説明

コネキシンに対するアンチセンスヌクレオチドを含む配合物

【課題】細胞−細胞連絡を容易にする細胞膜構造であるギャップ結合チャンネルを構成するタンパク質であるコネキシンの発現を、治療目的および/または整形目的のため、部位特異的にダウンレギュレーションする方法の提供。
【解決手段】コネキシンタンパク質に対する少なくとも1つのアンチセンスポリヌクレオチドを含む配合物を、前記レギュレーションが必要とされる患者表面部位または患者体内部位に投与することを含む方法。該方法は、特に、ニューロン細胞の死の低下、傷の治癒、炎症の低下、傷痕形成の低下、ならびに皮膚の若返りおよび厚化において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的処置および/または整形的処置において使用される配合物に関し、詳しくは、直接的な細胞−細胞連絡の限局的な破壊が望まれる配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ギャップ結合は、直接的な細胞−細胞連絡を容易にする細胞膜構造である。ギャップ結合チャンネルが、それぞれが6個のコネキシンサブユニットから構成される2つの半チャンネル(コネキソン)から形成されている。これらのコネキシンは、その分子量に従って一般に名付けられているか、あるいは系統発生的な基準に基づいて、すなわち、αクラスおよびβクラスに分類されるタンパク質のファミリーである。
【0003】
従って、コネキシンの発現を制御する能力(特に、コネキシン発現をダウンレギュレーションする能力)は、治療目的および/または矯正目的のために患者における細胞−細胞連絡を調節する可能性をもたらす。しかし、多数のコネキシンタンパク質が身体中で広く発現しているので、全身的なダウンレギュレーション作用は、治療効果を特定の部位において誘導する際には望ましくない。
【0004】
アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)は、特異的な遺伝子発現を操作する薬剤として大きな可能性を有している(総説:Stein他、1992;Wagner、1994)。しかし、克服することが必要な困難が依然として存在する。これらには、そのようなODNの短い半減期(未修飾のホスホジエステルオリゴマーは、典型的には、細胞内の半減期が、細胞内ヌクレアーゼによる分解のために20分にすぎない(Wagner、1994))、および標的組織に対する安定かつ確実な送達が含まれる。
【0005】
本出願人が本発明を考案したのは、これらの困難を少なくとも部分的に克服することを目的としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stein他、1992
【非特許文献2】Wagner、1994
【発明の概要】
【0007】
(発明の要旨)
従って、第1の局面において、本発明は、治療的処置および/または整形的処置において使用される配合物であって、コネキシンタンパク質に対する少なくとも1つのアンチセンスポリヌクレオチドと薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクルとともに含む配合物を提供する。
【0008】
1つの好ましい形態において、配合物は、1つのコネキシンタンパク質のみに対するポリヌクレオチドを含有する。最も好ましくは、このコネキシンタンパク質はコネキシン43である。
【0009】
本発明の多くの局面がオリゴデオキシヌクレオチドに関して記載されている。しかし、他の好適なポリヌクレオチド(RNAポリヌクレオチドなど)がこれらの局面において使用され得ることが理解される。
【0010】
あるいは、配合物は、2つ以上のコネキシンタンパク質に対するオリゴデオキシヌクレオチドを含有する。好ましくは、オリゴデオキシヌクレオチドが指向するコネキシンタンパク質の1つはコネキシン43である。オリゴデオキシヌクレオチドが指向する他のコネキシンタンパク質には、コネキシン26、コネキシン31.1およびコネキシン32が含まれる。
【0011】
好都合には、コネキシン43に対するオリゴデオキシヌクレオチドは、
【0012】
【化1】

から選択される。
【0013】
最も好都合には、コネキシン43に対するオリゴデオキシヌクレオチドは、
【0014】
【化2】

である。
【0015】
好都合には、コネキシン26に対するオリゴデオキシヌクレオチドは、
【0016】
【化3】

である。
【0017】
好都合には、コネキシン31.1に対するオリゴデオキシヌクレオチドは、
【0018】
【化4】

である。
【0019】
好都合には、コネキシン32に対するオリゴデオキシヌクレオチドは、
【0020】
【化5】

である。
【0021】
これらのアンチセンスポリヌクレオチドは、非経口投与、筋肉内投与、大脳内投与、静脈内投与、皮下投与または経皮投与のために配合することができる。アンチセンスポリヌクレオチドは、好ましくは(処置しようとする部位に)局所投与される。好適には、アンチセンスポリヌクレオチドは、薬学的組成物を得るために薬学的に受容可能なキャリア、ビヒクルまたは希釈剤と一緒にされる。
【0022】
好適な薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクルには、局所投与のために広く使用されている任意のものが含まれる。局所用配合物は、クリーム、軟膏、ゲル、エマルション、ローションまたは塗布剤の形態であり得る。本発明の配合物はまた、含浸包帯の形態で提供され得る。
【0023】
好適なキャリア材には、局所投与のためのクリーム、ローション、ゲル、エマルションまたは塗布剤の基剤として広く使用されている任意のキャリアまたはビヒクルが含まれる。例として、乳化剤、炭化水素基剤を含む不活性なキャリア、乳化基剤、非毒性の溶媒または水溶性基剤が挙げられる。特に好適な例として、ラノリン、硬パラフィン、液状パラフィン、軟黄色パラフィンまたは軟白色パラフィン、白蜜ろう、黄蜜ろう、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、ジメチコーン、乳化ワックス、ミリスチン酸イソプロピル、微結晶ワックス、オレイルアルコールおよびステアリルアルコールが挙げられる。
【0024】
好ましくは、薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクルはゲルであり、好ましくは非イオン性のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体ゲル(例えば、プルロニック(Pluronic)ゲル、プルロニックF−127(BASF Corp.))である。このゲルは、低温で液体であるが、生理学的温度で急速に硬化し、それにより適用部位またはそのような部位のすぐ近くでのODN成分の放出が制限されるために特に好ましい。
【0025】
カゼイン、ゼラチン、アルブミン、膠剤、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはポリビニルアルコールなどの補助的な薬剤もまた本発明の配合物に含ませることができる。
【0026】
薬学的組成物は、アンチセンスポリヌクレオチドの持続的な放出が得られるように配合することができる。
【0027】
好都合なことに、配合物はさらに、オリゴデオキシヌクレオチドの細胞浸透を助ける界面活性剤を含むか、または配合物は任意の好適な負荷剤を含有することができる。DMSOなどの任意の好適な非毒性の界面活性剤を含むことができる。あるいは、尿素などの経皮浸透剤を含むことができる。
【0028】
さらなる局面において、本発明は、治療目的および/または整形目的のためにコネキシンタンパク質の発現を部位特異的にダウンレギュレーションする方法であって、上記に記載された配合物を、前記のダウンレギュレーションが必要とされる患者表面部位または患者体内部位に投与することを含む方法を提供する。
【0029】
なおさらなる局面において、本発明は、その他の場合では、患者の脳、脊髄または視神経における特異的部位に対するニューロン傷害から生じるニューロン細胞の死を低下させる方法であって、前記部位およびそのすぐ近くにおけるコネキシンタンパク質(1つまたは複数)の発現をダウンレギュレーションするために、上記に規定された配合物を前記部位に投与する工程を含む方法を提供する。
【0030】
好ましくは、配合物は、脳、脊髄または視神経に対する物理的外傷によるニューロン喪失を低下させるために投与される。
【0031】
好都合なことに、配合物は、投与後の少なくとも24時間にわたって前記のコネキシンタンパク質(1つまたは複数)の発現をダウンレギュレーションするために十分な量で投与される。
【0032】
