説明

コネクタ嵌合用治具及び電気接続装置

【課題】コネクタ嵌合に必要な操作力を低減しつつコネクタの製造コストを抑制する。
【解決手段】コネクタC1、C2を嵌合するコネクタ嵌合用治具30。治具30は、ケース部材40と、その内側に配されるカム部材31とを備える。カム部材31は、ケース部材40に係合するカム用突起34と、ハウジング10の支軸部14に着脱可能な形状を有する軸溝36と、ハウジング20のカム軸24に係合可能なカム部32とを備え、コネクタ嵌合方向に相対移動するように操作されると、軸溝36がハウジング10の支軸部14に装着されるとともにカム部32がハウジング20のカム軸24に係合して当該操作力よりも大きな嵌合力でコネクタC1、C2同士を嵌合させ、当該嵌合後、コネクタ嵌合方向と逆方向に操作されると、両コネクタC1、C2の嵌合状態を維持しつつカム部32及び軸溝36がそれぞれカム軸24及び支軸部14から離脱するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ同士の嵌合作業に用いられて当該嵌合に必要な操作力を低減させるコネクタ嵌合用治具及びこのコネクタ嵌合用治具を含む電気接続装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、相手側コネクタとの嵌合に必要な操作力を低減させる機能を備えたコネクタとして、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。このコネクタは、端子を保持するハウジングと、これをスライド可能に支持するスライダとを備え、これらハウジングとスライダとの間にカム板(カム部材)が介在している。そして、相手側コネクタとの嵌合の際には、前記カム板を相手側コネクタのカムピン(カム軸)に係合させた状態で、前記スライダをハウジングに対してスライドさせながらコネクタ嵌合方向に押し込むことにより、そのスライド力(操作力)を前記カム板の倍力作用によって当該スライダのスライド力よりも大きなコネクタ同士の嵌合力に変換するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−75529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなコネクタは、例えば車両に配索されるワイヤハーネス等、多極化されたコネクタ同士の接続作業の作業性を向上させるために有用なものである。特に、カム板を直接回動操作するのではなく、スライダをコネクタ嵌合方向に押し込み操作することで、その押し込み力でカム板を回動させてコネクタ同士を嵌合させるので非常に作業性がよい。
【0005】
しかし、上記のコネクタは、ハウジング、スライダ及びカム板等を個別に成形した上で、さらにハウジングにスライダ及びカム板を組み付ける組立作業が必要となるため製造コストがかかる。また、車両のワイヤハーネスなどは、一旦、車両に配索されると、スライダを操作してコネクタ接続作業を再度行うことは希であり、コネクタ接続後はスライダやカム板が無駄になる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、コネクタ嵌合方向にスライド操作することでコネクタ同士を低操作力で嵌合させることを可能とする一方で、コネクタの製造コストを抑制することに寄与する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、第1コネクタハウジングを有する第1コネクタと、前記第1コネクタハウジングが嵌合可能な形状を有する第2コネクタハウジングを有する第2コネクタとを嵌合させるためのコネクタ嵌合用治具であって、前記第1コネクタと前記第2コネクタとが完全な嵌合状態に至る前の所定の仮嵌合状態において両コネクタハウジングを外側から囲むことが可能な形状を有するケース部材と、このケース部材の内側に備えられるカム部材と、を備え、このカム部材は、前記ケース部材に係合する第1カム部と、前記第1コネクタハウジングが備える支軸部に着脱可能な形状を有する装着部と、第2コネクタハウジングに備えられるカム軸に係合可能な第2カム部とを備え、前記仮嵌合状態にある