説明

コハク酸を産生する微生物

【課題】本発明は、分離された、野生型に比較して遺伝的に改変された微生物、及びその使用に関する。
【解決手段】該微生物は、a)idh1及びidp1遺伝子が欠失または不活化され、及び/または、b)sdh2及びsdh1遺伝子が欠失または不活化され、及び/または、c)PDC2遺伝子が欠失または不活化、または誘導体物質を使用する微生物の暴露により抑制または誘発可能なプロモーターの制御下にあり、及び/または、d)ICL1、MLS1、ACS1及びMDH3からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子が、対応する外来遺伝子またはクラブトリー陰性生物からの対応する外来遺伝子により置換または補充されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生型に比較して、遺伝的に改変され、有機酸、特にコハク酸を産生するのに適している微生物、該微生物の使用、及びそのような微生物を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸は、多くの化学物質の前駆体として使用することができ、高い経済的実現性を有している。例えば、コハク酸は、1,4−ブタンジオール、テトラヒドロフラン及びγ−ブチロラクトンに基づいてプラスチック材料を製造するための前駆体として働く。今日、コハク酸は、無水マレイン酸を接触水和によりコハク酸無水物とした後、水を添加するか、またはマレイン酸の直接接触水和により化学的に製造されている。
【0003】
コハク酸はまた、多くの微生物により生理的環境条件下に糖またはアミノ酸から生成される。通常、嫌気性条件下に、コハク酸以外にも、エタノール、乳酸、酢酸、ギ酸などの発酵最終産物が生成される。高酸素含有量でのコハク酸の生合成には、CO還元固定が必要である。
【0004】
コハク酸は、通常嫌気性発酵工程により濃縮される代謝産物である。嫌気性条件下での産生物の収量及び濃縮は、多くの場合、好気性条件下よりもかなり高いが、嫌気性工程での欠点として、バイオマス産生の技術的制限や微生物による産生率の低さがある。このように、結果として、バイオマス/産生効率は比較的低いものである。さらに、嫌気性微生物を厳密に操作することは技術的に困難である。
【0005】
嫌気性条件下でコハク酸を合成することができる様々な微生物が当技術分野では知られている。特許文献1には、A.サクシニシプロデュセンス(A.succinicipro−ducens)の変異体が記載されている。該変異体は、コハク酸のみを少量だけ産生することができる偏性嫌気性の微生物であり、さらに高浸透圧及び塩濃度に対して耐性を有さない。
【0006】
特許文献2は、嫌気性条件下だけでなく好気性条件下でも有機酸を合成することができる、ウシ第一胃からの微生物分離株、マンヘミア種55E(Mannheimia sp.55E)について記載している。しかし、これはコハク酸の特異的な濃縮物ではなく、ギ酸、酢酸、乳酸、コハク酸などの種々の有機酸の混合物である。この産生株の欠点は、コハク酸を得るために費用のかかる濃縮及び精製方法を適用する必要があるので、該株の実用的使用は、不可能でないにしても、困難を伴うということである。
【0007】
特許文献3は、大腸菌(E.coli)AFP−111により2段階発酵工程によりジカルボン酸を産生する方法を記載している。第一相では微生物バイオマスを好気性条件下で産生し、第二相ではコハク酸の産生を嫌気的に行う。コハク酸の産生と同様にバイオマスの生成工程を阻害する酢酸の濃縮を避けるために、流加回分工程におけるグルコース濃度は1g/Lに限定する必要があるので、バイオマスの生成の第一相により、上記工程は限定される。したがって、この工程によるバイオマスの生成は、限定された範囲においてのみ可能である。さらに、文献(DeRisiら、1997)から公知であるように、解糖作用、クエン酸回路、グリオキシル酸経路の遺伝子は、グルコースにより強く抑制されるので、上記工程ではコハク酸の生合成経路は、強い異化代謝産物抑制を受けやすい。結論として、グルコースの存在下ではコハク酸の合成は著しく抑制され、強く限定される。
【0008】
特許文献4から、適当な転写因子やキナーゼを変調することにより、様々な遺伝子のグルコース抑制が低減される微生物が当技術分野において公知である。しかし、そのような微生物による有機酸の産生、特に有機酸の産生に最適化された微生物の作成については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,143,834号
【特許文献2】米国特許第7,063,968号
【特許文献3】米国特許第5,869,301号
【特許文献4】米国特許第6,190,914号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の技術的課題は、微生物学的産生方法により得られる有機酸、特にコハク酸の収量が改善された、微生物を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を達成するために、本発明は、遺伝学的に改変、分離された微生物を提供する。該微生物は、野生型に比較して、a)idh1及びidp1遺伝子が欠失または不活化され、及び/またはb)sdh2及びsdh1遺伝子が欠失または不活化され、及び/またはc)PDC2遺伝子が欠失または不活化、または誘導体物質を使用する微生物の暴露により抑制または誘発可能なプロモーターの制御下にあり、及び/またはd)ICL1、MLS1、ACS1及びMDH3からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子が、対応する外来遺伝子またはクラブトリー陰性生物からの対応する外来遺伝子により置換または補充されている。
【0012】
ICL1遺伝子を置換はたは補充する外来遺伝子は、配列番号1の配列に少なくとも75%の相同性を有してよい。ACS1遺伝子を置換はたは補充する外来遺伝子は、配列番号2の配列に少なくとも75%の相同性を有してよい。MLS1遺伝子を置換はたは補充する外来遺伝子は、配列番号3の配列に少なくとも75%の相同性を有してよい。MDH3遺伝子を置換はたは補充する外来遺伝子は、配列番号4の配列に少なくとも75%の相同性を有してよい。好ましくは、相同性は、80%以上、特に90%以上、最も好ましくは95%以上であるが、同一であってもよい。
【0013】
本発明により、酵母株、特にサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母株による呼吸中枢代謝のコハク酸及び他の有機酸の最適化産生方法が得られる。この方法は、産生時間及び収量に関して、酵母の呼吸中枢代謝の有機カルボン酸、特にジカルボン酸及びヒドロキシ脂肪酸、例えば、コハク酸などの、より効率的な産生を可能にする。さらに、抗生物質依存性プロモーター系を使用することなく、増殖相と産生相を分離した2段階産生工程が可能である。
【0014】
本発明により、まず、第一相においてバイオマスを濃縮し、第二相においてコハク酸を産生、培養培地に移す工程が可能になる。細胞の増殖と目的の代謝産物の産生は常に競合する因子であるので、増殖相と産生相を分離することによって酵母での有機酸の完全な産生工程の効率が著しく高められる。
【0015】
産生相においては、バイオマスの生成は炭素やその基質を消費し、最終的に、産生されるべき代謝産物、例えば、コハク酸の収量を低下させるので望ましくない。
【0016】
増殖相と産生相との分離は、遺伝子的に改変した微生物または遺伝子変異及び関連する発酵方法により達成することができる。まず、第一相において微生物による最適なバイオマスの産生増大を確保し、その後、第二相(産生相)において、一次炭素源(例えば、グルコース)やCO(補充反応、CO固定)からカルボン酸、例えばコハク酸を濃縮する。
【0017】
