説明

コネクタ、車載バス駆動装置、保護回路、アダプタ、車載バス支線用ワイヤハーネス、車載バス支線用波形整形装置及び車載バス用ジョイントコネクタ

【課題】自動車における通信エラーを低減し、バス・トポロジ設計上、自由に通信ラインを設計できるようにする。
【解決手段】車載バス21の幹線7から車載バス駆動装置の最終出力段13に至る通信ライン中に抵抗17a,17bを挿入する。ケーブル・スタブ長が長くなっても、その反射量を減衰させることができ、通信ラインでのリンギングを減少させることができる。したがって、接続ノード数、バス長、ノード間距離等のバス・トポロジ上の制約を軽減することができ、通信ラインを自由に設計することが可能になる。抵抗17a,17bを挿入するだけでよいため、対策にかかるコストが低くて済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、車載バス駆動装置、保護回路、アダプタ、車載バス支線用ワイヤハーネス、車載バス支線用波形整形装置及び車載バス用ジョイントコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車内配線(ワイヤハーネス)を削減するために、制御装置やセンサ/アクチュエータ群からなる多数の電装ユニットを多重通信ラインにて接続した通信システムが構築される。低速な多重通信では、一本の信号線とボディを用いた通信回路より通信システムが構築されるのに対して、数十kbps〜10Mbpsの高速な多重通信では、撚り対線(ツイストペア線)が通信路(バス)として用いられる。そして電装ユニットの通信部(ノード)は車載バス駆動装置(トランシーバ)を用いて通信路を駆動する。
【0003】
このような多重通信の代表的な方法としてCAN(Control Area Network)通信がある。このCAN通信のプロトコルの物理層は、ISO/DIS11898やSAE−J2284等において、信号レベルや電線の特性、配線トポロジが規定されている。
【0004】
CANに使用される車載バス駆動装置は、CAN_H及びCAN_Lのバス駆動線を一対のトランジスタで駆動している。また、車載装置ではこれら車載バス駆動装置に保護回路を付けて使用している。
【0005】
一般に、自動車においては、キーが抜かれた状態でも電源が供給されて動作している電装ユニット(ECU)と、キーをアクセサリーの位置やイグニションの位置に回して初めて電力が供給されて動作する電装ユニットとが、同一の車載バス上で混在される。
【0006】
このような車載バスに用いられる車載バス駆動装置は、非通電時に車載バスに影響を与えにくくするため、入力インピーダンスを高く設定する必要がある。
【0007】
一方、車載バスから見た出力インピーダンスについては、極力低く設計される。これは、車載バスにつながっている容量成分の電荷を素早く充放電させて、正規の信号レベルで駆動する必要があるためである。数値的にはTTLや駆動能力の大きなCMOSトランジスタの出力インピーダンスである30Ω程度の値となる。
【0008】
以上の従来技術をまとめると、あるノードの車載バス駆動装置内の最終駆動段トランジスタから、車載バスの終端または車載バスに接続されている他のノードの車載バス駆動装置までの間に、意図的に抵抗成分を加えることはなかった。CAN以外でも、撚り対線が用いられる数十kbps〜10Mbpsの高速な車載多重通信でも同じである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、通信ラインを方形波駆動すると、図18のような波形になる。即ち、通信ラインにおいては、インピーダンスミスマッチによる線路の反射が主な要因となって、図18に示すようなリンギング1,3が発生する。尚、図18中の符号6はオーバーシュート、符号5はアンダーシュートをそれぞれ示している。
【0010】
一方、ツイストペア線を用いて差動信号を伝達する車載バスの場合二本の信号があるため、例えば車載バスの代表例であるCANの場合、信号の波形は図19のようになる。
【0011】
以後、差動信号の一方の側(CAN_H信号)の波形について説明する。
【0012】
このCAN_H信号は、出力段のトランジスタで直接駆動されており、上述のように、出力インピーダンスが低く設定される。
【0013】
一方、ツイストペア線の特性インピーダンスは約120Ωとやや高い。このため、インピーダンスミスマッチが既に起こっている。
【0014】
ここで、CANバスの配線トポロジを図20のように表現したとする。図20中の符号6a,6bはノード間距離Lが最も長いノード、符号6c〜6eは幹線7から引き出された支線8に接続されたCANノード、符号λは支線8の長さ(ケーブル・スタブ長)、符号dはノード間最小距離をそれぞれ示している。
【0015】
CANではケーブル・スタブ長λは、国際規格であるISO/DIS11898において最大0.3mが推奨され、アメリカ自動車技術会の規格であるSAE(Society of Automotive Engineers)−J2284では最大1mが推奨されている。しかし、実際の自動車では、配線のための空間が狭いため、ケーブル・スタブ長λがどうしても上記の推奨寸法に比べて長くなることがある。このため位相のずれた信号反射によるリンギングが収まりにくかった。
【0016】
図21は、車載CANバスの差動信号で、特に悪い波形例を示す図である。CAN通信における差動スレッシュホールド電圧値は、下限値が0.5V、上限値が0.9Vとなっている。そして、各車載バス駆動装置は、CAN_HとCAN_Lの差動電圧と差動スレッシュホールド電圧値とを比較し、信号ライン上の電圧が0.9Vよりも高い場合にドミナントと判断する一方、信号ライン上の電圧が0.5Vよりも低い場合にレセシブであると判断する。
【0017】
