説明

コネクタ

【課題】高周波数信号の伝送特性を向上できるコネクタを提供する。
【解決手段】コネクタ1は、細長く、略平行でかつ離して配置された2本の接触子(3a、3b)を含む複数の接触子ペア3と、それぞれが対応する接触子(3a、3b)の長手方向に沿って取り付けられた複数の第1の支持部(41−1〜41−7、42−1〜42−7)とを有し、少なくとも一つの領域において、各接触子ペアの接触子の内面32は互いに対向し、かつ空気により分離され、各接触子ペアの接触子の外面31は互いに対して外方向を向いており、外面31の中央部は接触子の長手方向に沿って対応する第1の支持部に取り付けられ、かつ外面31の端部は第1の支持部に取り付けられない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板を他の回路基板または電子機器に対して電気的に接続するために使用されるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
ルータまたは中継器といった通信装置、及び、サーバまたはストレージシステムといった情報処理装置のように、大量のデータを扱い、複数の回路基板を備える装置において、それら複数の回路基板間で信号を伝送するためにバックプレーンと呼ばれる回路基板が使用されている。そして、実際に情報処理を行うプロセッサなどの演算回路またはメモリなどを備えたドーターボードと呼ばれる回路基板が有する端子とバックプレーン上の対応する端子とは、コネクタを用いて接続される。
近年、上記のような装置において、基板間で伝送される信号の伝送速度が高速化しており、装置によっては伝送速度が10Gbit/secよりも速くなることがある。このような伝送速度の高速化に伴って、伝送される信号の周波数も高くなっている。そのため、コネクタには、高周波数信号を伝送できることが求められている。
【0003】
そこで、高速な信号伝送を可能にしたコネクタが開発されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。例えば、特許文献1には、「高速コネクタは、2列の導電性端子(420)が絶縁性支持本体に支持される複数のウェハ形の構成要素(400)を含み、前記支持体は、列の導電性端子間に配設された内部キャビティ(133)を含む。端子は水平方向の端子対を作るように配列され、内部キャビティは2端子列内に配列された各水平方向の端子対の間に空気チャネルを画定する」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−535184号公報
【特許文献2】特表2008−535185号公報
【特許文献3】特表2008−535187号公報
【特許文献4】特表2008−535188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コネクタは、高周波数信号を正確に伝送するために、挿入損失及び隣接する接触子ペア間でのクロストークをできるだけ抑制することが求められている。
【0006】
そこで本発明の目的は、高周波数信号の伝送特性を向上することが可能なコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面によれば、コネクタが提供される。このコネクタは、細長く、略平行でかつ離して配置された2本の接触子を含む複数の接触子ペアと、それぞれが対応する接触子の長手方向に沿って取り付けられた複数の第1の支持部とを有する。少なくとも一つの領域において、各接触子ペアの接触子の内面は互いに対向し、かつ空気により分離され、各接触子ペアの接触子の外面は互いに対して外方向を向いており、外面の中央部は接触子の長手方向に沿って対応する第1の支持部に取り付けられ、かつ外面の端部は第1の支持部に取り付けられない。
【0008】
本発明の他の側面によれば、コネクタが提供される。このコネクタは、細長く、略平行でかつ離して配置された2本の接触子を含む、略同心円状に配置された複数の接触子ペアと、それぞれが対応する接触子の長手方向に沿って取り付けられた複数の第1の支持部とを有する。少なくとも一つの領域において、各接触子ペアの接触子の内面は互いに対向し、かつ空気により分離され、各接触子ペアの接触子の外面は互いに対して外方向を向いており、外面の中央部は接触子の長手方向に沿って対応する第1の支持部に取り付けられ、かつ外面の端部は第1の支持部に取り付けられない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高周波数信号の伝送特性を向上することができるコネクタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一つの実施形態に係るコネクタを前方斜め上方から見た概略斜視図である。