未公開特許出願PCT/DE2008/000670「コハク酸を産生する微生物」に記載されている微生物の遺伝子改変により、クエン酸回路(その図1a.))は、増殖相では遮断されず野生型の形態を有するが、産生相では、中間物であるイソクエン酸及びコハク酸の後に遮断される(その図1中、黒いバツ印)。これらの遮断により、コハク酸はさらに代謝されることはなく、最終産物として濃縮され、炭素流はグリオキシル酸回路へと向け直される(その図1b.))。グリオキシル酸回路による有機酸の産生に対して、クエン酸回路におけるイソクエン酸のスクシニル−CoAへの2段階酸化的脱炭酸及びそれによる2つのCOの形成による炭素の損失(その図1c.)参照)が防止されるという利点がある。産生相における上述の中間物であるイソクエン酸及びコハク酸後の遮断は、産生相において抑制される遺伝子の上流に結合される、外因的に制御可能なプロモーター系により達成される。その後、テトラサイクリンなどの四環系抗生物質を培養培地に添加することにより、産生相において対応する遺伝子の抑制が起こる。しかし、抗生物質は追加的費用因子であるので、発酵への抗生物質の適用は問題を引き起こすことになるかも知れない。さらに、抗生物質を産生物または培養液から再度除去する必要がある場合には、「下流処理」が非常に費用のかかるさらにコストの大きなものとなる。
【0018】
対照的に、本発明は、酵母でのコハク酸または他の有機酸を産生する最適化方法と同様、抗生物質を適用する必要のない、増殖相及び産生相を分離する他の最適化の実現性を提供する。
【0019】
以下の見解は特徴a)に関するものである。例えば、酵母サッカロマイセス・セレビシエでは、クエン酸回路の遮断を引き起こすsdh2及びidh1遺伝子の欠失にもかかわらず、改変されていない野生型酵母に匹敵する増殖率を得ることができる。idh1欠失ではイソクエン酸脱水素酵素活性が完全には消失しないので、この欠失を有する酵母株は増殖だけは可能である。この理由は、α−ケトグルタル酸の生成に関して、二量体型主酵素の損失を埋め合わせることができる、IDH1及びIDH2遺伝子によりコードされるイソクエン酸脱水素酵素の3つのアイソザイムがさらに存在することにある。α−ケトグルタル酸の合成は、この中間物からアミノ酸グルタミン酸を生成するので、最少培地上での酵母細胞の増殖に必ず必要であり、それがないと増殖はできない。酵母でコハク酸を産生する2段階発酵法では、このように、産生株におけるイソクエン酸脱水素酵素活性を完全に抑制することによりグルタミン酸要求性が確保され、結果として培地中にグルタミン酸が補充されないと酵母は増殖しなくなり、増殖相と産生相の効果的な分離が可能となる。これを、培養培地へのグルタミン酸の補充を介して、発酵工程を制御するために使用することができる。培養培地へのグルタミン酸の添加量により、増殖相の持続時間と所望の細胞密度をこの相において効果的に制御できる。添加量の増加に伴い、持続時間及び細胞密度も増加する。培養培地中のグルタミン酸が消費されると、増殖はもはやできず、全ての炭素をコハク酸の合成に効果的に使用でき、その後の生成はバイオマスの生成と競合しない。グルタミン酸の補充による発酵工程における増殖相と産生相のこの分離は、idh1遺伝子の欠失に加え、少なくともidp1遺伝子(Contreras−Shannonら、2005)、好ましくはイソクエン酸脱水素酵素のアイソザイムをコードするidp2及びidp3遺伝子を欠失することにより達成される。イソクエン酸脱水素酵素活性を実質的に完全に阻害すれば、そのために必要なグルタミン酸要求性が確保される。イソクエン酸脱水素酵素活性を完全に阻害することによる他の利点は、酵母の呼吸系における全炭素がコハク酸の方向のグリオキシル酸回路に向け直され、収量損失を招くα−ケトグルタル酸へ流れ出ることができなくなることである。
【0020】
以下の見解は特徴b)に関するものである。収量損失の増加を回避または低減するために、コハク酸を最終産物として濃縮し、酵母細胞によりさらに代謝されないようにすべきである。これは、sdh2遺伝子の欠失のみでは達成することができない。さらに、本発明ではsdh1遺伝子によりコードされる、ヘテロ四量体酵素コハク酸脱水素酵素の別のサブユニットを欠失させている。Kuboら(2000)では、sdh2欠失酵母株においてコハク酸脱水素酵素の残存活性を検出し、この残存活性をsdh1遺伝子の欠失によって阻害した。収量の損失は、生成されたコハク酸がコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を介してさらに代謝されることによる結果でもある。この酵素はグルタミン酸分解経路の一部であり、コハク酸のコハク酸セミアルデヒドへの反応を触媒する。この中間物は、その後γ−アミノ酪酸によりグルタミン酸に代謝される。このように、収量損失が起こるだけでなく、α−ケトグルタル酸及びグルタミン酸もまた合成され、発酵工程のグルタミン酸の補充による制御が不可能になる。したがって、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードするuga2遺伝子も欠失させることは、コハク酸を産生する最適化産生工程にとって有利である。グリオキシル酸回路に必要なグリオキシル酸は、イソクエン酸がコハク酸とグリオキシル酸とに切断されるイソクエン酸リアーゼによって触媒される反応によって生成されるだけでなく、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素の反応によっても生成される。この酵素はピルビン酸及びグリシンに基づくグリオキシル酸及びアラニンの生成を触媒する。グリオキシル酸が必ずしもイソクエン酸リアーゼ反応により作成されなければならないものではないならば、グリオキシル酸回路はグリオキシル酸を提供するアラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素反応の反応によっても確保される。この場合、所望の産生物であるコハク酸を生成するイソクエン酸リアーゼ活性は、グリオキシル酸回路に必要ではなく、酵母は、グリオキシル酸の合成に対して、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素により触媒される代替反応を部分的に使用することになる。その結果、コハク酸は生成されず、収量損失を招く。したがって、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素をコードするagx1遺伝子を追加的に欠失させることはコハク酸を産生する最適化産生工程にとって有利である。
【0021】
以下の見解は特徴c)に関するものである。細胞呼吸では、グルコースなどの基質からの炭素は、発酵のようにエタノールやグリセロールに転換されることはないが、呼吸中枢代謝、すなわちクエン酸回路またはグリオキシル酸回路に入る。炭素がこれら2つの回路を通る場合、NADHまたはNADPHの形で酸化還元同等物が生成され、その電子は、内部ミトコンドリア膜に局在化する呼吸鎖の最初のタンパク質複合体に転送される。これらの電子は、その後最後の電子受容体酸素へ呼吸鎖のタンパク質複合体により順々に転送され、水へと還元される。この制御された酸水素反応により放出されたエネルギーは、濃度勾配に逆らって陽子をミトコンドリアの膜間腔に転送するために使用され、その後ミトコンドリア内に戻る時に、呼吸鎖の複合体Vにより、いわゆる「プロトンポンプ」を駆動してATPの形でエネルギーを生成する。発酵条件下では、酵母はグリセロール以外に主にエタノールを産生し、グルコース1分子当たり38ATPが産生される呼吸に比較して、グルコース1分子当たりATPの形で2エネルギー当量のみ生成する。発酵では、嫌気性条件下では酸素を最終電子受容体として使用することができないので、NADHはエタノールまたはグリセロールの合成により再酸化されてNADになり、呼吸のように酸素に電子を転送することはない。酵母サッカロマイセス・セレビシエは、「クラブトリー」陽性である。これは、例えばグルコースなどの主要な炭素源により、酵母が好気性条件下であっても呼吸ではなく発酵することを意味する。この発酵活性は、培養培地中のグルコース濃度が約100mg/Lで既に観察される。この濃度で酵母細胞の呼吸容量の限界に達するためである。これは、グルコースの存在下で、呼吸中枢代謝、すなわちクエン酸及びグリオキシル酸回路(図1a.)及びb)参照)や呼吸鎖の数々の遺伝子の転写が強く抑制される(Gancedo、1998)からである。この現象はグルコースまたは異化代謝産物抑制とも呼ばれる。発酵は望ましくない副産物の生成をもたらすので、コハク酸の生物工学的産生に影響するかも知れないもう1つの要素である。