図21においては、レセシブ→ドミナントと変化する場合(2)はリンギングの収束が早く0.9Vのスレッシュホールド電圧も割り込んでいないが、ドミナント→レセシブと変化する場合(3)は非常に収束が悪い。これは、ドミナントの電圧維持がトランジスタにより能動的に行われるのに対し、レセシブの電圧維持がパッシブに行われるため信号反射によるリンギング1が収まりにくいからである。実際にドミナントの状態が終了した時点T1から受信側でレセシブの開始を判断できる時点T2までの間に時間差Δt(=T2−T1)が発生する。このような時間差Δtの長時間化は通信エラーを引き起こす原因になる。
【0018】
このため、必要な通信速度を維持するためには、接続ノード数nを減らしたり、バス長Lを短くしたり、あるいはノード間距離dを短くしたりして、リンギングが起こる原因を減らす努力が必要であったが、このことは、車載バス・トポロジ設計上の大きな制約であり、車全体のネットワーク設計を困難にしたり、規模によってはゲートウェイでバスを分割する必要があるなど、コストアップの原因となっていた。
【0019】
そこで、本発明の課題は、バスのリンギング収束を早くすることで、車載バスの通信速度を維持したまま、車全体のネットワーク設計の自由度を上げ、またコストアップとなるバス規模を大きくし得るコネクタ、車載バス駆動装置、保護回路、アダプタ、車載バス支線用ワイヤハーネス、車載バス支線用波形整形装置及び車載バス用ジョイントコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、特性インピーダンスZ0の車載バスに接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧VBUSが所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態(ドミナント)とパッシブ状態(レセシブ)とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に対して着脱自在に接続するためのコネクタであって、内部にまたは前記車載バスとの間に前記車載バスと直列接続される抵抗を備えるものである。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコネクタであって、前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0022】
請求項3に記載の発明は、車載バス上で信号の送受信を行うとともに、前記信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、とレセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別する車載バス駆動装置であって、差動による通信により前記車載バスに対して信号の送受信を行うための一対のスイッチング素子と、前記各スイッチング素子と前記車載バスとの間に直列接続された抵抗とを備えるものである。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車載バス駆動装置であって、前記抵抗が、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0024】
請求項5に記載の発明は、車載バスのコネクタに着脱自在に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続されるコネクタであって、内部にまたは車載バス駆動装置との間に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備えるものである。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のコネクタであって、前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0026】
請求項7に記載の発明は、車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続される保護回路であって、内部に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備えるものである。
【0027】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の保護回路であって、前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0028】
請求項9に記載の発明は、車載バスにあって、車載バス駆動装置に接続されるコネクタの付近に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行うアダプタであって、内部に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備えるものである。
【0029】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のアダプタであって、前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0030】
請求項11に記載の発明は、特性インピーダンスZ0の車載バス幹線に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧VBUSが所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態(ドミナント)とパッシブ状態(レセシブ)とを峻別しながら前記車載バス幹線上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置を前記車載バス幹線に接続するための車載バス支線用ワイヤハーネスであって、前記車載バス駆動装置と車載バス幹線との間に直列接続される抵抗を備えるものである。
【0031】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の車載バス支線用ワイヤハーネスであって、前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0032】