前記第1コネクタ及び前記第2コネクタの外周上で第1コネクタ側から第2コネクタ側に向かって前記ケース部材がコネクタ嵌合方向に相対移動するように操作されることで、当該操作に伴い前記装着部が前記支軸部に装着されるとともに前記第2係合部が前記カム軸に係合して当該操作力よりも大きな嵌合力で前記第1コネクタと前記第2コネクタとを嵌合させ、かつ、当該嵌合後、コネクタ嵌合方向と逆方向に前記ケース部材が相対移動するように操作されることで、当該操作に伴い当該両コネクタの嵌合状態を維持しつつ前記第2カム部及び前記装着部がそれぞれ前記カム軸及び前記支軸部から離脱するように前記装着部、前記第1カム部及び前記第2カム部の形状が設定されているものである。
【0008】
また、本発明にかかる電気接続装置は、コネクタ同士の嵌合によって電気接続を行う電気接続装置であって、第1コネクタハウジングを有する第1コネクタと、前記第1コネクタハウジングが嵌合可能な形状を有する第2コネクタハウジングを有する第2コネクタと、前記第1コネクタと前記第2コネクタとを嵌合させるためのコネクタ嵌合用治具と、を含み、前記第1コネクタの第1コネクタハウジングは、前記コネクタ嵌合用治具が着脱可能に装着されることが可能な支軸部を備え、前記第2コネクタの第2コネクタハウジングは、前記コネクタ嵌合用治具が係合することが可能なカム軸を備えており、前記コネクタ嵌合用治具として、請求項1乃至5の何れか一項に記載のコネクタ嵌合用治具を備えているものである。
【0009】
このようなコネクタ嵌合用治具および電気接続装置によれば、第1コネクタと第2コネクタとを仮嵌合状態とし、両コネクタを囲み得るようにコネクタ嵌合用治具を配した状態で第1コネクタ側から第2コネクタ側に相対的にコネクタ嵌合用治具を移動させることで両コネクタを接続することができる。そして、コネクタ嵌合後は、逆方向にコネクタ嵌合用治具を相対移動させることで、両コネクタからコネクタ嵌合用治具を取り外すことができる。すなわち、互いに仮嵌合状態にある第1、第2コネクタに対して第1コネクタ側から第2コネクタ側に当該コネクタ嵌合用治具を相対移動させると、カム部材の装着部が第1コネクタの支軸部に装着されるとともに第2コネクタのカム軸に第2カム部が係合する。このように第2カム部が第2コネクタのカム軸に係合しかつ第1カム部がケース部材に係合した状態でケース部材が第1コネクタに対して相対的に移動することにより、その移動力(操作力)がカム部材のカム作用によって当該移動力よりも大きなコネクタ同士の嵌合力に変換されて両コネクタ同士が嵌合する。これにより、低操作力でコネクタ同士を嵌合させることができる。そして、この嵌合後、当該コネクタ嵌合用治具を逆方方向に相対移動させると、コネクタ同士の嵌合状態が維持されたままでカム部材の装着部及び第2カム部が第1コネクタの支軸部及び第2コネクタのカム軸から離脱し、これにより両コネクタからコネクタ嵌合用治具が取り外される。そのため、各コネクタのコネクタハウジングにスライダやカム部材に相当する部材を組み込むことなく、コネクタ同士を低操作力で嵌合させることが可能となる。
【0010】
なお、上記の構成において、コネクタ嵌合用治具の相対移動に伴い第1コネクタの支軸部に対してカム部材の装着部が円滑に装着されるためには、前記ケース部材は、コネクタ嵌合方向への前記相対移動に伴い前記装着部が前記第1コネクタの支軸部に装着可能となる位置に前記カム部材を係脱可能に係止する係止部を備え、この係止部は、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い前記カム部材の係止を解除する一方で、前記装着部が前記支軸部から離脱するに伴い前記カム部材を係止するものであるのが好適である。
【0011】
この構成によれば、コネクタ嵌合用治具については、カム部材が常にケース部材に対して一定の位置、つまりコネクタ嵌合方向へのコネクタ嵌合用治具の相対移動に伴い第1コネクタの支軸部に装着部が装着可能となる位置に配置される。そのため、コネクタ嵌合用治具を使用する際には、前記相対移動に伴い前記支軸部へのカム部材(装着部)の装着を円滑に行うことが可能となる。
【0012】