これに関連して、主にグリセロール、酢酸及びエタノールの生成は実質的な収量損失となるので、問題を引き起こす。例えば酵母サッカロマイセス・セレビシエなどのクラブトリー効果を示す全ての微生物が、好気性条件下であっても発酵する。酵母におけるコハク酸の生物工学的産生では、発酵最終産物、主にエタノールの生成は、原則として、望ましくないものではなく、回避可能である。これは、好気性条件下では、培養培地中に少量のグルコースを継続的に添加することによって部分的に達成することができ、グルコース抑制、したがって好気性条件下での発酵を防止または低減する。嫌気性条件下では、最終電子受容体として酸素を使用することができないので、いずれの場合も酵母はNADHを再酸化するための発酵をしなければならず、代謝的に活性のままである。アルコール性発酵、すなわちエタノールの生成を防止する1つの可能性は、ピルビン酸に基づくエタノールの生合成の排除である。この目的のためには、酵母サッカロマイセス・セレビシエ内でPDC1、PDC5及びPDC6遺伝子にコードされる、3つのピルビン酸脱炭酸酵素アイソザイムにより触媒される、ピルビン酸脱炭酸酵素活性を遮断することができる。PDC6は、エタノールと同様、グルコースによる増殖のみ、非常に弱く発現する(Velmuru−ganら、1997)。PDC2遺伝子は、PDC1及びPDC5遺伝子の発現の主たる原因である、転写誘導体をコードする。PDC2遺伝子は、したがって、3つの遺伝子によりコードされるピルビン酸脱炭酸酵素活性の主な部位を単一の欠失のみにより、細胞内で抑制する可能性を与える。もちろん、代わりにまたは追加的に、PDC1、PDC5及び/またはPDC6遺伝子の1つまたは複数を欠失させてもよい。これは、問題となるエタノール生成を酵母の代謝の単一の改変のみで防止できるという大きな利点を有する。酵母内で生物工学的にコハク酸を産生する際に、収量損失を最小化または低減するためには、副産物、主にエタノールの生成は、防止または強く低減されなければならない。これは、酵母サッカロマイセス・セレビシエのPDC2遺伝子の欠失により達成することができる。この欠失は、グルコースによる増殖を強く制限するので、抑制または誘導されるプロモーターはPDC2遺伝子の上流に提供される。抑制できるプロモーターは、増殖相において下流に提供された遺伝子の十分な転写を確保し、培養培地への添加により産生相において転写を停止させる。誘導できるプロモーターは、培養培地に誘導体を添加することによって増殖相において誘導され、それによって、下流に提供されたPDC2遺伝子が十分に転写され、酵母培養の増殖が可能になる。誘導体が消費されると、増殖はもはや不可能になり、産生相が開始される。ピルビン酸脱炭酸酵素活性がなければ、酵母細胞の増殖は不可能で、アセトアルデヒド及び酢酸により生成されるアセチルCoAは、脂肪酸生合成にとって不十分となる。
【0022】
以下の見解は特徴d)に関するものである。グルコースによってその遺伝子の転写が抑制される、クエン酸及びグリオキシル酸回路の複数の酵素もまた、そのタンパク質濃度はグルコースによる制御または不活性化の影響を受ける。したがって、これら遺伝子の転写制御の解除のみでは、活性な遺伝子産物を十分に得るには不十分である。産生時間及び収量に関して最適化されるコハク酸を産生する方法にとって、タンパク質濃度に対する不活化作用もまた回避されなければならない。一例がグリオキシル酸回路の主要酵素の1つ、イソクエン酸リアーゼである。有機酸の効率的な産生に必須であるこの酵素は、グルコースの存在下、リン酸化及び上昇したタンパク質分解により不活性化されやすい(Lopez−Boadoら、1988及びOrdizら、1996)。呼吸系、特にグリオキシル酸回路の他の酵素について、タンパク質濃度に対するグルコースによる負の制御効果も想定することができる。これは、主にアセチルCoA合成酵素(Acs1p)、リンゴ酸合成酵素(Mls1p)及びリンゴ酸脱水素酵素(Mdh3p)に関連する。これら酵素のグルコースによるタンパク質分解または不活性化は、異種アイソザイムを酵母サッカロマイセス・セレビシエ内に発現させることによって防止できる。これらの酵素は、天然にはグリオキシル酸回路を有し、「クラブトリー」陰性である微生物から生じ、そのような生物からのグリオキシル酸回路の酵素はタンパク質濃度に対してグルコースによる負の制御またはタンパク質分解の支配を受けない。主要な炭素源により有機酸を高収量で効率的に産生するためには活性グリオキシル酸回路が必須である。「クラブトリー」陰性ドナー生物としては、例えば、大腸菌、アネロビオスピリルム(Anaerobiospirillum)、アクチノバチルス(Actinobacillus)、マンヘミア(Mannheimia)またはコリネバクテリウム(Corynebacterium)が挙げられる。
【0023】
遺伝子の欠失という用語は、微生物のゲノムから該遺伝子を完全に除去、及び/または微生物から該遺伝子によりコードされている活性酵素を除去することを指す。遺伝子の不活性化は、その遺伝子によりコードされる酵素またはタンパク質の活性を低下または完全に排除することを指す。これは、従来の標準的な試験によりそれぞれの酵素活性を測定することにより、またはそれぞれの酵素またはタンパク質を例えば免疫学的検出反応により測定することにより確認することができる。不活性化は、例えば遺伝子発現(転写及び/または翻訳)の低下または阻害により行われてよい。この目的のためには、例えば、アンチセンス核酸の導入(アンチセンス核酸への転写が可能な核酸配列のゲノムへの付加または挿入による)、内在性遺伝子への変異の導入による遺伝子産物の活性の低減または完全な排除、ジンクフィンガー転写因子などの遺伝子特異的DNA結合因子の導入による遺伝子発現の低減、及び不活化したまたは活性の低い酵素またはタンパク質をコードする、対応する外来遺伝子による内在性遺伝子の置換がある。さらに、それぞれの内在性遺伝子の制御下に、プロモーターを欠失または変異させ、転写を低減または阻害することもできる。
【0024】
本発明により不活性化された遺伝子または酵素の配列(核酸配列及び/またはアミノ酸配列)または上記プロモーターは、下記の遺伝子データベース番号により入手可能または下記文献に記載されている。
SDH1:NC_001143.7
PDC2:NC_001136.8
IDP1:NC_001136.8
IDP2:NC_001144.4
IDP3:NC_001146.6
AGX1:NC_001138.4
UGA2:NC_001134.7
MLS1:X64407 S50520
ICL1:X65554
MDH3:M98763
ACS1:AY723758
aceA:NC_000913.2
acs:NC_004431.1
aceB:NC_010473.1
mdh:NC_000913.2
ADH1:Lang C.,Looman A.C.,Appl.Microbiol biotechnol.44(1−2):147−156(1995)
tetO及びtTA:Gari Eら、Yeast 13:837−848(1997)。
【0025】
酵母細胞など微生物の形質転換は従来の方法により行うことが可能で、その点に関して、次の文献を参照することができる。Schiestl R.H.ら、Curr.Genet.Dec.16(5−6):339−346(1989)、Manivasakam P.ら、Nucleic Acids Res.Sep.11,21(18):4414−4415(1993)またはMorgan A.J.,Experientia Suppl.46:155−166(1983)。
【0026】
形質転換に好適な媒体、特にプラスミドは、例えば次の文献により公知である。Naumovski L.ら、J. Bacteriol.152(1):323−331(1982)、Broach J.R.ら、Gene 8(1):121−133(1979)、Sikorski R.S.ら、Genetics 122(1):19−27(1989)。これらのベクターは、Yep24、Yep13、pRSベクターシリ−ズ及びYCp19またはpYEXBXである。
【0027】