なおさらなる局面において、本発明は、患者の傷治癒を促進する方法であって、前記傷の部位およびそのすぐ近くにおけるコネキシンタンパク質(1つまたは複数)の発現をダウンレギュレーションするために、上記に規定された配合物を前記傷に投与する工程を含む方法を提供する。
【0033】
通常、傷は、火傷を含む外傷の結果である。しかし、傷は手術の結果であってもよい。
【0034】
なおさらなる局面において、本発明は、物理的外傷を受けた傷および/または組織を処置することの一部としての炎症を低下させる方法であって、上記に規定された配合物を前記傷または組織あるいはその近くに投与する工程を含む方法を提供する。
【0035】
好ましくは、前記傷は火傷である。
【0036】
あるいは、前記傷は、脳、脊髄または視神経などのニューロン組織を含む組織に対する物理的外傷の結果である。
【0037】
なおさらなる局面において、本発明は、傷を受けた患者の傷痕形成を低下させる方法であって、前記傷の部位またはそのすぐ近くにおけるコネキシンタンパク質(1つまたは複数)の発現をダウンレギュレーションするために、上記に規定された配合物を前記傷に投与する工程を含む方法を提供する。
【0038】
再度ではあるが、傷は外傷または手術の結果であり得るし、配合物は、外科的な修復および/またはその閉鎖の直前にその傷に適用される。
【0039】
なおさらなる局面において、本発明は、整形目的または治療目的のために皮膚を若返らせるか、または厚くする方法であって、上記に規定された配合物を皮膚表面に1回または反復的に投与する工程を含む方法を提供する。
【0040】
好都合なことに、前記配合物は、コネキシン26またはコネキシン43に対するオリゴデオキシヌクレオチドを含み、そして上皮基底細胞の分裂および増殖を調節するために投与される。
【0041】
別の実施形態において、前記配合物は、コネキシン31.1に対するオリゴデオキシヌクレオチドを含み、そして外層の角質化を調節するために投与される。
【0042】
好ましくは、配合物はクリームまたはゲルである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1A】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図1Aおよび図1Cは、傷害を与えた24時間後のコントロール傷害部の2つの面を示す。傷害部はプルロニックゲル単独で処置されている。切片はNissl染色(青色核)され、ニューロンマーカーのNeuronal−N(褐色細胞)で抗体標識されている。
【図1B】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図1Bおよび図1Dは、印を付けた傷害部の輪郭に関する図1Aおよび図1Cのグレースケール像をそれぞれ示す。傷害部の大きなサイズおよび不規則に広がった端に注意すること。傷害部は、傷害を与えたちょうど24時間以内に脳梁(点線)に向かって下側に広がっている。
【図1C】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図1Aおよび図1Cは、傷害を与えた24時間後のコントロール傷害部の2つの面を示す。傷害部はプルロニックゲル単独で処置されている。切片はNissl染色(青色核)され、ニューロンマーカーのNeuronal−N(褐色細胞)で抗体標識されている。
【図1D】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図1Bおよび図1Dは、印を付けた傷害部の輪郭に関する図1Aおよび図1Cのグレースケール像をそれぞれ示す。傷害部の大きなサイズおよび不規則に広がった端に注意すること。傷害部は、傷害を与えたちょうど24時間以内に脳梁(点線)に向かって下側に広がっている。
【図2A】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図2は、傷を付けた24時間後のコントール傷害部を示す。図2Aには、Nissl染色(青色核)および生存ニューロンのNeuronal−N標識が示されている。図2Bは、印を付けた傷害部端および印を付けた脳梁(点線)の頂上に関するグレースケール等価図である。元の針跡は明瞭であるが、ニューロンの死が、Neuronal−N標識によって示されているように、傷害部端の十分な後方に生じている。傷害部の端は不規則であり、傷害部は、ちょうど24時間以内に脳梁内にまっすぐ広がった。
【図2B】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図2は、傷を付けた24時間後のコントール傷害部を示す。図2Aには、Nissl染色(青色核)および生存ニューロンのNeuronal−N標識が示されている。図2Bは、印を付けた傷害部端および印を付けた脳梁(点線)の頂上に関するグレースケール等価図である。元の針跡は明瞭であるが、ニューロンの死が、Neuronal−N標識によって示されているように、傷害部端の十分な後方に生じている。傷害部の端は不規則であり、傷害部は、ちょうど24時間以内に脳梁内にまっすぐ広がった。
【図3A】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図3Aおよび図3Bは、傷害を与えた48時間後の、コネキシン43アンチセンスで処置された傷害部のカラー像およびグレースケール像である。傷害部の輪郭には、傷害部の広がりおよび印をつけた脳梁(点線)の頂部を示すために、図3Bにおいて印が付けられている。図3Aは、Nissl(青色核)およびNeuronal−N(ピンク細胞)について染色されている。コントロールの傷害部と比較して、傷害部は48時間後でさえもかなり密集していることに注意すること(図1および2)。右側に少しの広がりが存在するが、傷害部の左側は、本質的には元の針跡に従い、広がりの徴候はほとんど見られない。傷害部の左側は非常に直線的であるが、脳梁まで広がっていない。
【図3B】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図3Aおよび図3Bは、傷害を与えた48時間後の、コネキシン43アンチセンスで処置された傷害部のカラー像およびグレースケール像である。傷害部の輪郭には、傷害部の広がりおよび印をつけた脳梁(点線)の頂部を示すために、図3Bにおいて印が付けられている。図3Aは、Nissl(青色核)およびNeuronal−N(ピンク細胞)について染色されている。コントロールの傷害部と比較して、傷害部は48時間後でさえもかなり密集していることに注意すること(図1および2)。右側に少しの広がりが存在するが、傷害部の左側は、本質的には元の針跡に従い、広がりの徴候はほとんど見られない。傷害部の左側は非常に直線的であるが、脳梁まで広がっていない。
【図4A】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図4Aおよび図4Bは、傷を付けた48時間後における別のコネキシン43アンチセンス処置傷害部を示す。標識は、グレースケール像(図4B)に輪郭が示される傷害部に関する図3と同じである。48時間後でさえ、この傷害部は極めて密集しており、左側(中央側)へのみのわずかな広がりが見られる。傷害部の右側は、針跡の端までの生存ニューロン(傷害部領域内で実際に生存している)を伴ってかなり直線的であることに注意すること。傷害部は、脳梁(点線)の十分に上方にあり、実際には下方向の広がりがないことを示している。
【図4B】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図4Aおよび図4Bは、傷を付けた48時間後における別のコネキシン43アンチセンス処置傷害部を示す。標識は、グレースケール像(図4B)に輪郭が示される傷害部に関する図3と同じである。48時間後でさえ、この傷害部は極めて密集しており、左側(中央側)へのみのわずかな広がりが見られる。傷害部の右側は、針跡の端までの生存ニューロン(傷害部領域内で実際に生存している)を伴ってかなり直線的であることに注意すること。傷害部は、脳梁(点線)の十分に上方にあり、実際には下方向の広がりがないことを示している。
【図5】図1〜5は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含有するプルロニックゲルで処置されたラットの脳傷害部の切片、またはプルロニックゲル単独のコントール傷害部の切片を示す。すべての場合、傷害部は冠状面で連続的に切片にされ、中点切片を分析に使用した。各像(図5を除く)には、4mm×5.33mmの組織が示されている。図5は、約1.2mm×2mmである。図5は、コネキシン43アンチセンスで処置された傷害部の端を示す高倍率像である。傷害部の端に印が付けられ、傷害を与えた48時間後でさえ、傷害を与えた針跡の端までの生存ニューロン(Neuronal−N染色)が示されている。