【図2】本発明の一つの実施形態に係るコネクタを後方斜め上方から見た概略斜視図である。
【図3】本発明の一つの実施形態に係るコネクタを前方斜め下方から見た概略斜視図である。
【図4】複数の接触子ペアのそれぞれに含まれる一方の接触子を支持するウェハを一方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。
【図5】図4に示されたウェハを他方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。
【図6】図1の面Aにおけるコネクタの断面を示す図である。
【図7】図6における領域Bの拡大図である。
【図8】(A)は、本発明の実施形態によるコネクタに含まれる一対の接触子間の電界ベクトルの向きと強さを表す電界ベクトル図であり、(B)は、比較例である従来技術による一対の接触子間の電界を表す電界ベクトル図である。
【図9】(A)は、シミュレーションに用いた、本実施形態によるコネクタの各部の寸法を示す図であり、(B)は、シミュレーションに用いた、比較例によるコネクタの各部の寸法を示す図である。
【図10】他の実施形態による、支持部材であるウェハを一方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。
【図11】図10に示されたウェハを他方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。
【図12】図10の面Dにおけるウェハの断面を示す図である。
【図13】さらに他の実施形態によるコネクタが有する接触子ペアの概略斜視図である。
【図14】さらに他の変形例による、接触子ペアとその接触子ペアを支持するウェハを一方の側から見た概略斜視図である。
【図15】図14に示された接触子ペアとウェハを他方の側から見た概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一つの実施形態に係るコネクタについて説明する。このコネクタは、例えば、バックプレーンと他の回路基板または電子機器を接続するために用いられる。そしてこのコネクタにおいて、例えば、差動伝送方式により信号を伝送する複数の接触子ペアを支持する部材が、信号伝送時において各接触子ペア間で生じる電界強度ができるだけ低い領域に存在するように設けられる。これにより、このコネクタは、回路基板などと接続される接触子の両端子間におけるインピーダンスの容量成分が信号伝送時に生じる電界により増加することを抑制して、伝送特性を向上する。
【0012】
図1は、本発明の一つの実施形態に係るコネクタを前方(本実施形態では、後述するキャップ側)斜め上方から見た概略斜視図であり、図2は、本発明の一つの実施形態に係るコネクタを後方斜め上方から見た概略斜視図である。また図3は、本発明の一つの実施形態に係るコネクタを前方斜め下方から見た概略斜視図である。
コネクタ1は、キャップ2と、複数の接触子ペア3と、複数のウェハ4とを含む。
【0013】
キャップ2は、筺体の一例であり、ウェハ4に支持された各接触子ペアに含まれる接触子間の距離が一定に保たれるように、各ウェハ4を保持する。そのために、キャップ2は、一つの側面が開放された箱型の形状を有している。そしてその開放された面と対向する端面2aには、各接触子ペア3の一方の端部(図示されていない)及びその端部と接続される回路基板の端子を挿入可能なように、複数の孔21が形成されている。またキャップ2の上壁2b及び下壁2cの内側の面には、側壁2dと平行な方向に沿って、ウェハ4が挿入される方向を規定するレール(図示されていない)が形成されている。さらに、キャップ2の上壁2bまたは下壁2cには、ウェハ4の上端または下端に形成された突起と係合して、ウェハ4が脱落することを防止するための孔が形成されていてもよい。
キャップ2を構成する材料は、誘電体であることが好ましい。その材料は、工業用プラスチックス、例えば、アクリロニトリル ブタジエンスチレンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO樹脂)、ポリサルフォン(PSF樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK樹脂)、ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリシクロヘキシレン ジメチレン テレフタレート樹脂(PCT樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルサルフォン(PES樹脂)、ポリエーテル自身およびそれらの共重合体からなる樹脂を含んでもよい。またその材料は、剛性を上げるためにガラスファイバー等の絶縁性フィラー等を含んでもよい。