本発明の目的に好適な発現カセットの作成は、典型的には遺伝子をコードする核酸配列及び、可能な場合には、ターミネーターにプロモーターを、例えば次の文献に記載の従来の組み換え及びクローニング技術により融合させることによって行う。Maniatis T.ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,USA,1989、Sihlavy T.J.ら、Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,USA,1984またはAusubel F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience,1987。
【0028】
本発明はさらにグリオキシル酸及び/またはクエン酸回路の有機カルボン酸、特に有機ジカルボン酸、好ましくはコハク酸を産生する本発明による微生物の使用に関し、以下の工程:A)増殖工程において、微生物を好ましくは好気性条件下に、誘導可能なプロモーターを誘導する誘導体物質及び/またはグルタミン酸の任意の添加下に、培養、増殖する;B)その後、微生物を産生相において、好ましくは嫌気性条件下に、抑制可能なプロモーターを抑制する誘導体物質の任意の添加下に、培養する;C)工程B)の後、または工程B)の間に、カルボン酸を培養上清から分離し、任意に精製する、ことを有する、グリオキシル酸及び/またはクエン酸回路の有機カルボン酸、特に有機ジカルボン酸、好ましくはコハク酸を産生する方法における上記微生物の使用に関する。
【0029】
本発明による方法では、工程A)は、細胞密度が少なくとも100g乾燥バイオマス/L、好ましくは少なくとも120g/L、最も好ましくは少なくとも140g/Lに達するまで行うことが好ましい。工程B)は、カルボン酸濃度が少なくとも0.4モル/L、好ましくは少なくとも0.8モル/L、最も好ましくは少なくとも1.0モル/Lに達するまで行うことができる。工程A)では、pHは4〜9、好ましくは6〜8の範囲であり、塩濃度は0.01〜0.5モル/L、好ましくは0.05〜0.2モル/L、最も好ましくは0.05〜0.1モル/Lの範囲に調整することができる。工程B)では、pHは4〜9、好ましくは6〜8の範囲であり、塩濃度は0.01〜0.5モル/L、好ましくは0.05〜0.2モル/L、最も好ましくは0.05〜0.1モル/Lの範囲に調整することができる。工程A)は好ましくは20℃〜35℃、より好ましくは28℃〜30℃の温度で、1〜1000時間、好ましくは2〜500時間、最も好ましくは2〜200時間行う。工程B)では、15℃〜40℃、好ましくは20℃〜35℃、最も好ましくは28℃〜30℃の温度及び1〜1000時間、好ましくは2〜500時間、最も好ましくは2〜200時間が好ましい。
【0030】
工程A)の培養培地として、例えばWMVIII培地(Lang C.,Looman A.C.,Appl.Microbiol Biotechnol.44(1−2):147−156(1995))を使用することができる。培養培地中のテトラサイクリンの量は、好ましくは20mg/L未満、より好ましくは10mg/L未満、最も好ましくは1mg/L未満、検出限界未満の値までであり、及び/または培養培地にCuSOを含有する場合の濃度は、好ましくは1μM超、最も好ましくは5μM超であり、例えば、1〜3μMまたは3〜15μMの範囲とすることができる。
【0031】
工程B)の培養培地として、例えばWMVIII培地を使用することができるが、従来の糖蜜培地も使用することができる。テトラサイクリンを使用する場合には、その量は、好ましくは1mg/L超、最も好ましくは3mg/L超であり、例えば、1〜3mg/Lまたは3〜15mg/Lの範囲とすることができる。培養培地中に使用されたCuSO濃度は、好ましくは20μM未満、より好ましくは10μM未満、最も好ましくは1μM未満であり、検出限界未満の値までである。
【0032】
その後、工程B)の後に工程C)を行う。その後、例えば濾過または遠心分離により培養上清を微生物から分離する。しかし、工程C)は、工程Bの間に行ってもよく、連続的でも不連続的でもよい。後者の場合、少なくとも培養上清の一部を除去し、新しい培養培地で置換する。可能な場合、この工程を数回繰り返す。除去した培養培地から、コハク酸を取得する。連続的な分離は、適当な膜またはコハク酸を分離する装置に培養培地を流して行うことができる。
【0033】
本発明はさらに本発明に係わる微生物を作成する方法に関し、a)idh1及びidp1遺伝子を欠失または不活化し、及び/またはb)sdh2及びsdh1遺伝子を欠失または不活化し、及び/またはc)PDC2遺伝子を欠失または不活化し、または誘導体物質を使用して微生物の暴露により抑制または誘導できるプロモーターで制御し、及び/またはd)ICL1、MLS1、ACS1及びMDH3からなる群からの少なくとも1つの遺伝子を、対応する外来性遺伝子またはクラブトリー陰性生物からの対応する外来性遺伝子により置換または補充する。
【0034】
原則として、本発明に係る微生物に関しての説明は全て、本発明に係る使用及び方法にも同様に適用される。
【0035】
略式の上記及び下記引例文献の書誌的事項は、以下の通りである:
Contreras−Shannon,V.,A.P.Lin,M.T.McCammon及びL.McAlister−Henn(2005)“Kinetic properties and metabolic contributions of yeast mitochondrial and cytosolic NADP+−specific isocitrate dehydrogenases”,J.Biol Chem 280(6):4469−75;
DeRisi,J.L.,V.R.Iyer及びP.O.Brown(1997)“Exploring the metabolic and genetic control of gene expression on a genomic scale”,Science 278(5338):680−6;
Gancedo,J.M.(1998)“Yeast carbon catabolite repression”,Microbiol Mol Biol Rev 62(2):334−61;
Guldener,U.,S.Heck,T.Fielder,J.Beinhauer及びJ.H.Hegemann(1996)“A new efficient gene disruption cassette for repeated use in budding yeast”,Nucleic Acids Res.24(13):2519−24;
Kubo,Y.,H.Takagi及びS.Nakamori(2000)“Effect of gene disruption of succinate dehydrogenase on succinate production in a sake yeast strain”,J.Biosci.Bioeng.90(6):619−24;
Lang,C.及びA.C.Looman(1995)“Efficient expression and secretion of Aspergillus niger RH5344 polygalacturonase in Saccharomyces cerevisiae”,Appl.Microbiol Biotechnol.44(1−2):147−56;
Lopez−Boado,Y.S.,P.Herrero,T.Fernandez,R.Fernandez及びF.Moreno(1988)“Glucose−stimulated phosphorylation of yeast isocitrate lyase in vivo”,J.Gen.Microbiol.134(9):2499−505;
Ordiz,I.,P.Herrero,R.Rodicio及びF.Moreno(1996)“Glucose−induced inactivation of isocitrate lyase in Saccharomyces cerevisiae is mediated by the cAMP−dependent protein kinase catalytic subunits Tpk1 and Tpk2”,FEBS Lett.385(1−2):43−6;