【図6】図6は、傷害を与えた24時間後の、コネキシン43に特異的なアンチセンスで処置された傷害部のGFAP(赤色)およびコネキシン43(緑色)の免疫組織化学的標識である。像は、傷害部の深さの半分の地点での傷害部の側方端で得られている。活性化された星状膠細胞のレベルは、コントロール(図7)と比較して上昇しており、コネキシン43のレベルは著しく低下している。残存するコネキシン標識は、一般に血管(矢印)に結合している。
【図7】図7は、傷害を与えた24時間後の、コントロール傷害物のGFAP(赤色)およびコネキシン43(緑色)の免疫組織化学的標識である。像は傷害部の中央端から得られ、GFAPレベルが、傷害を受けていない皮質よりもわずかに上昇したことを示している。GFAP星状膠細胞マーカー(矢印)と同時に存在することが多い広範囲のコネキシン43標識に注意すること。
【図8】図8は、傷害を与えた24時間後(丸)および48時間後(ひし形)における傷害部断面の下側半領域の比較を示す。分析を、冠状面で切断された連続的な切片化傷害部の中央部分について行った。傷害部は、生存ニューロンを明らかにするNeuronal−N抗体標識を使用して評価した。DB1で処置された傷害部(緑色マーカー)は、コネキシン43に特異的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドで処置されている。ゲルのみの傷害部群(赤色マーカー)もまた、中身のない傷害部を含み、HB3群(紫色マーカー)は、ランダム配列のコントロールオリゴデオキシヌクレオチドを含有するゲルで処置されている。コネキシン43アンチセンスで処置された傷害部が大きくなっている場合がある(アンチセンスが十分に送達されていない場合と考えられる)が、非常に小さくなった傷害部はすべて、コネキシン43アンチセンスで処置されていることに注意すること。傷害部は2mmの深さに達し、分析はその1mm下までを含み、アンチセンスが到着しなかった外側端を除くようにした。
【図9】図9は、コネキシン43のセンスODNおよびアンチセンスODNによる処置を行った24時間後のラット脊髄における傷害部である。センスで処置された傷害部は未処置のコントロールと差がなかったが、アンチセンスで処置された傷害部は小さくなり、炎症が低下していた。
【図10】図10は、コネキシン43のセンスODN(左肢)およびアンチセンスODN(右肢)による処置を行った24時間後の新生児マウス前肢における傷害部である。アンチセンスで処置された肢における炎症の低下および増大した治癒速度に注意すること。
【図11】図11は、図10に示された24時間の傷の中心部を通る切片である。切片は、好中球を明らかにするためにトルイジンブルーで染色されている。アンチセンスで処置された傷には、著しいことに好中球がほとんど存在しておらず、炎症もほとんど生じていなかった。
【図12】図12は、コネキシン43に特異的なアンチセンスODNまたはセンスのコントロールODNで処置された、傷害を与えた5日後のラット肢の組合せである。アンチセンスで処置された傷害部は、より早く治癒しつつあり、傷痕の徴候はほとんど見られない。
【図13】図13は、新生児段階で作製されたラット肢の傷害部の組合せであり、この場合には傷害を与えた8日後が示されている。傷害部は、コネキシン43に特異的なアンチセンスODNまたはセンスのコントロールODNで処置された。毛が成長し、そして、アンチセンス処置により、より小さな傷痕、およびより少ない毛喪失が得られたことが明かである。傷害部の部位は、センスで処置されたコントールでは依然として目立っているが、アンチセンスで処置された肢では検出することが困難である。
【0044】
(発明の詳細な説明)
上記に広く規定されているように、本発明の中心は、コネキシン発現の部位特異的なダウンレギュレーションにある。これは、コネキシン発現をダウンレギュレーションさせる部位での直接的な細胞−細胞連絡を低下させるという作用を有し、これにより、下記に記載されているように多数の治療的/整形的な適用がもたらされる。
【0045】
コネキシン発現のダウンレギュレーションは、一般には、アンチセンスポリヌクレオチド(DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなど)を使用するアンチセンス法に基づいており、より詳細には、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の使用に基づいている。これらのポリヌクレオチド(例えば、ODN)は、ダウンレギュレーションすべきコネキシンタンパク質(1つまたは複数)を標的とする。典型的には、ポリヌクレオチドは一本鎖であるが、二本鎖であってもよい。
【0046】
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、コネキシンの転写および/または翻訳を阻害することができる。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、コネキシン遺伝子からの転写および/または翻訳の特異的な阻害剤であり、他の遺伝子からの転写および/または翻訳を阻害しない。その産物は、(i)コード領域の5’および/または(ii)コード領域および/または(iii)コード領域の3’のいずれかでコネキシン遺伝子またはmRNAに結合することができる。
【0047】
一般に、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、コネキシンのmRNAおよび/またはタンパク質の細胞内での発現を低下させる。
【0048】
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、一般には、コネキシンmRNAに対するアンチセンスである。そのようなポリヌクレオチドは、コネキシンmRNAにハイブリダイゼーションし得ることがあり、従って、コネキシンの発現が、転写、mRNAプロセシング、mRNAの核からの輸送、翻訳またはmRNA分解を含むコネキシンmRNA代謝の1つまたは2つ以上の局面を妨害することによって阻害され得る。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、典型的には、コネキシンmRNAにハイブリダイゼーションして、mRNAの翻訳の直接的な阻害および/または脱安定化をもたらし得る二重鎖を形成する。そのような二重鎖はヌクレアーゼによる分解を受けやすい場合がある。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドは、コネキシンmRNAの全体または一部にハイブリダイゼーションすることができる。典型的には、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、コネキシンmRNAのリボソーム結合領域またはコード領域にハイブリダイゼーションする。本発明のポリヌクレオチドは、コネキシンmRNAの全体または一部の領域に対して相補的であり得る。例えば、ポリヌクレオチドは、コネキシンmRNAの全体または一部の完全な相補体であり得る。しかし、絶対的な相補性は必要とされず、生理学的条件のもとで、20℃、30℃または40℃よりも大きな脱離温度を有する二重鎖を形成するために十分な相補性を有するポリヌクレオチドが、本発明における使用には特に好適である。
【0050】
従って、本発明のポリヌクレオチドは、典型的にはmRNAのホモログである。本発明のポリヌクレオチドは、約50℃〜約60℃での0.03M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウムなどの中度から高度のストリンジェンシーな条件のもとでコネキシンmRNAにハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドであり得る。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドは、典型的には、長さが6ヌクレオチド〜40ヌクレオチドである。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは長さが12ヌクレオチド〜20ヌクレオチドである。本発明のポリヌクレオチドは、長さが少なくとも40ヌクレオチドであってもよく、例えば、少なくとも60ヌクレオチドまたは少なくとも80ヌクレオチドであり、そして100ヌクレオチドまで、200ヌクレオチドまで、300ヌクレオチドまで、400ヌクレオチドまで、500ヌクレオチドまで、1000ヌクレオチドまで、2000ヌクレオチドまで、または3000ヌクレオチドまで、またはそれ以上までのヌクレオチドの長さであってもよい。
【0052】