この場合、前記係止部は、前記装着部に係合することで前記カム部材を係止するものであり、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い当該支軸部により前記装着部との係合が強制的に解除される一方で、前記装着部が前記支軸部から離脱するに伴い前記装着部に係合することが可能に形成されているのが好適である。具体的には、例えば、前記ケース部材に、前記カム部材に対して接離する方向に撓み変形可能な撓み部が設けられるとともに当該撓み部に前記係止部が設けられており、当該係止部は、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い当該支軸部の当接を受けることで前記撓み部の変形を伴いながら外側に変位し、当該変位により前記装着部との係合が解除さるように形成されている。
【0013】
このような構成によれば、第1コネクタの支軸部へのカム部材(装着部)の着脱に伴って自ずと係止部によるカム部材の係止及び係止解除が行われる。しかも、このようなカム部材の係止及び係止解除が第1コネクタの支軸部により行われるため、専用部材を設けることなく、カム部材の係止及び係止解除を行うことができる。
【0014】
また、上記コネクタ嵌合用治具について、前記ケース部材は、前記第1コネクタハウジング又は前記第2コネクタハウジングから導出される電線をその長手方向と直交する方向に沿って当該ケース部材の内側に出し入れすることを許容する開放部を備えているのが好適である。
【0015】
この構成によれば、ケース部材の側方から電線を当該ケース部材の内側に出し入れできるため、電線を含む両コネクタへのコネクタ嵌合用治具のセッティング及び取り外しをより簡単かつ円滑に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のコネクタ嵌合用治具及び電気接続装置によれば、互いに嵌合されるコネクタのコネクタハウジングにスライダやカム部材に相当する部材を組み込むことなく、コネクタ嵌合方向へのスライド操作に伴いコネクタ同士を低操作力で嵌合させることが可能となる。従って、コネクタの製造コストを抑制することに寄与する。また、コネクタ嵌合用治具については、同等のコネクタの嵌合作業に繰り返し使用可能なため無駄になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる電気接続装置を示す斜視図である。
【図2】コネクタ嵌合用治具を示す斜視図である。
【図3】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図((a)のA−A線断面図)をそれぞれ示す。
【図4】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図をそれぞれ示す。
【図5】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図をそれぞれ示す。
【図6】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図をそれぞれ示す。
【図7】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図をそれぞれ示す。
【図8】コネクタの嵌合要領を説明する図であり、(a)は電気接続装置の正面図を、(b)は同断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0019】
図1は、本発明にかかる電気接続装置を斜視図で概略的に示している。同図に示すように、電気接続装置は、配線材側コネクタC1と、この配線材側コネクタC1が嵌合する基板側コネクタC2と、配線材側コネクタC1と基板側コネクタC2とを嵌合させるためのコネクタ嵌合用治具30とを含む。
【0020】
配線材側コネクタC1(本発明の第1コネクタに相当する)は、雌型の複数の端子(図略)と、これら端子を保持する樹脂製の略直方体状のコネクタハウジング10(以下、ハウジング10と略す;本発明の第1コネクタハウジングに相当する)とを有する。ハウジング10には、コネクタ嵌合方向に貫通する複数の端子収容室12が形成されており、各端子収容室12内にそれぞれ前記端子が保持されるとともに、当該端子につながる電線2がハウジング10の後側(コネクタ嵌合方向の後側;同図では上側)に導出されている。同図では、電線2は1本だけ示されており、他は省略されている。