Velmurugan,S.,Z.Lobo及びP.K.Maitra(1997)“Suppression of pdc2 regulating pyruvate decarboxylase synthesis in yeast”,Genetics 145(3):587−94。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下の図面は上述の様々な合成法及び本発明の遺伝子的手段によるその変形を説明するためのものである。
【図1】クエン酸及びグリオキシル酸回路を、関連する遺伝子、代謝産物、酵素またはタンパク質とともに示す図である。
【図2】野生型におけるコハク酸のグルタミン酸への代謝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0037】
以下では、本発明を複数の実施例によりさらに詳細に説明する。本発明に係る個々の特徴を微生物に関して説明するが、単に代表例に過ぎない。言うまでもなく、説明される遺伝子的手段も、他の微生物、特に酵母に移行することができる。さらに、様々な遺伝子的手段も他の組み合わせとすることもできる。
【実施例1】
【0038】
転写上かつタンパク質濃度において呼吸中枢代謝の有機酸、特にコハク酸を産生するためのグルコース抑制に依存しない、グリオキシル酸回路を利用する微生物の作成
グルコースによってその遺伝子の転写が抑制される、クエン酸及びグリオキシル酸回路の複数の酵素もまた、そのタンパク質濃度は酵母サッカロマイセス・セレビシエ内でグルコースによる制御または不活性化の影響を受ける。したがって、これら遺伝子の転写制御の解除だけでは、活性な遺伝子産物の取得には十分でない。よって、産生時間及び収量に関して最適化されるコハク酸を産生する方法にとって、タンパク質濃度に対する不活化作用もまた回避されなければならない。
【0039】
グリオキシル酸回路の酵素のグルコースによるタンパク質分解または不活性化は、異種アイソザイムを酵母サッカロマイセス・セレビシエ内に発現させることによって防止できる。これらの酵素は、天然にはグリオキシル酸回路を有し、「クラブトリー」陰性である微生物から生じ、そのような生物からのグリオキシル酸回路の酵素はタンパク質濃度に対してグルコースによる負の制御またはタンパク質分解の支配を受けない。ドナー生物としては、例えば、大腸菌、アネロビオスピリルム、アクチノバチルス、マンヘミア、コリネバクテリウムが挙げられる。これらの酵素の転写制御の解除は、構成的プロモーターの制御下に、対応する遺伝子を置くことによって達成される。
【0040】
この目的のために、acs(アセチル−CoA合成酵素)、aceA(イソクエン酸リアーゼ)、aceB(リンゴ酸合成酵素A)およびmdh(リンゴ酸脱水素酵素)の遺伝子を大腸菌JM109株の細菌DNAからPCRにより増幅し、制限リンカ−を結合させた後、構成的ADH1プロモーターの制御下に、酵母染色体に組み込む。酵母サッカロマイセス・セレビシエ内のこの遺伝子の発現制御を解除するために、構成的ADH1プロモーターを使用し、長期間にわたる天然配列の改変によりグルコース及びエタノール非依存的構成的発現を導く(Lang及びLooman、1995)。
【0041】
ADH1prom−acs(aceA,aceB,mdh)−TRP1termの発現カセットをコードしている核酸配列は、pFlat1−acs(aceA,aceB,mdh)ベクターから標準法を用いてPCRにより増幅した。得られたDNAフラグメントは、クレノウ処理後EcoRV界面内でpUG6ベクターにクローン化された平滑末端であり、pUG6−acs(aceA,aceB,mdh)ベクターであった。プラスミドの分離後、延長フラグメントをpUG6−acs(aceA,aceB,mdh)ベクターからPCRにより増幅した。得られたフラグメントは次の成分:loxP−kanMX−loxP−ADH1−prom−acs(aceA,aceB,mdh)−トリプトファンターミネーターから成っていた。プライマーとしては、5’及び3’突出にそれぞれacs(aceA,aceB,mdh)遺伝子の5’または3’配列を、アニーリング部位にloxP領域の5’配列とトリプトファンターミネーターの3’配列を含有するオリゴヌクレオチド配列を選択した。したがって、一方においてKanR及びacs(aceA,aceB,mdh)を有する完全なフラグメントが増幅され、他方において、このフラグメントが酵母内で形質転換されて、この完全フラグメントが相同組み換えにより酵母の対応する遺伝子座内に組み込まれることが確保される。
【0042】
選択マーカーは、それぞれG418耐性である。その後、G418耐性を再度除去するために、それぞれ形成された酵母株をcreリコンビナーゼ・ベクターpSH47(Guldenerら、1996)で形質転換する。このベクターにより、酵母内でcreリコンビナーゼが発現され、続いて2つのloxP配列の間の配列領域の組み換えが起こる。結果として、2つのloxP配列の1つのみ及びそれぞれの発現カセットが残り、元の対応する遺伝子座に含まれる。結果として、酵母株は再度G418耐性を失い、さらに酵母株のこのcre−lox系による遺伝子の組み込みまたは除去に適するようになる。その後、pSH47ベクターをウラシル(20mg/L)及びFOA(5−フルオロオロチン酸、1g/L)が補充されたYNB寒天プレート上で対抗選択することにより再度除去することができる。この目的のために、このプラスミドを運ぶ細胞をまず非選択的条件下に培養した後、FOA含有選択プレート上に取り出さなければならない。これらの条件下では、それ自身ではウラシルを合成することができない細胞のみが増殖できる。この場合、これらはもはやプラスミド(pSH47)を含有しない細胞である。
【実施例2】
【0043】
収量損失を低減して、より効率的な産生工程を可能にする、コハク酸及び他の有機酸を生物工学的に産生する微生物の作成
酵母サッカロマイセス・セレビシエ内でコハク酸の生物工学的産生における収量損失を低減するために、コハク酸を最終産物として濃縮し、酵母細胞によりさらに代謝されないようにしなければならない。これはsdh2遺伝子のみの欠失では完全に達成することはできない。さらに、sdh1遺伝子によってコードされるヘテロ四量体酵素であるコハク酸脱水素酵素の他のサブユニットも欠失させる必要がある。
【0044】
収量損失はまた、作成されたコハク酸が酵素、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、によりさらに代謝されることによっても起こり得る。この酵素はグルタミン酸分解経路の一部であり、コハク酸がコハク酸セミアルデヒドになる反応を触媒する。この中間物はその後γ−アミノ酪酸により代謝されてグルタミン酸になる。このように、収量損失が起こるだけでなく、α−ケトグルタル酸及びグルタミン酸も合成され、グルタミン酸補充による発酵工程の制御を不可能にするかもしれない。したがって、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードするuga2遺伝子を追加的に欠失させることはコハク酸を産生する最適化産生工程にとって有利である。
【0045】
グリオキシル酸回路に必要なグリオキシル酸は、イソクエン酸がコハク酸とグリオキシル酸とに切断されるイソクエン酸リアーゼによって触媒される反応によって生成されるだけでなく、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素の反応によっても生成される。この酵素はピルビン酸及びグリシンに基づくグリオキシル酸及びアラニンの生成を触媒する。グリオキシル酸が必ずしもイソクエン酸リアーゼ反応から作成されなければならないものではないならば、グリオキシル酸回路はグリオキシル酸を提供するアラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素反応の反応によっても確保することができる。この場合、所望の産生物であるコハク酸を生成するイソクエン酸リアーゼ活性は、グリオキシル酸回路に必要ではなく、酵母は、グリオキシル酸の合成に対して、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素により触媒される代替反応を部分的に使用することになる。その結果、コハク酸は生成されず、収量損失を招く。したがって、アラニン−グリオキシル酸アミノ基転移酵素をコードするagx1遺伝子を追加的に欠失させることはコハク酸を産生する最適な産生工程にとって有利である。
