説明

コネクションレス型通信の制御システム、コネクションレス型通信の制御方法

【課題】コネクションレス型の通信におけるパケットロスを軽減する。
【解決手段】コネクションレス型通信のデータ送信側コンピュータ1は、回線L1.L2の並列物理リンクの有無に応じてラベル情報を動的に変更可能で、各物理リンクのネットワークインタフェースを仮想的に統合する仮想物理層5を備えている。この仮想物理層5のラベル情報の変更は制御手段7が行う。この制御手段7は、仮想物理層の変更されるラベル情報を受信側コンピュータに通知する。受信側コンピュータは、制御手段7から通知されたラベル情報を送信レートの参照値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクションレス型通信における送信レートを制御し、パケットロスを軽減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
≪リンクアグリゲーション(Link aggregation)≫
サーバとLANスイッチの間、または2台のLANスイッチの間を接続する複数の物理リンクを1本に束ねる技術としてリンクアグリゲーションが知られている。このリンクアグリゲーションによれば、より高速な(結果,高価な)インタフェースを利用せずに帯域を増やすことが可能になる。
【0003】
リンクアグリゲーションは、2000年3月にIEEE802.3adとして標準化されている。リンクアグリゲーションを使用すること自体は、トランキングと呼称されている。
【0004】
≪チーミング(Teaming).ボンディング(Bonding)≫
サーバに装着する複数のネットワークインタフェースカードを、ソフトウェアにより仮想的に1枚のネットワークインタフェースに見せる技術を一般的にチーミングと呼ぶ。チーミングを「Linux」(登録商標)のカーネルレベルで実現するのがボンディングである(非特許文献1参照)。
【0005】
いずれの場合も、ソフトウェアで仮想ネットワークインタフェースを実現し、2枚使用する場合にあたかも帯域を2倍に見せることができるものの、このような仮想化は静的な構成に止まり、上位のアプリケーションなどが必要とする回線速度に応じて動的に制御することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”HP Serviceguardの管理Linux用(第6版)”Manufacturing Part Number:B9903−90052.Aug.2006,pp.132−137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IP(Internet Protocol)ネットワークを用いたコンピュータ間の大容量データ転送では、IPネットワーク上の最も帯域幅の狭いリンクがボトルネックリンクとなるため、パケットロスが発生し,スループット低下をもたらしてしまう。
【0008】
このときIPプロトコルの上位層にTCP(Transmission Control Protocol)などを用いるコネクション型通信によれば、エンドエンドのプログラムがスループットの低下に応じて通信パラメータを調整し、パケットロスを軽減する機能を有する。しかしながら、UDP(User Datagram Protocol)などのコネクションレス型通信(非コネクション型通信)では、エンドエンド間のフィードバックによる調整機能を単独では持たないため、TCPのような調整が困難である。
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するために創作され、コネクションレス型通信のデータ送信におけるパケットロスを軽減することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
IPネットワークに接続されるコンピュータのネットワークインタフェースには、レイヤ2の実装規格(例えば100BASE−TXなど)が存在し、接続する回線の伝送容量をネットワークインタフェースのドライバソフトウェアを通じて、いわゆるラベル情報(例えば,100Mbps)として知ることができる。
【0011】
通常、IPネットワークが複数リンクのシリアル接続で構成される場合には、ボトルネットと当該ラベル情報に関連性はなく,有意な情報として利用することはできない。
【0012】