コネキシンタンパク質またはODNに標的とされるタンパク質は、ダウンレギュレーションが作用する部位によって変わる。このことはコネキシンサブユニット組成物による、体全体の各種部位におけるギャップ結合の不均一構造を反映している。コネキシンはヒトまたは動物において自然発生するいずれのコネキシンでもよい。コネキシン遺伝子(コード化配列を含む)は一般に、表1に示すコネキシン43コード化配列と相同であるように、本明細書で述べる特定のコネキシンのいずれとも相同性を持つ。コネキシンは通常、αまたはβコネキシンである。好ましくは、コネキシンは皮膚または神経組織(脳細胞を含む)中で発現される。
【0053】
しかし一部のコネキシンタンパク質は、組織中の分布に関しては他のタンパク質よりも遍在性である。最も広範囲に及ぶもののひとつは、コネキシン43である。したがって、コネキシン43を標的とするODNは本発明での使用に特に適している。
【0054】
別個のコネキシンタンパク質を標的とするODNを組み合わせて使用すること(たとえば、1、2、3、4またはさらに異なるコネキシンを標的としてもよい)も考慮されている。たとえばコネキシン43を標的とするODNおよびコネキシン族の他の1個以上の要素(コネキシン26、31.1、32、36、40および45)は組み合わせて使用できる。
【0055】
個々のアンチセンスポリヌクレオチドはあるコネキシンに対して特異性であるか、1、2、3またはさらに別のコネキシンを標的とすることがある。特異性ポリヌクレオチドは一般に、コネキシン間で保存されないコネキシン遺伝子またはmRNA内の配列を標的とするが、非特異性ポリヌクレオチドは保存配列を標的とする。
【0056】
本発明で使用するODNは一般に、未修飾ホスホジエステルオリゴマーとなる。これらの長さは変化するが、30merODNを持つものが特に適する。
【0057】
アンチセンスポリヌクレオチドは化学修飾してもよい。化学修飾によってヌクレアーゼに対する耐性が高まり、細胞を入れる能力が向上する。たとえばホスホロチオ酸オリゴヌクレオチドが使用できる。他のデオキシヌクレオチド類似体としては、メチルホスホン酸、ホスホルアミド酸、ホスホロジチオ酸、N3’P5’−ホスホルアミド酸、オリゴリボヌクレオチドホスホロチオ酸、その2’−O−アルキル類似体および2’−O−メチルリボヌクレオチドメチルホスホン酸が挙げられる。
【0058】
または、混合主鎖オリゴヌクレオチド(MBO)を使用してもよい。MBOはホスホチオ酸オリゴデオキシヌクレオチドのセグメントおよび修飾オリゴデオキシ−またはオリゴリボヌクレオチドの適切に配置されたセグメントを含む。MBOはホスホロチオ酸結合のセグメント、および非イオン性で、ヌクレアーゼに高い耐性を持つメチルホスホン酸などの他の修飾オリゴヌクレオチドや2’−O−アルキルオリゴリボヌクレオチドの他のセグメントを持つ。
【0059】
本発明で使用するアンチセンスポリヌクレオチドの正確な配列は、標的コネキシンタンパク質によって変わる。コネキシン43の場合、次の配列を持つODNが特に適している:
【0060】
【化6】

【0061】
他のコネキシンタンパク質を標的とするODNは、任意の便利な従来の手法によって、そのヌクレオチド配列の観点から選択できる。たとえば、コンピュータプログラムのMacVectorおよびOligoTech(米国オレゴン州のユージーンのOligo etc.)を使用できる。たとえば、コネキシン26、31.1および32のODNは以下の配列を持つ。
【0062】
【化7】

ODNはいったん選択すると、DNA合成装置を用いて合成できる。
【0063】
本発明で使用する場合、ODNは部位特異性送達が必要である。これらは長期間にわたる送達も必要とする。送達時間は明らかにダウンレギュレーションが誘発される部位と望ましい治療効果の両方に依存し、24時間以上の連続送達が必要な場合が多い。
【0064】
本発明によれば、このことは、ODNを製薬的に許容可能な担体またはビヒクルとともに、特に局所投与用の調合物の形の調合物中に包含させることによって実現できる。
【0065】
本発明の調合物はいったん調製してしまえば、細胞−細胞伝達における過渡的および部位特異性の中断が望ましい場合のあらゆる治療/化粧用手法において有用である。これらは、脳、脊髄または視神経におけるニューロン損傷の治療(損傷ができるだけ局在化される場合)、創傷治癒の促進、たとえば成形外科およ火傷の後の傷形成の低減などが含まれる。
【0066】
特にクリームなどの局所調合物を使用して、上皮基底細胞の分裂ならびに増殖(コネキシン43を標的とするODNを使用)および外層角質化(コネキシン31.1を標的とするODNを使用)を調節できる。
【0067】
アンチセンスポリヌクレオチド(ODNを含む)は、実質的に遊離形で存在する。生成物は、生成物の所期の目的を阻害せず、実質的に遊離していると見なされる担体または希釈在と混合してもよいことを理解されたい。本発明の生成物は実質的に精製形であり、そのような場合、ポリヌクレオチドまたは調製物の乾燥重量の一般に90%、たとえば少なくとも95%、98%または99%より成る。
【0068】
投与
本発明のアンチセンスポリヌクレオチド(ODNを含む)(一般に本明細書で述べる調合物の形で)はしたがって、本明細書で述べる疾病または症状のいずれかを持つヒトまたは動物などの、治療の必要なヒトまたは動物に投与される。すると、ヒトまたは動物の症状を改善することができる。ポリヌクレオチドおよび調合物はそのため、治療によるヒトまたは動物の体の処置に使用できる。これらは本明細書で述べる症状すべてを治療するための薬剤の製造に使用される。
【0069】
アンチセンスポリヌクレオチドは局所的に(治療される部位に)投与できる。製薬組成物を製造するために、アンチセンスポリヌクレオチドを製薬的に許容可能な担体または希釈剤と組み合わせることが好ましい。適切な担体および希釈剤としては、たとえばリン酸緩衝生理食塩水などの等張食塩水が挙げられる。該組成物は、非経口、筋肉内、脳内、静脈内、皮下または経皮投与用に調合できる。
【0070】
患者に投与されるアンチセンスポリヌクレオチドの用量は、年齢、体重および患者の全身状態、治療する症状、投与される特定のアンチセンスポリヌクレオチドなどによって変わる。しかし適切な投与量は、1〜40mg/体重1kgなど、0.1〜100mg/体重1kgである。
【0071】
哺乳類細胞による核酸の摂取は、たとえば形質移入剤の使用を含む手法などの、複数の既知の形質移入手法によって向上する。投与される調合物はこのような薬剤を含むことがある。このような薬剤の例としては、カチオン剤(たとえばリン酸カルシウムおよびDEAE−デキストラン)およびリポフェクタント(たとえばリポフェクタム(登録商標)およびトランスフェクタム(登録商標))が挙げられる。
【0072】
熟練した医師は特定の患者および症状に最適な投与経路および用量をただちに決定できるため、上述した投与経路および用量は単なる指標である。
【0073】
相同体
本明細書では相同および相同体について述べる(たとえば該ポリヌクレオチドはコネキシンmRNAにおける配列の相同体でもよい)。このようなポリヌクレオチドは一般に、たとえば(相同性配列の)少なくとも15、20、40、100以上の近接ヌクレオチドの領域に渡って、関連配列と少なくとも70%は相同性であり、少なくとも80%、90%、95%、97%または99%は相同性であることが好ましい。
【0074】
相同性は当業界におけるどの方法に基づいて計算してもよい。たとえばUWGCGパッケージは、相同性の計算に使用できるBESTFITプログラムを提供する(たとえばそのデフォルト設定で使用される)(Devereux et al(1984)Nucleic Acids Research 12,p.387−395)。たとえばAltschul S. F.(1993) J Mol Evol 36:290−300;Altschul,S,F et al(1990)J Mol Biol 215:403−10で述べられているように、PILEUPおよびBLASTアルゴリズムを用いて、相同性やラインアップ配列(通常はデフォルト設定で)を計算できる。
【0075】
BLAST分析を行うソフトウェアは国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.nchi.nlm.nih.gov/)を通じて、公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとともに整列させた場合、ある正の閾値スコアTに一致または満足する問合せ配列における長さWのショートワードを識別することによって、高得点配列対(HSP)を最初に識別することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値(Altschul et al, 同上)と呼ばれる。これらの初期隣接ワードのヒットが、それらを含むHSPを見つける検索を開始する発端として作用する。このワードのヒットは、累積アラインメントスコアが増加する限りは、各配列に沿って両方向に拡張する。各方向のワードヒットの拡張は次の場合に停止する:累積アラインメントスコアが、その最大達成値よりXという量だけ低下した場合;累積アラインメントスコアが、1個以上の負のスコアの残基アラインメントの蓄積によって、ゼロ以下になった場合;またはどちらかの配列の末端に到達した場合。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムはデフォルトとして、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915−10919)アラインメント(B)50、期待値(E) 10、M=5、N=4および両方の鎖の比較を用いる。