【0014】
複数の接触子ペア3のそれぞれは、例えば、コネクタ1に接続される二つの回路基板間での信号を、差動伝送方式によって伝送する。そのために、複数の接触子ペア3のそれぞれは、略平行な、一定幅を持つエアギャップにより隔てられた2本の接触子3a、3bを含む。接触子3a、3bは、細長く、その断面形状は略矩形である。接触子3a、3bは、その接触子3a、3bの長手方向に沿ったエアギャップの中心線に対して線対称となるように配置される。2本の接触子3a、3bは、それぞれ、二つのウェハ4a、4bによって別個に支持される。接触子3a、3bの一端は、コネクタ1の底面において2次元アレイ状に配列される。そして複数の接触子ペア3は、コネクタ1の底面に近接して配置された回路基板(例えば、ドーターボード)上に設けられた端子と電気的に接続可能となっている。
なお、各接触子ペアに含まれる一方の接触子は高周波数信号を伝送し、他方の接触子は接地されてもよい。
【0015】
本実施形態では、複数の接触子ペア3は、略同心円状に配置される。そして複数の接触子ペア3は、コネクタ1の底面から上方に向けて伸び、略45°曲げられ、さらにもう一度略45°曲げられて、キャップ2の端面2aへ向けられる。このように、複数の接触子ペア3に含まれる各接触子3a、3bは、その内面に沿って略直角に曲げられる。そして複数の接触子ペア3のそれぞれに含まれる接触子3a、3bの他端は、それぞれ、ウェハ4の前側の端部からキャップ2の端面2aへ向けて突出するように形成される。
なお変形例によれば、各接触子は、コネクタの底面からキャップの端面へ向けて、円弧または楕円弧などの曲線状に曲げられてもよい。
【0016】
また本実施形態では、各接触子3a、3bの他端は、キャップ2の端面2aよりもキャップ2の内部に位置する。さらに各接触子ペア3に含まれる接触子の他端は、端面2aに形成された一つの孔21に一つずつ挿入される。そして各接触子3a、3bの他端は、孔21にコネクタ1の外側から挿入されたバックプレーンなどの回路基板の端子、またはコネクタ1の各接触子ペア3と回路基板の端子とを接続するための相手勘合コネクタの端子と電気的に接続可能となっている。
各接触子ペア3に含まれる接触子3a、3bは、例えば、銅、金、銀、ニッケルといった金属またはこれらの合金若しくはその他の導電性を有する材料によって形成される。
またコネクタ1は、各接触子ペア3と回路基板の端子との接続位置で生じる信号の反射を抑制することが好ましい。そこで、各接触子ペア3に含まれる接触子3aと接触子3bの間隔、線幅及びそれら接触子を構成する材料は、各接触子ペア3の差動特性インピーダンスが接触子ペア3と接続される回路基板の端子の差動特性インピーダンスと等しくなるように決定されてもよい。
【0017】
複数のウェハ4は、それぞれ、接触子ペア3に含まれる各接触子を支持する支持部材の一例である。本実施形態では、複数のウェハ4のそれぞれは、各接触子ペア3に含まれる接触子3a、3bのうち、キャップ2の端面2a側から見て右側に位置する接触子3aを支持するウェハ4aと、キャップ2の端面2a側から見て左側に位置する接触子3bを支持するウェハ4bとを含む。ウェハ4a及び4bは、板状の部材として形成される。そしてウェハ4a及び4bは、例えば、端面2a側から見て左右対称となるように形成される。
【0018】
図4は、接触子3aを支持するウェハ4aを一方の面から見たウェハ4の概略斜視図である。また図5は、ウェハ4aを他方の面から見たウェハ4aの概略斜視図である。さらに図6は、図1の面Aにおけるコネクタ1の断面を、矢印X方向から見た斜視図である。また図7は、図6における領域Bの拡大図である。
ウェハ4a及び4bの上端及び下端は、それぞれ、キャップ2の上壁2b及び下壁2cの内側の面に形成されたレールと係合する形状を有する。そしてウェハ4a及び4bは、そのレールに沿ってキャップ2内に挿入される。またウェハ4a及び4bは、その上端または下端に、ラッチとしてキャップ2の上壁2bまたは下壁2cに形成された孔と係合する突起を有してもよい。
ウェハ4a及び4bは、それぞれ、誘電体により形成されることが好ましい。その誘電体は、約1.5〜8の誘電率を持ち、例えば、キャップ2を構成する材料に含まれ得る様々な樹脂材料と同様の樹脂材料を含む。さらにこの誘電体は、ガラスファイバー等の絶縁性フィラー等を含んでもよい。
【0019】