【0046】
idh欠失によっては、イソクエン酸脱水素酵素活性は完全に消失されない。その理由は、α−ケトグルタル酸の生成に関して、二量体型主酵素の損失を埋め合わせることができる、IDH1及びIDH2遺伝子によりコードされるイソクエン酸脱水素酵素の3つのアイソザイムがさらに存在することにある。グルコースによるイソクエン酸脱水素酵素活性を完全に抑えるためには、idh遺伝子の欠失に加え、少なくともイソクエン酸脱水素酵素のアイソザイムをコードするidp1遺伝子も欠失させる必要がある。イソクエン酸脱水素酵素活性の完全な阻害は、酵母の呼吸系における全炭素がコハク酸の方向のグリオキシル酸回路に向け直され、収量損失を招くα−ケトグルタル酸へ流れ出ることができなくなるという利点を有する。
【0047】
すなわち、酵母によるコハク酸の生物工学的産生における収量損失は、sdh2及びidh1遺伝子に加えて、sdh1、agx1、uga2及びidp1遺伝子を欠失させることによって最小化または低減化することができる。
【0048】
この目的のために、loxP−kanMX−loxP欠失カセットをコードする核酸配列をpUG6ベクターから標準法を使用してPCRにより増幅し(Guldenerら、1996)、次の成分:loxP−kanMX−loxP、から成るフラグメントを得た。プライマーとしては、5’及び3’突出にそれぞれ欠失される遺伝子(sdh1、agx1、uga2、idp1)の野生型座の開始及び終止の5’または3’配列を、アニーリング領域にloxP領域の5’配列と第2loxP領域の3’配列を含有するオリゴヌクレオチド配列を選択した。したがって、一方においてloxP−kanMX−loxPの完全なフラグメントが増幅され、他方において、このフラグメントが酵母内に形質転換されて、この完全フラグメントが相同組み換えにより酵母の欠失される遺伝子座内に組み込まれることが確保される。
【0049】
選択マーカーは、それぞれ(kanMXにコードされる)G418耐性である。その後、G418耐性を再度除去し、kanMXマーカーをさらに使用するために、形成された酵母株をcreリコンビナーゼ・ベクターpSH47(Guldenerら、1996)で形質転換する。このベクターにより、酵母内でcreリコンビナーゼが発現され、続いて2つのloxP配列の間の配列領域の組み換えが起こる。結果として、2つのloxP配列の1つのみが欠失遺伝子座(sdh1、agx1、uga2、idp1)に残る。結果として、酵母株は再びG418耐性を失い、さらに酵母株のこのcre−lox系による遺伝子の組み込みまたは除去に適するようになる。その後、pSH47ベクターはウラシル(20mg/L)及びFOA(5−フルオロオロチン酸、1g/L)が補充されたYNB寒天プレート上で対抗選択することにより再度除去することができる。この目的のために、このプラスミドを運ぶ細胞をまず非選択的条件下に培養した後、FOA含有選択プレート上に取り出さなければならない。これらの条件下では、それ自身ではウラシルを合成することができない細胞のみが増殖できる。この場合、これらはもはやプラスミド(pSH47)を含有しない細胞である。このように、欠失される全ての遺伝子(sdh1、agx1、uga2、idp1)が反復的に欠失された。
【0050】
表1は、表に示した株を、3.52g/Lの硫酸アンモニウム、緩衝液として0.05MのNaHPO及び0.05MのNaHHPO、100mg/Lのヒスチジン、400mg/Lのロイシン及び100mg/Lのウラシルを含有するWM8培地(Lang及びLooman、1995)中で72時間培養した後の収量が、上記欠失により増加していることを例示的に示す。炭素源には5%グルコースを使用した。植菌は、48時間の前培養から1%で行った。培養は、30℃、150rpmで振盪インキュベーター上、100mL振盪フラスコ中で行った。
【0051】
株5及び6はグルタミン酸を含まない培地中では増殖しないので、第1のバイオマスは、250mLのバッフル付きフラスコ中で、グルタミン酸ナトリウム及び5%のグルコースを含有する75mLの標準WM8培地中でこれらの株により生成した。細胞を洗浄し、上記培地に再懸濁し、さらに培養した。
表1 上述の条件下、WM8培地中上記株を72時間培養した後のコハク酸の力価
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、行った欠失の全てにおいて、培養上清中のコハク酸量が、野生型に比較して、上昇することが分かる。4つの欠失変異体AH22ura3Δsdh2Δsdh1Δidh1Δidp1において、コハク酸量は最も高い。対応する結果は他の微生物または酵母においても得られる。
【実施例3】
【0054】
副産物、特にエタノール及び酢酸の生成を低減して、より効率的な産生工程を可能にする、コハク酸及び他の有機酸を生物工学的に産生する微生物の作成
発酵は、望ましくない副産物の生成をもたらすので、コハク酸の生物工学的産生に不利な、もう1つの非常に重要な要素である。これに関連して、主に酢酸及びエタノールの生成は実質的な収量損失となるので、問題を引き起こす。
【0055】
アルコール性発酵、すなわちエタノールの生成を防止する1つの可能性は、ピルビン酸に基づくエタノールの生合成の排除である。これにより、アセトアルデヒドによる酢酸の生成も防止される。この目的のためには、酵母サッカロマイセス・セレビシエ内で、PDC1、PDC5及びPDC6遺伝子によりコードされ、3つのピルビン酸脱炭酸酵素アイソザイムにより触媒される、ピルビン酸脱炭酸酵素活性を遮断しなければならない。PDC2遺伝子は、主にPDC1及びPDC5遺伝子の発現に関与する、転写誘導体をコードする。したがって、PDC2遺伝子は、細胞中で3つの遺伝子によりコードされるピルビン酸脱炭酸酵素活性の主要部を、単一の欠失のみにより排除する可能性を提供する。これは、これにより問題となるエタノールの生成を酵母の代謝において単一の改変のみで防ぐことができるという、大きな利点を有する。
【0056】
これは、酵母サッカロマイセス・セレビシエのPDC2遺伝子を欠失させることによって達成することができる。この欠失は、グルコースによる増殖を強く制限するので、誘導可能なプロモーターをPDC2遺伝子の上流に結合することができる。誘導可能なプロモーターは、培養培地に誘導体を添加することによって増殖相の間に誘導され、それによって、下流のPDC2遺伝子は十分に転写され、酵母培養の増殖が確保される。誘導体が消費されると、もはや増殖は不可能であり、エタノール及び酢酸の形の副産物を生成しない産生相が開始される。
【0057】
誘導可能なプロモーターとして、CUP1プロモーターが選択され、PDC2遺伝子の「オープン・リーディング・フレーム」の前に染色体性に組み込まれて、後者は銅により誘導できるCUP1プロモーターの制御下に置かれる。
【0058】
この目的のために、CUP1プロモーターカセットをコードする核酸配列を標準法を使用してPCRにより増幅し、次の成分:loxP−kanMX−loxP−7CUP1pr、から成るフラグメントを得た。プライマーとして、5’及び3’突出にそれぞれPDC2遺伝子の野生型プロモーターの5’または3’配列を、アニーリング領域にloxP領域の5’配列とCUP1promの3’配列を含有するオリゴヌクレオチド配列を選択した。したがって、一方においてkanMX及びCUP1プロモーターを有する完全なフラグメントが増幅され、他方において、このフラグメントが酵母内に形質転換されて、この完全フラグメントが相同組み換えにより、PDC2遺伝子をコードする領域の前の、酵母のPDC2遺伝子座内に組み込まれることが確保される。
【0059】
選択マーカーは、G418耐性である。得られた株は、銅制御性CUP1プロモーター及び野生型PDC2ターミネーターの制御下にPDC2遺伝子の複製を有する。その後、G418耐性を再度除去するために、形成された酵母株をcreリコンビナーゼ・ベクターpSH47(Guldenerら、1996)で形質転換する。このベクターにより、酵母内でcreリコンビナーゼが発現され、続いて2つのloxP配列の間の配列領域の組み換えが起こる。結果として、2つのloxP配列の1つのみ及びCUP1プロモーターカセットが残り、PDC2遺伝子をコードする配列の前に含まれる。結果として、酵母株は再度G418耐性を失い、さらに酵母株のこのcre−lox系による遺伝子の組み込みまたは除去に適するようになる。その後、pSH47ベクターをウラシル(20mg/L)及びFOA(5−フルオロオロチン酸、1g/L)が補充されたYNB寒天プレート上で対抗選択することにより再度除去することができる。この目的のために、このプラスミドを運ぶ細胞をまず非選択的条件下に培養した後、FOA含有選択プレート上に取り出さなければならない。これらの条件下では、それ自身ではウラシルを合成することができない細胞のみが増殖できる。この場合、これらはもはやプラスミド(pSH47)を含有しない細胞である。