【0076】
BLASTアルゴリズムは2つの配列間の類似性の統計解析を行う;たとえば、Karlin and Altschul(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5787を参照。BLASTアルゴリズムによって与えられる類似性の基準の1つは最小和確率(P(N))である。これは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の一致が偶然発生する確率を示すものである。たとえば、第1の配列を第2の配列と比較した場合に最小和確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、さらに好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に、ある配列が別の配列と等しいと見なされる。
【0077】
相同性配列は通常、関連配列とは、少なくとも(またはせいぜい)2、5、10、15、20以上の(置換、欠失または挿入である)変異により相違する。これらの突然変異は、相同性の計算に関連して上述したいずれの領域においても測定できる。
【0078】
相同性配列は通常、バックグラウンドよりも著しく高いレベルで、選択的に元の配列にハイブリダイズする。選択的ハイブリダイゼーションは通常、厳密性が中程度から高程度(たとえば、約50〜60℃において0.03M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム)の条件を用いて実施される。しかし、そのようなハイブリダイゼーションは、当業界で既知の適切などの条件下でも実施できる(Sambrook et al(1989)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(分子クローニング:実験室マニュアル)を参照)。たとえば高い厳密性が必要な場合、適切な条件としては60℃における0.2xSSCが挙げられる。低い厳密性が必要な場合、適切な条件としては60℃における2xSSCが挙げられる。
【0079】
本発明の各種態様は、以下の実験節を引用して説明する。これらは例示のみのために与えられ、本発明の範囲を制限するものでないことを理解されたい。
【0080】
実験
実験1
物質および方法
アンチセンスの適用
リン酸緩衝生理食塩水(分子級水)中の30%PluronicF−127ゲル(BASF Corp)を用いて、未修飾a1コネキシン(コネキシン43)特異性アンチセンスODNを発生中のニワトリ胚に送達した(Simons, et al., 1992)。ニワトリ胚は38℃でインキュベートし、HamiltonおよびHamburgerのステージに従って実施した。卵に窓を開け、治療する領域のvitlelineおよび羊膜は細い鉗子を用いて開いた。アンチセンスの適用の後、卵をテープで密封し、大半の実験が解析される48時間の間、インキュベータ内に置いた。ただし、a1コネキシン「ノックダウン」および回復の時間経過解析の場合は除く。
【0081】
Pluronicゲルは0〜4℃の低温では液体であるが、生理温度の胚に滴下すると凝固して、少なくとも12時間定着したままである。該ゲルの別の利点は弱い界面活性剤であることであり、これは単独で使用したり、DMSOとともに使用すると、ODNの細胞内へ浸透を著しく促進するように思われる(Wagner、1994)。共焦レーザー走査顕微鏡法を用いて見られる、FITCタグのDB1 ODNへの付加は、プローブの細胞間貫入を示す。使用したデオキシオリゴヌクレオチドの配列は、表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
すべてのODNは、0.05mM〜50mMを範囲とする予備実験中の用量依存解析の後、0.5〜1.0mM最終濃度で適用された。一般毒性効果は、ODN濃度が10mMを超える場合のみに明らかになった。ODNゲル混合物は、−80℃で保存した濃縮貯蔵溶液から調製した。
【0084】
アンチセンス配列
DB1は、a1コネキシン遺伝子の塩基1094−1123の対して相補性の、マウスのアンチセンス配列である。ニワトリa1コネキシン配列とは4つのミスマッチがある。CGはニワトリa1コネキシン塩基720−749に対して相補性である。このプローブの有効性は、1%のジミメチルスフホキシド(DMSO)をゲルに添加すると向上した。DMSOは他のアンチセンスODNまたは対照の結果に、追加の影響を与えなかった。
【0085】
対照配列
DB1(ニワトリ)は、ニワトリa1コネキシン塩基954−983に一致する、DB1のニワトリa1コネキシン相当物である。しかし解析は、ステムループ構造(G=−7.0kcal/mol,ループTm=92°)の形成およびホモ二量体化(Tm=1.5°)が高い確率で生じることを示しているため、対照配列として作用する。一部のセンスオリゴヌクレオチドが、転写を阻害する安定なDNAトリプレットを形成可能であることが報告されている(Neckers et al., 1993)。しかし、これはDB1(センス)では明確ではなかった。安定な第2構造(G=1.4kcal/mol)を持たず、不安定なホモニ量体化が生じるランダム対照配列も使用され、CV3と呼ばれた。DB1の追加の対照適用同濃度混合物およびDB1(センス)は、欠失のバックグラウンドレベルを与えた。
【0086】
タンパク質ノックダウンの監視
細胞−細胞界面におけるalコネキシンギャップ結合タンパク質の免疫組織化学局在化は、アンチセンス効果の直接測定値を与える。アンチペプチドa1コネキシン特異性抗体プローブを用いて、ホールマウント胚を染色し、コネキシン分布は、確立された手順(Green et al.,1995)に従って、共焦レーザー走査顕微鏡法を用いて解析した。発生ニワトリ胚で発現される他の2つのコネキシン(コネキシンb1およびb2)の対照標識付けも、配列特異性抗体を使用して同様に実施した(Becker et al.,1995)。
【0087】
結果
a1コネキシン発現の低下
未修飾a1コネキシン特異性アンチセンスODNを発生ニワトリ胚に送達するためにPluronic F−127ゲルを使用すると、タンパク質発現が選択された時点で阻害され、ニワトリ胚の特定領域を標的としたアンチセンス治療が可能となる。比較的低濃度でアンチセンスを含むゲルの小滴を各胚に正確に滴下した。ゲルは凝固し、少なくとも12時間は定着したままであるため、この領域では低用量のアンチセンスが持続した。アンチセンス適用は、肢、神経管および顔における上昇発現の前に結合を抑止するために、標的化および計時された。これらの時間は、標的組織の細胞膜中にすでに存在するタンパク質のターンオーバーに依存するのではなく、新たなタンパク質の発現を低下させることによってアンチセンスの効果を最適化するために選択した。DB1およびCG1 ODNの両者が、2時間以内に神経管および肢芽内のa1コネキシンタンパク質の発現を低下させ、4〜8時間内に劇的に低下させ、18〜24時間および48時間では一部の組織で持続していた(データは示さない)。a1コネキシンタンパク質のダウンレギュレーションは、使用したいずれの対照においても明確ではなかった。同様に、ニワトリ胚で発現したコネキシン族の2つの要素、b1コネキシンおよびb2コネキシンは、a1コネキシン特異性アンチセンスODNによって影響を受けなかった。
【0088】
すべての実験で、複数の並行対照を実施した。これらには;DB1センス、組み合わされたDB1アンチセンスおよびDB1センス、(それ自体を用いてステムループ構造を形成する)DB1ニワトリ、ランダムODN’s CV3、Pluronicゲル単独、DMSOを含むPluronicゲル、PBS単独が含まれる。いずれの対照も、a1コネキシンタンパク質発現に対して顕著な効果は示さなかった。
【0089】
実験2
概要