本実施形態では、一つのウェハ4aに、7本の接触子3a−1〜3a−7が一列に並べて取り付けられる。同様に、一つのウェハ4bに、7本の接触子3b−1〜3b−7が一列に並べて取り付けられる。そしてウェハ4a、4bがそれぞれキャップ2に取り付けられた状態で、接触子3a−1と接触子3b−1とが互いに対向し、所定幅を持つエアギャップで隔てられるように配置されることにより、接触子3a−1と接触子3b−1とが一つの接触子ペア3−1を構成する。同様に、ウェハ4a、4bがそれぞれキャップ2に取り付けられた状態で、接触子3a−2〜3a−7と接触子3b−2〜3b−7とがそれぞれ接触子ペア3−2〜3−7を構成する。
なお、接触子3a−1〜3a−7とウェハ4aは、例えば、インサート成型によって一体的に形成される。同様に、接触子3b−1〜3b−7とウェハ4bは、例えば、インサート成型によって一体的に形成される。
【0020】
ウェハ4a、4bは、コネクタ1に回路基板を取り付けたり、取り外したりする際に、接触子3a−1〜3a−7、3b−1〜3b−7が変形することを防止するために、各接触子について、接触子の長手方向に沿って第2の支持部43−1から第2の支持部43−2までの間に設けられた第1の支持部41−1〜41−7、42−1〜42−7をそれぞれ有する。
各第1の支持部41−1〜41−7、42−1〜42−7は、それぞれ、接触子3a−1〜3a−7、3b−1〜3b−7の外面31に近接するように形成される。なお、接触子の外面とは、その接触子とともに接触子ペアを構成する他の接触子と対向する接触子の内面32の反対側の面である。また「接触子の外面に第1の支持部が近接する」ことには、接触子の外面と第1の支持部とが接触するように第1の支持部が配置されるだけでなく、接触子の外面と第1の支持部との間に接触子の厚さ未満のエアギャップが生じるように第1の支持部が配置されることも含まれる。
【0021】
本実施形態では、ウェハ4aに関して、第1の支持部41−1〜41−7は、それぞれ、端面2a側からウェハ4aを見たときに、接触子3a−1〜3a−7の右側に近接するように配置される。またウェハ4bに関して、第1の支持部42−1〜42−7は、それぞれ、端面2a側からウェハ4bを見たときに、接触子3b−1〜3b−7の左側に近接するように配置される。なお各第1の支持部は、接触子と接していてもよく、あるいは離れていてもよい。
【0022】
また、隣接する第1の支持部もエアギャップで隔てられるように、第1の支持部41−1〜41−7は、ウェハ4aにおいて格子状に形成される。同様に、第1の支持部42−1〜42−7は、ウェハ4bにおいて格子状に形成される。これにより、ウェハ4aと4bによって支持される接触子ペア3−1〜3−7のうちの隣接する接触子ペアは、エアギャップによって隔てられる。
【0023】
図7に示されるように、矢印Yで示される接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6の外面31に平行な接触子の短手方向における第1の支持部41−4〜41−6、42−4〜42−6の幅Waは、接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6の短手方向の幅Wl以下となることが好ましい。本実施形態では、第1の支持部の短手方向の幅Waは、接触子の短手方向の幅W1よりも狭くなっている。そしてその短手方向において、接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6の両端は、それぞれ、第1の支持部41−4〜41−6、42−4〜42−6の接触子に近接する側の面の両端と一致しているか、あるいはその近接する側の面よりも突出していることが好ましい。本実施形態では、短手方向における接触子の両端は、第1の支持部の接触子に近接する側の面の両端よりも突出している。言い換えれば、接触子の外面31の中央部はその接触子の長手方向に沿って対応する第1の支持部に取り付けられ、かつ接触子の外面31の端部は第1の支持部材に取り付けられない。そのため、接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6の外面31において接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6の両端から所定幅だけ、接触子3a−4〜3a−6、3b−4〜3b−6は第1の支持部41−4〜41−6、42−4〜42−6と接していない。そのため、電界強度が強い領域には、第1の支持部の少なくとも大部分が存在しなくなる。このため、第1の支持部全体の体積に対する、電界強度が強い領域に位置する第1の支持部の部分の体積の比が減少するため、インピーダンスの容量成分がより小さくなる。
【0024】