【0021】
前記ハウジング10の長辺側の各側面には、コネクタ嵌合用治具30を装着することが可能な支軸部14がそれぞれ設けられている。各支軸部14は、ハウジング側面のコネクタ嵌合方向後端部であって当該側面の幅方向(図1では左右方向)一端寄りの位置に設けられている。各支軸部14は、それぞれ当該側面から外向きに突出する円柱状の突出部により構成されている。なお、各側面の支軸部14は、互いに対称な位置(コネクタ嵌合方向と平平行な軸線回りに対称な位置)に設けられている。
【0022】
基板側コネクタC2は(本発明の第2コネクタに相当する)、配線材側コネクタC1の雌型の端子に嵌合可能な複数の雄型の端子(図略)と、配線材側コネクタC1のハウジング10が嵌合可能な嵌合用凹部を備えかつ前記端子を保持する樹脂製の略直方体状のコネクタハウジング20(以下、ハウジング20と略す;本発明の第2コネクタハウジングに相当する)とを有する。この基板側コネクタC2は、回路基板1に実装されている。
【0023】
前記ハウジング20の長辺側の各側面には、コネクタ嵌合用治具30の後記カム部32が係合可能なカム軸24がそれぞれ設けられている。各カム軸24は、ハウジング側面のコネクタ嵌合方向前端部(図1では上端部)であって当該側面の幅方向(図1では左右方向)一端寄りの位置、具体的には、当該基板側コネクタC2に配線材側コネクタC1が嵌合された状態で前記支軸部14に対して略コネクタ嵌合方向に並ぶ位置に設けられている。
【0024】
前記基板側コネクタC2と配線材側コネクタC1との嵌合は、配線材側コネクタC1を基板側コネクタC2の前記嵌合用凹部に対向させ、配線材側コネクタC1をその先端側から嵌合用凹部に差し込んで両ハウジング10、20を互いに嵌合させることにより行われる。このようにコネクタC1、C2が互いに嵌合することにより、回路基板1上の回路と電線2とが雄雌の各端子を介して電気的に接続される。
【0025】
前記コネクタ嵌合用治具30(以下、治具30と略す)は、上記のようなコネクタC1、C2同士の嵌合に必要な操作力を低減させるものであり、前記配線材側コネクタC1のハウジング10に装着されてスライド操作を受けることで前記嵌合のために操作される力よりも大きな嵌合力を生成する倍力機構を構成する。
【0026】
同図及び図2に示すように、治具30は、ケース部材40と、その内側に備えられる一対のカム部材31とを有する。
【0027】
ケース部材40は樹脂製であり、配線材側コネクタC1と基板側コネクタC2とが後述する所定の仮嵌合状態にあるときに、両ハウジング10、20を外側から囲むことが可能な形状を有する。具体的には、前記ハウジング10、20の長辺側の各外側面を外側から覆う一対の側壁部41aと短辺側の各外側面を外側から覆う一対の側壁部41bとを備える大略断面長方形の筒状をなす。前記一対の側壁部41bのうち一方側の側壁部41bには、上下方向に亘って形成された切欠部からなる開放部40aが形成されている。この開放部40aは、前記基板側コネクタC2の電線2をその長手方向と直交する方向に沿ってケース部材40内に出し入れすることを許容するように形成されている。
【0028】
そして、このケース部材40の内側であって前記一対の側壁部41aの内側面に沿ってそれぞれ前記カム部材31が配置され、当該内側面に支持されている。
【0029】
各カム部材31は、側壁部41aの幅方向に細長い薄板状をなし、カム部32(本発明の第2カム部に相当)と、カム用突起34(本発明の第1カム部に相当)と、軸溝36(本発明の装着部に相当)と、補助溝38とを備えている。
【0030】
カム部32及び軸溝36は、カム部材31の長手方向の一端側の互いに近接する位置に位置し、カム用突起34は他端側に位置する。また、補助溝38は、カム部材31の長手方向の中間部よりもややカム部32寄りに位置する。
【0031】