【実施例4】
【0060】
グルタミン酸補充により、増殖及び産生相の分離を可能にする、コハク酸及び他の有機酸を生物工学的に産生する微生物の作成
以下では、抗生物質を使用する必要のない、増殖相と産生相との分離の可能性について説明する。酵母サッカロマイセス・セレビシエでは、クエン酸回路の遮断(図1参照、黒いバツ印)につながるsdh2及びidh1遺伝子の欠失にも関わらず、改変されていない野生型酵母に相当する増殖率が得られる(YPD培地による100mLの振盪フラスコ中、AH22ura3Δsdh2Δidh1株は、AH22ura3(野生型)株に比較して、増殖率は11%少ないだけである。出典:自己デ−タ)。
【0061】
idh1欠失はイソクエン酸脱水素酵素活性の完全な消失を引き起こさないという理由のみにより、この欠失を有する酵母株は増殖可能である。その理由は、α−ケトグルタル酸の生成に関して、二量体型主酵素の損失を埋め合わせることができる、IDH1及びIDH2遺伝子によりコードされるイソクエン酸脱水素酵素の3つのアイソザイムがさらに存在することにある。α−ケトグルタル酸の合成が、最少培地での酵母細胞の増殖に絶対的に必要である。この中間体から、アミノ酸であるグルタミン酸が生成されるので、α−ケトグルタル酸の合成がないと、増殖は不可能である。
【0062】
酵母での2段階発酵工程によるコハク酸の産生では、増殖相と産生相との効果的な分離は、産生株のイソクエン酸脱水素酵素活性の完全な阻害によりのみ可能であるので、グルタミン酸要求性が確保され、結果としてグルタミン酸の補充なしでは培地中の酵母は増殖しない。これは、培養培地へのグルタミン酸の補充による発酵工程の制御に使用できる。培養培地に添加されたグルタミン酸の量により、増殖相の時間及び所望の細胞密度をこの相において効率的に制御できる。量の増加に伴い、所要時間及び細胞密度もまた増加する。
【0063】
培養培地のグルタミン酸が消費されると、もはや増殖は不可能であり、全ての炭素をコハク酸の合成に効果的に使用でき、その後の生成はバイオマスの生成と競合しない。これは、本質的に収量及び産生工程の効率の上昇に寄与する。このグルタミン酸の補充によるグルコース及びその他の発酵性炭素源による発酵工程における増殖相と産生相との分離は、idh1遺伝子の欠失に加え、少なくともイソクエン酸脱水素酵素のアイソザイムをコードするidp1遺伝子も欠失された場合のみに実現できる。イソクエン酸脱水素酵素活性の完全な阻害のみにより、必要なグルタミン酸要求性が確保される。
【0064】
イソクエン酸脱水素酵素活性の完全な阻害による他の利点は、酵母の呼吸系において上述のように全ての炭素がコハク酸の方向のグリオキシル酸回路に向け直され、収量損失を招くα−ケトグルタル酸へ流れ出ることができないことである(図1e.)参照)。
【0065】
この目的のため、loxP−kanMX−loxP欠失カセットをコードする核酸配列をpUG6ベクターから標準法を使用してPCRにより増幅し(Guldenerら、1996)、次の成分:loxP−kanMX−loxP、から成るフラグメントを得た。プライマーとしては、5’及び3’突出にそれぞれ欠失されるidp1遺伝子の野生型座の開始及び終止の5’または3’配列を、アニーリング領域にloxP領域の5’配列と第2loxP領域の3’配列を含有するオリゴヌクレオチド配列を選択した。したがって、一方においてloxP−kanMX−loxPの完全なフラグメントが増幅され、他方において、このフラグメントが酵母内に形質転換されて、この完全フラグメントが相同組み換えにより酵母の欠失される遺伝子座内に組み込まれることができる。
【0066】
選択マーカーは、それぞれ(kanMXにコードされる)G418耐性である。その後、G418耐性を再度除去し、kanMXマーカーをさらに使用するために、形成された酵母株をcreリコンビナーゼ・ベクターpSH47(Guldenerら、1996)で形質転換する。このベクターにより、酵母内でcreリコンビナーゼが発現され、続いて2つのloxP配列の間の配列領域の組み換えが起こる。結果として、2つのloxP配列1つのみが欠失遺伝子座idp1に残る。結果として、酵母株は再びG418耐性を失い、酵母株のこのcre−lox系による遺伝子の組み込みまたは除去に適するようになる。その後、pSH47ベクターはウラシル(20mg/L)及びFOA(5−フルオロオロチン酸、1g/L)が補充されたYNB寒天プレート上で対抗選択することにより再度除去することができる。この目的のために、このプラスミドを運ぶ細胞をまず非選択的条件下に培養した後、FOA含有選択プレート上に取り出さなければならない。これらの条件下では、それ自身ではウラシルを合成することができない細胞のみが増殖できる。この場合、これらはもはやプラスミド(pSH47)を含有しない細胞である。
【0067】
産生株AH22ura3Δsdh1Δsdh2Δidh1Δidp1をグルタミン酸の補充がある場合とない場合とにおけるその増殖特性について評価した。参照株として、idp1の欠失を有さない株である、AH22ura3Δsdh1Δsdh2Δidh1を使用した。
【0068】
2つの株をそれぞれ100mLのフラスコ中、(窒素源として)3.52g/Lの硫酸アンモニウム、緩衝液として0.05MのNaHPO及び0.05MのNaHHPOを含有する20mLのWM8培地または窒素源として10gのグルタミン酸ナトリウムを含有する標準WM8培地(Lang及びLooman、1995)中で64時間培養した後、4つの培養物の光学密度を測定した。結果を表2に示す。
表2 グルタミン酸を含有/非含有WM8培地中で64時間培養した後の上記株の光学密度:グルタミン酸非含有培地では、窒素源としてNHSOを補充した。
【0069】
【表2】

【0070】
表2では、AH22ura3Δsdh2Δsdh1Δidh1Δidp1株は、AH22ura3Δsdh2Δsdh1Δidh1と異なり、グルタミン酸不含培地中で増殖せず、idh1株におけるidp1の追加的な欠失がグルコースによるグルタミン酸要求性の誘因となることが示されている。idh1のみの欠失ではグルタミン酸要求性は引き起こされない。グルタミン酸補充によってグルコースによるコハク酸及びその他の有機酸を産生する2段階産生工程の増殖相と産生相との分離は、idh1及びidp1遺伝子の欠失を有する株においてのみ可能である。例えば、硫酸アンモニウムなどの他の窒素源が添加される場合、Δidh1Δidp1変異体の増殖は、非常に少量のグルタミン酸(約20mg/L)が既に補充されている最少培地中で可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝学的に改変、分離された微生物であって、該微生物は、野生型に比較して、
a)idh1及びidp1遺伝子が欠失または不活化され、及び/または
b)sdh2及びsdh1遺伝子が欠失または不活化され、及び/または
c)PDC2遺伝子が欠失または不活化、または誘導体物質を使用する微生物の暴露により抑制または誘発可能なプロモーターの制御下にあり、及び/または
d)ICL1、MLS1、ACS1及びMDH3からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子が、対応する外来遺伝子またはクラブトリー陰性生物からの対応する外来遺伝子により置換または補充されている遺伝学的に改変、分離された微生物。
【請求項2】
idh1及びidp1遺伝子に加え、idp2及びidp3遺伝子のいずれか一方または両遺伝子が欠失または不活性化されている、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