なお、所定幅が大きいほど、第1の支持部全体の体積に対する、電界強度が強い領域に位置する第1の支持部の部分の体積の比がより減少するので、インピーダンスの容量成分がより小さくなるので好ましい。所定幅は、例えば、その第1の支持部が支持する接触子の厚さ(すなわち、図7のZ方向における接触子の幅)の1/4以上とすることができる。所定幅が接触子の厚さの1/4以上あれば、インサート成型によりウェハを形成する際、金型で接触子の短手方向の両端を挟んで固定できるので、ウェハに対する接触子の位置決め精度を向上できる。また、コネクタ1の剛性を高めるために、各第1の支持部の短手方向の幅Waは、その第1の支持部が支持する接触子の短手方向の幅W1の1/3以上であることが好ましい。
【0025】
このように各第1の支持部が配置されることにより、各接触子ペアに含まれる接触子間で生じる電界強度が強い領域に占める空気の割合が大きくなるので、各接触子の両端部間のインピーダンスの容量成分が小さくなる。
【0026】
また、各接触子3a−1〜3a−7は、キャップ2側の接触子3a−1〜3a−7の端部の近傍に設けられた第2の支持部43−1により固定されている。第2の支持部43−1は、キャップ2の外側から回路基板の端子が接触子3a−1〜3a−7と接続されるようにキャップ2の端面2aに形成された孔21へ挿入される方向に対して略直交する方向、すなわち垂直方向に伸びるように形成される。一方、各接触子3a−1〜3a−7は、コネクタ1の底面側の接触子3a−1〜3a−7の端部の近傍に設けられた第2の支持部43−2により固定されている。そして第2の支持部43−2は、回路基板の端子を接触子3a−1〜3a−7と接続するために接触子3a−1〜3a−7をその回路基板へ向けて動かす方向に対して略直交する方向、すなわち水平方向に伸びるように形成される。すなわち、第2の支持部43−1、43−2は、各接触子ペア3−1〜3−7と交差している。
なお、上記のように、ウェハ4aとウェハ4bは、端面2a側から見て左右対称となるように形成されるので、ウェハ4bにも、各支持部42−1〜42−7を接続する二つの第2の支持部が形成されている。
【0027】
図8(A)は、本発明の実施形態によるコネクタに含まれる一対の接触子間の電界ベクトルの向きと強さを表す電界ベクトル図であり、図8(B)は、比較例である、従来技術によるコネクタに含まれる一対の接触子間の電界を表す電界ベクトル図である。
図8(A)及び図8(B)では、それぞれ、3組の接触子ペア801、802、803の断面が示されている。そして図8(A)では、ウェハの第1の支持部811〜816が、接触子ペア801〜803の外側に設けられている。一方、図8(B)に示される比較例では、第1の支持部821〜824が、それぞれ、隣接する接触子ペアがエアギャップで隔てられるものの、第1の支持部821〜824は、隣接する接触子ペアに跨るように設けられている。
また、図中に示された矢印は、それぞれ、中央の接触子ペア802の上側の接触子と下側の接触子に、互いに逆向きの電流が流れる場合の電界ベクトルを表し、矢印が長いほど、電界が強い。
【0028】
図8(A)及び図8(B)から明らかなように、本実施形態によるコネクタの第1の支持部811〜816を通る、接触子ペア802において生じる電界の強さは、比較例によるコネクタの第1の支持部821〜824を通る電界よりも弱い。その結果、本実施形態によるコネクタにおけるインピーダンスの容量成分は、比較例によるコネクタにおけるインピーダンスの容量成分よりも小さくなる。そのため、この容量成分による隣接する接触子ペア間の信号の漏洩が抑制されるので、本実施形態によるコネクタにおいて生じるクロストークは、比較例によるコネクタにおいて生じるクロストークよりも小さくできる。本実施形態によるコネクタは、インピーダンスの容量成分が小さいため、伝送遅延時間も短くできる。
さらに、接触子ペアの特性インピーダンスを接触子ペアに接続する回路基板の端子のインピーダンスと一致させるために、インピーダンスの容量成分が小さいほど、接触子の断面積を大きくすることができる。その結果、本実施形態によるコネクタは、挿入損失も抑制することができる。
【0029】
以下、2次元有限要素法を用いた電磁界解析に基づくシミュレーションにより求めた、図8(A)に示される本実施形態によるコネクタの伝送特性と、図8(B)に示される比較例によるコネクタの伝送特性を示す。
図9(A)は、シミュレーションに用いた、本実施形態によるコネクタの各部の寸法を示し、一方、図9(B)は、シミュレーションに用いた、比較例によるコネクタの各部の寸法を示す。なお、図9(A)及び図9(B)において、単位はミリメートルである。
また、本実施形態によるコネクタ及び比較例によるコネクタの第1の支持部の誘電率は4.0、誘電損失は0.01であり、本実施形態によるコネクタ及び比較例によるコネクタの差動特性インピーダンスは100Ωであり、伝送される信号の周波数は2.5GHzである。
