウムの粉末 1.87重量部、グルタチオンの粉末4.43重量部、酵母エキス(アロマイルド:(株)興人製、グルタミン酸Na 5.8%含有)を水49.77重量部に溶解し、105℃60分加熱反応し調味料を得た。
【0026】
(評価例1)
濃縮鰹だし(素だしJ-1:キリン協和フーズ株式会社製)を蒸留水で10倍に希釈した液に、実施例1、比較例1,2,3,4で得られた液体状の調味料が喫飲時固形分0.1%になるよう添加し官能試験を行った。
官能試験は、パネル10名を用い、対照区(調味料無添加)と比較して評価項目に対してそれぞれ下記の5段階数値で答えさせ、その平均値を表1に示す。
4:非常に強く感じる
3:強く感じる
2:少し感じる
1:わずかに感じる
0:まったく感じない
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示したとおり、本発明の製造方法による調味料は、カツオだしに対し、さらにカツオの肉感、厚み、カツオのうま味を効果的に引き立てる効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明してきたように、本発明によると粉末調味料として食品に用いることができ、中味の厚みコク味を増強することができる調味料の製造方法が提供される。
本発明で得られた調味料は、広い分野に応用でき、スープ類、調味料類、インスタント食品やスナック食品類、缶詰食品類、その他広範な食品用として供することができる。本発明は特に魚介類を使用する食品に有効である。
本発明の調味料の添加量については特に制限はなく、好みの濃度で使用可能である。一般的には、食品の種類等によっても異なるが、概ね食品に対して喫食時固形分0.05〜1重量%程度添加することが望ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有したグルタミン酸含有酵母エキス及びグルタチオン含有酵母エキスを添加した水溶液もしくは水懸濁液、または該グルタミン酸含有酵母エキスとグルタチオン含有酵母エキスとの粉体混合物を加熱処理することにより製造する調味料の製造方法。
【請求項2】
前記グルタミン酸含有酵母エキスの配合比が1〜99重量部、
グルタチオン含有酵母エキスの配合比が1〜99重量部であることを特徴とする、請求項1記載の調味料の製造方法。
【請求項3】
前記グルタミン酸含有酵母エキスの配合比が40〜99重量部、グルタチオン含有酵母エキスの配合比が1〜60重量部であることを特徴とする、請求項1記載の調味料の製造方法。