前記軸溝36は、当該カム部材31を配線材側コネクタC1(ハウジング10)の支軸部14に着脱可能に装着するための部分である。この軸溝36は、カム部材31をその板厚方向に貫通しており、カム部材31の下側に開き、上下方向に延びる形状を有する。前記カム部32は、基板側コネクタC2(ハウジング20)の前記カム軸24に係合する部分であり、前記軸溝36の下方に位置し、カム部材31の一端が円弧状に切欠かれた形状を有する。前記補助溝38は、後記補助軸46が介入される部分であり、軸溝36と同様に、カム部材31をその板厚方向に貫通しており、カム部材31の下側に開き、上下方向に延びる形状を有する。また、前記カム用突起32は外向き(側壁部41a側向き)に突出している。そして、ケース部材40の各側壁部41aに、当該側壁部41aをその板厚方向に貫通して幅方向(図1では左右方向)に延びるカム溝42が形成され、このカム溝42にカム部材31の前記カム用突起34が嵌入されるとともに、前記各側壁部41aの内側面に補助軸46が内向きに突設され、カム部材31の前記補助溝38にこの補助軸46が嵌入されている。また、各側壁部41aにその板厚方向に撓み変形可能な一対の撓み部44が形成され、これら撓み部44に内向きに突出する突出部からなる係止部45が形成され、カム部材31の前記軸溝36にこの係止部45が挿入されることによりカム部材31が当該係止部45に係止されるとともに前記補助軸46が前記補助溝38の奥端部に当接している。これにより、各カム部材31がケース部材40の内側面に支持されている。なお、カム部材31のカム用突起34は鍔部を有し、この鍔部が外側から側壁部41aに係合することにより当該カム用突起34は、当該側壁部41aに係止された状態で当該カム溝42に沿って移動する。
【0032】
そして、後述するように、コネクタC1、C2に対してコネクタ嵌合方向にコネクタ嵌合用治具30が相対的に移動(スライド)するように操作されると、各カム部材31の軸溝33にハウジング10の支軸部14が進入して当該カム部材31が配線材側コネクタC1に装着され、この状態でケース部材40がハウジング10に対してコネクタ嵌合方向に相対的に移動することが可能で、かつ、前記カム部32に基板側コネクタC2のカム軸24が係合可能となってコネクタC1、C2の嵌合時にカム作用(倍力作用)が得られる一方、コネクタC1、C2の嵌合後にコネクタ嵌合方向と逆方向にコネクタ嵌合用治具30が相対移動するように操作されると、当該操作に伴い当該コネクタC1、C2の嵌合状態が保たれたままでカム部32がカム軸24から離脱するとともに軸溝36が支軸部14から離脱するように、カム部材31のカム部32、カム用突起34、軸溝36及びケース部材40のカム溝42の位置や形状が設定されている。また、コネクタC1、C2に対してコネクタ嵌合方向にコネクタ嵌合用治具30が相対的に移動するように操作されるに伴いコネクタ嵌合用治具30が補助軸46から離脱するように前記補助溝38の形状が設定されている。
【0033】
次に、配線材側コネクタC1と基板側コネクタC2との嵌合要領について、図3〜図8を用いて説明する。各図において、(a)は電気接続装置の正面図であり、(b)は同断面図である。なお、図3〜図8の(b)図は、各々図3(a)のA−A線に相当する位置での断面図である。
【0034】
1)準備作業(図3)
基板側コネクタC2のハウジング20の嵌合用凹部に配線材側コネクタC1のハウジング10を嵌入させることにより、配線材側コネクタC1と基板側コネクタC2とをこれらが完全な嵌合状態に至る前の仮嵌合状態にする。この仮嵌合状態は、例えば両コネクタC1、C2の端子同士が接触し始めた端子嵌合の初期状態である。
【0035】
また、配線材側コネクタC1の電線2を開放部40aからケース部材40の内側に挿入した状態で、仮嵌合状態の配線材側コネクタC1のハウジング10の上方(コネクタ嵌合方向におけるハウジング10の後方)にコネクタ嵌合用治具30を配置する。なお、電線2は、図3及び図8にのみ図示しており、図4〜図7では省略している。
【0036】
2)配線材側コネクタC1への治具30の装着(図4、図5)
