説明

コゴミ抽出液の製造方法

【課題】カフェオイルホモセリンを安定に含有するコゴミ抽出液の製造方法を提供すること。
【解決手段】工程1)〜工程4)を含むコゴミ抽出液の製造方法。
工程1)95〜99.5重量%のエタノール水溶液中でコゴミをホモジナイズする。
工程2)ホモジナイズした液をろ過し、ろ液の溶媒を蒸発させ、固形物とする。
工程3)得られた固形物を30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解する。
工程4)不溶物をろ過により除き、コゴミ抽出液を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフェオイルホモセリンを安定に含有するコゴミ抽出液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コゴミは多年草のシダの一種で春先に出た新芽を山菜として食用にしている。コゴミの有効性については抗ウイルス剤(特許文献1参照)、体臭の抑制(特許文献2参照)、アロマターゼ活性促進剤(特許文献3参照)、免疫細胞賦活剤(特許文献4参照)などの報告がなされており、またコゴミ中に含まれる有効成分について、抗酸化活性を持つカフェオイルホモセリンを含むことやその製造方法が報告され、ラジカル消去剤として食品や化粧品への使用方法が言及されている(特許文献5参照)。
一方、コゴミ抽出液など、各種の抽出液は溶液状態で倉庫に保管されることが多く、これらの倉庫では夏期の室内は40℃前後まで達すると考えられ、コゴミ抽出液も保管中に40℃前後まで暖められると考えられる。冷凍や冷蔵での保管も考えられるが抽出液の保管方法としてはコストの面から困難であり、夏期の倉庫での保管中もカフェオイルホモセリンを安定に含有するコゴミ抽出液が望まれていた。
しかしコゴミの有効性に関する報告(特許文献1〜4)やコゴミを使用した化粧料に関する報告(特許文献6参照)にはコゴミ抽出液の製造方法に関する記述は認められるもののカフェオイルホモセリンに関する記述は認められない。またカフェオイルホモセリンを含有することを見出した報告(特許文献5)にはカフェオイルホモセリンを含有するコゴミ抽出液の製造方法の記載が認められるが、この方法ではカフェオイルホモセリンは容易に分解を受けてしまい、カフェオイルホモセリンの安定性に焦点をあてたコゴミ抽出液の製造方法に関する報告は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−25003号公報
【特許文献2】特開2002−87973号公報
【特許文献3】特開2008−81440号公報
【特許文献4】特開2010−155811号公報
【特許文献5】特開2003−188281号公報
【特許文献6】特開2008−50332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、カフェオイルホモセリンを安定に含有するコゴミ抽出液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、コゴミをエタノール水溶液中でホモジナイズしたのち乾固させ、1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解する製造方法を確立し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、次である。
(1)以下の工程を含むコゴミ抽出液の製造方法。
工程1)95〜99.5重量%のエタノール水溶液中でコゴミをホモジナイズする。
工程2)ホモジナイズした液をろ過し、ろ液の溶媒を蒸発させ、固形物とする。
工程3)得られた固形物を30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解する。
工程4)不溶物をろ過により除き、コゴミ抽出液を得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カフェオイルホモセリンを安定に含有するコゴミ抽出液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
コゴミはクサソテツ(草蘇鉄)の若芽のことを言い、シダ類のオシダ科に属する多年草である。北半球の温帯地域に広く分布し、日本では北海道、本州、四国、九州の日当たりの良い原野の湿った場所に群生している。
コゴミは春先になるとゼンマイ状に巻いた新芽を出し、成長に伴いシダ状の成葉となる。抽出に用いるコゴミとしては若い芽の方が好ましく。全長2〜20cm程度の芽を用いた場合にカフェオイルホモセリン濃度の高いコゴミ抽出液を得ることができる。
【0008】
(工程1)
コゴミは収穫後から酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)によるカフェオイルホモセリンの分解が進む。この分解は酵素反応であり温度に比例することから、収穫後のコゴミはできる限り低温での保管が望ましい。−20℃以下での凍結保管が好ましく、より高温側で保管する場合はなるべく早くホモジナイズ操作を行う必要がある。収穫したコゴミの乾燥処理は凍結乾燥による乾燥は可能であるが、通常の高温による乾燥はカフェオイルホモセリンの分解が起こり好ましくない。