sdh2及びsdh1遺伝子に加え、uga2及びagx1遺伝子のいずれか一方または両遺伝子が欠失または不活性化されている、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
PDC2遺伝子の上流に結合されたプロモーターが、CUP1などの誘導可能なプロモーターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項5】
PDC2遺伝子の上流に結合されたプロモーターが、テトラサイクリン制御性tetOプロモーターなどの制御可能なプロモーターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項6】
外来遺伝子が、大腸菌、アネロビオスピリルム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Actinobacillus)属、マンヘミア(Mannheimia)属、リゾプス・コリネバクテリウム(Rhyzopus Corynebacterium)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ウィッケルハミア(Wickerhamia)属、デバリオマイセス(Debayomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、ピチア(Pichia)属、クロエケラ(Kloeckera)属、カンジダ(Candida)属、オガタエア(Ogataea)属、クライシア(Kuraishia)属、コマガタエラ(Komagataella)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、メチニコビア(Metschnikowia)属、ウィリオプシス(Williopsis)属、ナカザワエア(Nakazawaea)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、ブレラ(Bullera)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ウィロプシス(Willopsis)属、クロッケラ(Kloeckera)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ヤマダジマ(Yamadazmya)属及びスポロボロマイセス(Sporobolomyces)属からなる群から選択されるクラブトリー陰性生物由来である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項7】
外来遺伝子が、ADH1などの構成的に活性なプロモーターの制御下にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項8】
微生物が酵母、好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス(Saccharomyces)属、サッカロミセコプシス(Saccharomycecopsis)属、サッカロミコデス(Saccharomycodes)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ウィッケルハミア(Wickerhamia)属、デバリオマイセス(Debayomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、ピチア(Pichia)属、クロエケラ(Kloeckera)属、カンジダ(Candida)属、チゴサカロミセス(Zygosaccharomyces)属、オガタエア(Ogataea)属、クライシア(Kuraishia)属、コマガタエラ(Komagataella)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、メチニコビア(Metschnikowia)属、ウィリオプシス(Williopsis)属、ナカザワエア(Nakazawaea)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、ブレラ(Bullera)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ウィロプシス(Willopsis)属、クロッケラ(Kloeckera)属及びスポロボロマイセス(Sporobolomyces)属から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項9】
グリオキシル酸及び/またはクエン酸回路の有機カルボン酸、特に有機ジカルボン酸、好ましくはコハク酸を産生するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の微生物の使用。
【請求項10】
グリオキシル酸及び/またはクエン酸回路の有機カルボン酸、特に有機ジカルボン酸、好ましくはコハク酸を産生する方法における請求項1〜8のいずれか1項に記載の微生物の使用であって、該方法が以下の工程:
A)増殖工程において、微生物を好ましくは好気性条件下に、誘導可能なプロモーターを誘導する誘導体物質及び/またはグルタミン酸の任意の添加下に、培養及び増殖させ、
B)その後、微生物を産生相において、好ましくは嫌気性条件下に、抑制可能なプロモーターを抑制する誘導体物質の任意の添加下に、培養し、
C)工程B)の後、または工程B)の間に、カルボン酸を培養上清から分離し、任意に精製する、
ことを有する、上記使用。
【請求項11】
工程A)を、細胞密度が少なくとも100g乾燥バイオマス/L、好ましくは少なくとも120g乾燥バイオマス/L、最も好ましくは少なくとも140g乾燥バイオマス/Lに達するまで行う、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
工程B)を、カルボン酸濃度が少なくとも0.4モル/L、好ましくは少なくとも0.8モル/L、最も好ましくは少なくとも1.0モル/Lに達するまで行う、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
工程A)を、20℃〜35℃、好ましくは28℃〜30℃の温度で、1〜1000時間、好ましくは2〜500時間、最も好ましくは2〜200時間行う、請求項10〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
工程B)を、15℃〜40℃、好ましくは20℃〜35℃の温度で、1〜1000時間、好ましくは2〜500時間、最も好ましくは2〜200時間行う、請求項10〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
a)idh1及びidp1遺伝子を欠失または不活化し、及び/または
b)sdh2及びsdh1遺伝子を欠失または不活化し、及び/または
c)PDC2遺伝子を欠失または不活化、または誘導体物質を使用する微生物の暴露により抑制または誘発可能なプロモーターの制御下に置き、及び/または
d)ICL1、MLS1、ACS1及びMDH3からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子を、対応する外来遺伝子またはクラブトリー陰性生物からの対応する外来遺伝子により置換または補充する、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の微生物を作成する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−505638(P2012−505638A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531347(P2011−531347)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001386
【国際公開番号】WO2010/043197
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(507268145)オルガノバランス ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】