請求項13に記載の発明は、車載バス支線に適用することで、請求項11のワイヤハーネスと同等の構成を取れるように、車載バスに対して直列抵抗を内部に備えたものである。
【0033】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0034】
請求項15に記載の発明は、請求項13に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、車載バス幹線との接続を行うジャンクションコネクタへの接続コネクタと一体化したものである。
【0035】
請求項16に記載の発明は、請求項14に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【0036】
請求項17に記載の発明は、車載バス幹線に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VRT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス幹線上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続されるものである。
【0037】
請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の車載バス用ジョイントコネクタであって、前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンス訓から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されるものである。
【発明の効果】
【0038】
一般に、車内通信においては、幹線のバス長が短くて通信ラインにおける全体的な抵抗値が低くなる反面、支線長が長くなるために、一般的なLANやWANに比べてリンギングが発生しやすいという特殊な事情があるのに対して、請求項1〜請求項10に記載の発明では、車載バス駆動装置から車載バスに至る通信ライン中に抵抗を挿入することにより、支線長が長くなっても、その反射量を減衰させることができる。したがって通信ラインのリンギングを減少させることができる。この場合、抵抗を挿入するだけでよいため、対策にかかるコストが低くて済む利点がある。
【0039】
また、請求項1及び請求項2では、ワイヤ・ハーネス側のコネクタを交換するだけで、電装ユニットとして既設計の回路・装置がそのまま使える利点がある。特にリンギングのひどい電装ユニットのみに対して、その電装ユニットのワイヤ・ハーネス側コネクタを交換するだけでも効果があり便利である。
【0040】
さらに、請求項3及び請求項4では、車載バス駆動装置内に抵抗を組み込むだけでよいため、車載バス駆動装置内の回路を構成するプリント配線基板を再設計する必要がないことから、コストの上昇をあまり伴わない利点がある。
【0041】
さらにまた、請求項5及び請求項6では、車載バス支線全体に抵抗を組み込むための簡便な装置を提供できる。この場合において、電装ユニットの数が多いときはコスト的にメリットが出てくる。また、終端を内部に組み込むことも容易である。
【0042】
また、請求項9及び請求項10では、アダプタを用いることで、非常に小型化・軽量化を達成できるため、他の電線と束ねてテープ等の簡単な結束具で固定することができる。しかも、アダプタを後付けすることができるので、容易に製造することができる。さらに、車載バスの必要な部位にのみアダプタを容易に取り付けて使用できる利点がある。
【0043】
請求項11〜請求項18に記載の発明では、車載バス支線から車載バス幹線とのジャンクション部分に至る通信ライン中に抵抗を挿入することにより、支線長が長くなっても、その反射量を減衰させることができる。したがって通信ラインのリンギングを減少させることができる。この場合、抵抗を挿入するだけでよいため、対策にかかるコストが低くて済む利点がある。
【0044】
また、請求項11及び請求項12では、オプション機器増設の際にのみ、ワイヤハーネスも専用のものを用いるだけでよく、電装ユニットとして既設計の回路・装置がそのまま使用できる。また、部品点数も少なく、小型・安価であるし、必要な支線のみに取り付けて使うことができるため、コスト面で有利である。抵抗部分の固定方法も、ワイヤハーネスへのテープ止め等の簡単な固定を行うことができ、また防水構造の採用を行うことも容易となる。
【0045】
また、バス支線のみの変更となるため、特にリンギングのひどい電装ユニットのみに対して、その電装ユニットのワイヤハーネスを交換するといった応急的な使い方も可能である。
【0046】
請求項13及び請求項14では、車載バス支線に抵抗を組み込むための簡便な装置を実現でき、プリント基板を用いないことにより、コストの上昇を伴わない利点がある。
【0047】
請求項15及び請求項16では、車載バス支線に抵抗を組み込むための簡便な装置を実現でき、電装ユニットの数が多い場合に、コスト上の利点がある。また終端を内部に組み込むなどの設計が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
例えば、車載バスの通信方式の代表例であるCAN通信では、図21において、ドミナント→レセシブと変化する場合(3)はリンギングの収束を早くすれば、実際にドミナントの状態が終了した時点T1から受信側でレセシブの開始を判断する時点T2までの間にΔt(=T2−T1)が短くなり通信エラーを引き起こしにくくなる。逆に言えば、ノード数を増やしたり、支線長を延長したりする設計上の余裕が出てくる。
【0049】
そこで、この発明の一の実施形態では、バス駆動段のトランジスタ出力から通信ラインまでの間または通信ライン上など、車載バス支線から車載バス幹線とのジャンクション部までの間に、数Ω(1Ω前後を含む)〜数十Ωの抵抗を直列に設けた。図21が対策前、図1が対策後である。インピーダンスマッチングの観点から、抵抗の実装場所は、車載バス駆動段トランジスタに距離的に近い場所が良い。この抵抗は、オーバーシュートやアンダーシュート、反射波の振幅を抑える、いわゆるダンピング抵抗として機能するものである。