星状細胞は、哺乳類の脳において最も豊富な細胞種を構成している。これらは主としてコネキシン43より成るギャップ結合によって、相互におよびニューロンに幅広く結合する(Giaurme and McCarthy(1996))。誘発された虚血または物理的脳損傷の後、これらのチャネルは開いたままで、(上昇した組織内カリウムならびにグルタミン酸およびアポトーシス信号によって開始される)機能低下の拡張波が伝播される(Cotrina et al.,(1998);Lin et al(1998))。上昇したサイトゾルカルシウムの波およびIP3などの第2メッセンジャー分子は、ギャップ結合チャネル経由で損傷領域の核を越えてゆっくりとニューロンに広がり、攻撃の24〜48時間後に損傷への拡張が起きる。このような方法で、損傷していない隣接細胞は破壊され(Lin et al., 1998)、これがいわゆるバイスタンダー効果である。
【0090】
本実験は、本発明の調合物がこのバイスタンダー効果を防止する能力を調査する。
【0091】
物質
オリゴヌクレオチドは以下の配列によって調製した。
【0092】
【化8】

【0093】
方法
オリゴヌクレオチド(ODN)
未修飾ODNは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のPluronic F−127ゲル(BASF)によって送達した。Pluronicゲルは低温(0−4℃)にて液体であり、生理温度にて凝固し、弱い界面活性剤でもある。未修飾ODNは通常、細胞内での半減期が約20分であるが(Wagner 1994)、Pluronicゲル装填法によって連続拡散源が与えられ、ゲルがリザーバーとして作用する(Becker et al.,(1999))。コネキシン43に対して特異性のODNまたは同様の塩基組成の対照ランダムODNは、2mMの最終濃度にて適用した。ゲルのみの対照も実施された。ODNは30merであり、解析によってヘアーピンループまたはホモ二量体化が生じないことが示された。
【0094】
障害
脳障害は250〜300gのオスのウィスターラットで実施した。動物は酸素中の1〜2%ハロセンによって麻酔をかけ、頭は定位固定クランプで保持した。障害部位周辺の領域は剪毛し、頭骨上の皮膚はメスを用いて矢状断面で切開し、頭骨板を露出させておくために引き戻した。Arlecエングレーバーを用いて前頂の右側に直径0.5mmの穴を頭骨板3mmに開け、マイクロメータステージに結合された19G1 1/2ゲージシリンジを用いて、脳の皮質内に窓外を作成した。ステージによって正確な方向制御と、障害を脳梁のはるか上の皮質内に維持する、正確な2mmの貫入深さが可能となる。
【0095】
準備した動物を用いて、コネキシン43特異性ODN(または対照ODN)を含む、10mlの氷冷Pluronic F−127ゲル(BASF)を、先が平らになるようにやすりで切り、予備冷却した19G1 1/2ゲージ注射器の針内に吸引した。注射針は、切り詰めた黄色いピペットチップによってメスピペットに取り付けた。次に、針内のゲルは室温まで加温すると凝固した。チップにゲルの栓を含む針を、PBSを含む1ml注射器に付け替えて、過度に貫入するのを防ぐため、針チップが(頭骨に対して直面している)スリーブを備えた障害まで下げられるように、スリーブを針シャフト上に滑らせた。注射器のピストンにゆっくりと圧を加えると、ゲルが針から押し出されて障害に貫入した。次に創傷を過酸化水素で処置して出血を止め、皮膚を元通りに縫合した。動物を注意深く監視し、24時間後、48時間後または12日後に屠殺する準備ができるまで放置した。
【0096】
凍結切断
動物はNembutal(ペントバルビトンナトリウム、Virbac)を用いて屠殺し、断頭した。脳を損なわないように取り出し、ドライアイスでただちに凍結させ、切断準備ができるまで−80℃で保存した。連続凍結切片(30mm切片)を前部から後部(冠状面)まで採取し、乾燥した切片をクロム明礬処理スライドに装着し、組織化学または免疫組織化学用に−80℃で保存した。障害の中間切片が明確に識別されるように、各障害の最初と最後の切片を記録した。
【0097】
組織化学
ヘマトキシリンおよびエオシン染色するため、切片を順次濃度を下げたアルコール(無水、2×95%、1×70%、水)で水和させ、Gillのヘマトキシリンで4分間染色した。次に切片を水で洗浄し、Scott水に浸漬し、再度水で洗浄した。次にMooreの緩衝エオシンで30秒間染色した。切片を再度水で洗浄してから、一連のアルコール(2×95%、1×無水)、50:50のアルコール:キシロールで脱水し、キシレンに浸漬した。さらに切片をHistomounta封入剤を用いて標本とした。
【0098】
Nissl染色のために、切片を順次濃度を上げたアルコール(75%、95%、3×100%)でそれぞれ5分間脱水し、キシレンで5分間脱脂した。次に切片を順次濃度を上げた同一のアルコールで再度水和させ、水で洗浄した。さらに切片をNissl染色溶液(5mlの2%水性Cresylバイオレット原液、90mlの6%氷酢酸水溶液、10mlの1.35%酢酸ナトリウム溶液)中に10分間放置した。次いで切片を一連の昇順濃度のアルコール(75%で5分間、95%と3×100%で各2分間)と、キシレン×3でそれぞれ10分間素早く脱水した。さらにHistomounta封入剤を用いてカバーガラスをかけた。
【0099】
免疫組織化学
最初に、凍結切片をPBS中で室温に戻した。次にメタノール中で2分間透過化処理し、PBSですすいで、0.1Mリジンおよび0.1%Triton−XのPBS溶液中に移して、30分以上ブロッキングした。次にPBSで2分間、2回洗浄した。PBSを除去し、切片当たり50mlの一次抗体を加えた。
【0100】
免疫組織化学法は、コネキシン43に対する一次抗体であるNeuronal−Nuclei(脊椎動物固有の核タンパク質NeuN)およびGFAP(グリア原繊維酸性タンパク質)を用いて実施した。以下の抗体を使用した:
濃度1:300のウサギ抗−Cx43(Gourdie et al.,(1991))
濃度1:100のマウス抗−Cx43(Chemicon International, Inc.)
濃度1:1000のウサギ抗−ラットGFAP(DAKO,Z0334)
濃度1:000のマウス抗ニューロン核(Chemicon International,Inc.)
【0101】
コネキシンおよびGFAP用に、標識切片は4℃で一晩インキュベートした。次に軌道振盪機上でPBSによって15分間、3回洗浄した。この後、過剰のPBSを除去し、切片当たり50mlのAlexaa488抗−ウサギIgG(Molecular Probes、米国オレゴン州)を1:200の濃度で加えた。モノクローナルおよび二重標識用に、CY3(Chemicon,132C)抗−マウス二次抗体を使用した。切片を暗所にて室温で2時間インキュベートした後、PBS中で15分間、3回洗浄した。標本作成のため、過剰なPBSをスライドから除去し、Citifluor(グリセロール/PBS溶液)抗−退色剤を1,2滴加えた。カバーガラスを切片上に下げて、マニキュア液で密封した。Neuronal−N標識の場合、二次抗体はビオチン化ヤギ抗−マウスであって、次いでアビジン結合HRPおよびDAB反応(Sigma ExtrAvidinまたはDAKO Quickstainキット)を行った。
【0102】
画像診断および分析
Leica TCS 4D共焦レーザー走査顕微鏡を用いて、免疫蛍光標識を実施した。次いで、Leica Combine機能を用いて、またはAdobe Photoshopによって二重標識画像を組み合わせた。ヘマトキシリンおよびエオシン、Nissl染色サンプル、またはNeuronal−N標識切片は、Kontron(Zeiss)Progress 3008デジタルカメラを用いてキャプチャーし、障害領域はMetaMorph(Universal Imaging Corp)を用いて解析した。障害領域は各障害の中間切片で解析した。
【0103】
結果
我々の対照ゲル実験、すべての障害、対照およびアンチセンス処理において、外傷発生から最初の24〜48時間における詳細に記録された脳障害の拡大は、ゲルの装填後、ゲルが停止しにくい外縁付近で広がる傾向を見せた。しかし、対照障害は脳梁に向かって下方および側面に広がって、でこぼこに広がった縁を形成した(図1および2)。Neuronal−N抗体標識組織を調べると、障害縁の十分後ろからニューロンの死が起こっており、Nissl染色領域では生存しているニューロンが残っていないことが明らかになった。この拡大は主として24時間以内に発生し(図1および2)、障害後48時間まで続いた。このことは、図2で特に明確である。図2では、24時間以内でニューロンの死が、障害縁の十分後ろから別の正常に見える組織にかけて明らかであり、障害はすぐ下の脳梁へ広がっている。これに対して、コネキシン43アンチセンス処理した、より良い障害は、元の障害部位に限定されたままであり、基準面が明確に限定されている(図3および4)。Neuronal−N標識はNissl染色組織と共存し、いずれのコネキシン43アンチセンス処理した障害も脳梁へは広がらない。Neuronal−N標識は、元の針路障害のすぐ縁までニューロンが生存していることを示している。これらの障害周囲の生存ニューロンは、針路障害の縁を示す明確な境界を規定することが多い(図3および5)。アンチセンス処理後は、障害自体の内部でさらに多くの組織が生存している;対照障害では、細胞死は障害区域内の組織損失を引き起こす(図2の24時間後の対照障害と、図3および4の48時間後のアンチセンス処理障害を比較)。