【0030】
表1に、本実施形態によるコネクタ及び比較例によるコネクタの伝送特性を示す。
【表1】

なお、表1における性能向上率は、次式により算出される。
性能向上率 = (比較例における伝送特性値−本実施形態による伝送特性値)
/本実施形態による伝送特性値
【0031】
以上説明してきたように、本発明によるコネクタは、信号伝送時において接触子ペアを伝送される高周波数信号により生じる電界強度が強い領域に位置する樹脂の体積を小さくすることで、インピーダンスの容量成分を抑制することができる。そのため、このコネクタは、高周波数信号を伝送する際に生じるクロストークの発生及び挿入損失を抑制できる。
【0032】
なお、他の実施形態によれば、各支持部材は、各第1の支持部及び接触子が変形することを防止するために、第1の支持部の途中において、第1の支持部の少なくとも幾つかを接続する少なくとも一つの第2の支持部材をさらに有してもよい。
例えば、装置をメンテナンスするため、あるいは、ドーターボードを交換するために、ドーターボード上の端子またはバックプレーン上の端子に対するコネクタの挿入及び取り外しは、何百回、何千回と行われることがある。そのため、コネクタは、そのような回路基板の取り付け及び取り外しの繰り返しによって破損しないように、堅牢であることが望ましい。また、コネクタの回路基板への取付は、例えば、弾性を有するプレスフィット端子を介した圧入により行われることも多い。圧入時には、コネクタに対して、1ピンあたり、3N〜50Nの荷重が加えられる。100本よりも多い数のピンを有するコネクタもあるので、1つのコネクタに対する全荷重が5000Nを超えることもある。コネクタは、このような圧入時の荷重により破損しないように堅牢であることが好ましい。
【0033】
図10は、他の実施形態による、支持部材であるウェハを一方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。また図11は、他の実施形態による、ウェハを他方の面から見たそのウェハの概略斜視図である。図10及び図11に示されたウェハ5の各部には、図4及び図5に示された対応する構成要素に対する参照番号と同一の参照番号を付した。
【0034】
ウェハ5には、各接触子ペアの略放射方向に沿って伸びる第2の支持部43−1〜43−7が設けられる。第2の支持部43−1〜43−7は、少なくとも一部の領域において、複数の接触子ペア3−1〜3−7のうちの隣接する接触子ペアがエアギャップで隔てられるように、接触子ごとに設けられた第1の支持部を固定する。
特に、少なくとも一つの第2の支持部が、回路基板の端子を接触子ペア3の端部に接続する際に、接触子ペア3及び第1の支持部に圧力が掛かる方向に対して略直交する方向に伸びるように設けられることが好ましい。本実施形態では、ウェハ5には、第1の支持部41−1〜41−7を接続する5本の第2の支持部43−1〜43−5と、第1の支持部41−1〜41−5を接続する第2の支持部43−6と、第1の支持部41−1〜41−3を接続する第2の支持部43−7が形成されている。
また第2の支持部43−3〜43−5は、それぞれ、接触子3a−1〜3a−7が屈曲する位置に設けられている。さらに第2の支持部43−6は、第2の支持部43−3と43−5の中間に形成される。さらに第2の支持部43−7は、第2の支持部43−4と43−5の中間に形成される。このように、ウェハ5は、複数の第2の支持部を有するので、回路基板の端子を接触子ペアに接続する際の荷重により破損しないように堅牢となる。
同様に、ウェハ5が支持する接触子と対をなす接触子を支持するウェハも、少なくとも幾つかの第1の支持部を接続する第2の支持部を含む。
【0035】
図12は、図10の面Dにおけるウェハ5の断面を、矢印Z方向から見た断面図である。図10〜図12に示されるように、第2の支持部43−3は、各接触子3a−1〜3a−7の外周を囲んで各接触子を対応する第1の支持部41−1〜41−7(二点鎖線で示される)に固定する。同様に、他の第2の支持部も、各接触子を対応する第1の支持部に固定する。さらに、図12において、接触子3a−1〜3a−7と対を成す接触子3b−1〜3b−7が二点鎖線で示される。この接触子3b−1〜3b−7も、その接触子を支持する他のウェハが有する第2の支持部43−3’(二点鎖線で示される)によって囲まれる。そのため、各接触子が第2の支持部により固定された場所では、接触子ペアに含まれる2本の接触子間の空間には、誘電体が充填される。
なお、第2の支持部は、他の固定方法によって接触子を第1の支持部に固定してもよい。
【0036】