【0050】
一般に、建物内のLAN(Local Area Network)や広域通信のWAN(Wide Area Network)においては、信号ラインが長いため通信ラインの導体抵抗を無視できない。したがって、信号電圧低下を避けるため、故意に通信路にダンピング抵抗となる直列抵抗を設けることがこれまで無かった。
【0051】
例えば、通信ライン中に抵抗を直列に挿入すると、通信ラインにおける信号の振幅Hが減少する。実際、図21で2Vあった振幅が、図1では1.5V弱に低下している。
【0052】
しかしながら車載バスにおいては、ノード間の最長距離L(図20)はせいぜい10m以下で比較的短く、故に通信ラインの導体抵抗はほとんど無視できる。従って、予めレセシブ側の判定マージン(0Vに対してスレッシュホールド電圧0.5V)に相当する振幅1.4V(=0.9V+0.5V)が確保できる程度のダンピング抵抗なら通信ラインに直列に入れても、全体のノイズマージンに影響がない。
【0053】
ところで、通信ライン中に抵抗を直列に挿入することで、信号の立ち上がり/立ち下がり時間の遅延というマイナスの現象も発生する。しかし、車内通信では1Mbps程度以下の通信速度が適用されることから、信号の立ち上がり/立ち下がり時間の遅延はほとんど問題にならない。なぜなら、1Mbps以下の通信の場合、1ビットのパルス幅は1μs以上あり、通信ライン中に直列に挿入される抵抗の値が数Ω〜数十Ωの範囲では、信号の立ち上がり/立ち下がりへの影響は数ns〜数十ns以下であり、ほとんど通信に影響は出ないからである。
【0054】
以上述べたように、通信ラインに抵抗を直列に挿入することは、建物内のLAN(Local Area Network)や広域通信のWAN(Wide Area Network)においては問題となるのに対して、自動車内における1Mbps以下の通信においては、抵抗値を適切に選ぶ限りほとんど問題とならない。その効果はダンピング抵抗と同様であり、図21→図1に示したとおり、リンギング1の収束が早くなり、実際にドミナントが終了した時点T1から受信側でレセシブの開始を判断する時点T2までの時間差Δtを縮減できる。従って、通信の品質を維持しながら、バス・トポロジ設計上の制約が緩和される。
【0055】
図7は差動電圧で見たときの、通信ラインの様子を表している。ここに、41は送信側電装ユニット、42はそのバス駆動装置(出力インピーダンスZS)、43は本発明により取り付ける抵抗(抵抗値R)、44は受信側電装ユニット、45はそのバス駆動装置(受信状態)、46は本発明により取り付ける抵抗(抵抗値R)、47は幹線となる通信ライン(特性インピーダンスZ0)、48は幹線の終端をそれぞれ表す。バス駆動装置42が出力をドミナント駆動する振幅をVとすると、ZS、R、Z0分圧比により、通信ケーブル47にかかる差動振幅VDは、
D=Z0V/(Z0+2R+ZS) …(1)
となる。バス駆動装置45の入力にかかる差動振幅もVDである。抵抗46が影響しないのは、バス駆動装置45が受信状態にあり、入力インピーダンスが極めて高いためである。
【0056】
ドミナントとレセシブのノイズマージンが偏っていない条件は
D−VDT≧VRT−VR …(2)
である。なぜならCANの場合(2)式の右辺は固定値であり、VDのみが可変だからである。ここにVDTはドミナント差動スレッシュホールド電圧値、VRTはレセシブ差動スレッシュホールド値、VRはレセシブ出力電圧(CANでは0V)を表す。
【0057】
(1)式を(2)式に代入してRについて整理し、R>0を考慮すると、求める計算式
0<R≦Z0(V/(VDT+VRT)−1)/2−ZS …(3)
が得られる。
【0058】
(3)式において、右辺がマイナスにならないようにVを設定しなければならないことがわかり、そのときのRの範囲が求まる。
【0059】
例えばCANの場合、Vは通常2Vであるため、VDT=0.9V、VRT=0.5V、Z0=120Ωで、ZSが十分小さいとすれば、(3)式は0<R≦25.7となる。
【0060】
Vが1.5Vになった時は、0<R≦8.57となり、十分なリンギングの収束時間短縮の得られるRの値を選べない可能性がある。このようにならないため、車載バス駆動装置の出力電圧振幅Vは高めに設定しておくことが望ましい。車載バス駆動装置の出力電圧振幅は、図2で言えば15a、15bのダイオードによる順方向電圧で決まる。このため、このパラメータが小さくなるようプロセス管理することにより、所定のダンピング抵抗を入れた状態でノイズマージンを確保できる出力電圧振幅を持つ車載バス駆動装置を作ることができる。
【0061】
<第1実施例>
図2は第1実施例に係る車載バス駆動装置11を示すブロック図である。この車載バス駆動装置11は、図2の如く、CAN通信を制御するCANコントローラICであって、一対の差動信号(CAN_H信号及びCAN_L信号)を出力するための一対のトランジスタ13a,13bを有する信号送信回路部13と、この各トランジスタ13a,13bに対する電圧印加方向をそれぞれ規定するダイオード15a,15bと、この各ダイオード15a,15bの出力側にそれぞれ直列に接続された抵抗17a,17bとを備える。
【0062】
信号送信回路部13の一対のトランジスタ13a,13bのうちの一方のトランジスタ13aは、CAN_H信号を出力するためのハイ側トランジスタであって、一端が電源Vccに接続され、他端がダイオード15aのアノードに接続され、所定の電装ユニットの送信回路14から与えられるゲート信号に応じてオンオフする。また、他方のトランジスタ13bは、CAN_L信号を出力するためのロー側トランジスタであって、一端がダイオード15bのカソードに接続され、他端が接地(GND)され、所定の電装ユニットから与えられるゲート信号に応じてオンオフする。
【0063】
各ダイオード15a,15bは、通信ラインであるツイストペアケーブル21と信号送信回路部13の各トランジスタ13a,13bの間において電流の逆流を防止するために介装される。