【0104】
グリア原繊維酸性タンパク質(GFAP)の抗体標識によって、障害縁における星状細胞の活性化上昇が多少見られるのに対して、コネキシン43タンパク質レベルは、アンチセンス処理障害縁に沿った多くの箇所で、対照(図7)と比較すると特に基底および内側縁(図6)で明らかに低下している。一部の領域では、コネキシン43特異性アンチセンス処理の24時間後に残っているコネキシン43標識は、GFAPレベルの上昇(図6)にもかかわらず、血管壁内にある。一般にアンチセンス処理障害周辺を標識するコネキシン43は、半分以上のコネキシン43標識が星状細胞に関連している対照においてよりもはるかに低い程度で、GFAPと共存する。他のコネキシンレベル(コネキシン26および32)は、コネキシン43特異性アンチセンス処理によって変化したようには思われなかった。
【0105】
36匹の動物に障害を加えた。21匹の動物について断面積(冠状面における中央切片の障害量)を解析した。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
最終解析では、(ゲルが障害の底部に注入および定置されるため)アンチセンス処理がほとんどまたは全く効果を示さない外縁にて広がる障害を除外するために、外側皮質縁から1mm下のラインによる障害領域を測定した。1匹のアンチセンス処理動物がこのグループの平均から3倍標準偏差を超えて外れたため、これを除外した。アンチセンス処理障害の平均障害サイズは24および48時間後で、1.45mm(+/−0.55)であり、対照の場合は2.1mm(+/−0.6)であった。(24および48時間後のアンチセンス処理8個および対照障害8個のうち)最小の4個はすべてコネキシン43処理によるものであり、最小の対照障害はこれらの4個よりも50%以上大きかった。このデータはさらに、図8に図式的に示してある。12日後までに、ラットでは再生が起こり(ヒトの脳組織では起こらないが)、障害拡大の限界は明確に規定されていなかった。
【0108】
考察
Pluronicゲル栓−アンチセンスODN法を用いて、哺乳動物の脳の大脳皮質における障害後に発生する星状細胞増加時の、コネキシン43ノックダウンの効果を調査した。脳において、瀕死のニューロンによる毒素放出によって、バイスタンダー効果として知られる影響が生じ、毒素がギャップ結合チャネルを通じて近隣細胞に広がる(Lin et al.,(1998))。神経変性条件下で、毒素をゆっくりと放出させると、明らかに星状細胞におけるコネキシン43チャネルのアップレギュレーションが生じ、血流への毒素の輸送および血流からの毒素の除去が可能となる。しかし重篤な外傷の場合は、このアップレギュレーションが高濃度の毒素が近隣のニューロンに広がるのを促進するため、近隣のニューロンは死に至る。コネキシン43アップレギュレーションおよびコネキシン43チャネルのノックダウンを阻止すると、この広がりが阻害され、障害が断面積で最大50%に縮小する。このことは、虚血性脳卒中の処置、神経変性疾病の治療、外科的介入による副作用の調整に多大な意味を持つ。
【0109】
実験3
概要
損傷ニューロンが放出する毒素による神経組織におけるバイスタンダー効果が近隣細胞に広がり、それを死に至らしめることは詳細に記録されている。実験2は、ギャップ結合タンパク質コネキシン43をノックダウンするアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの持続性放出手法を用いて、脳におけるこの効果を低下させられることを示している。
【0110】
脳に似た組成の別の組織は脊髄であり、ここでは神経集団はグリア細胞の集団によって支持されている。グリア細胞には、神経環境からグルタミン酸および過剰なカルシウムを除去して神経保護効果を担っている星状細胞が含まれる。この実験は、本発明の調合物が脊髄障害の拡張を低減する能力について調査する。
【0111】
物質
オリゴヌクレオチドは以下の配列を用いて調製した。
【0112】
【化9】

【0113】
方法
ウィスターラットに麻酔をかけ、脊髄を露出させた。脊髄に標準二等分障害を作成し、コネキシン43に対するアンチセンスまたはセンスODN(5mM)のいずれかを含む冷却Pluronicゲル5mlを障害中に配置した。適用は盲目的に行った。次に露出した脊髄を元に戻し、ラットをケージに戻した。一部の動物は24時間後に屠殺したが、残りの動物は12日間および2ヶ月間維持し、ニューロン再生の程度と障害の最終サイズを判定した。軸索再生実験では、ラットに麻酔をかけ、脊髄への入口部位の前で軸索を切断した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)のペレットを切断部に配置して、軸索を24時間に渡って逆標識した。翌日ラットを屠殺し、その脊髄を取り出し、2%パラホルムアルデヒドで固定した。次に脊髄を細胞切断用に処理し、索軸から連続した縦方向8mmの切片を取り出した。次いで切片を、コネキシンまたはGFAP用にヨウ化プロピジウムを核マーカーとして用いて免疫染色するか、HRPを示すように処理した。
【0114】
結果
障害の24時間後、コネキシン43およびアンチセンスODNで処理した脊髄には著しい相違が見られた。センス障害は未処理対照との相違は示さなかったが、これに対してアンチセンス処理障害はより小さく、炎症が少ないように見えた(図9)。
【0115】
12日後、HRP標識軸索はセンスおよびアンチセンス処理脊髄の両方で見られたが、どちらの場合も障害にわたる著しく多くの再生索軸は見られなかった。しかし、アンチセンス障害の障害サイズには著しい相違が見られ、センスまたは未処理障害よりも非常に小さく見えた。
【0116】
障害の2ヵ月後、再生索軸の脊髄HRP標識によって、センスおよびアンチセンス処理の両方において障害部位を通過できなかったことがわかった。アンチセンス処理コードにおいて障害サイズが著しく小さかったのは、二次ニューロン細胞の死が大幅に減少したことを示している。
【0117】
考察
本発明の調合物を使用すると、コネキシン43のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドノックダウンによって、脊髄損傷の最初の24〜48時間後に発生する障害拡張が著しく低減される。コネキシン43のノックダウンも炎症を低減し、さらに神経保護効果を促進するが、ニューロンが障害部位で再増殖する能力は変化しなかった。したがって、コネキシン43特異性オリゴヌクレオチドによるアンチセンス処理は、損傷ニューロンの再増殖を促進できないが、損傷の拡大を低減する著しい神経保護効果を備えている。
【0118】
実験4
概要
皮膚創傷を修復するために、繊維芽細胞、内皮細胞およびケラチノサイトなどの多数の細胞種が活性化され、細胞外基質を増殖、移動および固着させて創傷を満たす。
【0119】
伝達および細胞間信号伝達は、創傷治癒プロセスの重要な機能である。細胞間信号伝達も皮膚層のギャップ結合チャネルの広範なネットワークを通じて役割を担っていると思われるが、細胞外信号伝達機構は主要な因子と考えられている。損傷細胞から表皮を通じて広がるカルシウム波は、その損傷を信号伝達する。正常な創傷治癒コネキシンレベルは、6時間以内に低下を開始し、回復するのに6日間かかる。これらの変化が担う役割は理解されていないが、ひとつの理論は、細胞が迅速に分裂するために近隣の細胞から放出されて、次に接合部が再生されて、創傷部位の内部や上部への移動を調整される。
【0120】
本実験は、本発明の創傷治癒を行う調合物の能力について調査する。
【0121】
物質
オリゴヌクレオチドは以下の配列を用いて調製した:
【0122】
【化10】

【0123】
方法
CD1系統の新生マウスにスプレーによる局所麻酔で麻酔をかけた。次に長さ2mmの清潔な切開創傷を前脚に沿って虹彩刀で作成した。解剖顕微鏡の下で該創傷を作成することによって、大きさが非常に再現しやすくなる。創傷は通常3〜6日で治癒する。後の時点で創傷部位を引き続き確認するための印として、炭素粉を創傷に振りかけた−どちらにしても、炭素粉は治癒には影響を与えない。次に、センスまたはアンチセンスODNを含む、冷却した5mlのPluronicゲルを創傷に塗布した。Pluronicゲルは0〜4℃では液体であるが、それ以上の温度では凝固する。創傷に塗布すると、ゲルはその場で凝固し、ODNの徐放リザーバーとしてはもちろん弱い界面活性剤として作用し、ODNが組織に浸透するのを助ける。センスODNの塗布は片脚に行い、もう一方にはアンチセンスを塗布し、同腹仔間で左右交互にする。新生マウスはランプの下で温めた後、母親に返した。創傷は毎日検査し、治癒品質について評価した。手術の1日後、5日後および8日後に代表となる新生マウスを選択し、その前肢の写真を撮ってから、麻酔をかけ、2%パラホルムアルデヒドを振りかけた。前肢を取り外し、2%パラホルムアルデヒド中で一晩浸漬固定し、その後、樹脂(1日)またはワックス(その後2日間)組織学用に処理した。