ただし、コンピュータ間が1リンクにより接続されている場合であれば、コネクションレス型の通信であっても回線容量を超えて通信が行われることはなく、ラベル情報の変更を行うことができれば、出力レートを調整する基準として用いることが可能である。
【0013】
そこで、本発明は、コンピュータシステムのネットワークインタフェースのラベル情報を用いて、コネクションレス型通信におけるデータ送信制御を行うことを目的とする仮想的な物理層を構成し、動的に変更可能な当該物理層のラベル情報を参照することで送信レートを制御し、パケットロスを軽減する。すなわち、データ送信を行うコンピュータシステムが備えるネットワークインタフェースに物理的な階層とは、別に仮想的な物理層(ドライバソフトウェア)を構成する。
【0014】
この仮想物理層のラベル情報を、並列物理リンクの有無に応じて動的に変更させ、これを送信レート制御の参照値(上限値)に利用する。これによりコンピュータシステムが具備するネットワークインタフェースのラベル情報を、ユーザプログラムなどから変更可能な通信制御システムが提供される。なお、本発明は、コネクションレス型の通信とフィードバック通信を組み合わせた通信にも応用でき、同様にパケットロスを軽減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コネクションレス型通信のデータ送信におけるパケットロスが軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】コネクションレス型通信の接続状態を示す構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る仮想物理層を導入したコネクションレス型通信の接続状態の一例を示す図。
【図3】同 仮想物理層のラベル変更例を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係る制御システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1〜図4に基づき本発明の実施形態を説明する。図1は、二台のコンピュータ1.2がコネクションレス型通信、即ちUDPを通じてデータ送受信する状態を示している。ここでは各コンピュータ1.2は、ギガビットイーサネット(登録商標)(GbE)とファーストイーサネット(100BASE−TX)の二種類のインタフェース3a.3bを有するスイッチングハブ3を介して接続されている。
【0018】
このような構成の下で、コンピュータ1から送出されるコネクションレス型データは、ギガビットイーサネットのインタフェース3aに対して伝送容量の上限値に近い速度で送出される。このとき前記スイッチングハブ3のファーストイーサネット3b側の出力キューが溢れ、パケットロスを生じるおそれがある。
【0019】
すなわち、IPネットワークを通じて映像伝送など大容量のコネクションレス型データ送信を行えば、ボトルネックリンク(図1の構成例ではインタフェース3bの100BASE−TX)においてパケットロスが発生し、かかるパケットロスはフィードバック制御機構を有しない場合には解消が困難である。
【0020】
図2は、図1中のコンピュータ1に本発明を構成する仮想物理層5を導入した状態を示している。ここでは導入された仮想物理層5によりデータ送出速度がボトルネックの容量に抑えられている。
【0021】
すなわち、各コンピュータ1.2間は、ボトルネックの容量、即ち前記スイッチングハブ3のファーストイーサネット3b側(100BASE−TX)の伝送容量(100Mbps)の1リンクと扱われる。したがって、コネクションレス型データ送信にあたっては、100Mbpsを上限とするデータ送出が実施され、その結果、スイッチングハブ3内部でパケットロスの発生が低減されている。
【0022】
図3は、二台のコンピュータ1.2間に存在する回線容量が変化する例を示している。ここでは各コンピュータ1.2を接続する回線は、インターネット経由の常時接続回線L1と一時的な専用回線L2とにより構成されている。
【0023】
この常時接続回線L1の容量は100Mbpsとし、一時的な専用回線L2の容量は1Gbpsとする。この専用線L2は、アプリケーションなどが必要なときに図外の帯域(リンク)予約サーバとのネゴシエーションにより、時間を限定して利用可能な回線を意味する。ここではコンピュータ1.2間は、常時接続回線L1のリンクが常時確立し、コンピュータ1がコネクションレス型のデータ転送を実施するものとする。
【0024】