ケース部材40を把持し、治具30を上方から配線材側コネクタC1のハウジング10に近づけ、ケース部材40内に両ハウジング10が挿入されるように当該ハウジング10に対して治具30を相対的にコネクタ嵌合方向に移動(スライド)させる。このように治具30を相対移動させると、図4及び図5に示すように、カム部材31の軸溝36内にハウジング10の支軸部14が進入し、当該支軸部14が前記係止部45によるカム部材31の係止状態を強制的に解除する。詳しくは、前記係止部45は、円錐台状の形状を有し、治具30の相対移動に伴い支軸部14が軸溝36内に進入すると、当該支軸部14の当接を受けることで撓み部44の撓みを伴いながら外側(図5(b)では左側)に変位する。この係止部45の変位によりカム部材31の係止状態(係合状態)が支軸部14により強制的に解除され、カム部材31が当該係止部45に代わって支軸部14に係止される。つまり、治具30がハウジング10に装着される。
【0037】
3)配線材側コネクタC1と基板側コネクタC2との嵌合(図5、図6)
治具30のケース部材40を把持したままハウジング10、20に対して当該ケース部材40をさらにコネクタ嵌合方向に相対移動させる。このようにケース部材40を移動させると、カム部材31が支軸部14を支点として回動を開始し、図5に示すように、ハウジング20のカム軸24にカム部材31のカム部32が係合する。そして、このカム部材31のカム部32とカム軸24とのカム作用によって両コネクタC1,C2同士を嵌合させるための大きな嵌合力が生成される。すなわち、ケース部材40を移動させる操作力が前記カム作用によりコネクタ嵌合力として倍加され、低い操作力でコネクタC1,C2同士を嵌合させることが可能となる。
【0038】
そして、基板側コネクタC2のハウジング全体をほぼ覆う終端位置までケース部材40を移動させると、図6に示すように、両コネクタC1、C2が完全な嵌合状態となる。
【0039】
4)治具30の離脱操作(図7、図8)
上記終端位置にある治具30を、そのケース部材40を把持してコネクタ嵌合方向と逆方向(図7では上方向)に相対移動させ、これにより治具30をハウジング10から離脱させる。このようにコネクタ嵌合方向と逆方向にケース部材40を移動させると、コネクタC1、C2の嵌合状態が維持されたままハウジング10から治具30が離脱される。すなわち、カム部材31のカム部32は上記のようにカム部材31の先端が円弧状に切欠かれた形状であり、従って、ケース部材40がコネクタ嵌合方向に相対移動するときには、当該移動に伴いカム部材31が支軸部14を支点として回動することでカム部32がカム軸24に係合し当該カム軸24と支軸部14とを互いに接近する方向に誘導する一方、ケース部材40がコネクタ嵌合方向と逆方向に相対移動するときには、当該移動に伴いカム部材31が支軸部14を支点として回動してもカム部32がカム軸24に係合することがなく、これにより両コネクタC1、C2との嵌合状態が維持される。
【0040】
そして、ケース部材40を上記のように逆方向に相対移動させると、ハウジング10への治具30の装着時とは逆に、図7に示すように、治具30の相対移動に伴い支軸部14が軸溝36から離脱し、この離脱に伴い係止部45が軸溝36内に挿入されてカム部材31が当該係止部45に係止された状態となる。また、カム部材31の仮止め溝38に補助軸46が介在し、カム部材31が補助軸46に係止された状態となる。
【0041】
その後、図8に示すように、治具30をコネクタC1、C2から引き離し、配線材側コネクタC1の電線2に対して治具30を側方に移動させながら前記切欠部40aを通じて電線2をケース部材40の外側に導出することで、当該電線2から治具30を取り外す。
【0042】
以上のように、この電気接続装置によれば、仮嵌合状態のハウジング10、20をケース部材40の内側に挿入しながら治具30を当該ハウジング10、20に対してコネクタ嵌合方向に相対移動させることでコネクタC1、C2同士を低操作力で嵌合させることができる。しかも、両コネクタC1、C2の嵌合後は、治具30をコネクタ嵌合方向と逆方向に移動させることで、両コネクタC1、C2の嵌合状態を保ったままで治具30をハウジング10、20から取り外すことができる。そのため、コネクタC1、C2のハウジング10、20に従来のようなスライダやカム部材に相当する部材を組み込むことなく、コネクタ嵌合方向への操作(スライド操作)に伴いコネクタC1、C2を低操作力で嵌合させることが可能であり、従って、コネクタC1、C2の製造コストを抑制することに寄与し得る。しかも、当該治具30は、コネクタC1、C2の嵌合作業後は、当該コネクタC1、C2から取り外して別のコネクタC1、C2の嵌合作業に繰り返し使用することができるため、無駄になることもない。