【0064】
各抵抗17a,17bは、信号の反射等によるリンギング1の振幅やオーバーシュート、アンダーシュート等を抑えるためのダンピング抵抗であって、特に、ツイストペアケーブル21から通信の相手先の受信回路22で受信される信号のレセシブ状態でのリンギング1の収束時間が、意図した時間以内になるような抵抗値R(例えば数Ω〜数十Ω)に設定される。
【0065】
また、所定の電装ユニットの受信回路22への接続は、各ダイオード15a,15bと各抵抗17a,17bとの間の接続点から引き出される。これにより、通信ラインであるツイストペアケーブル21から受信した信号が、抵抗17a,17bによって分圧されてから受信回路22に入力されることになる。
【0066】
かかる車載バス駆動装置11は、所定の保護回路24を介して基板側コネクタ23に接続され、この基板側コネクタ23がツイストペアケーブル21側のハーネス側コネクタ25に着脱自在に接続されるようになっている。
【0067】
かかる構成の車載バス駆動装置11において、電装ユニットの送信回路14から信号送信回路部13の各トランジスタ13a,13bにゲート信号が与えられる。
【0068】
CAN_H信号については、電装ユニットの送信回路14からのゲート信号に応じて一方のトランジスタ13aがオンすることによって、電源Vccがトランジスタ13a及びダイオード15a、抵抗17a、保護回路24、基板側コネクタ23及びハーネス側コネクタ25を通じてツイストペアケーブル21に送出される。
【0069】
このとき、相手先の電装ユニットでは、ツイストペアケーブル21から与えられた電圧が、ハーネス側コネクタ25、基板側コネクタ23、保護回路24、抵抗17aを通じて、受信回路22に入力される。
【0070】
即ち、コネクタ及び保護回路には直列抵抗はないため、送信側車載バス駆動装置の出力電圧はZ0/(Z0+2*17a)倍となって受信側車載バス駆動装置内の受信回路に伝わる。
【0071】
CAN_L信号についても、電源Vccと接地GNDとが異なるだけで、上記CAN_H信号の場合と同様である。
【0072】
本実施例では、車載バス駆動装置11内に抵抗17a,17bを組み込んでいるため、電装ユニットの回路に追加する部品も必要なく、プリント配線基板を再設計する必要もないことから、コストの上昇をあまり伴わない利点がある。
【0073】
<第2実施例>
この第2実施例では、図3の如く、保護回路24内に抵抗17a,17bを組み込んでいる点で、第1実施例とは構成を異にする。その他の構成は第1実施例と同様である。
【0074】
なお、ここでは、車載バス駆動装置11のピンから、基板側コネクタ23までの間にある回路を保護回路と呼んでいる。
【0075】
この第2実施例によっても、第1実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第1実施例と同様の利点がある。
【0076】
また、プリント基板上に抵抗を2個追加するだけであるため、設計変更が容易であり、コストアップもほとんどない。
【0077】
<第3実施例>
この第3実施例では、図4の如く、ハーネス側コネクタ25内に抵抗17a,17bを組み込んでいる点で、第1実施例及び第2実施例とは構成を異にする。その他の構成は第1実施例及び第2実施例と同様である。
【0078】
この第3実施例によっても、第1実施例及び第2実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第1実施例と同様の利点がある。
【0079】
さらに、ハーネス側コネクタのみの変更であるから、従来の電装ユニットがそのまま使える利点がある。特にリンギング1のひどい電装ユニットのみに対して、対処することもでき、便利である。
【0080】
<第4実施例>
この第4実施例では、図5の如く、ハーネス側コネクタ25とツイストペアケーブル21との間に抵抗17a,17bを介装させている点で、第1実施例〜第3実施例とは構成を異にする。その他の構成は第1実施例〜第3実施例と同様である。
【0081】
この第4実施例によっても、第1実施例〜第3実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第1実施例と同様の利点がある。
【0082】
本実施例は、IC、プリント基板、コネクタのいずれも変更することなしに適用できるため、応急の際には便利である。
【0083】
<第5実施例>
この第5実施例では、図6の如く、基板側コネクタ23内に抵抗17a,17bを組み込んでいる点で、第1実施例〜第4実施例とは構成を異にする。その他の構成は第1実施例〜第4実施例と同様である。
【0084】
この第5実施例によっても、第1実施例〜第4実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第1実施例と同様の利点がある。
【0085】
また、基板コネクタ23の変更だけで適用できるため、プリント基板の変更がほとんど不要であり、適用が容易である。
【0086】
<第6実施例>
上記第1〜第5実施例は、バス駆動段のトランジスタ出力から通信ラインまでの間のコネクタ、車載バス駆動装置または保護回路において抵抗17a,17bを直列に設けていたが、直列の抵抗17a,17bの実装場所は、バス駆動段のトランジスタ出力から通信ラインまでの間に限定しなくてもよい。このひとつの実施例として、第6の実施例は、通信ライン(車載バス)上に数Ω(1Ω前後をも含む)〜数十Ωの抵抗17a,17bを直列に設けたものである。
【0087】
図8はこの実施の形態の第6の実施例を示すブロック図、図9は第6実施例に使用されるアダプタ29の内部構成を示す図である。
【0088】
この第6実施例では、図8の如く、通信ライン(車載バス)としてのツイストペアケーブル21上において、ハーネス側コネクタ25の付近にアダプタ29を設置し、このアダプタ29内に抵抗17a,17bを組み込んでいる点で、第1実施例〜第5実施例とは構成を異にする。その他の構成は第1実施例〜第5実施例と同様である。