図4は、本発明の実施形態に係るコネクションレス型通信の制御システムの構成例を示している。ここでは送信側のコンピュータ1に対する仮想物理層5の実装例が示されている。この実装例によれば、コンピュータ1.2間の回線容量の変動に追従してコンピュータ1のネットワークインタフェースのラベルが動的に変化される。
【0025】
すなわち、コンピュータ1のOS(Operating System)が備える物理的なネットワークインタフェース(I/F)のドライバソフトウェアの上位層には仮想物理層(上位のドライバソフトウェア)5が装着されている。この仮想物理層5は、制御手段7を介して動的にラベルが変更可能で複数のネットワークインタフェースを仮想的に統合する。ここでは仮想物理層5は、前記両回線L1.L2に確立された並列物理リンクのネットワークインタフェースを仮想的に統合するものとする。
【0026】
この制御手段7は、コンピュータ1のメモリ(RAM)領域に常駐する常駐プログラムでもよく、上位アプリケーションなどのユーザプログラムであってもよく、必要に応じて前記専用回線L2の予約を獲得するために帯域(リンク)予約サーバ6にアクセスするものとする。以下、図4に基づき仮想物理層5のラベル変更の過程(S01〜S06)を説明する。ここではコンピュータ1は、図示省略の接続対置のコンピュータ2にコネクションレス型通信のデータ送信を実施するものとする。
【0027】
S01:まず制御手段7は、回線速度の必要に応じて専用回線L2の一時利用を獲得する。すなわち、制御手段7は、帯域予約サーバ6にアクセスし、リンク(専用回線L2)を要求する。ここでは一例として帯域予約サーバ6に対して、午後1時〜午後2時までの間に専用回線L2の1Gbpsの帯域を要求するものとする。なお、帯域予約サーバ6へは、常時接続回線L1を利用してインターネット経由でアクセス可能なものとする。
【0028】
S02:つぎに制御手段7は、S01の要求に対する予約情報を帯域予約サーバ6から取得する。ここでは午後1時〜午後2時までの間に専用回線L2の一時利用、即ち1Gbpsの帯域確保の予約情報が得られたものとする。
【0029】
これにより午後1時〜午後2時までの間は、前記両回線L1.L2を通じて1.1Gbpsの容量が確保される。なお、帯域予約サーバ6から前記予約情報が取得できない場合、即ち専用回線L2の一時利用ができない場合には、S03以降のプロセスは実施されない。
【0030】
S03:制御手段7は、S02の予約情報を取得した後に、接続対置側のコンピュータ、即ちコネクションレス型データの受信側コンピュータ2に対して仮想物理層5に設定するラベルのパラメータを通知する。
【0031】
具体的には、午後1時〜午後2時までの間、仮想物理層のラベルを1.1Gbpsに設定する旨が常時接続回線L1を通じて通知される。この通知は、受信側コンピュータ2の受信プログラムが最大入力値(1.1Gbps)を把握するために行われる。これにより受信側コンピュータ2は、仮想物理層5のラベル変更を送信レートの上限値として参照することができる。
【0032】
S04:制御手段7は、S03の通知後に帯域予約サーバ6から取得した予約情報に基づき仮想物理層5のラベルを変更する。すなわち、コンピュータ1の内蔵時計が午後1時を示したときに、仮想物理層5のラベルが1.1Gbpsに変更される。
【0033】
S05:帯域予約サーバ6は、制御手段7がS07で前記予約情報を取得した後に専用回線L2を用意する。ここでは帯域予約サーバ6の内蔵時計が午後1時を示したときには、該予約サーバ6のネゴシエーションを通じて専用回線L2のリンクが確立される。
【0034】
このリンク確立後に仮想物理層5は、S04のラベル変更に従って前記両回線L1.L2のネットワークインタフェース(I/F)を仮想的に統合し、コネクションレス型のデータ送信を実施させる。このとき受信側コンピュータ2に対しては、最大1.1Gbpsのデータが送信されるものの、S03で受信プログラムが最大入力値を参照しているため、パケットロスの発生が抑制される。なお、帯域予約サーバ6は、内蔵時計が午後2時を示したときには、前記専用回線L2を削除する。
【0035】
S06:前記制御手段7は、送信側コンピュータ1の内蔵時計が午後2時を示したときに仮想物理層5のラベルを専用回線L2のない状態、即ち常時接続回線L1のみの状態の0.1Gbpsに戻す。したがって、午後2時以降、両コンピュータ1.2間は、常時接続回線L1を通じてコネクションレス型通信が実施される。
【0036】