【0043】
また、治具30については、カム部材31がケース部材40の係止部45に係止されることで、配線材側コネクタC1(ハウジング10)への装着前、装着後は常にカム部材31がケース部材40の一定位置に特定の姿勢で配置される。そのため、配線材側コネクタC1への治具30の装着時には、治具30の相対移動に伴いハウジング10の支軸部14を軸溝36に円滑に係合させることができ、ハウジング10への治具30の装着を容易に行うことができるという利点がある。特に、この治具30では、カム部材31の共通の軸溝36に対してケース部材40の係止部45とハウジング10の支軸部14とが係合するように構成され、支軸部14へのカム部材31の着脱に伴い自ずと係止部45によるカム部材31の係止及び係止解除が行われる。つまり、専用部材を別途設けることなく、係止部45の前記係止及び係止解除を伴うハウジング10への治具30の着脱を、簡単かつ合理的な構成で達成することができるという作用効果を奏する。
【0044】
また、この治具30では、前記係止部45に加えてケース部材40に補助軸46が設けられ、係止部45がカム部材31を係止している状態では、この補助軸46が前記補助溝38の奥端部に当接することでカム部材31がケース部材40に支持される。つまり、この治具30では、係止部45に加えて補助軸46でカム部材31を支持することにより、例えば係止部45によるカム部材31の係止状態が意図せず解除されることが有効に防止される。
【0045】
なお、以上説明した電気接続装置は、本発明にかかる電気接続装置(本発明にかかるコネクタ嵌合用治具を含む電気接続装置)の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態の治具30では、ケース部材40の側壁部41aに撓み部44が形成され、この撓み部44に係止部45が形成されることで、係止部45がカム部材31に対して接離する方向に弾性的に変位可能な構成となっているが、例えば、前記接離方向に変位可能となるようにケース部材40にスライド部材を支持し、このスライド部材に係止部(係止部45に相当)を設けた上で当該スライド部材をバネ部材によりカム部材31側に付勢することで、上記実施形態の係止部45と同等の機能を持たせるようにしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態の治具30では、係止部45がカム部材31の軸溝36に係合することにより当該カム部材31をケース部材40に係止するが、当該係止部45は、軸溝36とは別の位置でカム部材31に係合するようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態の治具30では、ケース部材40に補助軸46を設け、係止部45に加えてこの補助軸46でカム部材31を支持するように構成されているが、この補助軸46や補助溝38を省略して治具30の構成の簡略化を図るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 回路基板
2 電線
10、20 コネクタハウジング
14 支軸部
24 カム軸
30 コネクタ嵌合用治具
31 カム部材
32 カム部
34 カム用突起
36 軸溝
44 撓み部
45 係止部
C1 配線材側コネクタ
C2 基板側コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コネクタハウジングを有する第1コネクタと、前記第1コネクタハウジングが嵌合可能な形状を有する第2コネクタハウジングを有する第2コネクタとを嵌合させるためのコネクタ嵌合用治具であって、