【0124】
創傷の炎症は、切開の24時間後に評価した。樹脂部分は創傷を通じて、損傷に反応する最初の細胞である、nissl陽性細胞の好中球を示すためにトルイジンブルーで染色した。これらは好中球特異性マーカーを用いても示すことができる。
【0125】
細胞死およびクリアランスは、アポトーシス細胞のクリアランス速度を決定するために、Tunel標識によって評価する。マクロファージ染色を用いて、次の細胞死が終了する期間を示した。これらは損傷の3〜5日後に実施した。
【0126】
血管形成
肉芽は治癒結合組織の特徴であり、多数の毛細血管の浸潤によって囲まれる。マクロファージは、VEGFなどの強力な血管形成因子を発現することで知られている。血管新生の程度は、VEGFレセプターに対する抗体である、抗−PCAMおよび抗−flt−1を用いて監視される。この組織の収縮は、創傷繊維芽細胞が収縮性筋線維芽細胞に分化することによって引き起こされる。創傷を引き合わせた後、アポトーシスによって死に、マクロファージによって除去される。これらの細胞は、平滑筋アクチン特異性抗体によって明らかにされ、次にその形成および除去が行われる。
【0127】
過神経支配
知覚神経は、損傷時に放出される信号に非常に敏感であり、成人の創傷部位では一過性発芽を示す。しかし新生創傷では、この発芽はさらにおびただしく、永久の過神経支配を生じる。これらの信号が何であるか明らかではないが、炎症性マクロファージから放出されると思われる。過神経支配は創傷7日後に極大であり、神経分布は神経フィラメントに対するPGP9.5抗体を用いて明らかになる。
【0128】
瘢痕は通常、創傷閉包の数週間または数ヵ月後に評価する。しかし、合理的な評価は損傷の12日後に実施できる。創傷による切片をコラーゲン染色Picrosirus Redを用いて染色し、共焦顕微鏡で調べて、創傷部位でのコラーゲン密度および配向を決定する。
【0129】
結果
1日
創傷の24時間後、センスおよびアンチセンス処置肢で著しい相違が明らかであった。センス処理創傷は、未処理と違いがないように見え、正常な治癒グレードおよび速度のスペクトルが得られた(図10)。アンチセンス処理肢は、対照とは著しく異なり、炎症が少ないように思われ、治癒速度が一般に速かった。
【0130】
nissl染色した代表的な肢の樹脂切片によって、好中球細胞が著しく少ないことが明らかになり、このことは炎症組織が少ないことを示していた(図11)。
【0131】
5日
創傷の数日後には、かさぶたが落ち始めた。この段階では、アンチセンス処理創傷の大半がセンス処理よりも小さく見え、かさぶたが小さいか、瘢痕がより目立たないかのどちらかであった(図12)。
【0132】
8日
創傷の8日後、肢に体毛が生えた。センス処理創傷はまだ見えており、創傷部位周辺に体毛jがないために境界が定められていた。アンチセンス処理創傷はほとんど見えず、正常な体毛成長によって覆われていた。体毛成長におけるこのような相違は、アンチセンス処理創傷では瘢痕の発生が減少することを示している(図13)。
【0133】
結論
コネキシン43アンチセンスODNを創傷に塗布すると、治癒プロセスに著しい影響が見られる。最初の顕著な効果は、好中球のレベルによってはるかに低い炎症反応を示す部分にて顕著である創傷の炎症が減少することである。治癒が進むにつれ、アンチセンス処理創傷はより速く治癒し、対照障害よりも瘢痕が少ない。
【0134】
このような炎症反応の低下およびその後の治癒の改善はおそらく、好中球伝達の低下と自然治癒プロセスの高速化によるものである。アンチセンスODNは4〜8時間後にコネキシン発現を低下できるため、創傷の最初の信号伝達に対して影響をもたないが、第2の信号伝達イベントでは役割を果たす。創傷に反応して侵入する好中球は、通常大量のコネキシン43を発現することに注目するのは興味深い。それらが創傷における他の細胞とギャップ結合を形成して、それを用いて伝達することも可能である。この形式の伝達が減少すると、好中球による分泌要素が減少し、創傷内の細胞死が減少することはもちろん、肉芽および過神経支配も減少することがある。通常の条件下で、コネキシンタンパク質レベル(コネキシン26、31.1および43)は、創傷の上皮および皮下層の両方で6時間以内に減少し、最大6日間は低下したままであることも知られている。アンチセンス手法は、膜からタンパク質除去が行われている間に翻訳プロセスを阻止することによって、この初期のタンパク質減少を高速化できる。確かに、創傷直後のコネキシン43ノックダウンの効果は、炎症レベルの低下および治癒速度の向上に著しい効果をもたらす。
【0135】
実験5
概要
火傷後の炎症および第2細胞死は、主な関心事である。身体の高い割合を占める重篤な火傷の犠牲者は、外傷後1または2日で死に至ることが多い。本実験は、本発明の調合物の火傷回復プロセスに有利な影響を及ぼす能力を調査する。
【0136】
物質
オリゴヌクレオチドは以下の配列を用いて調製した:
【0137】
【化11】

【0138】
方法
再現性がよい火傷は湿った皮膚にもたらされ、アンチセンスODNを含むPluronicゲルは火傷に皮下注射した。一連の火傷は、6匹の新生マウスの頭蓋の左側と右側にはんだごてを用いて作成した。頭の片側の火傷はPluronicゲルに含まれるコネキシン43−特異性ODNによって、反対側はPluronicゲルに含まれるセンス対照ODNによって処理した。
【0139】
結果
24時間後、6匹すべてのコネキシン43ODN処置火傷は、対照火傷と比較して低レベルの炎症を示した。これらの相違は顕著であった(データは示さない)。
【0140】
有用性
そのため本発明により、細胞−細胞伝達が一時的で、部位特異的な方法でダウンレギュレート可能な調合物が与えられる。したがって、該調合物は治療方法における用途と化粧処置における用途がある。
【0141】
該調合物のODN成分を長時間(24時間以上)にわたって送達することは、ニューロン損傷の治療に特に遊離である。これは直接の物理的ニューロン損傷の多くの例において、ニューロン細胞損失が実際の損傷部位をはるかに越えて周囲の細胞に広がるためである。この第2のニューロン細胞損失は、元の損傷の24時間以内に発生し、結合ギャップ細胞−細胞伝達によって伝達される。したがってコネキシンタンパク質発現のダウンレギュレーションは、細胞間の伝達を阻害または少なくともダウンレギュレートし、第2のニューロン細胞損失を最小限に抑える。
【0142】
同様に、他の組織損傷の例では(特に創傷)、本発明の調合物が、創傷治癒プロセスの促進、炎症の低減、および瘢痕形成の最小化のいずれにも有効であることがわかっている。したがって該調合物は、外部からの外傷(火傷を含む)または外科的介入のどちらであっても、創傷の治療において明らかに有利である。
【0143】
上の説明は例示目的のためのみに与えており、本発明の範囲を逸脱せずに採用した特異性ODNおよび製薬的に許容可能な担体またはビヒクルのどちらによっても、修正できることをさらに認識されたい。
【0144】
【表3】

【0145】
【表4】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療目的および/または整形目的のためにコネキシンタンパク質の発現を部位特異的にダウンレギュレーションする方法であって、コネキシンタンパク質に対する少なくとも1つのアンチセンスポリヌクレオチドを含む配合物を、前記レギュレーションが必要とされる患者表面部位または患者体内部位に投与することを含む方法。
【請求項2】
コネキシンタンパク質に対する少なくとも1つのアンチセンスポリヌクレオチドの使用であって、治療目的または整形目的のために、前記コネキシンタンパク質の発現をダウンレギュレーションするための医薬品を製造する際の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−41342(P2012−41342A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−179832(P2011−179832)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【分割の表示】特願2000−595711(P2000−595711)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(504364758)
【出願人】(504364769)
【Fターム(参考)】