また、接触子を第1の支持部に固定する支持部は、隣接する接触子ペア同士がエアギャップで隔てられるように、第1の支持部同士を接続する第2の支持部とは別個に設けられてもよい。
この場合、接触子ペア間における、第2の支持部の接触子ペア側の端部が、第1の支持部の接触子に近接する側の面よりも接触子から離れるように形成されることが好ましい。接触子ペアに含まれる一方の接触子の外面から放射される電気力線は、その外面よりもさらに接触子の後方を通って他方の接触子に達する。そこで上記のように第2の支持部を形成することにより、接触子ペアが有する二つの接触子間で生じる電場による、第2の支持部の帯電を抑制できる。
【0037】
また、他の変形例によれば、各ウェハは、一つの部材でなく、複数の部材を組み立てることにより形成されてもよい。この場合、図7において点線Cで示されるように、第1の支持部の剛性を向上するために、接触子の外面に平行な接触子の短手方向に沿った第1の支持部の外径幅を、接触子から離れるにつれて大きくしてもよい。一方の接触子の外面から放射され、他方の接触子に達する電気力線は、接触子の外面よりも後方においては、接触子から離れるにつれて、接触子の短手方向においても接触子から離れるような経路を通る。従って、第1の支持部の外径幅を接触子から離れるにつれて大きくしても、第1の支持部が存在する領域の電界強度は比較的弱い。そのため、このように第1の支持部を形成することにより、コネクタは、高周波数信号に対する伝送特性を劣化させることなく、第1の支持部の剛性を向上できる。
【0038】
また、図10〜図12に示される実施形態では、第2の支持部は、各接触子を第1の支持部のある側とその反対側から挟むように支持することで、各接触子を対応する第1の支持部に固定している。すなわち、第2の支持部が接触子を第1の支持部に固定する固定位置では、接触子はその周囲を誘電体である第2の支持部及び第1の支持部に囲まれている。一方、接触子が第1の支持部に固定されていない非固定位置では、第1の支持部のみが接触子に近接している。そのため、固定位置における接触子の近傍にある誘電体の断面積が、非固定位置における誘電体の断面積よりも大きくなる。したがって、接触子の太さが、固定位置と非固定位置とで等しければ、固定位置における接触子の特性インピーダンスが、非固定位置における接触子の特性インピーダンスと異なることがある。
【0039】
図13は、さらに他の実施形態によるコネクタが有する接触子ペアの概略斜視図である。図13において、接触子ペア10−1〜10−7には、それぞれ、接触子10a−1〜10a−7及び10b−1〜10b−7が含まれている。各接触子は、固定位置101〜105において、第2の支持部により対応する第1の支持部に固定される。そして固定位置101〜105における各接触子の特性インピーダンスが、接触子が第1の支持部に固定されていない非固定位置111〜116における各接触子の特性インピーダンスと一致するように、固定位置101〜105での各接触子の太さは、未固定位置での横断面における太さよりも小さくなっている。例えば、接触子の特性インピーダンスが100Ωとなるように、未固定位置における接触子の幅が0.76mmに設定され、厚さが0.2mmに設定されているとする。そして、第2の支持部など、接触子を第1の支持部に固定する部材の誘電率が3.5であれば、固定位置における接触子の特性インピーダンスも100Ωに維持されるように、接触子の幅は0.3mmに設定され、厚さは0.2mmに設定される。そのため、この変形例による接触子ペアは、固定位置と未固定位置の境界で、接触子を伝送される高周波数信号が反射されることを防止できる。
【0040】
さらに他の変形例によれば、コネクタを2枚の基板が略平行となるように配置される装置において使用する場合に、そのコネクタが有する各接触子ペアに含まれる接触子は、直線状に形成されてもよい。
図14は、さらに他の実施形態による、接触子ペアとその接触子ペアを支持するウェハを一方の側から見た概略斜視図である。また図15は、その接触子ペア及びウェハを他方の側から見た斜視図である。
図14、15に示されるように、各接触子ペア3−1〜3−7に含まれる2本の接触子3a−1〜3a−7、3b−1〜3b−7は、それぞれ、水平方向に直線状に形成され、また略平行でかつ離して配置される。そのため、各接触子を支持する、ウェハ6a、6bが有する第1の支持部41−1〜41−7、42−1〜42−7も直線状に形成される。そしてこの実施形態においても、第1の支持部は、対応する接触子の外面の中央部に取り付けられ、一方、接触子の外面の端部には取り付けられない。
また、この実施形態では、接触子ペアの何れの端部に回路基板を接続する場合も、接触子ペアの長手方向に沿って、すなわち、水平方向に沿って圧力が掛かる。そのため、回路基板をコネクタに接続する際に生じる圧力に対して、接触子ペア及び第1の支持部の剛性は高い。そこで本実施形態では、第1の支持部及び接触子ペアを固定する二つの第2の支持部43−1、43−2のみが、接触子ペアのそれぞれの端部の近傍に設けられる。