前記第1コネクタと前記第2コネクタとが完全な嵌合状態に至る前の所定の仮嵌合状態において両コネクタハウジングを外側から囲むことが可能な形状を有するケース部材と、
このケース部材の内側に備えられるカム部材と、を備え、
このカム部材は、前記ケース部材に係合する第1カム部と、前記第1コネクタハウジングが備える支軸部に着脱可能な形状を有する装着部と、第2コネクタハウジングに備えられるカム軸に係合可能な第2カム部とを備え、前記仮嵌合状態にある前記第1コネクタ及び前記第2コネクタの外周上で第1コネクタ側から第2コネクタ側に向かって前記ケース部材がコネクタ嵌合方向に相対移動するように操作されることで、当該操作に伴い前記装着部が前記支軸部に装着されるとともに前記第2係合部が前記カム軸に係合して当該操作力よりも大きな嵌合力で前記第1コネクタと前記第2コネクタとを嵌合させ、かつ、当該嵌合後、コネクタ嵌合方向と逆方向に前記ケース部材が相対移動するように操作されることで、当該操作に伴い当該両コネクタの嵌合状態を維持しつつ前記第2カム部及び前記装着部がそれぞれ前記カム軸及び前記支軸部から離脱するように前記装着部、前記第1カム部及び前記第2カム部の形状が設定されている、ことを特徴とするコネクタ嵌合用治具。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタ嵌合用治具において、
前記ケース部材は、コネクタ嵌合方向への前記相対移動に伴い前記装着部が前記第1コネクタの支軸部に装着可能となる位置に前記カム部材を係脱可能に係止する係止部を備え、この係止部は、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い前記カム部材の係止を解除する一方で、前記装着部が前記支軸部から離脱するに伴い前記カム部材を係止することを特徴とするコネクタ嵌合用治具。
【請求項3】
請求項2に記載のコネクタ嵌合用治具において、
前記係止部は、前記装着部に係合することで前記カム部材を係止するものであり、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い当該支軸部により前記装着部との係合が強制的に解除される一方で、前記装着部が前記支軸部から離脱するに伴い前記装着部に係合することが可能に形成されていることを特徴とするコネクタ嵌合用治具。
【請求項4】
請求項3に記載のコネクタ嵌合用治具において、
前記ケース部材に、前記カム部材に対して接離する方向に撓み変形可能な撓み部が設けられるとともに当該撓み部に前記係止部が設けられており、当該係止部は、前記装着部が前記支軸部に装着されるに伴い当該支軸部の当接を受けることで前記撓み部の変形を伴いながら外側に変位し、当該変位により前記装着部との係合が解除さるように形成されていることを特徴とするコネクタ嵌合用治具。
【請求項5】
前記ケース部材は、前記第1コネクタハウジング又は前記第2コネクタハウジングから導出される電線をその長手方向と直交する方向に沿って当該ケース部材の内側に出し入れすることを許容する開放部を備えていることを特徴とするコネクタ嵌合用治具。
【請求項6】
コネクタ同士の嵌合によって電気接続を行う電気接続装置であって、
第1コネクタハウジングを有する第1コネクタと、前記第1コネクタハウジングが嵌合可能な形状を有する第2コネクタハウジングを有する第2コネクタと、前記第1コネクタと前記第2コネクタとを嵌合させるためのコネクタ嵌合用治具と、を含み、
前記第1コネクタの第1コネクタハウジングは、前記コネクタ嵌合用治具が着脱可能に装着される支軸部を備え、
前記第2コネクタの第2コネクタハウジングは、前記コネクタ嵌合用治具が係合可能なカム軸を備え、
前記コネクタ嵌合用治具は、請求項1乃至5の何れか一項に記載のコネクタ嵌合用治具であることを特徴とする電気接続装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−58367(P2013−58367A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195576(P2011−195576)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】