また、ホモジナイズ効率を上げるための細切によりカフェオイルホモセリンの急速な分解が起こるため、細切後は素早くホモジナイズ溶媒に浸漬しホモジナイズすることが好ましい。
カフェオイルホモセリンを安定に抽出するためには、本発明で示しているように、タンパク質変性作用が強い95〜99.5重量%のエタノール水溶液でホモジナイズすることが必要である。
ホモジナイズに用いる溶媒量はタンパク質の変性作用が落ちない程度の最終的なエタノール濃度が必要であるため、コゴミ湿重量の4倍量以上の95〜99.5重量%のエタノール水溶液が必要である。その後の溶媒の留去などを考えた場合にはコゴミ湿重量の4〜20倍量程度が好ましい。
カフェオイルホモセリンの分解を抑制するためにはできる限り素早くエタノールと混合することが必要である。浸漬による静置抽出ではカフェオイルホモセリンの分解が進むため、細切後素早くエタノール中でホモジナイズすることが好ましい。凍結したコゴミを用いる場合には解凍操作により急速にカフェオイルホモセリンの分解が進むため、凍結した状態でエタノール中に浸漬しホモジナイズすることが好ましい。
【0009】
(工程2)
ろ過は保留粒子径が1マイクロメートル以下のフィルターを用いる方法ならばどの方法でもよく、ろ過方法としては自然ろ過、減圧濾過、加圧ろ過などが考えられ、フィルターとしてはセルロース、ガラス繊維、メンブランフィルター、布などが考えられる。また場合によりろ過補助剤などを用いても良い。
蒸発乾固方法としては、減圧乾固、凍結乾燥、スプレードライなどが考えられるが、カフェオイルホモセリンの安定性を考えた場合、60℃以下で溶媒を留去できる方法であればどの方法を用いても良い。
【0010】
(工程3)
蒸発乾固した固形物の溶解は、1,3−ブチレングリコール水溶液を用いることが必要である。1,3−ブチレングリコールの濃度が30%未満ではカフェオイルホモセリンの分解が進み、また80重量%を超えると、工程4のろ過が著しく困難になるため、30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液を用いることが必要である。溶解後の固形分の濃度としては蒸発残分が0.3〜1.5%程度になるように溶解するのが好ましい。
【0011】
(工程4)
溶解後のろ過により不溶物が除去されるため、不溶物の量を勘案して溶解に用いる溶媒量を決定しろ過を行うことも可能であるが、予め3%程度の高濃度になるように溶解を行いろ過後、蒸発残分を溶解に用いた溶媒で調節して抽出液を製造してもよい。
【実施例】
【0012】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
カフェオイルホモセリンの安定性はカフェオイルホモセリンの定量試験により評価した。
【0013】
<カフェオイルホモセリンの定量試験>
カフェオイルホモセリン濃度はコゴミ抽出液を精製水で4倍に希釈し、12000回転で10分間遠心分離を行い、上清を採取し、下記のHPLC条件にて測定した。カフェオイルホモセリンの標準曲線は化学合成品を用いて作成した。
カラム:Synergi 4u Polar−RP80A(Phenomenex社製)
カラム長:150mm x 2mm
流速:0.3ml/分
カラム温度:45℃
検出波長:300nm
溶媒のグラジエント条件:0.1容量%TFA水溶液:100%メタノール=98:2 〜 0.1容量%TFA水溶液:100%メタノール=92:8への直線グラジエント
【0014】
<コゴミ抽出液の製造とカフェオイルホモセリンの保存安定性試験>
(実施例1)
工程1)15gのコゴミを採取し135mlの99.5重量% エタノール中でホモジナイザー(IKA社製)を用いてホモジナイズした。
工程2)No.5C(東洋濾紙株式会社製)のろ紙でろ過し、コゴミホモジナイズ液130mlを得た。ロータリーエバポレーターによりエタノールを蒸発させ、固形物0.13gを得た。
工程3)得られた固形物0.13gを20mlの50重量% 1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解した。
工程4)No.5C(東洋濾紙株式会社製)のろ紙でろ過し、コゴミ抽出液18mlを得た。
【0015】
(実施例2)
実施例1の工程1におけるコゴミのホモジナイズを95重量%のエタノール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液19mlを得た。
(実施例3)
実施例1の工程3における固形物の溶解を80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液17mlを得た。
(実施例4)
実施例1の工程3における固形物の溶解を30重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液18mlを得た。
【0016】
(比較例1−1)
実施例1の工程1におけるコゴミのホモジナイズを精製水で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液19mlを得た。