【0041】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 コネクタ
2 キャップ
2a 端面
21 孔
3、3−1〜3−7 接触子ペア
3a、3b、3a−1〜3a−7、3b−1〜3b−7 接触子
31 接触子の外面
32 接触子の内面
4、4a、4b、5、6a、6b ウェハ(支持部材)
41−1〜41−7、42−1〜42−7 第1の支持部
43−1〜43−7 第2の支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長く、略平行でかつ離して配置された2本の接触子を含む複数の接触子ペアと、
それぞれが対応する前記接触子の長手方向に沿って取り付けられた複数の第1の支持部とを有し、
少なくとも一つの領域において、前記各接触子ペアの接触子の内面は互いに対向し、かつ空気により分離され、
前記各接触子ペアの接触子の外面は互いに対して外方向を向いており、
前記外面の中央部は前記接触子の長手方向に沿って対応する前記第1の支持部に取り付けられ、かつ前記外面の端部は前記第1の支持部に取り付けられない、
コネクタ。
【請求項2】
複数の第2の支持部をさらに有し、各第2の支持部は前記接触子ペアの少なくとも幾つかを接続し、
前記複数の第1の支持部は前記複数の第2の支持部の間の領域に配置される、請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記各第2の支持部は、前記接触子ペアの略交差方向に沿って向けられる、請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記複数の第1の支持部を保持するキャップをさらに有する、請求項1〜3の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記複数の接触子ペアのそれぞれは、差動伝送方式により信号を伝送する、請求項1〜4の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記第1の支持部及び前記第2の支持部は誘電体であり、
前記第2の支持部によって前記接触子が前記第1の支持部に固定される固定位置における前記接触子のインピーダンスが、前記固定位置と異なり、かつ前記接触子が前記第1の支持部に固定されていない未固定位置における前記接触子のインピーダンスと一致するように、前記固定位置における前記接触子の太さが前記未固定位置における前記接触子の太さよりも小さい、請求項1〜5の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項7】
前記各接触子ペアの前記接触子は、当該接触子の内面に沿って略直角に曲げられる、請求項1〜6の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項8】
前記各接触子ペアの前記接触子は、直線状に形成される、請求項1〜6の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項9】
細長く、略平行でかつ離して配置された2本の接触子を含む、略同心円状に配置された複数の接触子ペアと、
それぞれが対応する前記接触子の長手方向に沿って取り付けられた複数の第1の支持部とを有し、
少なくとも一つの領域において、前記各接触子ペアの接触子の内面は互いに対向し、かつ空気により分離され、
前記各接触子ペアの接触子の外面は互いに対して外方向を向いており、
前記外面の中央部は前記接触子の長手方向に沿って対応する前記第1の支持部に取り付けられ、かつ前記外面の端部は前記第1の支持部に取り付けられない、
コネクタ。
【請求項10】
複数の第2の支持部をさらに有し、各第2の支持部は前記接触子ペアの少なくとも幾つかを接続し、
前記複数の第1の支持部は前記複数の第2の支持部の間の領域に配置される、請求項9に記載のコネクタ。
【請求項11】
前記各第2の支持部は、前記接触子ペアの略放射方向に沿って向けられる、請求項10に記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−99402(P2012−99402A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247601(P2010−247601)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】