【0089】
このアダプタ29とツイストペアケーブル21との接続方式はコネクタ接続でも圧接接続でもよく、あるいはその他の方式を採用してもよい。また、アダプタ29はピグテール形式のものを適用してもよい。
【0090】
この第6実施例によっても、第1実施例〜第5実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第1実施例と同様の利点がある。
【0091】
また、アダプタ29を用いることで、非常に小型化・軽量化を達成できるため、他の電線と束ねてテープ等の簡単な結束具で固定することができる。
【0092】
さらに、アダプタ29を後付けすることができるので、容易に製造することができる。
【0093】
さらに、ツイストペアケーブル21の必要な部位にのみアダプタ29を容易に取り付けて使用できる利点がある。
【0094】
<第7実施例>
図10はこの実施の形態の第7実施例に係る車載バス支線ワイヤーハーネス30の例を示すブロック図である。上記した各実施例では、リンギング1の振幅やオーバーシュート、アンダーシュート等を抑えるためのダンピング抵抗として抵抗17a,17bを設置していたが、例えばCAN程度の周波数ではリンギング電圧振幅減衰だけでも効果が大きい。この実施例では、リンギングの電圧振幅減衰にのみ注目したものである。
【0095】
即ち、この実施例においては、この車載バス支線ワイヤーハーネス30は、図10の如く、多重通信路を形成する支線としてのツイストペア線21と抵抗部31及びコネクタ25,32からなり、電源線等の電線と束ねられ、車種に応じた所定の長さの位置で個別のコネクタに配線分離される。
【0096】
抵抗部31は、信号の反射等によるリンギング1(図1)の振幅を抑えるためのダンピング抵抗であって、特に、ツイストペアケーブル21から通信の相手先の受信回路22で受信される信号のレセシブ状態でのリンギング1の収束時間が、意図した時間以内になるような抵抗値R(例えば数Ω(1Ω前後を含む)〜数十Ω)に設定される。
【0097】
尚、符号7は幹線、符号11aは電子制御ユニット(ECU)、符号32はコネクタ、符号33は幹線7にコネクタ32を接続するためのジャンクションコネクタ(JC)をそれぞれ示している。その他の構成は、第1〜第6実施例と同様である。
【0098】
この実施例によると、車載バス支線ワイヤーハーネス30内に抵抗部31を組み込んでいるため、電装ユニットの回路に追加する部品も必要なく、プリント配線基板を再設計する必要もないことから、コストの上昇を余り伴わない利点がある。
【0099】
<第8実施例>
図11はこの実施の形態の第8実施例を示すブロック図である。この実施例では、図11の如く、車載バス幹線7に車載バス支線21がジャンクションコネクタ(JC)を介することなく直接スプライス接続されている。その他の構成は第7実施例と同様であり、抵抗部31内に通信ラインに抵抗17a,17bが設けられている。
【0100】
この第8実施例によっても、第7実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第7実施例と同様の利点がある。
【0101】
<第9実施例>
図12はこの実施の形態の第9実施例を示すブロック図である。この実施例では、図12の如く、車載バス支線21がジャンクションコネクタ(JC)33に接続するためのコネクタ35を設け、このコネクタ35内に抵抗17a,17bが設けられている。その他の構成は第7,8実施例と同様である。
【0102】
この第9実施例によっても、第7,8実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第7,8実施例と同様の利点がある。
【0103】
さらに、ワイヤーハーネス30の途中に部品がなくなるため、第7,8実施例に比べてワイヤーハーネス30のとり回しが楽になる利点がある。
【0104】
<第10実施例>
図13はこの実施の形態の第10実施例を示すブロック図である。この実施例では、図13の如く、車載バス支線21がジャンクションコネクタ(dJC)34の内部に抵抗17a,17bが設けられている(図示省略)。その他の構成は第7,8実施例と同様である。
【0105】
この第10実施例によっても、第7,8実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第7,8実施例と同様の利点がある。
【0106】
さらに、ワイヤーハーネス30の途中に部品がなくなるため、第7,8実施例に比べてワイヤーハーネス30のとり回しが楽になる利点がある。
【0107】
<第11実施例>
図14はこの実施の形態の第11実施例を示すブロック図である。この実施例では、図14の如く、抵抗17a,17bを直列に挿入するための抵抗部31を、通信ラインであるツイストペアケーブル21に一体的にモールド成型し、この抵抗部31において波形整形装置として機能させるよう構成されている。この実施例では、電気接続に溶接や圧接手法を用いることができるため、プリント基板が不要となり、コストを低減できる。また、小型化・軽量化・防水化も容易に実現可能である。さらに、ツイストペアケーブル21抵抗部31をモールドする場合に、モールド樹脂を透明にすれば、抵抗部31とツイストペアケーブル21との接続部の観察も容易に行うことができ便利である。
【0108】
さらに、この第11実施例のようなモールド成型の手法を、第7,8実施例の構成に適用することで、実用的な車載バス支線ワイヤーハーネス30を実現することができる。
【0109】
この実施例によると、車載電子ユニット(ECU)11aのIC及びプリント基板や、コネクタ23,25,32及びジャンクションコネクタ33のいずれをも変更することなしに、安価に適用することが可能である。
【0110】
<第12実施例>
図15はこの実施の形態の第12実施例を示すブロック図である。この実施例では、図15の如く、支線としてのツイストペアケーブル21をジャンクションコネクタ33に接続するためのコネクタ35内に抵抗17a,17bを内蔵している。図15中の符号36はコンタクト部(接続端子)を示している。