(比較例1−2)
実施例1の工程1におけるコゴミのホモジナイズを50重量%のエタノール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液19mlを得た。
(比較例1−3)
実施例1の工程1におけるコゴミのホモジナイズを90重量%のエタノール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液19mlを得た。
(比較例1−4)
実施例1の工程1におけるコゴミのホモジナイズを50重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液で行った以外は同様の操作を行った。しかし、工程2の蒸発乾固が困難でありコゴミ抽出液を製造することはできなかった。
【0017】
(比較例2−1)
実施例1の工程3における固形物の溶解を精製水で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液18mlを得た。
(比較例2−2)
実施例1の工程3における固形物の溶解を50重量%のエタノール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液18mlを得た。
(比較例2−3)
実施例1の工程3における固形物の溶解を99.5%のエタノールで行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液19mlを得た。
(比較例2−4)
実施例1の工程3における固形物の溶解を20重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液で行った以外は同様の操作を行い、コゴミ抽出液18mlを得た。
(比較例2−5)
実施例1の工程3における固形物の溶解を99%の1,3−ブチレングリコールで行った以外は同様の操作を行った。しかし、工程4のろ過が困難でありコゴミ抽出液を製造することはできなかった。
【0018】
コゴミ抽出液の製造結果および抽出液中のカフェオイルホモセリン濃度を実施例1の製造直後の値を100として、それぞれ製造直後および40℃で30日と90日保存後の値を表1に示した。
【0019】
表1のように本実施例1〜4では40℃90日保存後もカフェオイルホモセリンは分解せず90%以上が残存しているのに対し、ホモジナイズ溶媒を95〜99.5重量%のエタノール水溶液以外で行った比較例1−1〜1−3では、カフェオイルホモセリンはホモジナイズ中に分解を受けてしまうことがわかる。またホモジナイズ溶媒に1,3−ブチレングリコールを用いた場合(比較例1−4)には工程2の蒸発乾固が困難であり、コゴミ抽出液の製造はできなかった。これらの結果からコゴミのホモジナイズには95〜99.5重量%のエタノール水溶液が必要であることがわかる。
【0020】
次に工程2により得られた固形物の溶解溶媒について検討した。比較例2−1〜2−4ではコゴミのホモジナイズを本発明である99.5%エタノールで行うことにより製造直後のカフェオイルホモセリン濃度は十分なものであったが、固形物の溶解を1,3−ブチレングリコール水溶液以外の溶媒を用いた場合(比較例2−1〜2−3)には40℃での保存期間中に分解を受けてしまうことがわかった。また本発明と同様に1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合でも、比較例2−4のように特許請求範囲外の濃度では分解を受けることや、比較例2−5のように抽出液の製造が困難であることがわかり、固形物の溶解は本発明である、30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液が適しているのがわかる。
【0021】
【表1】

【0022】
EtOH:エタノール
BG:1,3−ブチレングリコール
×:コゴミ抽出液の製造はできなかった。
−:測定値無し
【0023】
以上の結果から、コゴミを95〜99.5重量%のエタノール水溶液でホモジナイズし、ろ過後、ろ液を乾固させ、30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解すれば、コゴミ中のカフェオイルホモセリンを安定に含有する抽出液の製造が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むコゴミ抽出液の製造方法。
工程1)95〜99.5重量%のエタノール水溶液中でコゴミをホモジナイズする。
工程2)ホモジナイズした液をろ過し、ろ液の溶媒を蒸発させ、固形物とする。
工程3)得られた固形物を30〜80重量%の1,3−ブチレングリコール水溶液に溶解する。
工程4)不溶物をろ過により除き、コゴミ抽出液を得る。























【公開番号】特開2012−196171(P2012−196171A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62019(P2011−62019)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】