このように仮想物理層5のラベルを並列物理リンクの有無に応じて変更することで送信レートが制御され、特に仮想物理層5に設定するラベルのパラメータが送信レート制御の参照値(上限値)に利用されるため、パケットロスが軽減され、通信状態が安定化する。これにより大容量データの送信にあたって有意義な効果が得られる。
【0037】
すなわち、現在、物理ネットワークの制御機能の高度化に伴い、複数のリンクを時間制御するサービスが登場している。このサービスによれば、コンピュータ間のリンクを時間制御の要求に応じて並列に構成し、該コンピュータ間の伝送容量を調整することが可能である。
【0038】
このような環境の下、前記システム構成例によれば、大容量データを送信するコンピュータ側のネットワークインタフェースが仮想的に統合され、仮想物理層5に記述されたラベルを用いて送信レートの制御を行うことが可能となり、これによりパケットロスを軽減することができる。このような送信レートの制御は、例えば高解像度の映像伝送などの画質改善に効果を発揮する。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で変形して実施することができる。例えば、前記送信側コンピュータ1だけではなく、両コンピュータ1.2に仮想物理層5および制御手段7を設けることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1.2…コンピュータ
3…スイッチングハブ
3a.3b…スイッチングハブのインタフェース
5…仮想物理層
6…帯域予約サーバ
7…制御手段
L1…常時接続回線
L2…一時的な専用回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ間におけるコネクションレス型通信のデータ送信を制御するためのシステムであって、
両コンピュータ間の並列物理リンクの有無に応じてラベル情報を動的に変更可能で、該各物理リンクのネットワークインタフェースを仮想的に統合する仮想物理層を備え、
前記仮想物理層のラベル情報を通じて送信レートを制御することを特徴とするコネクションレス型通信の制御システム。
【請求項2】
前記仮想物理層のラベル情報を並列物理リンクの有無に応じて変更させるための制御手段をさらに備え、
前記制御手段が、前記仮想物理層の変更されるラベル情報をコネクションレス型通信のデータ送信に先立って受信側コンピュータに通知し、
該送信先のコンピュータが、前記制御手段から通知されたラベル情報を送信レートの参照値に利用する
ことを特徴とする請求項1記載のコネクションレス型通信の制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記並列物理リンクの利用時間帯を予約し、該予約情報に従って前記仮想物理層のラベル情報を変更させ、
前記通知に前記予約情報を含めることを特徴とする請求項2記載のコネクションレス型通信の制御システム。
【請求項4】
コンピュータ間におけるコネクションレス型の通信データ送信を制御するための方法であって、
送信側のコンピュータが、両コンピュータ間の並列物理リンクの有無に応じて仮想物理層のラベル情報を動的に変更させる第1ステップと、
前記仮想物理層が、前記各物理リンクのネットワークインタフェースを仮想的に統合する第2ステップと、
を有することを特徴とするコネクションレス型通信の制御方法。
【請求項5】
前記送信側コンピュータの制御手段が、前記仮想物理層の変更されるラベル情報をコネクションレス型通信のデータ送信に先立って受信側コンピュータに通知する第3ステップと、
前記受信側のコンピュータが、前記第3ステップにて通知されたラベル情報を送信レートの参照値とする第4ステップと、
をさらに有することを特徴とする請求項4記載のコネクションレス型通信の制御方法。
【請求項6】
前記第1ステップにおいて、前記並列物理リンクの利用時間帯を予約し、該予約情報に従って前記仮想物理層のラベル情報を変更させる一方、
前記第3ステップにおいて、前記第3ステップの通知に前記予約情報を含めることを特徴とする請求項5記載のコネクションレス型通信の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−49809(P2011−49809A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196416(P2009−196416)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】