【0111】
この実施例では、電気的接続に溶接や圧接を用いることができるが、プリント基板を用いても良い。
【0112】
また、この第12実施例を第9実施例に適用することで、実用的な車載バス支線ワイヤーハーネス30を実現することができる。
【0113】
この実施例によると、車載電子ユニット(ECU)11aのIC及びプリント基板やジャンクションコネクタ33のいずれをも変更することなしに、安価に適用することが可能である。
【0114】
<第13実施例>
図16はこの実施の形態の第13実施例のジャンクションコネクタ34を示す斜視模式図、図17はその回路ブロック図である。この実施例では、図16の如く、ジャンクションコネクタ34内に抵抗17a,17bを内蔵している。図16及び図17中の符号(7),(8−1),(8−2)…(8−n)は支線番号を示している。
【0115】
この図16及び図17には図示していないが、ジャンクションコネクタ34内に回路終端やフィルタを形成しても差し支えない。
【0116】
この実施例によっても、第7〜9実施例と同様に、通信ラインに抵抗17a,17bを直列に挿入している点で同様であり、よって第7〜9実施例と同様の利点がある。
【0117】
さらに、ジャンクションコネクタ34の変更だけで適用できるため、車載電子ユニット(ECU)11aのIC及びプリント基板やジャンクションコネクタ34用のコネクタ35のいずれをも変更することなしに、安価に適用することが可能である。
【0118】
尚、上記実施形態及びその各実施例では、CAN通信を例に挙げて説明したが、ツイストペア線を通信ラインとして差動通信を行うバスであれば本発明は適用可能である。例えばFlexRay通信は、CANとは信号レベルも通信速度も異なり、O/1を表す2つのドミナント(アクティブ状態)であり、さらにハイインピーダンスに相当するレセシブ(パッシブ状態)がある。このレセシブ状態は、通信スロット間の区切り期間であるためバス信号のリンギングを素早く抑える必要があるが、本発明はこれに貢献できる。
【0119】
従って、上記実施形態及びその各実施例でCANバス駆動装置の最終出力段は1組のトランジスタとダイオードで構成した例を示したが、他の通信方式では最終出力段の回路はそれに合ったものと読み替えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一の実施形態における車内通信の方形波と差動スレッシュホールド電圧値(VDT、VRT)を示す図である。
【図2】本発明の第1実施例を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2実施例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第3実施例を示すブロック図である。
【図5】本発明の第4実施例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第5実施例を示すブロック図である。
【図7】差動電圧で見たときの通信ラインの様子を表すブロック図である。
【図8】本発明の第6実施例を示すブロック図である。
【図9】本発明の第6実施例におけるアダプタを示す図である。
【図10】本発明の第7実施例を示すブロック図である。
【図11】本発明の第8実施例を示すブロック図である。
【図12】本発明の第9実施例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第10実施例を示すブロック図である。
【図14】本発明の第11実施例を示すブロック図である。
【図15】本発明の第12実施例を示すブロック図である。
【図16】本発明の第13実施例を示すブロック図である。
【図17】本発明の第13実施例を示す回路ブロック図である。
【図18】通信ラインに流れる信号の方形波を示す図である。
【図19】差動信号を伝達する車載バスの場合のツイストペア線に流れる信号の波形を示す図である。
【図20】車内通信におけるバス・トポロジを示す図である。
【図21】CAN通信における差動スレッシュホールド電圧値(VDT、VRT)とリンギングとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0121】
7 幹線
8 支線
11 車載バス駆動装置
13 信号送信回路部
13a,13b トランジスタ
14 送信回路
15a,15b ダイオード
17a,17b 抵抗
21 ツイストペアケーブル
22 受信回路
23 基板側コネクタ
24 保護回路
25 ハーネス側コネクタ
29 アダプタ
30 車載バス支線ワイヤーハーネス
31 抵抗部
32 コネクタ
33 ジャンクションコネクタ
34 ジャンクションコネクタ
35 コネクタ
L バス長
d ノード間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性インピーダンスZ0の車載バスに接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧VBUSが所定のドミナント差動スレッショホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態(ドミナント)とパッシブ状態(レセシブ)とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に対して着脱自在に接続するためのコネクタであって、
内部にまたは前記車載バスとの間に前記車載バスと直列接続される抵抗を備えるコネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタであって、
前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とするコネクタ。
【請求項3】
車載バス上で信号の送受信を行うとともに、前記信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別する車載バス駆動装置であって、
差動による通信により前記車載バスに対して信号の送受信を行うための一対のスイッチング素子と、
前記各スイッチング素子と前記車載バスとの間に直列接続された抵抗とを備える車載バス駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車載バス駆動装置であって、
前記抵抗が、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする車載バス駆動装置。
【請求項5】
車載バスのコネクタに着脱自在に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続されるコネクタであって、
内部にまたは車載バス駆動装置との間に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備えるコネクタ。
【請求項6】
請求項5に記載のコネクタであって、
前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とするコネクタ。
【請求項7】
車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続される保護回路であって、
内部に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備える保護回路。
【請求項8】
請求項7に記載の保護回路であって、
前記抵抗が、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする保護回路。
【請求項9】
車載バスにあって、車載バス駆動装置に接続されるコネクタの付近に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス上で信号の送受信を行うアダプタであって、
内部に前記車載バス駆動装置と直列接続される抵抗を備えるアダプタ。
【請求項10】
請求項9に記載のアダプタであって、
前記抵抗は、前記車載バスからの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バスの特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とするアダプタ。
【請求項11】
特性インピーダンスZ0の車載バス幹線に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧VBUSが所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態(ドミナント)とパッシブ状態(レセシブ)とを峻別しながら前記車載バス幹線上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置を前記車載バス幹線に接続するための車載バス支線用ワイヤハーネスであって、
前記車載バス駆動装置と車載バス幹線との間に直列接続される抵抗を備える車載バス支線用ワイヤハーネス。
【請求項12】
請求項11に記載の車載バス支線用ワイヤハーネスであって、
前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする車載バス支線用ワイヤハーネス。
【請求項13】
車載バス支線に適用することで、請求項11のワイヤハーネスと同等の構成を取れるように、車載バスに対して直列抵抗を内部に備えた車載バス支線用波形整形装置。
【請求項14】
請求項13に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、
前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする車載バス支線用波形整形装置。
【請求項15】
請求項13に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、
車載バス幹線との接続を行うジャンクションコネクタへの接続コネクタと一体化した車載バス支線用波形整形装置。
【請求項16】
請求項14に記載の車載バス支線用波形整形装置であって、
前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンスZ0から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする車載バス支線用波形整形装置。
【請求項17】
車載バス幹線に接続されるとともに、当該車載バス上の信号の差動電圧が所定のドミナント差動スレッシュホールド電圧値VRT、レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと比較されてデータのアクティブ状態とパッシブ状態とを峻別しながら前記車載バス幹線上で信号の送受信を行う車載バス駆動装置に接続される車載バス用ジョイントコネクタであって、
支線分岐回路に直列抵抗を備える車載バス用ジョイントコネクタ。
【請求項18】
請求項17に記載の車載バス用ジョイントコネクタであって、
前記抵抗は、前記車載バス幹線からの差動電圧と、前記ドミナント差動スレッシュホールド電圧値VDTと、前記レセシブ差動スレッシュホールド値VRTと、前記車載バス駆動装置のドミナント出力電圧VDと、レセシブ出力電圧VRと、前記車載バス幹線の特性インピーダンス訓から所定の計算式を用いて得られる範囲の値に設定されることを特徴とする車載バス用ジョイントコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−67543(P2006−67543A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350718(P2004−350718)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】